e-Democracy 研究会 NPO 法人「もやい」事務局長 湯浅 誠氏 「ネットカフェ難民」 問題から考える現代日本の貧困 ~生活困窮者支援の NPO 活動から~ 2007 年 11 月 1 日 1 2007年11月1日 e-Democracy研究会 NPO法人「もやい」事務局長 湯浅 誠氏 「ネットカフェ難問」問題から考える現代日本の貧困 ~生活困窮者支援のNPO活動から~ 司会者:NPO法人もやい事務局長として今ご活躍の湯浅誠様に来ていただきまして、お 話していただきたいと思います。格差社会ということはさんざんささやかれていますが、 格差ではなく貧困の問題なんだということを強力にご指摘なさって、最近新聞、ラジオ、 テレビ等々で時々拝見している訳ですけれども。今日は最新の興味深いお話が、しかし深 刻なお話が聞けるのではないかと思っております。 湯浅:はじめまして、湯浅と言います。よろしくお願いします。今日の話は学問的な話と 言うよりは完全に現場の話になると思うので、普段聞いている話とは大分様相が違うと思 いますが、こんな話もあるんだということで聞いてもらえればと思います。ネットカフェ 難民問題と言うのが、この1月、今年の冬位からわりとメディアを騒がすようになったんで すけれど。もともとは去年11月2日に朝日新聞で取り上げられたのが最初だったんですね。 それで今年の1月28日にNNNドキュメントという深夜の日テレの番組で、ネットカフェ難 民というタイトルをつけた番組をやったら社会的に火がついて。それで今調査が発表され て政策が今後決まっていくという段階になっています。この問題そのものは社会的に注目 されたこと自体は好ましいことだと思っていますが、存在そのものの設定としては限界が ありまして。第一にネットカフェで暮らしている人からの相談と言うのはまず我々のとこ ろに最初に来ましてね。ずっと暫く社会的に明らかにならなかったと言うことが1つ問題と してありますが。ネットカフェで暮らしている人というのは別にネットカフェで暮らして いる人だけではないですね。普通アパートに住んでいなければホームレスで、路上にいな ければアパートにいるんだろうという、ここは2極的に捉えられやすいんですけれども、 実はその中間には膨大な領域があってですね。ネットカフェ、カプセルホテル、ビジネス ホテル、それから会社の寮を転々としているフリーターの人たちとかですね。それから生 活保護を受けての宿泊所に入っている人、厚生施設、救護施設、そういうアパートでもな い路上でもない中間形態ですと膨大にいるんですね。こういう人たちは常にその間をうご いていますから、今回たまたまネットカフェ難民ということで話題になりましたけれども、 ここにいる人たちだけを捕らえようとしてもその全貌は絶対に捉えられないんですね。な ので、今回ネットカフェ調査というものをやって、ネットカフェに寝泊りしている人だけ を特定するのでも相当の推定が入ったと厚生労働省自身が認めていますけれども。 2 国際的には路上の人までひっくるめてホームレスいうことになるですね。日本でいえば広 義のホームレスということになりますが。日本の場合も自立支援等に関する特別措置法と いうのが2002年にできまして、ここでホームレスというのは路上や公園で寝泊りして いる人だと定義されているので、ネットカフェで暮らす人はホームレスでないということ になっているのですが。しかし国際的にはそういう人まで含めてホームレスの定義に入れ るのが一般的です。例えばアメリカの民間団体がホームレスが70万人だと報告を発表しま したけれども。そのうち45万人はシェルターで寝泊まりしていて。この人達は日本では ホームレスにならないから、そもそもかなり定義が違う。 日本の場合ホームレスが1万8564人、これは厚生労働省が今年の1月に調査した結果 です。それはあくまで路上にいる人の数なので、ネットカフェ難民と言われる人達を含め た膨大な中間領域がコミットされているというところが先ず一つ問題がある。 じゃあなぜその中間領域がコミットされているのか、これには大きく2つの問題があって ですね。一つは、行政内部の話になってしまうのだけれども、厚生労働省の中でホームレ ス問題を担当しているのが地域福祉課という場所があると。それで今回ネットカフェ難民 問題を担当したのが職業安定局の就労支援室というところで。この間で問題の押し付け合 いがあったんですね。地域福祉課はホームレス問題を広げたくない。 なぜなら、その法律が10年の時限立法で。今年でちょうど2002年から折り返しの20 07年を迎えていて。厚生労働省はあくまでも対策が上手くいっていて、今回大きな見直 しをする必要がないと言っていて。そこに新たなネットカフェ難民問題なんかを入れちゃ うと、ホームレス問題が大きくなっちゃうんですね。それで、ネットカフェ難民の存在が そこを引き出しちゃうと、サウナやカプセルホテルが社会的にその問題にいくことを厚生 労働省は分かっていますから。その問題にかかわりが見えちゃうとえらいことになると。 ということで、地域福祉課はそれあくまでもホームレスでないとすることをかなり頑張っ て主張をしています。そこで厚労省サイドで苦肉の策として考えたのが、ネットカフェ難 民というのはホームレスではないと。じゃあ、彼らはなんていう名前をつけたかというと 住宅喪失不安定就労者ということで。私たちが厚生労働省と団体交渉をやったときに、昨 日ネットカフェに泊まっていて、今日路上に泊まっている人はどうなるんだと聞いたら、 それは昨日は住宅喪失不安定労働者で、今日はホームレスというのが厚生労働省の見解な んですけれども。住宅喪失不安定就労者というのは英語で言うとホームレスワーカーでね。 ほとんど英語では説明できない事を言っています。こういう行政内閣の押し付けが一つま だあると。これは就労支援室サイドからはかなり困られていて。就労支援室は地域福祉課 に対して一緒にやりたいと働きかけているところなんですけれども、地域福祉課としては 受け止めないと。 あともう一つは路上でもアパートでもないその中間形態にある人は非常に捕捉しづらい と。そこには帰来先の無い人もいれば、たまたま泊まっている人もいるわけで。そこの中 でどういう人たちが不安定なホームレス状態にあるかは把握できないのですが、その把握 3 できないことの裏には、法的なシェルターの貧困ということがあるわけで。例えば、アメ リカで何で70万という数字がでるかというと、皆シェルターに泊まっているからですよ。 公的なシェルターにいれば人数を簡単に把握できるし、そこでニーズを拾い上げて社会福 祉政策につなげることもできると。