rhBMPを用いた自家腱移植による半月板再生 仲 哲史、橋本祐介、中村博亮、高岡邦夫 (大阪市立大学大学院医学研究科 整形外科) 【目 的】 我々は、recombinant human Bone Morphogenetic Protein(以下、rhBMP)を腱内に注入することによ り局所的な腱の軟骨化を経て骨化することを報告している。今回、自家腱移植を用いた半月板再建術の 際にrhBMPを移植腱内に注入し、腱を軟骨化し正常に近似した半月板再生を動物実験モデルで試みたの で報告する。 【方 法】 内側半月板切除後、家兎半腱様筋腱を関節内に移植した。その際移植腱の関節部分のみにrhBMP-2溶 液10ulを注入した。rhBMP-2の使用量によりrhBMP(-)群・Low-dose群・High-dose群とした。術後4週・ 8週にて組織採取し、soft X ray、H-E染色、Toluidine Blue染色・Safranin O染色を行った。免疫学的染色 として、type I・II collagenに対する抗体を用いて染色した。軟骨損傷の評価にMankin's scoreを用い、 移植腱の軟骨化をSafranin O染色を用いてスコアリングした。また対象として正常膝群・内側半月板切 除群も作成し、同様に評価した。 【結 果】 術後4週・8週ともに、Low-dose群では関節軟骨の損傷は内側半月板切除群と比べ軽度であった。また rhBMP(-)群と比較して、移植腱が軟骨化していた。一方、High-dose群は術後8週においてgraftの一部が 骨化していた。 【考 察】 rhBMP-2を腱に注入すると局所的に軟骨細胞が多数出現し、半月板様組織を呈し、半月板再生が観察 できた。関節軟骨損傷も半月板切除群に比べ軽度であり、正常と類似した半月板の再建が可能であった。 rhBMPを用いた人工Bone-Tendon-Boneの作成とそれを使用したACL再建術 橋本祐介、仲 哲史、福永健治、中村博亮、高岡邦夫 (大阪市立大学大学院医学研究科 整形外科) 【目 的】 我々は、recombinant human Bone Morphogenetic Protein(以下、rhBMP)を腱内に注入することによ り腱骨連結部(以下、enthesis)を再生させる技術を開発したことを2007年本研究会にて報告した。その 技術を用いて人工Bone-Tendon-Boneを作成し、それを用いた前十字靭帯(以下、ACL)再建術の動物実験 モデルを作成したので報告する。 【方法】 家兎半腱様筋腱にrhBMP(30ug)を2箇所注入した。注入4週後にそのBone-Tendon-Bone複合体を使用 してACL再建術を行った。移植新生骨をピンにて固定した。術後1ヶ月に固定ピンを抜去し、2ヶ月で組 織採取した。X-P、CT、H-E染色、Toluidine Blue染色でenthesis構造の再現と骨癒合を検索した。PBS注 入群をコントロールとした。 【結果】 rhBMP注入後4週の半腱様筋腱ではpatella bone-tendon-boneに類似した組織が得られ、それは前回報告 したenthesis構造を有していた。ACL再建術後2ヶ月では骨孔は移植骨で埋まり、移植骨と大腿骨および 移植骨と脛骨は骨癒合しており、正常組織に近い様相を呈していた。組織学的にはenthesis構造が保た れていた。 【考察】 靭帯断裂の一病態としてACL断裂、腱板断裂、深指屈筋腱断裂のようなenthesisの組織破断がある。現 在の腱を用いる方法では組織学的な再建は困難である。また骨―腱―骨複合体である膝蓋腱では組織学 的な再建はなされるがドナー側の問題が残る。我々が用いた方法では腱を直接骨化させ、膝蓋腱のごと くの組織を新生することによって、より正常に近似した組織学的な再建が出来ると考える。 【結論】 rhBMPを用いて前十字靭帯再建モデルを作成し、正常に類似した組織像が得られた。 