5975C シリーズ MSD: ノーマライズされた装置チューニング

5975C シリーズ MSD:
ノーマライズされた装置チューニング
技術概要
Jeffrey T. Kernan 、Harry Prest
通常、分析に携わる者は非常に微量の化合物の測定に関
心が高いため、キャリブレーション化合物を用いてオー
一般に「オートチューニング: autotuning」と呼ばれる、 トチューニングで得られた EMV に、一定電圧を追加す
質量分析計 (MS) でのイオン検出の自動最適化により、 る傾向があります (たとえば、ATUNE.U + 400 V)。こ
MS の操作性は驚異的に簡素化されてきました。この重要 れにより、微量分析においてさらに適切なゲインが得ら
な操作は、当然だと思われるほど日常的なものになりま れ、ATUNE.U でチューニングした EMV だけで使用さ
した。チューンまたはオートチューンを行うために、MS れる場合よりも高いシグナルとなります。
システムが揮発性キャリブレーション化合物を系内に導
入し、特定のキャリブレーション化合物のイオンについ さらに優れた方法として、設定される特有のゲインを得
てアバンダンスなどの一部クライテリアを満たすように られるようにマルチプライア電圧設定を調整することが
MS パラメータを調整します。歴史的に、このチューニン 可能となります。この機能は 5975C MSD で提供できる
グ法技術が 597X シリーズ GC/MSD 装置を培ってきま ようになりました。
した。(ソフトウェアにより、ユーザはチューンウィザー
この利点は以下のとおりです。
ドを通じて、これらのチューニングターゲットを変更ま
たは調整できることが可能になります。)
6 一貫性の高い化合物レスポンス。イオン源クリーニン
グ、カラムメンテナンス、または EM 交換後、以前
イオン光学機器を最適化し、キャリブレーション化合物
使用された同じゲインに再チューンされた装置は、メ
イオンのピーク幅を調整した後、エレクトロンマルチプ
ンテナンス前に測定された化合物レスポンスよりも同
ライア (EM) に適用される電圧を調整することで、ター
等以上の一貫性を持つ化合物レスポンスが得られま
ゲットキャリブレーション化合物のフラグメントイオン
す。検出器 EM の経年劣化は常に問題で、固定ゲイ
アバンダンスが得られます。 EM の全域で適用される電
ンでの取り込みは分析対象化合物レスポンスの再現性
圧が、高エネルギー変換ダイノード (質量フィルタから出
を維持する優れた方法です。
てきたイオンを電子に変換した) から放出される非常に小
さな電流を増幅し、さらに大きな電流 - ターゲットシグ 6 同じ化合物に対して異なる装置間での一致度の高いレ
スポンス。装置が同じクライテリアで、同じゲインに
ナルアバンダンスを生成します。
チューンされる場合、装置間での化合物レスポンスは
良い一致を示します。アバンダンスに対してだけチュー
この非常に小さな電流の大きな電流への増幅度合いの尺
ニングし、その後必要とされる感度を上げるために別
度、もっと簡単な表現では、定量された電流を、マルチ
途電圧を追加することで、関連したマルチプライアが
プライア「ゲイン:GAIN」と呼ばれます。この処理によ
同一または同様のゲインカーブを持つと思われていま
り、相対的に高圧のキャリブレーション化合物ガスであ
す。しかし、これが真実ではあることは稀です。
るパーフルオロトリブチルアミン (PFTBA : perf luorotributylamine) から生じるイオン源中のターゲット
6 チューニングおよびトラブルシューティングに対して
キャリブレーション化合物イオンアバンダンスに基づくエ
の優れた診断機能。たとえば、特有のゲインにチュー
レクトロンマルチプライア電圧 (EMV) が生成されます。
緒言
ニングし、空気および水のバックグラウンドを調べる
ことで、より厳しい水および空気のクライテリアを開
発できます。固定ゲインで取り込まれたクロマトグラ
ムを検査する場合、時間とともにカラムブリードプロ
ファイルが増加するか減少するかを判断するのが容易
になります。さらに、チューニング中に適用される電
