ガイドブック Annual Report Vol.24 今、コールセンターに 求められているもの。 ●変化するニーズへの対応 ●課題解決力の強化 ●利便性の追求 【特集1】座談会 2014年8月26日実施 今、コールセンターに 求められているもの。 ニーズの変化に対応し、進化を続けるコールセンター 今や、なくてはならないインフラとして、社会に根 はあいおいニッセイ同和損保となっていますが、私自 付いたコールセンター。ここには日々、お客さまの 身は在籍中、関連会社コールセンター部門の担当役員 意見や要望が届けられる。それに応じるコールセン を含め、通算17年間、コールセンター業務に携わりま ターの“今”と目指すべき未来を、最新事情に詳しい した。現在は定年退職し、独立してコールセンターの 方々のお話から浮き彫りにする。 コンサルタントをしております。 大串:私は大広という広告会社で営業をしていました * * * が、2000年12月にダイレクトマーケティングを担う 関連会社、ディー・クリエイトを立ち上げて、翌年1 加藤:本日は皆さまに、コールセンターが今、お客さ 月1日からコールセンターを稼働させ、今年で14年目 まや社会から何を期待されており、それにどのように になります。業務内容は、大手メーカーの通販部門か 対応していかなくてはならないかについてお話しいた らスタートした健康食品通販会社のダイレクトマーケ だくのですが、その前に簡単に皆さまの自己紹介をお ティングを、 パートナーとして、 広告とコールセンター 願いしたいと思います。 の両面からお手伝いすることです。 まず私から始めさせていただきます。私のコールセ 宮脇:私は電電公社に入社、通信自由化と同時に ンターとのかかわりは、大東京火災という損保会社に NTTとなり、1985年にフリーダイヤルが誕生したの 入社したとき以来です。会社は2度の合併を経て、今 をきっかけに大きく伸長していった日本のダイレクト Makoto Miyawaki Akio Kato Hirofumi Ogushi 出席者(氏名50音順) : (株) 大広 執行役員 第2ビジネスユニット長/ (株) ディー・クリエイト 代表取締役社長 大串 浩章氏 プラス(株) ジョインテックスカンパニー CRM部 部長 藤田 京子氏 情報工房(株) 代表取締役社長 宮脇 一氏 司会: ヒューマンKプラット 代表/ CCAJ 情報調査委員 加藤 章雄氏 Kyoko Fujita 6 マーケティングやテレマーケティングの変遷をつぶ やWebサイトへの対応が6割、残りの1割がソーシャル さに見てきた経験があります。2001年に関連会社の メディアやチャットなどとなっています。受注や簡単 NTTテレマーケティング(現・NTTソルコ) を退職し、 な問い合わせ業務はどんどんデジタルに移行していっ 起業したのですが、その理由は、これからコールセン て、電話対応として残っていくのは、奥行きがあり、 ターが向かうべき道筋を自ら提示して、一生懸命にが 深い内容のものだけになるでしょう。言い換えるとそ んばっている人たちを明るい未来に連れて行きたかっ れは 「3つのC」 に集約できます。1つ目のCは、 「コンシェ たからです。 ルジュ」 。 “情報爆発” と言えるほどたくさんの情報があ 起業したのはテレマーケティング・サービス・エー ふれている中で、何を選んだらいいのか教えてほしい ジェンシーです。この仕事を通して私が立証したかっ というニーズ。2つ目のCは、 「コンサルティング」 。こ たのは、 「企業が環境の変化に対応し続けていくため れまでの行動・購買履歴などをもとに、自分にぴった に必要な情報は、お客さまに最も近いコールセンター りの商品やサービスを提案してほしいというニーズ。 にこそある」ことです。クライアントは原則1業種1社 そして3つ目のCは、 「クレーム対応」 へのニーズです。 で、 現在はトータルで10社。 スタッフ数は約100人です。 これらに対応するコールセンターを今までのKPIで 加藤:企業のCRM戦略の要としての地位を確立する 測れるかというと、そうはいきません。 「とにかく早 ことによって、コールセンターの明るい未来を切り拓 く、件数をこなせ」 「生産性を上げろ」というところか いておられるのですね。ありがとうございました。で ら、 「長く話をしてください」 「相手が納得するまで電 は藤田さん、お願いいたします。 話を切らないでください」という方向に大きく転換す 藤田:私は文具、オフィス家具メーカーのプラスに新 る必要があるのだろうと思います。 