パンフレットはこちらから(PDF/14.4MB)

電気系工学専攻
電気系工学専攻は平成 20 年度から東京大学工学系研究科に新たに設置された専
攻です。
電気工学とその応用領域技術は、いまや人類にとってなくてならないものとなっ
ています。これまで工学系研究科では、電磁気学・量子物理学を中心とした物理学
を基礎とし、その工学的展開を一層広げていく教育・研究を、電気工学専攻・電子
工学専攻を中心に行ってきました。一方、同じ東京大学の新領域創成科学研究科で
は、電気電子工学の物理学的側面と情報学的側面の両者を融合した領域の創成を目
指し、基盤情報学専攻において 9 年間にわたり教育・研究を行ってきました。平
成 20 年度からは、この 3 専攻の担当教員がひとつの新専攻「電気系工学専攻」
に結集します。いま、新たな展開に向けて出航の鐘が打ち鳴らされました。
電気系工学専攻にはふたつのコースを設定しました。電気電子工学コースでは伝
統の力をさらに深化させ新領域に展開する研究教育を推進します。融合情報学コー
スではこの伝統と情報学の新たな融合領域の開拓を目指します。
当専攻およびその母体となった専攻は、2002 年から 5 年間にわたって 21 世
紀 COE プログラムを実施し、Center of Excellence としての基盤を確立しまし
た。さらに、2007 年からはグローバル COE プログラムを実施して、深い専門性、
幅広い視野、オリジナリティと国際性をもつ次世代リーダーを育成するための研究
教育を行っています。
みなさんもこの新しい船に乗って、一緒に電気・電子・情報システムの大海原に
漕ぎ出しませんか。
1
電気電子工学コース
1.電気電子工学コースの研究理念
電気電子工学コースは、大学としては世界初の電気系専門の学科として誕生
(1873 年)した歴史と伝統を受け継ぎ、工学における基幹分野を担うとともに、
常に時代を切り開く新しい概念や先端技術を生み出してきたフロンティア精神を大
切にしています。本コースでは、電磁気学、電気回路理論、数学、情報理論、量子
力学などの基礎学問をベースとして、エネルギー、制御、環境、宇宙、情報、通信、
集積回路、半導体デバイス、光エレクトロニクス、ナノサイエンス / テクノロジー
に至る非常に幅広い分野で世界トップレベルの研究教育が行われています。また、
物理学、化学、生物学、情報科学、材料科学、機械工学、航空宇宙、プラズマ理工
学などとの境界領域や新しい領域も積極的に開拓しています。本コースの大学院生
には、深い専門性を身につけ世界に通用するトップレベルの研究を行うとともに、
時代の変化に対応したり先導したりすることができる広い視野を養うチャンスが用
意されています。
電気電子工学は確固たる学問的基盤のもとに発展し、無限の広がりを有する分野
であり、将来の発展の芽も数多く含まれています。ここには若い意欲ある学生がや
りたいと思う魅力あるテーマが必ず見つかるはずです。電気電子工学コースは、融
合情報学コースとともに電気系工学専攻を形成し、今後も世界レベルの研究教育を
展開します。
2.電気電子工学コースの研究分野
電磁気学、電気回路理論、数学、情報理論、量子物理学などの基礎学問をベース
として、下記項目に示されるような多様な研究教育を展開しています。電気電子工
学を軸に物理学、材料科学、機械工学、情報工学、航空宇宙、プラズマ、バイオな
どとの境界領域や新領域も積極的に開拓しています。各研究室では深い専門性を身
につけ世界に通用するトップレベルの研究を行うとともに、広い視野を養うための
大学院教育カリキュラムが用意されています。
■ 環境・エネルギー分野
エネルギー、特に電気エネルギーの発生、変換から輸送、利用までを含む過程に
対して、その高効率化と環境改善に繫がるナノ領域の物理からデバイス、機器、シ
ステムを対象としたマルチスケールの研究を行っています。そこには、高電圧・高
電界領域の物理と応用、プラズマ物理とその応用としての核融合エネルギーや環境
改善技術、超電導やパワーエレクトロニクス技術の利用、分散型電源導入や電力市
場自由化の中での電力システム、地球環境問題とエネルギー経済までをも包含して
います。21 世紀の新しい電気エネルギーシステムの構築と環境問題の解決により、
豊かな人間社会の実現に資する研究を推進します。
5
■ システム制御・宇宙分野
近未来のキーワードである「ロボット」
「クルマ」
「宇宙」に関する研究分野です。
実社会への応用を重視した分野ですので、最先端技術を支えるエレクトロニクスと
コントロールの基礎技術をしっかりと身につけることができます。福祉ロボットな
ど実社会のニーズに密着した地に足のついた本物のロボティクス、50%以上がエ
レキ製品となり将来は電力系統につながって電力供給の一翼を担うと期待される華
麗な電気自動車の世界、安全で快適な交通システムの高性能化・情報化研究、未知
への挑戦を行う宇宙システムへのエレクトロニクス・知能化ロボティクスの応用な
ど、人類が安全で豊かな社会を持続するための研究を(マジ真剣に)推進しています。
■ ナノ物理・デバイス分野
今日の情報社会は、超高速・超高密度に情報を記憶・処理・伝送するデバイス技
術に支えられています。しかし、従来の動作原理を用いたデバイスは、既に物理的
な限界に達しつつあり、新しい原理に基づくデバイスの創成が求められています。
本分野では、ナノメートルの精度で精密に制御された電子材料や量子ナノ構造の中
で、電子の電荷やスピン、光子が織りなす新しい物理の探求と、それらを応用した
新しい概念のデバイス技術や情報処理技術の研究を推進しています。
■ バイオ・複雑系分野
エレクトロニクスで培われた究極の微細加工技術、計測技術を用いて " バイオ
を学び "、そして " バイオに学んだ " エレクトロニクスを展開しています。例えば、
DNA は約 0.4nm の間隔で遺伝情報が組み込まれた世界最小の集積度を持つ記憶
媒体です。脳シナプスは 3 次元ネットワーク構造の可塑性により、柔軟でしなや
かな情報処理を行っています。また、コンピュータでは悪者である " あいまいさ/
ゆらぎ " が、バイオの機能発現には本質な役割を果たしています。このような生体
の持つユニークな機能を活用する事で、エレクトロニクスの新しいパラダイムの開
拓を目指した研究を行っています。
6
3.担当教員一覧
■ 環境・エネルギー分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
小田 哲治 教 授
本郷キャンパス
強電界応用工学(エネルギー・環境)
※
山地 憲治 教 授
本郷キャンパス
エネルギー・環境・経済システム解析
日高 邦彦 教 授
本郷キャンパス
高電圧工学、電気エネルギー工学
熊田亜紀子 准教授
本郷キャンパス
高電圧工学、放電プラズマ工学
石井 勝 教 授
駒場キャンパス
高電圧工学・EMC
岩船由美子 講 師
駒場キャンパス
エネルギーシステム工学
横山 明彦 教 授
柏キャンパス
電力システム、ユビキタスパワーグリッド
小野 靖 教 授
柏キャンパス
核融合エネルギー開発、超高温プラズマ・宇宙物理
大崎 博之 教 授
柏キャンパス
超電導エネルギー工学
小野 亮 准教授
柏キャンパス
弱電離プラズマの基礎と応用、放電着火
井 通暁 准教授
柏キャンパス
プラズマ物理、核融合工学
馬場 旬平 准教授
柏キャンパス
パワーエレクトロニクス、超電導の電力系統応用
※今年度学生配属はしない
■ システム制御・宇宙分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
古関 隆章 准教授
本郷キャンパス
運動制御、軌道交通 / 電機駆動制御応用
橋本 秀紀 准教授
駒場キャンパス
ロボティクス、空間知能化
斎藤 宏文 教 授
相模原キャンパス
衛星システム工学、宇宙電子工学
橋本 樹明 教 授
相模原キャンパス
宇宙機の制御、画像センサ処理
久保田 孝 准教授
相模原キャンパス
宇宙人工知能、宇宙ロボティクス
堀 洋一 教 授
柏キャンパス
電気自動車、福祉ロボティクス
■ ナノ物理・デバイス分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
大津 元一 教 授
本郷キャンパス
ナノフォトニクス
高木 信一 教 授
本郷キャンパス
半導体デバイス工学、ナノデバイス物理
田中 雅明 教 授
本郷キャンパス
電子 / 光 / 磁気物性・デバイス、スピントロニクス
八井 崇 准教授
本郷キャンパス
ナノ光デバイス工学
杉山 正和 准教授
本郷キャンパス
異種材料融合デバイス作製プロセス
竹中 充 准教授
本郷キャンパス
先端 MOSFET、シリコンフォトニクス
加藤雄一郎 准教授
本郷キャンパス
量子オプトエレクトロニクス
荒川 泰彦 教 授
駒場キャンパス
量子ナノデバイス工学
藤田 博之 教 授
駒場キャンパス
マイクロナノメカトロニクス、MEMS / NEMS
中野 義昭 教 授
駒場キャンパス
光電子デバイス , 集積フォトニクス
平川 一彦 教 授
駒場キャンパス
量子半導体エレクトロニクス
平本 俊郎 教 授
駒場キャンパス
シリコンナノデバイス
高橋 琢二 准教授
駒場キャンパス
ナノプローブ技術
年吉 洋 准教授
駒場キャンパス
MEMS・マイクロマシンシステム工学
岩本 敏 准教授
駒場キャンパス
ナノオプトエレクトロニクス
種村 拓夫 講 師
駒場キャンパス
半導体光集積回路、フォトニックネットワーク
田島 道夫 教 授
相模原キャンパス
半導体結晶工学、光物性工学
7
■ バイオ・複雑系分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
*
鷲津 正夫 教 授
本郷キャンパス
バイオナノテクノロジー、応用静電気工学
*
田畑 仁 教 授
本郷キャンパス
酸化物・バイオエレクトロニクス
合原 一幸 教 授
駒場キャンパス
カオス工学・生命情報システム論
河野 崇 准教授
駒場キャンパス
神経形態学的システム、神経システムモデリング
鈴木 秀幸 准教授
駒場キャンパス
非線形現象・力学系理論・生体数理モデル
*バイオエンジニアリング専攻への振替可能
8
小田哲治 / Tetsuji Oda
【研究分野】環境・エネルギー分野
研究内容
本研究室の起源は静電気応用である。
「静電気」というと、よい印象を持っ
ていない人が大半。でも現実の静電気工学は、社会と密接した広い研究テー
【研究内容】大気圧プラズマ応用、環境改善、
静電気
マを持つ分野で、生活との関連も深い。ゼログラフィー(電子写真)は静電気
を用いた複写技術だし、コンピュータ出力に必須なレーザプリンタも静電気
です。我々が住んでいる地球レベルでの大気環境改善技術でも静電気を応用
したものが沢山ある。オゾンホールの発生原因とされる特定フロン(CFC)を
はじめ、ダイオキシン、ディーゼル排ガス中の SPM、NOx などを「非熱平
衡プラズマ」で処理する技術の開発から、帯電、除電、レーザアブレーショ
ンによる低誘電率(機能性高分子など)薄膜形成、プラズマ診断、DNA・細胞
操作、カーボンナノチューブの作成と応用、水素ステーションの安全、さら
には、ボルトオーダでの静電気障害と広がっている。そのキーは、静電気と
いうよりは、強電界現象という方がふさわしくなっている。電界のみでなく
10T の強磁場の世界にまで広がりつつある。更には、バイオ操作に進み、バ
イオマテリアルのプラズマ処理を検討中である。
1. 大気圧 Non-Thermal Plasma による大気環境改善技術の開発
ナノ秒パルス放電、高周波沿面放電、DBD(Dielectric Barrier Discharge)
などによって非熱平衡プラズマを発生させ、その強力な化学反応力で、空気中、
微量に存在するフロン、トリクレンなどの有毒 VOC(有機ガス)、CO の分解
除去、燃焼排ガス中のダイオキシン、NOx、SOx 処理技術の研究開発を行う。
触媒併用相乗効果について検討中で、並行して 2 次元 XPS、AES(Fig.2、
Fig.3 参照)
による表面反応解析も行う(Fig.4 参照)
。
Fig.1 最大出力 150J のナノ秒パルスガラスレーザ
2. 分光学による大気圧プラズマ診断およびプラズマ化学反応機構の解明
上記 1. に対応し、狭帯域波長可変エキシマレーサ、色素レーザを用いたレー
ザ誘起蛍光法(LIF)によるプラズマ中の活性種(OH など)、原子(O など)、
分子の二次元計測(時間変化を含む)、オゾンの 2 次元発生分布の時間変化や
発光分光法などの最新診断技術を駆使し(いずれも世界初)
、反応シミュレー
ションモデルを構築する。
3. 誘電体電荷蓄積機構の解明(含むナノメータ計測)
誘電体の表面/内部電荷の挙動を、ディジタル処理化した熱刺激開放電流
(TSDC)測定、光刺激電流観測、レーザによる空間電荷密度測定(LIPP 法)
ピエゾ素子振動励起による圧力波法(PPP)、パルス静電応力法などを駆使し
て観測する。また、ナノメータ走査型 AES 顕微鏡、ナノメータ AFM 顕微鏡
による 2 次元表面電荷密度など電荷の微細密度分布を実測し高密度記録素子
の可能性を議論する。
4. カーボンナノチューブ(CNT)とナノスケール機能性高分子
薄膜の作製およびその応用開発
Fig.2 イメージング機能付きエスカ(XPS)
レーザアブション、プラズマ CVD 技術等によって低誘電率薄膜作成技術、
カーボンナノチューブ作成技術開発とその評価技術をイメージング XPS や
AES によって確立する。テフロン薄膜、CNT のデバイス化を目指す。
5. 超高速静電気放電現象の把握とその対策技術の研究