圧が固定ゲイン値より高くなりすぎると、EM が寿命
末期に達したことが明らかになります。そして最も重
要なことは、メンテナンス前後またはチューンの間に、
化合物レスポンスが同様ではない場合、GC-MSD の
GC 部分に問題があると思われることを示しており、
GC 部分を注意を払う必要があります。これは、操作
クライテリアを規定するためにとても貴重です。
これらの利点を理解するには、EM の電圧としてのゲイ
ンの変化が直線性を示さないか、それほど EM 間で一貫
せず、ばらつきがあることを理解する必要があります。
EMV が 100 V 増加されることの意味することは、マル
チプライアは正比例では増加せず、実際には非線形で、
関連する電圧範囲の関数となるということです。言い換
えれば、 2 つの異なるマルチプライアをほぼ同じ電圧
(1,300 V) でそれぞれ「チューン」または「オートチュー
ン」することになります。400 V をそれぞれのマルチプ
ライアに加えることで、同じ電圧 (たとえば、1,700 V)
になりますが、分析対象化合物に対して、通常同じゲイ
ンでは「なかったり」、同じシグナルまたはレスポンスに
はなりません。しかし両方の EM が同じゲインに調整さ
れると、シグナルと化合物レスポンスの両方は同じにな
るはずです。実際に、これらは非常に異なり、検出器に
到達するシグナルは異なることを意味します。これは、
同じ量の分析対象化合物がイオン源に到達するように GC
や注入口をメンテナンスする必要があることや、または
さらに効率よく、上記のような他の可能性があるように
イオン源をクリーニングする必要があるなどの問題に対
応できることになります。このような理由で、特有のゲ
インにノーマライズすることが重要かつ貴重となるわけ
です。
この文書では、ChemStation G1701EA (E.00.xx) ソフ
トウェアでのゲインノーマライズチューニングの実施と
使用するための推奨事項を紹介します。このソフトウェ
アは新しい 5975C MSD に標準で用意され、この概要で
示したデータはこのプラットフォームで測定されました。
ChemStation ソフトウェアでのゲイン
ノーマライズ
図 1 に、「チューンおよび真空制御ビュー (Tune and
Vacuum Control View)」のチューンメニューに追加さ
れた追加チューニングオプションを示します。追加コマ
ンド「ゲインオートチューン (Gain Autotune) (Atune.U+
HiSense.U)」により、ゲインノーマライズチューンが実
行され、ATUNE.U と HiSense.U の 2 つのファイルが
作成されます。ATUNE.U は、10 5 のゲイン (チューン
レポートの右下コーナーに EM ゲインとして表示されま
す) となるように EMV が設定されることを除き、他のあ
2
らゆる点で標準のオートチューンファイルと同じです。
作成されるもう 1 方のチューンファイルの HiSense.U
は、15 x 10 5 すなわち、標準の ATUNE 設定より 15 倍
高いゲインを取得するための EMV 設定値を持ちます。
ゲインノーマライズチューンの別の方法が「[実行:Execute] > [EM ゲインノーマライズ:EM Gain Normalization]」のメニューにあります (図 2)。読み込まれた
図1
ゲインノーマライズチューニングメニューコマンド
チューン (例えば mytune.U など) を使用して、最初の 3
つのメニュー選択肢のいずれか 1 つを選択すると、読み
込んでいるチューニングファイルに対して、それぞれ 1
x 105、10 x 10 5、または 15 x 105 に設定されたゲイン
値を持つ EMV が作成されます。例えば、 ATUNE.U
ファイルが読み込まれている場合、ATUNE_10X.U また
は ATUNE_15X.U というファイル名のチューニング
ファイルが作成されます。(1X または 105 のゲインノー
マライズを適用すると標準の ATUNE.U を作成するだけ
で、拡張子は追加されません)。一番下のラジオボタンを
選択すると、HiSense.U チューニングファイルが作成さ
れます。
