「地震の経済への影響について」

「地震の経済への影響について」
(はじめに)
今回の大地震で被害を受けられた方々に、心から御見舞いを申し上げます。亡くなられた
方々、
家などを全て失われた方々などが大勢いらっしゃる中で、
心苦しいのですが、
今回は、
地震の経済への影響について考えてみたいと思います。
(短期はマイナス)
今回の地震が産業集積地に与えた被害が限定的であった事は、まことに不幸中の幸いであ
りました。したがって、経済活動に対するマイナスの影響は、半年以内には概ね解消される
でしょう。影響としては、供給面よりも需要面の方が重要です。
物流の混乱や電力不足に際して工場が操業を停止したことなどは、深刻そうに見えるもの
もありますが、人々の受ける印象ほどの影響はなさそうです。不況期には供給よりも需要が
圧倒的に重要だからです。生産活動が滞っても、一時的な混乱が収まってから増産すれば、
影響は概ね回避できるでしょう。
しかし、需要面の影響は、人々の受ける印象よりも大きなマイナスとなりかねません。ま
ず、リスク回避的な動きが、短期的には大きな影響を与えかねません。電車が止まるといけ
ないから飲みに行かないという人が増えること、原発事故で外国人観光客が減尐すること、
等です。これは、事態が一段落した時に飲み会や観光客が前の水準に戻るだけで、一度キャ
ンセルされた飲み会や観光が復活する事は考えにくいからです。この部分は、貯蓄に廻され
てしまっているので、時間が経過しても銀行に退蔵されてしまった預金は消費に戻って来な
い、という事です。
被災地の映像を毎日見ている消費者たちが、自然と贅沢を控えてしまう事も考えられます。
阪神淡路大震災の時にも、東京の OL が消費を手控えた、といった事が起きていたようです
し、今回も全国規模で消費の手控えが生じている可能性があるでしょう。この部分も、後か
ら2倍の贅沢をする、という事にはなりそうもありません。
(市場の混乱の影響は限定的)
とりあえず、市場は極端な動きとはなっていません。株価の下落は「想定の範囲内」にと
どまっています。意外なのは、為替が円高に振れた事です。日本で悪い事が起きているので
すから、円安になる方が自然なのですが、市場は思惑で動きますから、今回は残念ながら都
合の悪い方に振れてしまったというわけです。もっとも、円高に対して協調介入が行なわれ
ましたから、実際の悪影響は限定的なものに止まったと言えましょう。
長期金利が大きく上昇する可能性も小さいでしょう。今回の地震は短期的には景気悪化要
因ですから、インフレ懸念が高まる惧れは小さいはずです。復興のために国債が増発される
ことはあるでしょうが、巨額の残高に対して追加的に発行される国債の比率はわずかですか
ら、国債の需給が大きく崩れるとは考えにくいでしょう。
(中期はプラスだが)
中期的には、復興需要が景気にプラスに働くでしょう。もっとも、その規模は一般に期待
されるよりも小さくなってしまうかも知れません。ライフラインは迅速に復旧せざるを得ま
せんし、道路などの復旧も、補正予算などである程度行なわれるでしょうが、津波で流され
た民家などが復旧するためには、被災者が銀行から借入をする必要があるからです。
映像を見る限り、漁師の漁船も農家の田畑も中小企業の工場も流されてしまっており、被
災者は安定した収入の源を失っています。そうなると、民間銀行が被災者に復興資金を貸し
出す事は容易ではありません。
家も収入も失った何十万人もの方々に、どのように安定した所得を得ていただくか、そこ
まで含めて政府が「復興」を考えないと、被災地一体が長期にわたって「仮設住宅に住んで
生活保護を受けている人々」だけになってしまうリスクも小さくないでしょう。
神戸の地震の際には、家を失った人が仮設住宅に住みながら大阪に働きに出る事が可能で
したが、今回は仮設住宅に住んでも通える職場が近くに無いのです。政府の復興対策がそこ
まで考えた大規模なものになる事が期待されます。
(長期はマイナス)
被災地の産業が復興せず、仮設住宅で生活保護を受けている人々が減らないとすると、そ
の分だけ長期的に需要と供給が落ち込む事になりかねません。加えて、生活保護費の分だけ
財政赤字が拡大します。更には、今回の災害復興のために発行された国債が長期的に償還さ
れる必要があることも、経済にはマイナスでしょう。
原子力発電に対する逆風が強まる事も、マイナス材料です。その分だけ石油依存度が上昇
すれば、コスト高になるのみならず、CO2 削減目標の達成も困難になるでしょう。これを
機に代替エネルギー開発や電気自動車などの開発が進む事になれば、その限りでは経済にプ
ラスでしょうが、全体に占める割合は小さいでしょう。
(意図せざる実験?)
