バーコードの現状と課題 -プリンタ

特集2―【連載第2回】
バーコードの現状と課題
――プリンタ、サプライ編――
医療バーコード委員会 委員長 白石裕雄
プリンタ編
1.バーコードプリンタの歴史
る。下記にバーコードプリンタの導入が広がった市場
の一例を記す。
○ 製造業ライン工程管理用
○ 物流倉庫で入出荷管理用や在庫管理用 ラベルやタグにバーコードプリンタでバーコードを
○ 物流市場へ貨物追跡用 印字して活用する市場は20数年間で急成長した。1978
○ アミューズメント市場へ入場券発券用
年、JAN(Japanese Article Number)コードが、JIS-X-
○ 製品成分表示用 0501として制定され、1984年、セブンイレブンが本格
○ 製品銘板表示用
的にPOS (Point of Sale)システムの導入を開始したこと
により、バーコードプリンタが市場に登場。これを機
に、店舗やメーカーでのバーコードプリンタの導入が
2.バーコードプリンタの種類と状況
急速に進んだ。
当時、ほとんどの商品にJANコードは印刷されていな
バーコードプリンタは次の印字方式がある。
かった。ではどうしていたのかと言うと、バーコード
プリンタでバーコードを店舗内で作成し、JANコード表
①インパクト方式 示の無い商品に人海戦術でバーコードラベルを商品に
・ドラムインパクト方式:バーコードが彫り込まれた
貼り付けていたのである。POSシステムの稼動に間に合
ドラムを回転させて、タイプライターのようにドラ
わすために徹夜で大量の商品読取り、確認を繰り返す
ムを叩いて印字する方式。機械式タイプライターが
作業が延々続けられた記憶が蘇る。
パソコンのキーボード入力に変わったのと同様、今
現在、量販店では生鮮食品の一部を除き、店に並ぶ
商品のほぼすべてにJANコードが表示されている。
ではほとんど見られない。
・ワイヤードットインパクト方式:OAプリンタで複写
メーカーがパッケージの印刷と同時にJANコードを印
式伝票を作成するときに使用されている。ワイヤー
刷(ソースマーキング)するようになったためだ。この
の針がリボンの上から叩いて印字する方式。複写式
ソースマーキングが進むことにより、店舗やメーカー
伝票にはこの方式が現在も使われている。
でJANコードを印字するバーコードプリンタ需要は減
②ノンインパクト 少した。ところが、その減少分とは比較にならないほ
・感熱式(ダイレクトサーマル式):熱により発色する感
ど、大きなバーコードプリンタの需要が様々な分野で
熱紙に、サーマルヘッドという発熱体に電流を流して
拡大した。バーコードがコンピューターの入力媒体と
バーコードを印字する方式。精度の良いバーコード印
して、便利で現場の効率改善に役立つことが認められ
字が簡単なプリンタ構造で実現するため、現状も主流
た結果である。
である。感熱紙は、その性質上熱が後から加わっても
新たなバーコード活用市場は現在も広がり続けてい
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発色してしまうことや、紫外線に弱いことから長期保
※解像度の高いデータがありましたら
再送お願いいたします。
【写真1】さまざまなプリンタ
携帯型
【写真2】リアルタイム印字貼り付け装置
4インチ
LR
6インチ
10インチ
存には向かなかった。しかし最近では、紙メーカーが
・インキジェット式:段ボールなどに直接インキをノズ
長期保存用の基材を開発しており、使用用途により選
ルから噴射して印字する方式。ラベルなどの媒体を使
択できるようになってきた。
わないため、ランニングコストが低いことを特徴とし
・熱転写式:感熱式と同様の仕組みで、サーマルヘッ
ている。コンベアの横に設置して、印字対象物の搬送
ドと印字媒体(紙など)の間に熱転写用リボンを置き、
に応じて文字が作られるため、高精度のバーコード印
サーマルヘッドの熱により、リボンを転写する印字方
字には向かない。
式。この方式は、印字媒体と熱転写用リボンの組み合
わせにより、・熱に強いもの・こすれに強いもの・薬
品に強いものなど、用途に応じたバーコードラベルを
3.バーコードプリンタの現状
