小 論 文 B

論
文
平成 二十 一年 度 後 期 日程
小
入学 試 験 問 題
試験 開始 の合 図があ るま で' この問題冊子 の中 を見 ては いけません。
解答 は'解答 用紙 の指定 の欄 に縦書 き で記 入しなさ い。解答 用紙 (
そ の 一)には間 一'
間 二の解答 を'解答 用紙 (
そ の二)には間 三 の解答 を記 入す る こと。
社会 科学 科
β
人文 学 部
①
②
受験番号 は'解答 用紙 (
そ の 一)(
そ の二)の指定 の欄 に記 入しなさ い。
注意事 項
③
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次 の文章を読 ん で' 間 「 間 二、 間 三に答 えなさ い。
† ワーキ ングプ アの 「
発 見」
︹一行略︺
①
ワーキ ングプ アとは' 働く貧困者 =働 いてもなお貧 し い人と いう ほど の意味だ ろう が' テレビ番組 が取り上げ た こともあ って、
フリーター'ニートと並 ん で' 一躍時代 の言葉 とな った感 があ る。もしかすると' これが貧乏とか貧 困と いう伝統的な日本語と
同じ意味だ とは思 いもしな い人も いるかもしれな い。
それはともあれ' ワーキ ングプ アに注 目が集 ま った のは、 まじめ に働 いている のに' なお貧 し いと いう ことに世間 が驚 いたと
いう こと であ ろう。 逆 に言うとそれは'高齢 や病気'障害 など で働 けな い人 や怠 け て働 かな い人だ け に貧 困が見 られ ると いう感
覚 を多く の人が持 って いるt と いう ことだ ろう。
おまけに' つい最近 ま で日本 では' そ の気 になれば 働 く場 はど こに でもあ ると皆 が信 じ てきた ので' そ の気 にな って いる のに
働 く場 がな か ったり' 働 いても貧 し いと いうような こと は想像 しにくく' そ のことも ワーキ ングプ アと いう現象 への驚 きとな っ
が
、 ワーキ ングプ アと いう言葉 は'ニートなど と違 って'実 は新 し い言葉 ではな い。 1世紀 以上 も前 に、 ふ つう に雇 用さ
て現れた のかもしれな い。
だ
れ'毎 日働 いている人 々の中 にも貧 困があ る ことが いく つか の調査 によ って 「
発見」され ている。 そ の最 も有名 な 調査 の 一つが'
20世紀 に入 ろうとす る頃' チ ヤー ル ス ・ブー スと いう人 が英 国 の首都 ロンド ンで行 ったも のであ る。
この人は大実業家 であ ったから'資本主義 が確立 し発 展す る こと によ って' 人 々の生 活は向 上し ていく と考 え ていた。だ が、
当時盛 んにな ってきた社会 主義運動 が貧困 の拡大 を強 調す る ので' これを実際 の調査 によ って確 かめ よう としたわけ であ る。
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彼 はまず スラムとし て有名 であ った東 ロンド ン地区 で調査 をし、 そ の35%が貧困者、 そ のうち 12 ・5%が極貧者 と いう結果を
得た。 さらにブー スは ロンド ン全体 に調査対象 を広げ、 これら スラムとは いえな い地域も含 めて' ロンド ン市 民 の30 ・7%が貧
困者 であ る ことを、 彼 の意 に反し て明らかにし てしま った。
ブ ー ス自身 にと っても社会 にと っても驚 きであ った のは' この30 ・7%の大部分が雇用されている労働者 で' 雇用が不安定 で
ざ つぎ ょう
くず
あるか、常雇 いの労働者 であ っても賃金が低 いため貧困 であ るという事実だ った。
調査 当時 のイギ リ スでは、貧 困は都市 の雑 業 (
たとえば 屑拾 いや露 天商'内職 など。 しば しば イ ン フォー マル部 門 と呼ば れ
る)など でそ の日暮 らしをし ているような スラム の住 民や 「
浮浪者」のも のと理解 され ていた。 チ ャールズ ・デ ィケ ンズ の小説 に
