道徳1

道徳学習指導案
指導者 森
・思考力・判断力・表現力等の育成と言語活動の充実との関連
・言語の役割を踏まえた分類
主たる分類(2)ア
・言語活動の充実に関する指導事例集
美香
①⑥
関係する分類(1)イⅰ
道徳―3、4
1
主題名
あきらめない心
2
ねらい
自分がしなければいけないことは、しっかり行おうとする心情を育てる。
3
評価の観点
道徳的心情
道
徳
教
育
全
体
[1-(2)勤勉・努力]
道徳的判断力
(小学1年)
道徳的実践意欲と態度
道徳的習慣
道徳的に望ましい
道徳的価値につい
学校や家庭での生
基本的な生活習慣
感じ方、考え方や行
てどのようにとらえ
活の中で、道徳的に
をどの程度身に付け
為に対して、あるい
ているか、また、道
よりよく生きようと
実践できているか。
は逆に、道徳的に望
徳的な判断を下す必
する意志の表れや行
ましくない感じ方、
要がある場面に直面
動への構えが、どれ
考え方や行為に対し
した際に、児童がど
だけ芽生え、また定
て、児童がどのよう
のように思考し判断
着しつつあるか。
な感情をもっている
するか。
か。
自分がやらなけれ
ばいけない勉強や仕
本
事は、しっかりと行
時
おうとする気持ちを
もっている。(発言・
ワークシート)
4
主題について
(1) 教科等の観点
本主題は、学習指導要領の内容1―(2)
「自分がやらなければいけない勉強や仕事は、
しっかりと行う。
」を中心価値としている。
児童が自立し、よりよく生きていくためには、自分がやらなければいけないことは途中で
あきらめることなくしっかりとやり抜くことが大切である。本資料では、シロクマのクウが
自分でえさをとるようになるまでの様子が描かれている。低学年の児童は、保護者や教師な
どまだ誰かに頼りがちな面が多く見られる。そこで、母親に頼ってしまうクウに共感し、親
に甘えてあきらめかける心と自立しようとする心の葛藤を考えさせる。そして、自立には何
事にも粘り強く取り組み、努力し続ける忍耐力も必要であるということに気付かせたい。
また、本主題でねらいとする道徳的価値に関して、他教科等と関連付けた学習を進
め、道徳の時間を中心とした、事前・事後の段階を踏んだ指導構想を立てる。日常の教育活
動との関連を通し、意図的に働きかけながら、児童の課題意識を持続させ、道徳的実践力を
高めたい。
1
(2) 本主題で扱う主な言語活動とその意図
役割演技の活用
資料の葛藤場面で、即興的な役割演技を通して、主人公の気持ちになって考え話し合う。
これにより、演者や観衆、それぞれの立場で自分の考えを表出したり、友達の考えとの相違
点を見いだしたりすることができるだろう。道徳の学習においては、資料を読み、もしその
人物だったらと自分に置き換えて考えることが重要だが、資料を一読しただけではなりきれ
ない。そこで、身体表現を交えて演じる、
「役割演技」を取り入れ、みんなの前に立ち、役を
演じることで、その人物の立場や気持ちをより深く理解することにつなげる。役割演技は、
演者だけでなく、演じている子どもを見ている観衆にも効果がある。なぜなら、観衆が一番
冷静に演技を観察し、登場人物の心の動きを察することができるので、役割演技を活用する
意義は大きいと考える。しかし、役割演技を行う際には、いくつか留意すべき点がある。ま
ず、一つ目として、即興的に演じられるように資料の設定場面を児童が自分のこととして受
け止め、理解できるように日常との距離が近い内容を選ぶようにする。
二つ目として、児童はその場で与えられた役を演じるのだから、演者にも観衆にも演技の
巧拙は問題外であることを周知徹底する。三つ目として、いつでも自分の考えを表現できる
雰囲気を学級の中に作っておくことが大切であると考える。
考えを図式化して表すワークシートの活用
役割演技で気付いたことを基に、主人公の心の迷いを、複数書き記すことができるワー
クシートを用いる。ワークシートは、葛藤場面で活用し、考えを矢印でつなげて複数の考え
を図式化して書き込めるようにする。一つの行動に至る理由を矢印でいくつも書きつなぐこ
とで、迷いがある様子が視覚的にも理解しやすくなる。また、短い言葉を書き、それらを丸
で囲んで矢印でつなぐので、語彙の尐ない児童にも、長い文章で自分の考えを書き表すより
も、書きやすくなると考えた。このように自分の考えを短い言葉で表し、それを矢印で書き
つなぐことは、考えを整理することにつながる。また、言葉で自分の思考の過程を残すこと
