第10回 競走馬のゆく年・くる年

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馬診便り _0116
更新 12 年 01 月 12 日(木)15:37
第10回 競走馬のゆく年・くる年
遅ればせながら、新年明けましておめでとうござ
います。本年もよろしくお願いいたします。
昨年は年末からの寒波に見舞われ年始の調整も大変
催も大変な局面を迎えておりましたが、震災直後の
であったようですが、今年のお正月は穏やかな天候
ドバイワールドカップ競走では日本馬のヴィクトワ
に恵まれました。
貞夫 (よこた さだお)―――――――――――――――――――――――――
横田
ールピサ号が優勝。ジャパンカップ競走ではブエナ
栗東トレセンの業務が完全に通常モードとなる1
ビスタ号が一昨年の雪辱を果たし、最終週の有馬記
月4日には、朝から行事が目白押しとなります。朝
念競走では三冠馬オルフェーブル号が優勝するとい
一番には調教スタンドで、栗東トレセン場長の挨拶
う記憶に残る充実した年であったと思います。
とともに「新年顔合わせ会」が開催され、栗東トレ
さて、今回は「競走馬のゆく年・くる年」と題し
て、栗東トレセンの年末年始についてご紹介したい
と思います。
競走馬の「ゆく年」~有馬記念競走を終えて~
年末の風物詩でもある有馬記念競走が終了すると、
昭和35年生まれ。
馬事部防疫課・獣医課に
11年勤務して、
2010年3月から現職。
します。また、それに続いて調教スタンド近くに位
る「新年馬頭観音祭」と、残念ながら競走中や調教
中に命を落とした競走馬たちの霊を慰める「慰霊祭」
で、厩舎にいる競走馬たちも少しリラックスムード
が馬頭観音の横に位置する愛馬慰霊碑の前で執り行
となります。厩舎関係者の勤務形態も12月29日から
われます。昨年一年間に治療の甲斐なく死亡した競
31日までは半休となり、朝の調教を済ませると午後
走馬たちや、今なお治療を続けている競走馬たちに
からは休日となります。しかしながら、相手は競走
思いを馳せながら、今年一年間の競走馬の無事を厩
馬ですから必ず複数名の当番の厩務員さんが午後も
舎関係者の皆さんとともに祈願しています。
出勤して、午後の飼い付けや夜の水飼いの面倒など
をみることになります。この時期に注意しなければ
競馬の元旦 ~「金杯」競走~
ならないことは、冬の寒い時期に通常とは異なるパ
そして1月5日は競馬の元旦ともいえる「金杯」
ターンになることから、競走馬にとって思わぬ事故
競走が東西の競馬場で施行されます。金杯競走が施
が起きたり、疝痛(腹痛のことです)を発症したり
行される京都競馬場や中山競馬場では、競馬出走に
することです。
望む厩舎関係者と馬主さんをはじめ各競馬場の関係
競走馬診療所も、この年末年始の期間は当番体制
者が、新年の挨拶を交わす場となります。それぞれ
を組んで出勤者数を絞って対応することになります
の競馬場においてもトレセンと同様に、競馬開催を
が、病気や怪我はこちらの都合に合わせてくれるわ
「馬頭観音祭」
迎えるにあたっては、
「馬場浄め神事」
けではありません。時には除夜の鐘を聞きながら担
が行われ、一年間の競馬の無事を祈願しています。
ば
ば きよ
競馬場あるいはトレセンにおける競走馬の事故を
栗東トレセンの年の瀬は、競走馬を取り巻く多くの
ゼロにすることは極めて困難なことでありますが、少
人達がそれぞれの思いを巡らせながら、そして新し
しでも事故が少なくなるよう、競馬に関わる関係者
い年に向けて希望を抱きながら更けていきます。
一同で取り組んでいくことを年の初めに心に刻む新
年の行事といえます。
次回は「真冬に鍛える競走馬 ~厳寒期の馬場管
新年早々の仕事が、1月1日の早朝の急患電話で
理~」と題して、厳寒期の栗東トレセンにおける競
あったりもします。担当の厩務員さんにとっても年
走馬たちの調教と馬場管理について紹介したいと思
始早々の仕事が急患対応ではお気の毒ですが、競走
います。
馬診療所の当番獣医職員にとっても今年一年を占う
競走馬を早急に治すべく治療にあたります。この1
JRA本部
じめ栗東トレセン関係者により一年間の無事を祈願
けが唯一、週末に競馬開催が無いことになりますの
馬」のためには大晦日も元日もありません。病気の
競走馬診療所に8年、
ば きよ
の住職さんにご来場いただき、愛馬の無事を祈願す
1984年日本中央競馬会
栗東トレーニングセンター
ば
週行われているJRAの競馬開催では、この時期だ
ようで思いは複雑です。とはいえ、
「もの言わぬ競走
競走馬診療所に7年、
午後には、調教スタンドに宮司さんをお招きして
「新年馬場浄め神事」が執り行われ、厩舎関係者をは
置する馬頭観音の前においては、神戸にある妙光院
獣医学専攻を修了し、
美浦トレーニングセンター
ます。
迎えることになります。競馬開催が一年を通して毎
岐阜大学大学院 農学研究科
(現JRA)入会。
センの職員と調教師の皆さんとの賀詞交換が行われ
年明けの金杯競走まで厩舎関係者はひと時の休暇を
競走馬の
「くる年」~金杯競走に向けて~
競走馬診療所 所長。
調教スタンドで行われ、年始の挨拶が交わされます。
昨年一年間は東日本大震災の影響もあり、競馬開
当厩務員さんと病馬の治療にあたることもあります。
栗東トレーニング・センター
は、調教師さんが一同に介しての「馬場開き式」が
月1日は栗東トレセンの関係者にとって年に一度の
完全休業日です。この日ばかりは地方交流競走に出
走を予定している競走馬の調教も行われませんから、
厩舎関係者にとっても、われわれ競走馬診療所スタ
ッフにとっても静かな一日を過ごすことになります。
1月2日には新しい年が始動します。まずは1月
5日の金杯競走が行われる京都競馬開催に向けての
調教開始です。本格的な調教は全休明けではない1
月3日以降となりますが、調教初日となるこの日に
神戸にある妙光院では毎年1月18日に、競馬などに寄与してい
る愛馬ならびに諸動物の健康と安全を祈願する「初馬頭観音祭」
が執り行われます。トレセンや競馬場からも多数の関係者が参列
し、愛馬の無事を祈願します。動物愛護の本尊とされる馬頭観世
音菩薩の像は青銅製で、高さが6mもある国内最大のものです。
次回は2月6日発行号