太陽光発電を活かし 22 世紀を迎えるため

太陽光発電を活かし 22 世紀を迎えるために
松本 吉彦
Yoshihiko Matsumoto
平均寿命の半分以上を生きて来て 20 世紀を振り返るに、
ッサからパソコン、インターネットとドットコム・カン
どう見ても「狂乱の世紀」というしかないように思える。
パニーと、軌跡を省みれば時代に流され、面白そうな業
二つの大戦をはじめとして数多くの戦争、もともと人間
界を渡ってきたことになる。
の幸福のための術であったはずがいつしか目的が銭にす
しかし、21 世紀を迎えた 8 年前、私は約 30 年間糊口を
り替わってしまった経済、そして(伝統)智になること
しのいできたエレクトロニクス IT 業界を離れた。長年か
を放棄し戦銭経済の奴隷になった科学技術…
かわってきた会社がその役目を終え閉じようとし辞める
国家による計画経済の約 20 年前の瓦解は前奏で、いま
タイミングでもあったが、同業の仕事に就くべきか逡巡
進行中のグローバルな金融資本主義の崩壊も、狂乱の 20
し、ちょうど大学へ進学した息子と二人暮らしの“若隠
世紀の後片付けの始まり。ご主人様=銭経済の崩壊にと
居”をきめこんでいた。そんななか、アメリカ本土やハ
もなって、奴隷=技術も自らその処世を考えたほうがよ
ワイとバケーションに現つを抜かし、その帰国の 2 カ月
さそうだ。
後、2001 年 9 月 11 日、アメリカへの同時多発テロ…
この September Eleven には考えさせられた。我々の銭経
§ バーチャルからリアルへ
済(ビジネス・ゲーム)や IT の馬鹿騒ぎへの想像を絶す
もともと私は「ラジオ坊や」。『初歩のラジオ』から
る怨念・怒り・憎しみ。それと同時に、石油石炭天然ガ
『CQ ハムラジオ』つまりアマチュア無線、中学生での最
スやウランなど、減耗しつつあり残りが 2 世代も保ちそ
後の真空管時代を経て正に「トランジスタ技術」世代、
うにないエネルギー、それに依存した“砂上の楼閣”で
エレクトロニクスからディジタル回路、マイクロプロセ
ある今の文明に想いを馳せた。
子煩悩の私の考えること、たかが知れ
ている。携帯電話・パソコン・インタ
ーネット、自動車・電車・飛行機など、
けっこう素敵な今の文明、息子の世代に
も、次の世代にも、ずっと永く遊び続け
て欲しい。遊び続けられるようにしてあ
げたい。それは子どもにお金を残すこと
ではない。文明が崩壊すればお金は価値
を失うし、お金その物は食えないから生
存すら危うくなる。
涸渇するエネルキーを基にした文明の
方向を革め、持続可能な文明を目指すし
かない。
77
1970 年代に読んだ本を読み返した。
PV で発電した電力で、回収できなかった。いわゆる EPR
シューマッハの『スモール・イズ・ビューティフル』、
(Energy Portfolio Ratio, Energy Payback Ratio) が 1 を下回って
エイモリ・ロビンズの『ソフト・エネルギー・パス』、
いたのだが、その EPR は今や 10 を上回っているという。
ドネラ・メドゥズの『成長の限界』。そういえば、この
たとえば結晶系シリコン太陽電池は、自分を生産した電
『成長の限界』の研究を彼女に依頼したローマ・クラブ
力を約 2 年で回収し、その寿命は 20 年はありそうなのだ。
創始者のアウレリオ・ペッツェイも「孫娘を膝に乗せて
つまり PV 自身を生産した電力の 10 倍を回収し、言い替
るとき」にこの構想を思い立ったそうだ。
えれば、資源制約のないシリコンと、PV で発電した電力
で PV を拡大再生産することにより、文明を紡ぐための
§ 太陽光発電で文明を紡ぐ
1970 年代の石油危機、また公害問題・環境汚染を背景
エネルギーになり得る。
問題はコストだが、1970 年代の 100 分の 1 になってい
に、ラジオ坊やの私もその業界にも興味を持ったが、い
た。
かんせん勉強が苦手だった。百姓も大学卒業頃に試みた
もう少しで、石油を汲み揚げるコストより、PV で太陽エ
が直ぐに挫折。その一方、エレクトロニクスは面白くっ
ネルギーを集める方が、コストの面でも安くなる。私の
てたまらない。それなりに仕事になりお金にもなり、次
いた業界の半導体メモリは、そのビット単価は 1970 年代
