●症例報告 1 C1-1.DIEP Supercharge flap により組織再建を試みたデグロービング損傷の一例 国立病院機構呉医療センター 整形外科 蜂須賀裕己 【目的】腹壁皮弁によるデグロービング手の被覆は一般的に行われているが,患者の体格 によっては欠損組織を一期的に被覆することは困難である.今回我々は,腹壁ポケット埋 入後,患肢分離と組織採取を同時に腹壁から行って組織を再建し,機能的に良好な結果を 得たので報告する. 【症例】50 歳男性.重機の点検作業中にベルトコンベアに手を巻きこまれ,受傷.当科救 急受診時,示指~環指は DIP 関節で離断され,小指は MP 関節部で離断されていた.軟部組 織はデグロービング損傷を呈し,近位手掌皮線より末梢の組織が剥脱していた.鼡径皮弁 での被覆を試みたが,手背のみを被覆する皮弁面積しか確保できず,腹壁ポケットに埋入 した. 初回手術から 3 週後,腹壁からの離断と組織再建を計画した.離断と同時に患肢と連続性 を保ったまま DIEP flap を挙上し,二つ折りにして手掌側の組織欠損部を被覆した.深腹 壁動脈は尺骨動脈に吻合した.術後,組織の部分壊死が生じたため切除・植皮を施行.母 指 IP 関節を固定し,手掌皮弁の除脂肪を行わず‘肉球’状に残した. 【結果】母指尖と‘肉球’による対立動作が可能で,機能評価では STEF 28 点(左 94 点), DASH score44 点であった.右手での書字・重機の操作も可能で,原職に復帰した. 【考察】デグロービング損傷に対する治療においてはその機能的終着点を設定することが 容易でない.残存機能を慎重に検討し機能的な手の形態再建を行うことが重要であると考 えた. C1-2.手内筋の Volkmann 拘縮症例の経験 だいいちリハビリテーション病院 リハビリテーション科 だいいちリハビリテーション病院 有光幸生 手外科・マイクロサージャリーセンター 野口政 隆 【目的】手内筋の Volkmann 拘縮は骨間筋の区画症候群であり,進行すると手指の Intrinsic plus 拘縮を呈する.今回,splint 療法を併用し改善を得た症例を経験したので考察を加え 報告する. 【症例紹介】40 歳代後半,男性,パイププレス機に右手を挟まれ受傷.右手圧挫,右中指 基節骨々折,右小指中手骨,基節骨開放骨折.同日,可及的に骨接合施行したが小指壊死 を生じ後日,小指切断術と同時に中指基節骨に対し plate にて骨接合術施行した. 【結果】 手指 ROM は TAM にて行った.再手術後は示指 82°中指 24°環指 52°Intrinsic tightness test 示指陽性疑い.中環指陽性.術後セラピィは疼痛に留意し,術後 2 週目よ り中環指持続伸張 Dynamic splint を装着.5 週目より中指 PIP 関節持続伸張目的に Safety pin splint を装着した.術後 20 週目で中指 EDC 腱剝離,環指掌側 Z 形成術施行.術後 32 週目で示指 230°中指 170°環指 202°Intrinsic tightness test 環指陽性.握力右 27.5kg, 左 59.5kg に改善し復職に至った. 【考察】本症例において,受傷後 32 週も環指に関して MP 関節伸展制限は残存,同時に手 内筋の Intrinsic tightness test 陽性も残存を示した.重傷度としては軽度,局所の状態 と考えられた.Dynamic splint による持続伸張により,損傷を受けた手内筋に対して持続 的かつ長期に伸張を加えることで,深部組織の弾性が変化したと推察した.中指 PIP, DIP 関節拘縮は疼痛が限りなく出現しない範囲の可動域訓練と,適宜,splint の調整,変更し 継続した結果,改善を示したと推察した. C1-3.手関節完全切断再接着の1症例 ―つまみ機能に着目して― 岐阜大学医学部附属病院 リハビリテーション部 岐阜市民病院 形成外科 内屋 純、桝田臣弘、青木隆明 大野義幸 【はじめに】鋭利な手関節切断の再接着では機能的予後は比較的良いとされているが,完 全切断では末梢の全神経が損傷されるため,予後は神経回復に左右される.今回,手関節 完全切断再接着術後に手内筋の回復が不良であった 1 例に対しハンドセラピィを行い,つ まみ機能に関して考察したので報告する. 【症例】20 歳代男性.仕事中にパイプカッターで受傷した左手関節完全切断例.受傷同日, 再接着術を施行.術後 6 ヶ月で母指球筋と示中指手内筋の回復は不良で,つまみ動作が困 難であったため母指対立再建術(以下,再建術)を施行した. 【結果】再建術後 6 ヶ月時の ROM は健側比で掌側外転 76%(50°) ,橈側外転 83%(50°),% TAM は 55%であった.握力は 28%(17kgf) ,つまみ力は tip pinch 1.6kgf,lateral pinch 2.0kgf,key pinch 2.3kgf であった.生活上で巧緻動作は可能となったが,力強いつまみ は困難であった. 【考察】再建術後は,つまみ形態が多様化したことで巧緻動作が可能となった.母指は可 動性と筋力において最も重要性が高いと報告されている.