お施食の施食幡(せじきばん)と施食旗(せじきばた)について 林陽寺 住職 岩水龍峰 施食(せじき)あるいは、施餓鬼(せがき)は、餓鬼道に堕ちて苦しむ一切の衆生に食 べ物を施して供養することで、その法会(ほうえ)を「施食会(せじきえ) 」「施餓鬼会(せ がきえ)」と称する。本来、期日の定められているもの 施食幡 ではないが、年中行事のひとつとしてお盆や彼岸の頃に 行われることが多い法要です。 お盆には先祖の精霊とともに、供養する者のいない無 縁仏や餓鬼も訪れてくると考えら、こうした施しをする のです。寺での施食会の行い方は宗派によっても異なり ますが、一般的には本堂の南側に施食棚をつくって、「三 界萬霊牌(さんがいばんれいはい)」や「新盆の戒 名」を記した位牌を置き、浄水や飲食物などを供え、 五色または五如来の「施食幡」を施食棚の上に掛け、 施食旗を立てて法要を営むのです。 五如来とは、施食会の本尊とされる、宝勝如来(ほ うしょうにょらい)・妙色身如来(みょうしょくし んにょらい) ・甘露王如来(かんろおうにょらい) ・ 施食棚 廣博身如来(こうばくしんにょらい)・離怖畏如来 (りふいにょらい)で、その名号を唱えると餓鬼の苦しみが救われるとされています。当 寺の施食会は、毎年8月7日に多くの僧を招いて営まれます。 施食旗(せじきばた) なかなか聞き慣れない言葉ですが、当寺のこの法会にお詣 りをされた方に、お塔婆と共に五色の紙で出来た、切り紙細 工のような綺麗な旗を差し上げます。お詣りが終わりました ら、仏壇の前やお盆の棚に飾ったり、お塔婆と共にお墓にお 供えをします。この「施食旗」は、お盆特有の飾り物です。 七夕の飾り物とよく似ています。七夕の竹は、野外に立てら れ精霊を招き入れる依代ともいわれ、盆行事の一環であった のですが、今は独立した行事のようになっています。 施食旗は、青・黄・赤・白・黒の五色の紙を使用して作り ます。基本的には、手作りです。当寺では5月の連休が終わ 施食旗 りますと準備に入ります。 五色とは、基本的には青・黄・赤・白・黒がとされており、 仏教における如来の精神や智慧をあらわすといわれています。青の代わりに緑、黒の代わ りに紫をつかいます。お寺にかかっている五色幕と同じ色です。ルーツは、一つはインド の「五大(ごだい)思想」に基づくもので、古代インド仏教において宇宙の構成と考えら れた五大要素の(地・水・火・風・空の五つ)象徴を意味します。その形を図案化し、卒 塔婆や施餓鬼幡の形が作られました。 また、施餓鬼幡の特徴であります色にも意味があり、 更に方角も表します。もう一つは、古代中国の「五行思想」(万物は木・火・土・金・水 の 5 種類の元素からなるという説)基づくものといわれています。この五大の要素、五行 の思想のひとつひとつに五色の色をそれぞれ付けたものが〝五色〟ということです。 旗の形は、五輪塔を表し、供養を受けた精霊(御先祖)や亡者が塔の中に入って甘露(仏 の教え)の法味を得るのです。つまり、仏の世界(須弥山)に入り、ひと時の安らぎを得 るのです。 五如来 釈迦、大日、薬師、阿弥陀、宝生の各如来のことを指します。もともとは密教の五智如 来に由来すると言われています。密教の各如来の別名と、役割は以下のようになっていま す。 一般名 別名 方 角 色 属性 役割 仏の威光をもって、一切の餓鬼の無量の罪を 滅し、餓鬼の心(怒りや貪りの心)を除いて、 宝勝如来 多宝如来 南 黄 地 円満ならしめ富や幸福を授ける仏様で清らかな 心を蘇らせます。 (餓鬼の貪りの心を除き、福徳 円満とする。) 阿閃如来 (薬師如 無量の福により心身ともに満ち足りた優しいお 妙色身如来 東 青 空 来) 姿になり、穏やかな表情に導きます。 (餓鬼のみ にくい姿を円満に変える。) 恐怖を無くし、飲食物を得る時には、全て甘露 阿弥陀 甘露王如来 西 赤 火 の素晴らしい食事に変じさ、無常の喜びを与え、 身心に安楽の境地を与えて下さいます。 (餓鬼の 心身に清らかな水を注いで快楽を与える。) 速やかに苦しみの身体を離れて、布施された 大日如来 広博身如来 中 央 白 水 物を自由に食べさせ、飲食の楽しみを与えてく ださいます。 (餓鬼の喉を広げて飲食ができるよ うにする。 ) 恐怖の世界や餓鬼の世界から離れさせて、仏様 釈迦牟尼 離怖畏如来 北 黒 風 の世界、浄土の世界へと導いてくださいます。 (餓鬼を、餓鬼道の恐怖から救済する。)
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