作成することが可能である。熱転写用リボンは使い切
であるため、印字品質を保つことができるがラベルの
消費とともに交換する必要がある。
・電子写真式:複写機同様の印字原理でトナーを熱で
バーコードラベルを現場で作成するプリンタとして
は、感熱方式、熱転写方式が主流である。ユーザーの
ニーズが広がり、プリンタの機種も増えている。
定着させる方式である。大型、大量印字用として使
われる。印字経路が長くラベルを印字する場合に無
・モバイル型:作業者が携行して現場でバーコードを
駄が出る。また、印字開始ボタンを押してから印字
発行するアプリケーションが増えてきた。ハンデイ
開始までに時間がかかる。本体の大きさが、感熱方
スキャナと無線で接続してバーコードラベルを発行
式や熱転写方式に比較して大きいことから一般向け
する、軽くて小さなプリンタは、今後も需要の伸び
ではない。
が予想される。
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・スタンドアロン型プリンタ:パソコンと接続せずに、
では各企業が独自にバーコードや、そのコードの内容、
プリンタから簡単に入力してバーコードラベルを作
体系を決めて表示していた。しかし、SCMに展開する
成することができる。印字幅はJANラベル発行を主目
と、世界規模で標準化されたバーコードのコード体系
的とした2インチからA4サイズに該当する10.5イン
で表示する必要がある。川上で表示されたバーコード
チまでのものが主流である。印字密度はサーマルヘッ
を川中、川下まで活用する。表示するバーコードとそ
ドによって決まり、200dpi、300dpi、600dpiが主流と
のコードが標準化されることにより、複数の異なる企
なっている。高密度のサーマルヘッドでは、印刷に
業間で情報が連携できるようになり、部分最適ととも
近い印字が可能になった。
に全体最適の仕組みが稼動する。これらのコードには、
・リアルタイム印字貼り付け装置:バーコードラベル
UCC/EAN-128が広く使われ始めている。
を印字しながら、搬送される製品に自動的に貼り付
JANコード=メーカーコード+品番に、必要に応じて、
ける装置。この装置により、ラインの無人化が実現
有効期限やロット番号等をアプリケーション識別子に
できる。被着体の特性や用途に応じ、圧力をかけて
より付加することにより、トレーサビリテイやより高
確実に貼る方式や、エアーによりラベルを吹き付け
度な管理が可能となる。このコード管理の概念は、今
て貼る方式など、貼り付け方式も選択できる。
後媒体がICタグなっても同様の考え方で対応できる。
ここ数年ICタグが次世代バーコードとして脚光を浴
びている。バーコードと比較してICタグは数段優れて
4.バーコード・コードについて
いるとの論調である。数千桁のコードを読書きでき、
複数のICタグを同時に遠くから読取れるという。現実
ここ10年、SCM(Supply Chain Management)の広がり
には物の特定に数千桁のコードは不要であり、50桁程
が顕著で、企業間の情報連携が世界規模で広がりつつ
度で十分にユビキタスな付番が可能である。UCC/
ある。調達、製造、配送、販売、ユーザー間の情報を
EAN-128で対応可能である。バーコードは安価に作成で
結ぶために、バーコードが重要な役割を持つ。それま
き、読取りを確認しながら確実に運用できるので、こ
【図表1】
START-FNCI
FNCI
STOP
アプリケーション識別子
(01)04912345678904(17)000200(30)99(10)1234567890
商品コード
同様
JANコードと童謡にメー
カーと、商品(製品)の種類
を特定するコードです。
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有効期限/使用期限
有効期限/使用期限を管理するこ
とにより、期限切れによる無駄の防
止に活用できます。また、商品(製
品)の先入れ先だし管理にも役立ち
出
ます。
数量
使用単位を表示します。
ロットナンバー
患者別の使用実績や、
トレー
サビリティに活用されます。
