無許可の甲板積み貨物の責任制限 – CHANDA 号事件後の流れ

Gard News 168
(翻訳文)
2002 年 10 月/2003 年 1 月号
無許可の甲板積み貨物の責任制限
–
CHANDA 号事件後の流れ
Limitation of liability for unauthorised deck stowage - Life after the CHANDA
はじめに
問題の再燃
甲板積み貨物の運送は、貨物が風波や天候によ
多くの解説者に批判されつつも、この判決は1
る被害に晒されるので、最も危険度の高い海上
3年間確固として揺るぎませんでした。ところ
運送方法です。このため船主と傭船者は、甲板
が最近ロンドンの商事法廷における船舶
積み貨物の滅失や損害については一切責任を負
KAPITAN PETKO
わないことが長年の慣習となっていました。運
で、無許可の甲板積みと責任制限の問題が再燃
送人に対するこの保護策は、荷送り人が甲板積
したのです。荷送り人は34台の新品の掘削機
みに同意することを条件として、海上運送を律
を韓国からトルコへ運送する契約をハーグ規則
する主要な国際協定に組み入れられてきました。
に従って締結しました。掘削機は甲板下に積み
しかし運送人が荷送り人の同意なしに、あるい
つけられましたが途中の港で積み替えが行われ、
は荷送り人が甲板下に積むように特に要請した
26台の掘削機が荷送り人の知らない間に、同
にも関らず貨物を甲板積みにした場合、運送人
意も無く甲板上に積みつけられたのです。その
にとって保護はあるのでしょうか。
後の航海中に8台の掘削機が波にさらわれ、残
VOIVODA 号2に関する事案
りも水濡れや錆びによる損害を受けました。荷
CHANDA 号事件
送り人は、この損失につき78万5千米ドルと
英国法のもとでは、許可無く甲板積みにした場
利子及び経費のクレームを起こしたのです。
合は伝統的に運送契約の基本的違反とみなされ
てきました。それゆえ運送人は、契約書に記載
当事者間では、貨物を甲板積みで運送したこと
ある如何なる対抗権(特に責任を制限する権
が契約違反である点では合意をみました。
利)も失うことになります。CHANDA 号事件
1
においてハースト判事は次のように述べていま
甲板積みでの運送が貨物の滅失と損害の実質的
す。
原因であり、また滅失と損害は貨物を甲板上に
積んだこと、不適切なラッシング、海難あるい
「物品を甲板下に積む義務を守るという条件で
は不十分な梱包が原因であるとの仮定の上で、
船主を保護することを目的とした条項は、船主
被告は無許可の甲板積み運送の故にハーグ規則
がその義務を怠った場合には適用されない;梱
の責任制限条項やその他の対抗から排除される
包当たりの制限も、契約違反の結果として該当
か否かがまず審理されました。
物品をかかる損害の危機に晒した船主を保護す
る目的であるとは言いがたく、故にこのカテゴ
荷送り人は、CHANDA 号事件の裁判で採択さ
リーに入る;梱包当たりの制限条項は甲板下に
れた原則を論じて、全額填補を受ける権利があ
積みつける義務と矛盾し、反している場合は、
ると申し立てました。
適用されない。」
2
Daewoo 重工他対 Kilpriver Shipping(KAPITAN PETKO
VOLVODA)-女王裁判所(商事法廷)- (ラングレー判事)- 2002
1
[1989]ロイズレポート 494
Limitation of liability for unauthorised deck stowage
- Life after the CHANDA
年 7 月 11 日。2002 年 8 月 8 日の LMLN953
-1Gard News 168 November 2002/January 2003
判決
号事件判決3中の控訴院の見解に言及しています。
判決の中でラングレー判事は、貨物を甲板下に
この事案はハーグ・ウィスビー規則の制限条項
積みつける義務(前者)と、温度管理など貨物
が第 III 条規則1にあるより責任の重い義務と
の管理に関する荷送り人のその他の特定の指示
の関連で考察されたものです。この判決でタッ
に従う義務(後者)について被告である運送人
ケイ控訴院裁判官は第 IV 条規則5(a)の制限条
が申し立てた比較を受け入れています。後者の
項の解釈をしています。条項は次のように言っ
場合、もし運送人が貨物を指定の温度以下に保
ています。
てという荷送り人の指示を守らなかったとして
も、責任を制限できることは疑問の余地はあり
「・・・運送人及び船舶は、いかなる場合にお
ません。運送人はこの線で議論を更に進めて、
いても、物品の、または物品に関する滅失また
より責任の重い義務に違反した場合でさえも、
は損害については、1包または1単位につき
責任を制限する権利を否定するには根拠が無い
666.67 計 算 単 位 を こ え て 責 任 を 負 わ な
とも指摘しました。
い・・・」
運送人は、CHANDA 号事件の判断は運送人が
この事案では「いかなる場合に置いても」とい
全注意をもって貨物を甲板上に適切に積みつけ
う言葉は明白であり文字どおりの意味であると
ラッシングしたにもかかわらず荒天時に波にさ
されました。つまり、そこには制限適用の範囲
らわれた場合よりも、例えば積みなおし作業中
は限定されていないということです。KAPITAN
に貨物を海に落とすように不注意であった方が
PETKO VOIVODA 号事件ではラングレー判事は
むしろ責任を制限しやすいという不条理なもの
ハーグ規則の同様の条項にこの論理を当てはめ、
であると主張しました。
運送人は荷送り人が物品を甲板上に積みつける
同意をしていない場合でも、滅失や損害に対す
ラングレー判事は、許可無く甲板に荷積みをす
る責任を制限することができるとしました。
ることは重大な運送契約の違反であり、貨物の
滅失や損害に対する運送人の責任を制限する権
荷主側はこの判決を上告できることになってい
利は認められないとする貨物側の申し立てを退
ます。ガード・ニュースではこの事案の今後の
けました。そのなかで判事は HAPPY RANGER
展開を随時報告してまいります。
3
[2002]2 ロイズレポート 357。 本誌別記事「HAPPY RANGER
号 - 原子炉損傷事件」参照。
Limitation of liability for unauthorised deck stowage
- Life after the CHANDA
-2Gard News 168 November 2002/January 2003