情報メモ NO.27-15 「女性の活躍」は進んでいるか ~増えているのは非正規・中高年・低所得~ 2015 年 4 月 27 日 調査部 担当 鈴木 潤 TEL:03-3246-9370 2013 年 6 月に政府が発表した「日本再興戦略」では、「女性の活躍推進1」が成長戦略における柱の 一つとして提唱されている。「女性が活躍できる環境整備を推進する」ため、政府は様々な政策を打 ち出し、約 2 年が経過しようとしているが、「女性の活躍」は進んでいるのであろうか。 本稿では、女性の雇用を①雇用形態、②企業規模、③年齢階層、④所得水準の 4 つの項目別に分 析することで、女性雇用の現状と今後の課題を示したい。合わせて、中小企業における女性雇用の 実態をみていく。 1.現在の労働市場 現在の労働市場では、労働需給の逼迫により、売り手市場となりつつある。労働供給力は、団塊世 代の大量退職と少子化による生産年齢人口の減少で低下している。一方で、労働需要は、震災の復 興需要や「アベノミクス」により景気回復で増加した。 労働需要の高まりにより就業者数が増加する一方で、非労働力人口は減少しており、これまで働い ていなかった人も労働市場に流入していることが窺える【図表 1】。その結果、失業率は 3.5%と自然 失業率2の水準まで低下し、新規求人数は 85 万人近傍と高止まりしており、現在の雇用環境は良好 であると言える【図表 2】。 (万人) 【図表1】 労働市場の変化 6,400 (万人) (%) 4,600 5.0 (万人) 90 失業率 就業者数 新規求人数(右目盛り) 非労働力人口(右目盛り) 6,350 4.5 85 4.0 80 3.5 75 4,550 6,300 6,250 12/01 【図表2】 失業率と求人数 4,500 13/01 (資料)総務省「労働力調査」 14/01 4,450 15/01 (年/月) 1 3.0 12/01 13/01 14/01 (資料)総務省「労働力調査」 厚生労働省「一般職業紹介状況」 70 15/01 (年/月) 日本再興戦略では、 「女性の活躍推進」として、「出産・子育て等による離職を減少させるとともに、 指導的地位に占める女性の割合の増加を図り、女性の中に眠る高い能力を十分に開花させ、活躍できる ようにする」とある。 2 自然失業率とは、完全雇用が達成されている時の失業率である。自然失業は、労働者の地域や職種の 移動が困難であるために、求職者が職探しに時間をかけることで生じる。 -1- 就業者を男女別にみると、近年の増加は女性に偏っている【図表 3】。「アベノミクス」が始まった 12 年 12 月から直近までの就業者数の増加は、男性が約 33 万人に対して、女性は約 94 万人と大きく上回 っている。 就業者数の増加に伴って、女性の労働参加率も上昇している【図表 4】。男性の労働参加率が緩や かに低下する一方で、女性の労働参加率は 50%を下回っているものの着実に高まっている。 女性の就業者数の増加や労働参加率の上昇をみると、政府が推進する成長戦略の一つである「女 性の活躍」は進んでいると感じられるが、実態を伴ったものであろうか。以下では、増加している女性 雇用の内容を 4 つの軸を基準にみていく。 【図表3】 男女別就業者数 (万人) (万人) (%) 3,680 2,760 72.0 3,660 2,740 3,640 2,720 3,620 2,700 3,600 2,680 3,580 2,660 3,560 【図表4】 男女別労働参加率 (%) 50.0 男性 女性(右目盛り) 71.5 49.5 71.0 49.0 70.5 48.5 2,640 男性 3,540 12/01 女性(右目盛り) 13/01 14/01 (資料)総務省「労働力調査」 2,620 70.0 15/01 12/01 13/01 14/01 48.0 15/01 (資料)総務省「労働力調査」 (年/月) (年/月) 2.正規と非正規 ①雇用形態別に女性の雇用をみるにあたって、業種別のパートタイム労働者比率を確認すると、女 性の就業者数の多い、宿泊・飲食や卸・小売、医療・福祉といったサービス業のパートタイム比率が 高く、全体平均を押し上げている【図表 5】。家事や子育てなどとの時間的な兼ね合いや、労働力の 流動化を進める企業の増加もあり、女性は非正規での雇用割合が高くなっている。 