れからも活用需要は拡大すると確信している。
UCC/EAN-128バーコードを表示して、医薬品、医療
サプライ編
材料、加工食品原材料、生鮮食品の市場に新しいSCM
の展開が広がり始めている。
1.バーコードプリンタの印字方式
バーコードプリンタの印字方式にはインパクト式と
5.バーコードプリンタ今後の課題
ノンインパクト式があり、各々下記の印字方式のプリ
ンタがある。
バーコードプリンタは、これらSCMの情報媒体とし
てバーコードラベルを作成する。バーコードプリンタ
バーコードプリンタ
がトラブルを起こして情報媒体が作成できなくなる
○インパクト式
と、ラインが止まって製品の出荷が滞り、大きな問題
になる。
バーコードプリンタで作成されたバーコードラベル
・ドラムインパクト式
・ワイヤドットインパクト式
○ノンインパクト式
は、調達、製造、配送、販売、ユーザーまでの間、何
・感熱式(ダイレクトサーマル式)
度もスキャニングされ、その都度コンピューターにデー
・熱転写式
タを効率良く正確に入力する機能を果さなければなら
・静電式 ――レーザー式
ない。製品によっては数年∼数十年の長きにわたり、
――LED式
その機能を保持することが要求される。このようにラ
――液晶式
ベルプリンタやバーコードラベルは目立たないけれど、
・インクジェット式
非常に大きな役割を担っている。
バーコードプリンタは、機能や仕様に応じて安価な
ものから高価なものまでいろいろな機種がある。バー
コードプリンタの機能を理解していないユーザーは、
バーコードプリンタでバーコードを作成するには、
各々に対応したサプライが必要となる。
バーコードの活用範囲が広がるとともに、バーコー
価格のみに注目して、同じ印字幅、印字方式ならより
ドを使う現場に合わせた特性を持ったバーコードラベ
安いバーコードプリンタを選定する傾向にある。安価
ル要望が広がってきた。
型のプリンタと高価なプリンタでは、耐久力や印字品
質などに明らかな違いがある。
ノンインパクト式の中でも熱転写式は、その印字方
式からほかの方式に比較して多様な要望に対応してい
自動車を購入する場合であれば、高級自動車と軽自
る。また、感熱式(ダイレクトサーマル式)は熱転写リボ
動車は、外観も性能も明確な違いがあると認識する。
ンを使用しないことから、熱転写リボン装置が不要で
当然、価格はそれに相当するものであると納得して選
ある。その分プリンタの構造が簡素化および小型化が
択をする。これと同様に、バーコードプリンタの選択
可能なため、値札や物流ラベルなど一般的なバーコー
にも、価格ではなく使用する条件やラベルの発行頻度、
ドに普及している。
リスクの高さによって正しく選択していただく必要が
インキジェット方式のように、直接製品の表面にイ
ある。ユーザーにこれらのことを理解していただくた
ンキを吹きつけてバーコードを印字する方式のサプラ
めに、あらゆる努力を惜しんではいけないと考える。
イは、インキのみでラベルなどが必要ない反面、特殊
な要望への対応が難しいという特性がある。
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段ボール箱同士が擦れて印字が痛む場合が
2.熱転写式の特徴
ある。耐擦過性のあるラベルであればこの
ようなトラブルを防止することができる。
熱転写式は、サーマルヘッドの熱により、インキリ
ボンを熱溶解させてラベルに転写する方式である。熱
耐 熱 性:自動車エンジン部など高熱になるところで
転写方式では、インキリボンとラベル基材を組み合わ
の表示や、アパレルなどでスチームアイロ
せることができる。それによって、耐擦過性、耐候性、
ンをラベルの上からかけた場合に布に転写
耐熱性、耐溶剤性、耐水性などの特性を持ったバーコー
しない熱に強いバーコードラベル。
ドラベルを作成することができる。ほかの印字方式よ
耐 水 性:水に濡れるところに貼られるバーコードラ
りも熱転写式は市場の要望に対応しやすい状況である。
ベルには耐水性が要求される。
インキジェット方式のように、直接製品の表面にイン
耐溶剤性:各種工業用オイル等の溶剤によっても影響
キを吹きつけてバーコードを印字する方式のサプライ