静電気現象は GHz 以上の周波数成分を含み IT においてもやっかいな存在
である。誘電体表面での帯電・放電現象にしぼり、帯電特性、放電特性をナノ
秒レベルで観測する。同時に、対策技術として、プラズマ処理、レーザ照射、
電子線照射などの新技術を研究開発し、バルクと表面の使い分けをする。特に、
最近は、イオンを発生できないボルトレベルでの静電気障害についても検討
中である。この値は、物体が接触すれば必ず発生するレベルである。
6. 静電力による DNA・細胞操作
従来バイオ操作は、化学的手法のため細胞や分子を個別に操作できない。
電界勾配力などの静電気力により細胞、あるいは DNA を個々に制御すること
で、個別の DNA 等の決められた場所での切断や融合を 1 対 1 で行う技術の
開発を目指す。
7. その他
Fig.3 走査型オージェ電子分光装置
以上のテーマの他にも、10T の強磁場空間(植物成長、気中放電)、150J
ナノ秒レーザ応用(Fig.1 参照)、水素ステーションの安全性評価(静電気と
の関係)などがあり、これらと関連した研究も可能である。バイオスケールで
のプラズマ処理技術の応用 も新規テーマとしてスタートする。これらを総
合して安全で快適な環境の実現を目指す。
学生へのメッセージ
社会が安定し、高齢化が進んでおります。当然、高齢者が気持よく働ける
環境を作りたいと考えていますが、学生諸君には、高齢者ではできない事象
にチャレンジしてもらいたいと思います。特に、学生時代は、失敗を恐れる
Fig.4 大気圧プラズマ VOC 分解実験装置
ことなく邁進し、魅力ある未来を創りだしてください。
9
山地憲治 / Kenji Yamaji
研究内容
【研究分野】環境・エネルギー分野
本研究室では、
エネルギー
(Energy)
・経済
(Economy)
・環境
(Environment)
【研究内容】エネルギー・環境・経済システム解
析
して、この 3E の諸問題をシステム工学の手法で解いて、結果の社会経済的意
の複合領域で発生する、いわゆる 3E 問題・トリレンマが研究対象である。そ
義を論じている。例えば原子力、太陽エネルギー、各種省エネ技術などエネ
ルギーの選択は社会にとって重大な問題だが、その解決には工学だけでなく、
経済学などの社会科学を含めた学際領域での研究が必要となる。以下に具体
的な研究テーマ例を示す。
1.エネルギーと物質フローの分析評価
エネルギーと物質の間には非常に強い関連性がある。石油のような化石資
源は言うまでもなく、バガスや黒液といったバイオマス残渣や廃プラスチック
などの廃棄物でさえ、エネルギー資源となりうる。さらに、鉄などの金属資
源についても、ライフサイクルアセスメントの視点から生産・消費・循環に伴
う投入エネルギー量を考えることができる。そこで本研究では、世界をめぐ
る様々な物質のフローをエネルギーの視点から評価し、エネルギーシステム
のあるべき姿を模索する。
2.分散電源・再生可能電源導入に関する分析
既存の大規模集中型電力供給システムに、ガスエンジン、定置型燃料電池、
図 1 鉄鋼製造におけるエネルギー・物質フロー(エクセルギー単位で表示)
再生可能電源等の分散電源を効率よく配置し結合できれば、経済的・環境的
に優れた電力供給システムを形成できる可能性がある。そこで本研究では、
太陽光や風力といった発電量を制御できない電源を導入する際に予備電源ま
たは貯蔵装置が必要となること、及び、将来の電力需要や燃料価格に不確実
性が存在することを考慮した上で、CO2 排出量制約条件の下、我が国の電源
計画において分散電源・再生可能電源が果たし得る役割に関して分析を行う。
3.自由化された電力市場における環境政策評価
我が国の電気事業は、電力市場自由化と地球温暖化対策という重要な課
題に直面している。そこで本研究では、自由化された電力市場において、電
力市場参入者(個別供給者)の意思決定過程とそれによる全体の帰結を、個
別供給者自身の利益最大化行動と強化学習行動を明示的に表現した「マルチ
エージェント・モデル」を用いてシミュレーションする。それにより、環境政
策が導入された場合の、個別供給者及び全体に与える影響を分析し、自由化
された電力市場における望ましい環境政策を検討する。
図 2 分散電源評価で用いる電力系統の例
4.運輸部門におけるエネルギー戦略の検討
世界の石油消費量や CO2 排出量に占める運輸部門の寄与が経年的に高
まっている中、燃料電池自動車やプラグインハイブリッド自動車等、利用段
階での CO2 排出量の小さい新規の運輸技術の可能性に関心が高まっている。
そこで本研究では、運輸部門を詳細に表現したエネルギーシステムモデルを
用いて、水素やバイオ燃料といった代替燃料、ハイブリッドや燃料電池といっ
た代替推進技術が運輸部門における CO2 排出削減において果たし得る可能
性について検討する。
5.我が国の原子力政策に関するモデル解析
原子炉から排出される使用済燃料を長期的にどのように扱うかは、我が国
のエネルギー政策にとって長年の懸案事項となっている。そこで本研究では、
使用済燃料管理オプションとして、中間貯蔵、再処理とそれに続くプルトニウ
ム利用、地層への直接処分を考慮した我が国の核燃料サイクル政策分析モデ
ル、および、我が国の最適電源構成決定モデルを結合したモデルを用いて、
図 3 東南アジアにおけるバイオエネルギー利用
経済性、環境調和性、エネルギー安定供給の観点から、将来の望ましい原子
力政策のあり方について分析検討を行う。
学生へのメッセージ:
エネルギー、環境問題を技術と社会の両面から考えて、工学の新しい分野
を切り開きたい。研究にはエネルギー問題に関する基礎知識、数理計画法や
システム分析、計量経済解析手法などの素養が必要となるが、知識や手法は
具体的に研究を進める過程で勉強すれば身についてくる。より重要なのは、
現実の動きから基本的問題構造を見抜く力である。旺盛な好奇心と数量的
図 4 世界エネルギーモデルで描いた将来の輸送用燃料
解析の基礎力を持った人の参加を期待している。
10
日髙邦彦 / Kunihiko Hidaka
研究内容
高電圧・放電プラズマ現象の不思議から生まれる新技術創成へのチャレンジ
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】高電圧工学、電気エネルギー工学
高電圧・放電プラズマ現象はいつの時代も神秘的な魅力を提供しています。
これを解き明かすことによって、ナノメータの電子デバイスの作製から数千
km の電力輸送ネットワークの構築、更には地球規模、宇宙規模の環境問題
に対して、絶えず有効な原理や技術が創出され続けています。このように広
範な学問領域を究めるべく研鑽を積んだ人は、社会のどの分野でも活躍でき
るポテンシャル持つことができると考えています。このような理念に基づき、
高電圧・放電プラズマ現象を対象として、計測手法の開発、物理現象の解明、
現象の工学的制御、そして新しい応用分野の創出などに関連する下記のよう
な研究テーマに、熊田亜紀子准教授と共同で取り組んでいます。
■オプトエレクトロニクスを駆使した先進的高電圧測定
図 1 光導波路型ポッケルス電界センサ(LiNbO3、幅 7 ミクロン、長さ
0.5mm)
Pockels センサは、放電空間中の電界測定に初めて応用されたオプトエレ
クトロニクス・センサです。従来不可能であった高電圧の直接測定を可能に
し、更に直流から GHz(ギガヘルツ)までの広周波数帯域をもつ新型のポッケ
ルスセンサを次々に開発しています。また、気体自身の電気光学 Kerr 効果を
利用してレーザ光を伝搬させるだけで、電界が非接触で測定できる理想的な
測定法を見出し、世界で最初にそれを実証することに成功しました。これを
駆使して、解き明かされない謎も多い高電圧・放電プラズマ現象の真理に迫っ
ているところです。
■シャックハルトマン法による非接触電子密度測定
気体放電の基礎物理量である電子密度の空間分布は、放電空間を伝搬する
レーザ波面の位相勾配から求めることができます。これを比較的簡便なシス
テムで可能にしたものが、シャックハルトマン法による電子密度測定で、現在、
ストリーマ内部の電子密度測定に挑んでいます。
■ THz 波を用いた非接触診断技術
光波と電波の間の周波数帯にある THz(テラヘルツ)
波を用いると、可視光
を透過しない物質中でも透過可能となり、伝搬中の偏波状態変化から物質内
部の応力分布などが非接触で測定可能であることを明らかにしました。こう
した新しい診断技術の開発にチャレンジしているところです。
■環境に優しい絶縁ガスの研究
図 2 急峻方形波高電圧パルス発生器(SPURT、立ち上がり時間 16ns、
波高値 200kV)
優れた特性を有する SF 6 ガスも、地球温暖化ガスに指定されるなどいくつ
かの弱点が見いだされています。そこで、SF 6 ガスに代わるガスとして、新
たに CF3I ガスを見出し、そのガス単体ないしは自然界にあるガスとの混合
がどの程度有効か、実験による検討を開始したところです。その検討を加速
するため、急峻方形波高電圧パルス発生器(SPURT: Square Pulse HighVoltage Generator in the University of Tokyo)を導入し、新しい絶縁シ
ステムのキーポイントを探求しています。
■沿面放電およびマイクロギャップ放電の進展機構の解明
あらゆる電気設備、機器および電子デバイスにおいて、異種材料の間や電
極との間には必ず界面が存在し、その界面が絶縁システム全体の性能に重
大な影響をもたらしています。界面で発生する沿面放電を対象として、当研
究室で開発した測定法により、その電位分布をナノ秒、ミクロンオーダで測
定できるようになってきており、沿面放電の進展機構解明に役立てています。
現在、半導体集積回路やマイクロマシンの界面に現れるミクロンオーダのマイ
クロギャップを対象として、その絶縁破壊機構を明らかにするため、放電現
象を多面的に観測しています。
■超電導機器における電気絶縁
超電導を利用して電気エネルギーの輸送や制御をコンパクトで経済性よく
行おうとすると、電流密度の上昇だけでなく、数万∼数十万ボルトの高電圧
の有効活用が必要となります。長年、高温超電導の利用を念頭に置いた新し
い絶縁方式の開発を続けており、現在は、高温超電導ケーブルにおいて採用さ
れている絶縁紙と液体窒素との複合絶縁方式について検討を行っています。
■放電現象のコンピュータシミュレーション
実験に依存する面も多い高電圧・放電プラズマ現象ですが、条件を与えれ
ば 現 象そのものをコンピュータで予測できる時代の到来を目指して研究を
行っています。ナノ秒領域におけるストリーマ進展のシミュレーションをもと
に、最低火花電圧や火花電圧̶時間遅れ特性を推定するなどさまざまなアプ
ローチを試みているところです。
2
distance from the plane electrode [cm]
distance from the plane electrode [cm]
図 3 解明されつつある沿面放電先端部の微細構造モデル
1
0
0
5
time [ns]
■マイクロ波による PCB 無害化
マイクロ波(2.45GHz)照射による PCB 無害化処理が注目されています。
PCB の複素誘電率やマイクロ波による帯電現象に着目し、その測定から無
害化のメカニズムに迫っています。
2
学生へのメッセージ
1
0
0
0.5
time [ns]
図 4 ナノ秒領域のストリーマ進展シミュレーション(左:N2 ガス中、右:
SF6 ガス中)
高電圧・放電プラズマ現象に関わる学問分野は、材料開発からシステム設
計まで応用分野が広いにもかかわらず、まだまだ未解明な部分が多く存在し
ています。このことは未だに大家は存在せずだれでもエキスパートになれる
可能性があるわけです。こうした学問の広がり、奥深さに興味を抱いた学生
は、積極的に私たちの研究グループに加わって下さい。この分野を究める先
輩だけでなく、研究の幅広さを活かして自分のポテンシャルを高め、電気工学、
電子工学、情報工学の他分野はもちろんのこと工学以外の分野でも活躍して
いる先輩が多数います。
11
熊田亜紀子 / Akiko Kumada
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】高電圧工学、放電プラズマ工学
研究内容
近年の社会情勢においては、電力輸送には高性能化・高品質化とともに低環
境負荷化・合理化が強く求められています。また大規模集積回路に代表される
部品の小型化は、低電圧デバイスにおいても層間に高電界を形成し、絶縁材
料に過酷な条件が科せられることになります。このように、高電圧工学は現
在から将来にわたる電気エネルギーの安定供給を、さらには高度情報化社会
を支える基盤となる学問といえます。
高電圧と深い関係がある「放電現象」は、機器絶縁の観点から抑え込む対
象ですが、その一方でガス処理や照明に代表されるようにそれを積極的に利
用する分野も多いという特徴があります。
このような背景のもと、高電圧・放電現象を対象として、計測手法及び解析
手法の開発、物理現象の解明などの研究テーマに、日髙邦彦教授と共同で取
り組んでいます。
テーマ例を下記に挙げます。
■気体 Kerr 効果を利用した電界測定
図 1 気体 Kerr 効果電界測定装置
電界の二乗に応じて物質に複屈折が生じる現象を Kerr 効果といいます。
Kerr 効果はすべての物質に有する性質で、空気のような気体にも小さいなが
らあります。光学的変調手法を取り入れることにより、高感度複屈折測定装
置を構築し、気体 Kerr 効果を利用した直流電界測定に世界で初めて成功しま
した。本測定手法を利用し、(1)空間電荷が存在する空間における電界測定を