々に新しいテーマが現れて、1970 年代の危機感は薄れ、
の 10 億分の 1 に低下している。情報とエネルギーは違う
「面白い遊びに夢中」になっていく。
とはいっても、同じ工業生産物だ。さらなる大量生産で
21 世紀の最初の年に、それら危機感を新たにした。地
球上の生物にとって、あるいは 200 万年の人間の歴史に
もっと安くなり、トタン板や瓦で屋根を葺くのと PV で
葺くのと、そう大差なくなると期待しよう。
とって、数億年前にストックされた化石燃料の使用(消
太陽エネルギーの直接利用が文明を紡ぐ一番いい方法
費と二酸化炭素の放出)は異常である。本格的に使い始
だろうという思いに至った。植物を経由してエネルギ
めて約 200 年、狂気の使い方の 50 年は、歴史的に見て、
ーを得るのは邪道で、きっと「お天道様のバチ」があた
極めて短期の異常行動である。地球温暖化は皮相的な問
る。食べ物は神聖である。人類、命を紡ぐエネルギーは
題で、20 世紀の多くの戦争はエネルギー争奪戦だし、銭
植物や藻類等の光合成に頼ってきた。その輪に現代文明
経済の狂気も親の遺産(化石燃料)を浪費する放蕩息子
が割り込んで横取りすると、いつしか命を紡ぐのに支障
の愚行である。
をきたすに違いない。
死んじまった親の遺産も化石燃料もウランも増えない。
現代文明:携帯電話・パソコン・インターネット・自
省エネに研究開発(金と智の)投資を行うのは間違いで
動車・電車・飛行機などのエネルギー、より正確にはエ
はないだろうか。10%の省エネがうまくいっても、30 年
クセルギーは、植物を繁茂させることのできない建造物
の寿命が 33 年になるだけだ。再生可能エネルギーへの一
などに設置した PV によって、太陽エネルギーを集め、
次エネルギー転換に(研究開発投資を行い)成功すれば
電気エネルギーに変換して使うのだ。
「種の“期限”」まで、人類の歴史の 200 万年を超える
文明の持続も可能になる。
もともと、約 6000℃の太陽エネルギーから地球という
周波数コンバータにより 25℃の電波で背景輻射の-270℃
そして 1970 年代から興味を持っていた太陽光発電(PV)
の宇宙空間に、排熱として捨てられるものだ。その過程
について調べ始める。PV は格段に進歩していた、私が
でほんの少しだけ、ちょっとの間(ほとんどが日周期)
「面白い遊びに夢中」になってた間に。
だけ借りるのだ。横取りし消費してしまうのではない。
その昔 PV は、PV を生産した電力を、その寿命の内に
78
§ 電力のシステム・アーキテクチャも革める
人類の歴史に耐えられる一次エネルギーは、その賦存
量からみて、直接の太陽光エネルギーしかない。おおま
かに、人類の必要としているエネルギーの何倍かで賦存
量を表せば、水力は 1 倍、植物(バイオマス)は 10 倍、
風力+波力+潮力は 100 倍のオーダーであるのに対し、地
表に到達し 25℃の排熱で捨てられる 6000℃の太陽光は
15,000 倍といわれいるからである。
絶対量でも寿命でも、太陽光に頼るしかないのだ。そ
れが最も安心できる。生物が約 35 億年命を紡ぐ糧として
直接の太陽光を拠り所にしてきたのだから。
エコネットの目指す五つの ZERO
1. ZERO Interruption
化石燃料やウラン涸渇後も、現状に近い地球文明を維持
れない。
5. ZERO Disaster
したい。現状に近い地球文明を維持するためには電気エネ
大惨事・巨大事故・広域停電の危険性を内在しないシス
ルギーが必要だと考える。化石燃料やウラン涸渇後には太
テムに移行したい。大規模化により効率を求めると、大規
陽エネルギーからの電力しかない。
模システムの脆弱性が顕在化してくる。自立を目指し、自
2. ZERO Emissions
律する小さいクラスタが緩やかにネットワークするほうが
地球温暖化ガス・放射性廃棄物の発生しないエネルギーを
いいと考える。
共有したい。化石燃料が無限にあるとしても現状の気候を
望むなら化石燃料を焚くのは許されないし、核分裂核融合
我々に残された時間と化石燃料は極めて少ない。
発電は地球文明が未経験の 10 万年の放射性廃棄物管理が
さぁ、一緒に急ぎましょう。
必要で許容できない。
3. ZERO War
