特集記事 02 実機レス検証による ハードウェア依存開発からの脱却 石井 正悟 / 荒木 大 / 石井 忠俊 ができるまでソフトウェア検証ができない” 問題への対策 として, 東芝ソリューション (以降, 当社) では実機レス でソフトウェア検証を可能にする 「組込みソフトウェア開発 /検証ツール VPDK」 を開発しました (図 1)。 コンカレント開発において, 実機ボードの代わりにボー ドを仮想化した仮想プラットフォームを用いてソフトウェア を検証できるようにすることにより, 開発期間短縮を図る ツールです。 組込みシステムでは, 一般にソフトウェアとハード ウェアを同時に開発しますが, ハードウェアができ 上がるまでソフトウェアの本格的な試験ができないと いう問題を抱えています。 実機開発完了前にソフトウェアを先行検証するた めにシミュレータを用いる方法がありますが, 従来 のシミュレータ製品には実行性能や環境構築オーバ ヘッドに課題がありました。 東芝ソリューション(株) では, 実行性能が非常 に高速で, 更に開発対象となる組込みソフトウェア 2 向けシミュレーション環境を短期間で構築可能な「組 実機レス開発を実現する 超高速シミュレータ VPDK 込みソフトウェア開発/検証ツール VPDKTM」 を開 (1) 従来のシミュレータでは実行性能不足 発しました。 これまでにも組込みソフトウェア開発へのシミュレータ適 用は行われてきました。 しかし, 組込みシステムの高機能 化に伴い大規模化してきた組込みソフトウェアに適用する には, シミュレーション実行性能が大きな課題となります。 1 切望される実機レス開発環境 (1) コンカレント開発の影響 組込みシステム開発は多くの場合, ソフトウェアとハー ドウェアを同時に開発 (コンカレント開発) します。 その 場合, ハードウェアができるまでソフトウェアの本格的な 試験ができないため, 設計の妥当性を検証できないまま 設計 ・ 製造を進めざるを得ません。 その結果, 組合せ 試験以降の工程に負荷が集中します。 また, この組合 せ試験以降で設計上の問題が判明すると大きな手戻り作 業が発生し, 全体工程を遅延させることになります。 組 込みシステム開発の短納期化が望まれているなか, この ようなコンカレント開発の問題を解消することが非常に重 要な課題となっています。 (2) 工程遅延連鎖を解消する VPDK これら工程遅延連鎖の発端になっている “ハードウェア ⚵ㄟ䷋䷼且万䷥䷦䷡ 㐿⊒䋯ᬌ⸽ⅣႺ 㩷㩷㩷㩷 ታᯏ䊗䊷䊄 ᗐ 䊊䊷䊄䉡䉢䉝 䊝䊂䊦 ຠ䊄䊜䉟䊮 㪁1 ࿕ታᯏ䊧䉴ⅣႺ HW䊝䊂䊦㪁2 ᄖ⇇䊝䊂䊦 㪁3 VPDK™ ⚵ㄟ䉂䉸䊐䊃䉡䉢䉝 㐿⊒䋯ᬌ⸽䉿䊷䊦 ฃ⸤㐿⊒䷴丶丒䷸䶴䶤䶲 䶗ቴ᭽䶷ឭଏ 㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷 ᬌ⸽ኻ⽎䈫䈭䉎 ᣂⷙ㐿⊒ 䉝䊒䊥䉬䊷䉲䊢䊮 䉝䊒䊥䉬䊷䉲䊢䊮䉸䊐䊃 一般的なシミュレーション方式である ISS 方式では,ター ゲット CPU の 1 命令をシミュレートするために, ホスト CPU の 100 から 1,000 命令を実行する必要があります。 そのため, 実機ハードウェア上で動作させれば数分でで きることが, シミュレータ上では数日から数週間もかかって しまいます。 (2) 組込みソフトウェアにも適用できる実行性能 当社は VPDK を用いて超高速シミュレーションを実現し, 大規模化した組込みソフトウェアにも適用可能としました。 VPDK のシミュレーションエンジンには, 当社関係会 社 で あ る (株) イ ン タ ー デ ザ イ ン ・ テ ク ノ ロ ジ ー の 「VisualSpec® for Embedded」 を 採 用 し ま し た。 