鋳造工程の最適化に COMSOL Multiphysicsを採用

Ugitech社
鋳造工程の最適化に
COMSOL Multiphysicsを採用
あらゆる産業において工程速度の最適化は重要な目標です。
フランスのステンレス鋼メーカーUgitech社にとっての速度最
適化とは、連続鋳造機の運転速度を製品の質を保ちつつ最大
限速くすることを意味します。しかし、鋳出される四角柱の鋼片
(ブルーム)を凝固が完了していない状態で切断すると、ブルー
ム内で溶融状態にある1.5トンもの液状鉄が縦型の連続鋳造機
の底に向かって流れ出し、甚大な損害を引き起こす可能性があ
ります。Ugitech社ではモデリングを活用し、150銘柄ある鉄鋼製
品それぞれに適した温度と工程速度の設定を行っています。
Ugitech社(フランス、ユジーヌ)Christian Deville-Cavellin氏による寄稿
最初に形成されるのは凝固シェル
筆者プロフィール
当社の鋳造工程では、循環冷却水が集中冷却する先細
Ugitech社研究センター(フ
角柱形の銅製鋳型に溶鋼を流し込みます。ストランド内
ランス 、ユ ジ ーヌ )の 液 状
の溶鋼が生じる溶鋼静圧に耐える凝固シェルは、この段
金 属冶 金 部[ L i q u i d M e t a l
階で形成されます。鋳型を通り過ぎると、3連続の冷却
Metallurgy Dept.]で 部長
を務めるChristian Deville-
水噴射がシェルの強度を徐々に増し、ローラーが隆起を
Cavellin氏(工学博士)
防止します。ストランドの温度は最終段階で放射によっ
て下がります(図1を参照)。
モデリングを用いた調査の一つは、ひび、製品表面付近
擦がかかることで鋳型内でのシェル破壊が起こりかねま
での偏析、へこみ、振動疵(鋼片を滑らかに移動させる
せん。
ため鋳型を上下に振動させることによる)発生の可能
ブルームが連続鋳型機を通るときその内部で何が起こっ
性がある初期固化について行われました。温度が下がる
ているのかを理解する唯一の方法が、マルチフィジッ
につれシェルは収縮し、ある時点で空隙が形成されます
クスモデリングです。私たちは約6カ月の期間をかけ、
(図2を参照)。空隙の位置は最終製品に大きな影響を
COMSOL Multiphysics®を伝熱モジュールや構造力学モ
与えるため、最適レベルへの制御には細心の注意が必要
ジュールと合わせて使い、モデルの開発、固化過程にお
です。空隙の形成タイミングが早すぎると、シェルの温
ける表面変形の解析、実験データを用いての検証を行い
度がその場所では十分に下がらず凝固厚が薄くなり、製
ました。
品内部で欠陥が生じます。空隙の厚さが薄すぎた場合に
接触条件と相変化
は、鋳型のテーパーがきつくなりすぎるためストランド
と銅製鋳型の間に摩擦が生じ、抜き出す過程で過度の摩
このモデルは実際には2つの部分で構成されています。1
図1 鋳造工程の図示。液状の金属は水で冷却された鋳型に流し込まれ、対流と伝導により冷却され固化する。凝固
シェル(表皮)が形成されると、連続的に噴射水で冷却され、その後放射により自然冷却が起こる。トーチ切断の位置
決めには、固化前の液状鉄がどこまで続いているかの把握が不可欠である。もう一つの図は温度特性を示す。
図2 空隙の形成(左)、ブルーム内熱束流(中)、ブルーム内温度(左)の確認にも同じモデルが使用された。空隙が
与える影響は、熱束流や鋳造物の冷却など予想に難くないものから製品表面の品質にまで及ぶ。
つはブルーム内の温度や相を予測する熱移動モデル、も
このモデルを使って機械の改修を評価することも可能で
う1つは鋳型と鉄の界面について理解を深めるのに役立
す。以前、作業性や整備効率向上のため二次冷却部を数
つと同時に、ブルーム表面の特定欠陥を解明し修正する
センチメートル移動したいので調査してほしい、という
ための熱力学モデルです(図2を参照)。
依頼が製造部門のエンジニアからありました。小さな改
