化学療法の 副作用について

化学療法の
副作用について
不明な点がありましたら、
ご遠慮なく
看護婦にお申し出下さい。
H12.4作成 愛育病院
はじめに
これから「化学療法」の治療が始まります。化学療法は悪い細胞をこわす
ことができますが、健康な細胞へも影響があり、副作用が現れることがあり
ます。
この冊子では副作用の内容や、対処方法について説明します。文章中に難
しい用語も出てきますが、簡単に実行できるアドバイスなども書かれていま
すのでぜひ読んでくださいね。
治療方法について
化学療法には、経口薬(飲み薬)・注射・
脊髄腔内注入などの方法があります。
経口薬・・・・・・薬はお湯、水で服用してください。牛乳、ジュースでの服用は、
薬の効果を下げることがあります。薬を紛失したり、服用後に
嘔吐された場合は看護師にお知らせ下さい。
皮下注射 ・・・・腕に注射をします。注射直後は揉まないで下さい。いつも同じ
部位に針を刺すと、皮膚が硬くなることがありますので、毎回
注射部位を変えます。
静脈注射・・・・腕の血管から点滴をします。治療薬が血管外に漏れないように、
特殊な針(ビニールチューブ)を使います。点滴の際は、治療薬を一
定の速さで注入する為に、輸液ポンプという機械を使用するこ
とがあります。ポンプは充電式ですからコードをはずして歩行
もできます。
また、腕の血管がでづらい方や栄養補給を必要とする方は、
医師が鎖骨の下か足の付け根の太い血管にカテーテル(細い管)
を挿入、留置し毎回そこから点滴をします。
医師の指示がない限り点滴中でも安静の必要はありません。
リラックスして治療を受けて下さい。
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また次のようなことがありましたら看護師にお知らせ下さい。
6 点滴中に気分が悪くなった。
6 点滴の滴下が悪い、又は止まってしまった。
6 点滴針の挿入部位が痛い。
6 点滴針の挿入部位が腫れてきた。
6 輸液ポンプに赤ランプが付き、ピーと音が鳴り出した。
6 シャワー浴、入浴をするとき。
せ ん し
脊髄腔内注入 ・・腰椎穿刺(背中から腰の骨に針を刺します)をして治療薬の
注入をします。注入後に吐き気や頭痛をきたすことがありま
すので、治療後の1〜2時間はベットで安静にしていただき
ます。排泄は済ませておいてください。安静中、枕は使用で
きません。治療の時間によって食事を制限することもありま
す。
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こつずい
骨髄への副作用について
"骨髄"は骨の中にあり、血液を作り出す大切な働きをしています。化学療
法では薬の副作用によって、骨髄がうまく機能しなくなります。
血液は大きく、赤血球、白血球、血小板に分けられ、治療中はそれらの成
分が減少します。そのため貧血、感染、出血などが起こりやすい状態になり
よくせい
ます。このような状態を「骨髄抑制」といい、あらゆる合併症を起こさない
ように注意を要します。
① 赤血球の減少と貧血
骨髄で作られた赤血球は、主に酸素の全身運搬を行っています。治
療中は赤血球数が減少し、そのために貧血の状態になることがありま
す。貧血の期間は、数週間〜数ヶ月におよぶ場合もあります。
0 赤血球・血色素の正常値
貧血の自覚症状
ど う き
赤血球
血色素
男性
430〜550万
13.5〜17.5g
女性
370〜500万
11.5〜15.5g
歩行時の動悸・息切れ
めまい・たちくらみ
頭痛感・疲れやすい
けんたい
胸痛・全身倦怠感、
耳鳴り
貧血のときは・・
◆ 転倒事故に気をつけ動悸、息切れの現れない範囲で安静にして、
ベットから急に起きあがったりせず、ゆっくりとした行動をして
下さい。
◆ 血流を良くする為にガウン、靴下あるいは湯タンポなどを使用し
て保温に心がけて下さい。
◆食事は3食規則正しくとり、たんぱく質の豊富な食品、血液材料
となる食品をお摂りください。
◆貧血が強い場合には酸素吸入や輸血による治療が行われることが
あります。
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血液を造る食品
造血物質
鉄
たんぱく質
食
品
レバー、牡蠣、卵黄、さんま、イワシ、ほうれん草、
春菊、胡麻
肉、魚、牛乳、チーズ、大豆
ビタミンB6
レバー、牛乳、魚、卵黄、酵母、胚芽、小麦、
米ぬか、蜂蜜、豆類
ビタミンB12