出 てく るような貧民街 のイメージであ る。 たとえば ﹃
オリバー ・ツイ スト﹄にお いて'少年オリバー がはじめて ロンド ンに来 たと
きに通りかか った スラムは 「
これほど汚く て惨 めな街 は見た こともなか った」ほど であり'救貧院 (
貧し い人び とを収容す る施設)
ひんみんく つ
出身 の孤児 であ ったオリバーをし て' 「
逃げ た方 がよくはなか ったか」と思わせるような場所 であ った。
日本 でも明治 の頃 には貧 民窟探訪記 が競 って書 かれたが' スラムには普 通とは異なる人 々の生活があ るから こそ'探訪す べき
と ころとされ ていた のであ る。
と ころがブ ー スの調査 では' 一般 の市民とは別 の世界 の人 々の貧困' あ るいは近代 の工業制度 の外 にあ って'雑業など でそ の
日そ の日を生 きているような貧困は数 から言えば 少なく、 むし ろ近代 工業制度 の内側 により多く の貧困が' スラムにもまた スラ
ムの外 にも広 が っていることが明'ちかにな ったわけ であ る。
このブー スの調査 に刺激 を受けた シーボーム ・ラウ ントリー(
ヨーク市 のチ ョコレート会社 の御曹 司)も自身 のホー ムグ ラウ ン
ド で同様 の調査 を行 い'貧困な人 々の割合 を27 ・84%と計算 している。 ラウ ントリーはブー スと手紙 のやりとりをし て' いろい
ろな示唆 を得 ていたらし いが' ロンド ンと いう大都会 と地方都市 の違 いがあ ること' また ヨーク市 調査 の時期 は ロンド ン調査 の
時 よりも景気 が良 か った ことなど から、 このように高 い貧困割合 になるとは思 ってもみなか ったようだ。
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「
私 の調査 は' あらかじめ想定 した理論 を実 証的 に確 かめよう とし て出発 し たも のではな く' 単 な る具体的 事 実 を確 かめ るた
めに行 われたも のであ るが' そ の結果 がブー ス氏 の調査結 果 とあ まりにも近似 し ていた ので'私自身' 少 なからず 驚 いた次第 で
あ る」と書 き残 し ている。
ラウ ントリーは 36年後 に同じ調査 を行 い' そ の時 も 31 ・1%が貧 困 であ る こと を兄 いだ し たが' 同時 に' 年齢グ ループ によ っ
て貧困割合 が異な る ことに注 目した。 ここから彼 は' 「
特 別な熟 練 をも たな い労働者 の場合'失業 しな く 七も 人生 で3回貧 困 に
陥 る危険 があ る」と いう'貧 困と労働者家 族 のライ フサイクルに関す る有名 な モデ ルに行 き着 く こと にな る。
3回 の貧 困 の危険 とは'次 の三 つのライ フステージ で生 じ る。 1回目は自分 が子ど もだ った時代' 2回目は結婚し て自分 の子
ど もを育 てている時代' 3回目は子ど もが独立 し' 自 分 がリタイ アした高齢期 であ る。
つまり、 1回目と 2回目は' いず れも子ど も の扶養費 が拡大 し て生活費 を圧迫す る時期' 3回目 は子ど もたち が独立 し'自 分
は労働市場 からリタイ アし て収 入が途絶え るか低 下す る時期 であ る。
このライ フサイクル ・モデ ルは'劣悪な雇用 ・労働条件 によ って貧困 の危険 にさらされ るだ け でなく' 労働者 は子ど も の扶養
期 や老後 の生活にお いても貧 困に陥 る可能性 があ る こと を示し て' 年金 や児童 手当など の社会 保障 の基礎 とな った。 このモデ ル
は' 生命保険会社 など が勧 め る生活設計など にも使 わ れ て いる こと は周知 のと ころであ ろう。
こ のような わけ で20世紀 以降 の貧 困 は' 19世紀 ま で好 ん で描 かれ て いた大 都市 の 「
賞 民社 会」のそれ と は異 な り' 工業 社 会 の
