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アパレル産業展望
─2006年央に見る景況と今後─
経済工学リサーチ
主宰 河内 保二
1.景気拡大の中のアパレル産業展望
日本の景気はバブル崩壊後、辛い長い不況に落ち込んでいたが、このところ景気拡大
局面が4年半続いてバブル景気を抜いたと論じられるようになってきた。やっとの思いの
待望の景気回復である。ここまで書いたところで 6 月 8 日、世界株安が襲い、景気減速の
懸念が生じている。谷垣財務相は日本経済の回復に変調をきたしたわけではないとの見方
を示しているが…。ここで、繊維・アパレル業界はこれまでの苦境の中でその規模を急速
に縮小してきており、その衰退の流れは 2006 年半に至っても改善が見られない状況であ
る。これまでは、繊維・アパレル産業の苦境は日本経済の長期不況のためと見られなくは
なかったが、日本の景気の回復に伴って、繊維・アパレル産業のこの苦境を日本の不況の
せいにするわけにはいかなくなった。従って、日本景気の回復により放っておいても繊維
・アパレル産業が景気回復すると考えるわけに行かない。まして景気減速にもなれば、衰
退の度を強めるだけとなる。それでは、どうして景気回復に取り残され、衰退から脱する
ことができないのだろうか─こうした点を中心にして、アパレル産業について展望してみ
よう。
2.繊維・アパレルの統計が語る実態
最近発表された平成 16 年工業統計(1 年半前の平成 16 年末現在での統計)
、直近の
平成 18 年 4 月繊維・生活用品統計、および同商業販売統計などにより繊維・アパレル産
業の生産、販売の状況を把握することができる。先ず平成 16 年工業統計によると、衣服
・その他の繊維製品製造業は、従業員 4 人以上の事業所について輸入製品の拡大を背景に、
この 10 年間に事業所数、従業員数、出荷額、付加価値額などの項目すべて大幅な減少と
なって、厳しい状況となっている。事業所数では平成 6 年 34,230 所が平成 16 年 15,008 所
に、従業員数は 633,865 人が 258,524 人に、出荷額は 5 兆 3,984 億 3,3 百万円が 2 兆 2,500
億 2,4 百万円に、付加価値額は 2 兆 5,380 億 08 百万円が 1 兆 0615 億 2,6 百万円に、とい
うように半減を下回っている。数値は省くが、繊維工業についても窮状は変わらない。次
ぎに直近の統計を見ると、そこでも衰退の傾向は続いている。平成 18 年 4 月の繊維・生
活用品統計によると、繊維工業の動向は前月比(季節調整済指数)で、生産は 0.9 %低下、
出荷 0.6 %低下、在庫は 0.6 %低下となっており、前年同月比(原指数)では、生産 5.9%
減、出荷 4.9%減、在庫 5.0%減であった。 ここでの繊維工業の数字には、衣類関係を含
んでいる。 推移グラフは平成 12 年を 100 として示され、4 月生産(季節調整済指数)で
繊維は 63.2%に縮小し、衣類は 48.5%と半減している。因みに衣類関係の数字(原指数)
では、生産の前年同月比は 7.7 %低下、出荷は同 6.4 %低下、在庫は同 2.6 %低下である。
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さらに平成 18 年 4 月の商業販売統計によると、全体の小売業販売額は平成 16 年 7 月を底
としてプラスに転じているが、織物・衣類・身の回り品ではプラス転化が遅れており、本
年に入ってからも小売業販売額は前年比 1 月が 3.6%減、2 月が 2.5%減、3 月が 1.9%減、4
月が 2.4%減というように不振であり、繊維・アパレル業界の悩みは深い。日本経済の景
気回復が明らかになる中に、統計数字を見て、推移グラフを見て(どこまで続くのかと心
配し)
、他の業種がよくなっているだけに、繊維・アパレル産業が苦境のまま取り残され、
不況残留業種の衰退業界になってしまうのではないかと一段と懸念されるのである…。
3.目標モデルの喪失
劇的に景況が悪化したのはイタリアであり、ここ 2 年余りはドイツに代わり「欧州の
病人」と評されるほどの不振に喘いでいる。製造業の競争力の低下による輸出と投資の低