ところが日本の場合は、公的シェルターというのがほ ぼないから皆私的領域に泊まるしかないわけですね。だから公的政策の貧困が逆に実態を 把握しづらくしている訳で、それで出てくる数字をもとに対策を立てると、結局は十分な 対策をうてないと、そういう悪循環に入っていくわけですね。こういう問題はあるのです が、ネットカフェ難民問題が対策にまでいったプロセス自体は非常に綺麗なプロセスをた どったと私は思っていて。新聞報道が11月と12月に出て、テレビが1月でわりと社会 的に問題になっちゃって。それで国会で質問したのが共産党の小池晃という議員ですが、 質問をしたら当時の柳沢厚生大臣が「それは良いこととはいえない」と言ったので厚生労 働省サイドとしては調査しなければいけないと。それで対策を前提に調査をして、という 風にして。こちらは4年位前からこういう問題取り上げてきたといっていましたけれども、 いったん社会化されてから政策化されるまで、メディアに出て国会にあがって、官僚が対 応するという。そういう政策が作られていくきれいなプロセスをたどったいい例だったと。 そういう中で、どういう問題なのかということですけれども、それを少し話をしたいと 思います。 まずなんで働いているのに食べていけないかということですね。34歳の男性の例を話し ますと、この方は今年5月ぐらいに相談にこられて、大宮のネットカフェで7年住んでい ると。この人は日雇い派遣で働いていて。さっきの調査でも日雇い派遣で働きながらネッ トカフェで住んでいる人は3割いました。この方が働いていたのはフルキャストで、最初 の頃は12万の収入を得られていました。フルキャストがあそこまで大きくなったせいで、 子会社を作って運用していったわけですね。で、彼はフルキャストアドバンスという子会 社の所属になった。そうすると今まで色々な仕事が来ていたものがフルキャストアドバン スの仕事以外こなくなっちゃったと。それによって彼の収入は8万になって。ですが、彼 には固定で入れていた仕事があって、それは埼玉スーパーアリーナの会場設営の仕事で。 その仕事は彼が1番なれているということで、彼としてはわずか8万ですが、その仕事を きれないわけで。そうすると他に登録するのが難しくなってくるんですね。例えば、8万 しか収入がないんだったら他の登録して働けばいいじゃないかと思われるかもしれません が。例えば、グッドウィルに登録しますよね。そうすると、人手が足りない時は必ず依頼 が来ます。そういうときに、彼としてはフルキャストの固定の仕事を優先せざるをえない。 そういうのを2回、3回と繰り返すと、フッドウィルサイドとしては、忙しい時に仕事を 回しても仕事をやらないやつだと、仕事が入ってこなくなるという問題があって。彼とし て8万円の仕事にしがみつかざるを得なかったと。それで、一週間ずっとネットカフェで 寝泊りすることもできずに、週に3回は夜中はずっと町を歩いて、朝大宮で京浜東北線の 始発に乗って、その列車を3往復するという生活をずっとしてました。日雇い派遣の問題 4 っていうのは、いろんな問題があってそれを紹介したいと思いますが。Mクルーという会 社があって、この社長はもとホームレスなんですね。この人たちがやっているのは、建設 現場に対する日雇い派遣。そして宿泊所をもって、要するに宿の無いフリーターがけここ で働いて、ステップアップしてくれとフリーターに夢を与えるという。竹中とあったとか、 いつもホームページとかにでているんですけれども。私はここの会社で働いたことがあり ましてね。これは元々サウナだったんですが中が解体されていて、建設業界ではガラとい いますがこういう瓦礫を積まれているところに派遣されていくと。それで一日瓦礫をエレ ベーターを使って1回に運ぶ作業をずっとやって、これが日雇い派遣で。ところが、建設 業に対する派遣というのは今でも禁止されているんですね。なので、これは違法派遣なん ですね。Mクルーサイドはこれは請負だから問題ないといっているのですが、実際には派 遣された先で、派遣された先の指示命令で動くと。これは実態は派遣ですね。派遣業法の 許可を取らずに派遣業を行っているということで、いわゆる偽装請負になります。しかも Mクルーの賃金というのは、固定給が8時間働いて7700円で、Mクルーがもとからも らっているのが12380円で。つまりMクルーが仕事を請けて労働者に仕事を回す段階 で、37.8%中間でとっているわけですね。それで、有料職業紹介所の職安法で定めら れているマージンの上限は10.5%、しかも6カ月以上はとっちゃいけないということ になっていますが。これを、約4倍のお金をとっていると。これはMクルーに限らずグッ ドウィルもフルキャストも中間マージン率は37%で、つまり極めてピンはね率が高いわ けですね。 労働者派遣法というのはマージンの上限が設定されていないという重大な欠陥がありまし て。いわば会社側は取り放題と。しかも、7700円からさらにR利用権と言うのと安全 協力費というので500円引かれて、7200円になります。私はこの日たまたま朝7時 半に全員集合しなきゃいけないというので、手当てが500円つきましたのが、実際の単 価は7200円で。この500円の天引きと言うのは、グッドウィルでデータ天引き問題 というのがあって話題になりましたね。あれと同じで違法天引きですね。グッドウィルは 200円ですがMクルーは500円お金を取っているということで。 実際に収支を計算してみると、5840円しかもらえませんでした。もしこれにMクルー が用意している宿泊所でレストボックスと言うのですが、泊まって夕食分もひけば、大体 2960円位しかのこらないと。又その他、様々なところでお金がかかったら結局手元に はほとんど残らないという状態になる。そういうホームレス状態にある場合う、収入が少 ないということはよく言われますが、もう一つ重大な問題が支出が多いという問題もある んですね。食品をかったり、洗濯しようと思ったらお金がかかるし。でっかい荷物を持ち 歩くわけにはいかないからコインロッカーを使ったり、コインシャワーのお金もいる。そ ういうふうにして常時旅行をしているような、非常に割高な生活で、気がついたらお金が なくなっている状態の生活になるということですね。それはこないだも厚労省の調査結果 にも裏付けられていて、平均月収は10万7000円、支出が並んでいて、残金は1万円 5 程度ということになります。しかも重大なのは雇用保険は無加入ですが国民健康保険にも 入っていないわけで。そうすると真面目な人もたくさんいるんですけれどもなかなかその 実際問題がお金がためられないわけです。