第1章 首都圏における航空の現状と課題

第1章 首 都 圏 に お け る 航 空 の 現 状 と 課 題
・ 首 都 圏 の 空 港 容 量 は 、 国 際 線・ 国 内 線 と も に 大 き く 不 足 し て い ま す 。
・国際線の滑走路が1本しか無く、世界の大都市圏空港と比べて、処
理能力が低くなっています。さらに、近隣アジアでも空港整備が進
められる中で、首都圏の国際競争力が低下しています。
・ 首 都 圏 の 航 空 需 要 は 、平 成 32(2020) 年 に は 平 成 10(1998) 年 の 約 1.8
倍に増加し、国内 ・国際便を合わせた空港容量は、さらに約 15 万
回必要であると予測されています。
・空港整備には非常に長い期間と大きな財政負担がかかるた め、長期
的な目標を持って着実に前進しなくてはなりません。
・航空の利便性向上のため、アクセス整備と空港間の適切な役割分担
による利便性の向上が喫緊の課題となっています。
・横田空域が経路設定の障害になっており、縮小・返還が必要です。
(1) 首 都 圏 空 港 の 処 理 能 力 が 不 足 し て い ま す
首都圏の空港は、騒音問題や横田空域等の制限があるため、年間発着
回数は頭打ちで、世界の大都市圏空港と比較しても処理能力が低くなっ
て い ま す(図 表 1 − 1)。
このため、国内線需要の伸びには、増便ではなく、機材の大型化で対
応 し て き ま し た 。 ま た 、 国 際 線 に つ い て も 、 増 便 要 求 や 海 外 33 ヶ 国 の
乗り入れ要望に応えられていません。
このように、首都圏の空港容量は著しく不足しています。
(2) 世 界 の 大 都 市 と の 比 較
海外の大都市と比較すると、ニューヨーク大都市圏は、人口が東京圏
の 約 62 % で あ る に も か か わ ら ず 、 逆 に 空 港 容 量 は 東 京 圏 の 約 3 倍 に も
達しています。世界の大都市圏空港に比べると、成田・羽田の両空港は
滑走路の処理能力が低いために、利便性の高い航空サービスが提供され
ていません。
アジア太平洋地域の航空市場は、世界のどの地域よりも急速に伸び
て お り 、 I A T A (*1) で は 、 平 成 22(2010) 年 に は 全 世 界 に お け る 国 際
定期航空旅客数の過半を占めると予測しています。これに対応して、ア
(*1) IATA:International Air Transport Association、国際航空運送協会
図表1−1 世界の大都市空港の比較
東
京 圏
(3,180 万人・13,143k ㎡)
年 間 発 着 数 (97 年)
ロンドン大都市圏
パリ大都市圏
ニューヨーク大都市圏
(1,750 万人・27,224k ㎡)
(1,070 万人・12,011k ㎡)
(1,970 万人・33,165k ㎡)
成 田
羽 田
ヒースロー
ガトウィック
スタンステッド
ドゴール
オルリー
J F K
ラガーディア
ニューアーク
125,900
219,300
440,600
238,800
104,700
402,700
241,700
353,300
355,100
462,300
都市別発着数合計
345,200
784,100
644,400
1,170,700
国際旅客数(97 年・千人)
22,941
845
50,612
24,385
4,207
31,549
9,457
17,378
1,204
5,619
国内旅客数(97 年・千人)
803
48,435
7,237
2,408
1,159
3,554
15,596
13,977
20,403
25,297
都 市 別 旅 客 数 (千人)
滑走路(延長 m×本数)
73,024
4,000×1
90,008
3,000×2
3,902×1
2,500×1
3,316×1
60,156
3,048×1
83,878
4,215×1
3,650×1
4,442×1
2,134×2
3,353×1
3,658×1
3、880×1
3,320×1
3,460×1
3,042×1
1,966×1
2,700×1
2,400×1
3,048×1
2,073×1
2,560×1
運
用
時
間
24 時間
24 時間
24 時間
24 時間
24 時間
24 時間
(6−23)
24 時間
24 時間
24 時間