豚や牛の肝臓、魚、肉、卵黄、チーズ
ビタミンC
豆、ジャガイモ、トマト、柑橘類、イチゴ、バナナ
葉酸
肝臓、イースト、キノコ、ほうれん草、イチゴ
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② 白血球の減少と感染
白血球の働きは、細菌、ウィルス、真菌感染から身体を守ることで
す。治療中は免疫が低下しているうえに、正常な白血球が壊されてし
まい、種々の感染を起こしやすくなります。感染を予防するために細
心の注意を払わなくてはいけません。治療が始まって7日〜14日が
白血球数の減る時期とされています。
0 白血球数の正常値
総白血球数
好中球
顆粒球
好酸球
好塩基球
単球
リンパ球
4000〜9000
2500〜7500
40〜400
10〜100
200〜800
1500〜3500
重要!
感染の予防
◆ 虫歯、痔、水虫、傷があれば症状を悪化させることがあります
ので、主治医にお話下さい。
◆口からの感染率が高いので手指は清潔に、特に食事前、排泄後
は石けんを使い流水でしっかりと洗って下さい。洗面所に行け
ない方は、ウェルパス(消毒液)を利用して下さい。
◆うがいは指示通りに必ず行って下さい。
◆ 「何となく喉が痛い」「少し熱っぽい」「背中がゾクゾクする」
など、かぜ症状があればお知らせ下さい。
◆ 便秘は腸内細菌を増殖させ、腸炎の原因にもなります。便通を
良くしておきましょう。
◆シャワー浴、入浴の可能な方はできる限り行い、清潔な下着を
身につけましょう。入浴できない方は清拭をおこないます。
◆ベットの周りは、いつも整理して清潔に心がけて下さい。
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◆ 主治医の許可があれば外出、外泊はできますが、なるべく人ご
みの中は避け、もし御家族の方が、かぜにかかっている場合な
どは、外泊は控えるほうが良いでしょう。
◆ 面会は感染の機会となりやすいので、御家族以外はできる限り
控えていただくようにしましょう。
◆ 白血球数の減っている時期の食品は、生ものより加熱してある
ものが望まれます。果物はイチゴやぶどうのように直接口にす
るものより、りんご、バナナ、柑橘類など皮をむいて食べるも
のが良いでしょう。また、生花も病室には置かないほうが良い
でしょう。
◆ 白血球数が著しく減少した場合は、病室に空気清浄機を設置し
たり、病室を出る時は紙マスクを使用していただきます。空気
清浄機を設置中はトイレ、洗面以外は、お部屋でお過ごし下さ
い。
◆ 感染の機会を最小限とするために、一時的に個室へ移っていた
だくこともあります。
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③ 血小板の減少と出血について
血小板は出血を止める止血作用があります。
血小板も治療薬の影響を受けやすく治療開始後1〜2週間で血小板の
産生が不足し出血しやすくなります。
0 血小板数と出血
血小板数
5〜10万
3〜5万
1〜3万
1万以下
症
状
出血が止まりにくい。
皮下出血が現れる。歯肉及び鼻出血
消化管出血
脳内出血
出血の予防
◆ ベット周りの整理、整頓に心がけて、転倒や打撲をしないよう
気をつけて行動しましょう。
◆鼻をかむ時は強くかまないで静かにかみましょう。
◆歯ブラシは軟らかいものを使用し、強く磨かないで下さい。出
血しやすい時は歯ブラシの使用は避けてうがいをして下さい。
(薬局で市販されている水歯みがきも便利です)
◆ 髭剃りは皮膚に傷をつけない為にも、電気カミソリを使用して
下さい。
◆きつめの衣類や長時間の立位は血管の圧迫により出血斑(内出
血)が出やすくなりますので、ゆったりとした衣類を選び、長
は避けて下さい。
◆ 排便時にいきまないよう便通を整えておきましょう。便が黒っ
ぽい、尿が赤い時は看護婦にお知らせ下さい。又他にも出血が
あればお知らせ下さい。場合により出血が止まるまで安静を必
要とすることがあります。
◆状況に応じ止血剤の点滴、血小板の輸血が行われます。
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便秘と下痢について
治療により便秘・下痢の副作用を起こすことがあります。しかし原因には
ストレス、運動不足、食事なども影響します。便秘は不快なだけでなく出血
を、また頻回な下痢は脱水をまねくことがあります。
便秘に気をつけて!