化石燃料涸渇過程における化石燃料争奪の世界大戦を未
グリッドとエコネットのちがい
然に防止したい。そのために、化石燃料が少なくなる前に、
現行のグリッド
エコネット
一次エネルギー
化石燃料核分裂
偏在・ストック
再生可能
遍在・フロー
発電
遠隔・大規模
集中・定常
需要地・小規模
分散・非定常
ネットワーク
長距離・大電力
電力配給
常時給電
短距離・小電力
電力融通
常時停電
平準化
送配電網
太陽エネルギーへの転換を実現する必要がある。化石燃料
が少なくなり価格が急騰したら太陽エネルギーが普及する
という希望は楽観的過ぎる。
4. ZERO Barrier
エネルギー産業の障壁を下げ、誰でも電力を創れ・使え
るようにしたい。特に開発途上国は、未だ 16 億人が無電
化であり、Step-by-Step で創れる構造が必要である。核分裂
/核融合発電では巨大資本による巨大施設が必要で満足さ
電力貯蔵
(発電・負荷両方)
79
パワエレとは本号の特集=スイッチング電源
の技術そのものであるが、単に定電圧電源だけ
でなく、定電流電源、定電力電源、定インピ
ーダンス電源、あるいはそれら「定」だけでな
く任意に設定できる「可変」、そして電源では
なく「負荷」としての特性が「定(可変)*
*」と求められる。たとえば、PV は非線型電
源であるから最大電力を取り出すには「可変負
荷インピーダンス」入力が必要である。また、
スイッチング電源の並列運転や、スイッチング
電源はシリーズに接続されたり、負荷がパワエ
レだった場合の、振動や発振の予防には、定電
しかし、その太陽光エネルギーは、現状の電力の一次エ
圧や定電流の電源ではなく、あるインピーダン
ネルギー=化石燃料やウランあるいは高いところに溜めた
スを持った(たとえば負荷によって出力電圧が下がる)電
水とは、性質が全く異なる。まずは遍在してるということ、
源の方がいいかもしれない。それを損失なく実現できるの
集中して偏在していない。そして貯めて置けないこと、変
がスイッチング電源である。
動すること、また全て変換に使おうとするとその量はその
またパワエレは電源だけでなく制御や保護も重要だ。細
瞬間の一次エネルギーに依存し制御できないことなどであ
かいことだが 1.27V の基準電圧を安価に使えることは、約
る。さらに旧来の発電は、熱力学・回転系であったのでス
30 年前、その市販品を千数百円で買ってた私からすると夢
ケール・メリットを追及する(大きくして効率を上げる)
のような素子である。これによって EDLC や Li-Ion 電池の
しかなかったのに対し、PV は『スケーラブル』であり
セル単位の充放電制御や保護などが実用的になった。これ
(大きくしても効率は上がらないが)小さくしても効率は
からは電力貯蔵がパワエレの腕の揮いどころだ。
下がらないのだ。
今の電力システムは 19 世紀に発明されたの『グリッ
おわりに
ド』というアーキテクチャのままで、大規模・集中発電、
技術の革新は、そしてその技術革新をビジネスにするの
高電圧・大電力・長距離送電を前提にしている。上記のよ
も、現状の技術とビジネスの当事者以外であることが多い
うにまるで違う性質に由来する太陽光からの電力は、旧来
ように思う。トランジスタの発明や商品化は真空管屋では
のグリッドに載せようとすると、非効率でコストも嵩む。
なく、電子計算機の商品化は電子屋ではなく、マイクロプ
それぞれの時代の発電に適した新しい電力システム(ネッ
ロセッサの発明と商品化はコンピュータ屋ではなく、イン
トワーク)アーキテクチャが必要であると考え、『エコネ
ターネットも通信屋は後から参入した。
ット』と愛称を付けたアーキテクチャを提唱し、実証し実
電力屋以外が電力の様式を根底から覆すときがきた。
施しようとしている。
電子屋にとっての電子業界、IT屋にとっての IT業界、も
エコネットの説明は別の機会にしたいと思うが、その実
う手間賃仕事しか残って無いと思う。是非電力に進出し、
現にはここ 20 年で長足の進歩をした要素技術の鼎立、す
アイデアを発揮して面白い仕事をし、この文明の基礎を立
なわち、太陽光発電、電力貯蔵(電池やキャパシタ)、そ
て直し、そして手間賃以上のでっかいビジネスを創ろう。
してパワーエレクトロニクスの三つに依って立つ。
80