VisualSpec は, (株) 東芝 研究開発センターにおいて 「スーパーデザイン ・ テクノロジー ®」 として研究開発が進 められていたシステム設計技術を, 同研究開発センター からスピンオフしたインターデザイン ・ テクノロ ジーが製品化 ・ パッケージ化したツールです。 㪁1 ຠ䊄䊜䉟䊮㩷 :䊂䉳䉺䊦䉦䊜䊤䋯䉦䊷䊅䊎䋯䊒䊥䊮䉺䈭䈬 㪁2㩷HW䊝䊂䊦㩷 :䊊䊷䊄䉡䉢䉝㩷䉲䊚䊠䊧䊷䉲䊢䊮㩷䊝䊂䊦 㪁3 ᄖ⇇䊝䊂䊦㩷 :䊙䊮䊙䉲䊮䉟䊮䉺䊷䊐䉢䊷䉴䈱GUI䉿䊷䊦䈭䈬 図 1. VPDKTMを用いたソフトウェア検証環境 実機ボードの代わりに VPDKで構築した仮想プラットフォームを用いてソフトウェア 開発環境を整備します。 VisualSpec for Embedded は, 拡 張 C 言 語 (SpecC 言語) を使って記述されたハードウェ アのシミュレーションモデルを, 部分計算や静 的スケジューリングなどの言語変換処理によって 高速実行が可能な実行形式ファイルにコンパイ ルすることができます。 更に, (株) 半導体理 工学研究センター (STARC) が開発した 「バ ジェット追加技術」 を用いて組込みソフトウェア のソースコードをホスト計算機のネイティブコード で模擬することにり, 数百メガヘルツ以上の速 度で組込みソフトウェアを仮想実行することがで きます。 6 「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(夏季号) 3 VPDK を適用し, 開発期間短縮効果を上げています。 環境構築オーバヘッドの短縮 組込みソフトウェア開発にシミュレータを適用するに は, もう一つ大きな課題があります。 それは, “短期間で シミュレーション環境を構築できなければならない” という 課題です。 VPDK では, その課題を以下の方法で解決 しました (図 2)。 ①ブリッジ : 異なるシミュレータ構成においてハードウェア シ ミ ュ レ ー シ ョ ン (HW) モ デ ル を 再 利 用 可 能 と し, HW モデル作成時間を短縮します。 ②HW モデル共通部品ライブラリ : HW モデル共通部品 を再利用可能とし, HW モデル作成時間を短縮します。 ③外界モデル通信ライブラリ : 外界モデルの通信処理を容 易に作成可能とし, 外界モデル作成時間を短縮します。 ④ASIC 接続インターフェースボード : ハードウェアエミュ 5 VPDK を適用したプロジェクトの効果 現在, 短期間にシリーズ製品を多数開発する開発プ ロジェクトに VPDK を適用し, 導入効果を確認中です。 この事例では, 最終的に納期と品質の二つの側面で次の ような効果が得られると予測されます。 組合せ試験工程のみではなく, ソフトウェア設計製造 以降全工程において工程が短縮され, 全体工程では約 20% の納期短縮が見込まれます。 また, ソフトウェア検 証を早期に開始することによる, 後工程での大きな手戻り 作業削減につながります。 これは, 総合試験フェーズま での不具合発生率で実証できる見込みです (図 3)。 レータを利用する場合の ASIC ボードと HW モデルと の接続部分を作成不要とし, ASIC ボード作成時間を 短縮します。 ⚊ᦼലᨐ ຠ⾰ലᨐ ਇౕว䈏᧤䈚䈩䈎䉌 ᰴ䈱Ꮏ⒟䈮ㅴ䉃 ⚵ㄟ䉂 SW 㐿⊒䋯ᬌ⸽ⅣႺ ᗐ䊊䊷䊄䉡䉢䉝䊝䊂䊦 ᄖ⇇䊝䊂䊦 (GUI 䉿䊷䊦 ) : 䊜䊆䊠䊷↹㕙䋯 㩷 㩷 HW 䊝䊂䊦 : GPIO䋬 LCD䋬 DMA 䈭䈬 㩷 ⚵ㄟ䉂 SW 㐿⊒䋯ᬌ⸽䉿䊷䊦㩷VPDK CPU䊝䊂䊦䈫 HW䊝䊂䊦䉕ㅢ I/F䈪ធ⛯ 䊑䊥䉾䉳 (ASIC ធ⛯ I/F↪䊄䊤䉟䊋䊶䉸䊐䊃䉕䉃 ) 䌈䌗䊝䊂䊦 ㅢㇱຠ䊤䉟䊑䊤䊥 ᄖ⇇䊝䊂䊦 ㅢା䊤䉟䊑䊤䊥 ⶄᢙ HW 䊝䊂䊦㑆䈪ㅢ↪䈜䉎 ㇱຠ⟲䈱▤ℂ HW 䊝䊂䊦䈫ᄖ⇇䊝䊂䊦㑆䈱ㅢା I/F ASIC ធ⛯ I/F 䊗䊷䊄 ᄖઃ䈔䈱 ASIC 䊗䊷䊄䈫 PC 䉕ធ⛯ 䉲䊚䊠䊧䊷䉲䊢䊮 㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷㩷䉣䊮䉳䊮 VisualSpec™ for Embedded 䉕ណ↪ 図 2. 