喜び・悲しみ・怒りの感情特性・感情制御の比較 再評価・思考抑制・表出抑制・回復力・反芻の関係 ○平井 花 1 ( 1 学習院大学文学部) キーワード:感情制御,感情特性,抑制 A comparison of affective trait and emotion regulation of enjoyment, sadness and anger Hana HIRAI1 1 ( Faculty of Letters, Gakushuin Univ.) Key Words: affective trait, emotion regulation, suppression 目 的 感情特性とは,感情の感じやすさに関する個人の特性を指 し,Izard, Libero, Putnam, & Haynes(1993)は 12 の感情に関 する感情特性の尺度を作成している。特定の感情状態が一定 期間継続し,その状態が安定すると,個人の感情の傾向とし て感情特性が認知されるようになると考えられるが,この傾 向は我々の日常生活に大きな影響を与えると考えられる。幸 せや喜び,楽しさといったポジティブ感情の感情特性は,心 理状態に好影響を与えると考えられるが,一方でネガティブ 感情の感情特性は,抑うつ傾向や日々の苛立ちにつながり, 心理状態に悪影響を与える可能性がある。またそれに伴い, 感情特性は感情制御の使用・不全とも関係すると考えられる。 そこで本研究では,喜び・悲しみ・怒りの 3 つの感情を取 り上げ,各感情間の感情特性・感情制御の関係を検討する。 仮説としては,ポジティブ感情の感情特性は,抑制と負の相 関,回復力・再評価と正の相関があり,ネガティブ感情の感 情特性は抑制と正の相関,回復力・再評価と負の相関がある と考えられる。また反芻思考は抑うつ傾向との関連が示唆さ れるため,悲しみの感情特性と正の相関があると予想される。 方 法 参加者 大学生 345 名(男性 217 名,女性 126 名,不明 2 名) が参加し,平均年齢は 20.14 歳(SD = 1.36)であった。 質問紙 個別情動尺度 IV 版(DES-IV: Izard et al., 1993)及び 主観的感情特性尺度(平井,2013)の一部,感情調節尺度(吉 津・関口・雨宮,2013;下位項目:再評価,抑制) ,精神的回 復力尺度(小塩・中谷・金子・長峰,2002;下位項目:新奇 性追求,感情調整,肯定的な未来志向) ,Repetitive Thinking Questionnaire 日本語版(RTQ-10:田中・杉浦,2014)によっ て質問紙を構成した。また喜び・悲しみ・怒りごとに感情調 節尺度 (吉津他,2013)の抑制の項目(表出抑制:αs= .797-.846) を,悲しみ・怒りごとに思考抑制の項目(○○を感じたとき, “その感情について考えないようにする。” “その原因となっ た出来事を無理にでも忘れようとする。 ”“そのことを頭に浮 かべないようにする” :αs= .738-.800)を設定した。 手続き 集団に対して質問紙を実施した。回答時間はおよそ 15 分であった。 結 果 感情特性(DES-IV: Izard et al., 1993,感情特性:平井,2013) と感情制御・回復力・反芻思考の関係を検討するため,各変 数間の相関を算出した(Table1)。結果,喜びの感情特性は, 再評価と新奇性追求・肯定的な未来志向との間に正の相関(rs = .25-.38) ,抑制・表出抑制との間に負の相関(rs = -.35- -.22) が認められた。悲しみの感情特性は,新奇性追求・感情調整・ 肯定的な未来志向との間に負の相関(rs = -.43- -.21),RTQ-10 との間に正の相関(rs = .45-.53)が認められた。怒りの感情 特性は,表出抑制と感情調整との間に負の相関(rs = -.48- -.33), RTQ-10 との間に正の相関(rs = .27-.31)が認められた。 また思考抑制は,再評価と正の相関(rs = .30-.31)が認め られ,抑制との相関は認められなかった(rs = .07-.10)。表出 抑制間の相関については,喜びと悲しみ,喜びと怒りの間に 弱い正の相関(rs = .21-.27),悲しみと怒りの間に中程度の正 の相関が認められた(r = .63)。感情特性については,悲しみ と怒りの感情特性間でのみ正の相関(rs = .35-.57)が認めら れ,他の感情間では相関は認められなかった(rs = -.06-.12)。 Table1 DES-IV・感情特性と各変数の相関 再評価 抑制 表出抑制 a) 思考抑制 a) 新奇性追求 感情調整 肯定的な未来志向 RTQ-10 DES-IV 喜び 悲しみ .18 -.05 -.22 .04 -.27 -.08 - .00 .25 -.21 .11 -.43 .38 -.29 .03 .53 感情特性 怒り 喜び 悲しみ -.04 .25 .00 -.06 -.18 .03 -.33 -.35 -.14 .01 - .03 -.15 .31 -.07 -.42 .12 -.34 -.17 .33 -.12 .31 .00 .45 怒り -.04 -.08 -.37 .06 -.09 -.48 -.11 .27 各感情に対応した変数同士の相関の値。 更に,思考抑制の悲しみと怒りについて t 検定を実施した ところ,有意差が認められた(t(344) = 5.31, p < .001, 悲>怒) 。 また表出抑制・感情特性の各感情間の差を検討するため分散 分析を実施したところ,全ての変数で主効果が認められた (Table2; Fs(2, 686-688) = 52.20-255.59, p < .001, 表出抑 制:喜<悲<怒,感情特性:喜>悲>怒)。 Table2 表出抑制・DES-IV・感情特性の分散分析の結果 a) 表出抑制 喜び M SD 2.75 1.16 悲しみ M SD 4.16 1.27 怒り M SD 4.32 1.38 DES-IV 3.30 0.72 2.92 0.89 2.72 0.90 感情特性 3.70 0.86 3.21 0.97 2.81 1.05 F値 255.59 *** 52.20 *** 86.69 *** *** p <.001 考 察 喜びの感情特性は回復力・再評価,悲しみ・怒りの感情特 性は反芻思考との正の相関が認められる等,仮説の一部が支 持され,喜びの感情特性はポジティブな特性,悲しみ・怒り の感情特性はネガティブな特性と関係していることが示唆さ れた。また,感情特性・思考抑制・表出抑制は各感情間で相 関が認められたが,いずれにおいても感情間で有意差が認め られ,感情ごとに各特性の弁別がなされている可能性が示唆 された。DES-IV と感情特性については,結果が一部異なって いたため,両者の関係・定義について今後検討を要する。 主たる引用文献 Izard, C. E., Libero, D. Z., Putnam, P., & Haynes, O. M. (1993). Stability of emotion experiences and their relations to traits of personality. Journal of Personality and Social Psychology, 64, 847-860.
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