24 時間
(6−23:30)
市 内 か ら の 距離 (km)
66
16
24
43
51
25
14
24
15
25
敷
710
1,271
1,141
760
405
3,104
1,534
2,052
263
820
地
面
積 (ha)
注:人口は 1990 年の値。 (東 京 都 調 べ)
:運用時間の( )は利用時間で、航空機の通常の離着陸をそ の時間帯に制限している。
ジア各国では空港施設の整備及び拡充が積極的に行われています。
成 田 空 港 の 国 際 線 発 着 回 数 は 世 界 で 第 20 位 (1997 年 度 実 績 、 I A T
A 調 べ )に と ど ま っ て お り 、 国 際 ハ ブ 空 港 整 備 を 進 め る シ ン ガ ポ ー ル ( 同
第 10 位 )や ホ ン コ ン (同 第 13 位 ) と 比 較 し て 、 競 争 力 が 落 ち て い ま す 。
図表1−2 アジア各国の大規模国際空港整備の動向
(3) こ の ま ま で は 将 来 の 航 空 需 要 に 対 応 で き ま せ ん
首都圏の航空需要は今後とも大きく伸びるものとされています。東
京 都 が 行 っ た 需 要 予 測 で は 、 平 成 32(2020)年 に は 国 内 線 の 航 空 需 要
が 平 成 10(1998)年 の 約 1.8 倍 の 約 8,964 万 人 に 、 国 際 線 が 、 同 じ く 平
成 10(1998)年 の 約 1.8 倍 の 約 4,615 万 人 に 拡 大 す る と 算 定 さ れ て お り 、
国内線は約8万回 、国際線は約7万回の空港容量が新たに必要になる
と 予 測 さ れ て い ま す( 図 表 1 − 3 、 1 − 4 ) 。
このため、首都圏の空港容量の拡大が、喫緊の課題となっていま
す。空港整備には非常に長い期間と大きな財政負担がかかるため、長
期的な目標を持って着実に前進しなくてはなりません。
図表1−3 国内線旅客数需要予測
(万人)
(万回)
40
10000
37.7
万回
9000
35
8000
30.0
30
7000
2
6
.
1
24.6
25
6000
20
首都圏国内線
発着数予測
首都圏国内線
旅客数予測
5000
4000
15
(
空港容量は現行見込み)
羽田・成田空港国内線空港容量
10
3000
2000
5
1000
32
30
28
26
24
22
20
18
16
14
0
10
12
平成
0
GDP は、 平成13∼22年 2
.
0
%
平成23∼32年 1
.
5
%で予測
図表1−4 国際線旅客数需要予測
(万回)
(万人)
25
5000
万回
22.1
4500
20
4000
3500
15.5
15
3000
首都圏国際線
発着数予測
首都圏国際線
旅客数予測
2500
10.2
10
2000
1500
成田空港国際線空港容量
5
(
空港容量は現行見込み)
1000
500
32
30
28
26
24
22
20
18
16
14
0
12
10
平成
0
%
GDP は、 平成13∼ 22年 2.0
平成 23∼32年 1.5
%で予測
1
$
=
1
0
5円で換算
(4)利用者に不便な空港になっています
先進諸国では複数の空港が適切な役割分担の下に運用されています
が、首都圏の空港では、事実上、国際線と国内線の分離政策がとられ
ています。
また、首都圏は他の大都市圏と比べて、都心と空港及び空港間の移
動に時間がかかるため利便性が低く、アクセス整備と空港間の適切な
役割分担による利便性向上が喫緊の課題となっています。
図表1−5 都心と空港の距離比較
ニューヨーク
パリ
滑走路計 2本
2,134m
2,134m
2
5
km
滑走路計 3本
3,353m
3,042m
2,073m
1
5k
m
2
4
km
25
k
m
滑走路計 3本
3,650m
3,320m
2,400m
滑走路計 3本
4,215m
3,880m
2,700m
1
4k
m
滑走路計 4本
4,442m
3,460m
3,048m
2,560m
ロンドン
滑走路計 1本
3,048m
51
k
m
東 京
66
k
m
3
8k
m
滑走路計 1本
3,350m
滑走路計 3本
3,000m
3,000m
2,500m
16
k
m
滑走路計 1本
4,000m
24
k
m
滑走路計 3本
