海 外 事 情 - 公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター

海外事情・ISWA 訪問記
JW 2004・7
海
事
外 情
ISWA 訪問記
-持続可能な廃棄物マネジメントに向けて-
(財)日本産業廃棄物処理振興センター
常務理事
槇野
克巳
コペンハーゲンの街並を背にする筆者
1.はじめに
しい思い出となっている。今回
昨年(平成15年)の11月2日か
の訪問において横浜会議を通し
ら11月12日にわたり、
(社)日本
て交流を深めた、ISWA本部のベ
環境衛生施設工業会(JEFMA)
ルツ所長に再会できたことは、
の海外環境事情調査事業の一環
大きな喜びであった。同時にベ
として、北欧(デンマーク、ス
ルツ所長のISWAに対する情熱
ウェーデン及びフィンラン
に胸を打たれた訪問であった。
ド)・ロシアの4カ国への調査団
本稿では、上記調査団の報告
に参加した。最初の訪問国デン
書がすでにJEFMAより公開さ
マークでは、ロラン島のマリボ
れ、入手可能(URL http://www.
CHPプラント、デンマーク環
jefma.or.jp)であることを踏まえ、
境・エネルギー省とISWA(Inte-
ISWAの近況と、ISWAが考える
rnational Solid Waste Association-
廃棄物マネジメントに関する今
国際廃棄物協会)を訪問した。
後の展望に焦点を絞り、紹介す
ISWAは、1996年(平成8年)10
ることとしたい。
月27日から11月1日まで、
アジア
で初めて「第7回国際廃棄物会
議」を横浜市において開催した。
2.ISWAの概要
(1) 目的
会議はISWAとわが国の国会員
ISWAは、独立、非政府、非
(National Member)である(社)
営利の組織であり、本部はデ
全国都市清掃会議と開催地、横
ンマーク、コペンハーゲンに
浜市が主催するものであった。
ある。ISWAの目的は、以下の
筆者は、当時(社)全国都市清
とおりであり、廃棄物マネジ
掃会議に在職しており、横浜市
メントのあらゆる側面につい
の皆さんと共にこの世界会議の
ての全世界における情報及び
事務局を担当したことは、懐か
経験の交換・共有の最大化に
- 44 -
JW 2004・7
海外事情・ISWA 訪問記
こととしている。
ある。
・持続可能な廃棄物マネジメ
ントのグローバルな促進
表1
・人の健康、天然資源及び環
境の保護
ISWA 会員の内訳
(2003.10.24 時点)
・国会員
31
・情報提供
・加入予定国家会員
・研究開発、教育及び訓練の
・個人会員
4
813
・金会員
29
・政策提言
・銀会員
100
・会員サービス
・学生会員
18
・名誉会員
18
推進
(2) 会員
会員の種類は、基本的には3
合計
1,013
種類(国会員、個人会員及び
団体会員)である。国会員は
なお、団体会員における金、
その国の廃棄物マネジメント
銀会員の差異は、会費とそれ
分野を代表する組織会員、個
に応じた便益に基づくもので
人会員は、一般個人会員、学
あり、また、個人会員でも学
生会員及び名誉会員、ならび
生会員と途上国会員には、会
に、団体会員は、金及び銀会
費の割引制度が設定されてい
員の2種から成る、民間企業、
る。詳しくは、ISWAのホー
地方自治体、
公的機関、大学、
ムページ(URL http://www.iswa.
