No 2011 - 1 【ものづくり閑話】 「新連携の成功要因」試論

No 2011 - 1
【ものづくり閑話】
「新連携の成功要因」試論
NPO法人オービット関西
副理事長 菅野博之
私は、6年前に大阪で7人の仲間と共に中小企業の経営支援のための非営利活動法人
を立ち上げて以来、数多くの関西のものづくり企業の経営支援をして参りました。
私達が活動を開始した平成17年4月に、経済産業省が中小企業新事業活動促進法を制
定し、異分野連携による新事業にチャレンジする中小企業の事業計画作成から事業化ま
で一貫して支援する「新連携支援」制度を創設しました。私は、この制度を活用して新
連携事業を事業化したいという2つの企業グループを支援し、いずれも認定を受けるこ
とが出来ました。更に認定後の事業立ち上げから軌道に乗るまで支援してきた経験から、
中小企業のおかれている厳しい状況をブレイクスルーするには、企業間の連携が最も有
効ではないかと思うと共に、企業連携の「成功要因」にはいくつかの重要なキーがある
と感じ、それを抽出してご参考に供したいと考えここに試論を提供する次第です。
私が、平成17年に支援した案件は、
『カーボンランプヒーターを活用した電化厨房機
器の開発、製造、販売事業』です。A社(コア企業)「ガス厨房機器製造」
、B社「電気
器具設計製造」、C社「厨房機器、フィルム等販売」の3社の社長・専務が高校の同窓生
という縁から集まり、A社がガス機器から電気機器への転換を目指すため、B社、C社
に、それぞれ得意とする機能を提供して欲しいと要請したことから、新連携の連携体が
構築されました。ここから、私が事業化のための支援をしたのですが、先ず3社が目指
す目標・ビジョンを「カーボンランプヒターを使用した電化厨房機器の開発」に置くこ
と、事業化の過程で生ずる利害関係が偏らないようにすること、お互いの言いたいこと
を言っても最後は協調体制に戻ること、を取り決めました。3社の幹部が高校の同窓生
で親密な関係が出来ていたことが幸いし、最後までこの連携体は壊れることはありませ
んでした。また、連携体を構成する3社の機能が、A社は商品企画・商品設計・組立・
メンテを担当、B社は電気器具の設計・製造を担当、C社はマーケティング・販路開拓、
宣伝、総合調整を担当と、それぞれ得意分野の経営資源を持ち寄り、一つの新しい事業
をクリエイト(創造)することが出来たのが、成功へ導く要因の一つであったと思いま
す。
次に、平成19年に支援した案件は、
『無菌粉末充填機・充填システムの製造・販売事
業』です。D社(コア企業)
「医薬品及び医薬品製造機械製造販売」とE社「医薬品製造
機械設計」の社長は大手創薬メーカーのOBであり、F社「医薬品製造機械・器具製造」
の会長は、大手創薬メーカーの取引関係を通じてD社、E社と旧知の間柄であったこと
から、コア企業が提示した「無菌粉末充填機・充填システムの事業化」というビジョン
に他の2社も賛同し、連携体が構築されました。この事業の申請から事業化までの支援
を要請された私は、3社とのミーティングにおいて先に成功した案件の手法を使い、
先ず、3社の連携体におけるビジョンの共有を確認し、各社の機能分担の明確化と利害
調整のための覚書を作成し了解を取り付けました。その内容は、D社は構想企画立案、
特許・ノウハウ提供、実験・試運転を担当、E社は機械製造設計、システム化設計、秤
量ロボット化設計を担当、F社は部品加工開発、製薬機械・システム製造を担当と、そ
れぞれ得意分野の経営資源を新事業の為に提供するというものです。途中何度か利害調
整の必要が生じ、その都度コア企業がリーダーシップを発揮して連携参加者に配慮した
調整を行うと共に、3社が運命共同体であることを再確認することによって、信頼関係
を回復し前進することが出来ました。
このような連携体の内部をよく見ていくと、連携体を構成する企業が、まさにビジネ
ス・パートナー(Business Partner)となっていることが分かります。私は5年程前に
パートナリングがアメリカで盛んに提唱されていることを知り研究してきましたが、
『ビ
ジネス・パートナリング(Business Partnering)とは、複数の企業が、共通のビジョン
を持ち、強い信頼関係を構築し、共に新しい価値を作り出すこと』と定義されています。
私は、新連携はまさにビジネス・パートナリングそのものであると思いましたので、
ビジネス・パートナリングの成功要因を新連携に当てはめて考えると、まさにぴったり
適用できることを発見しました。
〔ビジネス・パートナリングの成功要因〕
ビジョン
価
値
信
頼
上図の通り、ビジネス・パートナリングの成功のためには「ビジョン」
「価値」
「信頼」
の3つの要素が必要であり、どれ一つ欠けても成功しません。ビジネス・パートーは、
共通のビジョンを持つことが絶対に必要であり、この共通のビジョンが結束の要(かな
め)となります。仲間割れするかしないかは、このビジョンを共有しているかどうかで
決まります。次に、ビジネスは価値を創造するための活動ですが、パートナーの間で一
番もめる原因は価値が平等に分配されるかどうかということです。これは、パートナー
が共に Win-Win(双方が勝者となる)の関係を築くことが絶対に必要です。この点は、