ワーキ ングプ ア の問題 であ る ことが広く認識 され るよう にな った。 そし て この認識 から、 労働者 にと って の貧 困 の予防策 の体 系
化、 す なわち今述 べたような年金 や児童手当など を含 む福祉 国家 の構想 が生 まれた のであ る。
と ころが'福祉 国家 の構想 が実施 に移された後 も ワーキ ングプ ア問題 は終 わ ったわけ ではな か った。 欧米 では、 福祉 国家 が整
備 された後 も' ワーキ ングプ アを含 めた貧 困をく り返 し 「
再発見」す る動 き があ り' それ が政 治 の焦点 とな って新 し い福祉政策 へ
の転換 が図られ てい った。 たとえば アメリカ ではジ ョン ソン大統領 の時代 (
1963- 69)に 「
貧 困と の戦争」宣 言 がなされたLt
同時期 のイギ リ スでも'貧困研究者ピーター ・タウ ンゼ ントらが 「
貧 困 の再発見」と いわれ る調査結 果 を発表 し て'政府 に政策変
更 を迫 った。
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†新 し い貧 困 と 社 会 的 排 除 の 「
再 発 見」
さ ら に1980年 代 の欧 米 で は' これ ま で の貧 困 と はだ いぶ 様 相 の異 な る新 し い貧 困 の 「
再 発 見」に注 目 が集 ま って いた。 そ れ
は 従 来 の労 働 者 家 族 や 高 齢 者 の貧 困 と いう よ り は' 学 校 を 出 たば か り の、 あ る い は そ こ か ら 落 ち こぼ れ た 若 年 単 身 者 の長 期 失
業 ' フ ァ スト フー ド や 家 事 サ ー ビ ス' 警 備 、 娯 楽 サ ー ビ スな ど の新 し い サ ー ビ ス産 業 に 不 安 定 な 待 遇 で従 事 す る 女 性 や 母 子 家
庭 ' 移 民 層 な ど の貧 困 の 「
再 発 見 」で あ る。
し か も これ ら の貧 困 は' ホ ー ム レ ス のよ う な 極 端 な 形 を と った り' 都 市 の周 縁 部 に 集 住 し た り す る こと が 少 な く な い た め'
人 々 の目 に は ま る で 19 世 紀 ま で の ス ラ ム のよ う な 「
貧 民 社 会 」の再 現 ' 「
も う 一つの社 会 」の出 現 のよ う に映 った。 こ の新 し い貧 困
は' ヨー ロ ッパ で は 「
社 会 的 排 除 」' ア メ リ カ で は 「
ア ンダ ー ク ラ ス」な ど と いう 言 葉 で呼 ば れ て、 再 び 政 治 課 題 と な った の で あ
る。 社 会 的 排 除 に つい て は - ︹
中 略 ︺-' 雇 用 関 係 や福 祉 国家 の諸 制 度 か ら も排 除 さ れ て い る と いう 意 味 で' 貧 困 に代 わ って使 わ
下 層 社 会 」の再 現 を 示 し た 言 葉 であ る。
れ た 言 葉 であ る。 ま た、 ア ンダ ー ク ラ スと は' 文 字 通 り' ス ラ ム のよ う な 「
こう し た 新 し い貧 困 の出 現 は' 80年 代 以降 明 確 に な ったポ スト 工業 社 会 と かグ ロー バ リゼー シ ョンと いわ れ る新 し い社 会 経 済
体 制 への移 行 の過 程 で 顕 著 に な った と いわ れ て い る。 つま り' ブー ス や ラ ウ ント リ ー が 調 査 を 行 った 工業 社 会 か ら' 金 融 や 情
(
注)
報 ' さ まざ ま な 消 費 者 向 け サ ー ビ スを 中 心 と す る新 し い産 業 社 会 へと 移 行 す る中 で' 新 し い貧 困 が 生 ま れ た の であ る。 言 葉 を換
え れば そ れ は、 市 場 がグ ロー バ ル 化 Lt 競 争 が激 化 す る中 で非 正 規 雇 用 が急 増 し' 下 請 け な ど アウ ト ソー シ ング が拡 大 す る過 程
で生 み 出 さ れ た と 言 え る であ ろ う 。