行い放電機構の解明に迫るとともに、(2)電力機器絶縁診断への適用を図って
います。
■ポッケルス効果を利用した放電計測と放電機構解析
ポッケルスセンサは、電界の情報を光に変換して測定できるセンサです。
このポッケルスセンサの広周波数帯域性、対象物への擾乱の少なさ、電磁ノ
イズに対する強さをフルに生かした高電圧、放電内部の電界測定に取り組ん
でいます。例えば沿面放電の進展に伴う電位分布を、測定対象である沿面放
電現象に一切影響を与えることなく、ナノ秒、ミクロンオーダで測定できる
ようになってきました。これら新しい測定法によって得られた知見をもとに、
新しい放電モデルを構築し、さらにシミュレーションを通じて妥当性を検討
しています。電力機器の絶縁設計、放電利用機器の高効率化に資することが
期待されます。
■放電計測用マイクロセンサの開発
図 2 沿面放電測定用マイクロセンサ
電子素子の高集積化に伴い、低電圧で動作する点を考慮したとしても、電
子デバイスにおける絶縁設計の重要度は年々高まっています。沿面放電現象
は、気中放電と比べ進展しやすい性質を持ち絶縁上の最弱点となり、絶縁設
計の際には、沿面放電現象が最も考慮されます。より高精度な設計を行うた
めには、沿面放電現象の機構解明こそが近道といえます。そこで nm ∼数百
μm の沿面ギャップにおける放電特性を把握するとともに、沿面ストリーマ
の微細構造の計測を目的として、分解能がμm オーダに達するマイクロ・ナ
ノ電位センサの開発を行っています。センサは、武田先端知スーパークリー
ンルームにおいて MEMS 技術を駆使して自作しています。本研究は柴田・三
田研究室と分野を超えて協力して取り組んでいます。
■固体絶縁物の帯電現象
直流電界下においては絶縁物もその導電特性を考慮した取り扱いが求めら
れます。たとえば、ガス絶縁変電機器も通電時は商用交流電界が印加されて
いますが、断路器開極時には母線に残留した直流電界に去らされることにな
ります。新しい計測手法や、信号処理手法を導入することにより、より実用
的な形状の絶縁物を対象に、帯電現象の把握と解明、電力機器の絶縁合理化
を図っています。
図 3 正極性沿面ストリーマ進展時の電位分布
■電界計算ツールの開発
絶縁設計や放電シミュレーションにおいてはもちろん、材料やバイオなど
広い分野において、数値電界計算は欠かせません。発達めざましい各種計算
技術を取り入れ、より使いやすく、より精度の高い電界計算ツールの開発を
行っています。
学生へのメッセージ
図 4 電力用スペーサ近傍の電界分布
放電というと、何を思い浮かべるでしょうか。プラズマディスプレイ? 冬
場にセーターからバチバチ飛ぶ静電気放電? 夏の夜空を彩る雷も放電ですね。
放電を利用するにしろ抑制するにしろ、工学的に放電を扱うには、放電を測
定して「わかっている」必要がありますが、実は放電を測定するのは難しく「あ
まりわかっていない」のが現状なのです。このような背景のもと、高電圧・放
電現象を対象として、計測手法、及び解析手法の開発、物理現象の解明など
の研究テーマに取り組んでいます。
広範なテーマを対象としますので、研究室には、放電ってきれいだなと思っ
た人、電磁気学が好きな人、電力システムに興味がある人、画像処理や数理
手法が性に合う人、クリーンルームでデバイスつくりをやってみたい人、な
どなど、いろんなタイプの人が集まっています。ほんのちょっぴりでも自分
の得意とする分野以外のところにも足を伸ばして取り組んでみませんか。
12
石井 勝 / Masaru Ishii
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】高電圧工学・EMC
研究内容
自然雷の研究
Research on Natural Lightning
自然雷の放電機構、雷放電のパラメ−タに関する研究を、おもに電磁界に
よる観測を通じて行っています。VHF 帯放射電磁界の観測から、雷雲内部の
放電路の 3 次元構造が、MF 帯電磁波の観測では北海道から南西諸島に至る
領域の雷放電の位置や強度の情報が得られます。準静的電界変化の多地点観
測によれば、雷雲内で放電により中和される電荷の情報が得られます。この
研究から、冬季に日本海側の電力設備に被害をもたらす落雷の大部分が、地
上からの上向きリーダで開始するタイプであることを明らかにしました。大
電流の落雷の発生頻度について、観測と研究を続けています。
電磁界パルス(EMP)と雷サージの研究
Research on EMP and Lightning Surges
雷放電や、高電圧回路のスイッチングに伴って発生する電磁界パルス(EMP)
は、金属導体に沿って、あるいは電磁波として空間を伝搬して、低圧回路や制
御回路、情報通信機器等に障害をもたらすことがあります。その影響の評価
と対策を目的として、現象のモデリング、伝搬特性、導体系との結合などに
ついて、主に数値電磁界解析という手段を使って研究を進めています。数値
電磁界解析により、雷放電路内部の電流の分布状況、立体的な建物や 600m
タワー内に雷が落ちたときの雷電流の分流状況、それらの電流により発生す
る室内のパルス誘導磁界の強さの解析などを試みています。
1.夏の全落雷密度(個 /km2/0.5 年)
(左上と右下の空白域は観測範囲外)
インパルス高電圧・大電流計測に関する研究
Research on Measurement of High Voltage and High Current Impulse
地味な研究領域なのですが、高電圧電力関係の機器の品質を保証するため
に、国際的に合意されている高電圧試験電圧の中の、インパルス電圧の日本
における標準測定システム(定格 50 万ボルト)を、当研究室が保有し、維持
しています。測定システムのレベルは不確かさ(uncertainty)という量で評
価されるようになったのですが、現在この日本の国家標準級測定系の不確か
さのレベルは世界最先端の水準にあります。まだ不確かさの発生原因、評価
法については研究の余地があり、また新たにインパルス電流測定の国際標準
の研究が始まろうとしているところです。
学生へのメッセージ
研究室を立ち上げて 30 年と少し、大学院生としてこの研究分野を選んで
からはもっと長い時間が経過していますが、その当時でさえこの分野は電気
系の中では人気があるとは言えませんでした。従って日本では研究者の数も
多くないのですが、日本のみならず世界の産業にとって重要な分野であり続
2.夏の 80kA 以上の落雷の密度(個 /km2/0.5 年)
けており、日本の研究者・技術者は世界の中で高い地位を保っています。重要
なのに希望者が少なかったというのは、現在の電気系専攻の状況に似ており、
少し可笑しくもあります。その不人気な分野に進んだ者として感想を言わせ
てもらえば、とても面白い仕事を続けて来られました。物理・ハード系の仕事
は自然との接点があり、プロパーの自然科学者ではないにもかかわらず、思
いがけない発見があります。そして自然科学系の論文を書けることも珍しく
ありません。また修士課程で研究することを一生の仕事にする必要は全くあ
りません。東大電気系のどの研究室に所属することになっても、環境には恵
まれていると思います。大学院で過ごす期間を面白く過ごせるかどうかは本
人にかかっていますが、それを助けるのは我々の大事な使命です。
3.落雷前に雷放電路が下降する様子(夏季の 5 重雷。VHF 帯電磁波によ
る観測)
13
岩船由美子 / Yumiko Iwafune
【研究分野】環境・エネルギー分野
研究内容
地球環境問題に関する話題が連日マスコミで取り上げられている。さまざ
まな担い手がさまざまな技術や政策に取り組んでいるが、果たしてその効果
【研究内容】エネルギーシステム工学
は適切に評価されているのであろうか。
「クールビズは本当に温暖化防止に寄
与するのだろうか?」「排出権取引の効果は?」「少子高齢化によってエネル
ギー消費量は増加するのか、減少するのか?」
。このようなエネルギーに関す
る諸問題を提起し、現状を精査した上で適切に構造化し、システム工学等の
手法で解き、結果について分析する。我々の行う研究はこのようなやり方で
進められる。
当研究室の基本的な目標は、どういうシステムにおいて環境負荷(エネル
ギー消費量・二酸化炭素排出量)が小さいのかを明らかにし、そしてそれをい
かに実現するかということを探求することにある。目標はシンプルではある
が、考慮しなければならない制約条件は、経済性、資源量、国際競争などの
政治的な問題、システムの永続性、人間の嗜好、将来の不確実性、既存シス
テムの硬直性、など多岐に渡る。これらを踏まえた上で適切に評価するため
には、工学だけではなく、経済学等の社会科学分野との学際領域での研究が
必要となる。
研究テーマの例は次のとおりである。なお、当研究室は山地研究室と連携
して研究を進めており、山地研究室における研究テーマも選択することがで
きる。
山地研究室 HP:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/yamaji/ 参照
1.エネルギー需要と効用に関する研究
地球温暖化問題の顕在化、近年の石油価格の上昇により、エネルギー価格
の上昇に伴うエネルギー消費抑制の機運が高まっている。わが国の家庭用・業
務用のエネルギー消費量に関する調査は多く行われ、その実態はかなり解明
エネルギー連携工学センターにおけるエネルギー需給戦略の枠組み
されつつあるが、実際に生活者なり消費者なりが必要としている効用(冷暖房、
給湯、照明、動力)の実態は明らかではない。
エネルギーの充足水準というのは、存在するものか。効用(生活の質)を落
とすことなく、消費者の要求に答えつつ、エネルギー消費を抑制していくこ
とはどこまで可能なのか。また、どこまでの効用劣化が受け入れられるのか。
エネルギー消費のレベルと効用の関係について研究を行う。
2.都市エネルギーシステムの統合的評価
将来的には人口減少に伴い、都市構造は大きく変わるものと予想されてお
り、地方ではコンパクトシティのようなまちづくりが検討されている。都市
は集積しすぎても分散しすぎてもエネルギー消費量が大きくなる。民生部門、
交通部門のエネルギーシステムを対象に、気象条件や産業構造の影響も考慮
に入れた総合的な評価を行い、人が住みやすい街づくりと環境負荷が小さい
街づくりは共存するのかについて検討を行う。また、地域、ビル、住宅レベ
ルのエネルギー管理システムの活用の可能性や、熱電併給型の地域エネルギー
供給ネットワークなど、新しいエネルギーシステムの実現可能性について検
討する。
3.アジアのエネルギー消費量の将来動向に関する研究
アジアでは亜熱帯熱帯の気候帯に属する国々が多く、それらの国々における
家庭でのエネルギー消費は、主として冷蔵庫やテレビといった家電用電力消
費と調理用燃料である。暖房はなく、温水シャワーの普及も低く給湯需要も
ほとんどない。調理用燃料としては、家畜糞や農業廃棄物を直接燃焼するバ
イオマス燃料を使用している世帯が特に農村部で非常に多いが、これらは使
い勝手が悪いばかりでなく健康被害などの問題もある。都市部などの状況か
ら鑑みると、生活水準の上昇に伴い、農村部でも今後 LPG への移行が進むこ
とが一般的と考えられるが、その場合大幅な化石燃料の消費拡大が懸念され
る。アジア農村部においては、インフラ整備そのものがこれからという地域
も多いため、いっそ従来型エネルギーシステムへの移行を飛び越えて、電力
は太陽光、調理用燃料はバイオマス燃料のガス化などによる対応が可能では
なかろうか。このような施策の実現可能性と効果について検討を行う。
学生へのメッセージ
当研究室は立ち上がったばかりの研究室です。日々刻々と変化する現実を
対象に、自ら問題意識を有し、その問題解決に積極的に取り組むことができ
る方をお待ちしています。また、当研究室は、東京大学におけるエネルギー・
環境技術に関する工学分野の連携拠点となるべく設立された「エネルギー工
学連携研究センター」に属しており、各研究者間を結ぶ横糸のような役割も
担っていく予定です。明日の地球のために、一緒に力を尽くしていきましょう。
14
横山明彦 / Akihiko Yokoyama
【研究分野】環境・エネルギー分野
研究内容
電力システム(電力系統ともいいます)は巨大な電気・機械・経済システム
であり、物理現象の解析から電力取引市場の経済的評価まで、幅広い研究テー
【研究内容】電力システム、ユビキタスパワーグ
リッド
マがあります。当研究室では、主に計算機によるシミュレーション技術を活
用し、応用数学から制御工学、電気工学、社会経済学までの幅広い視点から、
産業界の実務者と連携を取りながら、システマティックに以下のような研究
に取り組んでいます。
■大量の分散型電源が導入可能な革新的な電力供給システムの構築
地球温暖化などの環境問題、省エネルギー、コスト削減、信頼度の維持な
どへの期待から、太陽光発電や風力発電、MGT、コージェネレーションなど
の分散型電源が、大量に導入される可能性があります。一方、分散型電源が
連系される電力システムでは、電圧分布、短絡容量、単独運転、周波数、安
定度などに対し、系統の計画、運用、制御の各段階で課題が山積しています。
当研究室では、進歩しつつある電力貯蔵技術、マイクログリッド技術、IT 技
術などを用いてその問題点を解決し、電力システムの運用に貢献する手法を
提案し、より多くの分散型電源が連系可能な革新的な電力供給システム構築
の検討を行っています。特に、わが国において風力発電を大量に系統連系す
図 1 2003 年夏、大停電になった NY は真っ暗(右図)、東京で起こると?