今回の災害により、結果として相当数の「限界集落」が放棄されるかもしれません。離島
の高齢化した集落については、港を作り直して家を建てて集落を回復するコストが負担でき
ず、島を放棄して住民が本土に移住せざるを得ないからです。
今後、日本で高齢化が進展すると、限界集落を維持していく余裕が日本経済全体として失
われて行くでしょう。これは、当事者にとっては辛い事でしょうが、それを慮る余裕が無く
なっていくというわけです。
そう考えると、今回は、図らずも、限界集落を放棄する先例としての「実験」の役割を果
たすことになるのかもしれません。放棄する集落と維持する集落の仕分けを行ない、放棄さ
れた集落の住民が移住先で直面する問題などについても調査する、という全体の流れが、今
後の参考として貴重な情報を提供してくれるはずです。
悲惨な災害ですが、一つくらいは役に立つ面もある、という事でしょうか。
(私たちに出来る事)
さて、国難とも言える状況下、私たちに出来る事は何でしょうか。節電だとかボランティ
アだとか、色々あるでしょうが、世の中で余り言われていない事があります。
それは、日本経済を元気にすることです。被災者だけではなく、日本経済も大きな打撃を
被っているので、そちらも何とかしなくてはいけない、というわけです。
日本経済を元気にするためには、需要が必要です。もちろん、水や食料を買い占める事は
許されませんが、それ以外の面では普段通りに生活する事が一番でしょう。
「そうは言って
も、贅沢をする気になれない」
、という場合には、贅沢をせずに余ったお金を有効に使いま
しょう。もちろん被災者へのカンパが望ましいですが、そうでなくとも有効な使い道はたく
さんあります。家電製品を省エネ型のものに取り換える、といった身近な事から、太陽光発
電を導入する、家の耐震工事を行なう、といった大きなものまであります。
意外な所では、外貨預金(外貨で運用する金融商品の購入を含む)という手段もあります。
日本経済は、リーマン・ショックと大震災に痛めつけられている上に、円高にも苦しめられ
ています。私たちがささやかながら外貨預金をする事で円高の流れに歯止めがかかれば、そ
れは日本経済にとって干天の恵雤となるでしょう。外貨預金ですから、儲かる事も損する事
もあります。しかし、日本経済に貢献しながら儲かるチャンスも追及出来るというわけです
から、この際チャレンジしてみられては如何でしょうか。
ちなみに、筆者は僅かですが老後の資金を外貨で運用しています。30 年後は、尐子高齢
化により日本の経常収支が赤字になり、円安になっているだろう、と思うからです。もっと
も、為替レートの予想など、当たる確率は50%に毛が生えた程度ですが。
P.S.
今回の災害で、日本人の国際的な評価が高まった事も、不幸中の幸いだったと言えるでし
ょう。極限状態でも暴動も略奪も起きず、規則正しく暮らす被災者の方々の姿は、痛ましい
と同時に、外国人には感動的に写ったようです。これが、我々日本人にとっても、日本に対
する自信を取り戻す一助になればと思います。
今 1 つ、逆説的に聞こえるかも知れませんが、日本の原発技術の素晴らしさも垣間見られ
たと思います。想定を超えた災害が耐用年数を過ぎた原発を襲ったにもかかわらず、最悪の
事態が回避できたからです。東京電力や政府の対応が満点であったとは思いませんが、極度
の緊張状態の中で、
致命的なミスが起きなかった事だけでも、
素晴らしいと言えるでしょう。
同じ事が日本以外の国で起こっていたらと思うと、ゾッとします。
今回は、以上です。