卒で入社して、今年で27年目です。以前は営業畑にお 加藤:今のお話ともつながると思いますが、現在、各 りましたが、ジョインテックスカンパニー CRM部立ち 企業の急務となっているのが高齢者対応です。内閣 上げのメンバーとなり、2006年より現職。CRM部の責 府がまとめた『平成24年度高齢社会白書』によります 任者として、お客さまと経営者、双方の期待を超える と、日本においては2030年に65歳以上が占める割合 組織として進化し続けることを心掛けております。 が30%になり、2060年には40%を超えるとされてい 加藤:どうもありがとうございました。 ます。現在でもすでに、インバウンド・コールの半 数以上が60歳以上のお客さまからというコールセン 今、コールセンターに求められているもの① ターも珍しくありません。耳が遠くなって電話の声が 変化するニーズへの対応<高齢者対応> 聞きづらいといった方も多い中で、お客さまに納得し 高齢者への共感に基づく 真摯な対応が求められる ていただくまでじっくりていねいにお話しするという ことが、これまで以上に重要になってくると思います。 大串さんのところのコールセンターは健康食品を 加藤:今日の座談会のテーマは「今、コールセンター 扱っておられるということですから、高齢のお客さま に求められているもの。 」 です。 も多いと思うのですが、対応にはどのような工夫をし コールセンターは、刻々と変化する社会のニーズに ていらっしゃいますか。 対応していかなくてはなりません。宮脇さんにお伺い 大串:おっしゃる通り、電話をかけていらっしゃるの したいのですが、コールセンターの置かれている状況 はほとんどが60代以上の方々です。年代が高くなれば は数年前と比べて、どのように変化してきているとお なるほど、普段、人と話をする機会が少なくなります 考えですか。 ので、大変な問題を抱えているというよりも、話し相 宮脇:コールセンターで対応する電話のコール数は、 手がほしくて電話をしてくる方が多いようです。こう 近年、大きく減少しています。私どもの場合、2008 した方に対しては、宮脇さんがおっしゃるように、と 年ごろには全体の約7割を占めていた電話応対による ことん話をして差し上げようと思っています。それが 収益が、2014年現在では3割まで落ちており、eメール サービスでもあり、顧客満足度を上げることでもある 7 わけですから。 高齢者対応については近々、 研修に、 高齢者体験グッ ズを取り入れようと考えています。白内障の方のもの の見え方や、耳が遠くなった方の話の聞こえ方を体感 できるツールです。どうしてこんなに声を張り上げな ければお客さまが聞き取れないのか、そのときお客さ まがどのような気持ちなのかを体感してもらうことに よって、お客さまへの共感が深まり、接し方、話し方 も変わってくるはずだと思うのです。 (株)大広 執行役員 第 2 ビジネスユニット長/ (株)ディー・クリエイト 代表取締役社長 大串 浩章 氏 加藤:確かにそうでしょうね。ありがとうございまし た。藤田さんのところはいかがですか。 1986 年 4 月、 (株)大広入社、1997 年、デジタルコミュニケーショ ン局 デジタルラボグループ、2000 年、関連企業局付、2003 年、経営 戦略局グループ政策部付部長待遇、2005 年、経営戦略局グループ政策 部付専任部長、2006 年、退職(転籍) 。2000 年、 (株)ディー・クリ エイト 取締役、2009 年より代表取締役。2005 年、 (株)D&Iパー トナーズ 代表取締役、2009 年、取締役、2012 年、退任。2012 年よ り(株)大広 執行役員を兼務、現在に至る。 藤田:私どもとお取り引きいただいている販売店さま で、60歳以上の方などの中には、今まで電話とファク スで事が足りていたものが、いきなりインターネット で注文してくださいと言われて戸惑っているような方 も少なくありません。そこで私どもでは、販売店さま 向けに、コールセンターのスタッフが講師として全国 てもらっています。彼らは現場の営業担当者や代理店 各地に出向いて、デジタル・デバイスやインターネッ の事情もよく知っているので、非常に頼りになります。 トの活用方法をお教えする体験型のセミナーを実施し ただ、コールセンターでは、後処理まで含めて業務を ています。販売店さまのご担当者に、タブレットPC 自己完結することが求められますので、管理職として などを使いこなしてお客さまに商品をお勧めしてもら 優秀だった方が必ずしもコールセンターのスタッフと いたいのです。