耐候試験機の各種人工光源と太陽光の相互比較について (光についてのいくつかの数字を解明する。) By: Kurt P. Scott General Manager, Atlas Electric Devices 訳) 豊田通商(株) ポリマー添加剤グループ 林 治朗 (株)東洋精機製作所 技術サービス部 相川 次男 この原稿はかつての2人の同僚、すなわち John Scott 氏と故 Ray Kinmouth 氏の 共著による「数値との取り組み:各種人工光源と太陽光の間での放射露光量の相 互比較」から適宜取捨選択し加筆したものです。私が「ウエザリング基礎講座」 を初めて受けたのも彼らからでした。 冷却され真空中に保存されている有機材料は非常に長い期間ほとんど何の変化も 起きません。しかし一方で我々は、物質が一瞬のうちに、すなわち時間がほとん ど経過していないのに、完全に破壊されることがあることも良く知っています。 両極端な条件下で起こるこの様な現象を私が簡単に述べる理由は恐らく皆様は良 くお分かりのことだと思います。ウエザリングによるものも含め、いかなる材料 劣化に関しても、ただ単に時間の経過だけでなく、もっと多くの原因も考慮する 必要があります。 「私が試験する材料をフロリダで1年曝露した状態と同じにするためには、促進 耐候性試験機でどのくらいの時間、暴露しなければならないのでしょうか?」と の良く聞かれる質問があります。実はこの質問にはちょっと思い付くよりはるか に多くの懸案が言外に隠されています。 暴露期間中、光、水分、温度、大気中の汚染物質が試験サンプルにどのように影 響を与えているかを完全に特徴づけることができないということが、上述の「質 問」に明確な回答を出す上で、最大の障害となっています。 しかし、耐候劣化現象における最も重要な負荷要因として知られている光の操作、 制御、測定技術の進歩が実験室と自然曝露との比較対照を行う出発点となってお ります[1]。 本稿ではさまざまな実験室での人工光源と太陽光を比較検討いたします。また、 この比較に使用されるであろう光の定量化のさまざまな手段も示します。 材料の吸光には、分光選択性があります、したがって耐候劣化過程も同様であり、 光源の分光分布が特に重要になります[2]。よって、(分光)測定する波長間隔 をさらに細かいものにすれば、種々の光源について、更に正確で意味深い比較対 照を行うことが容易になると思われます。 まず、耐候性試験で使用される一般的な光源の分光分布グラフを、それぞれ太陽 光と比較して示します。全グラフで使われている比較用の太陽光は、CIE(国際 照明委員会)Publication 85 の表 4 に示されているもので、国際的な耐候性試 験規格において昼光の標準として使用されているものです[3]。アトラス社が測 定した太陽光曲線の1つで、自社の技術文献では代表的なものとして用いられて いるものを図 1 で CIE85 の表 4 に対し、「基準」として示しておきました。多少 の不一致もありますが、それは主として測定分解能の違いによるものです。 CIE vs. Atlas Peak Optimum Sunlight 2.500 Miami Peak Sun 26 S CIE Irradiance ( W/cm^2*nm) 2.000 1.500 1.000 0.500 25 0 27 2 29 4 31 6 33 8 36 0 38 2 40 4 42 6 44 8 47 0 49 2 51 4 53 6 55 8 58 0 60 2 62 4 64 6 66 8 69 0 71 2 73 4 75 6 77 8 80 0 0.000 Wavelength in nm 図 1. CIE85 vs. アトラス社測定太陽光(マイアミ昼光). Enclose Carbon Arc vs. CIE 85 6.000 Irradiance (W/cm^2*nm) 5.000 4.000 CIE Enclosed Carbon Arc 3.000 2.000 1.000 25 0 26 4 27 8 29 2 30 6 32 0 33 4 34 8 36 2 37 6 39 0 40 4 41 8 43 2 44 6 46 0 47 4 48 8 50 2 51 6 53 0 54 4 55 8 57 2 58 6 60 0 61 4 62 8 64 2 65 6 67 0 68 4 69 8 71 2 72 6 74 0 75 4 76 8 78 2 79 6 0.000 Wavelength in nm 図 2. 紫外線カーボンアーク灯光源 vs. CIE 85 S u n s h in e C a r b o n A r c v s . C IE 3 .5 0 0 3 .0 0 0 S u n s h in e C a r b o n A r c C IE Irradiance (W/cm^2*nm) 2 .5 0 0 2 .0 0 0 1 .5 0 0 1 .0 0 0 0 .5 0 0 77 8 80 0 73 4 75 6 71 2 66 8 69 0 62 4 64 6 58 0 60 2 55 8 51 4 53 6 47 0 49 2 44 8 40 4 42 6 36 0 38 2 31 6 33 8 29 4 27 2 25 0 0 .0 0 0 W a v e le n g th in n m 図 3. サンシャインカーボンアーク灯光源 vs. CIE 85 Xenon Arc S/S vs. CIE normalized at 560 nm 12.000 10.000 Irradiance ( W/cm^2*nm) CIE 8.000 Xenon Arc S/S 6.000 4.000 2.000 4 0 6 2 8 4 0 6 2 8 4 0 6 2 8 8 77 75 73 70 68 65 63 61 58 56 53 51 49 46 44 41 0 4 39 37 2 6 34 32 4 8 29 27 25 0 0.000 Wavelength in nm 図 4.