基本編第1章 土壌汚染とは

基本編
第1章 土壌汚染とは
基本編
第1章 土壌汚染とは
(1) 土壌汚染の種類
① 人為的原因による土壌汚染
工場等の操業に伴い、原料として用いる有害物質を含む液体を地下に浸み込ませてしまった
り、有害物質を含む固体を不適切に取り扱ってしまったりすることなどにより、土壌が有害物
質によって汚染された状態のことをいいます。
人間の活動などに
伴って生じた有害物
質が土の中にたまっ
ている。
図1.1 人為的原因による土壌汚染
② 自然由来の土壌汚染
人為的原因によるものではなく、自然状態の地層にもともと含まれている有害物質による土
壌汚染のことをいい、地質的に同質な状態で広く存在しているのが特徴です。
日本列島は四方を海に囲まれ、多くの鉱山が存在しています。このため、もともと海であっ
たときに海水を含む土壌が堆積した地層や、鉱石に由来する土壌が表流水で運ばれて堆積した
地層が全国各地に存在しており、これらの地層に由来する砒素、鉛、ふっ素、ほう素等による
土壌汚染が広く分布していることが確認されています。
③ 水面埋立て用材料由来の土壌汚染
公有水面埋立法(大正10年法律第57号)による公有水面の埋立て又は干拓の事業により造成
された土地において、当該造成時に水面埋立て用材料として使用された水底土砂や建設残土に
有害物質が含まれていたことにより生じた土壌汚染のことをいいます。
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(2) 土壌汚染による健康影響
① 土壌汚染による有害物質の摂取経路
土壌汚染による健康被害は、土壌に含まれていた有害物質が人の体内に取り込まれるこ
とにより生じます。有害物質が人の体内に取り込まれるまでの経路(摂取経路)としては、
土壌中から溶け出して地下水が汚染され、その地下水を飲用する地下水経由の摂取と、手
についた汚染土壌や砂ぼこりが口から入るような直接摂取の他、土壌中から揮散した有害
物質を含む地上の空気を呼吸で吸入することによる大気経由の摂取、有害物質を吸収した
魚介類や農作物等の食品経由の摂取があります。
吸収
直接摂取
(手で触る・
砂ぼこり)
土壌または地下水摂取経路
蓄積
井戸水
汚染された土
溶出
流出
川・海
揮散
農作物・
家畜
魚介類
吸入
摂食・飲用
その他の経路
大気
地下水
(帯水層)
図1.2 土壌汚染による有害物質の摂取経路
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第1章 土壌汚染とは
基本編
トピック1 土壌汚染対策法における摂取経路と対策
土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)では、地下水経由の摂取と直接摂取の二つ
の摂取経路による健康被害を防止するため、摂取経路の管理、摂取経路の遮断又は土壌
汚染の除去により措置がとられることとなっています。
土壌溶出量基準
不適合
地下水経由の摂取
(地下水飲用あり)
摂取経路の管理
地下水の水質の測定
摂取経路の遮断
封じ込め等
土壌汚染の除去
土壌含有量基準
不適合
土壌汚染
直接摂取
(公園、砂場等)
摂取経路なし
摂取経路の管理
立ち入り禁止等
摂取経路の遮断
盛土等
土壌汚染の除去
措置必要なし*
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*土地の形質の変更の制限
汚染土壌の搬出等の規制あり
② 有害物質の摂取による健康リスク
土壌汚染を引き起こしている有害物質の摂取経路が存在すると考えられる場合は健康被
害が生じる可能性があり、その健康被害が生じるおそれ(健康リスク)の程度は、有害物
質の有害性がどの程度高いかという点と、有害物質がどの程度摂取されるかという点の二
つの要素から決まります。
健康リスクは、土壌中の有害物質の有害性が高くなればなるほど、また、有害物質の摂
取量が多くなればなるほど高くなります。
土壌汚染による 土壌中の有害物質 土壌中の有害物質
=
×
健康リスクの程度 の有害性 の摂取量
トピック2 土壌汚染対策法における「汚染状態に関する基準」設定の考え方
◆ 「汚染状態に関する基準」は、長期間の特定有害物質の摂取を想定して、健康被害
の防止の観点から定められています(一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な
影響が現れないと判断されるレベル又はリスク増分が10万分の1となるレベル)
。ま
た、一時的な特定有害物質の摂取を考慮して、急性影響の防止についても考慮されて
います。
地下水経由の摂取によるリスクに対する基準(土壌溶出量基準)
汚染土壌から特定有害物質が地下水に溶出し、その地下水を飲用することによる
健康リスクに対して定められている基準で、一生涯(70年間)1日2Lの地下水を
飲用し続けることを想定して設定されています。
直接摂取によるリスクに対する基準(土壌含有量基準)
特定有害物質が含まれる汚染土壌を直接摂取することによる健康リスクに対して
定められている基準で、一生涯(70年間)汚染土壌のある土地に居住し、1日当
たり子ども(6歳以下)200mg、大人100mgの土壌を摂食することを想定して設
定されています。
◆ 土壌汚染対策法では、土壌汚染状況調査の結果、特定有害物質によって「汚染状態
に関する基準」に適合しないとみなされた土地を、要措置区域等に指定された土地と
して扱うことになっています。
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第1章 土壌汚染とは
基本編
トピック3 土壌汚染対策法における
「健康被害が生ずるおそれに関する基準」
◆ 「健康被害が生ずるおそれに関する基準」は、基準不適合土壌に対する人のばく露
の可能性があること、かつ、汚染の除去等の措置が講じられている土地でないことと
なっています。
人のばく露の可能性があること
①地下水経由の摂取による観点から
当該地の周辺で地下水の飲用利用等がある場合。
②土壌の直接摂取による観点から
当該地に人(第三者)が立ち入ることができる状態となっている場合。
汚染の除去等の措置が講じられている土地でないこと
指示措置等に関する技術的基準に適合する汚染の除去等の措置が講じられている
土地は、要措置区域に指定されません。
◆ 土壌汚染対策法では、「汚染状態に関する基準」に適合しない土地について、
「健康
被害が生ずるおそれに関する基準」に該当する(人の健康被害が生ずるおそれのある)
土地が要措置区域に、該当しない(人の健康被害が生ずるおそれのない)土地が形質
変更時要届出区域に指定されることになっています。
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