るには、その発電出力の変動のために生じる周波数変動を抑制することが急
務となっています。そのために、一般配電需要家のヒートポンプ負荷制御と
風力発電の風車ピッチ角制御、そして蓄電池制御を協調させた経済的な周波
数制御システムの構築も行っています。
■パワエレ応用電力制御(FACTS)機器などによる停電影響極小化方策
近年、世界中で大規模停電事故が発生しており、その停電の社会への影響を
極小化する技術が求められています。一方、パワーエレクトロニクス技術の進
歩に伴い、FACTS(Flexible AC Transmission Systems)
機器をはじめと
する電力制御装置や超電導エネルギー貯蔵装置(SMES)などを電力システム
の最適潮流制御、安定化制御へ適用することが検討されています。当研究室
図 2 大量の風力発電を、蓄電池技術や風車制御技術で系統導入可能?
では、直列型 FACTS 機器である UPFC(Unified Power Flow Controller)
や IPFC(Interline Power Flow Controller)
を導入し、過負荷を解消し、安
定度を向上する最適潮流制御(OPF)の手法を開発しています。また、稀頻度
である大事故により停電が発生した場合に、複数台の FACTS 機器、
エネルギー
貯蔵装置等により、停電範囲を極小化する緊急時制御手法を検討しています。
■競争環境下における電力システムの計画・運用・制御
我が国を含め世界の電気事業では、制度改革により競争環境が導入されて
います。この電力自由化により、全ての事業者が差別なく資源を利用できる
ようになり、市場取引が盛んになる一方で、余裕ある投資が難しくなり、送
電線の混雑や需給バランス、系統安定性に関する懸念はより高まるため、信
頼度の管理はより定量的・効果的に行う必要があります。そこで当研究室では、
送電線容量の評価、連系線マージンの評価、電力取引市場のモデル化、供給
信頼度の評価など電力自由化においてまだ理論的に明確になっていない課題
に取り組んでいます。
■広域電力システムのオンライン監視・制御によるインテリジェント化
図 3 家庭用燃料電池が実現するとシステムは変わる。
大規模、複雑化し、電力自由化により過酷な負荷条件で運用せざるを得な
くなっている電力システムに対して、解析、運用、制御の高度情報化、イン
テリジェント化によって、供給信頼性の維持、向上を目指しています。PMU
(Phase Measurement Unit)を用いて、多地点で同時に系統情報を測定し、
得られた情報から複雑な電力システムをシンプルなモデルとしてオンライン
で同定し、発電機 PSS(系統安定化装置)
の制御系パラメータを適応的に変更
して安定度向上に役立てるなど、IT 技術をより活用した系統制御システムの
基礎的検討を行っています。
学生へのメッセージ
技術革新が進み複雑になった現代社会では、ブラックボックスになった基
礎技術を使って、新たな技術を短期間で開発したり、新システムを構築、運
用したりすることが多くなっていると思います。当研究室においては、あえ
てこのブラックボックスの中身を自分で確かめながら、また自分で作りなが
ら、時間はかかりますが、新しい技術を開発していくことをずっとポリシー
としています。そして学生さんは、研究室を巣立つ頃には、何事にも自信をもっ
図 4 電力システムの究極の姿は、ユビキタスパワーネットワーク!
てチャレンジすることのできる技術者、研究者になっています。電気エネル
ギーの安定供給と地球環境問題の解決という公益的課題に興味がある学生は、
ぜひ当研究室の門戸をたたいて下さい。
15
小野 靖 / Yasushi Ono
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】核融合エネルギー開発、超高温プラ
ズマ・宇宙物理
研究内容
小野研究室は電磁気学やプラズマ工学をベースに、核融合エネルギー開発
から太陽エネルギー、宇宙プラズマさらには新エネルギー、発電までをカバー
します。
人口爆発、環境破壊、資源枯渇のため現代文明は危機に直面するといわれ、
CO2 を大量放出する化石燃料から、環境保全性が高く、無尽蔵の資源量が見
込める核融合エネルギーへの大転換が待たれています。投入エネルギーが発
生エネルギーに等しくなるまで進歩し(科学的実証)
、いよいよ国際熱核融合
炉 ITER(工学的実証)へ進展した核融合の将来の課題は、如何に経済性を高め、
コンパクト化をはかるか、如何に実用発電を早めるかです。そのため、少な
い磁場で多量のプラズマが閉じこめられる、いわゆるベータ値(単位磁界が
閉じ込めるプラズマ熱圧力)の高い、高効率な磁気閉じ込め配位が実現できる
かが問題です。
我々はこれまで核融合の経済性を飛躍的に高める「球状トーラス」等の新
アイデアの実証を TS-3 および TS-4 実験装置で行ってきました。米国、英
国でも大型実験装置 NSTX、MAST が運転中で、核融合研究は簡素さ、経済
性を重視する球状トーラスへ大きな流れを形成しています。
■球状トカマクの超高ベータ化・コンパクト化
TS-3 および TS-4 球状トーラス実験装置(東京大学)
トカマクの経済性、即ちベータ値を飛躍的に高めるため、ドーナツ型のプ
ラズマ形状をギュッとコンパクトにします。我々が研究してきたこの球状ト
カマク(ST)は安価な核融合炉を実現する最有力候補として注目されていま
す。さらに ST を磁力線再結合という独自手法によって急速加熱してベータ
値(プラズマ熱圧力 / 磁気圧)を急上昇させ、従来の常識(10%)を大幅に越
える 60%のベータ値を持つ ST の生成に成功しました。少ないコイル電流で
より多くのプラズマの閉じ込めを可能にする超高ベータ球状トカマクが安定
に生成できたのは、これまでベータ値の上限を決めていたバルーニング不安
定が抑制される、いわゆる第 2 安定状態が実現されたためで、今後が期待さ
れています。
■ベータ値の極限の追求と球状トーラスの最適化
球状トカマク炉の概念図と放電中の球状トカマク(START)
我々のゴールは球状トーラス磁気閉じ込め容器の最適化です。中でも球状
トカマク(ST)と逆転磁場配位(FRC)の有利な特徴に注目します。どちらも
コンパクトに圧縮されたドーナツ状の球状トーラス磁場で超高温プラズマ(炉
段階では 1 億度、数秒以上)を閉じ込めます。右上図のように FRC は最も簡
素に小円周方向の磁場のみを持つのに対し、ST はドーナツの大円周方向(ト
ロイダル方向)および小円周方向(ポロイダル方向)の両磁場を持つのが特徴
です。1)ST はトカマクの良好な閉じ込めを保ちつつ、磁場利用率を改善し、
2)FRC は極限まで構造を簡単化して革新的な高ベータを狙うといえます。両
者の利点を融合し、欠点を補う研究が重要と考え、安価で効率の良い磁場閉
じ込め配位を創造しています。
例えば、我々はベータ値の低いスフェロマックプラズマを 2 個、合体させ
ると、ベータ値が 100%の FRC が従来の数倍の高い電力効率で生成される
ことを見出しました。現在、これは経済性の高い大型 FRC 生成法として注目
されています。100%のベータ値を持つ FRC は核融合炉になれば極めて有利
ですが、FRC を安定に長時間維持できるかどうか更なる検証が必要です。以
上の成果により実験装置の大型化が予算化され、TS-4 球状トーラス装置が
2000 年、今年、UTST 球状トカマク装置が運転開始しました。
■磁力線・プラズマ現象を解明するモデル実験・計算機解析
トカマク、球状トカマク(ST)、逆転磁場配位(FRC)の磁力線の様子
「磁力線で作った 閉じ込め容器 は何が最適か?」
「磁気容器の変形
、
(不安定)
や磁力線のつなぎかわり(再結合)はなぜ発生し、磁気容器にいかなる影響を
与えるのか?」等、核融合炉のキーとなる部分を抽出したモデル実験を組み、
問題の解明を行っています。プラズマ中の磁力線のつなぎ変わり:磁力線再
結合現象の実験解析は典型例です。同現象は、核融合プラズマの閉じ込め悪
化を招いたり、大きな加熱効果が得られたり、悪玉にも善玉にもなるため、
その制御は重要です。我々のプラズマ合体法は米国 Princeton 大学など多く
の新装置建設につながり、教員・学生の相互訪問など共同研究が進行中です。
学生へのメッセージ
ベータ値 100%! シンプルさを極限まで追求した FRC 型核融合炉
研究で大切にしている点は、「オリジナルな研究」(オリジナリティー)
を「他人
に先駆けて」
(一番最初であること)、
「ものにすること」です。「学術性が高い」
(学
問の本質になるべく近い)
ことも重要です。自ら調べ、考えて行動できる人、プ
ラズマの研究者を目指す人を特に歓迎します。意欲があればどんどん海外の学
会に参加し、米国 Princeton 大学や英国 Culham 研究所で共同実験を行う等、
海外交流が特に盛んです。世界の研究者と対等に渡り合う国際競争力ある人材
に育つことを願っています。2008 年度から国際熱核融合炉 ITER 計画に必要
な国際競争力ある研究者育成のための「核融合コース(研究教育プログラム)」
が大学院新領域創成科学研究科に発足し、学生教育が一層充実します。
16
大崎博之 / Hiroyuki Ohsaki
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】超電導エネルギー工学
研究内容
電気エネルギーの効率的利用と先進的電磁界応用システムの実現を目指し
て、超電導体や高性能永久磁石などの先端材料を活用し、優れた特性を有す
る電気エネルギー機器およびシステムの研究を進めています。電磁気学を始
めとする電気系基礎科目や、超電導工学、電気機器学などベースに、実験と
理論解析、数値シミュレーションを駆使して研究を進め、その対象は、電力
分野から交通輸送、産業応用、医用分野などに広がっています。
(http://www.ohsaki.k.u-tokyo.ac.jp)
超電導エネルギー工学(超電導体の電磁現象と応用機器・システム)
液体窒素温度(77K)で超電導状態を示す酸化物系超電導体は、発見から
20 年余りが経過し、高温超電導機器・システムは現在、実用化に近いレベ
ルまで技術的に発展してきた。私たちの研究室では、電力・輸送・産業応用・
医用分野での超電導技術の実用的応用を目指して、材料の電磁的特性、熱的
特性などの基礎物理から応用システムまで含めて研究を進めています。特に、
図 1:高温バルク超電導体の着磁と電磁現象
高温超電導線材やバルク超電導体(例えば 5 ∼ 15cm 程度の大きさの超電
導体の塊)と超電導薄膜のエネルギー機器応用に着目しており、その電気磁気
特性と電磁力特性、通電特性等を実験および数値計算等を通じて明らかにし、
さらにそれを応用した機器の特性解析を行って、応用可能性を検討していま
す。
バルク超電導体の強力な磁束源(磁石)としての応用可能性(図 1)
、電力
システムにおける短絡事故時の大電流を抑制し、系統の信頼性向上やフレキ
シブルな運用への大きな寄与が期待される超電導限流器(図 2)、超電導コイ
ルに磁気エネルギーを貯蔵する SMES や超電導磁気軸受によって非接触支持
されたフライホールなどによるエネルギー貯蔵システム、高効率・コンパクト
図 2:超電導薄膜限流素子の電磁界−温度場連成解析と素子設計
などを特長とする超電導モータ・発電機、高性能な超電導磁気浮上システム、