で一つの行動を決定する過程で自分の弱さと向き合って物事を考え、弱い心を乗り越えてあ
きらめずに取り組むことの大切さに気付かせたい。このワークシートを用いることで、自分
と向き合ったり、相手の気持ちを想像したりすることで、児童の思考を広げ、考える力を高
めることができると考える。図式化するワークシートを用いる際にも留意点がある。短い言
葉で自分の考えを書き表していくのだが、書く活動には必ず個人差が生まれてしまうもので
ある。そこで、個別指導を行い、教師の質問に答える形で児童の考えを引き出すなどの工夫
が必要である。また、複数書き表せるワークシートではあるが、一つでも自分の考えが書け
れば賞賛し、自信を持って自分の考えを書き込めるように配慮する。
(3) (1) と(2)の基盤となる言語環境や継続的な取組
・読み物資料が多いので、読み聞かせを日頃から行い興味を持てるようにする。
・読み物資料を用いる際、学校図書館指導員に協力を仰ぎ、学級の実態や指導のねらいに
合った資料を探す。
・道徳の時間に限らず、他教科等においても自分の考えを言語で表現する場を多く持つよ
うにしている。継続的に書く活動に取り組むことで、考える力を育む。
・ワークシートをファイルに綴り、学習を振り返ることができるようにする。
・自分の思いや考えを即興的に演じられるよう動作化などを段階的に取り入れた
授業を行う。
2
5
児童の実態
(指導の経緯)
後期に入り、児童は学校生活にも随分と慣れてきている。身の回りのことをはじめ、係や当番
活動なども意欲的に行い、できることが増えてきている。また、算数でわからない問題があると
できるまで何度でも問題解決に取り組むことができる。しかし、自分から取り組んだことでも、
困難に直面すると途中で放り出してしまう傾向も見られる。例えば、清掃活動においても、はじ
めは丁寧に拭き掃除をしても、段々といい加減になってきてしまうこともある。行うべきことは
最後まであきらめずにやり遂げようとすることの大切さを理解させたい。
6
指導計画 (各教科等との関連)
10月~12月
学活
体育 「折り返しリレー」
あきらめない心
〇コースやつなぎ方を工
道徳
「シロクマのクウ」
〇工夫して、遊んだり作
品作りをしたりする。
しっかりと行うことが
できたかを振り返る。
1-(2)勤勉・努力
生活科 「つくろう
あきのおくりもの」
り返り
〇自分のやるべきことを
夫して、競争して楽し
む。
〇自分がしなければいけないことをし
っかり行おうとする。
学活
「かぞくでいっしょにおしょうがつ」
後期のめあて
〇よりよい自分になる。
学活
生活科
初めての係活動ふ
後期の係活動
〇自分のやるべきことを
しっかりと行う。
〇自分にできることを行い、新しい年を迎える準
備をする。
7
本時のねらいと展開
(1) 資料名(出典)
「シロクマのクウ」
(小学校道徳読み物資料集 文部科学省)
(2) 本時のねらい
自分がしなければいけないことは、しっかり行おうとする心情を育てる。
(3) 本時の学習活動
本時の学習活動を通して、頑張ろうとしていた気持ちが折れそうになったときの心の迷い
を考えさせることで、あきらめずに取り組むことの大切さに気付かせたい。
・クウがあきらめかける場面ともう一度魚とりをしてみようとがんばる葛藤場面について役
割演技を行う。役割演技では、物語の背景や主人公の性格や状況などを児童にしっかりと
理解させた上で、自分の考えを行動や態度に表わす。がんばることの困難さやそのときに
表れる心の弱さ、その後、やり遂げたときの充実感などを演じる児童も、見ている児童も
共に擬似体験する。役割演技の後、演者と観衆がそれぞれ感じたことを伝え合い、ねらい
とする道徳的価値についての理解を深める。
・ワークシートには、主人公が魚とりをやめてしまうのか、続けるのかという心の迷いを順
番に考え、自分の思いをいくつでも書いてよいこととする。その際には、役割演技を通し
て考えたことを生かして書くようにする。さらに理由も書き加えることで自分の考えを明
確に持つようにする。そして、それを伝え合うことで、自分と違う考え方を知る。
3
(4) 本時の展開
学習活動(主な発問と予想される児童の反応)
導
入
〇日頃、自分が頑張っていることや、今までの自分
を振り返る。
指導や支援の手立て
◇は評価
〇日々の生活が想起しにくい場合は、学習
や係・当番活動、家での手伝いなど観点
「続けて、頑張っていることややらなければいけな
