神秘の子羊 ―― サンタ・マリア・アッスンタ聖堂のモザイクを例に ―― 藤 原 信 子 (芸 術 学) 子羊はキリスト教美術の中で、供犠に捧げられた「生贄の子羊」や民衆を導く「良き 羊飼い」 として、また 「生贄の子羊」 をキリストと重ね 「神の子羊」 として、非常に多 く描かれている象徴表現である。その中で「神秘の子羊」は、罪を贖う生贄の意味で使 われる。 「神秘の子羊」 をテーマとした数ある美術作品の中から、本研究ではヴェネツィア本島 の東に位置するトルチェッロ島、サンタ・マリア・アッスンタ聖堂の右祭室、聖体の秘蹟 の礼拝堂ヴォールトにあるモザイクを選んだ。 対象となるモザイクは、ラヴェンナ、サン・ヴィターレ聖堂の 6 世紀に制作された同一 主題のモザイクを基に、ビザンティンの職人達が模倣、制作したものであると考えられて いる。サンタ・マリア・アッスンタ聖堂の献堂は 639 年であるが、モザイクの細部に様式 及び図像上の違いが見られることから、 《神秘の子羊》 が献堂時に制作されたものか、ま たは聖堂に手が加えられた際に制作されたものかという議論が続いている。 本研究では、キリスト教の各時代、及び東西における羊の描き方について概説し、また サン・ヴィターレ聖堂の《神の子羊》 、サンタ・マリア・アッスンタ聖堂の《神秘の子羊》 が共に天井に配されていることから、各時代のキリスト教建築と天井画について考察する。 そこから「神の子羊」と「神秘の子羊」との図像上の相違、「神秘の子羊」の図像生成が いつ頃成されたのかを考察し、サンタ・マリア・アッスンタ聖堂の《神秘の子羊》の制作 年代を再検討する。 ― 11 ―
© Copyright 2024 Paperzz