例えば耐震グッズの使用効果は動画で して優秀かというとそうではなく、そこをどう解決し お見せすればわかりやすいとか、外出先でお客さまと ていくかがなかなか難しいところです。 お話ししながらでも在庫を確認して発注できるという 宮脇:高齢者の雇用という点でもうひとつやっかいな ことを、実際に目の前で確認していただきながらお伝 のは、デジタルに関しては45歳を境にスキルががくん えしています。こういった方法で販売店さまご自身の と落ちることです。電話対応は年齢を重ねるほど経験 自己解決をサポートすることは、将来的にはコールセ が生きて、艶を増していくのですが、デジタル的な処 ンターの効率化にもつながります。 理能力は衰えていく。今までできていたことができなく また、2014年4月から「スマート介護」 といって、老 なって、後から来た人に追い越されていくときの心境 人ホームなどの施設向けのカタログ販売を開始しまし は、つらいものがあります。こういったスタッフにどう た。そこで、私を含めてコールセンターや営業の全ス 対応していくべきかが、私にとっての目下の課題です。 タッフに、福祉用具専門相談員の資格取得を課しまし いずれコールセンターでも、映像で相手の顔を見な た。加齢によって身体がどう変化していくのか、それ がら会話することが一般化すれば、高齢のスタッフの に対してどのようなサポートが必要なのかについて、 活躍の場がさらに広がっていくかもしれませんね。 全部門を挙げて勉強しているところです。 加藤:積極的に高齢者を雇用するコールセンターも増 今、コールセンターに求められているもの② えていると聞きますが、皆さまのところではいかがで 課題解決力の強化<現場の主体性の尊重> しょうか。 自らの役割を理解するところから 主体性が生まれる 藤田:私どものコールセンターでは、元営業部長、営 業所長といった現場を引退した60歳以上のベテラン の方たちにお客さまへの最終的な対応者として活躍し 加藤:さて、次のトピックにお話を移していきたいと 8 思います。コールセンターには当然のことながら、課 題解決力の強化が求められています。米国ザッポスの コールセンターでは、権限を委譲されたテレコミュニ ケーターが、課題をワンストップで解決するのみなら ず、お客さまの期待以上のサービスを提供して高い顧 客満足度を維持しているといいます。このようなサー ビスを実現するためには、やはり現場のテレコミュニ ケーターの主体性が尊重されるコールセンターづくり が重要だと思いますが、これについて藤田さんのとこ プラス(株) ジョインテックスカンパニー CRM 部 部長 藤田 京子 氏 ろではどのような工夫をされていますでしょうか。 藤田:私どものコールセンターにはスクリプトは一切、 プラス(株)流通部門で、オフィス、文教、介護市場向けのカタログ 販売と専任営業担当者によるデリバリーサービス事業を展開するジョ インテックスカンパニーの立ち上げ時からのメンバー。2006 年より現 職。CRM 部の責任者として、お客さまと経営者の双方の期待を超える 組織づくりを目指し、常に進化し続けることを心掛けている。2013 年 度、2014 年度優秀コンタクトセンター表彰制度審査委員。センターの 受賞歴は、Best Contact Center of The Year 2010 優秀賞(2010 年) 、 Best Contact Center of The Year 2011 人材育成賞(2011 年) 、コン タクトセンターアワード 2012 オペレーション部門賞(2012 年) 、コ ンタクトセンターアワード 2013 審査員特別賞(2013 年)など。 ありません。毎朝、ミーティングを行って、最近多い お問い合わせ、対応に苦慮する案件についてのより良 い応対の方法を、皆で話し合って考え出していきます。 そうすることによって日々、課題解決力を向上させて いくことが可能になっていると考えています。 ひとつひとつ内容も緊急度も違う電話に臨機応変に 対応し、お客さまにご満足いただけるように、スタッ をテレコミュニケーターの主体性に任せております。 フには商品知識だけでなく、体験型の研修を通して幅 主体性の高い人材はなかなか教育で育てられるもの 広い業務知識を身につけてもらっています。工場見学、 ではありませんが、ひとつにはコールセンターのビ 物流センターでのピッキング体験、カタログ制作の手 ジョン、ミッションを浸透させることで、主体性を引 伝い、営業担当者に同行しての営業体験などです。