いのになかなかできないことはありますか。」
・家のお手伝いを休んでしまうことがある。
を示す。
・自分にもやらなければいけないことがあ
ることを確認させる。
・宿題をやらないときがある。
・係の仕事を頑張っている。
〇「シロクマのクウ」(前半)を聞いて、クウの気持
展
開
ちについて考える。
〇場面絵を掲示しながら読み聞かせを行
い、場面の様子を想像しやすくする。
「座り込んでしばらく考え込んでしまうクウは、ど
前
んな気持ちだったのでしょう。
」
段
座り込んだ後のクウの行動を考え、
① あきらめる場合
②魚とりを続ける場合
の役割演技を行い、話し合う。
【あきらめる】
・魚とりがうまくいかなくて、もういやになって辞 ・うまく魚がとれないときと、
「今度こそ」
めたいと思っている。
と気持ちを切り替えるクウの心の変化
・疲れてやりたくない。
を確認する。
・やりたくないけど、どうしようか迷っている。
・役割演技や他者の発表を基に魚とりをや
・できなくて悔しいと思っている。
めるのか続けるのかその理由を考えて
【魚とりを続ける】
ワークシートに記入できるようにする。
・お母さんが教えてくれたんだから、できるよ
・一人でできるようになりたい。
◇迷っている心情について自分の考えを
・できるようになってお母さんに褒めてほしい。
持つことができる。(役割演技・発言・
後
・がんばれば、きっとできるはず。
ワークシート)
段
〇「シロクマのクウ」(後半)を聞いて、クウの気持
ちについて考える。
〇読み聞かせを行う際、場面絵を提示す
る。
「一人で魚がとれたときのクウはどんな気持ちに ・迷った末にクウがやり遂げた後の充実感
なったでしょうか。
」
や喜びを感じたことをおさえる。
・がんばってよかった。・魚がとれてうれしい。
・クウがなぜやり遂げることができたのか
・あきらめないでよかった。
を補助発問で投げかけ、考えられるよう
・また、がんばってみよう。
にする。
・あきらめないでがんばることが大切だ。
終
・最後まで頑張れば、きっとできると思う。
末
〇今日の学習を振り返る。
〇勤勉・努力について、自分とかかわらせ
「これまでに一人でやり遂げたことはありますか。
て考えられるように、具体的な場面を挙
また、これから頑張っていきたいことはあります
げて、考えさせる。
か。」
・これから、自分のことは自分でできるようになり
たい。
◇今日の学習を振り返り、自分の生活と結
び付けて考えを持つことができる。
・係の仕事や、音読を続けていきたい。
(ワークシート)
4
8
本実践の成果と課題
(1) 考察
学習指導要領の改訂において各教科等を貫く重要な改善の視点として「言語活動の充実」
が重要視されている。道徳的価値の自覚及び、自己の生き方についての考えを深める観点か
ら、書く活動や話し合う活動など一人一人の感じ方や考え方を表現する機会を充実し、自ら
の道徳的な成長を実感できるようにすることが大切である。また、本市の道徳における教育
課題として、児童が主体的に話し合う授業改善が挙げられている。そこで、道徳学習におけ
る言語活動にはどのような学習があるのかを具体的な事例を挙げて授業実践することで、言
語活動の果たす役割や有効性を探った。本時においては、二つの手だてについてその有効性
を検証し考察する。
言語活動 1
葛藤場面における役割演技①
シロクマのクウが魚とりの練習に疲れ、氷の上に座り込んでしまったときの心の葛藤を
役割演技で即興的に演じることでクウの気持ちを考えるようにした。そこで、葛藤場面に
おいて、もう魚とりをやめようとするクウともう一度がんばって魚とりを続けようとする
クウを二場面に分けて、二回の役割演技を行った。役割演技を基にクウの気持ちの変化を
考え、その要因へも考えを広げられるように留意して進めた。
〈役割演技①
もう魚とりをやめようとするクウ〉
※役割演技の前に、毎日魚とりの練習をしているけ
ど、一匹もとれない状況や手が痛くなってもう座
り込んでしまったクウの様子などの場面設定を
演者と観衆に再度確認する。
演者の児童には、場面設定をよく把握させて
から、日頃の自分ではなく、お話の中の登場人物
クウを演じることを伝える。また、即興的に演じ
るので、もし、自分がクウと同じ立場だったら、
何と言うか自由に発言したり、動いたりしてよい
(資料2 役割演技の様子)
ことも再度確認する。
観衆には、話をせず、演者の言葉や表情や動き
どうしたの?