こ の新 し い産 業 社 会 で は、 金 融 や情 報 サ ー ビ ス産 業 で専 門 知 識 を 武 器 に 働 く 人 々と、 「マクド ナ ル ド ・プ ロレ タ リ アー ト」な ど
と 形 容 さ れ る' 安 い賃 金 と 不 安 定 な 雇 用 で働 く サ ー ビ ス労 働 者 に 二極 分 化 し っ つあ る と いう 。
ヨー ロ ッパ で は こ の 二極 化 をA チー ム とB チー ム' 一流 国 民 と 二流 国 民 な ど と 呼 ん で い る。 こう し た呼 び 方 は さ し あ た り 格 差
社 会 的 排 除(
s
o
c
i
a
t
e
x
c
t
usion)」と
の拡 大 を 示 す も のだ が ' そ れ に 加 え てBチー ム や 二流 国 民 と 名 指 さ れ た 人 々が陥 った 貧 困 を' 「
いう 概 念 に よ って 「
再 発 見 」す る こと を強 く 促 し た の であ る。
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これは' ラウ ントリー が モデ ル化した 工業社会 の労働者 のライ フサイクルをもとにし て作 られた従来 の福祉国家 の限界 を示す
も のであ り'ポ スト福祉国家 の新 たな理念 の模索 が始 ま っている ことを示し ている。
た と え ば'社 会 か ら 排 除 さ れ て い る 人 々 を 再 び 社 会 の中 へと 引 き 入 れ て'社 会 の 二極 化 を克 服 す る社 会 的 包 摂(
s
o
c
i
a
-
n
i
c
u
s
i
o
n排除 のな い社会 への包摂)と いう理念 や'従来 の所得保障中心 の福祉 (
we
f
a
r
e
)から、若年失業者 を再び 労働市場 へ参 入
さ せようとす る ワーク フ ェア (
wo
r
kf
a
r
e労働機会 の提供による福祉 の実現)への転換 の強 調など がそれ であ り' いず れも' この
新 し い貧 困 の克服 を課題とし ている。
†貧 困を忘れた 日本
日本 では欧米 に10年 遅れ て90年代半ば 以降 にな って、格差社会 に遭遇した。 「
マクドナルド ・プ ロレタリ アート」は' 日本 のフ
リーター の姿 でもあ る。今 日 のフリーター やパートタイム労働者 は'単 に非 正規雇用 であ るだ け でなく' 事実 上 日雇 のような'
きわめ て不安定な雇 用関係 に置 かれ る ことが少なくな い。
就職情報誌など で見 る 「
激短 &日払 い -」「
掛 け持ちOKH」「
1日だ け でもOK」と い った短期就業 の場合 はt もLt そ の収入だ
け で暮 らし ていくとす れば、 それら の短期就業 を日 々 つなぎ合 わ せていくような綱渡り か' 一日 のうちに 二 つか三 つの仕事 に就
く ことを余儀 なくされ る ことだ ろう。 む ろん' そうした綱渡 りや 二重就業 が' い つも保障 され ているわけ ではな いから' そうし
③
た働 き方 では暮 らし ていけな い人 々が生まれ てく る のは必然 であ る。
しかし' 不思議な こと であ るが'日本では格差社会論はあ るが' これま で本格的な貧 困論 は必ず しも展開され て こな か った。
所得 の格差 は'確 かに低所得層 をあぶり出す が' それはあくま で高所得層 に対す る低所 得層 であ って'貧困者 ではな い。ニート
や フリーターも' 必ず しも貧 困問題とし て議論 され ているわけ ではな い。
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格差 があ っても 別 に いいじ ゃな いかt と いう意 見 も結構 強 い。 それ が今 よう やく' ワー キ ングプ アと いう外来 語 を介 し て、 貧
困 が意 識 さ れ始 め た と ころと いえ る。 ど う し て 日本 では' 格 差社 会 論 が新 し い貧 困 の 「
再 発 見」を伴 って議 論 さ れ な い のだ ろう
か?
