復調可能領域の空間的分散化による情報漏洩リスク低減法における 補助情報のマルチホップ伝送に関する一検討 A Study on Multi-hop Transmission of Sub-Information for Secure Wireless Communication using Spatially Separated Propagation Channels 平井 聡 Satoshi HIRAI 宮本 伸一 Shinichi MIYAMOTO 三瓶 政一 Seiichi SAMPEI 大阪大学 大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Osaka University j ( xj , yj ) 5 0 1 2 3 4 Y(m) 6 7 8 9 10 1. まえがき 信号の伝搬領域が陽に限定される有線ネットワークと比較して,ユーザの意図 Sub Info.Node しない地点にまで面的に信号が伝搬する無線ネットワークでは,伝搬路を通じて伝送される情 R#k+1 R#1 R#k+2 R#2 報の秘匿性の確保は極めて重要な課題である.家庭やオフィス等の室内を伝送空間とする無線 R#n R#k メッシュネットワークにおいて,情報の傍受を試みる第三者が存在する可能性のある伝送空間 外への情報漏洩リスクを低減する手法として,復調可能領域の空間的分散化による情報漏洩リ Source Destination スク低減法が提案されている [1].文献 [1] で提案されている手法では,秘匿化された情報の送 detectable area of sub information by single-hop transmission detectable area of sub information by multi-hop transmission 受信ノードと空間的に異なる位置に存在するノードが情報の秘匿化および抽出に必要となる補 private area detectable area of secret information 助情報を送信することにより,秘匿化された情報の復調が可能となる領域 (秘匿化情報復調可 能領域) と,情報の秘匿化および抽出に必要となる補助情報の復調が可能となる領域 (補助情報 図 1: 提案情報漏洩リスク低減法の概念 復調可能領域) を空間的に分散させ,伝送空間外においてそれらの双方が得られる領域,即ち, 表 1: シミュレーション諸元 秘匿化された情報から秘匿化された情報の抽出が可能となる領域 (漏洩領域) の狭小化を図って 伝送方式 OFDM (IEEE 802.11a 準拠) いる.しかしながら,この手法の場合,送受信ノードの位置によっては漏洩領域の狭小化が不 伝送速度 54Mbps 十分であり,情報漏洩リスク低減手法として有効に機能しない場合がある. 伝搬路モデル AWGN ここで,漏洩領域の狭小化を図る手法として,伝送空間内に偏在するノードを中継ノードと シャドウイング標準偏差 10dB し,情報の秘匿化および抽出に必要となる補助情報をマルチホップ伝送することにより,伝送 20.0log10 f + 30.0log10 d - 28.0 dB 空間外において秘匿化された情報と補助情報の双方が得られる領域を狭小化する手法が考えら 伝搬損失 f は中心周波数 MHz れる.そこで,本稿では,復調可能領域の空間的分散化による情報漏洩リスク低減法での漏洩 d はノード間距離 m 領域の更なる狭小化を目的として,補助情報をマルチホップ伝送する手法を提案し,その有効 所要通信品質 BER 5 10−5 性について検討する. 補助情報 サブキャリアインターリーブ 2. システムモデル 補助情報をマルチホップ伝送する場合ならびにシングルホップ伝送する場 node 合の補助情報復調可能領域の概念図を図 1 に示す.図 1 に示すように,提案手法では,補助情 報生成ノード (Sub Info. Node) で生成された補助情報は,中継ノード (R#1∼R#k) を経由して生 起ノード (Source) 宛に,また,中継ノード (R#k+1∼R#n) を経由して宛先ノード (Destination) 宛に伝送される.提案手法では,補助情報の伝送経路や各ノードの送信電力によって補助情報 Sub Info. Node 復調可能領域の形状ならびに面積を制御することが可能であり,それらを適切に設定すること により,伝送空間外で秘匿化された情報と補助情報の双方が得られる領域の狭小化を図る. RS1 RD1 秘匿化された情報の漏洩に関する評価指標として,本稿では,パケット検出確率 (PDR : Packet RS2 RD2 Detectable Rate) ならびに漏洩面積を用いる.