今でも連絡取っている人で29歳の若者が居る んですけれども、彼がしみじみいってたんで印象に残ってますが、一生懸命アパートに入 るお金をためようと思って節約すると。それで10万くらいは何とかいくけれどもそれぐ らいになるとどうしても決まって風邪をひいちゃうんだと。そうすると仕事にいけないで すね。仕事にいけないけど、出費がかかると。病院もいけないので市販の薬で治そうとし て。ネットカフェで泊まったことがあるひとは分かるけれども、ゆっくり体を休められる 空間がないので治りづらいと。そういうところで、ためていたお金がなくなる、というの を繰り返していくと目標に到達しないと。実際のところこんなもんだろうと思います。今 まで何十人と相談を受けてきましたけれども、自力でアパートのお金をためて移った人を 一人も知らない。私は今まで路上の問題にかかわってのベ何万人と関わってきましたけれ ども野宿状態でお金をためてアパート借りた人は二人しか知らない。実際はなかなかむず かしいというのが実態であると思います。 ネットカフェ難民の話を大学などで講義をしたりすると、よくアンケートの中で、ネット カフェなんかには泊まらずに、路上でお金をためればいいじゃないかというふうにかいて くる学生さんが多いのですが、実際にそれはかなり困難であると。一人は路上から日雇い の派遣にいきながら50万ためたという。彼は結局アパートに入ったあと結局入退院を繰 り返して、あのときの無理がたたったと。それくらいしないと難しいということです。 よく借金なんかしているから生活が苦しくなるんじゃないかと思われるかもしれないので、 別のデータを挙げときますけれども。これは日本弁護士連合会が調査した2005年の破 産記録調査ですね。ここで注目してもらいたいのは、破産原因の第一は生活苦・経済苦にあ るということ。2番目は病気や医療費。3番目は失業転職、4番目は給料の減少というこ とですから。5番目は事業資金。そういうことを含めれば2人に1人は経済的理由による 借金なんですね。サラ金とかクレジットというと娯楽とかギャンブルとか浪費と結びつけ られやすいですが、かつてはそうだったんですが。今は経済的原因がずっと上を占めてい て。つまり多重債務の背景には貧困の問題があると。収入を見ても、5万未満の人が33%、 10万未満の人が14%、15万未満の人が13%、20万未満の人が14%。で、20 万未満までをいれると約8割が月収20万未満世帯ですね。生活保護基準でいうと、2人 に1人には貧困。で、8割は複数人世帯。普通に夫婦がいたり子供がいたりで。そうだと すれば、4人に3人以上が貧困で、要するに貧困の人たちがサラ金に手を出してそうしな いと家庭が回らない、そういう生活になっているということです。 今回打ち出されるというネットカフェ難民対策の中には、ネットカフェのホームページ上 でハローワークにアクセスできる、特にネットカフェ難民用に寮つきの派遣会社を重点的 に紹介するという対策が考えられています。で、これによって、もうちょっとまともな暮 らしなるじゃないかといわれているんですが、実際はそういうところで働いている人が大 6 半なんですよ。そういうとところで働いていて、そこでは生活が成り立たなくて、放り出 されて行き場が無くてネットカフェで暮らしている人が実際には多い。 ここに挙げたのは今年8月くらいのご夫婦娘で。もともとは宮城県のある地域ですんでい たんだけれども。その地元にあるのは水産の地場産業だけで、自分たちをやとってくれな いと。そういう中で、彼らが見たのは派遣会社の広告で、最終的に来たのは東京のコンビ ニ弁当工場でした。ここで提示された条件は6時間勤務、トイレ休憩があって、雇用保険 社会保険が完備であると。しかし実際には労働条件は10時間勤務で、トイレ休憩が無く て、雇用保険や社会保険がつかないという仕事でした。 コンビニ弁当工場っていうのはどういう状態になっているかというと、全部ベルトコンベ ヤーで流れてて、そこで最初にご飯を盛って、次のラインに持っていって次の弁当ができ あがるということになっていると。10時間勤務でトイレ休憩がないというのがどういう ことだというと、ラインが止まらないということですから。自分が休むと他の人にとばっ ちりがいくわけですね。なるべくみんな少ない人数的でぎりぎりにやってますから、当然 そんなこと言えないわけで。この奥さんは精神的に不安定な人だったのでとてもこの労働 条件ではもたないということで、5日でねを上げてしまいました。そしてこういうところ は仕事が駄目になると寮を出だされますから、旦那そろっておいだされて。その追い出さ れた段階は2人で13000円しか持っていなくて、それでネットカフェで寝泊まりする ようになった人たちなんですね。なので、彼らにもう一回そういう条件で働けというと、 彼らから言わせればもうちょっとそこでの条件をちゃんと暮らせるよう普通の条件にして くれなくてはとてもじゃないけれどもそこで働く気にはなれないということになるんだと 思います。こういう派遣会社の誇大広告っていうのは国会でも問題になっていまして、ど こでもそうなんですけれども、地方には仕事がありませんからね。非常にそこで、いかに も最近稼げるような宣伝をするわけ。そうすると、地元にいるよりはまだこっちにいた方 が良いだろうということでいくわけですが、実際には残業代が付かなかったり、あるいは 製品製造上の都合で半年といわれた仕事が1カ月で終わっちゃったり。そして手元には5 ~7万円しか残らない、そういう生活になっていく人が少なくないということですね。結 局そういう派遣の現場がネットカフェ難民を生み出しているような状況があって。そうい う問題を他方で規制していかないと、これは何の解決にもならないということになります。 学生さんに聞くと必ず出て来るのが、親に頼ればいいじゃないかということなんですね。 実際になかなか親に頼れない状態の人っていうのが普通に考えられるよりももっと沢山い て、例えばさっき紹介した大宮のネットカフェで7年暮らしていた人っていうのは、母子 家庭の人でしたが。高校1年生の時にお母さんが家に帰らなくなって、高校1年から自分 一人で暮らしてきたと。それからさっき紹介した40歳のご夫婦の男性の方は小3の時に お父さんをなくして、小6でお母さんをなくして、小学校6年生から一人ぼっちで暮らし てきた人ですね。で、奥さんの方はお父さんお母さんとおばあちゃんといっしょに住んで 7 いたんですが、4人世帯で、お父さんの障害者年金が唯一の収入だという家で、とてもじ ゃないが親に頼れる環境じゃないんですね。実際に悩み事を相談できるかというのは調査 の項目にもあがっていましたが、親に相談できると答えた人は2.7%、誰も相談できる 人がいないと答えたのが42.2%で圧倒的にそういう関係がきれちゃっている。