2004 年 5 月 6 日 Vol.6 The Institute of Eco-Regional Development 特定非営利活動法人 地域創造政策研究センター 奈良市学園緑ヶ丘 1-16-14 Tel&Fax:0742-43-4923 E-mail:[email protected] 奈良町・元興寺界隈のこれからを考える 室 ・ 雅博 ・ まちは眼で見るだけではなく、からだの五感全体で感じ、味わうものといえる。奈良町 にもうれしいことに三々五々人々が訪れ、散策されている。しかしながら、時代の変化の 中で、まちの生活の音が少なくなって機械的な音が増え、匂いも余りしなくなっている。 歴史的町並みの残る奈良町は暮らしがあっての奈良町であり、他の観光地と異なり、生活 の音や匂いがなくなれば奈良町らしさもなくなるのではないか、いつまでもつのだろう か?と気になっている。 ゲ 振り返れば、710 年に飛鳥・藤原京から遷都し、平城京の東側に張り出して外京が設け られ多くの社寺も引っ張ってきた。794 年平安京への遷都の際にその勢力を怖れて取り残 された社寺を中心にいわば政治都市から宗教都市として栄え、元々の平城京は 100 年後に はほとんど田畑に戻ったといわれる。中・近世には戦乱や風火水害などで何度も建物が滅 失しているが、社寺に関わってさらに商工都市として地場産業も生まれて栄えてきた。 元興寺は蘇我氏の氏寺であったので、早く衰えて境内に町家が入り込み、小さくなったが、庶民信仰の場 として生き残り、明治の廃仏毀釈で一旦無住の荒れ寺となっている。町家とはあくまでも財・サ−ビスを提 供する商いのための場であり、大店は別として建物そのものにはカネをかけず、意外と質素である。このよ うに、入れ替わり建て替わりしながら 1300 年間栄枯盛衰を繰り返してきた。 戦後は高度成長期に取り残されたところへ、町を分断する都市計画道路の建 設問題が起こり、25 年前 14 人の若手が活動を始めた。81∼83 年の元興寺界 隈の奈良町調査、89 年には奈良町博物館都市構想を受けて、行政が「ならま ち賑わい構想」にまとめ、行政投資を深めたことが、今日の成果につながった。 すなわち、新たなNPOやイベントの誕生、都市景観形成地区内での町家修復 助成、いくつかの公共施設の配置、住民による施設のオ−プン、町なかに子どもの声が響き、かっての賑わ いが戻ったなどを通じて、とりわけ地元に“自分たちのまち”という思いがよみがえったといえる。 とはいえ、行政を含めてまだこれまでの評価がなされていないこと、地元の人々も暮らしがおびやかされ るような旧来の観光地化を望んでいないこと、地域にはなお高齢化、交通、環境などの課題が残っている。 今、昭和 30 年代のレトロ調がブ−ムだといわれるが、一過性ではなく、寒く不便であっても歴史的町家と 町並みに内在する生活の息吹きを伝え、それをいとおしむ内外の人々がともに手をつなぎ続けることができ るかどうか? これまで観光振興といえば住民との関係が軽視されてきており、改めて古都奈良の新しい観 光のイメ−ジづくりと地域住民との関係づくりも模索されなければならない。 なお、本来「奈良町」とは旧市街地の全部であり、活動団体が元興寺界隈をとりあえずタ−ゲットとしてそ ういってきたので、行政では「ならまち」という言い方をしている。近鉄奈良線から北側のエリアでもその 後NPO活動が始まり、やむなく「ならきたまち」と名づけ、行政も「奈良まちかど博物館」という形でバ ックアップしている。 「食のホスピタリティ」 片上 敏喜 観光地においてよく目にする物がある。それは観光地 ティとは、その店の人がいかにお客に敬意と優しさを持 の名物と言いわれる文化的建造物や自然風景にちなんだ って接しているかということに尽きると考える。人はそ 食べ物である。これらに代表される食べ物はその大多数 のわずかなホスピタリティの差で、その店の印象どころ に味への疑問を感じる。私の経験上から述べて、これら か、その地域一帯の印象をも決めてしまうのではないだ の食べ物は「美味くて名物にしたいから作る」という考 ろうか。そして、私はその思いを昨年、吉野山で感じた えではなく 「名物とされる名前を使えば売れるので作る」 ことがあった。その店は、奈良の桜の名所で知られる吉 ということが先立つように思える。それ故に味を犠牲に 野山で柚子香すし(枳殻の実を用いてつくった鮎の姿ず する部分が多くなっているように思うのである。 し) 、焼き鮎すし、あまごすしといった吉野でとれた川魚 ここでいう食べ物とは現地で食べると言う意味で述べ の姿ずしを取り扱っている店である。