コー き出せるのではないかと思っています。自分たちが何 ルセンターだけがお客さま対応をしているわけではあり をしなければいけないのかということを皆がわかって ません。ほかの部署の苦労も知った上で、お客さまの いれば、 「こうしなさい」 「ああしなさい」と事細かに指 ため、会社が利益を残すために、自分が何をしなけれ 示しなくてもスタッフが主体的に動くというのが、こ ばならないのかを主体的に考えてもらっているのです。 れまでの経験を踏まえた私の基本的な考えです。 加藤:全員が社員だということですから、当然、コー ただし、理解したミッションを、望ましいアクショ ルセンターのスタッフが、ほかの部署に異動になるこ ンにつなげるためには、具体的な方法を示すことも ともあるわけですね? 必要です。スタッフには常々、 「お客さまの真の課題 藤田:そうです。また、新入社員は全員、本配属前に やニーズをきちんと聞き出しなさい」と言っています。 数カ月間、コールセンターで研修をします。コールセ その上で自分たちにできることを提案することによっ ンターで直接、お客さまの声に触れた経験があると、 て、はじめてお客さまの課題を解決し、満足度を向上 営業、調達、企画などどの部署に行っても、自分の仕 することができます。主体的な行動の起点は、常にお 事がどのようにお客さまに影響を及ぼすかが肌でわか 客さまのニーズに置いています。 るわけです。 加藤:宮脇さんはいかがでしょうか。 加藤:インハウスならではの強みですね。ありがとう 宮脇:われわれにとってのお客さまの課題とは、すな ございました。大串さんのところはいかがでしょうか。 わちクライアントの課題ということですが、これには 大串:お客さまはそれぞれ置かれている環境も違いま 大きく3つあります。1つは既存顧客の活性化。通信販 すし、とらえ方、感じ方も違いますので、画一的に対 売などにおいて新規顧客の獲得が難しくなる中、いか 応したところで満足を得ることは難しいと思います。 にして既存のお客さまのライフ・タイム・バリューを ですから私どものコールセンターでも、かなりの部分 最大化するかということです。2つ目は営業支援。営 9 加藤:当然のことながら、いかにお客さま対応の要と なる“人”を育成できるかどうかが課題解決力の強化 のカギになるということなのでしょうね。 主体性の尊重の究極にあるのが、現場のスタッフへ の権限委譲だと思うのですが、実際、これはどのぐら い進んでいるのでしょうか。 藤田:私たちのコールセンターは「お断りをしないコー ルセンター」を目指していますので、お客さまのご要 望に対しては「お金がかからないことなら何でもして 情報工房(株) 代表取締役社長 宮脇 一 氏 いいです」と全スタッフに言っています。言ってみれ ばその範囲では、新人のときから権限委譲がなされて 広告・販売促進を実践した後、1991 年より NTT が設立したテレマー ケティング関連のシンクタンクにて研究・普及活動に従事。NTT テレ マーケティング(株)を経て、2001 年起業。専門は CRM。CRM 施策 を組み込んだ市場変化対応策を企業に提言し、設立したコンタクトセン ターは 28 社を超える。 「笑顔のないコンタクトセンターの先には、笑 顔のお客さまは生まれない」をモットーに、戦略的コンタクトセンター を作り上げる実務家。テレマーケティング・サービス・エージェンシー 業務も行っており、現在 10 社の CRM センターを運営している。 いるということです。ただしお金がかかることについ ては、私どもはボランティアではないので、お客さま とご相談した上で、お客さまが費用をご負担くださる のであれば対応してよいということにしています。 加藤:大串さんのところのコールセンターではいかが 業活動に必要・有用な情報を集約したセンターづくり ですか。 です。3つ目は顧客の組織化。いつでも意見や感想を 大串:お客さまのご要望にワンストップで最初から最 聞ける、お名前のわかる顧客を維持することです。 後まで対応するというのが基本のスタンスですので、 これら3つの課題を解決するために重要なのは、迅速 その時々の判断は基本的に現場のスーパーバイザー、 な意思決定とアクションを可能にするチーム編成だと テレコミュニケーターに委ねています。 考えています。 そこでわれわれはテレコミュニケーター、 加藤:宮脇さんのクライアントはいかがでしょうか。 