3,902m
3,658m
1,966m
4
3
km
滑走路計 1本
3,316m
(5) 横田飛行場の空域が経路設定の障害になっています
現 在 、 横 田 空 域 は 米 軍 が 管 理 し て い ま す 。 平 成 4 (1992)年 、 運 輸 省
と 米 軍 と の 協 議 の 結 果 、横 田 空 域 の 高 度 制 限 が 見 直 さ れ 、羽 田 発 北 陸 ・
中国 ・ 北 部 四 国・ 北 部 九 州 方 面 行 き の 便 が 横 田 空 域 に 入 ら ず 上 空 を 通
過できることとなりました (ただし、羽田から大阪方面行きなど、一
部 の 路 線 は 現 行 で も 横 田 空 域 に 入 っ て い ま す )。
しかし、横田空域の上空を飛行するためには、東京湾の上空で高度
を稼がなくてはならず、航空各社のコスト増になっています。そのた
め 、 飛 行 経 路 の 複 線 化 や 新 設 が 可 能 と な る よ う 、 横 田 空 域 の 縮 小 ・返
還が必要です。
図表1−6 横田空域
(6) 空港の運営体制
空 港 の 管 理 ・運 営 体 制 に 関 し て 、 欧 米 で は ポ ー ト オ ー ソ リ テ ィ ー (*2)
等が経営する国もあり、空港施設及び管制の市場化が進んでいます。
我が国においても、経営の柔軟性や一層の利用者サービス向上のため
に 、 運 営 体 制 の あ り 方 に つ い て 議 論 を 深 め て い く 必 要 が あ り ま す( 図
表 1 − 7 )。
(*2) ポ ー ト オ ー ソ リ テ ィ ー : 国 や 自 治 体 か ら 独 立 し た 、 空 港 や 港 湾 等 を 一 体 で 管
理運営する公団形態の組織
図表1−7
日
先進諸国の空港運営形態
本
【設置管理者】
○
○
【国による運営】
・ 東京国際
・ 大阪国際
・ 新千歳、福岡、那覇
【地方自治体による運営】
・ 大島、三宅島、八丈島等
米
国
空港整備法に基づき、国及び地方自治体が設置管理
別途法律を定め、公団、株式会社が設置管理
【公団による運営】
・ 新東京国際
【株式会社による運営】
・ 関西国際
・ 中部国際
【設置管理者】
○
○
【州による運営】
・ ホノルル
通常の場合、州、群、市等の地方政府が設置管理
公団や複数の地方政府で構成された組織が設置管理
【ポートオーソリティによる運営】
・ JFK/ニューアーク/ラガーディア
(The Port Authority of New York and New Jersey:PA)
【群による運営】
・ ピッツバーグ
・ ラスベガス
・ マイアミ等
・
ダレス/レーガン
(Metropolitan Washington Airport Authority)
・
【市による運営】
・ シカゴ・オヘア
・ ロサンゼルス等
オーランド
(Greater Orlando Aviation Authority)
【複数地方政府で構成された組織による運営】
・ ダラス・フォートワース
【群と市による運営】
・ デンバー
(Dallas Fortworth International Airport Board)
・
(City & County of Denver)
サンフランシスコ
(The Airports Commission of the City & County of San Francisco)
・
ミネアポリス・セントポール
(Metropolitan Airport Committee:MAC)
・
英
国
ニューオリンズ (New Orleans Aviation Board)
【設置管理者】
○
国の民営化政策により、政府出資あるいは民間100%出資の
民間会社が管理運営
【英国空港会社による運営】
・ ロンドン・ヒースロー (Heathrow Airport Limited)
・ ロンドン・ガトウィック (Gatwick Airport Limited)
・ ロンドン・スタンステッド (Stansted Airport Limited)
【民間100%出資会社による運営】
・ イーストミッドランド
・ リバプール等
仏
国
【設置管理者】
○
○
公団が設置管理
地方空港は、国が設置し地元商工会議所が管理運営を受託
【公団による運営】
・ シャルル・ド・ゴール
(パリ空港公団)
・ ル・ブルジェ等
(パリ空港公団)