あるい は、元々頼れるべき親がいないというのが大半であると。こういう中で、あまり憚られて メディアの中では言われませんけれども、貧困の再生産ということが既に起こっているん ですね。貧困の再生産だとか貧困のホームレス化なんていうのが将来に向けた懸念として 語られることがあるですけれども、私は既に現に起こっている問題だとおもっています。 これはこういう中ではかなり思い切った調査と行動ですけれども、大阪の堺市で調査した ところ、生活保護を受けている母子世帯の4割は、親も生活保護を受けている。母子世帯 だけではなくて全世帯で見ると、25%の人が親も生活保護を受けているという結果が出 て。これは生活保護をうけているような人間がだらしないから子供もそうなるんだという ふうにとらえてほしくない。そういうことではなく、教育費用をかけれない、生活環境が よくない、そういうなかで貧困が再生産されていくような状態に日本の社会はなっている ということですね。そうなると当然、そんな日雇い派遣で働かなくてもすむような資格を とっておけばよかったじゃないかということも言えなくなくなっちゃうわけで。さっきの 調査でも、ネットカフェで暮らしている人達の学歴は、中卒が19.2、高校中退が21. 4、高校卒業が43.3で。合わせれば8割を超えるわけですね。高校進学率が今97% で、社会全体の割合で見れば高校にいけないという人は、極めて少数のはずなんですが。 この極めて少数の人たちがネットカフェで暮らしているような人の2割近くはいると。や はりそういう所に不利益が集中するそういう社会構造になっているということです。そう いう一連の過程全般を私は50の排除という風によんでいまして。ここに書いてあります 5つ内容ですが、こういうものが貧困の背景にあるということになります。事前に本を読 んでいただいているということで詳しく説明することは省きますが、この5つですね。教 育過程、医療福祉、家族福祉、公的福祉、自分自身。一言だけいっておくと日本の実際的 なセーフティネットというのは、戦後ずっと企業と家族が持っていたということですね。 企業と家族のおかげでみんなそれなりに暮らしてこれて、又企業と家族から排除されちゃ った人たちは昔から貧困になって。それが今地盤沈下しちゃってですね、相対的に公的福 祉の役割が高まっている、そういう状態だと思っているんですけれども。北九州の問題が 有名ですが、働ける人たちが相談に行っても、まだあんた若いんだから働けるでしょとい うふうになってしまい、中々受けられないのが実態です。どうしてこんなことになっちゃ ったのかということですが、これは東京新聞がセーフティネットの検証ということでまと めた図で分かりやすいものなのですが、やっぱりいろんなレベルでセーフティネットがボ ロボロになってきているといことは間違いないと思うんですね。まず、労働のセーフティ ネットですね。働けば食べていけるという状態を作るのが労働のセーフティネットですが。 ご存じのように非正規雇用がこの10年間で650万人増えて、かつてよりも何倍の努力 8 をしないと正規雇用につけない、そういう状態になっていますね。非正規雇用は労働時間 が地位ガが非正規ということだけではなくて、雇用も不安定だし、賃金も安いし、保険も つかないし、そういうところで高額なピンはねとか、法天引きが行われていますから、ど うしても働いても食べていく状況が作れない。給与所得が200万円以下の人が1000 万人を超えたという報道がつい最近なされたのもご存知の通りですね。そうすると、社会 保障はどうなんだということですが、社会保障もあちこちでボロがでているのもまたご存 知の通りですけれども、雇用保険、失業給付なんかは20年遡れば51%の人が受けてい ましたが、2005年の段階では21%で、雇用保険、失業給付も非常に受けづらくなっ てきているわけですね。そこで今失業保険の国庫負担金が余っています。この国庫負担金 が余っている状態で国がまず何ていっているかというと、余っているから削ってしまおう といっているわけですね。余っているんだったら対象を広げたり、期間を延ばしたりすれ ばいいじゃないかと思うんですが、政府はそういうふうにはしていかない。そこで、歯止 めがかかるという人もどんどん少なくなっています。国民健康保険も19%の人が今滞納 していますね。今資格証明書を発行されている人が36万人いる、その36万人の人は窓 口で10割を負担しなくてはいけないわけですから、そもそもお金が無くて健康保険が払 えなのに、10割負担できるわけないですね。なので、資格証明書を受けている利用受診 機会は国民健康保険証を受けている人の137分の1だという結果が出ている。つまり、 事実上医療は受けられないということですね。その間数十人の人が医療にかかれなくてな くなっていくと。そうすると、最終的には公的扶助で支えなければいけないという事にな るわけですが、生活保護も年々窓口対応が厳しくなっていて、申請率は全国的に落ちてい る。そういうなかで最後のセーフティネットには刑務所しかないということになって。読 売新聞の記事では、高齢受刑者の内の7割が再び犯罪をおかしていて。お金に困って再び 犯罪をおかしてしまった人が半数超えるという結果ですね。最近は厳罰主義ということで、 そのまえにまず、塀の外でも食べていけるようにしなければ、犯罪は減らないというのが 私の意見です。よく国際弁護でついた弁護士さんから相談がくるんですね。この人塀の外 に出ても帰る場所が無いんだけども何とかならないの、と。こないだ来た弁護士さんから の相談で、何やっちゃったんですかと聞いたら、神社の賽銭箱から150円をとって、そ れで起訴ですね。その方は前にも同じようなことをやって今執行猶予中になっていますか ら、今回は実刑ということで。そういう人たちが、あふれていて刑務所が足りないという 風になり、地方が刑務所の誘致合戦を一生懸命やって、刑務所を運営するという状態にな っている。 そういう状態で何ができるかということですが、いろんなレベルがあると思います。政策 レベル、社会的レベル、個人的レベル。私は社会的レベルで活動しているものなので、政 策レベルでどうしたらいいかと詳しくは語れないですけれど。とりあえず今出ているネッ トカフェ難民対策というのは、さっきも話したように、ハローワークにその人たちの情報 を届けるとか、あるいはNPOに生活相談を委託するとか、そういったものがでています。し 9 かしこれは本人たちに所得保証をしないというところが大前提となっているんですね。だ けど私はそれは絶対にうまくいかないというふうに考えています。