10 月 9 日(日)9:30-10:00 【若手研究者フォーラム】 〈分科会 5〉現代芸術の展開 1950 年代以降のマーク・ロスコ作品における「場」の意義 石山 律(慶應義塾大学) 本発表の目的は、マーク・ロスコ(Mark Rothko, 1903-1970)の展示状況への拘りを経て作り出された「場」 の意義を明らかにすることである。 マーク・ロスコは、一般的に「カラーフィールド・ペインティング」の作家として分類され、1950 年代 初頭から登場した単一の、或いは積み重なった矩形は彼の一つの「様式」として知られている。彼自身の 発言やその大画面、また 50 年代末から見られる褐色系の抑制された色彩から、その主題について「感情」 、 特に「悲劇的な」感情と結びつけられることが多い。その一方でロスコは、1952 年にニューヨーク近代美 術館で開催された「15 人のアメリカ人作家」展では展示方法に細かな注文をつけ、担当学芸員とトラブル を起こすなど、自身の作品の展示状況を自身の意思でコントロールすることに執着もしていた。これ以後 彼はグループ展への出品を拒み、最終的には建築物の高さ、採光方法、壁や床の材質や色までに全て自身 の意見を反映させた「ロスコ・チャペル」を死後 1971 年に献堂している。 このように極端なまでに展示にセンシティヴな姿勢には、モダニズム芸術の自律性を離れ、「演劇的 theatrical」 (マイケル・フリード)と批判された次世代の作家たちと共通する面を見出せると考える。空間 との関係を観者に強制するロスコの制作は、一種のインスタレーションと見なすことも可能ではないだろ うか。 「インスタレーション」は展示のため作品を「据え付けること」が原義であるが、現在では芸術の一 形式を指す用語として使用されていると言ってよい。絵画作品であれば、例えば単体のキャンヴァスをそ れぞれ自律した作品と捉えるのではなく、展示空間全体を作品とすることがインスタレーションであるな らば、 「ロスコ・チャペル」に至るまでの彼の作品をインスタレーションであると捉えることもできるだろ う。この点でロスコは、流派は異なれど、同時期に活動していた次世代の作家たちと共通した空間意識を 持ち、それを作品へ反映していたのではないだろうか。 本発表では、ロスコが展示状況に介入を始めた 50 年代からの時代的な空間意識を踏まえた上で、照明な ど展示状況と色彩や構成など絵画面との関係を検討するとともに、フランク・ステラ(Frank Stella, 1936-)を はじめとした次世代の作家たちがその空間意識をいかにして作品へ反映させたのかを概観することで、ロ スコが作り上げようとした「場」の意味するところを浮かび上がらせたい。
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