UVB照射による皮膚硬化に対する R アリピュア (α-リポ酸)の影響 こう ビーエイチエヌ㈱ げ たかし 高下 崇 2.試験方法 はじめに 地球環境の温暖化、オゾン層の破壊に伴い、紫外 C57BL/6J 雄性マウス(5週齢)を日本 SLC ㈱から購 線照射量は増加の傾向を示しており、近年、紫外線 入し、1週間予備飼育した後、実験に用いた。実験 対策は美容目的のみならず、健康への影響について 期間中、飼料および水は自由に摂取させた。 も関心が高まっている。紫外線による皮膚への影響 C57BL/6J マウスの背部を脱毛処理した後、2日 として、しみ・そばかすなどの色素沈着、発赤など 後からアリピュア (100 mg/kg/day)を1日2回に分 の皮膚の障害、シワなどの皮膚の老化(光老化)、ま けて強制経口投与した。UVB 照射は脱毛処理2日後 た、欧米では紫外線による皮膚がんの多発が報告さ から始め、5日間は、毎日 20 分照射し、6日目以降 れている。 は隔日照射を行い、14 日目まで行った。UVB による 現在、ビタミン C やシステインのような抗酸化作 用のある素材が紫外線対策の内服剤として利用され ているが、α-リポ酸も強い抗酸化作用を持つことが 報告されており、その効果が期待される。 R 皮膚硬化度の測定は、皮膚の伸び、皮膚の厚さを測 定し、評価した。 さらに、皮膚組織の病理標本を作製し、顕微鏡で 写真撮影して上皮層および真皮層の厚さを測定した。 本研究では紫外線による皮膚老化および色素沈着 などの皮膚障害予防に及ぼすアリピュア (α-リポ R 3.UVB照射による皮膚硬化の測定 酸)の影響を検討した。 UVB照射によって、皮膚の伸び(弾力性)は低下し、 一方で皮膚は肥厚し、皮膚の硬化が顕著に認められ 1.アリピュアRとは た。アリピュア R 投与群において、コントロール群 α-リポ酸は、2つの硫黄原子と炭素数8つの脂肪 酸で構成される分子量 206 の分子であり、硫黄原子 と比較して UVB 照射による、皮膚の伸びの低下およ び皮膚の肥厚を共に有意に抑制した(図2、3)。 も互いに結合して環を形成している(図1)。我々は 14日後の背部皮膚の伸展 ドイツで製造されアリピュア R(ALIPURER)の商品名 20 販売している。 18 R アリピュア は残留溶剤を含有していない商品で、 α-リポ酸のラセミ混合物 (50%: 50 %)である。 S 16 14 12 O * 皮膚の伸展(mm) で欧米で広く販売されているα-リポ酸を取り扱い・ OH 10 照射なし S 図1 コントロール アリピュア UVB照射 α-リポ酸の構造 図2 UVB照射による皮膚伸展低下に及ぼす R アリピュア の影響 1 Vol.10 No.2 / 2006 表1 14日後の背部皮膚の肥厚 皮膚の肥厚(μm) 1000 UVB照射マウスにおける皮膚上皮層および真 R 皮層の肥厚に及ぼすアリピュア の影響 上皮層(μm) 平均値±標準誤差 800 正常マウス群 600 コントロール群 (UVB照射) 400 アリピュア 投与群 (UVB照射) R 真皮層(μm) 平均値±標準誤差 22.4±1.8* 320.9±31.9* 190.2±52.7 455.5±33.0 47.9±3.8* 435.4±30.3 各値は各群8匹の平均値 ± 標準誤差で表示した * は、UVB照射マウス群との有意差( <0.05)を示した 200 0 コントロール 照射なし アリピュア 上皮層および真皮層間のメラニン顆粒数は UVB 照 UVB照射 図3 UVB照射による皮膚肥厚に及ぼすアリピュア の影響 R 射群により増加し、メラニン顆粒の点在が認められ R たが、アリピュア 投与によって減少していた。さ らに皮膚の角化組織化も抑制されていた(図4)。 4.UVB照射下における皮膚病理所見 による上皮、真皮層およびメラニン 沈着 今回の試験結果から、アリピュア は UVB 照射に 皮膚病理所見からも UVB 照射によって、皮膚上皮 よる皮膚の弾力性の低下、および肥厚を抑制した。 層および真皮層は肥厚し、皮膚の硬化を引き起こし R おわりに R また、背部皮膚の肥厚は UVB による炎症後に引き起 R ていることが判明した。アリピュア 投与群は、真 こされており、炎症へのアリピュア の軽減効果も 皮層への厚さに対しては影響を及ぼさなかったが、 期待された。 皮膚の上皮層の肥厚を有意に抑制した(表1)。 さらに病理所見からも、アリピュア R は UVB 照射 による皮膚の弾力性の低下、および肥厚を抑制する ヘマトキリン・エオジン染色 (細胞形態観察) フォンタナ・マッソン染色 (メラニン顆粒染色) こと、加えて皮膚の角化組織化を軽減すること、メ ラニン顆粒の増加を軽減することが見出された。 これらの結果から、アリピュア R の UVB 照射によ る皮膚硬化防止効果が示唆され、紫外線による様々 な皮膚トラブルに対しての軽減作用が期待された。 紫外線を照射すると皮膚において活性酸素が発生 し、様々なトラブルを引き起こすことが報告されて 正常マウス 1) いる。α-リポ酸は強い抗酸化作用が報告されており 、 これまでに皮下に活性酸素を発生させ、この活性酸 素によって生じる皮膚炎症に対して、α-リポ酸が炎 2) 症を軽減する効果があることが報告されている 。し たがって今回の作用機序は、UVB 照射によって生じ R る活性酸素がアリピュア によって速やかに消去さ コントロール群(UVB照射) れ、炎症の悪化が軽減されたことが考えられる。 一方で、アリピュア は in vitro で細胞の増殖を促 R 3) R 進する効果が確認されており 、アリピュア 投与に よって、皮膚の細胞増殖が促進され、皮膚のターン オーバーが促進されることによって、UVB 照射によ って生じる皮膚障害からの回復速度を向上し、さら アリピュア 投与群(UVB照射) R 図4 2 Vol.10 No.2 / 2006 病理切片 にメラニンの排泄も速やかに行われた可能性も考え られる。 R 今後、アリピュア の美容食品への応用に向けて 更なる検討を行う予定である。 こうげ・たかし/ Takashi Kohge 1997 年 参考文献 1)Gerreke Ph Biewenga, et al.: Gen Pharmac, 29, 315331 (1997) 岡山大学大学院薬学研究科修了後、同年 備前化成㈱入社、2001 年 ビーエイチエヌ㈱入社、現 在に至る 研究テーマ:植物エキスの生理作用 2)Fuchs J, Milbradt R.: Skin Pharmacol, 7, 278-284 (1994) 3)Roland Rabeler.: FOOD Style21, 9, 57-64 (2005) 3 Vol.10 No.2 / 2006
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