不安・情動的要因が演繹的推理に及ぼす効果

PF067
教心第 57 回総会(2015)
不安・情動的要因が演繹的推理に及ぼす効果
○大岸通孝(金沢大学)
中田順平#(金沢大学)
問 題
人間の日常生活における推理判断には,認知
的要因だけでなく情動的要因も関与している。
Blanchette & Richards (2004) は,演繹的推理課題
において,情動価の高い内容を含む条件文を用い
たとき,ワーキング・メモリの処理リソースが消
費され,中性的な材料を用いたときよりも推理機
能が低下するという結果を報告している。しか
し,この研究とは逆に,情動的内容の推理課題の
方が,論理的判断が正確に行われるという結果も
報告されている。本研究は,演繹的推理課題の刺
激材料の情動価の効果を調べるとともに,推理の
主体である実験参加者の不安状態が推理判断に及
ぼす効果について検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生34名(男子
30名,女子 4 名)。実験に先立って新版STAI (2000)
を実施し,状態不安と特性不安についてそれぞれ
上位群と下位群に実験参加者を分類した。
実験材料 仮言三段論法の形式(「pならばq
である」)をとる演繹推理問題を,問題文に用い
ることばの情動価を操作することにより90問作成
した。各問題については,情動価により 3 条件
(Neutral語,Positive語,Negative語)を設定した。
手続き 実験はすべて個別に行った。各実験参
加者に対して Wason (1966) の 2 課題( 4 枚カード
問題」と「THOG 問題」
)について解答を求めた
あと,仮言三段論法課題を90試行実施した。各試
行では,コンピュータ画面に前提 1 (例「不幸な
らばため息をつく」)が最初提示され,スペース
キーを押すと前提 2 と問題が同時に提示された。
前提 2 の形式は前件肯定(例「彼は今不幸だと
思っている」
),前件否定(例「彼は今,自身を不
幸だとは思っていない」
)
,後件肯定(例「彼女は
ため息をついていた」)
,後件肯定(例「彼女は最
近ため息をついていない」)の 4 形式を設定した。
実験参加者は前提 1 と前提 2 をもとに問題(例
「彼女に不幸があったか?」
)に対して「はい」
「い
いえ」「どちらともいえない」の 3 件法で解答す
るよう求められた。なお,問題は前提 2 の形式に
より内容が異なる。問題呈示後18秒経過しても解
答がなされない場合には,警告音と警告文を呈示
し,すぐに解答するよう実験参加者を促した。
結 果
状態不安の効果を見るために三段論法推理の正
答率について 3 要因分散分析した結果,状態不安
×情動価×前提 2 の形式の 3 次の交互作用が有意
で(F(6, 192)=2.913, p=.0097, ηp2=.083)
,後件
否定(
「対偶」による推理)において Neutral 条件
は状態不安下位群の方が上位群よりも成績が低
く,Negative 条件では逆に状態不安下位群の方が
上位群より成績が高いことが示された(Figure 1
参照)。また,情動価×前提 2 の形式の 2 次の交
互作用が有意で(F(6, 192)=6.094, p<.0001, ηp2
=.160)
,前件否定形式(「裏」による推理)では,
Neutral 条件の成績がもっとも高いのに対し,後
件否定形式では Negative 条件の成績が高いという
結果がみられた。なお,特性不安と他の 2 要因と
の間および不安と Wason 課題との間には有意な関
係は見出されなかった。
考 察
本研究の結果から,状態不安の高い状態では,
刺激がもたらす情動的影響は受けにくいのに対
し,状態不安が低い状態ではこのような影響が現
れやすく,推理をする主体の不安状態によって刺
激の情動価の効果が異なることが示唆される。さ
らに,後件否定形式の論理判断では,Negative な
情動価をもつ命題は,否定文の形式に変換される
ことにより,情動価の効果が減少すると考えられ
る。また課題が困難な場合には,不安の効果は現
れにくいといえる。
本研究の実験は,中田順平による平成26年度金沢大学理
工学域電子情報学類卒業研究で行われたものである。
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