もち ろん 日本 でも' 戦前 には スラム の貧 困 の探索 や貧 困 の 「
発見」がな さ れ て いた。 敗 戦直後 の 「
国 民総飢 餓状態」と いわれ て い
た時期' 貧 困 は主 要な社会 問題 であ った。
19 56年 の経 済 白 書 は 「
も は や戦後 ではな い」と いう有 名 な フレーズ で戦 後 の復 興 をう た いあげ た が' 同年 の厚 生 白書 は 「
果
たし て 「
戦後」は終 わ ったか」と反論 し' 復 興 の背後 に取 り残 さ れ た 人 々 の貧 困 を最 低 生 活基 準 す れす れ のボ ーダ ー ライ ン (
境 界)
層 とし て示し' それ が 972万人存 在 し て いる こと に警鐘 を鳴 らし た0
だ が そ の後 は' 欧米 の福祉 国家 で見 ら れ たような、 し つこいほど の貧 困 の 「
再発見」と これ への政策 対応 をめぐ る議論 はほと ん
ど 起 こらな か った。 日本 では、 高 度 経済 成 長 と 国民皆 保険 ・皆 年金体制 の確立 によ って貧 困問題 は基 本 的 には解 決 したt と ほと
んど の人 が信 じ' 「
総中 流 化」の中 で' 戦後 復 興下 の格差 と貧 困 に警鐘 を鳴 ら し た厚 生省 (
当時)も含 め て' きれ いさ っぱ りと貧 困
は '
はじ め て大 学 に就職 し た 70年代 の半ば ' 「
新 し い貧 困 の意味 」と いう 小さな論文 を書 いて直 属 の教授 に叱 られ た ことがあ
問題 の追 及 を やめ てし ま った のであ る。
私
る。 貧 困 のよう な 「
古 く さ いモ ン」を テー マにす る こと はま かりな らな いt と いう のであ った。 ち ょうど高度 消費社会 への転換 期
にあ った こと を考 え れば' 貧 困 ではな く' 消費 者 間題 や高 齢 者 のケ アなど の新 し い テー マに向 かう のが当然 と' 教 授 は考 え た の
だ ろう。
例外 は' 時 々思 い出 したよう に登場す る識者 の 「
清 貧」論 か、 テレビ や コミ ック ス のビ ンボー物 語 であ る。 めざ し を食 べて いた
実 業 家' 戦 前 ・敗 戦 直 後 の つま し いけ れ ど も 人情 味 あ ふ れ る生 活 の賛 美' あ る い は ビ ンボー 脱 出 を テー マに し た テ レ ビ 番 組
等 々。
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し かも' テレビ や新 聞 の中 ではホー ムレ ス問題 も 一種 の 「
季節 も の」であり' たとえば 師走 や冬季 に'路 上 で の厳 し い生活 を取
)
6夕刊)にすぎ な い.
2006.9.