4月に調査に先立って厚 生労働省のヒアリングを受けたのですが、私の言うことは聞いてくれないらしく、その対 策はどうも反映されないということです。再チャレンジ政策の問題というのは、再チャレ ンジのお金が生活保障を削って作られているということですね。典型的な例は、生活保護 の母子加算の廃止、2009年度には完全に廃止されるということで。政府がなんていったか というと、「いやいやこっちは削るけど、自立支援はやるから大丈夫です。」というふう にいったんですね。こういう形は現在様々な分野で行われています。ところが、これがう まくいかないのは、具体的に考えてみればわかるんですけれども、例えば母子の自立支援 で用意されている事はこんなことですよ。3年間職業訓練校に通うに際して、3年目の授業 料のうち半額を補助すると。ところが2年目と残り半分の授業料は一体誰が用意するのか。 あるいは3年間職業訓練校に通う間の生活費は一体誰が用意するのだろうか。これを考え たら、普通の貧困の母子家庭はこの制度を利用できないということな訳ですね。逆にこの 制度を利用できる人っていうのは常に十分収入がある、お金のある人たちということで。 結局は母子家庭の中の2極化を進めてしまうということで。これはパート法にしてもそう。 今回パート法が通って、パートから正規へと流れを進めると言っていますけれども、あの パート法の恩恵に与れる労働者は全パート労働者の4%といわれている。つまり96%の 人たちは制度にのっかることができないということで。そもそも生活保障の部分がしっか りしていなければ、どれだけ多様な政策をうっても、実際には使えないということで。再 チャレンジ際策の問題は道徳的な問題よりも、何よりも実効性が無いというところだと私 は思っています。 社会的なレベルでいうと、ここが私の本領なのですが、一言で言えば色んなことをいろん な風にやっていくしかないんですけれどもね。いろんなところで動きが起こってくる、例 えばグッドウィルの費用の返還はですね、出荷のめないぐっと居る人々をは雇い派遣はは 問題化したところからですけれどもとトイレの輸入も最初10何にした生があれだけ大き なは今年なんですか2年分のへを約束させ、そして?<品全額返還日本の財布にしてはと ても新鮮小規模な取り組みに分働組合を作ウッドウィルユニオンという日雇い派遣組合が 問題化したところから始まったわけですけれども。グッドウィルユニオンは最初10何人で 始まったんですね。それが、あれだけ大きな会社を相手に、世論の動きがあったからです が、2年間分の返還を約束させて、今訴訟もやっていると。フルキャストは全額返還させて いると。このようにとても小さい規模の取り組みでも、でかい企業を相手にのませること ができる。その次はNHKのニュースで流れたやつですが、私が何故Mクルーに働きにい ったかというと、Mクルーで労働組合を作りに行くためで。10月1日に労働組合を作った んですね。16日に最初の団体交渉をしました。これはを要求書を出したときの報道です が、その中の1つに、不当な500円天引きを返せということを出したんですね。そうしたら 16日に第1回の交渉をしてきましたけれども、あっさり返すっていうんですよ。金額にす 10 ると1億円になるんですね。Mクルーの会社はそんなに大きくなくて、社員が23人しかいな い会社ですから、そんなに馬鹿にできない金額な不満ですけれどもそれでもはあっさり返 すと言わざるを得ない。なんでかというと、明らかに違法だからですね。誰も指摘して来 なかったから今までまかり通ってただけで、指摘されたら返さざるを得ない訳ですよ。そ ういう実態ですね。北九州にしてもかなり社会的に問題になりましたけれども、地元の運 動とかが頑張ってきた経緯があるわけですね。最初に地元で運動をしたのは2006年の5月23 日で。朝日新聞の西日本支社の園田さんという人が頑張って、報道化したのと地元の人た ちが問題化した。そういうなかで北九州のやりかたっていうのが闇の北九州方式という風 に言われるようになりまして、さすがにひどいというような一般論ができてきて。それも 原因の一つとして今年北九州市長が交代してですね、民主党系の人物が市長になり、彼は は再検討を約束したわけです。そしたら検討委員会がやってる間に、7月10日の餓死事 件が明らかになって。そして最終的には北九州市も不適切だったと認めたということで。 その過程にはいろんな運動があって、我々も刑事告発したり、あの手この手をやりました けれどもそういうことが影響しているんだと思います。結局何がいいたいかというと、現 場でやられていることは明らかな法律違反なわけですね。今は法律を盾にすれば勝てるこ とです。これは拍子抜けするほどあっさりしていて。例えば生活保護申請の水際が大変だ っていいますけど、われわれがついていけば何の問題も無い。1000件以上生活保護の 申請付き添ってきましたけれども、却下されたケースは未だかつて1件もありません。とい ことは、多少なりともノウハウや知識があって、それがおかしいということが分かって、 手続きを踏んで、おかしいと言えれば労働現場でも政策現場でもやり方を変えてさせるこ とができるといわけなのですが。なかなかこういうことをやれると思えない。そもそも現 場で働く多くの人たちは知らないし、知ったとしてもやれると思わないし、やりたいとも 思わない。そういうなかでちょっと指摘すれば明らかに直さざるを得ないことが治らない ものになっているということです。ただ現場の活動としては重視していることがもう1つあ りまして、それは当事者のエンパワーメントということですね。生活保護の申請をしたり、 法律相談を行う、そういう行為は社会資源を充実していく活動ですけれども。他方で居場 所を作るとかですね、セットで伴わないとなかなかこういう人たちは元気にならないです ね。ちょっと考えればわかるけど、生活保護を受けたから友達ができるわけではない。そ うしたらそういう場所ができていかないと、結局力が付いていかないといことになります。 なのでこれはもやいという場所の写真ですけれども、もやいというのは生活保護の申請を 行ったりしていますが、他方で喫茶店などを作って、アパートに入って誰も話し相手がい ない人たちが集まれるような場所を作っていくということですね。それからあうんも、仕 事を作るのと同時に集団労働の中で横のつながりを作っていく、というのを常に重視して いるわけです。あうんのやっている仕事自体は日雇い派遣がやっている仕事と大して変わ らないんですね。例えばごみ屋敷になってしまっているところを依頼されて、我々が掃除 をするわけですけれども。畳とかも腐食していて、そういうところの仕事をやって、汚れ 11 仕事ですが皆でやるという。