研究機関、または、ごみマネ
org)を参照されたい。
ジメント分野に関わっている
(3) 組織体制
組織会員である。2003年10月2
ISWAの組織体制を図1に示
4日時点での、各会員数は、表
す。執行機関としての理事会
1のとおりで、合計1,000強と
は11名より構成され、その11
なっている。
会員数の増
加は、ISWA
強化の基本
であり、南
アメリカ、
東ヨーロッ
パ、中東、
アジアでの
活動の強化
等、継続的
に取り組む
コペンハーゲン ISWA 本部にて
右から5人目が所長ベルツ女史
- 45 -
海外事情・ISWA 訪問記
JW 2004・7
名は、国会員6名、団体会員代
は、筆者の訪問した2003年に
表2名及び地域展開ネットワ
おいては11グループ(生物学
ーク代表3名から構成されて
的廃棄物処理WG、収集・運
いる。また、国会員6名から、
搬技術WG、コミュニケーシ
会長、副会長、会計及び科学
ョン・社会問題WG、発展途
技術委員会(STC)委員長が選
上国WG、持続可能な発展に
出される。現在の会長は、フ
向けての経済分析WG、有害
ランスのJEAN-Paul Leglise氏、
廃棄物WG、医療廃棄物WG、
事務局長は、Suzanne Arup
法律問題WG、リサイクル及
Veltze女史(前述)である。地
び廃棄物抑制WG、衛生埋立W
域発展ネットワーク組織の設
G、熱処理WG)であったが、
置と理事会へのその代表の参
表1では発展途上国WGがな
加は、特に南アメリカ、アジ
くなり、10グループとなって
ア及びオセアニア地域、東ヨ
いる。
ーロッパ及びロシア、並びに
(4) 主な活動
中東へのISWAの活動強化を
1)ISWA発展プログラム(IDP)
図るためである。なお、ISWA
プログラムの目標は、特に
には、図1の科学技術委員会の
発展途上国において、高環境
他に、執行及び戦略企画委員
効率で持続可能な廃棄物マネ
会(ESPC)、財務委員会(FIC)、
ジメントシステムの実行を支
会員及び組織委員会(MOC)
援することである。
IDP推進計画には、次のもの
及び出版委員会(PUC)がある。
がある。
ワーキンググループ(WG)
国会員
総
会
理事会:11名
国会員:6名
その他会員:5名
会長、副会長
団体会員代表:2名
会計、科学技術委員会委員長
地域ネットワーク代表:3名
国会員代表:2名
事 務 局
事務局長
地域発展ネットワーク
図1
- 46 -
科学技術委員会(STC)
ワーキンググループ:10
ISWA の組織体制(2004.1.15 時点)
JW 2004・7
海外事情・ISWA 訪問記
・発展途上国における廃棄物
Annual Report”, “Safe Haza-
マネジメントに関する訓練
rdous Waste Management Sy-
コース、セミナー及び講習
stems, 2002 Update”、などを
会の開催または支援
出版している。
・訓練ならびに教育材料及び
出版物の用意
・訓練活動へのISWA専門家及
び講師の派遣
・地域及び局所レベルでの能
力形成の支援
・局所的な組織及び専門員ネ
ットワークの構築
2)会議開催
主 たる 会議は 年次 大会で
あり、2004年は、10月17-21
4)国際機関との協調
ISWAは、廃棄物マネジメン
トという観点から、持続可能
な発展に向けてのUNEP(United
Nations Environmental Programme)の活動に協調して取り
組むとともにWHO、OECD、
PoP(有機汚染物質に関する
防止条約事務局)などの組織
とも協調している。
5)資格認定制度の導入
日においてイタリア・ローマ
ISWAでは、
“ISWA認定職業
で開催の予定である。特定の
廃棄物管理者”制度の導入を
テーマに関する会議として
図るべく、内部議論を進めて
“Beacon(標識の意)”会議
きた。これについては、次の
があり、2005年4月には「有害
ステップとして、
“持続可能な
廃棄物防止会議/スペイン・バ
廃棄物マネジメント協議会”
ルセロナ」、10月には、「廃棄
を立ち上げ、検討を進める予
物エネルギー会議/スウェー
定としている。
デン/マルメ」が予定されてい
る。
3)出版事業
ISWAは、定期刊行物として、
3.廃棄物マネジメントに関
する今後10年の展望
ISWAは、廃棄物マネジメント
“Waste Management World”,
の近未来像の提示と世界各国の
“Waste Management Research”,
政策策定者にとっての持続可能
及び“EU Newsletter”の発行
な廃棄物マネジメントの政策革
のほか、活動成果物としての
新のための指針となる、今後10
各種報告書、例えば、“Report
年の展望をまとめている。その
on 10 Years Perspectives in