BMP-2発現プラスミド少量連続注入による骨誘導活性に関する研究 大澤賢次、大久保康則、中尾一祐、小山典昭、別所和久 (京都大学大学院医学研究科 感覚運動系外科学講座 口腔外科学分野) 【目 的】 プラスミドベクターを用いた遺伝子導入法はウイルスベクターを用いた遺伝子導入法と比較してより 安全であり、臨床応用を考慮する上においては優れた方法である。 われわれはこれまでにプラスミドベクターを使用した遺伝子導入法として、電気穿孔(エレクトロポレ ーション)法や超音波遺伝子導入(ソノポレーション)法を用いてBMP-2遺伝子導入を行い、骨誘導を確 認したことを報告している。両方法とも、専用の装置を必要とし、さらに至適条件を得るために装置を 調整する必要がある。 今回、われわれはより簡便な方法を見出すため in vivo において、プラスミド注入を連続して行うこと によりBMP-2遺伝子導入を行った。 【方 法】 生理食塩水で希釈したBMP-2発現プラスミドベクターを経皮的にマウス腓腹筋に注入した。同様の操 作を8日間連続して行った。対照群としてLacZ発現プラスミドベクターを用いて、同様の操作を行った。 7, 14, 21日後にX線撮影および組織学的、生化学的評価を行った。 【結 果】 BMP-2遺伝子導入群において対象部位にX線不透過像を認め、組織所見にて骨組織が確認された。対 照群では骨形成は認められなかった。 【考 察】 プラスミド注入を繰り返し行うのみで対象部位の筋組織内に異所性骨形成が確認され、骨再生医療に おいて本法が応用できる可能性が示唆された。ただし、確実性や骨形成量には問題があり、他の遺伝子 導入法を併用して導入効率を上げるといった工夫が必要であると考えられた。 抗腫瘍壊死因子阻害剤は、BMP-2異所性骨形成能を促進する 江口佳孝、脇谷滋之、今井祐記、橋本祐介、仲 哲史 高岡邦夫、中村博亮 (大阪市立大学大学院医学研究科 整形外科) 【目 的】 抗腫瘍壊死因子阻害剤投与における、BMP-2異所性骨形成への影響を検討すること。 【方 法】 我々は、BMP-2徐放効果をもつポリ乳酸-パラジオキサノン-ポリエチレングリコール(PLA-DX-PEG)で、 一定量(5μg)のE.coli rhBMP-2(BMP-2)を包埋したPLA-DX-PEGポリマーペレット(6mm径, 30mg)を作 成し、4週齢ICRマウス背筋筋膜下へ埋植した。遺伝子組換え技術により合成された可溶性TNF受容体 etanercept(ETN)を全身、および局所投与した。ETNヒト一回全身投与量(25mg/human)を基準量(マウ -3 -1 ス換算μg/mouse)とし、その10 , 10 , 1, 10倍濃度群と、BMP-2単独群、ETN単独群の6群(n=5)を検討し た。経過観察中、全身投与群には、濃度別に調整されたETN基準量を、週2回マウス尾基部へ皮下投与(合 計6回)した。一方、局所投与群には、同様に調整されたETN基準量一回投与量を、それぞれBMP-2含有 PLA-DX-PEGペレットに埋植し、追加投与は行わなかった。標本はレントゲン、骨塩量、骨形態計測(von Kossa, Toluisine blue, TRAP染色)にて評価された。 【結 果】 埋植後3週で屠殺、標本を摘出した。ETN単独群では骨形成を認めなかった。BMP-2単独群、BMP-2, ETN共投与群では、レントゲン上、異所性骨を確認し、濃度依存性に骨塩量の増加を認めた。骨形態計 測において、骨梁、骨芽細胞の増生、破骨細胞の抑制を濃度依存性に認めた。マウスの体重変化、血清 学的には各群間に差を認めなかった。 【結 論】 ETN全身、局所投与はBMP-2異所性骨形成を濃度依存性に促進した。ETNによる骨形成促進には破骨 細胞系ならびに骨芽細胞系双方への関与が示唆された。 ヒト歯髄組織におけるBMPの発現 伊藤勝敏1、村田 勝1、田崎純一2、荒川俊哉3、田隈泰信3、有末 眞1 (北海道医療大学歯学部 生体機能・病態学系 顎顔面口腔外科学分野1) (北海道医療大学歯学部 生体機能・病態学系 組織再建口腔外科学分野2) (北海道医療大学歯学部 口腔生物学系 生化学分野3) 【目 的】 歯髄組織は歯の恒常性維持に重要な働きをするばかりでなく、多能性幹細胞が存在することが報告さ れ、再生医学での歯髄研究の重要性が指摘されている。