迷が最大の原因とされ、世界の輸出に占めるイタリアのシェアも 99 年の 4.1%から 2004
年は 3.7%へ低下している。製造業の競争力低下は、情報やバイオなどのハイテク産業が
弱く、繊維、衣類、靴、家具、一般機械などのローテク、低スキルの低付加価値商品に特
化しているため、低賃金の新興諸国との競合により、国内生産は過去数年で大幅に減少し
ている。また、小規模企業のネットワークによる産業集積に支えられた高度なデザイン性、
生産工程の分業化、専門化などにより「柔軟な専門化」と呼ばれたイタリア産業の強みも、
ドイツ企業などの多国籍化により脅かされるようになっていると、報告されている。それ
だけに止まらず、イタリアモデルは終焉とすら論じられている。かっては、イタリアブー
ムの中でイタリア礼賛モードとなり、イタリアモデルとして学び、追随しようとする動き
が起こった。例えば、平成 16 年度から京都の産業界の主導により「イタリアモデル」を
積極的に取り入れるため、京都と北イタリアとのビジネス交流プログラムが開始されたり、
他ではアパレル先進国であるイタリアに学びながら、日本国内の生産基盤を守り、世界に
通用する日本発の製品を創り出すという動きがあったり、さらに学びの先を中小企業で付
加価値、ブランド力抜群のミラノとして、定期的にミラノと交流をもって地場としてブラ
ンド力をつけていくなどが構想されたりした。しかし、イタリアの産業は、企業総数 430
万社で、そのうち製造業は 138 万社。大企業が少なく中小企業が中心の国で、従業員の雇
用の 80%は中小企業である。その中小企業の平均従業員規模は 8 名程度。そんな企業を
イタリアでは「アルティジャナート」と呼んでおり、実質的にはこれのような企業を学ぶ
ことになる。イタリア経済の現在の低成長は、需要面、供給面の両者が絡み合った複合的
な要因によるものであり、その根は深いとされ、諸機関の成長率の予測を概観すれば、昨
年はゼロからマイナス成長、2006 年は 1 ∼ 1.5%と厳しい。更に中長期的にイタリア経済
が非常に厳しい状況に陥っているとの認識は共通している。イタリア製品の生産現場で閉
鎖・倒産に追い込まれる工場が相次ぐに至っており、中国製品の輸入の激増に完敗となっ
ている。そこにはビジネスモデルとしての姿は最早見当たらない。
4.国際競争力の実態
かってアメリカ繊維・アパレル産業がモデルとして目指されたときは、国際貿易論の
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「レオンチェフ・パラドックス」という説が注目されていた。これは、一般に資本の豊富
な国は資本集約的な商品を輸出し、労働集約的な商品を輸入するという通常の貿易理論に
対して、アメリカでは労働集約的商品を輸出し、資本集約的商品を輸入するという逆の現
象がみられたことから出た逆説である。日本もアメリカのように繊維やアパレルなどの労
働集約的商品を輸出できるのではないか。そしてイタリアの場合、「イタリア製」と表示
された製品の大半は、成長率の低い伝統的な消費財や資本財であり、これが輸出され、情
報技術(IT)、家電、化学品、医薬品など高成長セクターが占めるシェアが比較的低いため、
パラドックスに該当していた。その後、アメリカでこのパラドックスが通用しなくなると
アメリカモデルは用済みとなり、代わってイタリアをモデルとするようになったと見るこ
とができる。2004 年イタリア繊維・アパレル産業統計(SMI on ISTAT, Movimprese,
Prometeria and Seetor Association's data による)では、企業数:67,457 社、従業員数:54 万
3,124 人、売上高:4,256 億 5,100 万ユーロ、製造付加価値額:全体の約 10 %、全取引中輸出
:62 %、外国貿易黒字:120 億ユーロとなっていた。そのイタリアも 2004 年末の WTO 割当
制撤廃による中国からの輸入品激増に負けて、モデルの地位を失った。これを巻き返そう
と急遽、2005 年 9 月「メード・イン・イタリア」キャンペーンを SMI(システマ・モー
ダ・イタリア)が打ち出した。しかし、復権は容易ではなかろうと見られている。
