堀江 重郎 「男性更年期」とは何か ~要旨~ ~講義録~ 無断引用、転載

堀江 重郎
「男性更年期」とは何か
~要旨~
最近、「男性更年期」という言葉を目にすることが増えた。男性の1次・2次性徴に
必要な男性ホルモン・テストステロンが年齢とともに減ってくると、体の疲れが取れな
い、だるさを感じる、太ってくる、ほてりや発汗、うつ気味になるなどのさまざまな症
状が出てくる。これらの症状が女性更年期に似ているため、男性更年期と呼ばれるよう
になった。
女性の場合、更年期は閉経の前後5年と決まっているが、男性更年期は医学的には時期
が決まっていない。また、女性更年期は単に生殖活動を卒業するだけでなく、より社会的
な活動を行うようになるなど、人生をチェンジするという意味があるが、男性更年期は何
も良い方に変化しない。しかも適切な対処をしない限り、テストステロンは回復しない。
テストステロンを回復させる方法はいろいろとある。特に定期的な運動や、野菜・た
んぱく質中心の食事、十分な睡眠を心がけることで回復していく。現在は多くの医療機関
でテストステロンが測れるようになっているから、不安な方はぜひ調べ、低いようならも
う一度高めることで、バイタリティとプロダクティビティを上げられることを覚えて欲し
い。
~講義録~
●「男性更年期」という言葉を目にすることが増えた
皆さん、こんにちは。順天堂大学・泌尿器外科の堀江重郎です。今日は更年期、特に
男性の更年期を考えてみたいと思います。
最近さまざまなメディアで、「男性更年期」という言葉を目にし、耳にすることが多く
なってきているのではないかと思います。女性の更年期については、皆さんよくご存知で
しょう。女性の生殖期間の終了、つまり月経周期の終了を閉経と言いますが、医学では閉
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経の前後5年を更年期と定義づけしています。
女性の方は更年期の間にいろいろな症状で苦しまれる場合が多いですが、閉経の前後
5年でだいたい収まると言われています。生殖期は月経周期に伴って女性ホルモン・エ
ストロゲンが上がったり下がったりしますが、閉経後はこのホルモンがずっと下がったま
まになるため、心身の変調を来すことが原因です。これが女性にとっての更年期です。
●男性の1次・2次性徴に、テストステロンが必要
男性の場合、男性ホルモン・テストステロンが体の中で非常に大きな働きをしていま
す。まず、男性がおちんちんをつけてオギャーと生まれてくるためには、お母さんのお腹
の中で、赤ちゃんが自分でこのホルモンをつくる必要があります。
具体的に言いますと、われわれの体の中にはX染色体とY染色体があります。女性はX
が二つ、お父さんとお母さんの両方からXをもらいます。男性の場合は、お父さんからY
をもらい、お母さんからXをもらうのです。ですからY染色体は、お父さんからずっと
綿々とつながってきたものです。このY染色体があると、なぜかお母さんの体の中で、男
性ホルモンがビューっと出てきます。なぜそのようなことが起こるのかは分かりません。
もし分かったら、ノーベル賞三つ分くらいの大発見ではないかと思います。
もう一つは、思春期のとき、少年から大人の男性になるときに、このホルモンがブーっ
と出てきます。そうすると、筋骨隆々と言いますが、体の筋肉や骨がしっかりしてきて、
男らしい体型になる。また、ひげが生え、下の毛も生えてきます。
これらをそれぞれ1次性徴、2次性徴と言います。これらのために男性にとって、男性
ホルモン・テストステロンは非常に重要です。
●男性ホルモンが減るとさまざまな症状が出てくる
実はこのホルモンが、医学的なことだけでなく、社会的な面にも働くことを、前回お話
しさせていただきました(10MTV収録:やる気に関係するホルモン「テストステロ
ン」)。このホルモンは、社会に出て、自分が活躍したり認められると、非常に多く出て
くるものなのです。
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しかし、年齢とともに分泌量は徐々に減ってきます。もともと高い人も低い人も、どの
方も少しずつ低下する傾向があると言われています。特に、ストレスや激しい疲労などに
よってこのホルモンの分泌が減ると、何となく体の疲れが取れなかったり、だるさを感じ
るようになります。いろいろとおっくうになり、体が太ってくることもあります。テスト
ステロンは、筋肉をつくるのと同時に、脂肪組織の増加を抑える働きがありますから、こ
のホルモンが減ってくると、お腹が出てくる、骨の密度が減ってくる、動脈硬化が進むな
ど、さまざまな影響が出てきます。
また、ほてりや発汗などの体調面だけでなく、メンタル面でもうつ気味になるのが女性
更年期の一つの特徴ですが、男性も全く同じような症状になります。そういった理由か
ら、男性更年期と呼ぶようになりました。
●女性更年期は、人生もチェンジする時期だ
女性の場合は、どの方も全員、これから赤ちゃんをつくれなくなる閉経の時期が来ます
から、更年期は閉経前後5年と決まっていますが、男性の場合、医学的には時期が決まっ
ていません。実際、男子更年期になる方は、40代から60代後半くらいまでいらっしゃ
いますし、全く起こらない方もたくさんいます。具体的には、アメリカの調査ですと、6