さらには、磁気共鳴画像診断装置 MRI の高分解能化・高速化、あるいは計測
装置としての新しい応用法(図 3)などについても研究しています。
先進的電磁界応用機器・システムの研究
電磁力応用機器及びシステムは、永久磁石や超電導体などの材料面での進
歩による高性能化が進むとともに、多自由度ドライブなど、応用分野の拡大
がみられ、私たちの研究室でも様々な形式のリニアモータやアクチュエータ、
磁気浮上システムの解析や実験的検討を行っています。2 次元、例えば平面
上でのダイレクトドライブにより高精度位置決めを目指すサーフェスモータ、
磁気浮上鉄道の車両運動解析およびシステムの検討(図 4)、高性能冷凍機用
圧縮機内アクチュエータ、各種機器内の渦電流や鉄損の解析などの研究を進
めています。
学生へのメッセージ
図 3:核磁気共鳴現象を利用した画像診断と新しい測定方法の研究
エネルギー、特に電気エネルギーを発生、輸送、利用する電気機器の性能・
特性の向上に対する要求が高まる一方で、CO2 排出量削減や電力品質向上に
対する要求を始めとする環境問題はますます重要性は増してきています。こ
のような課題、問題を解決する電力用、輸送用、産業用の各種電気機器の研
究開発を進める上で、若い研究者、技術者の力が求められています。エネルギー
や環境、社会・経済などに幅広い関心を持って、超電導体などの新しい材料や
技術の導入と最適設計などに基づく電気機械の研究にぜひ取り組んで欲しい
と思います。何事にも積極的に取り組む学生であることを期待しています。
図 4:多自由度アクチュエータ研究と超電導磁気浮上鉄道の車両運動解析
17
小野 亮 / Ryo Ono
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】弱電離プラズマの基礎と応用、放電
着火
研究内容
当研究室では(1)プラズマの基礎と応用、(2)次世代エネルギー「水素」
の放電着火現象、の 2 つの研究に取り組んでいます。どちらも放電によりガ
ス状粒子を電離・解離・励起させ、その高い反応性を活かした現象を扱って
います。これらの研究テーマは産業界の最先端技術、エネルギー、環境、安
全などと密接に関連しており、その本質や可能性に迫る研究を行っています。
研究の概要は以下の通りです。
■プラズマの基礎と応用
近年、プラズマディスプレイなどでよく耳にする「プラズマ」は、気体の
一部あるいは全部が電離した状態を表し、物質の第 4 態とも言われています。
プラズマは荷電粒子や活性粒子を豊富に含むため、反応性に富み、半導体や
太陽電池の製造、人工ダイヤモンドなど新材料の生成、薄膜形成、表面処理、
レーザ、光源、殺菌、浄水、環境汚染物質処理など様々なところで利用され
ています。
プラズマを効率よく利用するには、その反応の基礎過程を知る必要があり
ますが、まだ未解明な部分が多く残されているのが現状です。我々はこの点
に注目し、レーザ等を駆使したプラズマ計測や、プラズマ反応シミュレーショ
図 1:低圧力プラズマの例
ンにより、プラズマ反応機構の解明に取り組んでいます。プラズマ中には、
放電で発生した電子により電離・解離・励起反応が生じ、その結果様々な活
性粒子が生成されます。これら活性粒子がプラズマ反応の主役ですが、一般
に密度が低く、高い反応性のため寿命が極めて短いので、計測は容易ではあ
りません。本研究室では、特定波長のレーザを活性粒子に照射して励起させ、
その後の発光を計測するレーザ誘起蛍光法をはじめ、様々な計測法を駆使し
てプラズマ反応の「可視化」に挑戦しています。
プラズマは一般に低圧力下で用いられることが多いのですが、近年は真空
ポンプを要せず空気をそのまま用いることができる「大気圧プラズマ」が盛
んに研究されています。大気圧プラズマは生成が容易で、今後多くの応用が
期待されています。我々は特にこの大気圧プラズマに注目して、その反応機
構の解明に取り組んでいます。また、ここで得られたプラズマ反応の基礎デー
図 2:レーザ計測装置
タをもとに、プラズマの応用についても研究を進めていきます。
■水素の放電着火現象
水素は燃料電池に利用され、次世代エネルギーの一つとして期待されてい
ます。酸素と反応して水のみを排出するため、クリーンなエネルギーとして
も知られています。一方、水素は静電気放電で容易に着火するため、安全に
取り扱うための研究が急務となっています。このような背景のもと、我々は
水素がどのような形態の放電でどれくらいのエネルギーで着火するかといっ
たデータの取得や、レーザ計測を駆使した水素放電着火過程の解明に取り組
んでいます。
世の中では、自動車のガソリンエンジンをはじめとして、水素を含む様々
な可燃性ガスの放電着火をエネルギー源として利用している例も多くありま
図 3:パルスプラズマにより汚染物質 NO が除去される様子のレーザ計測例
す。したがって本研究は、静電気放電着火という安全性の問題のみならず、
放電着火の積極的な利用の研究にも直結します。実際に、可燃性ガスの放電
着火過程は、計測例が少ないため不明な点がかなり多く、本研究結果は、こ
のような放電着火の積極的な利用にも貢献することができます。
学生へのメッセージ
研究というのはうまくいくこともあれば、なかなかうまくいかないことも
あります。目標に向かって試行錯誤しながら、失敗を恐れずに、信念をもって
突き進むことが重要です。大学での研究を通して、そういった能力を身につ
けてもらえればと思います。皆さんの研究に対する熱い心意気を歓迎します。
図 4:スパーク放電着火した水素の火炎球が広がる様子
18
井 通暁 / Inomoto Michiaki
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】プラズマ物理、核融合工学
研究内容
荷電粒子(電子とイオン)の集合体であるプラズマは、通常の流体としての
振る舞いに加えて電磁気的相互作用を強く含んでおり、複雑で興味深い挙動
を示すことが知られています。高温プラズマを効率よく保持しうる核融合炉
を実現するためには、このようなプラズマの複雑な挙動を解き明かし、その
本質に迫ることが不可欠です。本研究室では小さい磁場を用いて高温のプラ
ズマを閉じ込める(高ベータ)ことを目標として磁場反転配位や球状トカマク
についての実験を中心とした研究を行っています。高ベータプラズマでは電
子とイオンとが異なった振る舞いをするため、特にプラズマの流れの影響が
顕著となるような自律性の高い系となり、自己組織化や緩和といった現象が
強く発現します。このため外部からの制御性が低くなり、低ベータプラズマ
とは異なったアプローチが必要となります。
■ 磁場反転配位の高性能化と応用
高ベータを極限まで追求した磁場閉じ込め配位が磁場反転配位(FRC)とよ
ばれるもので、100%に近い磁場利用効率を有する反面、プラズマを長時間
図 1 磁場反転配位の磁場構造
維持することが困難とされてきました。近年になって回転磁場や変流器コイ
ルを用いた電流維持、低周波波動や中性粒子ビーム入射による加熱等が試み
られています。現段階での性能は決して優れているとはいえませんが、本質
的に高い潜在能力を有しており、うまくいけば究極的な核融合炉心プラズマ
となりえます。
■ 球状トカマクの高ベータ化
磁場反転配位に次いで高いベータ値を達成している磁場配位が球状トカマ
ク(ST)とよばれるもので、40%程度の磁場利用効率が達成されています。
プラズマを閉じ込めておく能力が磁場反転配位よりも高く、現実的な手法で
あるといえます。この球状トカマクと前述の磁場反転配位とは、歴史的には
全く異なった装置・実験手法として発達してきたのですが、近年になって両者
の中間的な領域の存在が指摘されており、両者は全く別個のものではなく連
続的につながるような概念なのかもしれません。両者を統一的に取り扱うこ
とによって、超高ベータ領域に新たな可能性を探求しています。
■ 高ベータプラズマへの中性粒子ビーム加熱の適用
図 2 球状トカマク実験装置 UTST
磁場反転配位や球状トカマクにおいてプラズマを加熱する有力な手法が中
性粒子ビームです。これは、プラズマ中のイオンよりも高いエネルギーを持
つ原子ビームを入射することによってプラズマを加熱するもので、高ベータ
プラズマにおいて不可欠な技術です。特に磁場反転配位研究においては、ビー
ムによる準定常化実現は非常に大きなステップとなります。磁場反転配位で
はプラズマ内の磁場が小さいため、効率的な中性粒子ビーム加熱のためには
補足磁束の大きなプラズマを得た上で最適なビーム入射を行う必要があり、
加熱効果の予測のための粒子軌道計算を実施し、実験による検証を行います。
学生へのメッセージ
プラズマの実験研究は未知なる事象への挑戦であるといえます。当初の思
惑通りに研究が進展することはまれであり、実験を行いながら現象を解釈し、
仮説を立て、それを実証するために新たな実験を計画するというプロセスを
経てひとつの知見がもたらされます。「何かを不思議に感じたらそれを解明す
る」という科学の本質に近い環境で研究を行ってみたいという皆様を歓迎し
ます。
図 3 超高ベータ球状トカマク形成実験
19
馬場旬平 / Jumpei Baba
【研究分野】環境・エネルギー分野
【研究内容】パワーエレクトロニクス、超電導の
電力系統応用
研究内容
近年、小型燃料電池や太陽光発電など小規模な分散型電源による電力供
給技術に注目が集まっています。
このような電源が大量に系統に連系された場合、従来の系統運用・制御技
術のみでは電力を安定して供給できなくなることが予想されており、分散型
電源の導入量に制約が課せられることになります。
そのため、系統運用者・設置希望者双方から何らかの対策が求められてい
ます。
このような問題を解決する手段として、馬場研究室ではパワーエレクトロニク
ス応用機器やエネルギー貯蔵装置、超電導応用機器など新技術を適用した新
しい電力システムの構築を目指した研究を進めています。
1. 再生可能エネルギー源・分散型電源を用いた新しい電力供給システ
ムの研究
従来の技術では系統容量が小さくなるに従い系統を運用するのが難しくな
りますが、近年のパワーエレクトロニクス技術やエネルギー貯蔵技術の進展
に伴い小規模な系統でも安定的に運用する可能性が出てきました。
そこで分散型電源を含む小規模な電力系統を作成し、分散型電源を統合的
に制御することで、高品質な電力を供給する「マイクログリッド」という概念
が注目を集めています。
当研究室では、分散型電源の追従特性と効率を計測し、それぞれの電源に
対して適切な変動補償量を分担させ、エネルギー貯蔵装置の容量を抑えたシ
ステムの構築を指向した制御法の検討および実証実験を進めています。
また、多数台の電力変換器が接続された系統における様々な機能を実現す
るための制御手法についても検討を進めています。
マイクログリッド実証試験設備での実験風景 : 電気二重層キャパシタの前
にて
銀シース BSSCO 線材を利用した超電導限流器
試験用 YBCO 超電導薄膜
2. 超電導体の物理特性を利用した系統保護装置 : 限流器
限流器は、事故時の過電流を抑制する装置です。
限流器を系統に導入することによって、遮断器容量の削減や系統設計におけ
る制約条件の緩和が実現すると考えられます。
特に最近では回転機を利用した分散型電源が大量に配電系統に接続され
た場合に、事故電流が設計基準を上回る危険性が指摘されており、注目を集