わが国の繊維・アパレル産業は念願としてヨーロッパにその製品を輸出したいと思う。そ
のヨーロッパについては、EURATEX(欧州繊維産業連盟)によると、EU-25(EU25 か国)
における織物と衣服の消費は 3 兆 6,630 億ユーロであり、世界で最も大きな市場であり、
同時にヨーロッパ産業は織物と衣服に対し世界 3 番目の主導的輸出業者でもあると述べて
いる。これは EU の国際競争力が世界 3 位であることを示す。さらに、EU 統計(Eurostat)
は次のトップテンのデータを示している。
EU-25 のテキスタイルズ供給主要10か国として、①中国②トルコ③インド④パキスタン
⑤スイス⑥米国⑦韓国⑧日本⑨台湾⑩インドネシアの順となっていて、日本が 8 位に顔を
出している。
同テキスタイルズ市場主要10か国として、①米国②ルーマニア③トルコ④チュニジア⑤
モロッコ⑥スイス⑦香港⑧ブルガリア⑨ロシア⑩日本となっている。
同衣服供給主要10か国として、①中国②トルコ③ルーマニア④バングラディシュ⑤チュ
ニジア⑥インド⑦モロッコ⑧香港⑨インドネシア⑩ブルガリアとなっていて、日本は入っ
ていない。
同衣服市場主要10か国として、①スイス②米国③ロシア④日本⑤ルーマニア⑥ノールウ
エイ⑦香港⑧チュニジア⑨ブルガリア⑩モロッコとなっていて、日本は EU 衣服の市場と
して4位である。
対ヨーロッパについては、日本の繊維・アパレル産業の存在感は薄く、国際競争力の弱さ
が示されている。これが実態であろうが、日本国内では素晴らしい繊維産業であり、素敵
なアパレル産業であると自己満足している言説が多い。現実を直視して、その反省の上に
日本の国際競争力を高めるような努力をしないと、供給で中国、インド、韓国、香港に負
け、日本は EU の商品をただ買うだけの国であることを続けることになるだろう。
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5.欧米繊維・アパレル産業の現状と今後
EU-25(EU25 か国)における 2004 年繊維・衣服産業統計(EURATEX)によると、
事業所数 19 万 7856 所、全雇用数は 238 万 1,804 人となっている。
ミラノの Samab 展では、2004 年 11 月、EU-25 の織物と衣類の年間売上高は 2,270 億ユー
ロであり、その 18 万 6,533 の会社は 270 万人以上を雇用すると説明している。
しかし、欧米を中心として、安価な輸入品攻勢を受けて、縫製業はもとよりテキスタイル
産業の空洞化がさらに進展すると予想されている。こうした状況の下で、EURATEX は今
後について「EU 繊維・衣服産業 2020 年ビジョン」を発表している。それによると、織
物と衣類の未来のためのヨーロッパ技術基盤(EUROPEAN TECHNOLOGY PLATFORM)
として、ヨーロッパの織物と衣類産業の長期開発の各重要な要素を反映して、次の 3 つの
主柱を打ち建てることを目指す:①ファイバー、フィラメント、および布というコモディ
ティ・グッズから柔軟なハイテク・プロセスによるプライム・グッズへ移行すること、②
多くの工業部門や新しい適用分野での選択の素材としての織物の確立と拡張、③織物製品
の量産の時代を終わらせ、カスタマイゼーション、パーソナル化、知的な生産、ロジステ
ィクス、および流通の新しい枠組みへ向かうこと、としている。この中で、量産を廃止し
て、オーダーメードに変革するということは、筆者が唱えている「客業生産」と方向を一
致するので、その論旨”大量生産からカスタマイゼーションへ”を紹介しよう。…衣類の
大部分と他の織物ベースの商品は長い生産期間を経て製造されるので、製品開発者、メー
カー、および流通業者は集って需要の当て推量をトライし、好みを顧客に押しつける。適
所・適時・適品の供給が行われないため、売れ残り品や逃された潜在的な販売のどちらか
で大きな予測エラーを引き起こし、大きな産業ロスを生んでいる。このため、それらはカ
スタマイゼーションとパーソナル化が理想的な製品を創り出すと考えられ、消費者の仕様
書に従って正確にそれらを提供することが付加価値を生むことになると見ている。織物と