組込みソフトウェア検証環境構成図 VPDK と, VPDK を用いて作成する仮想ハード ウェアモデルから構成されます。 4 VPDKㆡ↪೨ VPDKㆡ↪ᓟ 䉴䉟䉾䉼㘃䈭䈬䈱 䊙䊮䊙䉲䊮 䉟䊮䉺䊷䊐䉢䊷䉴 I/F : 䉟䊮䉺䊷䊐䉢䊷䉴 SW : 䉸䊐䊃䉡䉢䉝 HW ࡕ࠺࡞ : 䊊䊷䊄䉡䉢䉝 䉲䊚䊠䊧䊷䉲䊢䊮㩷䊝䊂䊦 1䊱⋡ 2䊱⋡ 3䊱⋡ 4䊱⋡ 5䊱⋡ 6䊱⋡ 図 3. VPDK導入前後のバグ曲線比較 VPDK 導入により, 納期と品質の二つの側面で効果が得られます。 6 今後の展開 当社は VPDK を受託した組込みソフトウェア開発に 適用し, 短期間で品質の高いソフトウェアを提供すること により, お客様の製品開発に貢献いたします。 VPDK を当社組込みソフトウェア開発事業のコアコンピ タンスとするため, 多様な組込みシステム開発に適用でき るよう機能強化していきます。 【特許】 *本稿に記載の技術は, 特許出願中です。 競合他社の動向 電子機器開発向けシミュレータは EDA ツールと呼ば れる,CAD・CAM ・ CAE を統合したツールが主流ですが, 機器の複雑化に伴いハードウェアとソフトウェアが相互連携 して機能を実現する場合が多くなってきたため, ハードウェ アとソフトウェアの協調動作を検証する環境の必要性が増し てきました。 このようなハードウェア ・ ソフトウェア協調検証 環境を提供するツールは,ESL ツールと呼ばれています。 有力 ESL ツールベンダーには,CoWare 社,VaST 社, Synopsys/Virtio 社,Virtutech 社 な ど が あ り ま す。 各 社とも組込みシステム市場への参入を伺っていますが, 組込みソフトウェア向け実機レス検証ツールという市場は 未だ認知されておらず, 各ベンダーがまちまちの視点で ツールを市場に投入しており, 市場の醸成フェーズが続 いているのが現状といえます。 そのような業界情勢のなか, 当社は, 組込ソフトウェア 開発を自ら行っていることを強みに, いち早く組込ソフト ウェア開発向けの実機レス検証ツールを製品化しました。 既にお客様から受託した組込みソフトウェア開発にこの Profile 石井 正悟 Ishii Shogo エンベデッドソリューション事業部 要素技術開発担当 主査 基本ソフトウェア開発を経て, 組込みソフトウェア検証 用シミュレータの研究 ・ 開発に従事。 情報処理学会会員。 荒木 大 Araki Dai (株)インターデザイン・テクノロジー エンベデッドソリューションテクノロジー事業部 ESL グループ 部長 (株) 東芝 研究開発センターを経て現職。 システム レベル設計ツールの企画 ・ 開発 ・ 事業推進を担当。 IEEE 会員, 情報処理学会会員, 工学博士。 石井 忠俊 Ishii Tadatoshi (株)インターデザイン・テクノロジー エンベデッドソリューションテクノロジー事業部 エンベデッドテクノロジーグループ 部長 (株) 東芝 研究開発センターを経て現職。 組込みシ ステム用仮想ハードウェア環境の導入 ・ 構築のコンサ ルテーションに従事。 情報処理学会会員。 7 「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(夏季号)
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