めている技術です。
当研究室では、現在、主として酸化物系高温超電導体を用いた限流器の研
究に取り組んでいます。
超電導体は温度・外部磁場・通電電流の 3 つがある条件を満たすと超電導
体となります。
超電導体に過電流が流れた場合にはその物理特性により通常の導体と同様
に抵抗が発生します。
この現象を利用して正確に事故電流を抑制する装置が超電導限流器です。
現在当研究室で着目している酸化物系超電導体は、低温超電導体より高い
冷却温度(液体窒素温度の 77K)での利用が可能で、超電導体及び冷媒の熱
容量が大きいという特性を持ちます。
この特性を活かし酸化物系高温超電導体を用いて限流器を作成した場合に、
動作開始電流と条件を明確にするための基礎特性の計測、並びに限流器の
設計・試作を行い、動作特性の検証を行っています。
3. 超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)の新しい応用
SMES は交流電力系統から電力変換器を介して超電導コイルに直流電流
を流しエネルギーを貯蔵する装置です。
エネルギーを空間に磁界を発生させることによって貯蔵をするため、応答
が速く、副反応の問題がないことから寿命が長いという長所を持つ半面、単
位体積当たりのエネルギー貯蔵量が小さいという短所があります。
そのため高速かつ頻繁に充放電を繰り返す必要があるアプリケーションに
適したエネルギー貯蔵装置です。
このようなアプリケーションの一つとして、電力系統の安定化が挙げられ
ます。
産業界や私達の生活のあらゆる部分に電気は深く関わっています。
電力系統での事故が引き起こす社会的影響は極めて大きく、良質且つ安定な
電力供給は現代社会に不可欠なものになっています。
系統事故から安定な状態を維持するため、高速に電力の貯蔵・放出が可能
な SMES を導入し、電力系統の安定化制御を行う研究や、SMES がどの程
度有効であるのか評価をする研究を行っています。
更に SMES の有効無効電力制御が高速に行えるという特長を利用して、
運転中の電力系統の状態を把握する研究を行っています。
学生へのメッセージ
貯蔵容量 100kJ 超電導マグネット
馬場研究室では実験を数多くこなしています。
システムの研究を遂行しているため、実験では数多くの機器を動作させ、ま
た制御・測定項目も多いことから研究室一丸となって実施をしています。
そのため、皆と一緒に楽しく研究が出来る人、自分の研究以外にもいろいろ
な研究に興味のある好奇心旺盛な人、そしてリーダーシップの取れる人の参
加を期待しています。
20
古関隆章 / Takafumi Koseki
【研究分野】システム制御・宇宙分野
研究内容
古関研究室では、鉄道車両、磁気浮上、リニアモータとその制御、旅客輸
送の IT 化など交通システムへの電子情報学・電気工学の応用に関する研究を
【研究内容】運動制御、軌道交通 / 電機駆動制御
応用
行っています。以下は、大学院生の研究を中心とする H20 年に進行中のテー
マです。新年度も、皆さん自身の相違に基づき具体的に相談しながら良いテー
マを設定しましょう。
旅客輸送における最適スケジューリング問題の研究
本研究室では鉄道利用者の旅客時間の短縮、利便性の向上及び事業者の運
行コスト最小化の観点から、グラフ理論、動的計画法など数理的手法を応用
した鉄道旅客輸送の運行管理に関する検討を専門の研究所や鉄道事業者の協
力のもとに行っています。特にこの数年間、事故発生時の運転整理法を、図
1 のように計算機を用いて、乗客流を解析し乗客の損失を積算して評価し、
運転指令員を支援するシステムの構築を目指した研究を進めています。H20
年度には修士 2 年生が、異常運行発生後の時間的推移を丁寧に考慮した方向
別複々線区間における乗客流解析とそれに基づく運転整理支援を検討してい
ます。
Fig. 1 運転整理時のグラフ理論に基づく乗客流の検討
鉄心の非線形性を利用した高感度電流センサの解析・設計の研究
H16 年度以後、スイスに本社を持ち国際的市場展開をしている電流センサ
の専門メーカとの共同研究で、図 2 のような簡易な構成を持ちながら高感度
なフラックスゲート形の電流センサの非線形磁気回路における磁気現象の動
的挙動の原理的な計算、電磁界解析に基づく設計の基礎研究を行っています。
H20 年度は修士 2 年生が技術職員と協力し、電流計測範囲を拡張できる電流
センサの新原理の実用化研究を進めています。
大推力永久磁石形リニア同期モータ
永久磁石を用いたリニア同期モータは、リニアモータの中では効率が高く、
Fig. 2 単一の飽和磁気コアを用いたフラックスゲート電流センサ
軽量化・大推力が原理的に可能となるため、高精度で高速な運動制御に適する
駆動装置として工作機械分野などでの応用が注目されています。H20 年度は、
ドイツ ミュンヘン工大滞在中の博士課程 2 年生と修士 1 年生が、電機メーカ
との協力により、高加減速度をもつ永久磁石形リニアモータの設計と制御を
検討しています。ロボットアーム制御のための軽量大推力リニアアクチュエー
タの設計や、図 3 にしめすような視覚情報を用いた制御の研究が展開されて
います。
軌道系都市交通における電動機駆動の高性能化の研究
これまで、地下鉄などの軌道系都市交通におけるリニア誘導モータの高性
能化にかかわる磁界解析、設計最適化の研究を博士課程の学生を中心に、電
Fig. 3 視覚情報を用いたリニア同期モータ駆動制御実験装置
機メーカと共同で進めてきました。また、古関自身が本研究に立脚し、軌道
交通用リニア誘導モータの国際標準化を主要 6 カ国の専門家と協力しながら
推進しています。また、鉄車輪・鉄レール系の、電気ブレーキ、粘着向上のた
めの駆動制御技術の基礎的研究にも、電機メーカの協力を得て取り組んでい
ます。
学生へのメッセージ
古関研では
1. 学ぶことに貪欲な人
2. 元気良く勤勉な人
3. 創造的仕事に喜びを感じる人
4. 自分の知識を生かして社会に貢献したい人
5. 外国人と積極的に付き合える人
を求めています。
上に例示した研究テーマに加え、図 4 のような磁気浮上制御技術、情報通
信技術を応用した公共交通のセキュリティ、エネルギー効率の向上、交通弱
者のための交通システム、複雑なシステムの時間履歴ログ情報を活用した予
測システムの開発など様々な技術に関して、アイデアを積極的に提案してく
ださい。
何か聞きたいことがあれば遠慮なく古関に直接ご連絡ください。
(e-mail:
[email protected] skype: takafumikoseki)
Fig. 4 磁気浮上試験装置
21
橋本秀紀 / Hideki Hashimoto
【研究分野】システム制御・宇宙分野
研究内容
ネットワークロボティクス ─空間とロボティクスの融合─
橋本研究室では、情報通信技術とロボット技術を用いたネットワークロボ
【研究内容】ロボティクス、空間知能化
ティクスを研究の柱としており、空間とロボティクスを融合した空間知能化
(インテリジェント・スペース)やハプティック(触覚)インタフェースを用い
た遠隔微細作業システムといったプロジェクトが進行中です。インテリジェ
ント・スペース実験室、移動ロボット、多数の計測装置や独自製作の微細作業
マニピュレータ、ナノマニピュレータを所有しており、研究設備が整ってい
ます。
●空間知能化(インテリジェント・スペース : iSpace)
インテリジェント・スペース(iSpace)
とは、環境に多数のセンサを埋め込
むことによって知能化された空間のことをいいます。センサの情報をネット
ワーク化されたコンピュータやロボットが利用することで、人間に適切なサー
ビスを提供します。(図 1、図 2 参照)
センサネットワークによる情報の獲得と処理
空間内に存在する物体の追跡、DIND(センサと情報の処理部からなるデバ
イス)同士の協調など、iSpace を支える基本技術の研究を行っています。た
とえば、生物の視覚機能を模倣した先進的な手法を開発し、複雑な実世界観
測へ向けた研究を行っています。
移動ロボットと空間の協調
ロボットと環境に埋め込まれた DIND の協調によって、環境変化に適応的
図 1.インテリジェント・スペース(Intelligent Space: iSpace)
なロボットを実現することを目指しています。人間 - ロボット共存環境下で移
動ロボットを効率的に制御する方法、ロボットの機能と空間の機能を融合す
ることにより、相補的な機能の拡張などが研究されています。
人と空間とを結ぶ空間インタフェース
iSpace の観測技術を用いることで、実空間そのものが情報を蓄えるメ
ディアとして位置づけられます。そして、直接身体を用いることで瞬時かつ
直感的に情報にアクセスできる空間ヒューマンインタフェースが実現します。
iSpace による自律的なサービス設計を実現するため、空間内の出来事の発見、
人の活動内容の識別などが研究されています。
iSpace のシステムインテグレーション
空間を観測し実世界への働きかけを行う iSpace はさまざまな RT(ロボッ
図 2.iSpace のコンセプトと研究項目
トテクノロジ)要素で構成されます。RT 要素は日々発展しますし、用途やニー
ズに合わせて柔軟に変更可能である必要があります。そのため、iSpace の柔
軟でかつ拡張性のあるシステムを構築するための設計手法、実装手法などが
研究されています。(図 3 参照)
●ハプティックインタフェース(遠隔微細作業システム)
このシステムは、操作者に対し微細作業環境を拡大提示することによって、
微細作業の効率化を実現するものです。視覚フィードバックに加え力覚フィー
ドバックを行うことで、人間の操作感を向上させています。新しい制御フレー
ムワークを用いて、1 基の入力デバイスにより 2 基の微細作業マニピュレー
タを制御するシステム(1: 2 システム)を構築しました。この制御手法を拡張
図 3.iSpace アーキテクチャ
し、1: N システムへ適用することを目指しています。
(図 4 参照)
学生へのメッセージ
本研究室の研究テーマに関心があり柔軟な思考ができる方であれば有意義
な時間をすごせます(もちろん、自らの意思でそれを望む必要はあります)。
研究室での普段のディスカッションを通して、幅広い教養(結構大事です)、
専門知識、問題の捉え方、整理の仕方、表現の仕方、を訓練していきます。また、
当然のことながら英語は必須です(間違いなく慣れます)
。インターナショナ
ルな活躍のできる有為な人材として成長されることを期待しております(当
然ですね)
。
図 4.微細作業マニピュレータ
22
斎藤宏文 / Hirobumi Saito
【研究分野】システム制御・宇宙分野
【研究内容】衛星システム工学、宇宙電子工学
研究内容
齋藤研究室では、次世代衛星技術の開発方向の見極めや人材育成を目的と
し、小型高機能衛星の開発を行っています。開発の場では、宇宙研職員のみ
ならず、学生も衛星開発に直接参加し、実践の場を通して宇宙工学に関する
理解を深めることができます。
2005 年 8 月には、齋藤研が中心となり開発した 70kg の 3 軸姿勢制御
の INDE X 衛星(れいめい)をロシアのドニエプルロケットでバイコヌール基
地から打ち上げました。新しい衛星工学技術の実証と、オーロラの科学観測
を行っています。研究室と同じフロアに運用ルームがあり、日夜衛星運用を
行っています。