店内には三人ほど ているが、これがお土産物となると考え方が多少異なっ 店員がいて、全員三十代前半ぐらいの女性であったが、 てくる。日本人が考えるお土産の意味とは、その食べ物 その接客態度がじつに良かった。お客に対する言葉使い が美味しいから買っていくという考えは全体の割合から は丁寧かつはっきりとした口調であり、服装は着物をき 見たら少なく、観光に行った証明のために買うという要 ており凛としていた。私が鮎に対する説明を求めると嬉 素の方が強いのではないだろうか。そのような考え方の しそうに説明をしてくれた。私はこの時点で「ここは良 せいか、味や独自性は追求せず、各地の観光地では饅頭 い」と感じとることができた。それは店員の態度から作 やクッキーに観光地名を書いただけというものが多いよ り手の姿を想像することができたからである。それに説 うに思える。また「名物に美味いものなし」とはよく言 明を聞いていると、使用している魚は天然物で化学調味 われていることだが、それは少し違うと考える。なるほ 料は使っていないというのでますます良いと感じた。天 ど、確かに名物と呼ばれている食べ物を大量に観光客に 然物と養殖物の魚の味は歴然であるし、化学調味料は本 販売しなくてはならない所では、この言葉は当てはまる 来素材が持っている味を壊すということは言うまでもな 場合もある。しかし、量の増加は質の低下と言われてい いことであろう。私は柚子香すしを買い、自宅に帰り食 る様に、そのような所で食べる名物料理は本来の味と違 べてみるとやはりうまかった。枳殻の実の香りが鮎にほ う場合が多い。本来の名物料理やお土産といったものを んのりとのっていて、酢でしめた鮎に風味という味を付 食べたり、持ち帰ったりする場合には、それがどんな原 け加えていた。単に酢でしめた鮎ずしとは違った味を楽 材料でどのように作られたかということに目を向けない しむことができた。 と、本来の味を誤解することになるだろう。 さて、これだけでは私の考える食のホスピタリティと これらを踏まえた上で私は、 『食のホスピタリティ』と いう点においては『良い店』という印象だけで終わって いう視点を持つことを心がけている。ホスピタリティ いたが、店員のある心遣いにより、 『忘れられない店』と (hospitality)の意味を山上徹・堀野正人編著『ホスピ なった。そもそもこの店に入った理由は自分が鮎ずしを タリティ・観光辞典』白桃書房 から引用してみると、 「ホ 食べたいということもあったが、それより家族へのお土 スピタリティの概念は、お互いに存在意義や価値を理解 産にという理由で入ったのであった。そこで鮎ずしを買 し、相手を認め、信頼し、助け合う精神をいう。広義に う際に店員と話をしていて「家族へのお土産に買うので は人間生命の尊厳と社会の公正ばかりでなく、地球にや す」と言うと「家族想いやねぇ。じゃあ、これをおまけ さしいためにも自然環境への配慮も含むべきである。― につけてあげる」と言われ佃煮の入った袋を二つも頂い 中略 ―さらに売買という狭義の立場からは、売り手が たのである。 「なんだそんなことでか」と思うかもしれな 少々犠牲になって買い手優先のサービス提供をするとい いが、これがじつに嬉しかった。その店員の顔は今でも う考え方というよりも、どちらかといえば、売り手と買 はっきりと憶えている。私が考える食のホスピタリティ い手は対等の立場、相互理解、相互信頼関係にあること とは、土地の印象を決める上で大きな役割を持つと考え をいう。売り手も楽しく、買い手も楽しい、すなわちお ている。そういった考えを持つ食い意地のはった私はこ 互い思いやりがあるということである」 とある。 そこで、 の店員の心遣いにより、吉野山は忘れられないものとな 私が考える飲食店やお土産物屋における食のホスピタリ ったのである。 (平成 14 年 2 月 28 日室生にて) 4 月 3 日の奈良県桜井市笠でのそば打ち体験談 そば作りは、長方形の包丁でできるだけ細く切っていくイメージが強かった。また、そばがこんなに風味の強いも のだと思わなかった。新鮮で笠こだわりのそばであり、自分達で努力してそば打ちをして作ったからだろう。 自分で自分の食べるものを作ることは、おいしいものを作ろうという意識が強くなる。普段何気なく食べているも のに強く関心を持つ。このそば作りで感じたことは、何事にも力のいる大変な下準備が必要で、その下準備がおいし い「そば」という成功につながるということだ。そば打ちは難しかったが、達成感と満足感があり楽しかった。欲を 言えば、そばの実から粉にする過程の見学、体験をしたかった。 (奈良県立大学生・藤原有希子) 各委員会からの報告 =ご興味のある委員会に是非ご参加下さい= ■社会創造委員会 □消費者が主導する食品評価機構の設立の趣旨 2 回の研究会を、生駒商工会議所『ものづくり構築事業』 高病原性鳥インフルエンザ、BSE 感染牛、残留農薬、食 委員会に設けられた、介護グッズ研究会と共催で、講演会 品アレルギー、地域文化としての食材と料理の喪失、季 を開催しました。奈良県が県民へ、県の施策についての 節感の喪失、 地域の食材の入手難など、 食にまつわる様々 意見交換を目的にはじめられた『なら県政出前トーク』 な問題が注目されている。 を取り入れたものとしました。 従来、大量で安定した食料供給の掛け声のもと、消費者 会場は 2 回とも、生駒市の富雄川沿いに新設された立派 が望む食料の提供は十分に行われてこなかった。消費者 な「北コミュニティーセンター」で開催されました。2 は、安全・安心な食材、その地で収穫された新鮮で滋味 月 4 日に奈良県福祉部福祉施策課・課長補佐・森本泰精氏、 豊かな食材を望んでいる。また、心ある生産者や流通業 調整員・新田育久氏。 地域福祉計画について講演をいただ 者は、消費者との信頼関係の拡大を望んでいる。 き、あと活発な質疑応答が行われた。 消費者を中心に、生産者・流通業者が、食品を評価し、 2 月 27 日には、奈良県福祉部介護保険室室長・山中伯行 信頼関係を構築する機構が必要である。 (村田) 氏、調整員・林法夫氏。介護保険の上手な使い方として、 福祉用具住宅改修サービスの利用の仕方と伊藤忠ファシ ■文化創造委員会 ョンシステム株式会社・プロジェクトマネージャー・江口 これまでに 4 回開催され担当するテーマについて審議し 隆氏からは、伊藤忠ファションシステムが、取り組んだ て来ましたが、ここではその中の一つ「花と緑と愛のコ 福祉用具づくりの問題点などを講演いただいた。今後も ンサート」について報告します。昨年に引き続き(財)NHK 色々な分野で、高齢社会の問題点を、講演会・研究会の場 サービスセンター及び奈良県文化会館が主催するニュー で勉強をして行きたいと考えています。 ヨーク・シンフォニック・アンサンブルのコンサートの (川村) ■産業創造委員会 ために、地元奈良の合唱団に呼びかけ約 180 名の「NYSE 消費者が主導する食品評価機構の成立可能性の検討を行 と歌う合唱団」を組織し、7 月 21 日(水)の演奏会に向け っています。当面、基本的な考え方、アピールポイント、 て、演奏曲の練習、演奏会場の諸準備、当日の盛り上げ 対象とする食品の分野・範囲、食品の評価方法、組織の形 についての演出等々、様々の協力をしています。 態・規模等を検討するとともに、 アンケート調査等によっ (岡本) て消費者・生産者・流通業者の声を集約しつつ、今秋まで ■観光創造委員会 に設立企画書を作成する予定を立てています。設立の趣 ・観光調査として、「歴史的観光資源と住民評価−天理市 旨は、 次のとおりです。 皆様のご意見をお寄せください。 柳本町を事例として」と題して報告 ・「なら料理」の取り組みでは、県内の食材について、ど 新鮮であること 86.2 のようなものがあるかパンフレット等に基づいて説明を 信頼できる生産者が作ったものであること 46.6 し、三井ガーデンホテルで行ったアンケート調査につい 国の安全基準を達成していること 32.8 て報告。また食の評価機構について協議をした。 地元の生産物であること 20.7 旬の食材であること 50.0 ・観光関連団体への支援ということで、全国、奈良県内 有機栽培(有機JAS認定農家が作ったもの)であること 36.2 の「観光ボランティアガイドの会」について報告を行い、 無農薬と表示されているものであること 27.0 日ごろ購入する食材がどのようであれば安心か 「観光ボランティアガイド」連絡協議会設立について討議、 100% とても必要 69.0 度報告(県「もてなし町づくり」委員会への提出に向け企 どちらかといえば必要 19.0 どちらかといえば不必要 − 不必要 1.7 画書を作成する。 ) 奈良著名寺の名僧講演会開催についての提案をした。 (今 わからない・無回答 10.3 消費者主導で食品の安全・安心を評価する機関の設置 「観光ボランティアガイド」連絡協議会設立の提案書を再 後の検討課題とされる。 ) 100% 図.食に対する消費者の関心度調査結果の概要 資料:食に対する消費者の関心度調査(三井ガーデンホテル「賞味会」参 加者へのアンケート/回答者数:58) 福田建治氏資料より (麻生) 人 物 登 場 ■最近の出来事から■ ・3 月 27・28 日由良・生石研究村エコツアーに参加して 元気に地域で活躍中の人を紹介しています。 第 4 回は、小山紘司さんです。 