つまみでは母指球筋と示指の手 内筋が共同的に作用することが必要であるが,本症例は手内筋の回復が不良であったため 十分なつまみ力は獲得できなかった.つまみ機能を考える上で母指の可動性とつまみ形態 のみではなく筋力の獲得も必要であると思われた. C1-4.血管柄付き足趾関節移植術の長期経過の 1 例 市立奈良病院 四肢外傷センター 林智志、矢島弘嗣、河村健二 【はじめに】血管柄付き足趾関節移植術の長期経過報告は少ない。今回我々は、左示指 PIP 関節に対して第 2 足趾 PIP 関節移植を行い、術後 15 年経過した 1 例を報告する。 【症例】47 歳男性。15 年前に左手を機械に挟まれて受傷した。近医で加療されたが示指 PIP 関節拘縮となったため、 その改善目的に左第 2 足趾の血管柄付き PIP 関節移植術を行った。 術後約 15 年で左足に疼痛が出現し排膿を認めたことから、左足 2 趾の軟鋼線締結部からの 感染と考え軟鋼線を抜去した。術後 15 年の現在、左示指 PIP 関節は屈曲 45 度、伸展 0 度 と制限あるが、X 線で関節症変化は認めなかった。疼痛や不安定性もなく、生活上特に困る ことはなかった。 【考察】血管柄付き足趾関節移植術は、破壊された指関節の再建法として有用であるが、 その手技の煩雑さや、可動域に限界があることなどから、最近ではより簡便な肋軟骨移植 術や、形状の合う骨軟骨移植術が行われることが多くなっている。しかし、成長期の小児 例では、血管柄付き足趾関節移植術は現在でも行われる方法である。今回の症例は足趾関 節移植後 15 年と長期に経過していたが、疼痛なく関節症性変化も認めず関節はよく保たれ ていた。血管柄付きでない肋軟骨移植術や骨軟骨移植術の長期結果は未だ不明であり、血 管柄付き足趾関節移植術は現在でも適応を選べば良い術式であると思われる。 C1-5.環指基節骨骨折のプレート固定に対して屈曲強制ストラップを使用した症例 金沢医療センター 飯田正樹、佐藤ことみ 【目的】指の骨折の症例に対してしばしば関節の可動域制限を生じる。今回、環指基節骨 の浮腫が軽減してから屈曲の ROM 制限に対し、さらなる可動域の改善を目的に屈曲強制ス トラップを使用した。 【方法】50 代男性、競馬場の仕事中に馬と壁に左手を挟まれ受傷。手関節、基節骨折に対 しロッキングプレートを施行する。基節骨に対し伸筋腱を縦方向に切開しプレート固定し 縫合した。回旋変形はみられなかった。術後 12 日目に退院し、その後週2回通院をした。 積極的に自他動での指の伸展、屈曲運動を行った。6 週目より浮腫が軽減してから自動屈曲 可動域を拡大するため屈曲強制ストラップを使用した。 【結果】最終評価での環指の自動 ROM は IP 関節(屈曲 95°伸展-8°) 、DIP 関節(屈曲 70° 伸展-5°)%TAM は 96%であった。 【考察】プレート固定により安定した固定性が得られたため、早期から仕事に復帰され自 他動運動も積極的に行ったことで拘縮予防ができたと考えられる。浮腫が軽減し、自動伸 展の ROM が拡大した時期より PIP 関節の伸展制限に注意しながら屈曲強制ストラップを使 用することで、伸展可動域を確保しながら屈曲可動域も得ることができたと思われる。 C1-6.複数指の基節骨骨折に対するセラピィ 淀川キリスト教病院 リハビリテーション課 淀川キリスト教病院 整形外科 上村 香 福田 誠、金城 養典、日高 典昭 【目的】基節骨骨折後は腱癒着が生じ易く,可動域制限が残存することが問題である.今 回,複数指の基節骨骨折に対する観血的手術後にセラピィをおこない良好な結果が得られ たので報告する. 【症例】31 歳の男性,右利き,サービスエンジニア.勤務中に鉄材が落下して受傷.左示 指・中指・環指基節骨骨折に対して近医にて初期治療を受け,4 日後に当院紹介受診となっ た.受傷 13 日後に観血的整復固定術を施行した.術後 5 日より作業療法を開始し, Burkhalter 型スプリントの作製,IP 関節の自動運動と愛護的な他動運動をおこなった.術 後 2 週でナックルキャストに変更, 労作時と夜間のみ装着した.術後 3 週で blocking splint を,術後 4 週で示指 PIP 関節に対し Capener splint を作製した.術後 5 週に示指の橈側偏 移を認めたため,buddy strap を追加した.術後 10 週より環指 PIP 関節に対し,Joint Jack 様のスプリントにて屈曲拘縮を解離した. 【結果】術後 12 週で可動域は%TAM95 以上,握力は術後 5 ヵ月で右41,左 32 ㎏であった. 【考察】今回,複数指の基節骨骨折後のセラピィを経験した.経過中,腱の滑動不足や PIP 関節の伸展不全,屈曲拘縮などが生じたが,本症例においては問題が生じる度に担当医に 報告し,セラピストがスプリントの追加作製等で早急に対応した.当院では週 1 回,手外 科医とセラピストによるカンファレンスをおこなっており,特にこのような症例において は,医師とセラピストの連携が有効であり,よい結果が得られたと考えられた.
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