キセノンアークランプ式光源 (S/S or CIRA/C) vs. CIE 85 異なる光源の比較 これらのグラフから、太陽光に良く一致する光源と、一致しない光源がはっきり します。分光分布が大きく違っている場合、エネルギーを広帯域で比較対照を行 うことは、間違いではないにしても曖昧性が生じる可能性があります。それは、 大事な相違点が不明瞭になってしまうからです。しかし、以下の情報は、それを しきりに要求する人々への対応として提供したものです。後に記載する Scott と Kinmouth 両氏の「注意・警告事項」を繰り返し読んで下さい[4]。 例えばカーボンアーク・蛍光灯の技術からキセノンやメタルハライドに至るまで 耐候性試験の近代化になんらかの形で関与している人で、光源を比較対照する能 力がない人は、しばしば現在と過去のおおざっぱな比較対照を行いたがります。 比較対照される種々の光源に関して表 1 では、紫外線領域(280‑400nm)は 20nm ご との波長間隔と 300‑400nm をまとめた両方の積分値が、また可視から近赤外領域 である 400‑800nm の積分値が要約されています。 表1 光源 CIE 85 Glass filtered sunlight Xenon S/S Xenon B/SL Enclosed carbon XW Sunshine carbon UVA 340 UVB 351 UVB 313nm Irradiance integral – W/m² 280-300 300-320 320-340 340-360 360-380 380-400 300-400 400-800 0 3.05 11.44 14.20 18.03 21.20 67.90 600.72 0 0.07 2.13 5.38 7.71 8.06 23.38 281.05 0.29 2.98 8.30 13.24 16.79 20.33 61.64 508.97 0.01 1.07 6.98 14.49 19.50 23.84 65.88 558.76 0 0.05 0.24 15.67 18.22 50.85 85.01 95.14 0.59 2.80 6.65 10.16 22.84 45.08 87.53 242.33 0.06 3.02 11.25 12.92 7.84 2.67 37.72 3.56 0.03 1.07 9.96 22.50 13.84 3.10 50.48 3.53 10.38 22.04 10.70 2.80 1.32 0.21 37.10 4.32 All of the light sources were measured at the sample plane in Atlas instruments. 各光源の1時間毎の放射露光量と南フロリダの平均年間総紫外線量(290‑ 385nm)275MJ/m2 に達する時間を表 2 に示してあります。Scott 氏と Kinmouth 氏 は、1番右の欄の数字を激化要因(Intensification factor)と呼び、スペクトル 組成が極めて重要性が高いという事実さえなければ、これを促進性の要因として 扱うことが出来るのだが、と正しい指摘を行っています。残念ながら、事実は確 かにそのように簡単ではありません。 総紫外線露光量で比較暴露を行うことをベースにすることは、単に暴露時間だけ をベースとすることに比べ、1歩先に進んでいます。しかしながら、種々の照射 光源に関し、各波長における相対エネルギーが異なる場合、これらの照射光源で 暴露中のどんな材料でも、その反応は異なります。より短い波長での照射には、 より大きなエネルギーが含まれます。よって、短い波長をより多く含む紫外線 (UVB)は、より長い波長の紫外線(UVA)より安定性により大きな、あるいは異なる 影響を与える可能性があります。広帯域の光センサーで測定した場合、例えば蛍 光灯暴露と自然の昼光の露光量は同じかもしれないが、結果は正確に同じでない 可能性があります。自然の昼光と比較した時の照射光源の「特性」を理解し、材 料の特定波長に対する感度の知識を有していれば、どんな暴露試験であっても、 その結果を解釈することは容易になると思われます。 