障害者権利条約に関する一考察⑧ 久保親志 批准国44カ国までの過程 2008年12月15日現在、スウェーデンが選択議定書と共に批准したことにより、 「障害者権利条約」の批准国は44カ国(選択議定書を共に批准した国は26カ国)に なりました。この発表を受けて採択からの経過を、再確認して見ましょう。 障害者権利条約が2006年12月13日の第61回国連総会において全会一致で 採択され活動の舞台はいよいよ国連の場から日本国内へと移って来たのです。2007 年3月30日には署名が開放され、日本政府は2007年9月28日に115番目の署 名国となりました。これによって条約の制度趣旨と目的を尊重しなければならない「国 際法上の義務」が日本政府に生じたのです。 2008年4月3日、エクアドルが批准したことで、効力発生要件である合計20カ 国の批准を満たして、1カ月後の5月3日に同条約が発効しました。 批准国は、条約の実施を義務付けられることになり、差別をなくし、教育や雇用など、 あらゆる分野で障害のある人に障害のない人と同等の権利を保障する義務を負います。 権利条約の国際的な実施のための「障害者権利委員会」も設置されました。条約採択 までの過程に世界の多くの障害のある人や障害者団体・関係者団体が参加し、障害者運 動の成果が随所に盛り込まれています。本条約をどのように行使するのか、法解釈論と 立法論、そして政策論にまで及ぶ条約実施過程において、私たちの「法的思考力」が問 われる時が来たといえます。 権利条約の淵源を問う 21世紀は、 「人権の世紀」と呼ばれています。昨年は、 「世界人権宣言」が1948 年12月10日、第3回国際連合総会において、 「すべての人民とすべての国とが達成 すべき共通の基準」として、採択されて60周年を迎えた節目の年でした。今世紀最初 の人権条約である「障害者権利条約」が発効した年と重なるとは、眼に見えない何か大 きな力を感じます。世界人権宣言の第7条には、 「すべての人は、法の下において平等 であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての 人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのか すいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。 」とあります。正に、 障害者権利条約の淵源だといえるでしょう。 この、世界人権宣言と国際人権規約に基づき、すべての人間の固有の尊厳、平等、権 利を保障すべきであることが、世界の自由、正義及び平和の基礎を成すものであり、世 界はそれを明らかに宣言し本条約に合意したのです。 条約の目的と基本法見直し 条約第1条の「目的」は、人権保障の国際的合意点を示しているといえます。 前段では、すべての人に保障されるべき、普遍的な人権と基本的自由を、障害のある 人に対して差別なく完全かつ平等に享有することを提起しています(非差別・平等) 。 すべての分野において、「障害にもとづく差別」を禁止し、固有の尊重を促進するため に、批准国が適切な行動をとることが義務付けられています。 後段では、 「障害」や「障害のある人」を、体のどこかに機能障害「インペアメント」 があり、そのことと社会の障壁との相互作用によって、社会参加に制約を受ける人を障 害のある人なのだという考え方、つまり障害は個人ではなく社会にあるとする社会モデ ルを明確に規定しています。 わが国の障害者関係の各種実定法の基本的な根拠になっている「障害者基本法」にお ける、障害の定義より広くなっています。 その、障害者基本法も本年2009年6月に見直しを控えており、権利条約に基づく 国内法整備が本格的な段階を迎えています。条約との関連で、具体的権利性(裁判規範 性)を伴う実体法としての「障害者差別禁止法」の制定や「障害の定義」などの見直し が検討されているところです。 (つづく) 参考文献「東俊裕・監、 DPI日本会議・編『障害者の権利条約でこう変わる Q &A』解放出版社、長瀬修・東俊裕・川島聡・編『障害者の権利条約と日本―概要と展 望』生活書院、編集代表・奥脇直也『国際条約集 2008年版』有斐閣」 。
© Copyright 2024 Paperzz