階段コアを耐震要素に取り入れた工法の開発 京都大学生存圏研究所 (財)建築研究協会 森 拓郎 清水秀丸 信州大学工学部 五十田博 2, 44 0 2, 87 8 12 8 2,84 0 2,84 0 23 4 2,87 8 2,44 0 1. はじめに 非耐力要素である階段に着目して行った過去の実験 1),2)より、その強度性能が高いことが確認されて いる。そのため、在来構法と異なり、面材を配する枠組壁工法住宅の階段では、その性能はより高い と考えられ、この階段をコアとした新しい工法の提案が可能ではないかと考えた。 本研究では、まず一般に用いられている枠組壁工法の階段単体の耐震性能を明らかにすることを目 的として、直線階段と廻り階段を用いてその性能評価を試みた。また、石膏ボードの効果を分離する ために石膏ボード単体の壁実験も合わせて実施した。 2. 試験概要 負 正 石膏ボード 単位:mm 計 6 枚配置 2.1 試験体概要 側板 直線階段 枠組壁工法直線階段試験体(以下、 直線階段試験体)は、平面が 2.73m×1.82m、 高さが約 2.70m の 2 構面を 0.91m の間隔で並列 配置した間に直線階段を持つ 1 体とした。立面 図および加力方向を図 1 に示す。スタッドと梁 および土台は SPF 材(38mm×90mm)を使用 し、垂直材として扱うスタッド同士は CN65、 91 0 2, 73 0 CN75 によって接合、土台材-スタッド間および 図 1 直線階段試験体図 (立面) 梁材-スタッド間は CN75 を 2 本打設した。また、 負 正 階段を構成する側板を設置する前に、架構の長 石膏ボード 側板 単位:mm 計 10 枚配置 手方向に石膏ボード(12mm 厚石膏ボードビス 外周@100、中通り@150)を取り付けた。階段 を構成する側板は石膏ボードに接着剤(ウレタ ン樹脂系)で接着し、スタッドへ石膏ボードを 介してコーススレッド(L=65mm)により打ち 付けた。コーススレッドは、スタッド一ヶ所に つき 2~3 本の打ち付けとし、計 36 本とした。 廻り階段 枠組壁工法廻り階段試験体(以下、 91 0 91 0 91 0 91 0 91 0 廻り階段試験体)は、幅 2.73m、高さ 2.80m の 1,82 0 2,730 折返し階段である。立面図を図 2 に示す。廻り 図 2 廻り階段試験体図 (立面) 階段試験体は、架構および面材・側板の施工方 法を直線階段試験体と同様の仕様とし、石膏ボードは試験体長手方向に計 10 枚、短手方向に計 3 枚を 設置した。なお、コーススレッドは、スタッド一ヶ所につき 2 本ずつを基本に留め付けた。 2.2 実験方法 石膏ボードの亀裂 加力方法はタイロッド式による変形角 1/300、 1/200、1/150、1/100、1/60、1/30、1/20rad の正 負交番静的 3 回繰返し載荷とし、最終的に引き きりとした。また、試験は、直線階段を京都大 学生存圏研究所で、廻り階段を富山県農林水産 総合技術センター木材研究所で実施した。 石膏ボードの亀裂 3.実験結果 写真 1 損傷状況 (左:直線階段 右:廻り階段) 3.1 損傷状況 損傷状況を写真 1 に示す。どちらの階段も大きく耐力を下げる原因となったのは、写真で示した石 膏ボードのせん断破壊であった。また、同様に両試験体にスタッドの抜けなどが見られた。 3.2 荷重-変形関係 廻り階段 直線階段 60 60 [kN] 直線階段試験体および廻り階段試験体の 40 [kN] 40 荷重変形関係を図 3 に示す。実験結果の比 20 20 較として、石膏ボード耐力壁試験体(石膏 0 0 直線階段 ボード 4 枚)を一枚あたりに換算した結果 廻り階段 -20 石膏ボード[6P] -20 石膏ボード[10P] を用いて、それぞれの階段で用いられた枚 -40 -40 [rad] 数分にしたものを赤の実線で石膏ボードと [rad] -60 -60 -1/30 -1/60 1/60 1/30 1/20 -1/30 -1/60 1/60 1/30 1/20 して示した。 