されない。バーコードラベルが求められる。
はインキのみで、ラベル等が必要ない反面、特殊な要
耐薬品性:いろいろな薬品に触れても変化しないバー
コードラベルが求められる。
望への対応が難しいという特性がある。
耐 候 性:屋外に置かれるガスボンベなどに貼られる
バーコードラベルは、太陽の紫外線、雨
①リボン
やほこりに長期間耐えられることが要望
熱転写式リボンは下記の特殊要望に対応が可能で
される。
ある。
耐擦過性:物流バーコードは段ボール箱の表面に貼ら
耐可塑性:塩ビ製品に接触することにより、バーコー
ドが塩ビに含まれる可塑剤に犯されない。
れて輸送される。その輸送過程で隣接する
②ラベル
【図表2】印字方式の図
熱転写式は多種のラベルラインナップを持っている。
ラベルは「印字部分=基材」「糊部分=粘着材」「台紙
サーマルヘッド
部分=セパレーター」の3つから構成されている。基
材と粘着材の組合わせで要求仕様に対応する。
熱転写カーボンリボン
③基材
・コート紙:バーコードプリンタで印字するラベルの
ラベル
表面は、滲みや、抜け(スポット)を発生
させないために、一般に使用されている
上質紙に顔料でコーテイングされている。
このことにより、より精度の高いバーコー
ド印字が可能となる。
紙送り方向
・アート紙:コート紙の2倍のコーテイングをして、
より表面の滑らかさを上げたもの。
・キャストコート紙:アート紙と同様のコーテイング
をして、表面をさらに滑らかにするため
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鏡面仕上げをした。表面が滑らかでイン
クを吸収しやすいほど精度の良いバーコー
ドが印字できる。
を保持する。
コンクリー用=表面の粗いコンクリートにも貼り付
けることができる。
・合成紙:合成紙とは、合成樹脂を主成分として、紙
に似た外観特性を持ち合成樹脂の特性を
残している。耐水性、耐候性が優れてお
り、紙粉が出ないことから、クリーンルー
3.感熱式(ダイレクトサーマル式)
サプライの特徴
ム対応に適している。また、被着体から
ラベルを剥がすときにやぶれず容易に剥
昨今、感熱式サプライは、弱点だった耐紫外線、長
期保存に対して新しい技術開発により改善されてきた。
がすことが可能である。
感熱式は熱転写式サプライと異なり直接表面に印字す
④粘着材
ることから、プリンタ機構がシンプルで小型化するこ
ラベルの運用において、粘着力についても下記のよ
とができる。またサプライの交換も比較的容易だ。ま
た、発色温度を変えることにより、赤と黒の2色印字
うな種類がある。
強粘=粘着力が強く被着体からはがれ難い特性を
が可能な基材(プリンタも特殊となる)もある。
持つ。
弱粘=粘着力が弱くはがれやすい特性を持つ。
強粘再剥離=強粘着と弱粘着の中間的な特性を持つ。
4.バーコードの現状とサプライについて
冷凍=温度の低いところで糊が硬くならず、粘着力
バーコードは、バーコードスキャナにより自動認識
できるシンボル(バーコード)と、人が目視する文字や記
【図表3】
号をプリンタで同時に印字することができる。ラベル
などの媒体に印字する場合は、これまで記したように、
サーマルヘッド
各種の条件に対応する基材が用意されていて、プリン
タによって安定した印字を表示することが可能である。
レーザーマーキングやインキジェットプリンタでの印
字は直接製品の表面に印字をするため、ラベルなどの
媒体を介さない分、印字の対応は製品の性質によって
感熱式ラベル
プラテンローラ
限定される傾向がある。
表示要求仕様の対応や、より多くの情報を持たせる
ために、より高密度なバーコードや2次元シンボルが
広まってくる傾向にある。今後ICタグが様々な分野で
導入されてくる。ICの価格が安くなり、使い捨てのIC
紙送り方向
タグがバーコードラベルと同様の運用になった場合で
も、ICタグのみでは、人が内部に書かれているデータ
を読めない。万が一ICが破損した場合、バーコードが
リカバリーとして有効である。
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