◆ 便秘の時は 「 ツボ」の指圧をしてみましょう。 → 次ページ参照
◆腹部の「の」の字マッサージをしてみましょう。
◆ 適度な運動をして水分は多めに摂りましょう。
◆ 便意があれば我慢をしないで、規則的な排便習慣
をつけましょう。
◆繊維の多い野菜や果物を食べましょう。
◆ 自然に排便がなければ下剤や浣腸で排便のコント
ロールをしましょう。
◆ 血小板の少ない時の便秘については、看護 師 に相
談して下さい。
下痢のときは・・
◆ 頻回な下痢は体力を消耗させます。ポータブルトイレ等を利用
して排泄場所を近くにしましょう。
◆消化の良い繊維の少ない食品を摂取しましょう。
◆下腹部をあたためてみましょう(ただし出血があれば温められ
ません)
◆頻回な下痢は脱水の心配があります。水分(お茶、スポーツ飲
料水)を多く摂る必要があります。
◆排泄後はウォシュレット清浄綿を使用しておしりはいつも清潔
にしましょう。
◆指示により下痢止めを服用して下さい。
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便秘の「つぼ」
・つぼに親指の腹を垂直にあて、力強く(快い痛さが響く程度)押し込みます
・食事後(特に朝食)やトイレの中で排便の直前に行うのが効果的です。
・肛門部をリラックスさせてゆったりした気分で指圧します。
しんもん
①「神門」の押さえ方
左右どちらでもよい。
手首の小指側で尺骨頭
のはずれのくぼみ。反
対側の手の親指で垂直
に押し込み、同時にマ
ッサージ。
だい2じかん
②「第2二間」の押さえ方
中指の付け根。反対側の手
で3〜5指をにぎり、手首
に向かって押し込む、同時
にマッサージ。
ごうこく
③「合谷」の押さえ方
人差指の付け根の関節と手首
の関節の中間で人差指の側面。
反対側の手で2〜5指にぎり、
手首にむかって響くまで押し
込みマッサージ。
てんすう
④「天枢」の押さえ方
へその左右にある。へその横にある指3
本並べた位置、親指で垂直に押し込む
④天枢
だいこ
⑤大巨
⑤「大巨」の押さえ方
天枢から下に指3本並べた幅の位置。垂直
に押し込む
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脱毛について
治療の副作用で脱毛が起こる場合もあります。治療薬の種類によりますが、
毛根が傷害を受ける為、通常1〜3週間で全身の毛が抜けはじめます。
(頭髪・眉毛・まつげ・髭・陰毛)
しかし、毛根がなくなるわけではないので、治療が終了して1〜2ヶ月で再
生が始まり、3〜6ヶ月でほとんどが回復します。
頭髪・頭皮のお手入れ
◆脱毛が始まると、長い髪は寝具や衣類にまとわりついて目立ち、
よけいに気になります。髪は短い方が抜け毛の始末もしやすい
でしょう。
◆ 抜け毛を心配して髪をとかさないともつれてしまいます。頭皮
に傷をつけないよう注意し、いつも清潔に心がけて下さい。
◆ シャンプーは普通に行ってかまいません。爪やブラシで頭皮を
傷つけないように注意して下さい。(感染の原因になります。)
◆頻回なシャンプー、ヘアドライヤーは頭皮を乾燥させます。
週に2〜3回が適当でしょう。なるべく刺激の少ないシャンプ
ー、リンスをお使い下さい。
◆ パーマ、毛染めも刺激となりますので、皮膚の状態を主治医に
診てもらい許可を得て下さい。
◆脱毛の気になる方は、布製のキャップ、バンダナ、スカーフを