クウ。
に注目するように伝え、真剣に見合う雰囲気づく
お母さんが、
りに努める。
とってきて。
(クウ役を児童、母親役を教師が演じる。)
C「あーあ。
」
T「どうしたの。クウ。
」
(台の上に腰をかけて、うつむく児童)
C「魚が取れないの。お母さんが取ってきて。
」
T「お母さんが取るの?クウはもうやらないの?」
C「もう疲れちゃったの。まだ、毎日練習する?」
(尐しうつむく。
)
台には白い布をかぶせ、氷のように
5
役割演技は、演者の表情や仕草をよく見ることができる
ように、また、全員が集中して役割演技に参加できるよう
に、全員を黒板の前に集め、演者に注目させた。
(資料3 話合いの様子)
クウを演じた児童は、何回やっても魚はとれなかいから、
もう疲れて嫌になってしまった気持ちを役割演技で表現し
た。それを見ていた観衆の児童に教師から、演技を見て思っ
たことなどを自由に発言させた。すると演者の児童が悲し
そうな顔をしていたことから、その表情からも思いを読み
取ることができた。数人の児童が同意見だったことを意思
表示した。魚とりをやりたくなくなってしまったクウの気
持ちやまだ母親を頼ってしまう弱さへの共感の声が多く聞
かれた。役割演技を取り入れたことで、演者も観衆も主人公
の弱い心を想像しやすくなり、児童一人一人が自分の考えを
持つきっかけとなった。役割演技を見て、思ったことなど、
たくさんの意見があり、観衆も真剣に取り組んだことがうか
えたそこで一人一人が自分の考えをワークシートに書くよう
に次の活動へとつなげた。
〈役割演技②
もう魚とりをやめようとするクウ〉
※役割演技①の後にそれぞれの考えを全体で意見交換す
る。そこで、魚とりをもうやめたいけれど、
「もうちょ
(資料4 役割演技の様子)
っと取れたらいいな。」「もうちょっとがんばりたい
な。
」という複雑な思いが発表された。そこで、次は役
割演技①とは違う気持ちを演技してみようと伝え、劇
に入る。
(役割演技①と同様にクウ役を児童、母親役を教師が演
どうする?
2才になった
魚とりはもうやめ
ら、一人でがん
る?
ばらないと…。
じる。
)
C「あーあ。
」
T「どうしたの。
」
(台の上に腰をかけて、視線を落とす児童)
C「疲れちゃった。腕が痛いの。」
T「どうしよう。今日はもう魚とりやめる?」
C「やめない・・・。
」
(首を横に振る。
)
T「どうして?」
C「2才になったら、一人で暮らすからがんばらないと。」
T「でも、大丈夫?」
C「うん。
」
(元気な声ではなく、尐し小さめの声で言う。)
クウを演じた児童は、魚とりに疲れてしまったけれど、頑張って続けたいという複雑な
思いを役割演技で表現した。観衆からは、「やれるかなあと尐し迷っている感じがした。」
「始めはちょっと悲しい顔だったけれど、最後は尐し笑顔になっていた。
」など魚とりを続
けることに対して、クウの不安な気持ちや迷いや尐しずつ自分の弱い心を乗り越えようと
6
する心の変化を感じ取ることができた。演者に心の迷いについて質問してみると、本当は
手が痛くて、魚とりを続けることをすぐには決められなかったけれど、2才だからがんば
らなければいけないと考えたことなど、今後を考えた発言が聞かれた。このあと、役割演
技①と同様に5分ほど時間をとり、一人一人がじっくりと考えられるようにワークシート
を用いて考えを記入させた。
言語活動 2
考えを図式化して表すワークシートの活用
クウが魚取りをやめてしまう役割演技の後と魚取りを続けようとする役割演技の後の
2回に分けて、ワークシートを活用する。主人公の心の迷いを考え、自分の思いをいくつ
でもワークシートに自由に書いてよいこととした。クウの行動から、その時のクウの気持
ちやその行動をとる理由を想像して、行動から矢印でつなげて、書くようにする。
その際には、役割演技を通して考えたことを生かして書くように伝え、理由も書き加え
ることを助言し、児童たちがじっくりと考えられるように時間を確保することや一つでも
書ければ賞賛することを留意して進めた。
また、
ワークシートに記入したことを全体で意見交換して、意思決定に至るまでには様々
な思いがあることや友達の意見を聞いて自分とは違う意見を知ることができるようにした。
(資料5 実際に書き込んだワークシート
①
③
④
7
②
ワークシート記入の流れ
1 展開はじめに、資料を読み主人公が葛藤する場面で、心の動きを全体で確認して
魚取りをやめるか、続けるかを①に記入する。
2 展開前半の役割演技①の後で、②の部分を記入する。
3 展開後半の役割演技②の後で、③の部分を記入する。
4 終末、学習の振り返りをしながら、④の部分を記入する。