内容は、1992年にリオデジャネ
Waste Management”, “Industry
イロで開催された国連地球サミ
Sector Report”, “Training
ットでの“アジェンダ21”によ
Resources Pack for Hazardous
る持続可能な発展に向けての取
Waste Management in Develo-
り組みを踏まえたものとなって
ping Countries”, “ISWA 2003
いる。
- 47 -
海外事情・ISWA 訪問記
JW 2004・7
(1) “アジェンダ21”に設定
された内容
アジェンダ21では、環境に
ラムの策定
・発展途上国による、その発
展見通しを損なわない形で
健全な廃棄物マネジメントと
の目標に向けての努力
は、廃棄物のより安全な処分、
アジェンダ21には、また、
または資源再生に向けた取り
有害廃棄物の発生の回避と抑
組みとすべきこと、そして総
制のための行動目標の設定と
合的なライフサイクルマネジ
有害廃棄物の越境移動の規制
メント概念の導入により生産
に関するバーゼル条約の批准
及び消費を、より持続可能な
が取り決められている。有害
パターンに変えていく必要が
廃棄物の回避と抑制の行動目
あることを提唱している。
標を達成するため、総合的な
アジェンダ21には、また、
クリーン生産への取り組みと
次の4つの段階から成る、
いわ
法的及び市場メカニズムの使
ゆる廃棄物階層が導入された。
用によるその促進の必要性が
・廃棄物の抑制
盛り込まれている。さらに、
・環境的に健全な廃棄物の再
有害廃棄物の環境的に健全な
使 用及 びリサ イク ルの最
マネジメントの確立において、
大化
優先すべきことは、すべての
・環境的に健全な廃棄物の処
分及び処理
・廃棄物のサービス対応範囲
社会レベルにわたり、意識向
上、教育及び訓練プログラム
を用意することであると強調
している。
の拡大
このような目標に対して、
しかしながら、リオの10年
アジェンダ21では、次の行動
後の今日、世界は依然として
目標を設定した。
廃棄物量の増加に直面してお
・最終処分される廃棄物の発
り、特に、発展途上国を見た
生の安定化、または削減
場合、事態はほとんど動いて
・2000年までに、廃棄物の統
いない。このことから、ISWA
計的情報の入手及び動向監
は、発展途上国の問題が、次
視ができ、かつ廃棄物抑制
の10年における最優先課題で
政策を実行しうる、十分な
あると判断している。
国家的、地域的及び国際的
(2) 次の10年において進むべ
能力の確立
き方向
・2000年までに、すべての先
ISWAによれば、廃棄物マネ
進国において、最終処分さ
ジメント分野において次の10
れる廃棄物の発生量の安定
年間に取り組むべき主要な努
化及び削減のためのプログ
力目標は、次の4点である。
- 48 -
JW 2004・7
1.廃棄物の発生の安定化及び回
避並びに経済的成長と廃棄物
発生の相関解消
2.発生した廃棄物の有害性の減
海外事情・ISWA 訪問記
り注意を払う必要があるとし
ている。廃棄物の有害性はま
すます増加しており、環境リ
スクの増大は顕著である。ま
たISWAは、医療廃棄物の管理
少
3.統合的な廃棄物マネジメント
システムに焦点を当てる必要
の適用による持続可能な廃棄
があるとしている。この問題
物処理の確立
は、処分方法に規制が、ほと
4.発展途上国における廃棄物の
んど、あるいは全くない所及
収集、処理及び処分の健全な
びごみ拾いが生活の一部とな
廃棄物マネジメントの導入に
っている発展途上国において
向けての活動
より深刻である。
3)持続可能な廃棄物マネジメ
1)廃棄物の発生の安定化及び
回避
ント
歴史的には、廃棄物マネジ
課税及び助成、デポジット
メントの主たる関心事は、安
システム、エコラベルなどの
全衛生であり、今後もその重
回避を追及する多くの手法が
要性に変わりはない。しかし、
ある。しかし、もっとも重要
今日の社会は、安全衛生に加
な回避手段は、耐久性、低有
えて、持続可能な廃棄物マネ
害性及び低資源使用性の点で、
ジメントを求めている。持続
より良い製品を得ることであ
可能な廃棄物マネジメントと
る。また、修理、再使用可能
は、最も基本的なレベルで次
な製品または部品に焦点を当
のことをいう。
てる必要がある。先進国から
・環境保護において効率的で
発展途上国への環境問題の輸
出防止も重要な課題である。
単に製品、物質及び材料の
廃棄段階だけでなく、生産経
あること
・社会的に受容可能であるこ
と
・効率的な経済的実行可能性
路全体、すなわち、初使用資
を有すること
源採取から消費までに、焦点
過去においては、廃棄物マ
を当てる必要がある。
ネジメントシステムの単純な
2)廃棄物の有害性の減少