衣類の大量生産に支配された数十年であったが、先進世界において大量生産は終焉を迎え
ている。顧客ニーズと好みをよりよく把握し、活用し、管理するためのテクノロジーにお
ける最近の進歩、高性能 CAD、仮想原型ソリューション、柔軟なカスタマイズされた生
産システム、知的なロジスティクス、メーカー、流通業、およびエンドユーザーなどの間
のインターネットベースの通信システムは、織物と衣類のメーカーがパーソナル・コンピ
ュータまたは自動車のような他のセクタと匹敵する成功したカスタマイゼーション操作を
発展させることを可能にしている。…以上のような概要である。
最近このような方向で、世界的ブランドがオンライン販売を開始した。仏高級ブランド「ル
イ・ヴィトン」がオンライン販売を始めると報道され、ブランド企業が相次いでネット販
売に乗り出す。プラダ、アルマーニ、ディーゼル、ドルチェ&ガッバーナ、マルニ、ミュ
ウミュウなど、イタリアのデザイナーズブランドの商品がオンラインショップ「YOOX(ユ
ークス)」(http://www.yoox.com)より購入できる。オンライン上で、自分だけのオリジナ
ルバッグを作る「ここでしか手に入らない商品」を提供し、カスタマイゼーションの具現
化が行われている。
一方、アメリカ労働省によれば、2006 年 3 月に失業率は 4.7 パーセントまで改善し、
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経済全般が 21 万 1,000 人の雇用を増加したのに、国内の織物と衣服の製造業者の雇用(季
節調整済)は 4,600 人の削減となった。小売店は 3 月に衣服とアクセサリの店が 4,900 人
の雇用を削減し 140 万人の雇用となった一方、デパートがその労働力 160 万人へ 10,200
人の雇用を増加したので、雇用の増減の混じった結果となった。そして、米国衣服製造業
者と織物製造業者にとって傾向はすべて下り坂であった。織物工場は雇用 203,000 人へ
3,100 人が減り、織物製品工場が雇用 173,100 人へ 1,200 人を減らし、衣服製作者が雇用
253,000 人へ 300 人を削減した。
アメリカでも繊維・アパレル製造業の苦境は続いており、アメリカ経済の活況を横目に取
り残されているようである。
このような苦境の打開にはどんな方策が論じられているのか、
直近の米繊維・衣服研究所やアパレル業界誌について見てみよう。繊維・衣服研究機関
(TC)2 社では、明日のメーカー、ブランド、小売店は、大陸を横断して統合するディ
ジタル技術とプロセスの使用を通して繁栄しようと述べて、これらの会社が、製品開発か
ら流通とロジスティクスまで、最も短いサイクルタイムを可能とするシステムを実施し、
消費者需要に最も急速で効率的なレスポンスを提供することを目指すべきだと論じてい
る。また、米アパレル誌編集長は、「今年の全国小売同盟(NRF)会議の関心はサプライ・
チェーン効率であった」と述べている。このように、打開策はサプライ・チェーンの効率
向上に向けられている。そしてわが国でも、アパレル産業協会で「SCM 推進委員会」が
設けられて、推進活動が進められている。
6.付加価値生産性最低の現実と向上の鍵
これまでも繊維・アパレル産業ではファッションであることが付加価値を生み、ブラ
ンドが高価格を実現し、デザインやクリエーションが産業を発展させるとして、この方向
が促進された。ところが、ファッションビジネスの現実は、価格崩壊のジレンマである。
繊維・アパレル産業が付加価値向上を目指す論説の前に、現実の付加価値の水準を知る必
要がある。このデータは工業統計に示されて、その水準を比較するために、従業員一人当
たりの付加価値額(=付加価値労働生産性)を見なければならない。その結果は、工業統
計対象業種 24 業種中、衣服・その他繊維製品製造業は 24 位(426 万円/ 1 人)の最低で
あり、繊維工業は 22 位(781 万円/ 1 人)であり、ともに誠にお寒い水準である。しか
もこの最低水準は 20 年以上にわたって続いており、ファッションビジネスの恩恵が全く
認められない。それでは、このような最低水準の付加価値生産性をどうして高められるか
が問題となる。筆者は丁度 20 年前に、縫製業界の従業員 1 人当たり有形固定資産・機械