表2 275 MJ / M2 の平均年間紫外線量に達する時間 マイアミの AWSG での数年間のデータに基づいた年間平均、 光 源 1時間毎の総 UV 暴露 kJ/m2 暴露時間(h)概数 (単位 10 時間) インテンシフイケーション因子 CIE 85 Average Optimum Sunlight Xenon S/S Xenon B/SL Metal Halide @ 1120 Enclosed carbon XW Sunshine carbon UVA 340 UVB 351 UVB 313nm 189.1 92.8 1450 2960 3.0 1.5 169.4 176.4 235.5 241.0 211.2 130.6 176.2 152.6 1620 1570 1170 1140 1300 2100 1560 1800 2.7 2.8 3.7 3.8 3.4 2.1 2.8 2.4 Hs/hTUV (注) (1) マイアミの AWSG での年間総 UV 量が、平均して 1 日 12 時間、年 365 日の割 合で積算されたとする場合、積算の総時間数は 4380 となります。 (2) 通常、実験室光源は色々な放射照度レベルで操作できます。本表の数字は、 特定の名目的な放射照度に関するものです。お知りになりたい特定機器の 操作範囲については、お問合わせ下さい。 (3) 各種光源の放射照度は紫外線計測機器の測定範囲である 295‑385nm にまと めてあります。Kinmonth は、人工光源に 300‑400nm を使っているので、こ れらの数字と彼の数字との間の一部の相違を説明しようとしたのかも知れ ません。 注意・警告事項 異なる光源から等しい放射露光量を受けても、または同じ光源から繰返して露光 を受けても、同じ試験サンプルに、同じ特性変化が生じることに関しては、以下 の1つあるいはそれ以上の理由によって、保証は致しません。 1.材料は、エネルギーの波長分布に対し、選択的な感度を示す。 特定の材料は、前掲の分光分布グラフに示されているように異なる分光分布 を有する光源に暴露されると、異なる反応を引き起こす場合があります。 2.光化学反応には、温度依存性がある。 自然条件で曝露した場合の材料の温度は、当然ながら自然任せであり、時 間ごと、日ごと、季節ごとに刻々と変化するものです。ほとんどの実験室 暴露ではわずか数℃の許容範囲で、ブラックパネルや槽内の設定温度を決 定します。この2つの暴露の劣化度は異なることがあります。 3.水分(水/氷/水蒸気のいかなる相においても)の影響により、暴露中に物 理的あるいは化学的劣化が生じる場合があります。 実験室暴露での水スプレー/湿度制御は自然条件を非常によく模擬している かも知れないが、結露時間、濡れの回数、湿度の変化、酸性雨のような汚染 物質への暴露などを追加的な変動要因として自然と実験室での耐候性試験に よる過程の違いを考慮しなければなりません。 同じ光源を測定し規定する種々の方法 異なる光源を比較するのに種々の方法があるのと同じく、類似する光源の測定・ 比較・規定にも異なる方法があります。 歴史的に見て、米国市場用に作られた耐候性規格と、そして該当範囲はやや少な いものの日本市場用の耐候性規格は、通常は紫外線の特定の波長(狭帯域)にお ける、光制御(light control)と光量(dosage)を規定していましたが、一方、 欧州では、これをより広い波長範囲(広帯域)で行うのが慣行でした。現在のグ ローバルマーケットにおいては、マーケット間の壁は急速になくなりつつありま す。今日では、例えば、米国の織物製造メーカーが、その南カロライナ州の工場 からわずかに数マイルしか離れていない場所で自動車を製造しているドイツの自 動車メーカー用の、自動車内装部品のサプライヤーになることも、非常に有り得 ることです。このサプライヤーはこれまで慣れていないドイツ規格に合うように 材料を試験しなければなりません。 この問題は、当初感じるほどに大変なことではありません。この織物メーカーの 現在の機器は通常、比較的簡単な変換によりドイツ規格に合うよう調整ができる のです。その一例を下に示します: まず、幾つかの有用な放射測定関連語句を説明します: 放射照度(Irradiance)とは、一定の面積上に入射する放射束(radiant flux)(あるいは簡単に云えば、ある表面において特定の面に当たる光)のこ とで、通常は W/m2 の単位で表現されます。[5] 放射露光量(Radiant exposure あるいは Irradiation)とは、一定の時間中に 特定の面積に入射する放射エネルギーのこと。単位は(W/m2)* 時間(秒)。 あるいは、(W ・ s) / m2 。定義では1ジュール = W ・ s であるから、以下の ように使うこともできます: 放射露光量 (ジュール) = 放射照度(W/m2)x 時間(秒) 狭帯域の放射露光量は代表的にキロジュールで表され、暴露時間は秒よりも時間 で表される。したがって、上記の公式を厳密に書き改めると: 時間・ 3600 = 秒、したがって、 ジュール = W / m2 ・3600hr・( sec / hr)….. (1) キロジュールに変換するには、両側を 1000 で割らなけれ ばいけないが、そうすると、なじみ深い公式になります: kJ / m2 = W / m2 ・3.6 ・hr (sec / hr )…… (2) (注)(sec/hr)という表現は技術的には正しいが、 数値計算にはそぐわないように見えるので通常は無視 されます。しかしその意味は、全ての単位が因数分解 された時に分かります。 アトラス社ウエザオメーター Ci4000 上記(1)・(2)の公式の使い方 最も簡単な形::3つの変数、即ち、放射露光量(kJ / m2)、時間(hrs)、放射 照度(W / m2)の内のいずれか2つが決まれば、3つ目の変数は次の簡単な代数で 計算できます。 