り上げ て' 番組表 に季節 らしさ を出す のであ る。 もち ろん それ ら は、 現 実 の貧 困 を 「
再発 見」したも のではな く、 「
非 日常 の フ ァ
ンタジー」であ り' いわば 「
飽食時代 のスパイ ス」(
さぶ かるウオ ッチ ング ・日本経済新 聞
む ろん、 貧 困が問題視されな か った のは' 「
豊 かな」時代 にな った からだt と多ぐ の人は言うだ ろう。 まさに貧 困 の時代 から高
度消費 の豊 かな時代 に移り変 わ った のであ る。 これ は' も っともらし い説明 であ る。だ が' 「
豊 かさ」や中流 化 の実 現'社会 保障
制度 の整備 は、 他 の先進諸 国 でも同様 であ った。 そし て' 他 の 「
豊 かな社 会」
' 他 の福 祉 国家 では' し つこいほど の貧 困 の 「
再発
見」が行 われ ている。
だ から' 貧 困 の 「
再発見」をし つこく や った か' きれ いさ っぱ り忘 れ た かは' 社会 全体 の 「
豊 かさ」とは' 実 は関係 がな いのであ
る。 し つこく や ったか'忘れたか の違 いは' 「
豊 かさ」の中 に潜 む貧 困 を 「
再発見」し ようとす る 「
目」や 「
声」が社会 にあ ったかど う
かにかか っている のではな いか。
もち ろん' ど この国 でも政府 や経営者 団体 は' 貧 困問題 を取 り上げ た がらな い。 貧 困は政治 の失敗'市 場 の失敗 を表 し て いる
から であ る。 他 の先進 国で貧 困 の 「
再発見」がな され る のは' 現政府 の失敗 をあげ つら って政権交代 に持 ち込もう とす る勢 力 が強
いからだ とも いえ る。
日本 では同じ政党 の長期政権 が続 き' お そらくは それと の関係 で、 対抗勢 力 とし て の野党 や労働組合' マスメデ ィア' さまざ
まな市 民団体 も'貧 困 に無関心 であ った。 研究者等 の 「
目」も貧 困には向 けられず' 貧 困 のただ中 にあ る人 々自身 の 「
声」も小さす
ぎ た のではな かろう か。
アメリカ の地下鉄 の中 でホー ムレ スの人 々が 「
私 はホー ムレ スです」と書 いたプ レート を首 からぶら下げ' コカ コー ラ の紙 コ ッ
プ を持 って 「
寄付」を募 っていた のを目 の当 たり にし て驚 いた ことがあ る。 パリ では、 路 上 に座 り込ん で物乞 いをす る人 々の前 を
素 通りしようとす ると' 「
エゴ イ スト -・
」と いう非難 を浴び せられた。 貧 困 の 「
再発見」がな され て いる国 々では、 貧 困者 はむし ろ
自分 の貧 困 を社会 の産 物とし てう そ の解決 を社会 に訴え ているよう に見 え る。
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へきえき
これに比 べると 日本 のホー ムレ スも貧し い人 々も' 信 じられな いくら いお となし い。 ま るで貧困 が自 分 の非 であ るか のよう に
「
声」を出さな い。 「
強 い貧困者」にしば しば 蹄 易し ている欧米 のメデ ィアから取材 を受け ると' きま ってなぜ 日本 のホー ムレ スは
「
物乞 い」をしな いのかと不思議 そうに聞かれ る。 私 は' 「
日本 のホー ムレ スは労働者 とし て の誇 り が強 いからだ」と答 え る こと に
し ていたが'本 当は 「
自分 の失敗」とし て恥じ ているからな のかもしれな い。
こ
とも あれ、 こうした経緯 のために、 格差 が広 が った社会 が眼前 に現 れ ても' これ を新 たな貧 困と結び つけ て語 ろうとす る 「
目」
や「
声」が日本 にはす でにな か ったと いえよう。
†なぜ格差 ではなく貧 困な のか
では' なぜ 貧 困を 「
再発見」す る必要 があ る のだ ろう か ? 格差 ではなく' 貧 困に こだ わ る必要 がど こにあ る のだ ろう か ?