2006 年度からは、わが国初の小型の月着陸探査機の開発を行っています。
これらの活動を通じて培った経験と研究者チームにより、次世代の衛星技術
に関して多岐にわたる研究を行っています。以下では、そのうちのいくつかを
ご紹介します。
・柔軟衛星の高速姿勢変更のための姿勢制御・姿勢決定
れいめい衛星と、開発に参加した齋藤研のメンバー。
2012 年打ち上げ予定の ASTRO-G 衛星のため、大型展開アンテナを有し、
かつ高速・高精度の姿勢変更を必要とする衛星の研究開発が、現在企業と共
同で行われています。この衛星の姿勢決定系の問題に対し、搭載センサの検
討を、姿勢制御系に対し、現代制御を用いた検討を行っています。
・衛星フォーメーションフライト
フォーメーションフライトとは、複数衛星の相対位置を制御し、単一衛星で
は成し得ない規模のミッションの実現を目指すものです。研究では、その制
御方法として、超伝導コイルを搭載した衛星の磁気モーメントを用いた制御
手法の検討を行っています。
・月着陸レーダ(電波高度・速度計)の開発
将来の月惑星着陸ミッションに欠かせないセンサとして、月面までの距離測
定と速度測定を行うパルス方式の電波高度速度計
(着陸レーダ)の開発を行っ
ています。
・マイクロマシンの宇宙応用研究
月着陸レーダのフィールド試験。ヘリコプターにレーダを搭載しての実験。
マイクロマシン 技 術を 応 用した 走 査 機 構をもつ 2 次 元 走 査レーザレー ダ
(Light Detection And Ranging, LIDAR)
を開発しています。LIDAR は惑
星への接近着陸を行う探査機に必須の光パルスを用いた航法センサで、地形
センシングのためのマッピング効率、距離測定の信頼性向上の観点から 2 次
元走査が望まれています。従来の回転ミラーを使用した走査機構に替え、マ
イクロマシンを用いることで小型軽量かつ摩擦機構の無い新しい走査機構を
提案しています。
・惑星探査通信システムの開発
将来の惑星探査ミッションに必要とされる超遠 距離通信技術の確立のため
に、誤り訂正符号である LDPC 符号(低密度パリティチェック符号)
を実装し
た符号化処理装置の設計、試作及び評価を行っています。
・次世代宇宙通信用地上局アンテナの研究
地球と惑星探査機間の超長距離通信を実現するためには、非常に高い利得
を持つアンテナが必要です。本研究では、比較的小型のアンテナを複数配置
することで、64m クラスの巨大アンテナと等価な利得を得られるようなアレ
イアンテナの研究を行っています。
・衛星搭載計算機の検討
アレイアンテナの例(国立天文台 野辺山宇宙電波観測所)。
宇宙放射線による計算機の誤動作を防止する高信頼設計の検討と開発をして
います。また、SOI プロセスを用いた放射線に強い宇宙用 CPU の研究開発
をメーカと共同で実施しています。
・オープンソース GPS を用いたロケット搭載用 GPS の開発
JA X A において検討されている次期固体ロケットへの搭載を目標に、ロケッ
ト特有のダイナミクスに対応した GPS 受信機の開発を行っています。オープ
ンソース GPS を用いることで、開発にかかる費用や時間を抑えることを目指
しています。
・気球を用いた長時間無重力落下飛翔体の開発
良質な微小重力環境の提供を目指し、気球を用いた微小重力実験装置を提
案しています。気球を用いて 40 km 程度の高度まで実験装置を載せたカプ
セルを上げ、そこからカプセルを自由落下させることにより、残留加速度が
10E-6G 以下の微小重力環境を 1 分間程度持続させることができます。
学生へのメッセージ
科学衛星打ち上げ用の M-V ロケット
齋藤研究室の特徴は、宇宙開発の現場にあるという点です。特に、齋藤研
が中心となって開発した 72kg の小型衛星 れいめい は、2005 年に打ち
上げられ、現在も順調に飛行中です。研究室の一角にある衛星運用室から、
昼と夜に衛星運用が行われています。
ロケット推進技術を除くと、宇宙開発の主要な要素は電気・電子・情報技
術にあります。通信技術、
制御誘導技術、放射線に強いデバイス技術などです。
齋藤研では、これらの関連するグループと連携して、実際の宇宙ミッション
で使われる技術開発を行うことをモットーにしています。宇宙の実感を肌で
感じながら、宇宙工学を研究したい人は、ぜひ齋藤研においでください。
23
橋本樹明 / Tatsuaki Hashimoto
【研究分野】システム制御・宇宙分野
【研究内容】宇宙機の制御、画像センサ処理
研究内容
当研究室では、人工衛星や惑星探査機などの宇宙飛翔体を制御する方法の
研究、制御するためのセンサ、アクチュエータの開発などを行っています。
現在、中心的に行っている研究は以下のものですが、宇宙開発プロジェクトか
らの要請に応じて、あるいは学生の興味や能力によって、適宜、新たな研究テー
マに挑戦していきます。なお、当研究室がある相模原キャンパスは宇宙航空
研究開発機構宇宙科学研究本部に所属しており、航空宇宙工学、天文学、高
エネルギー物理学、惑星科学などの分野の研究者と共同で研究をしています。
■画像を用いた探査機の航法誘導の研究
これからの月や惑星の探査では、狙った場所(有人基地や科学的に興味が
ある場所など)に探査機を高精度にかつ安全に着陸させる必要があります。当
研究室では、探査機に搭載したカメラで地表面を見ながら、特徴的地形と地
図とのマッチングをすることにより、探査機の飛行位置を正確に測定する方
法を研究しています。小惑星探査機「はやぶさ」では、地上で画像をモニタ
しながら人間がこれを行い、高精度に小惑星イトカワへ着陸させることに成
功しましたが、将来の月探査などでは、探査機の搭載計算機がこれを実現で
きるように、アルゴリズムの研究をしています。また、表面の岩や崖などの
図 1 天体表面画像を用いた探査機の高精度誘導法
障害物を検出し、自律的に回避して着陸する研究も行っています。
■観測衛星の高精度姿勢制御の研究
天文観測衛星では、望遠鏡の天体への指向精度は数秒角(1/1000 deg 程
度)が要求され、また、短期間の姿勢の変動は 1/10000 度以下が要求され
ています。これらに対応するため、高精度の姿勢センサ開発、姿勢制御アル
ゴリズムの研究、あるいは振動を発生させない低擾乱姿勢制御アクチュエー
タの研究などを行っています。これらの研究成果は、数年後に打ち上がる実
際の人工衛星に適用されていきます。
■気球を用いた微小重力実験システムの研究
宇宙空間は微小重力科学の実験を行うには絶好の環境ですが、実験するた
めの費用や、準備に要する期間は膨大になります。予備的な研究の場合、地
図 2 月着陸探査機の想像図
上の落下塔を用いた数秒間の実験や、航空機による放物線飛行を用いた 20
秒間程度の微小重力環境を利用していますが、1G 環境からの過渡現象の影響
を受けるなど、精度の高い実験が難しくなっています。我々は、実験装置を
大気球につり下げ、高度約 40km から自由落下させることにより、30 秒以
上の微小重力実験を可能とするシステムを開発しています。理想的な微小重
力を実現するための 2 重殻構造ドラッグフリー制御、超音速飛翔体の機体制
御などの研究を行っています。
学生へのメッセージ
新たな宇宙の謎を解き明かしたり、宇宙を使って地球上での暮らしを豊か
にするためには、画期的に新しい技術の開発が必要です。学生のみなさんの
斬新なアイデアとともに、ねばり強い体力、気力を期待しています。宇宙開
発における電気・電子工学の役割は、きわめて重要です。一緒に研究していき
ましょう。
図 3 気球にて飛翔中の微小重力実験機体
図 4 海上にて回収された実験機体と実験班員
24
久保田孝 / Takashi Kubota
【研究分野】システム制御・宇宙分野
研究内容
21 世紀は、人類が月や惑星など太陽系にまったく新しい文明圏を創り出す
時代になると期待されています。当研究室がある相模原キャンパスは、宇宙
【研究内容】宇宙人工知能、宇宙ロボティクス
航空研究開発機構・宇宙科学研究本部に所属しており、太陽系の起源と進化の
解明をめざして、宇宙科学プロジェクトを行っています。
月・惑星・小天体などの探査において、探査機が安全・確実に着陸し探査を
行うためには、探査機に高度なインテリジェンスが要求されます。そこで当
研究室では、未知環境である月や惑星表面を、無人探査ロボットが自律的に
探査を行うための研究を行っています。下記に主な研究テーマを記しますが、
この限りではありません。宇宙探査ミッション遂行にはさまざまなテーマが
あります。
■ロボットビジョンによる環境理解
未知環境である惑星を探査するためには、惑星環境を理解することが必要
です。そこで、ビジョンシステムの研究、画像処理および環境認識の研究、マッ
プの生成方法、さまざまなセンサを用いたセンサフュージョン、障害物の抽
出方法、自然地形の認識方法、画像トラッキングなどの研究を進めています。
■月惑星探査ローバの行動計画
図 1 着陸船とローバによる月面探査の構想図
探査ロボットが自律的に移動探査するためには、障害物をよけながら目標
地点に到達することが必要になります。そこで、経路計画手法、自己位置推
定手法、行動戦略立案手法、行動学習、複数ロボットの協調探査などの研究
を行っています。
■探査ロボットの移動メカニズム
探査する場所は、砂地、岩のごろごろした場所、クレータなどの急斜面、
重力の小さい天体表面など、ミッションに応じてさまざまな地形が対象にな
ります。そこで探査ロボットの移動メカニズムの研究を進めています。走破
性能の高い脚型ロボット、地中を探査するモグラ型ロボット、柔軟に移動可
能な車輪型ロボット、微小重力下における新しい移動メカニズム、超小型昆
虫型ロボットなどの研究を進めています。
■テレサイエンス
図 2 地図生成と経路計画
月や惑星で活躍するロボットは、移動するだけではなく、サンプルを採取
したり、観測機器を設置したり、天文台などの建築を行ったり、さらには将
来の有人活動のための拠点つくりをする必要があります。そこで、高度遠隔
操縦方式、ヒューマンインタフェース、小型軽量マニピュレータの研究、エ
ンドエフェクタの開発、サンプル採取手法などの研究を進めています。
■探査機の自律システム
月・惑星・小惑星などの探査において、探査機が安全・確実に任務を遂行す
るためには、探査機に高度な知能が要求されます。例えば次のようなテーマ
図 3 小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された探査ローバ「ミネルバ」
が含まれます。探査機の故障診断、ミッションプラニング、画像に基づく目
標天体への自律接近、自律的な着陸に必要な地形認識・障害物回避・航法誘導
制御、画像による天体の形状復元と天体周辺での自律誘導航法、複数探査機
の協調による軌道制御などがあります。
学生へのメッセージ
広く宇宙における人工知能・ロボティクスに興味のある学生を歓迎します。
新鮮な研究対象は、将来ミッションの中にゴロゴロしていて、覇気と情熱に
溢れる学生にとって実に楽しい研究環境を提供しています。
惑星探査が多くの人の関心を集めるのは、見たこともない光景が展開され
るからであり、「知らないことを知りたい」という人間本来の欲求によるもの
です。宇宙にはたくさんの謎があります。その謎を解き明かすために、自分
図 4 地中探査ロボットの構想図と実験モデル
の分身である探査ロボットを作ってみませんか?