ここで,PDR とは,生起ノードが送信した秘匿 化されたパケットから元の情報が抽出される確率である.生起ノードから送信された秘匿化さ Destination Source れた情報が正しく復調され,かつ,補助情報生成ノードもしくは中継ノードから送信された補 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 助情報が少なくとも 1 回正しく復調された場合に,元の情報が抽出される.したがって,図 1 X(m) 中の任意の地点 j (x j , y j ) での PDR は次式のように与えられる.n 図 2: ノード配置 Y 1 PDR(x j , y j ) = 1 − PERS (x j , y j ) 1 − PERSI (x j , y j ) PERi (x j , y j ) (1) 0.9 i=0 C.D.F. 0.8 ここで,PERS (x j , y j ),PERSI (x j , y j ),PERi (x j , y j ) は,それぞれ,地点 j (x j , y j ) における,生起 0.7 ノードが送信する秘匿化情報, 補助情報生成ノードが送信する補助情報,i (i = 0 ∼ n) 番目の 0.6 補助情報中継ノード R#i が送信する補助情報のパケット誤り率である.また,PDR の許容値 0.5 として許容 PDR を定め,伝送空間外で許容 PDR を超える領域の面積を漏洩面積と呼ぶ. 0.4 3. 特性評価 情報漏洩リスク低減手法としての提案手法の有効性を検証するため,計算機シ 1hop-1hop 0.3 ミュレーションを行った.シミュレーション諸元を表 1 に,また,伝送空間内のノード配置を 2hop-2hop 0.2 3hop-3hop 図 2 に示す.図 2 に示すように,伝送空間として 10 m 四方の空間を想定し,伝送空間内に格 0.1 子状にノードが存在しているものとする.なお,本稿では,第三者が存在する可能性のある伝 0 送空間外 (図 2 での 10m 四方の空間外) への情報漏洩低減を目的としているため,伝送空間の 0 100 200 300 400 500 600 700 800 Leak Area(m2 ) 中央に位置するノードを補助情報生成ノードとする.上述のように,補助情報復調可能領域の 形状と面積は伝送経路および各ノードの送信電力に依存するが,伝送空間の境界付近に位置す 図 3: 漏洩面積の C.D.F. 特性 るノードが中継ノードとなる場合,ならびに,伝送空間の境界付近で中継ノード間の距離が長 くなる場合に,伝送空間外での補助情報復調可能領域は広大化し,漏洩面積が大きくなる可能性が高くなると予想される. そこで,ここでは,補助情報生成ノードから補助情報を 2 ホップにて伝送する場合は,図 2 中に示すノード RS1 および RD1 を, また,3 ホップにて伝送する場合は,図 2 中に示すノード RS1 , RS2 , RD1 , RD2 を中継ノードとする経路にて伝送するものとする.ま た,各ノードの送信電力は,受信ノードにおける所要通信品質を満足する最小の電力とする.以下では,許容 PDR = 0.01 とした場 合の特性を評価する. 補助情報を 2 ホップ伝送,3 ホップ伝送した場合の漏洩面積の累積分布関数 (C.D.F. : Cumulative Distribution Function) を図 3 に 示す.比較対象として,文献 [1] で提案されている補助情報をシングルホップ伝送した場合の漏洩面積の C.D.F. も併せて示す.図 3 より,ホップ数が増加するに従い,漏洩面積の低減が図られることがわかる.これは,ホップ数の増加に伴い,各ノードはより低 い電力にて補助情報を送信し,伝送空間外での補助情報の復調可能領域と秘匿化情報復調可能領域の双方が得られる領域が狭小化 されるためと考えられる. 4. まとめ 本稿では,伝送空間外での秘匿化情報および補助情報の双方が得られる領域の更なる狭小化を目的として,情報の秘匿 化および抽出に必要となる補助情報をマルチホップ伝送する手法を提案した.漏洩面積を評価した結果,ホップ数が増加するに従 い,漏洩面積の低減が図られ,情報漏洩リスク低減法として有効であることを確認した. 謝辞 本研究の一部は,文部科学省グローバル COE プログラム ( 研究拠点形成費 ) の補助によるものである.ここに記して謝意を表す. 参考文献 [1] 荒木真敬,宮本伸一,三瓶政一,“ 無線メッシュネットワークにおける伝搬領域の分散化による情報漏洩リスク低減法に関する検 討,” 信学技報, EMCJ2008-57, pp. 43-48, September 2008.
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