れに答 え るためには、 格差 とか不平等 と いう言葉 と貧 困と の違 いをは っきりさ せてお かねば な らな い。
格差 や不平等 は' さしあたり 「
あ る状態」を示す 言葉 であ る。 つまり' あ る社会 にお いてAチー ムに いる人とBチー ムに いる人
とに分 かれ ていると か'高所得 の人と低所得 の人 が いるt と いうような 「
あ る状態」を示す' 記述的 な言葉 であ る。 そう であ るか
ら、格差 は、 それを問題 にす る ことも でき るが' 「
格差 があ ってど こが悪 い」と いう開き直 りも可能 であ る。 あ る いは、 格差 を問
題 にす る場合 も'ど のような格差 が問題 か、 と いう問 いを別 にた てる必 要 が出 てく る。
これに対し て貧困 は' 「
社会 にと って容 認 できな い」とか 「
あ ってはならな い」と いう価値判断 を含 む言葉 であ る。 また'貧 困 が
「
発見」され る ことによ って' そ の状態 を改善す べきだ と か' 貧 困な人を救済 す べきだ と かt Bチー ム の中 に広 が っている貧 困を
解決す べきだ と い った'社会 にと って の責務 (
個 人 にと っては生 き ていく権 利)が生 じ る。
たとえば 貧 困は' 「
なくす べき」ア フリカ の飢 餓 であ ったり' 学 校 にも行 け な いで働 かさ れ て いる子ど も たち の 「
改善 す べき状
態」であ ったり' 年金だ け では病院 にも行 けな い高 齢 者 の 「
良 く な い状態」であ ったりす る。だ から、 そう し た状 態 を 「
なくす」仕
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組 みを社会 が作り出 し ていく べきだ と いう'社会 の責務 に (
したが って貧困な人 々の生き る権利 に)直接結び つかざ るをえな い。
19世紀 ま で のスラム の貧 困にせよ' 20世紀 のワーキ ングプ ア の発見 にせよ'貧困を語 る ことは このような価値判断 と責務 によ っ
て特徴づ けられ る のであ る。
このよう に'今 日 の格差社会 を'格差 と いう記述的な言葉 のレ ベル で把握す るか' そ の格差 の中 に 「
あ ってはならな い」状 況 貧困があり' したが ってそれを 「
なくす」べきだ と価値判断す るかは' かなり違う ことな のであ る。
格差論だ けからは' 積極的な解決策 も' あ る べき社会論 も出 てきにく い。格差論 の延長 で 「
あ ってはならな い」貧困を 「
再発見」
し ていく ことは' 格差 があ る' 格差 があ って何 が悪 いt と いうような議論 を断ち切 って'格差社会 の中 で何 を改善す べきか'私
ワーキングプア/ホームレス/生活保護﹄(
筑摩書房' 二〇〇 七年 ' 一六∼ 三〇頁。 一部略)
たち の社会 をど のよう に変 え ていく ことが望 まし いかt と いう価値 と責務 (
権利)の問題 をわれわれ に積極的 に投げ かけ ることに
な る。
岩 田正美 ﹃
現代 の貧困 1
(
注) アウト ソー シング 企業 が業務 を外部 に委 託す る こと' あ るいは部 品等 を外部 から調達す る こと (
出題者)
。
間 一 著者 は'傍線部① で 「
もしかす ると' これが貧乏 と か貧困 と いう伝統的 な 日本 語と同 じ意 味だ と は思 いもしな い人も いる
かもしれな い。
」と述 べているが' それはなぜ か。 そ のように述 べる背景 を 二五〇字 以内 で説明しなさ い。
間 二 傍線部② で著者 の言う 「
従来 の福祉 国家 の限界」とは何 かを 二五〇字 以内 で説明しなさ い。
間 三 傍線部③ に 「
日本 では格差社会論 はあ るが' これま で本格 的 な貧 困論 は必ず し も展開 され て こな か った。
」とあ るが'著者
②格差社会を論ず ることと貧困を論ず ることと の違 いt
は'伽 日本 で本格的な貧 困論 が展開され てこなか った理由' および
をど のように考 え ているか.皿 に ついては 一五〇字 以内'② に ついては 二五〇字 以内 で説明しなさ い.
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