でそこで職場の雰囲気を作ったり、脱落していかないように するんですね。そういうのがあるのとないので、かなりいろんな面が違ってくるんですよ ね。又今年に入ってからは反貧困ネットワークという団体を作りました。これは私のよう にホームレス支援をやっている人、非正規の労働組合、多重債務問題をやっている弁護士、 あとシングルマザーの団体とか障害者の問題をやっている方たちとか、そういう人たちと 一緒に作った枠組みなんです。何でこういう枠組みが必要だったかというと、貧困の問題 というのはなかなか表に出て来ない。先ほど話した例を挙げると多重債務の問題がありま すが、多重債務と聞いても、貧困の問題とはそれをなかなか結びつけられない訳ですね。 背景に何があるか、多くの人は知らないんです。例えば児童虐待の問題も同じです。児童 虐待が起こる家庭の9割が、所得税非課税課程で。そういういみで児童虐待の問題と貧困の 問題は密接に関わっているわけですけれどもそういうことは中々知られていない。児童虐 待の問題が起こると、とんでもない親がいたもんだという、そういう話になっちゃう。貧 困との問題というのは色々な結びつきを持っていると。例えば労働組合の問題もそうです。 今は非正規の労働組合なんかは、労働争議が終わるまでの生活費を考えそれだけの生活費 費がないとできませんていう人も出てくるわけですね。障害者の人たちは障害者自立支援 法の問題も深刻ですが、多くの人は生活保護を受けていますから。そうすると老齢加担が 削られて母子加担が削られて、次は障害者加担じゃないかという危機感を非常に強くもっ ているわけです。こういうように、皆が色々な問題を抱えていて、ただ個別の問題で見ち ゃうと、中々貧困の問題は表に出ないから。なので、そういう後ろにある問題を前に出す ために、枠組みを作ろうということで作りました。これはもう一つは、貧困状態に追い込 まれるというのは50の排除があると言いましたが、いろんなトラブルが一人の人に覆い かぶさってそういう状態というのが生まれているわけですね。よくいうのが、旦那の暴力 で家を飛び出して、子供がいるからパートで働いていたら首切りを受けて生活ができなく なって。相談窓口にいったら別れた旦那と相談しろといわれて、サラ金に手を出したら生 活ができなくなると。そういう人は現実にいくらでもいると。その人の問題がDV問題な のか、母子家庭の問題なのかパート労働者の問題なのか、生活保護の問題なのか、多重債 務の問題なのか、という風に切り離して考える必要はない。本人の要求としてはあくまで 生活を立て直したいということなんですから。だったらばそれに見合った枠組みをつくり 対応できるしましょうよ、というのが今回このネットワークの趣旨です。ちなみにこのロ ゴなんだか分かりますか。これお化けなんで、何でお化けかというと、貧困の問題はある のにないと思われているから。ヒンキーと呼んでいますので、お見知りおきを。というこ とで1時間なので、これで終わらせていただきます。 司会者:どうもありがとうございました。湯浅さんは大変お忙しい人で、この会の前にも 電話がかかってきていて、色々と大変だったようですが。社会運動の方向とは又別に世論 の問題と国の社会福祉政策の問題といろんな問題にわたってお話いただいたんだと思いま 12 す。どうぞ皆さんご自由にご発言いただければと思いますが。 学生A:内容についてというよりは、湯浅さん自身の経験について伺いたいのですが、組 織として動いていくことの難しさというのを教えていただきたいです。 湯浅:今NPO法人が3万を越えたといわれていますが、有給スタッフを置いているNPO は1%とかそれくらいしかないと思います。大きな問題は人材の問題もそうですが、やっ ぱりハードルが高いわけなんですよね。財政の問題と密接に関係していると思うんですけ れども。日本の団体のほとんどが我々もそうですが、お金を集めるのに苦労しています。 多くの場合はそれでも財政が回らないので、結局行政の委託を受ける。という形で職員を 雇うということしかできない訳ですね。もやいは3回ほど東京都から委託を受けてけってい るんですね。なんでかというと100%ひもつきなんですね。東京都が事前に描いた絵を そのままケアとして受けない限り、そのお金っていうのはもってこないですね。例えば、 形は作るんですよ。東京都とわれわれで協議会で計画して市民の意見を取り入れていくん だっていう形は作るんですけれども、ここでわれわれが何を提案しようと最終的には全部 けられるんですね。東京都が持っていた青写真が100%実現して、これをやれますかや れませんかということがでてくると。今まで我々がやってた枠には入らないようなことを やり続けようとすると、結果としてはケースがなくなっちゃう。それで我々は3回ともけっ たと。そういう風にして行政とNPOのパートナーシップとか言われてますけれども、実 際は違う気がする。そういうものに取り込まれないで自分たちが今までやってきたもの、 やりたいとおもったことをやりつつ、かつ寄付を受けることが難しいということになると、 それはどうしたって大きくはならないんですね。今我々が有給スタッフを雇っているのは、 あうんの場合は自分たちで稼いでいるから、労働者協同組合みたいな形でやっていますの で、行政からは勿論企業からも一銭ももらわないんですけれども。もやいのほうは企業で、 社会貢献となっていると。あまり私から見ればいい企業ではないんですけれども、それで も行政よりはましなんですね。 学生A:もやい以外にこういう活動をされている所ではどういうところがあるのでしょう か。 湯浅:ほぼ全国の都市にあるんじゃないかな。規模としては色々で、例えば協会でおにぎ りを渡していたり、そういうのを全部入れて言えば、ということですけれども。ただ、あ んまり生活困窮者支援みたいなところで、やってるところはあんまりないですね。生活と 健康を守る会という共産党系の組織が全国的にありますけれど、そういう政党で系統化さ れていない取り組みとしてはあんまりないんじゃないかな。例えば弁護士会はここ1年で 相当貧困に対して動くようになりましたね。去年は多重債務のグレーゾーンが撤廃され手、 13 あの運動をやっていた人たちが多重債務の背景には貧困の問題があるということが分かっ てそういう問題に取り組むことになってきましたから。今ちょうどその生活保護の付き添 いをやるようなことを弁護士連中が始めていて、各地にネットワークができています。多 分今年中には全国どこからでも常設のダイヤルに電話をすれば生活保護の申請に法律化の サポートを得られるような体制ができると思うのでだいぶ改善されていくとは思いますよ ね。 