[資料元:『GMDSS-新しい海上無線通信システム-』庄司・飯島共著,成山堂,平成4年] GMDSSとは何か 1 9 8 5 年 ( 昭 和 6 0 年 ) 6 月 2 2 日 よ り SAR 条 約 ( International Convention on Maritime Search and Rescue,1979:1979年の海上における捜索及び救助に関する国 際条約)が発効し,我が国も条約締結国の一員としてこの条約に定められた義務 を負うとともに,船舶はこの条約に基づく思恵を受けることができるようになっ た。この SAR 条約は,海上における遭難者を速やかに,かつ効果的に救助する ために,沿岸国が自国周辺の一定の海域について捜索救難の責任を分担し,適切 な捜索救助業務を行うために,国内制度を確立するとともに,関係各国で海難救 助活動の調整等の協力を行うことを定め,世界的な捜索救助体制の創設を目指す ものである。 船 舶 の 運 航 は自 動 化と 小 人数 化 が予 想さ れる ため , SAR シ ス テム で要 求 され る船上搭載システムも極力自動化されたものでなければならない。従来はモール ス 無 線 通 信 が 主体 で あっ た が, SAR シ ステ ムの もと で はこ の遭 難通 信シ ス テム を人工衛星を含めた近代通信技術を用いて信頼性の高い,自動化された通信がで き る も の に 変 え よ う と し て い る 。 こ の 新 し い 遭 難 通 信 シ ス テ ム が , GMDSS( Global Maritime Distress and Safety System: 全世界的な海上遭難・安全システム) である。このシステムは,1999年(平成11年)2月1日から完全に実施されるこ とになっている。その運用開始は1992年(平成4年)2月1日からであり,既に ある種の船には適用されている。この適用のために船舶安全法,船舶設備規程, 船舶職員法,電波法等の国内関連法規も改正され,正式に GMDSS が発足した。 GMDSS導入までの経緯 海上における遭難者に援助を与えることは古くからその重要性が認められてき た.1912年(大正1年)豪華客船タイタニック号がその処女航海の途次に氷山と 衝突し,1490名の犠牲者を出したことから,海上における人命の安全を国際的に 考 え る 機運 が 高 ま り ,国 際 人命 安 全 会 議 が関 か れ,1915年( 大正4 年)に SOLAS 条約(International Convention for the Safety of Life at Sea: 海上における人命 の安全のための国際条約)ができた。第2次大戦後の1948年に国連の下部機関と して IMCO(Intergovernmental Maritime Consultative Organization: 政府間海事協議機 -1 - 構)を設置するための条約案が採択され,1958年(昭和33年)に IMCO 条約が発 効した 。そ してIMCOは 1983年(昭和58年)から IMO(International Maritime Organization:国際海事機関)と名称を変更し今日に至っている。この間 IMCO お よ び IMO は , SOLAS や 海 上 衝 突 予 防 規 則 の 改 正 , 海 洋 汚 染 防 止 条 約 の 採 択, STCW 条約の制定等目覚ましい活動を行い,世界の海洋秩序の維持と航海の安全 に寄与してきた。 1968年(昭和43年)イギリスは海難救助のために捜索救助体制を見直すべきで あるとの主旨から,捜索救助用指針を船舶のために作成すべきであるとの提案を IMCO に対して行い,1970年(昭和45年)に「商船捜索救助便覧」が作成されて 各国に配布された。そして,その翌年の1971年(昭和46年)9月の IMCO の第24 回海上安全委員会において,海上捜索救助に関する国際条約制定の方針が決定さ れ,1973年(昭和48年)5月以来1977年(昭和52年)5月まで5回にわたり会議 が開かれて草案が検討された。我が国は1975年(昭和50年)の第3回会議から代 表を送り審議に参画してきた。 1979年(昭和54年)年4月この条約の採択会簾がハンブルグで開催され,51ケ 国 が参 加し , SAR 条 約 が採 択さ れ た。 こ の条 約は 15ケ 国が 締結 国と なっ た 日の 後12ヶ月で効力を生ずることになり,1984年(昭和59年)6月24日までにフランス,イ ギリス,アメリカ,アルゼンチン,チリ,ノルウェー,西ドイツ,カナダ,オランダ,ブラジル,スウェーデン,アルジェリア,バルバ ドス,オーストラリア,デンマークの15ケ国が締約国となったため,1985年(昭和60年)の6月 22日に発効したものである。 日本は1985年(昭和60年)6月10月に IMO に加入を寄託して19番目の締約国 となり,条約締約国の一員として,この条約に定められた義務を負うと共に,船 舶はこの集約に基づく恩恵を受けることができるようになった。 1979年(昭和54年)の SAR 条約採択会議において,SAR 計画を効果的に運 用するためには,遭難および安全のための通信網を確立,整備することが必要で あることが認識され,IMO に対して FGMDSS(Future Global Maritime Distress and Safety System:将来の全世界的な海上遭難安全システム)の開発を要請する決議 が な さ れ た 。 IMO は こ の 決 議を 踏 まえ て将 来の 全世 界 的な 海上 にお ける 遭 難お よ び 安 全 通 信 制 度 に つ い て 無 線 通 信 小 委 員 会 ( COM) を 中 心 に 検 討 を 行 う こ と とし,通信機能や,対象船舶,通信装備,運用条件等詳細にわたって検討,審議 を続けた。そして現在ではもはや将来のシステムではないという認識から FGMDSS の F が除かれ,GMDSS が用いられ,1992年(平成4年)2月1日から 実施されている。