メニューコマンド TUNE が実行されると、チューンがす
べての設定を適用し、先に割り当てられたゲインに合うよ
うに EMV を調整できるように、EM ゲイン設定はチュー
ンと一緒に保存されます。 ( これは図 1 のプルダウンメ
ニューの一番上の項目です)。ゲイン値はチューンレポー
トに記載されます。
ゲインノーマライズの適用に関する提案
過去においては、ユーザは ATUNE.U を作成し、自身で
使用するメソッドの MS パラメータ (MS SIM/Scan
Parameters) パネル (図 3、左パネル) のチューンにお
いて約 400 V を加えたものでした。これは、マルチプラ
イア、その履歴などに応じて、約 10 x 105 ∼ 15 x 105
の EM ゲインとなり、微量分析に幅広く便利であると証
明したものでした。この手順の代わりに、EMV がチュー
ンファイルで正確に取得されるように、単に HiSense.U
ファイルを割り当て、増分電圧を加えないことを推奨し
ます (図 3、右パネル)。
図2
EM ゲインノーマライズの適用
図3
推奨 MS パラメータ EM 設定値およびチューンファイルの変更
3
EMV 設定およびゲインの影響についてよ
くある質問
様々な EM ゲインに対して、化合物レスポンスにどんな
影響が見られるでしょうか?
予想されるように、これは装置の特定マルチプライアやそ
の履歴に依存します。しかし大まかに言うと、化合物レス
ポンスはゲインに従います。図 4 には、4 つの異なる EM
ゲインで取り込んだ 4 種類のヘキサクロロシクロヘキサ
ンの RTIC の重ね書きを示します。これらは、以下のよ
うに予想した順番に積み重なります。一番下から順に
ATUNE.U+0V (EM ゲイン 1X (105))、ATUNE+400V、
EM ゲイン 10X (10 x 105) となります。そして最もレス
ポンスの高い RTIC は HiSense.U で取り込んだ、常に
ゲインが 15X に設定されたものです。ベースラインとシ
グナルはこのパターンに従うことに注意してください。
分析にはどの EM ゲインを選択すべきでしょうか?
これは特定アプリケーションに対して分析に携わる者が
検討する必要がありますが、一般的な指針として、微量
分析を続けている場合 ( 分析対象化合物量 1 ng 未満) 、
HiSense.U は最良の方法です。しかし、高濃度の成分が
関連している場合 (1 ng 未満)、ATUNE.U またはこれと
ATUNE_10X.U の中間のような低い EM ゲインの方が
成功するでしょう。
4
なぜ EM に多くの電圧を適用するだけでなく、非常に高い
EM ゲインを使用する必要があるのでしょうか?
濃度が高い場合、シグナルが検出器を飽和させ、クロマ
トグラフピークは頂点が平らになり、線形動作の範囲は
非常に小さくなります。実験により、常にシグナルとノ
イズの間、そして HiSense.U のゲインを越えて平衡にな
る必要があることをユーザが実証できますが、S/N 比は
向上せず、線形作動範囲は低下し始めます。面白いこと
に、反対側の、図 4 の一番下のゲイン設定の RTIC は最
高の S/N 比を示します。これは、たとえシグナルが低く
(最低) ても、ノイズもベースラインで確かめられるほど
非常に低いためです。それでは、なぜできる限り低い
EMV およびゲインで分析しないのでしょうか?
Abundance
HiSense.U
10X
ATUNE.U+400V
ATUNE.U or 1X Gain
6.70
6.80
6.90
7.00
7.10
7.20
7.30
7.40
7.50
7.60
7.70
7.80
7.90
8.00
8.10
Time
図4
いくつかの EM ゲイン設定値でのレスポンス
5
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© Agilent Technologies, Inc. 2006
Printed in Japan
January 25, 2007
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