司会:この本の190ページに朝日新聞の2007年3月25日の記事が紹介されていて、載ってい ますよね。 湯浅:そうですね。去年日弁連、っていうのは毎年人権擁護大会っていうかなり大きなイ ベントをやるんですけれども、去年は第49回の人権擁護大会を釧路で開いたんですね。そ の時に戦後初めて日弁連が生存権の問題を人権擁護大会のテーマにして。それは49回にし て初めてで日弁連がそんなことでいいのかと思ったんですけれども、その時私は進歩時ス トとして呼ばれまして。あんたたち全員を合わせても、俺一人で申請保護に付き添った数 のが多いと啖呵をきったんですよ。私は代理権とか持てないからそれはあなたたちの仕事 じゃないか、って言う話をして。そのシンポジウムを構成したのが生活保護の裁判問題と かをずっとやっている京都の竹下弁護士だとか、クレジット問題でやってきた人たちなの でそこら辺の人たちがそれ以降はやるようになってだいぶ弁護士の状況は変わってきまし た。 学生B:今日は興味深いお話をありがとうございました。外国人労働者問題を研究している のですが、外国人労働者たちの多くも不安定就労部門とよばれるところで働いているので すけれども、そういう人たちと貧困というものの関係というものはどうお考えでしょうか。 湯浅:全くそのままですよね。外国人労働者問題というのは私は92・3年に私は関わってい たんですけれども、あのころは日本の末端労働を誰に担わせるかということが経営サイド もはっきりしなかった時期なんじゃないですかね。外国人労働者がワーッと入ってきて、 入りすぎたら閉める、というふうに労働力は欲しいけれどあまり入りすぎたら困るという ことで。そうでもしないといわゆるあの当時は3k労働になるような人材がつくれないと いことで、非常にそうせざるを得ない雰囲気もあったんだと思うけれども。最終的に経営 側が決定付けたのは、やっぱりこれは日本の若者に担ってもらおうということだったんだ とおもいますね。それ以降外国人労働者問題というのは研修制度で基本的に管理をする方 向で、終わっていって。経団連の新時代の日本的経営が出たのが95年で、あの時に労働者 を3つに分けて、あの辺りで決めたと私は思っているんですけれども。その時に背景に退い た研修生実習生問題っていうのがで始めているというのが今の状況だと思うんですけれど 14 も。研修生実習生問題というのは貧困の問題そのものですよね。300円で働かされて残業も 勿論付かないし、文句言ったらすぐにパスポートは取り上げられる。それをやっているの は外国人研修ネットワークですから、彼らとは一緒にやっていこうという話が始まってい るところなので。外国人の問題や農業の問題も組み込んでいかないといけないだろうとい う風に思っています。 司会:お話を伺っていますと、小さなNPOがそれぞれ得意分野をいかしてお互いに町工 場が融通しあってやっているような。 湯浅:そうですね。 福元:外国人と日本人が仕事を取り合うって話は良くある話で、それについては。 湯浅:取り合いは起きているけれども、ずーっとそうやってきているので何とかそこをつ なぎ合わせられるように一生懸命やっているということで。 音声不明瞭 司会:それは日本人と外国人の間に線引きがあるというよりは正規と非正規の間での線引 きが大きいんじゃないですかね。 湯浅:まあどれが大きいというよりは、非常に細かく細分化されているんですね。正規と 非正規もそう、生保と国民年金もそう、日本人と外国人もそう、それはまさに。彼らも馬 鹿じゃないんで乱暴な事はやってこないわけですよ。今生活保護の基準の切り下げがテー マになっていますけれども、一部は下げるけれども一部は上げる。そうやって抑制するふ うにたてていて。全員を一律に下げるというのはよろしくないという判断は当然してくる ので。そういうところがそのまんまもっていかれないように、現場はぐちゃぐちゃやって いるということになるわけです。 音声不明瞭 平野:労働と貧困の問題を同時に一緒に考えていくようなコンセプトというのは、どうい うものがあるのでしょうか。お考えがあったら教えていただきたいなと思いまして。 湯浅:生活保障をセットにした就労支援をやっていくしかないってことだと思うんですけ れどもね。現実には、例えば我々のところに相談に来る人は何年もかけてこじれちゃって 15 いる人なんで。例えば生活保護を受けたらすぐ就労できるかというとそんな事は全然無く て。何年かかけて改善していかなくちゃならないんですね。今は就労自律ということだけ が非常に強調されているけれど、戻れたとしても不安定な就労条件があるので。就労条件 を良くすることと、就労に結びつくプロセスを丁寧に作っていくということは段階的に繋 げていくということしかないと思うんですけれどもね。 学生C:最後の部分で何ができるかというお話があったんですが、そこは社会的レベルの 話が中心になるかと思うんですけれども。生活レベルでとか政府レベルで、そのあたりを どのようにやっていけるのだろうかとか、そのあたりをお話いただけますか。 湯浅:結局違法なことを合法化してきた、ということだと思うんですね。労働者派遣法の 改正にしても。その中でも現場ではまだまだ違法なことが起こっているわけですね。そう いうことを中々食い止めることができなかったし、今後も食い止められるのかといったら 分かりませんけれども。少なくとも、今の段階で例えば違法天引きとかの問題とかは、そ ういうことを1つ1つ摘発することが逆に全体のブレーキになると思う。例えば生活保護 の申請で排除されている人がこれだけいるといえば、それを合法化するような生活保護の 改正というのはやりずらくなるよね。私は1つ1つの問題を攻めていくことが結局はそれを 止める力になると思っていますね。日雇い派遣の問題なんかは典型で、天引き問題なんて いうのは200円の、とにかく小さい問題でしたけど、あれで社会的に問題になっちゃって。 自民党サイドでも自民党の日雇い派遣の規制はやむをえないという意見が出ていて。今、 民主党が労働者派遣法の改正法案の準備をしていますけれども。民主党が求めているほど のレベルにいくかはともかく、日雇い派遣の規定はかなり上がるだろうと思いますから。 そうやって、個別の問題を押し広げていく中で、押し戻す力を作っていくしかないんじゃ ないでしょうか。 司会:韓国なんかはインターネットが普及しているそうで。思ったんですけれども、NP Oと少ない人で何ができるのか考えた時にやはり最大の武器は情報発信力なんじゃないか なって僕は思うんですよね。それは困っている人同士が情報を交換するって言うのもある し、もっと大きくは国全体を把握していく世論探知能力。