本研究では、再生医療における歯髄組織の骨形 成タンパク質(BMPs)について、RT-PCR法とウェスタンブロッティング法を用い、分子生物学的に分析 することを目的とした。 【材料および方法】 total RNAおよび歯髄タンパク質は、ヒト抜去歯(上下顎第三大臼歯)から摘出された歯髄組織より抽出 した。RT-PCR法によりBMPsの発現を検討し、ウェスタンブロッティング法によりBMP-2タンパク質の 検出を試みた。また、BMP-2タンパク質の発現状態を確認するために、BMP-2遺伝子のタンパク質発現 部位をFLAGタンパク質発現ベクターであるpIRES-hrGFP-1aベクターに組み込み、FLAG標識BMP-2発現 ベクターを生成した。生成した発現ベクターをCOS7細胞に導入することにより、FLAG標識BMP-2タン パク質を発現させた。 【結 果】 RT-PCR法により、歯髄組織にはBMPファミリー遺伝子のうちBMP-2, BMP-4, BMP-6, BMP-7のmRNA の発現が検出された。また、還元条件下のウェスタンブロッティング法で、ヒト歯髄組織のBMP-2タン パク質を検出した結果、弱いシグナルを示すバンドが16kDaの位置に、強いシグナルを示すバンドが 50kDaの位置に検出された。FLAG標識BMP-2タンパク質をCOS-7細胞で発現させて、抗BMP-2抗体およ び抗FLAG抗体を用いてウェスタンブロッティング法を行った結果、両方とも強いシグナルを示すバン ドが62kDaの位置に検出されたことから、BMP-2は成熟型が微量発現しているが、主に前駆体の状態で 存在することが判明した。 【結 論】 歯髄組織にはBMP-2, BMP-4, BMP-6, BMP-7のmRNAが発現していた。また、BMP-2タンパク質は主に 前駆体の状態で存在していることから、生理的状態の歯髄組織は硬組織形成に関して休止期にあると考 えられた。 Smad1のリン酸化・脱リン酸化による骨芽細胞分化誘導の制御 古株彰一郎、大手 聡、福田 亨、片桐岳信 (埼玉医科大学ゲノム医学研究センター 病態生理部門) 【目 的】 BMPの骨形成誘導作用は、膜貫通型セリン・スレオニンキナーゼBMP受容体が、転写因子SmadのC 末端をリン酸化して活性化する。近年、リン酸化Smadの脱リン酸化反応が新しいBMPシグナル抑制機 構として注目されている。我々は昨年の本研究会で、ホスファターゼの1種であるPPM1Aが、Smad1のC 末端擬似的リン酸化変異を導入した構成的活性型変異体を抑制することから、C末端の脱リン酸化以外 の機序を介す可能性を報告した。本研究では、Smad1のリンカー領域内のMAPKおよびGSK3bによるリ ン酸化部位変異体を作製し、Smadと他の細胞内情報伝達系のクロストークを解析した。 【方法・結果】 Smad1の変異体または野生型を、Smad4または構成的活性型BMP受容体と共にC2C12細胞に発現させ、 誘導されるALP活性を測定した。特にMAPK変異体は、Smad4と協調的に高いALP活性を誘導した。構成 的活性型BMP受容体は、全てのSmad1と共にALP活性を誘導した。PPM1Aは、構成的活性型Smad1や GSK3b変異体によるALP活性も抑制しが、MAPK変異体が誘導するALP活性はほとんど抑制されなかった。 【考 察】 以上のように、Smad1の活性はBMP受容体によるC末端のリン酸化で正に制御されるのみならず、リ ンカー領域のリン酸化によって活性が負に制御されている可能性が示された。PPM1Aは、Smad1のC末 端の脱リン酸化酵素と考えられてきたが、リンカー領域のMAPKリン酸化部位を介してBMPシグナルを 抑制する可能性が示された。 【結 論】 Smad1の骨芽細胞分化誘導活性は、分子内のC末端とリンカー領域のリン酸化・脱リン酸化によって 制御される。 