例えば、 ウエザオメーターの放射照度レベルを 0.55 W / (m2 ・ nm) (@340nm)に制御 しつつ 1000kJ / (m2・nm) (@340nm)に到達させるには何時間かかるかを知りた い時、 単位を合わせるため、基本公式(1)に戻ります。 分かり易くするため、放射照度(irradiance)と放射露光量(radiant dosage)の単 位を、技術的には正しい(m2 ・ nm)でなく、m2 とします。 1000 kJ / (m2)= 0.55 W / (m2 ) x Time(hr) x 3,600(sec / hr) Time(hr) = 1000 kJ / m2 ÷ (3,600 sec/hr ・0.55 W/m2) ジュール= W ・s であることを思い出し、 ∴ Time = 1000 k(W ・ s) / m2 ÷(3,600 sec/hr ・0.55 W/m2) 代数の基本ルールを適用: Time(hr) = 1000 k (W ・s) / m2 ・ m2 / W ・hr / s ÷ (3,600 ・0.55 ) = 505.05 hrs 試験の暗黒(dark)期間中には放射は起きないのだから、この時間(time)はもちろ ん 光照射時間 (light hour)を指します。総試験時間は、この値を、試験中の 明・暗サイクルの時間数比率で決めることができます。 第2の例: これは、ドイツの自動車会社に内装部品を納入する南カロライナ州のサプライヤ ーによく起こりうるシナリオです。 内装部品材料の規格条件に関する、ドイツの放射露光量(radiant dosage)と放射 照度の試験条件は、広帯域単位で出されており、試験者は、この試験を遂行する ために、現在の機器を使えるのか、またその場合いかに運転すればよいかを決め る必要があります。 試験条件: 放射露光量(radiant dosage):200 MJ / m2 (300‑400nm) 放射照度(irradiance):45 W / m2 (300‑400nm) 分光分布の表あるいは曲線は、よく見られるキセノンランプ・フイルターのスペ ックではなく、試験規格に定義されています。 現在の機器は放射照度(irradance) 制御、340nm でのモニタリングが行われ、そ して放射量(radiant dosage)は kJ / (m2 ・ nm)で直接積算します。 質 問 1)現在のどのキセノンランプ・フイルターが、指定の分光分布に一致するか? 2)指定の広帯域 (300‑400nm)放射照度値の、340nm 相当値はどうなるか? 3)指定の分光分布で、200 MJ / m2(300‑400)に相当する、340nm での放射量は どうなるか? この時点で、上記の質問に答えるには、現在の耐候性機器の技術説明書を読むか、 あるいは、その機器メーカーに相談することが必要になります。 これに対して以下の答えが出たと想定してこの話を進めます。 1)S タイプの、内側と外側フイルターが分光分布の基準に合致する。 2)0.42 W / m2(@340nm)の放射照度(irradiance)が、45 W / m2(300‑400nm) に相当する。 3)1866.67 kJ / (m2 x nm)@340nm が 200 MJ / m2(300‑400nm)に相当する。 こうなれば、この試験に必要な照射時間は簡単な代数計算で決まります。 公式(2)に代入。 1866.67 kJ (m2 x nm)@340nm = 0.42 W (m2 x nm)@340nm x 3.6 x hr. = 1234.56 hours 以上の概略した方法に代わる方法は、機器が試験規格の放射照度測定と制御基準 に直接一致するように、細かいハードウエアー調整(例えば、ウエザオメーター 照射制御システム内の干渉フイルターの取替え)を行うことであろう。いずれの 場合でも、キセノン暴露の相互間直接比較は、試験規格が、狭帯域あるいは広帯 域での期間と単位で関連しているかどうかに関係なく、行うことができます。 参考文献 [1&2] Searle,N.D., “Effect of light Source Emission on Durability Testing” Accelerated and Outdoor Durability Testing of Organic Material, ASTM STP 1202, Warren D. Ketola and Douglas Grossman, Eds., American Society of Testing and Materials, Philadelphia,1994. [3] Commision Internationale De L’Eclairge Publication Number CIE 85, 1st Edition 1989 [4] Kimouth, R.A. and Scott, J.L., “playing the Numbers Game,” Atlas Sun Spots, Spring,1984 [5] McGraw-Hill Dictionary od Scientific and Technical term, Fifth Edition.
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