0代の2割くらいの方、70代の3割くらい、80代の方は半数程度が、男性更年期と呼
ばれる症状を起こしていることが分かっています。
「更年期」という言葉を辞書で調べてみますと、意外なことに「人生をチェンジする」
という意味があると書かれています。更衣室というのは、衣を改めるということですが、
更年期は年が変わるだけでなく、ご自身の人生もチェンジするという意味があるのです。
女性の場合、更年期によって、一つは生殖活動を卒業するという大きな意味があります
が、ホルモンバランスで言うと、それまではエストロゲンの周期に従って暮らしてきたわ
けですが、エストロゲンが減ってきます。その代わり、不思議なことに閉経後、男性ホル
モン・テストステロンが徐々に増えていきます。
実は、女性の体の中には、もともとテストステロンがエストロゲンの10倍以上ありま
す。先ほどもお伝えした通り、テストステロンは社会的なホルモンですから、閉経が終
わった女性は、より社会的な活動を行ったり、仲間と一緒に旅に出たり、何か皆で新しい
ことを始めたりと、生き生きと行動するようになります。
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うがった見方をしますと、女性の更年期は、女性ホルモンによって自分のファミリーや
それに近い存在に愛情を注ぐ段階から、今度は男性ホルモン中心で、社会に向かって発信
していく形にジェンダー的にも変化してくるという意味で、まさに更年期という言葉がふ
さわしいのです。
●男性更年期は、何も良い方に変化しない
では、男性更年期は、男性が何かに生まれ変わるかというと、そんなことはないのです。
女性更年期のアナロジーで考えると、しばらく待っていると何か良い方に変化するのでは
ないかと考えがちですが、男性の場合、チェンジするものがありません。これは後でお話
ししますが、うっかりすると額縁の中に入ってしまうという大変な事態も起きます。
先ほど、女性は不思議なことに少しずつ男性ホルモンが増えていく傾向にあり、男性は
減ってくるとご説明しました。そこで、これは半分ジョークですが、私は、「おーい、お
茶テスト」というものをよくお話ししています。これを聞いていらっしゃる方がご主人の
場合、ご家庭で「おーい、お茶」とおっしゃってみてください。そこでもし、奥様が
「はーい、ただいま」とお茶を持って来る家庭なら、おそらくご主人の男性ホルモンの方
がまだかなり多いです。
「おーい、お茶」と言ったとき、お茶はいただけるのですが、「たまにはあなたも自分
で入れたら」とお小言をいただく家では、お二人のテストステロンがかなり接近していま
す。そして、おそらくこういう方が多いと思いますが、ご主人が「おーい、お茶入れた
ぞ」という家庭は、残念ながら奥様の方が、テストステロンが逆転して上回っているかも
しれません。
●テストステロンを回復させる方法はいろいろある
女性更年期の場合、お話ししたようにある一定の期間でまた違う人生がスタートするわ
けですが、男性は男性ホルモンが減ったら、適切な対処をしない限り回復しません。そし
て、このホルモンが減ってくると、ほてりや発汗、体の疲労感、筋肉の痛みなどの症状
だけでなく、糖尿病や高血圧、排尿の問題や性機能、うつ病やがんに至るまでのさまざま
な病気になりやすく、重症化もしやすいことが分かっています。当然、寿命にも関わっ
てきます。
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ですから、やる気が出ない、気力が出ないと感じ、ひょっとするとテストステロンが下
がっているかもしれないと思ったら、そのままにしておかないことが大変重要です。
現在、さまざまな方法でテストステロンを回復させる試みが始まっています。われわれ
は、メンズヘルス、男性医学という言葉を少し広い意味で提唱しているのですが、その中
で勧めていることの一つは、行動を変えることです。例えば、長距離通勤をされている方
は、週に1回くらい、会社の近くで休み、早く寝ていだたく。あるいは少し運動していた
だく。このような生活変容が効果的だということが分かっています。
定期的な運動が特に大事です。何もジムに行かなくても、例えば10分間、階段の上り
下りをしていただくだけでも、ずいぶん違ってきます。また食事も大きく関係します。や
はり野菜を重視した食事が必要です。中でも例えばブロッコリーやネギ類などを食べてい
ただきたい。それから、タンパク質をしっかり取ることをお勧めします。逆に言いますと、
炭水化物中心の食事では男性ホルモンは減ってしまいます。それから、睡眠をしっかり取
ることです。今は睡眠の深さを知ることのできるアプリも出ていますから、そのようなも
のを活用していただくのも一つの方法かもしれません。
現在は多くの医療機関で、男性ホルモン・テストステロンが測れるようになっていま
すから、「どうも最近疲れる」という方、あるいは「あなた、男性更年期じゃない?」と
言われる方は、ぜひ測ってみていただけたらと思います。そこですぐ医療的な結論に達す
るというより、リサーチの一環としてお勧めします。
今回は、男性ホルモンがさまざまな面で重要であり、それをもう一度高めることで、バ
イタリティとプロダクティビティを上げることができることをお話ししました。
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