私は、現在キトサン栽培の無農薬野菜の宅配をスター トしたところです。先日、運転中にラ ジオで聞いた話しですが、女性には常 に「飴玉」が必要だという。どんな飴 玉かというと女としていつも愛されて いるかどうかの確認の飴玉らしい。 「私 といることが楽しい?」とかストレー トに「私を愛しているの?」など、私 にとっては言うのも恥ずかしいことだが、こんなやり取 りが女性脳に大切なんだそうです。外人が小まめに、 「愛 している」とか「きれいだ」とかをパートナーに声をか けるのは何も彼らが女性好きなわけではない。面倒くさ いのは外人も一緒らしいが、しかし声の飴玉を与えてお けば、女性たちが機嫌よくしてくれるのを知っているか らそうするらしい。 こんなことを言えば叱られそうだが、 これはあくまでもラジオの話しで、私の意見ではない。 念のため。 女性はこの飴玉を常に真剣に考えているらしい。 私は、 そんなことは今まで夢にも考えたことはなかった。 「あん たは、私の料理を淡々と食べているけど、美味しいと思 っているの、それとも美味しくないの」というようなこ とを言われたことは何回もある。これは飴玉要求の変化 球らしい。それを投げられたときは真剣に、一生分の大 きな飴玉を渡したほうがいいらしい。熟年離婚申しでの プロローグにもなりかねないとも言っていた。こんなこ とを聞くと、私は今まで何をしてきたのか、あまりの隔 たり(ラジオの話しとの差)にゾットする。私はこれま で、すべて自分勝手に物事を進めてきたし、今も「夢」 に向かって進んでいる。しかし・・・。そんな飴玉は私には あったか・・・あった・・・いや絶対あった・・・。しかし、いま さら・・・。 「愛している」が恥ずかしければ「ありがとう」 で十分であるともラジオで言っていた。 新事業を成功させるためにも、まず足元を見つめ、 最大の協力者になってもらうためだけではなく(これ が本音かも?)人生総仕上げの時にかかり、これから は心の深低にしまっていた「ありがとう」の「飴玉」 を「感謝」という包み紙で包んで、自分の気持ちを表 すため(決して、そばにおいて貰うためではない!) 素直に伝えようと思うこの頃です。 昨年12月11日にもゼミ活動の一環としてこの地に来た が、冬場の寒さとあいにくの天候で、自然との交流もで きないまま帰宅した。そこでもう一度、春先の海辺で前 回出来なかった体験もしようというツアーが企画され た。最初は「熊田の藻場」で海藻の採取。エトワール生 石のセミナー室で美しく押し葉にされたしおりの作り方 の講習を受けた後なので、同じようなモノを思い描きな がら、海岸の岩場をウロウロ。これがひじき、これがア オサなどと教えてもらいながら30分ばかりを過ごす。は じめて見る「アメフラシ」の姿や色彩にも感動。結局用 具などの準備不足もあり、浜に打ち上げられ色よく自然 乾燥されている藻も含めた採集で終わった。 二日目に船で成ケ島へ渡り、ここの大規模な沿岸州を 散策して「ハママツナ」や「ハマボウ」の群落の実態を 見学した。(VTRで見た花のイメージを重ね、花が見 られる夏の群落の盛りを想像してみる。)沿岸州の片側 では由良港に出入りする小さな漁船、反対側の紀淡海峡 では大阪湾へ出入りする大型のタンカーや客船の雄姿、 視覚に入るイメージの対比が普段海には縁のない所に住 む私にはおもしろく新鮮な風景に感じられた。 海辺の体験だけでなく、柏原山(標高わずか300mばか り)への行程もなかなか冒険心がかき立てられるツアー だった。景色は一転し山並みが遠くまで続く。「やまび こ」として帰ってくる自分の声を愉しみながら、空気の 澄んだ時ならば遠くまで見渡せるのだなと実感した。こ の地域に残る旧陸軍の「砲台」跡がそれを証明している。 今はアケビの蔓などが絡まり鬱そうとしているが、井戸 の跡や崩れて寸断されている煉瓦造り建物跡は、東京湾 の砲台跡と共に重要な任務を担っていた往時の歴史がし のばれる。淡路島の知られざる一面では・・・と思う。 自然も歴史もまだまだ宝物が発見できそうな淡路島との 印象を持った二日間だった。(奈良県立大学生 安田惠子) ご入会のお誘い 興味をお持ちになられた方は、下記へご連絡ください。 TEL/FAX 0742-43-4923(川村) 編集後記 ・イラクでの民間人拘束に対する国内の異常な反応に心 が痛みました。 「自己責任」があんな風に使われ、強要さ れるとは・・・。 ・今号はいかがでしょうか。多様な方々の登場を願いつ つ、坂内さんに助けられてここまで来ることができまし た。 (言って頂くほど何もしていません―坂内) (室)
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