世界規模のリコール問題はトヨタにとって"神のリコール” ディーラーの販売

世界規模のリコール問題はトヨタにとって"神のリコール”
ディーラーの販売戦略は共に楽しめる「絆づくりのマーケティング」へ
尋常ではなかったリコール規模、トヨタの新しい創業年に
米国で勃発したトヨタのリコール(無償の回収・修理)問題が世界のトヨタユーザーの不安を坩堝(るつぼ)に
している。
だが、今年3月の米国でのトヨタの新車販売台数は、前年同月比40.7%増の18万6863台で09年12月以来、3
か月ぶりの増加に転じた。主力車種の大量リコール問題で落ち込んだ前月からは、86・8%増と急反発した。
車の急加速の原因が解明されれば、回復基調にさらに拍車がかかることになりそうだ。
今回のリコールの規模は尋常ではなかった。しかし、ある一面から見ると、このリコール問題事件でのトップ
が創業家の豊田章男社長の時代で良かったのではないかと考えたい。なぜなら、章男社長が、創業家として
の顔が見えたことと緊急時の対応の決断力、スピード感、責任感、そしてなにより時代を読む感性と夢を持つ
若さという観点からである。
この問題を乗り越えれば、今年はトヨタにとって新しいクルマ時代の新しいトヨタの創業年(第二創業期)と言
えるだろう。米国などでの今回のリコール大事件はトヨタにとってまさに"神のリコール”であったと前向きにとら
えてはどうか。
リコール問題の判断は「顧客の不安要素」も加味する時代に
トヨタのリコール問題を機に、カーライフをどうお客さまを楽しませ、幸せにするかのマーケティング「絆づくり
のマーケティング」がメーカー、ディーラーの重要な販売戦略のカギになってきた。
トヨタのリコール問題はトヨタのメーカーとしての品質に対する問題ではあるが、一方、販売する側(ディーラ
ー)と、お客さま(ユーザー)の視点から見たらどうであろうか。
今回のリコールに対するトヨタディーラーの対応は迅速でしかも全社員が危機感のもと、全社員営業でお客
さまとの対面で説明、対策に取り組んだとトヨタディーラー首脳は話す。トヨタに対するロイヤリティが高く、オー
ルトヨタの強さをかいま見たのであるが、この試練を教訓にトヨタの販売前線は更に強固になった、つまりお客
さまとの絆がより一層強まったと見て良いだろう(販売力向上)。これは他メーカーのディーラーにとってより脅
威になった。
承知の通り、トヨタの国内の販売力は強力である。国内販売シェアは約40数%(除軽)に達している。販売は
テリトリー制を基に経営者は地元の有力経営者が経営する地場ディーラーがほとんどだ。トヨタ店、トヨペット
店、カローラ店、ネッツ店そしてレクサス店とそれぞれ専売車種を持つ5系列を揃える。現在、これらディーラー
は全国に289社ある。
昨年から新型プリウス、サイのハイブリッドの量産車種はオールディーラー扱いとしている。トヨタのモットー
は「一にお客さま、二にディーラー、三にメーカー」というのが販売哲学だ。「販売のトヨタ」と言われる所以であ
る。
今回の特異なリコール問題はオールディーラー扱いの車種であった。「特異な」としたのは従来のトヨタのリコ
ールに対する判断基準とは異質であったからである。しかし、トヨタはお客さまの不安を取り除くことを優先しリ
コールとした。
これまで技術的見地と法令遵守で判断してきたリコール問題について豊田章男社長は「ルールは変わった。
それに加えて顧客の不安にまで踏み込まないといけない」とこれからのリコール対応の変化を語っている。
さらに、「顧客目線、現地現物への理解を深めていく。お金では買えない喜びが今、見直されている。新しい
出会いや体験をするために車で行くと言うことを、もう一つの成長の原単位として育てていきたい」とも発言。
良い車づくりに感性、心理さらに、顧客とエンジニアの信念が大切
さらに、今後のクルマづくり”良い車"について「トヨタは顔が見えないと言われるくらい、大きな会社になって
いる。ただ商品についてはエンジニアの顔が見える個性的な車づくりが出来る体制にしていきたい。
トヨタの研究開発部門はデータだけではなく『感性や心理などが今までより大事になる。クルマづくりの先導
役はお客さまとエンジニアの信念だ』」という豊田章男社長のことばは興味深い。お客さまとエンジニアのニー
ズ、信念での絆づくりである。
夢と情熱によって人を動かした経営者と言われる本田宗一郎の経営訓に「多くの日本企業で失われてしまっ
たもの、それは夢の力により活力を引き出すこと、未来へ向けて社員に希望を持たせ、情熱を持って実践させ
る経営者の姿勢である」「技術よりまず大事にしなければならないのは、人間の思想だと思う。人間を根底とし
ない技術は何も意味をなさない」と思想・哲学の重要性を説いたことばを彷彿させる。
一方、「ディーラーとお客さまの絆」だが、まず、自動車ディーラーには文化が少ないと思う。欧米のクルマ先
進国、特にイタリアは車に乗る生活への愛が違うという。車のために生活を変えるというぐらいグッズが豊富。
ディーラーはもっとクルマ社会に対してクルマ文化を創造し提案するべきである。
また、一般的に、日本の高級車は、お金持ちが乗るという感じで親近感がないと見られてはいないか。でも、
よいブランドは高級感と親近感を併せ持っている。
また、ディーラーの外見は皆同じ。敷居が高く、子供を連れて行きにくいという改善の余地がまだあるようだ。
地域のコミュニティと一体化することが大切だろう。
商売における「お客さまとの人間関係」とは単に仲が良いと言うことだけでなく、大切なことに共感し、共に楽
しめる共同体のようなものであることがポイントであり「絆づりのマーケティング」のコンセプトなのである。
また、それをある経営学者は、どう人を幸せにするかの視点「きめ細かい寄り添いのマーケティング」とも称し
ている。
自動車販売はサービス業であると共にクリエイティブ産業である。
クルマには奥が深い魅力がある。