修であっても工程全体に多大な影響を与える可能性があ
鉄と鋳型の接触条件が強い非線形性を持つため、モデル
るため、このような高価な機材で気軽に実験を行うこと
作成には困難がともないました。さらに、鉄は相変化
はできません。作成したモデルで検証したところ、冷却
します。このため、それぞれの銘柄について熱物理デー
部の移動が深刻な事態を招く可能性はなく問題がないこ
タを入手し、モデルに組み込む必要がありました。例え
とを確認できました。
ば、長年蓄積された実験データに基づく熱伝導性の設
別のケースでは、大問題の発生をこのモデルが防いでく
定を3次多項式を使ってCOMSOLに直接組み込むと同時
れました。このケースでは、製造部門のスタッフが、固
に、ある重要な温度域については40~100のデータポイ
化後の安全圏を1メートル以上確保したと考えた位置で
ントの表をデータとして組み込み、COMSOLで両者間の
のトーチ切断を検討していました。モデルが示した結果
外挿を実行します。
は、切断が完全な固化の前に行われ溶融金属があふれ
製品品質を保ち、かつ最終製品の性質を変化させること
出るというもので、実行していれば大惨事が起こった
なく工程速度を上げるため、私たちはこのモデルを使い
ことでしょう。このシミュレーションに使用したのも
長い時間をかけて冷却のさまざまな側面について研究を
COMSOLであり、現在では安全作業の限界値をより正確
行いました。 [品質が安定しない製品を納品し]お客様が
に調整することが可能になりました(図3を参照)。
実験を行うような事態を招かないためにも、このような
問題は細心の注意を必要とします。自動車や原子力など
COMSOL Multiphysics®を選ぶ理由
の産業では、エンドユーザが独自の試験を行い鉄製品の
承認を行っています。そのため、工程の変更には十分な
私たちがCOMSOLを選択したのは、他のシミュレーショ
検討と計画が必要であり、さまざまな可能性を明らかに
ン製品も評価したうえでこのソフトウェアが3分の1の価
し、理解の助けとなるこのようなモデルは非常に有益な
格で最も高い性能を持つと判断したためです。その時す
のです。
でに機械工学専用のソフトウェアを所有していたため、
図3 ストランドのトーチ切断は、ブルーム中心部の金属固化が完了してから行わなければならない。
マルチフィジックスなツールの購入は有意義な投資にな
られるようになっただけでなく、問題解決の方法にも新
ると経営陣を説得しなければなりませんでした。私たち
しいアイデアが盛んに取り入れられています。
は多種多様な問題に使用できる汎用ソフトウェアを必要
当社では、シミュレーションに注力することを有益であ
としていたのです。初期のプロジェクトでは、熱され
ると考える人間がますます増えています。私のところに
たチューブ内を移動する線材の熱特性を明らかにしまし
寄せられる質問も、「計算できるか」ではなく「もしこ
た。COMSOL Multiphysicsを使用して熱特性を確認でき
うしたら、またはああしたら、どうなるか」という内容
たことで、モデリングを簡単かつ短時間で実施できると
に変わりました。さらに、COMSOL Multiphysicsはお客
経営陣を説得することができました。
様にアイデアやコンセプトを伝える際にも非常に役立っ
ています。
「連成というアプローチが、他のソフトとは比較になら
ない生産性をもたらしてくれました」
あらゆる物理現象をモデルに取り込めるその性能によ
り、COMSOLを実装し問題を解く事例はますます増えて
います。このアプローチのおかげで、当社の生産性は他
のどのようなソフトウェアを使用した時よりも向上して
います。初期プロジェクトの結果は現場のエンジニアが
新しい発想を持つきっかけとなりさまざまな質問が発せ
計測エンジニアリングシステム株式会社
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