BMPシグナルは乳癌細胞の浸潤・骨転移を促進させる 勝野蓉子1、羽生亜紀2、江幡正悟1、神田浩明3、宮園浩平1、今村健志2 (東京大学大学院医学系研究科 分子病理学1) (癌研究会癌研究所 生化学部2) (癌研究会癌研究所 病理部3) 【目 的】 TGF-βは癌細胞の運動・浸潤、EMTを誘導し、癌細胞の浸潤、転移を促進する。一方、同じファミリ ーに属するBMPと癌については、いくつかの癌においてBMPが癌細胞の運動・浸潤を誘導すること、 BMPシグナルコンポーネントの発現と乳癌の悪性度が相関することなどが報告されているが、そのシグ ナルの癌転移における役割については不明である。我々は、乳癌の臨床検体と、高骨転移ヒト乳癌細胞 株MDA-231-D細胞のマウスへの移植による実験転移モデルを用い、乳癌の骨転移におけるBMPシグナル の役割を検討した。 【方法・結果】 乳癌患者の臨床検体と、マウスモデルの組織を用いた免疫染色の結果、骨転移した乳癌細胞の原発腫 瘍と転移性骨腫瘍においてSmad2とSmad1/5/8がリン酸化されていた。MDA-231-Dへの遺伝子導入によ りTGF-β応答性あるいはBMP応答性にluciferaseを発現する細胞を作成し、マウスへの移植モデルにおい てin vivo imagingを用いて癌細胞のTGF-β, BMP依存的な転写活性を経時的に可視化する系を確立し、骨 転移巣においてTGF-β, BMP依存的な転写が活性化されていることを明らかにした。In vitroで、TGF-β同 様、BMPはMDA-231-D細胞の運動能・浸潤能を亢進させた。TGF-βあるいはBMPのレセプターの dominant negative formをMDA-231-D 細胞に発現させることで、in vivo モデルにおいて、骨転移を抑制 し、移植マウスの生存時間を延長した。 【結 語】 以上の結果から、TGF-β同様、BMPも乳癌の浸潤・骨転移を促進する可能性が示唆された。 Fibrodysplasia ossificans progressiva(FOP)で新たに同定された ALK2変異体の機能解析 福田 亨、古株彰一郎、大手 聡、片桐岳信 (埼玉医科大学ゲノム医学研究センター 病態生理部門) 【目 的】 Fibrodysplasia ossificans progressiva(FOP)は、成長に伴い全身の筋組織内に異所性骨化を生じる遺伝 性難病で、出生時から足指の外反母趾様変形等の特徴的な症状を示す。FOPの責任遺伝子として、BMP のI型受容体の一種であるALK2遺伝子が同定され、国内外のFOP患者でGSドメイン内のR206H変異が報 告された。我々は、R206H変異がリガンド非依存的にBMPシグナルを活性化する構成的活性型変異であ り、リガンド存在下では高感受性を示すことを報告している。最近の研究により、従来よりも重篤な指 の変形や異所性骨化の発症年齢が遅いFOP患者からR206H以外の変異が数種類同定された。そこで本研 究では、これらのALK2変異体による細胞内シグナルを解析し、FOPの臨床症状と各変異体の機能的変化 の関連について検討した。 【方法・結果】 ヒト野生型ALK2遺伝子を用い、新たにFOP患者で同定された9種類の変異体を作製した。これら変異 体をSmad1と共にC2C12細胞に過剰発現させ、ALP活性誘導能を比較した。その結果、キナーゼ領域の 変異体(R258S、G328E/R/W、G356D、R375P)よりもキナーゼ活性調節領域として知られるGSドメイン 内の変異体(P197F198del、R202I、R206H、Q207E)の方が高いALP活性を誘導した。また、BMPの初期 応答遺伝子であるId1レポーターを用い転写活性化能を調べたところ、ALP活性同様にキナーゼ領域変異 体よりもGSドメイン変異体に強い傾向が認められた。 【考 察】 R206Hと同様に、新たな9種のALK2変異も構成的活性型変異であることが明らかとなった。各変異体 の活性は、GSドメイン変異体の方により強い傾向が認められた。