利用するなど工夫してみて下さい。
◆何度も治療が行われる場合は、かつらを利用されるのも良いで
しょう。
★夏目雅子ひまわり基金・・ひまわり基金ではかつらの無料貸し
出し制度があります。詳しくは看護
婦にお尋ねください。
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お う き
お う と
嘔気 ( はき気 ) ・ 嘔吐と食欲不振について
① 嘔気・嘔吐
嘔気、嘔吐は治療薬による嘔吐中枢(脳内の神経)への影響、また
「以前の治療でこのような症状があった」という経験的影響からおこ
ります。治療前に予防的に吐き気止めの薬を使用します。
嘔気・嘔吐のときは・・
◆ 治療1〜5時間前は消化の良い食べ物を、普段より少なめの量
を摂り、なるべく胃に負担をかけない。
◆全身の緊張をほぐすため膝を深く曲げゆっくりと深呼吸をして
気分をリラックスさせましょう。
◆背中をさすってもらったり、胃に枕をして腹ばいになってみる。
◆ 急な動きは嘔吐中枢を刺激するので、ゆっくりとした動きをし
ましょう。
◆胃の運動を抑えるために胃にクールパックを当て冷やしたり、
頭を冷やし目を閉じ静かにしてみましょう。
◆口の中の不快感は嘔気を誘発させるので、さっぱりと清潔にさ
せるために番茶、レモン水、氷水でうがいをしましょう。
◆嘔吐した場合は吐物は速やかにかたずけ、汚れた衣服は清潔な
ものと交換し、窓を開けて空気の入れ替えをしましょう。
◆頻回に嘔吐があれば1〜2食、食事を抜く。ただし脱水予防の
ためにも水分は多く摂りましょう 。(栄養バランス飲料、スポ
ーツ飲料、ジュースなど)
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② 食欲不振
食欲不振も副作用としてよくみられる症状です。このような場合は
無理をして食べる必要はありません。治療中は味覚や嗅覚が変わる場
合もあります。食欲不振時の食品は、なるべく脂肪が少なく刺激の少
ない、冷たい物が食べやすいようです。口あたりのよいアイスクリー
ム、ヨーグルト、水分の多い果物、梅干しや、好きな食べ物などを準
備されるのもよいでしょう。
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その他の副作用
①腎臓への影響
ろ
か
腎臓には、血液中から余分な成分を濾過して、尿をつくる働きがあ
ります。治療薬の副作用でこの働きが落ちて、身体に水分がたまって
しまうことがあります。そこで、治療開始前から終了後1週間は1日
の総尿量を測って腎臓の機能が低下していないか調べます 。(詳しく
は看護師が説明します。)
まぶた、手、足のむくみがありましたら看護婦にお知らせください。
②手足のしびれ
原因は明らかになっていません。治療を開始して約2週間後〜長期
間にわたり手足のしびれを感じることがあります。
しかし、動かなくなるといった心配はありません。
しびれのあるときは・・
◆手足の運動は積極的に行い、末梢の神経を刺激しましょう。
◆ しびれを感じている部分を、温かい湯と冷たい水の交互につけ
て、手足の血管の循環を良くしましょう。
◆強い痛みを伴う場合は、主治医か看護師に御相談下さい。
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