図 3 荷重―変形関係 直線階段試験体、廻り階段試験体では、 それぞれ最大荷重が 48.6kN、53.7kN と高い耐力を示した。直線階段試験体では、最大耐力に達した後、 石膏ボード外周部の損傷により荷重が低下し、1/30rad で最大耐力の約半分の荷重となった。一方、廻 り階段試験体では、変形角 1/30rad を越えても、荷重が大きく低下する事なく 50kN 前後の耐力を保ち、 高い変形性能を示した。また、廻り階段試験体では、石膏ボード 10 枚分の包絡線と比べ初期剛性にほ とんど違いがみられず、最大荷重は 10kN 程度しか上昇しない結果となった。一方、直線階段試験体で は、初期剛性および最大耐力共に石膏ボードの性能を大きく上回る結果となった。このことから、直 線階段の方が、側板や踏み板などの階段要素による石膏ボードの拘束効果が大きいと考えられる。 3.3 階段の換算壁倍率 表 1 換算壁倍率 それぞれの階段の耐震 性能評価とし 換算壁倍率 試験体 Pa(kN) て、長手方向について単体としての換算 単体 総構面長さ 石膏ボード排除 壁倍率(長さで除さない)による評価を 直線階段 29.6 15.1 2.5 7.8 実施し、表 1 に示す。なお、総構面長さ 廻り階段 28.9 14.7 1.6 2.5 は試験体の長手方向の総構面長さで単 体の値を除したものあり、石膏ボード排除は石膏ボードの壁倍率(本実験値:1.22)を配した石膏ボー ドの枚数分だけ減じて算出した値である。この結果より、直線階段では総構面長さで除しても合板耐 力壁と近い性能を示していること、石膏ボードを排除してもかなり性能を有していることがわかった。 また、廻り階段では総構面長さで除した値が石膏ボードの壁よりも高い性能になっていることから階 段を配することによる補強効果があることがわかった。ここで、二つの階段に差異が出た点について、 廻り階段では直線階段と異なり、耐力上昇が期待できない石膏ボードが 2 枚存在したこと、側板を架 構の両端部のスタッドに接合できないために側板に作用する軸力が低くなることなどが挙げられる。 4.まとめ 本研究では、枠組壁工法の階段単体の耐震性能として、以下のことがわかった。 ・枠組壁工法の階段単体の最大耐力は、静的載荷実験から直線階段で 48.6kN、廻り階段で 53.7kN であ り、高い水平抵抗能力を有することがわかった。 ・直線階段では、総構面長さで除しても合板耐力壁と近い性能を示していること、石膏ボードを排除 してもかなり性能を有していることがわかった。 ・廻り階段では、総構面長さで除した値が石膏ボードの壁よりも高い性能になっていることから階段 を配することによる補強効果があることがわかった。 これらの結果、枠組壁工法の階段単体の性能は、面材の耐力壁としての性能と階段の様々な要素に よる押さえ込みの効果、及び面材のせん断性能で発現されており、面材の止め付け方や面材と階段要 素の止め付け方及び面材のせん断性能の向上によって、その強度性能を上昇させることが可能である ことがわかった。今後、これらの可能性について検証し、階段コアの耐力性能向上のための試験を進 め、新しい工法の提案につなげていきたい。 参考文献 1) 篠澤朋宏、五十田博、村瀬伸吾、森 拓郎、清水秀丸、小松幸平:木造軸組構法住宅の窓ガラス入りサッシュ 付き壁と階段の静加力実験、日本建築学会学術講演梗概集構造Ⅲ、pp.337-338、2009. 2) 森 拓郎、清水秀丸、羽田竜介、西沼裕介、南 宗和、五十田博、小松幸平:木造住宅における非構造部材が 耐震性能に及ぼす影響 その 1 直線階段の静的加力試験による性能評価、日本建築学会学術講演梗概集構造Ⅲ、 pp.443-444、2010.
© Copyright 2024 Paperzz