※このように、他の活動とつながりを持たせながら、書き進める。
役割演技を受けて、自分なりの考えを持ったところで、ワークシートに取り組んだ。児童
は意欲的に自分の考えをワークシートにウエビングのように書き進めていた。自分の考えを
自由に書き、児童たちは、平均して全体で4つ以上は自分の考えを書くことができ、思考の
過程を残すことができた。役割演技を見ることで、主人公の思いを想像しやすくなり、普段、
道徳の時間にはなかなかワークシートに自分の考えを記入することが難しい児童も自分の考
えを持ち、それを表出することができた。
また、ワークシートを基に全体で意見交換をして、児童の意見を板書に整理して示した。
一つの行動を決定するまでには、自分の弱さと向き合って物事を考え、弱い心を乗り越えて
あきらめずに取り組むことの難しさについて、全体で話し合った。ワークシートや板書の広
がりを見て、自分と向き合ったり、相手の気持ちを想像したりすることで、児童の思考を広
げることができた。
(2) 成果と課題
○役割演技は状況に応じて即興的に演じて、気付きを促すものである。役割演技で自分の
考えを表現したり、役割演技を見ている観衆の児童も、相手の思いや考えを理解し、し
っかりと聞き、受け止めようとしたりする姿勢が伺えた。役割演技を言語活動として取
り入れたことで、考えを伝え合い、相手を尊重するコミュニケーションを自然に築くこ
とができたと考える。
○葛藤場面でワークシートに自分の考えを矢印でつなげ、図式化して記入することで、一
つの行動を決定するまでには様々な考えがあることに気付くことができた。また、自分
の考えをワークシートに記入する前に、資料の内容をしっかりと把握し、友達の役割演
技を見たり、自分の知識や経験と結び付けて解釈したりすることで、自分の考えを深め
ることができた。
〇一人一人の児童が自分なりの考えを持つことができたが、その理由として、役割演技か
らワークシートへと進む学習活動の順番が一年生の思考操作としての発達段階に合って
いたと考える。さらに、児童の考えを板書で整理することによって、一人では気付かな
かった考え方に気付くことができた。
●役割演技を行う前に、児童から「あきらめる」
「最後までがんばる」という意見が出てい
たので、それを生かし、2つの行動を確かめてから、役割演技に入った方がよかった。
状況を確認することで、ワークシートを記入する際に行動と気持ちが混ざることなく、
児童は、もっと考えやすかっただろう。
●展開後段で、あきらめない心が大切かどうかをもう一度考えさせる時間をとるとよかっ
た。その上で、あきらめない心を自分は持っているか、それはどんな時や場面かと問い
かければ、児童は、ねらいとする道徳的価値について、自分の生活とさらに関連付ける
ことができたと考える。
8
(3) 実践を終えて
指導案の検討を重ね、言語活動として取り入れた役割演技とウエビングを用いたワーク
シートの活用の順番を入れ替えた。このことにより、児童がねらいとする道徳的価値に対
する気付きを促すことができたと考える。
具体的には、登場人物の白くまのクウが、魚取りを続けるかどうか迷う場面で、役割演
技を行うことで、児童は主人公の葛藤を感じ取ることができた。その後、ワークシートを
活用して、一人一人がクウの気持ちをじっくりと考える時間を取った。ほとんどの児童が、
ワークシートにクウの気持ちを複数書き込むことができた。また、魚取りをあきらめたく
なる気持ちや魚取りを続けようとする気持ちについて、どの児童も、理由を明確にして自
分の考えをしっかりと書くことができた。
今回の学習を通して、児童は、どんなに迷う場面であってもあきらめない心が大事で
あることに気付くことができたと考える。しかし、展開後段から終末にかけて、時間が
尐なくなり、
自分の生活に関連付けて考える時間を十分に確保することができなかった、
という反省も残った。
授業後、児童に、クウと同じように弱い心と向き合ってあきらめずにがんばった経験
はあるか、または、これからがんばりたいことはあるかと問うと、具体的な内容を聞く
ことができた。学習の時間内にしっかりと聞くことができるとよかったと思う。
本実践では、役割演技とワークシートの記述の二つの言語活動を取り入れた。児童の
実態や資料の内容によって取り入れる言語活動は異なるが、道徳学習に意図的に言語活
動を取り入れることで、児童一人一人が、資料を通して、じっくりと自分と向き合い、
自分の考えを深めたり、その考えを基に友達と伝え合ったり、自分の考えと比較し、相
手の思いを知ったりする機会を保障できると感じた。
9