資本及び運営コストが、意思
過去数年においては、政府
決定過程において最も重要な
の主たる焦点は家庭ごみに置
決定要素であった。しかし、
かれてきた。ISWAは、これに
最近では、環境配慮がますま
対し、その有害物質含量が高
すその重要性を増しつつある。
いことから、産業廃棄物によ
意思決定の新しい方法の探
- 49 -
海外事情・ISWA 訪問記
JW 2004・7
索・確立のためには、幅広い
ている。
利害関係者間の交流・対話が
米国の例によれば、過去の
必要である。これは廃棄物マ
有害廃棄物による汚染の浄化
ネジメント組織が取り組むべ
には、多大なコストを必要と
き課題である。この取り組み
する。よって、有害廃棄物対
は、廃棄物の抑制及び経済的
応システムの早期構築が重要
成長と廃棄物発生の相関解消
である。
という最終目標の達成への一
また、医療廃棄物について
助となる。また、廃棄物マネ
は、重点的な取り組みが必要
ジメントは、単なる排出端問
である。特に、感染性廃棄物
題の管理であってはならず、
を滅菌処理することは必須事
持続可能な発展に向けた環境
項である。ISWAは、低及び中
政策全体の一構成要素でなけ
収入国を対象とした医療廃棄
ればならない。
物マネジメントプログラムの
持続可能な廃棄物マネジメ
開発に関し、数年間にわたり、
ントの第一の達成目標は、発
WHOに協力してきた。今後と
生廃棄物量の削減である。第
も強力な取り組みが必要であ
二の達成目標は、持続可能な
る。
方法において廃棄物を管理す
スカベンジャーは、収集段
ることである。第三の達成目
階あるいは処分段階のいずれ
標は、廃棄物討論を“廃棄物”
の段階においても、収集ある
焦点から“資源”焦点に転換
いは処分効率の低下に繋がる
することである。廃棄物マネ
行為であり、また彼ら自身の
ジメントシステムが最適化さ
安全衛生への悪影響も大であ
れた資源マネジメントシステ
る。よって、既存のスカベン
ムに進化した時、それは真に
ジャーシステムの適切な改善
持続可能なものとなる。
を行い、資源再生を特定の場
4)発展途上国問題
所に限定して、その作業条件
発展途上国においては、無
を安全かつ衛生的にする必要
規制の埋立処分により、周囲
がある。特に、子供及び老人
環境が汚染され、それによっ
によるスカベンジ行動の禁止
て飲料水及び土壌が汚染され
は、最重要課題である。
るなど、住民の健康リスクが
(2) 今後10年において採用す
高くなっている。ISWAは、無
べき主な方策
規制の埋立処分が当たり前と
ISWAによれば、廃棄物の量
なっている国においては、衛
及び有害性の両者を回避し、
生的埋立処分場の確立に高い
減少させるため、先進国にお
優先性を置くべきであるとし
ける廃棄物産業が今後10年に
- 50 -
JW 2004・7
海外事情・ISWA 訪問記
おいて採用すべき主な方策は、
サービスなどの段階的な導
次のとおりである。
入・整備
・廃棄物政策の、製品政策及
・先進国からの環境問題の輸
び その 他の政 策へ の統合
入阻止
化
以上の方向及び方策に関し、
・資源の節約及び再生
ISWAは、積極的に取り組むこ
・偽善再生を防止するための
ととしている。
再生判断基準の策定
・リサイクル材市場の改善
・優れた製品設計、低有害性、
4.あとがき
1992年のリオデジャネイロ国
及 び初 使用資 源材 の使用
連地球サミットは、まさにパラ
量低減
ダイム転換の起点であった。廃
・グリーン製品化を促進する
経済的手法の適用
・発生回避計画の策定及びそ
の目標の設定
棄物分野に関しても、持続可能
な発展に向けての取り組みが行
われ、わが国においても循環型
社会形成推進基本法、資源有効
・排出者責任対象製品の拡大
利用促進法、
各種リサイクル法、
及びその輸入品への適用
グリーン購入法などの制定・施
・デポジットシステム及び再
行、及びこれらに関連する廃棄
使用/レンタルの導入
・国際的廃棄物条約の批准及
び執行
物処理法の改正が行われたのは
周知のとおりである。廃棄物マ
ネジメントに関しても、従来型
・住民の情報公開及び啓発に
の排出端での管理という枠組み
対する優れた戦略の展開
から、廃棄物の発生抑制を踏ま
・新技術への重点投資と研究
えた上流側である生産系への働
開発への助成
・利害関係者による知識の共
有化と連携
きかけを含む枠組みへと、その
対象範囲を拡大しつつある。当
日廃振センターとしても、新し
・包括的な廃棄物マネジメン
い廃棄物マネジメントへの転換
トの推進と高環境効率処理
の一翼を担えれば、と考えてい
の追及
るところである。
・廃棄物の陰の流れの目視化
と発展途上国への環境問題
の輸出防止
一方、発展途上国について
は、次の2点が挙げられる。
・法律・制度、技術・施設、
要員育成、住民啓発、支援
- 51 -