設備費(=資本装備率)と付加価値労働生産性の相関図を作成して検討を行い、固定資産
機械設備増額分の 3.7 倍の付加価値生産性向上金額が得られると論じた。最近、同様の観
点からの経済学研究論文を読む機会があった。慶大経済学部・産業研究所所長辻村和佑教
授と同研究所溝下雅子所員の論説「わが国繊維産業の現状と課題」
(2004 年 4 月)である。
ここでは、要点として次のように示そう。─分析結果によれば、最終工程である縫製工程
の付加価値生産性の低さが産業全体の空洞化を招いている。また付加価値労働生産性を国
際比較したところ、国際競争力で比較劣位にあり、この原因として生産性向上に不可欠な
資本設備の恩恵に欲していないことがあげられる。繊維に代表される伝統産業では過去の
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蓄積ゆえに、技術進歩の恩恵がストレートに産業振興に役立たない局面があり得る。特定
産業に傾斜した地域構造ゆえに、技術進歩への対応が地域の自主性に任されていては、そ
の恩恵を十分に受けることはできない。そして、付加価値生産性と資本装備率の分析では、
資本装備率が 1 上昇すると、付加価値生産性が約 0.7 上がると推定される。したがって資
本装備率を上げること、言い換えれば人の手で行っている作業を資本に代替させるように、
資本装備率の上昇こそが生産性向上の鍵である。中国の急速な経済発展が繊維産業を駆逐
するまで、残された時間は後わずかである。─と論じている。
7.繊維・アパレル産業の不況残留脱出へ
最近政府は中小企業白書、ものづくり白書などを発表しており、製造業の方向が示さ
れている。さらに、経済産業省が「新経済成長戦略」をまとめ、「やり方次第では、成長
は可能だ」として、今後 10 年間に、実質で年率 2.2%成長を目指すとする。成長強化策を
巡っては、経済財政諮問会議が「グローバル戦略」、自民党も「日本版上げ潮政策」を策
定している。目指す方向は同じであり、経産省の戦略をベースに各案を調整し、「経済成
長戦略大綱」を決めることになっている。こうした進路策定の中で、繊維・アパレル産業
は不況残留からの脱出が可能だろうか。中小企業白書では繊維産業対策として、次のよう
に述べている。わが国の繊維産業の非常に厳しい状況を打開するため、日本発ファッショ
ンの発信力の強化、過剰生産と廃棄ロスによる高コスト構造を是正する生産・流通構造の
改革などの施策を講じ、後者では中小繊維製造事業者自立事業の実施、SCM(サプライ
・チェーン・マネジメント)の推進、テキスタイル、アパレルの海外出展支援技術開発支
援の強化、人材育成の効果的な実施などを上げている。また、ものづくり白書では、日本
を製造業のイノベーション(技術革新)創出拠点と位置づけ、先端技術の研究・開発を進
めることの重要性を指摘し、人口減少社会での「ものづくり人材」の育成・強化の必要性
も強調している。これに先だって、経産省は「ものづくり国家戦略ビジョン」をまとめて
いるが、そこでは「従来の製造業パラダイムの限界」という見出しで、次のように記して
いる。環境資源制約の増大など内外の情勢変化により、従来の規格大量生産の製造業を中
心とした経済発展のパラダイム(大量生産・大量消費・大量廃棄による成長)は限界とな
り、人口減少も始まり、需給両面において量的拡大は困難となっている。1973 年にダニ
エル・ベルが「脱工業社会の到来」を著して以来、「脱工業」が問題提起のキーワードに
上がっている。こうした観点においては、これまで筆者は著書にも、これからの生産の在
り方として、脱工業であり、顧客満足優先の「客業生産」となると論じてきた。さて、も
のづくり白書では情けないことだが、繊維・アパレル産業については何も触れていない。
経産省は次期繊維ビジョン策定へ向けて検討を開始するという。このところ、これだけビ
ジョンが取り上げられるケースは多くない。繊維・アパレル産業は人ごとの方向付けと無
視するのでなく、自らの不況脱却の打開策として真剣に関心を向けなければならない問題
であろうと思う。
【終わり】
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