そういうことのために何ができ るかという時に、恐らくインターネットの技術なんかが役に立つんじゃないかなっていう のが、僕のぼんやりとした期待ではあるんですけれどもね。 湯浅:でも人数が少ないとね、情報発信もできないんですよね。 学生D:こうした問題がメディアに登場するようになったきっかけっていうのはどんなこ とだったんですか。 16 湯浅:大きなきっかけは、我々が頑張ったというよりは、NHKスペシャルなんですね。 あれの前と後で、取材に来る人たちが10倍になった。あの番組である程度の実態が出て、 皆ショックを受けて、偉いことになっているらしいと。じゃあどうなっているのかと言う と、マスコミとかも知っているわけじゃないから、誰に聞けばいいんだということで来た んですね。ネットカフェの問題もマスコミの人にバーっと話をしたら、今までは本気にな ってくれなかった人も記事を書いてくれるようになったんですから。あのときNHKのワ ーキングプア特集は第一弾からずっと取材を受けているんですけれども。若いディレクタ ーが今までとは違ったあり方みたいなものを作りたいと、かなり頑張ったんですよ。当時 は貧困という言葉も出なかったですから、あのタイトルも相当ごちゃごちゃあって。ワー キングプアっていうのを押し込むのに彼らは相当頑張ったんですよね。 司会:どんな感じの題名だったらいいんですかね。 湯浅:格差社会とか。格差っていうのは、違いがあればなんでもいいんですよ。例えばこの 前、電車の広告を見たら、陣内と藤原の収入格差ってあったけど。ということは、格差と いう言葉の中には色々なものが交じっているから、あっていい格差と悪い格差が一緒にな っちゃっていて。今年の演説で安倍が格差って言う言葉を使わなかった。その後に記者団 に囲まれて、言わなかったですねといったら、格差っていっても定義が違うでしょってい ったんですね。貧困はそうじゃないと。 遠藤:今のに関してなのですが、格差って言う言葉の中には、再チャレンジできるって言う 含意が含まれていて。そういう意味では明るい言葉ですよね。でも、貧困はそうではなく て。そこで問題なことは現代の社会においては絶対的な剥奪が増えてきていると。 ・・・音声不明瞭 湯浅:貧困って言うのはある程度の数に達したらそれに対応しなければいけないっていう のは政治家たるものそれをいわざるをえないんですよね。だけどそれはたいした問題じゃ ないんだと。日本はまだまだ豊かな国でたいした問題じゃないんだって言うのが政府が一 貫して言っていることで。それに対してはここにもあるじゃないかって、あぶりだしてい かなければならないと思うんですよね。児童虐待の問題にしても、妊婦たらいまわしの問 題にしても、そういうのが結びついていることを示していく必要があると。アメリカのレ ポートでは児童虐待とどういう原因が結びついているかという研究で、これだけは絶対結 びついているという確実なものは貧困なんだと書いてあったんですけれども。そういうよ うな環境には日本の場合は全くないということですね。私が今経験的に感じているのが、 何処かでつまずくと、相乗的にトラブルを引き起こしていくという状態ですね。非常に不 安定で、定まっていないという状態で何かトラブルが起こると、例えば風邪で1日仕事を休 17 むと、正規だったら仕事があるけれど、非正規だったらもう仕事が無いと。そうすると、 一気に家賃が払えなくなって食べるものもなくなると。そうするとゆっくり仕事を探して いる暇も無いから日雇いになっちゃって、アパートを失って、サラ金に手を出して。非常 に沢山のトラブルが同時に起こっていくんですね。イメージでいうと、溜めの臨界点があ ってね。ある程度の溜めがあれば、1つのトラブルですむはずなんですね。でも臨界点を超 えちゃうと、1つのトラブルが他のトラブルをすぐ引き起こしちゃうから。1つ1つに対 応できなくなって、本人がお手上げになっちゃうと。そんな感じがしますね。社会全体か ら溜めが失われてきている、そんな感覚を私は受けますね。 司会:国の財政にも溜めが無いと政府はいうと思うんで、もしそういうことであれば消費税 を上げてくださいといってくると思うんですね。 湯浅:財務省はね、消費税上げますか、社会保障削りますか、どっちにしますか、ってい うけれども。その選択肢が存在しないって考えることもできる。 司会:今日の話の中で、違法なことがまかり通っているから、法を盾に取れば勝てるとい うことをお話されていましたけれども。 音声不明瞭 湯浅:法を盾に取れば勝てるっていうことで、へぇと思ったことがあるのですけれども。生 活保護の裁判というのは行政訴訟の中でも異例な勝率7割なんですね。行政訴訟っていうの は大概市民側が勝てないようになっているんですけれども。それでも勝てちゃうというの は、それだけ違法なことが現場では行われているということですね。 学生E:先ほどの法律の話に付随してなのですが、そもそも保護を申請する人に正しいそ ういった法の知識などを知る機会が与えられていないのか、その辺を教えてください。 湯浅:全員に対しては等しく伝えられていないと思うんですけれども。生活保護の基準てい うのは日本の場合、計算しないと分からないようになっているんですね。何人家族なのか、 それぞれが何段階なのか、どこに住んでいるのか、そういうことを当てはめていって最終 的な金額が出るんですけれども。そういう計算ていうのは、市の広報誌とかホームページ には載らないんですね。勿論秘密資料ではないから、情報を求めれば出てくるんですが。 一般に周知されていない。よく引き出しに出すのがサラ金でね。テレビでも新聞でもどこ でもサラ金の広告があって。人々が本当に困った時にどっちを思い浮かべるかというと、 それはサラ金を思い浮かべると。ヨーロッパでは例えば、窓口に訪れた人が税金の相談に 18 訪れたとしても、生活の実態を把握する中で、生活保護が適当だということが分かったら、 職員は生活保護を教えてあげなければいけないという周知義務があって。日本にはそうい うのがないから。そういう社会状況が1つと。あとは、学校教育で実際にそういう事が1つ も教えられていないと。労働者の権利とか、困った時には生活保護という制度があること とか、サラ金の仕組みとか。イメージで言うと丸裸で。貧困者を食い物にするビジネスに すれば、いくらでも食い物になるとそういうこともあります。 司会:そろそろ2時間過ぎましたので。みなさんよろしいでしょうか。湯浅さん、今日はど うもありがとうございました。 一同:ありがとうございました。 19
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