日本では我が国としての意見を調整するために,造船研究協会 内に RR726委員会を作り,IMO に提出すべき我が国対応の原案作りが行われた。 -2 - 用 語 概 説 EGC( Enhanced Group Call,高機能グループ呼出し) 第2世代のインマルサットの新しい機能はEGCシステムである。 EGCは陸上から船へのメッセージを送るものであって,図1に示すように特定の船, 特定の海域に居る船,ある会社だけの船のような特定の船隊,すべての船などに海上安全 情報(Maritime Safety Information:MSI)や商業的通信を行うことができる。 このようにEGCでは二つのサービスが行われる。 一つは Safety NETと言われるもので,海上安全情報の伝達のため官庁によって利用 されるNAVAREA,暴風警報,遭難通報,定期的気象予報などである。 もう一つは Fleet NETと言われ,ニュース,スポーツ,株式情報,魚の陸揚げ価格, 商品価格などの商業的サービスである。 EGC受信機は,A型やC型の船舶地球局に附加して専用聴守を提供したり,専用アン テナを持つ独立型の無休聴守受信機とすることが出来る直接印刷電信(TELEX)装置 で,SOLAS条約ではGMDSSの搭載要件の中で,海上安全情報(Maritime Safety Information:MSI)の無休聴守のために,ナブテックス・サービスの範囲外を航行する 船舶に搭載を義務付けている。 EGC受信機は,陸上から船への遭難通報を受信すると音響警報が鳴り,この警報は手 動でのみリセット出来ることになっている。 沿岸地球局から送られるメッセージは,特別のアドレスが前置きされていて,通信の優 先種別,サービスの種類,宛先,繰返し時間,表字の種類が与えられる。それらはCI: C2:C3:C4:C5の符号(code)として定められている. 特定船舶 水路部 気象庁 救助調整本部 船会社 ニュース・サービス 特定船隊 特定海域 特定旗国船 全船舶 図1高機能グループ呼出:EGC - 3 - デジタル選択呼出し(DSC) GMDSSの特徴の一つとして自動化とデジタル化の導入が挙げられる。現行の無線電 信システムではオペレータが介在してモールス通信を行わなければならず,また遭難通報 の聴守についても原則的にはオペレータの聴守に支えられている。 しかしGMDSSではデジタル選択呼出し(DSC:DigtaI Selective Calling),狭帯域 直接印刷電信(NBDP,NBDPはHF帯無線設備にのみ強制される)とインマルサッ ト設備により,自動化やデジタル化された通信が行われる。 DSCはGMDSSの中枢をになう無線設備の一つである。このシステムはHF(短 波:High Frequency 3MHz~30MHz),MF(中波:Medium Frequency 300KHz~3MHz),V HF(超短波:Very High Frequency 3MHz~30MHz)の周波数を用いて, a.船舶および海岸局の呼出し b.船舶からの遭難通報の発信 c.海岸局が遭難通報を確かに受信したということを遭難船に知らせる受信確認通報 d.船舶又は海岸局からの遭難通報を他の船.海岸局に中継する こと等に用いられる。 このシステムはHF,MF,VHFとも共通に同じ形式が用いられ,技術的に次のよう な特徴を持っている。 a.トーン方式に代りデジタル符号を使うので多量の情報の伝送ができる。 b.10単位の誤り検出コードを使用する同期システムを用いている。 c.同期信号を別にして,各信号は時間的に分離して単位毎に2回送信する。 d.遭難呼出しはボタンを押すだけで自動的に遭難メッセージが送出される。 e.送受信信号はブラウン管,印刷などで表示される。 狭帯域直接印刷電信装置(NBDP) NBDP(Narrow Band Direct Printing Equipment)は,モールス電信の不便さや,イン マルサット海事衛星の小型船舶への装備の困難さなどを解決するための一方式として開発 された海上通信システムであって,船舶局と海岸局,又は船舶局間において,中波/短波 帯の周波数を用いて遭難・安全および一般のテレックス通信を目的とした送信および受信 装置である。GMDSSでこのシステムが要求されるのは,NAVTEXシステムの放送 のない海域で,短波のNBDPシステムでNAVTEXと同じ形式の海上安全放送の行わ れている海域を航海する船舶とA4水域船舶である。 1970年ニューデリーで開催された国際無線通信諮問委員会(CCIR)第12回総会で採 択されて以後,公衆通信用として外国,特にヨーロッパ諸国で急速に普及し,既設船舶局 数は1983年約4,000隻に達し,毎年30~40%の増加率を見ている。また海岸局は約30か国, 約50局が運用している。 国際方式は英数字しか伝送できないが,我が国では片仮名文字も伝送可能な独自の国内 方式が開発され,基礎実験・実用試験を経て,1973年より一部水産業界で運用されてきて いる. 非常用位置指示無線標識装置(EPIRB: Emergency Position Indicating Radio Beacon) 遭難沈没船から自動離脱・浮上し,遭難信号をインマルサット衛星→海岸地球局経由で RCC(Rescue Co-ordinate Center /救助調整本部)に電送することができるもの. SART( Search and Rescue Rader Transponder) GMDSSで生存艇の位置を指示する主たる手段として採用されたものである. SARTは船舶あるいは航空機に装備されている9GHz帯のレーダー電波に応答し,同 じく9GHz帯の電波を発射し,その反射電波を船舶あるいは航空機のレーダー画面上に13 点からなる輝点信号を表示することにより生存艇の位置を知ることができるものである. - 4 - - 5-
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