福祉部会研修会要旨 離乳期・幼児期の摂食機能の発達と働きかけ 講師:名古屋短期大学保育科 教授 小川 雄二先生 1.摂食行動・摂食機能の発達 ⑴哺乳反射による乳汁の吸飲 母乳を飲むのは哺乳反射(原始反射)であり、 ①探索反射②捕捉反射③吸啜反射④嚥下反射の 4 つの反射がある。また、乳児が母乳を飲む動 きは「舌の蠕動様運動」と「吸引圧」によるも のと考えられる。①舌先を歯槽の前に出し、舌 の縁は乳首をくるんで口蓋に押し付け密着させ る⇒この状態で舌が蠕動運動して乳汁を押し出 す②蠕動運動が奥までいったら、舌を下げて口 蓋との間を陰圧にして吸引する。 ⑵口腔内の形状の発達 成長にともなって吸啜窩がだんだん小さくな り、副歯槽提がなくなり口蓋が広くなる。この ことにより、固形状のものが食べられるように なる。 ⑶哺乳反射の消失 個人差はあるが、5 ~ 7 ヶ月頃に探索反射・ 吸啜反射は徐々に消失していく。この哺乳反射 の減弱が離乳開始の生理的条件である。(哺乳 反射が残っていると固形物を出す)したがっ て、4 ヶ月以前の離乳開始は好ましくなく、乳 児にとっても不快である。 ⑷離乳食の開始と摂食機能(咀嚼)の発達 哺乳機能(原始反射)⇒中枢神経の発達⇒摂 食機能(随意運動…脳の意志によって動く) 捕食(唇で食べ物を捉える)/咀嚼 摂食機能の発達 ①原始反射による哺乳 ②原始反射が徐々に消失 ③捕食能力(口唇をしっかりとじて食 物を取り込む)の獲得 ・スプーンを目で追い、上唇を閉じて 取り込む ・口唇をしっかりとじで嚥下(両方の 口角にくぼみ) ④豆腐程度の固さのものを舌で口蓋に 押し付けてつぶし嚥下 ⑤舌でつぶせない(バナナ程度)の固 さのものを片方の歯ぐきに移動させ 咀嚼 ・食物の固さに応じてつぶし方を変え ることができるようになる。 ⑥舌で口の中の食物を自由に動かせる ようになる ⑦手づかみ食べ(手の機能の発達) 月齢 ~4ヵ月頃 5~7ヵ月 6ヵ月 7ヵ月 9ヵ月 10ヵ月 11ヵ月 ⑧第1乳臼歯が生える(生歯時期は個 人差が大きい) ・第1乳臼歯が生えることが有形食を 12~15~18ヵ月 咀嚼する基礎的条件/離乳完了期 ⑨第2乳臼歯が生える 22~36ヵ月 *③~⑧の時期が離乳期 *⑨までで咀嚼能力が完成する *コップからの液体摂取機能は固形食の摂取よ り遅いが、つまずきは少ない 摂食機能の発達に合わせて、その時期にあっ た調理形態ものを与えることにより、咀嚼獲得 につながっていく。また、第 1 乳臼歯が生え る(1 歳頃~ 1 歳 7 ヶ月頃)ことにより固形の ものをつぶすことができ、離乳の完了となる。 離乳の完了は咀嚼の完成ではなく、第 2 乳臼 歯が生えそろった 3 歳頃に咀嚼の完成となる。 かまない・かめない子どもが増えている現状が あるが、大人が発達の道筋を知り、どこでつま ずいたかを知ることが大切である。 2.離乳の基本事項 離乳には、①栄養の補給②消化機能の発達を 促す③精神発達(五感の発達)を促進する④食 習慣の基礎をつくる⑤摂食機能の発達を促すな どの大切な役割がある。 離乳期の栄養補給においては鉄分不足があげ られる。母乳には鉄分は非常に少なく貯蔵鉄で 補われているが、5 ~ 6 ヶ月にはなくなってい くため、離乳食で摂取していかなければなら ないが、鉄を摂取するのは難しい。牛乳を満 1 歳になるまで与えないのも、鉄が少なく牛乳に 含まれるリン・カルシウムが鉄の吸収を低下さ せるなどの理由がある。 極度な鉄分の不足が 3 ヶ月以上も続くと精 神運動発達(人見知り・バイバイ・つかまり立 ちなど)の遅れの可能性が出てくる。貧血に至 らない程度の鉄不足でも神経伝達物質の生成に 障害や脳細胞の機能低下があるとされている。 3.「楽しく食べる食育」のために学びたい内容 保育所における食育の目標は「食を営む力」 の育成に向け、その基礎を培うことであり、 「楽 しく食べる子ども」に成長していくことを期待 しつつ以下の子ども像の実現をめざして行う。 ①お腹がすくリズムの持てる子ども <血糖値・摂食中枢> ②食べたいもの、好きなものが増える子ども <扁桃体> ③一緒に食べたい人がいる子ども <心情の発達> ④食事づくり、準備にかかわる子ども ⑤食べものを話題にする子ども おなかがすく ( 血糖値・摂食中枢 ) ⇒食欲を 満たす⇒気持ちがよくなる(βエンドルフィン …快感物質) 食事が好きになって楽しくなるには、このよ うなしくみがある。 子どもの食における発達には、摂食機能、マ ナー、意欲の発達などがある。こうした食にお ける子どもたちの発達に合わせてかかわること により、「楽しく食べる」につながっていく。 (文責 福祉 赤川倫子) – 24 –
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