金銭が絡んできますので、コア企業がリーダーシップを発揮して、事前に十分話し合い、
お互いに納得しなければスタートしないくらいの覚悟が必要です。更に、パートナー同
士が個人的な信頼はもちろんのこと、専門家としての信頼、及び個人的な目的や利害に
よって判断が鈍らないような信頼、どんなに激しい議論の対立があっても最後は拘りな
く元の関係に戻れるような信頼、といった根本的な信頼が必要です。
最近の中小企業を巡る環境は、円高や海外進出による国内空洞化など、ますます厳し
いものになりつつあります。このような環境変化に対応するには、中小企業間の連携に
よって、それぞれが有する優れた経営資源を集約して、一社ではできない新しい事業を
構築していかなければ、生き残れない時代になってしまったと思います。その意味で、
新連携事業化のために「ビジネス・パートナリングの成功要因」を参考にしていただき、
新しい事業を成功に導いて頂きたく、心からお願いする次第です。
【ちょっと片言隻語】
OOの夢/「50年の夢が実現した!」昨年度、クロスカップリング反応に関する功績
でノーベル賞を受賞された根岸教授の受賞に際してのコメントである。50年前からの
夢であったとは驚きである。先に導電性高分子の開発でノーベル賞を受賞された白川博
士も「夢が自分をここまで引っ張ってきてくれた」と語っている。両者とも、夢と一緒
に歩んでこられた研究人生のようである。夢を抱くことの素晴らしさを印象付けるもの
である。
年の初めにあたり、今年一年の夢、出来れば10年先、100年先の夢を描きたいも
のである。
「描けば叶う」と言う言葉がある。今から約100年前(明治34年、190
1年)に、100年後の予測をした記録(報知新聞1月2日、3日記事/百年前の二十
世紀:横田順彌/筑摩書房)がある。その当時の夢と言ってよいようなものが多い。
その幾つかを以下に紹介したい。
①「無線電話により東京に居ながらロンドン、ニューヨークと会話できる」と予測して
いる・・・ずばり実現している。今や携帯電話の発達により国際電話は常識となってい
る。電話は、1876年(明治9年)にA・グラハムベルが実験に成功しているが、日
本では明治11年に通話実験が行われた。声が届くなら、荷物も届くであろうと電話線
に風呂敷づつみをぶら下げた人もあった。そんな時代であった。
②「電気の力で早撮り写真を撮り、遠く離れた所へ送ることが出来る。しかもカラーで」
と予測している。
・・・この時はテレビは予測されておらず、動かない写真ということで
あった。現実は予測を超え、カラーテレビ、最近では3Dテレビが実用化されている。
③「7日間で世界一周」と予測している・・19世紀末には80日間必要としていたが
7日間で一周できるとの予測である。当時は飛行船は完成していたが、飛行機はまだ飛
んでいない。現在は、人工衛星であれば、約1時間半で地球を一周する。はるかに予測
を超えた夢が実現している。
④「鉄道の速度:東京-神戸間が二時間半」と予測している・・これもずばり実現して
いる。当時は蒸気機関車で17時間要していたようである。余談ではあるが、当時は列
車にトイレは無く、窓から小便した人は10円の罰金、おならは5円の罰金であったそ
うな。(因みに10円は当時の巡査の一か月分の給料であった。)
さらに色んな分野について夢のような予測がされているが、当時では夢物語のような
突飛なことであっても、百年後の現在多くのことが実現されている。
「夢を描けば叶う」という言葉は十分に信じられる言葉である。
企業にとっても、夢と思われる技術や製品を追求していくことは従業員のモチベーシ
ョンを高め、企業の発展にもつながるはずである。企業の夢は、それぞれの企業が独自
に描くものであるが、夢を描く参考(場合によっては雑音?)になりそうなものとして
①近未来技術の予測「2035年の科学技術」(財団法人 未来工学研究所 発行)
②21 世紀の科学技術の展望(科学技術庁)③科学技術予測未来年表などがある。災害、
環境、エネルギー、生命、情報、政治など、幅広い分野の予測がなされている。
また、くだけたところでは、ドラえもんポケットにも夢多き秘密の道具が溢れている。
現在の科学では説明が困難なものも多いが、
・XYZ線カメラ ・かくれマント
・ウルトラバランススキー ・味のもとのもと ・あべこべクリーム ・・・・など
実現できれば夢のようなものが一杯である。
最後に、夢に関する格言を幾つかご紹介したい。
①夢とは目的地ではなく旅なのです(ダイアンソイアー)
②大きな夢を見てみよう。大きな夢だけが人の心を動かす(アウレリウス)
③人生に夢があるのではなく、夢が人生をつくるのです(作者不詳)
ビジネスに関連したものでは
④革新は、実はたわいない夢を大切にすることから生まれる(井深 大)
⑤どんな偉大な事業も、はじめは全て「夢」にすぎなかったのです(キッシンジャー)
皆様におかれましては、
大きなOOの夢を描かれ、素晴らしい節目の年になることを祈っております。
(OOには、人類、日本、会社、技術者、企業人、老後、2 人・・・
などが入るのでしょうか)
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