スーパーバイザー、マネージャーのほかに、コピーライ 宮脇:われわれは顧客対応のプロとして、クライアン ター、デザイナー、マーケターを必ず配置しています。 トから権限委譲を受けていますが、その範囲と奥行き お客さまの声にその場で電話やeメールでお応えするス はクライアントによってさまざまです。中には一定の タッフに加え、企業の方針を決定する権限を持ったマー 範囲を定めた上で、テレコミュニケーターの判断で上 ケター、文字やビジュアルで表現できるコピーライター 得意客にはかなり融通を利かせたサービスをしている やデザイナーを、チームの中に置いているのです。 企業もあります。そしてそれがうまくいくと、別のク テレコミュニケーターに関しては、 「1時間に何件の ライアントが「うちもその方法でやってみる」というこ 電話をとれ」といったKPIは設定していません。代わ とになります。そういった連鎖が起きてくるのは、サー りに職務定義によって権限と責任を明確にして、一定 ビス・エージェンシーの仕事の醍醐味のひとつですね。 のスキルがあるテレコミュニケーターには「eメール 加藤:現場に権限委譲するには相当な覚悟が要るので でも電話でも自由に対応していいけれども、その責任 はないかと思います。どうしたらそのようなことがで もとってください」 ということにしています。 きるのでしょうか。 テレコミュニケーターの育成に関しては「5%ルー 大串:うちの場合は「万一、クレームが起きたらすべ ル」というものを設けており、クライアントから、就 て私が引き受けるから、自由にやりなさい」という体 業時間の5%、つまり1カ月につき約1日を育成のた 制を敷いているので、スタッフが安心して対応できて めの対話(コーチング) と教育(トレーニング) に当て いるのだと思います。とは言っても、実際にはほとん るという了承をとっています。そうしないとコールセ どクレームになることはありません。 ンターが疲弊して、結果的に企業の評価が下がってし 宮脇:ゴールを「コールを処理すること」ではなくて、 「事業を成功させること」といった上位概念に置いてい まうことになりかねないからです。 10 と称して、お客さまとの対話を意図的、組織的に作り 出そうとしています。対話を作り出せるコールセンター こそ、本当に強いコールセンターなのだと思います。 加藤:お客さまと常に対話していれば、事前に課題の “芽”に気づき、対処することも可能になりますね。あ りがとうございました。 今、コールセンターに求められているもの③ 利便性の追求<マルチチャネル対応> ヒューマン K プラット 代表/ CCAJ 情報調査委員 加藤 章雄氏 お客さまを中心に据えて 多様なチャネルを統合的に活用 損害保険会社のインハウス・コールセンターの責任者として初期から構 築・運営に携わり、全員参画型の運営で組織基盤を確立。その後、関連 会社2社の役員としてコールセンター部門を担当した。通算17年のコー ルセンター運営を経て、2013 年 4 月にヒューマン K プラットを設立。 現在、 コールセンター・コンサルタントとして幅広いサービス提供を行っ ている。 加藤:では最後に、お客さまの利便性の追求にスポッ トを当てたいと思います。お客さまにとって、聞きた いこと、話したいことがあるときに、いつでも、どこ からでも、どんな手段でもアクセスできるコールセン るからこそ、権限委譲が可能になるのだと思います。 ターが望ましいことは間違いありません。コールセン 「コールを何件とりましょう」 「今日、売り上げをいく ら上げましょう」というミクロな目標を掲げていたら、 ターにおけるマルチチャネル対応の現状と課題につい 現場への権限委譲はできません。 て、皆さまのご意見をお伺いできればと思います。先 藤田:緻密なルールを作って、それに従うことを目標 ほど宮脇さんからコールセンターにおける電話対応の にすると、人間は何も考えなくなってしまいます。私 比率は明らかに減少しているというご指摘がありまし はよく、 「ルールに勝って商売に負けるな」と言うので たが、これについて補足していただけますでしょうか。 す。ルール上NGだからとお断りして商品を買ってい 宮脇:次々と新しいチャネルが登場してきますが、そ ただけなかったら、本末転倒です。最終的にお客さま れに振り回されてはいけないと思っています。向き合 に満足して買っていただけるのであれば、こちらの う対象は“お客さま”であって、チャネルではありま ルールなどどうでもいいことだと思うのです。 せん。 “お客さま”を中心にすれば、電話であろうと手 加藤:しかし現実には、なかなかそこに踏み切れるコー 紙であろうとファクスであろうと、何であっても対応 ルセンターは少ないのではないかと思いますが…? するのはごく当たり前のことです。ただ現場は、たく 藤田:私たちのコールセンターもアウトソーシングか さんのことを覚えなくてはいけませんので、大変です。 ら始まりましたので、はじめからこうだったわけでは だからスタッフには、すべてが100点満点でなくても ないのです。当初はスクリプトを用意し、1次対応、 いい、ひとつひとつは75点でいいから幅を持ってほし 2次対応に分けて、ルールに則って運営していました。 いと言っています。 ある程度の基本が整ったその次の段階として、権限委 加藤:ありがとうございました。 “チャネルありき”で 譲が可能になるのだと思います。基礎を飛ばして応用 はなく、まず“お客さまありき”というのは、まさし 編に進むわけにはいきませんから。それぞれのコール くその通りだと思います。 センターが、それぞれの成熟度合いに合わせて体制を 藤田さんはマルチチャネル対応について、どのよう 構築していけばよいのではないかと思います。 な取り組みをされていますか。 大串:同感ですね。 藤田:私どもも“チャネルありき”の対応はしており 加藤:課題解決力の強化について、補足することがあ ません。お客さまからeメールで問い合わせがきたか ればお願いします。 らといって、eメールで完結させるということはせず、 宮脇:今、私どもは「カンバセーション・スターター」 もし文面に不明点があれば電話をしてお伺いします。 11 逆に電話で問い合わせが入っても、お客さまがeメー ンのプラットフォームですので、私どもにとって電話、 ルで回答がほしい、ファクスで回答がほしいとおっ eメール、ソーシャルメディアなどすべてのチャネル しゃればそのようにいたします。 に対応するマルチ対応のコールセンターを構築するの 私たちはeメールについても電話と同様、定型文は はごく当然のことでした。当初は電話対応が主でした 使わずに個々のスタッフが1件1件文章を作って対応 が、現在ではインターネットのウエイトが高くなって しているのですが、それでもeメールにはどうしても おり、お客さま主体のマーケティング・プラットフォー 事務的な印象が漂います。そこで私たちは全員、ビジ ムであるインターネットをさらに強化していこうとい ネス文書実務検定2級の資格をとって、お詫び状やお うのが、現時点における私どもの方針です。 礼状については手書きのお手紙をお送りすることにし そして、コールセンターに入ってくるお客さまの声 ています。これに対するお客さまの反応は大変良くて、 を広告に反映させるというPDCAを絶えず回している 高い割合でリピート購入につながっていますし、お礼 わけです。 のお電話をいただくことも多く、お手紙を捨てずに 宮脇:コールセンターは“後処理”をする部署だと思 とっておいてくださっているという声も多数聞いてい われていた時代もありましたが、コールセンターは本 ます。そしてそれがスタッフのモチベーション・アッ 来、 “本処理” を担う部署なのです。VOCやビッグデー プにもつながるという好循環が生まれているのです。 タを“活用する” とはすなわち、販売促進・商品開発・ もっとも、聞くのも話すのも書くのも得意という人 リスクマネージメント・ブランディングのための、次 はそうそういませんので、日々、皆、勉強です。マル の“表現物”に変えていくということです。大串さん チチャネルになればなるほど、最後は“人間力”が物 のコールセンターは、そこに一番近い位置にいらっ を言うということを実感しております。 しゃるような気がして、とてもうらやましく思います。 加藤:お客さまと真摯に向き合い、最良の課題解決策 加藤:お客さまの声を次のアクションにつなげるのは、 を提供しようという基本姿勢さえしっかりしていれ コールセンターの重要な役割のひとつです。お客さま ば、話し方、書き方は訓練で補っていけるということ の要望をかなえていく、まさしく“本処理”を担う部 でしょうね。ありがとうございました。 署として、コールセンターは今後ますます躍進してい では大串さん、お願いいたします。 かなくてはなりませんね。 大串:広告会社はマルチチャネルのコミュニケーショ 皆さま、本日はありがとうございました。 12
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