【図表5】 パートタイム労働者比率 (%) 80 70 生活関連サービス ・娯楽 60 全産業平均 < パ 50 ー ト タ 40 イ ム 比 30 率 宿泊・ 飲食 情報通信 不動産・物品賃貸 運輸・郵便 > 20 卸・小売 10 そ の 他 サ ー ビ ス 学術研究・ 専門技術 金融・保険 医療・福祉 ・教 学育 習 支 援 建設 製造業 0 0 (資料)総務省「労働力調査」 500 1,000 1,500 <就業者数(女性)> -2- 2,000 2,500 (万人) 女性の就業者を正規/非正規の雇用形態で分けると、増加しているのは非正規雇用に限られる【図 表 6】。13 年初から直近までに、非正規雇用が約 99 万人増加した一方で、正規雇用は約 27 万人減 少している。景気回復期には、労働力の調整が相対的に容易な、非正規雇用が先に増加しやすくな る傾向にある。そのため、女性の非正規雇用は既に増加が表われているが、正規雇用ではいまだに 増加に至っていない。 女性失業者の離職理由のうち、自発的離職(転職などを目指して自ら離職した人)の水準は概ね横 ばいで推移している。即ち、労働条件のミスマッチのほか、結婚や出産などの理由で一定数の女性 が、景気動向に関わらず離職している。 一方で、非自発的離職(解雇や定年、倒産など自らの意思に反して離職した人)は景気回復期に減 少する傾向にあり、現に女性でも減少している。非正規雇用は解雇や雇止めなどによる労働力の調 整対象となりやすく、景気後退期に非正規雇用から非自発的離職が生じやすい。この点で今般の非 自発的離職の減少は景気回復を反映したものであり、非正規労働者の増加と整合的である【図表 7】。 【図表6】 女性の就業者数(雇用形態別) (万人) (万人) 1,150 【図表7】 離職理由別の女性失業者数 1,400 (2010年=100) 正規 100 非正規(右目盛り) 1,100 1,350 1,050 1,300 1,000 1,250 80 60 非自発的 950 13/01 1,200 13/07 14/01 (資料)総務省「労働力調査」 14/07 15/01 (年/月) 40 12/01 13/01 (資料)総務省「労働力調査」 自発的 14/01 15/01 (年/月) 3.企業規模別の女性労働者 ②企業規模別の雇用者数では、女性はどの企業規模でも増加傾向がみられる【図表 8】。特に 500 人以上の企業での増加が大きくなっている(ただし、労働者の絶対数は 499 人以下の企業が多く、増 加数も 500 人以上の企業を上回る)。 14 年の新規求人数を確認すると、300 人以上の大企業による求人は前年より減少しており、労働者 の今後の増加余地は限られる。増加余地があるのは 299 人以下の企業で、特に 29 人以下の中小企 業では常用・パートともに多くの労働需要が存在する【図表 9】。 労働市場が売り手優位となっている中で、企業では人手不足感が広がっている。そのため、企業側 が提示する労働条件も変化しやすくなっており、労働需給のミスマッチの解消が進めば、中小企業へ の就業者も増加する可能性がある。 -3- 【図表8】 女性の雇用者数の水準(企業規模別) 【図表9】 企業規模別求人数の増減 (2012年=100) 110 ≪2014年≫ (前年差、万人) ~29人 -10 30~499人 0 10 20 30 40 500人~ ~29人 < 105 企 業 規 模 ( 従 業 員 数 ) 100 30~ 299人 > 95 12/01 常用 300人~ 13/01 14/01 パート・臨時・季節 15/01 (年/月) (注)3ヵ月移動平均 (資料)総務省「労働力調査」 (資料)厚生労働省「一般職業紹介状況」 4.年齢別の女性労働者 ③年齢階層別の失業率では、男女ともに若年層で高く、年齢が上昇するにしたがって失業率が下が ってくる【図表 10】。このような傾向が表われる要因として、労働者側では、若年の間は希望の職場を 求めて自発的な離職が多いこと、企業側では、雇用の調整弁として若年層での非正規化が進んだこ とが挙げられる(男性では定年制によって、55~64 歳で上昇している)。加えて、女性では年齢が上 がるにつれて職探しをあきらめて、労働市場から退出する人(求職活動を行わなければ、失業者で はなくなる)が多いのではないかと考えられる。 しかし、女性の就業者を年代別にみると、近年は中高年層が増えている【図表 11】。40 代と 60 代で 安定して増加していることに加え、近年は 50 代の女性も働き始めていることが分かる。少子化が進 む中で、年齢が上がっても働き続ける女性が増加し、徐々に労働者の平均年齢が上昇していること も要因の一つであろう。 (%) 0 【図表10】 年齢階層別失業率 2 4 6 【図表11】 年代別就業者増減(女性) 8 15~ 24歳 (前年差、万人) 60 60代以上 40代 10~20代 40 50代 30代 合計 25~ 34歳 20 35~ 44歳 0 45~ 54歳 男性 55~ 64歳 女性 65歳 以上 (資料)総務省「労働力調査」 -20 (2014年) (年) -40 09 10 11 12 (注)11~12年は岩手・宮城・福島を除いた値 (資料)総務省「労働力調査」 -4- 13 14 一方で、10~20 代、および 30 代までの若年女性の雇用は減少傾向にある。若い年代での労働者の 減少は、少子化による人口減少が反映された部分が大きい【参考図表】。加えて、出産・子育て世代 である 20~30 代では、結婚や出産を機に離職する人も多く、継続的な減少要因となっている。「日本 再興戦略」でも、「女性のライフステージに対応した活躍支援」や「仕事と子育てを両立できる環境の 整備」などを掲げ、企業に対して雇用制度の充実を促しているが、若年女性の雇用は拡大していな いのが現状である。 【参考図表】 年代別女性人口(前年差) (前年差、万人) 80 60~70代 40代 10~20代 40 50代 30代 合計 0 -40 -80 09 10 11 12 13 (資料)厚生労働省「人口動態調査」 (年) 5.所得水準 ④所得水準の変化を男女別にみると、女性の方がリーマンショック後の落ち込みが相対的に小さ い。また、男性の所得水準が底這い傾向であることに対して、女性は 09 年を底として回復傾向もみら れる【図表 12】。 ただし、男性との所得格差はまだ開いたままである。女性の定期給与水準の対男性比率は、年を追 うごとに上昇しているものの、50%台にとどまっている【図表 13】。 【図表12】 男女別所得水準 【図表13】 女性の所得水準(対男性比) (2010年=100) (%) (%) 55 102 45 100 男性 女性 54 44 53 43 52 42 51 41 98 96 94 92 90 定期給与 特別給与(右目盛り) 50 88 00 02 04 06 (資料)厚生労働省「毎月勤労統計」 08 10 12 (年) 40 00 14 02 04 06 08 (資料)厚生労働省「毎月勤労統計」 -5- 10 12 14 (年) 男性との所得格差の要因は、非正規労働比率の高さにあるだろう。女性の所得水準を業種別にみ ると、宿泊・飲食、生活関連サービス・娯楽、卸・小売、その他サービス業が低位に位置する【図表 14】。これらの業種に共通しているのは、先に示したパートタイム比率で上位に位置することであり、 やはり非正規化によって平均給与が引き下げられているとみるべきである。 また、これらの業種の女性就業者数は、卸・小売が約 544 万人、宿泊・飲食が約 239 万人(ともに 2014 年平均)などと多く、女性全体の平均所得を押し下げている。 【図表14】 女性の業種別所得水準(2014年) (全産業平均=100) 情報通信 金融・保険 不動産・物品賃貸 150 建設 学術研究・ 専門技術 < 所 得 水 準 全産業平均 運輸・郵便 100 > ・教 学育 習 支 援 50 医療・福祉 そ の 他 サ ー ビ ス 製造業 卸・小売 ・生 娯活 楽関 連 サ ー ビ ス 宿泊・ 飲食 0 0 500 1,000 1,500 <就業者数(女性)> (資料)厚生労働省「毎月勤労統計」、総務省「労働力調査」 2,000 2,500 (万人) ここまでみてきたように、女性の就業者数は増えてはいるものの、増加しているのは非正規・中高 年・低所得と、労働条件の厳しい層に偏っている。家庭内での役割分担や時間的制約から、これら の条件を希望して働いている女性も多いだろう。しかし、政府が掲げる「女性の活躍」が目指すもの は、女性が正社員や管理職として、男性と同等かそれ以上に活躍することであり、政策効果が浸透 しているとは言えまい。現在は、女性が本格的に活躍できる環境が整うまでの過渡期であり、今後は 女性労働者数の増加だけでなく、質の向上も課題となることが予想される。 また、企業規模別では、大企業で女性労働者の増加がみられるものの、今後の増加余地は乏しく、 女性労働者の更なる増加の受け皿としては中小企業への期待が高まっていくであろう。 「女性の活躍」 出産や子育てによる離職の減少 女性の役員や管理職の増加 企業による 労働環境の整備 女性労働者の増加 による裾野の拡大 -6- 6.中小企業における女性の雇用 商工中金が 14 年 12 月に行った「供給制約(労働力や設備の不足)が中小企業に与える影響に関す る調査」によれば、約 7 割の中小企業で正社員に占める女性の割合が 30%未満となっている【図表 15】。さらに約 6 割の中小企業が、女性管理職が「全くいない」と回答している。