また、Smadのリン酸化レベルとの相 関により、異所性骨化誘導はSmadを介したシグナルに依存していると考えられた。ALK2変異体の活性 調節にFKBP12の関与が示唆されており、現在、各変異体の細胞内シグナルとFKBP12との関係について も解析を進めている。 BMPによるRhoAの活性化を担う新規受容体の同定 萩原芽子、村松里衣子、山下俊英 (大阪大学大学院医学系研究科 分子神経科学講座) 【目 的】 BMPによる細胞内シグナル伝達は、RhoAの活性化制御により修飾を受けることが示唆されている。 BMPによるRhoAの活性化制御機構を明らかにし、RhoAとsmadシグナルのクロストークを解明すること を目的として、本研究を進めた。これまで我々は、RhoAの活性化を担う受容体を複数同定した。これら を候補分子として解析した結果、neogeninがBMPの受容体として機能している可能性を見いだした。 neogeninはrepulsive guidance molecule(RGM)の受容体として同定された分子であるが、我々は、RGM がneogeninに結合するとRhoAが活性化される分子メカニズムを明らかにした(J Cell Biol., 2006, 2009)。 本研究では、BMPの受容体として機能するneogeninのシグナル伝達解明を目指した。 【方法・結果】 BMP-2,4はneogeninを発現する細胞に特異的に結合した。また両者の結合が、精製タンパク質を用い たELISA法で証明されたことから、neogeninとBMP-2,4,7が直接結合することが示された。マウス筋衛星 細胞株C2C12細胞を用いて、BMP-2による骨芽細胞分化促進効果の指標として、Alkaline phosphatase(ALP) の発現量を定量した。C2C12細胞における内因性のneogeninの発現をノックダウンすると、BMP-2によ る骨芽細胞分化作用は亢進し、neogeninを過剰発現するとBMP-2による骨芽細胞分化が抑制された。さ らに、BMP-2によるsmad-1,5,8のリン酸化を指標にした場合も、同様の結果が得られたことから、 neogeninによる細胞内シグナルは、smad-1,5,8のリン酸化を負に修飾していると考えられた。BMP-2は neogenin依存性にRhoAを活性化した。neogeninのBMPシグナルを修飾する効果は、Rho-kinase阻害剤に よって消失した。 【考察・結論】 neogeninはBMPの受容体として働き、リガンド依存性にRhoAを活性化することを示した。このRhoA の活性化はRhoGEFであるLARGが担っていると考えられる。そしてneogeninの下流で活性化された RhoAおよびRho-kinaseは、smad-1,5,8のリン酸化を抑制的に制御することを示した。Rho-kinaseとsmad1,5,8のリン酸化のクロストークの詳細は今後の研究課題である。 ─ 特別講演 ─ 骨髄造血:幹細胞とそのニッチ 須田年生 (慶應義塾大学医学部 発生・分化生物学) 約30年前、Ray Schofieldは、幹細胞の微小環境に対し、本来壁のくぼみを表すニッチ(niche)という 言葉を用いた。幹細胞の生存に適する所という意味で用いられたニッチが、具体的な細胞として捉えら れたのは、ショウジョウバエの生殖腺においてであった。 造血幹細胞でも幹細胞の居場所が可視化されるようになり、骨髄の構造と機能が再検討されている。 そのなかで、造血幹細胞と骨芽細胞/破骨細胞の相互作用、さらに類洞とよばれる特殊な構造をもつ血管 の役割が注目されている。本講演では、低酸素性ニッチにある幹細胞の代謝的特徴について述べる。ニ ッチは幹細胞のホーミングや未分化性維持に対してどのような役割を果たすのか?ニッチを介する分裂 制御(非対称分裂)は、どのように捉えられるのか?現在進行形のデータを呈示し、骨髄造血について 議論したい。また、がん細胞のニッチについても言及する予定である。
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