残りの 4 割も、そのほ とんどで「女性管理職が男性よりも少ない」と回答しており、中小企業で管理職に女性を登用する動 きは広がっていない【図表 16】。 ただし、女性正社員の割合が高いほど、女性管理職が「全くいない」比率が低くなっている。即ち、女 性を正社員として雇うことで、将来の管理職候補として活躍する女性が増えることを示している。 【図表15】 正社員の女性 比率は低い (企業割合) 【図表16】 女性管理職の現状 0% 20% 40% 60% 80% 100% 70%以上 100% 合計 50~70% 30~50% 10%未満 10~30% 正 社 10~30% 員 の 女 30~50% 性 比 率 50~70% < 80% 60% 40% > 70%以上 正社員に占める 女性の割合 10%未満 20% 全くいない いるが男性よりも少ない 男性よりも多い 0% ほとんど女性である (資料)商工中金「供給制約(労働力や設備の不足)が中小企業に与える影響に関する調査」 (注)経営者の同族関係者を除く 中小企業の今後の女性雇用の方針は、どの職種でも「不変」が最も多いものの(「該当なし」を除く)、 増加方針の企業割合が 2~3 割と、減少方針を大きく上回る【図表 17】。職種別には、生産現場や店 頭での販売・サービス業務のほか、営業職としても女性の活用を進める方針が窺える。 女性管理職についても全体の 2 割以上の企業が「増やす」と回答した。特に、年商規模の大きいほど 女性管理職を増やす方針の企業割合が高まり、中小企業でも女性管理職の必要性を感じていると みられる【図表 18】。 【図表17】 今後の女性雇用の方針 (%) 営業 0 20 40 32.5 60 80 66.4 【図表18】 女性管理職を増やす方針の企業 100 (企業割合、%) 40 38.6 1.1 全体平均 販売・サービス 総務・企画・ 人事・経理 34.1 64.8 21.6 76.2 30 1.1 2.1 20 19.8 現業・生産 35.7 61.9 23.5 75.0 1.5 その他 12.5 86.7 0.8 10 20~ 50億 50~ 100億超 100億 23.3 14.3 0 5億以下 不変 28.5 2.4 研究開発・ 商品開発・設計 大幅に・やや増加 28.3 大幅に・やや減少 5~ 10億 (資料)商工中金「供給制約(労働力や設備の不足)が中小企業に与える影響に関する調査」 -7- 10~ 20億 <年商規模> 女性正社員や管理職を増やすために中小企業で取り組む予定の方策としては、「出産・育児休業制 度などの導入」や「時短勤務などの柔軟な雇用形態の導入」が多く、女性が働きやすい労働環境整 備の推進が優先されている【図表 19】。 その他の方策として、「女性従業員の計画的な育成」や「外部研修など教育訓練の推奨」など女性の 能力向上策を予定する企業も多い。これらの方策に対しては、現在の女性正社員比率が高いほど 積極的であり、今後の中小企業が女性活躍の場所として変化していくことが期待される。 【図表19】 女性正社員や女性管理職の増加のために取り組む方策 (%) 40 <正社員の女性比率> 30 20 26.0 25.9 10%未満 10~30% 30~50% 50~70% 70%以上 合計 23.8 (複数回答) 15.2 10 14.7 12.7 4.1 3.8 0 な ど の 導 入 休 業 制 度 出 産 ・ 育 児 の時 形柔短 態軟勤 のな務 導雇な 入用ど 計 画 的 な 育 成 女 性 従 業 員 の の 推 奨 教 育 訓 練 外 部 研 修 な ど 資 の格 支取 援得 な 採 用 や 起 用 種 へ の 積 極 的 績 が 少 な い 職 女 性 の 配 置 実 そ の 他 の 設 定 目 標 比 率 目 標 人 数 や (資料)商工中金「供給制約(労働力や設備の不足)が中小企業に与える影響に関する調査」 (参考資料) 商工中金調査部 「供給制約(労働力や設備の不足)が中小企業に与える影響に関する調査」 ( http://www.shokochukin.co.jp/report/tokubetsu/pdf/cb15other03_01.pdf ) 本資料は情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の決定につきましては、 お客様ご自身の判断でなされますようにお願いいたします。また、文中の情報は信頼できると思われる各種データに 基づいて作成しておりますが、商工中金はその完全性・正確性を保証するものではありません。 -8-
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