25
堀 洋一 / Yoichi Hori
【研究分野】システム制御・宇宙分野
研究内容
(1)電気自動車の制御
電気モータの高速トルク発生を生かし、電気自動車で初めて可能になる新
【研究内容】電気自動車、福祉ロボティクス
しい制御の実現をめざしている。タイヤの増粘着制御によって、低抵抗タイ
ヤの使用が可能になる。4 輪独立駆動車は高性能な車体姿勢制御が実現できる。
モータトルクは容易に知れるから路面状態の推定も容易である。インホイル
モータ 4 個を用いた高性能車「東大三月号 -II」および「カドウェル EV」を
製作し実験を進めてきた。車体すべり角βの推定、DYC と AFS の非干渉制
御などに力を入れている。最近キャパシタだけで走る「C-COMS I & II」およ
び、電池駆動の「COMS III」を製作し、電気自動車の制御に関する諸種の実
験と、移動体におけるエネルギーストレージデバイスとしての電気二重層キャ
パシタの可能性を探っている。
(2)アドバンスト・モーション・コントロール
電気・機械複合系の制御をモーション・コントロールと名づけ、研究室の技
術的なベースとして息の長い研究を行っている。現在は、(1)外乱構造に着
目した新しいロバストサーボ制御、
(2)多重サンプリング制御を用いたビジュ
アルサーボ系、(3)非整数次数制御系の応用、(4)加速度変化率の微分を考
慮した目標値生成法、
(5)GA や PSO を用いたパラメータチューニング法、
(6)詳細な摩擦モデルを用いた高精度サーボ制御、を行っている。応用として、
多軸ロボット、バックラッシ軸ねじれ系実験装置、ハードディスクドライブ
Control of Electric Vehicle
に適用している。
(3)福祉制御工学
福祉分野を想定した独特の制御手法の開発を目論むもので、人間親和型モー
ションコントロールにもとづく福祉制御工学、という学術領域を作りたいと
考えている。現在行っている研究は、(1)介護ロボットのためのパワーアシ
スト技術、(2)新しい制御原理にもとづく動力義足の製作、(3)筋電センサ
を用いたパワーアシスト車椅子の制御 ,(4)生物の 2 関節筋機構や非線形筋
弾性特性を用いた新しい原理のロボットアームの製作、(5)人にやさしいドア
の研究、などである。
学生へのメッセージ
堀研究室は本郷の電気工学専攻に軸足をおきながら、総合試験所で 5 年、
生産技術研究所で 5 年などを過ごしたあと、平成 20 年度からは柏の先端エ
Advanced Motion Control
ネルギー専攻に異動し他は兼任となります。あちこちに拠点を作っていると
いう感じです。
柏への引っ越しは遅れる見込みで、実際の研究場所はしばらくは駒場の生
研になります。生研での仕事も多く(たとえば試作工場長をしている)、研究
室スペースは広く快適で電気自動車専用のガレージなどもあります。また西
千葉の生研千葉実験所にもスペースがあります。
過去には東大三月号 II とカドウェル号という大きな EV を開発しましたが、
現在、電気二重層キャパシタ(EDLC)だけで動く小型電気自動車 C-COMS
を 2 台作りました。C-COMS2 は新開発のインホイル DD モータをもつ超
高性能車です。また汎用機 COMS3 も作っています。C-COMS は 30 秒充
Welfare Control Engineering
電で 20 分ぐらい走るため、電気自動車に革命を起こすでしょう。最近では、
非接触充電の研究を開始しています。将来のクルマは電力系統につながるこ
とが明白になってきたためです。
2008 年度の陣容は、
教授、助教(1)、
技術官(1)、研究員(2 ∼ 3)、D3(2)、
D2(4)、M2(2)、M1(2?)、卒論生(2)、秘書(1)です。
動くものが好きで回路やハードの製作をやりたい人、ロボット制御をやり
たい人、自動車が好きで将来もクルマ関係で働きたい人、高齢者や身障者の
ためになりたいと思っている人は、堀研に来てください。
企業をはじめ行政、大学、学会など外部との付き合いが多く、内外から見
集合写真
学者もたくさんきます。イベントやデモが好きな人を歓迎します。
26
大津元一 / Motoichi Ohtsu
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
■研究テーマと研究ポリシー
100 年前のアインシュタインの光量子説が端緒となり、レーザが発明され
【研究内容】ナノフォトニクス
光科学技術が急進展しました。将来の高度情報化・高度福祉化社会を支える
には光技術が不可欠なので、「21 世紀は光の時代」と言われています。とこ
ろでアインシュタインの光量子説の中では「光は寸法の小さな粒」とは言っ
ていません。このように光が小さな粒ではないことが、実は 21 世紀の社会
の要求を満たす光技術を実現する際の原理的限界を与えています。大津研究
室ではこの限界を打破するために十数年前に光の小さな粒を発生させること
に成功し、これを近接場光と名付け、これを使ったナノテクノロジー(光デ
バイス、光加工、光システムを実現する技術)を開拓してナノフォトニクスと
名付けました。すなわち研究テーマはナノフォトニクスで、そのポリシーは、
従来の光科学には無かった新概念を使い、光技術のパラダイムシフトを実現
することです(図 1)。
■ナノフォトニックデバイス
近接場光相互作用によるエネルギー移動を利用することで、回折限界を超
えた集積性の高さはもちろん、伝搬光を信号キャリヤとした従来のフォトニッ
クデバイスでは到達できない新しい機能と性能を実現する革新的光機能デバ
イス(ナノフォトニックデバイス)が可能になります(図 2)。
■ナノフォトニック加工
図 1 ナノフォトニクス
光源短波長化に依拠してきた微細加工技術は、100nm 以下の超微細領域
に入り、光の回折限界が経済的にも技術的にも極めて大きな障壁となってい
ます。これに対して近接場光を用いる加工法では、回折限界と無縁、すなわ
ち高コストな短波長光源と大型真空装置を必要としないため、光加工技術の
パラダイムシフトが実現されます。近接場光相互作用を利用することにより、
単に回折限界を超えるだけに留まらず、たとえば、「従来の光では反応しない
材料」すらも加工可能となります(図 3)。こうして近接場光だけの特徴を生
かした加工方法、すなわちナノフォトニック加工によって「質的変革」が実
現します。
図 2 ナノフォトニックデバイスの動作例
■ナノフォトニックシステム
真空管からトランジスタへの変化によって電子コンピュータは根底的な変
化を経験しました。現在の光システムもナノフォトニクスによって全く異な
る形へ変化し始めています。最近の情報システムは、集積度、電力消費など
の量的基軸に加えて、セキュリティ、ユビキタスな情報環境、個人化対応など、
質的に新しい要件(質的変革)を必要としています。近接場光の階層性および
局所エネルギー散逸性を利用することで、新しい形のセキュリティ機能素子
や、機密性・情報管理機能を有するメモリシステムなど、これまでになかった
図 3 ナノフォトニック加工により作製された超微細構造
全く新しい価値が実現されます。
学生へのメッセージ
ナノフォトニクスは私たちの生活や社会を支えるために不可欠な技術なの
で、世界的にも急速に研究が活発化しています。しかし大事なのは単なる流
行に乗るのではなく、ナノ領域での光と物質の相互作用という本質を真摯に
見つめること。それには実に幅広い視点からの接近が必要です。ナノフォト
ニクスは、社会に役に立つ技術としての展開はもちろんですが、様々な知と
技術の世界の融合をまさに身近に感じさせて、強烈な学びの機会を与える舞
台としても今後の進展はますます楽しみです。私たちは 21 世紀の光科学技
術の旗手であるナノフォトニクスを提唱し、先導する TOP(Top runner、
Only one、Pioneer)
を自覚し、3 つの U{Universal(普遍)
、Unique(独自)
、
Ultimate(究極)
}に当てはまる研究テーマを追求しています。胸躍らせ、前
人未踏の地を開拓してみませんか? 勉強したい人は研究室 HP(下記)に紹介
の図書を参考にして下さい。
http://uuu.t.u-tokyo.ac.jp
27
高木信一 / Shinichi Takagi
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】半導体デバイス工学、ナノデバイス
物理
研究内容
これまでの Si LSI の進歩を支えてきたのは、MOS トランジスタの微細化
でしたが、半導体集積回路が生まれておよそ 30 年経った現在、この微細化
だけでは、トランジスタ性能の向上が難しくなってきています。一方、LSI の
進歩には、今後ともトランジスタ性能を益々向上させていくことが不可欠と
考えられおり、2010 年には、トランジスタのゲート長が 18nm、2016 年
には 9nm というナノスケールの素子を集積した LSI が量産されると考えら
れています。
このような LSI の実現を可能にするためには、Si MOS トランジスタに対し、
単なるスケーリングだけではない、様々な角度からの革新の手を加える必要
があり、新コンセプトによるトランジスタ高性能化技術は、今後益々重要に
なると考えられています。高木研究室では、LSI に用いることを念頭におい
た Si をベースとする半導体デバイスの研究、特に今後のナノメータ領域での
MOS トランジスタの進化を可能にする、ブレークスルー技術の研究を、デバ
イス物理や材料科学の深い理解の下で、進めています。
現在注目しているデバイスは、高い移動度をもつひずみ Si や SiGe、Ge な
今後のトランジスタの進化を可能にするブレークスルー技術
どをチャネルに用いた MOSFET、あるいはこれらのチャネルを超薄膜にした
ひずみ SOI(Si-On-Insulator), GOI(Ge-On-Insulator)MOSFET、III-V 族
半導体をチャネルとする超薄膜 III-V-OI MOSFET などです。ひずみ Si とは、
外部から加えられた応力によって格子変形した Si 層のことであり、この応力
により Si のバンド構造が変化して、Si でありながら高い移動度を示すよう
になります。インテルが 90nm プロセスを用いて昨年量産を開始した CPU
Pentium4 には、このひずみ Si のコンセプトを使ったトランジスタが搭載さ
れており、今注目のデバイスとなっています。また、Ge はひずみ Si よりも
究極性能 CMOS 構造の模式図
高い移動度をもっており、更に次の世代のチャネル材料として、現在関心が
高まっています。
これらの新構造 MOS トランジスタの電気特性・素子物理の明確化と統一的
理解、素子設計指針の確立、また極短チャネル素子の電気特性の理解、MOS
トランジスタの評価・測定技術・信頼性評価技術の確立などが、具体的研究テー
マとなります。また、本研究室の多くの研究テーマは、進行中の産官学連携
の国家プロジェクト(MIRAI プロジェクト)や民間企業との共同で進めており、
半導体技術の最先端での研究開発の息吹、最新の研究動向などを間近で感じ
取ることができます。現在、大学での基盤研究が、テクノロジーのブレーク
スルーに繋がる確率は、一層高まっており、技術の本質を見てその体系化を
目指しつつ、一歩先あるいは二歩先の手を有効かつタイムリーに打っていく
ことを目標に、研究を推進しています。
学生へのメッセージ
人間の究極の喜びは、つまるところ、知的創造であると思っています。一方、
デバイス・物性のようなハードウェハを対象とする分野では、必要不可欠な知
識・概念の理解と習得、論理的思考力を身につけるための修養が必要です。つ
Si ウェハへの機械ひずみ印加装置
まり腕を磨いてもらう必要がある訳で、このような事情は、芸術(アート)の
分野とよく似ていると思います。学生諸君は、アートする気持ちを心に秘め
つつ、地味で着実な鍛錬にも励んで欲しいと思います。
(110)面 Ge-On-Insulator 基板の透過電子顕微鏡断面写真
28
田中雅明 / Masaaki Tanaka
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】電子 / 光 / 磁気物性・デバイス、ス
ピントロニクス
図1
研究内容
■本研究室では、将来の電子デバイス、光デバイス、スピン(磁気)デバイス、
それらのハイブリッド素子への応用を視野に入れて、新しい電子材料とデバ
イスの基礎研究を行っている。具体的には、(1)半導体、金属、半金属、強
磁性体など様々な物質を(縦横無尽に)用いて、量子力学的効果が現れるナノ
メータ・スケールの超薄膜や人工格子・量子ヘテロ構造のエピタキシャル成長
を行い、自然界に存在しない新しい物質を原子レベルで設計し作製すること、
(2)作製した新物質群のマテリアルサイエンスと物性物理を研究し、デバイス
を試作して将来のエレクトロニクス応用への指針を示すことをめざしている。
特に近年は、電子のスピンやその秩序(磁性)が顕著に現れる新しい物質群の
創成とそれらの半導体エレクトロニクスへの応用:
「スピントロニクス」の開
拓研究に力を入れている。
◆スピンとは? 電子は負の電荷をもつ素粒子であることはご存知でしょう。
トランジスタの発明以来、20 世紀後半の情報・通信技術(IT)の発展は、主
に電子の電荷を用いた様々な半導体デバイスによってもたらされました。一
方、電子はもう一つ " スピン " という本性を持っています。スピンは量子力学
の概念ですが、古典力学の言葉で言えば電子の自転に相当します。この自転
は決して止まることがないので、電子はそれ自身が小さな電磁石であるとも
言えます。つまり " スピン " を持つことによって、電子は世界最小の永久磁石
であるとも言えるのです。(余談ですが、世界最大の磁石は ... ? それはもち
ろん地球です)
。電子の " スピン " の働きと電子同士の相互作用によって、あ
る物質は永久磁石のような強磁性になり、またある物質では電気抵抗がゼロ
になる超伝導を示したりします。
◆スピントロニクス(Spintronics) ところがエレクトロニクスや情報通信
技術を担う半導体においては、電子の電荷のみが主に使われており、もう一
つの自由度である " スピン " が使われることはありませんでした。私たちは、
21 世紀の半導体テクノロジーにおいてはこの " スピン自由度 " を積極的に用
いる必要があると考えており、
「スピントロニクス」と呼ばれる新分野を開拓
しています。この分野は十数年前からの私たちによる先駆的研究の貢献もあっ
て、現在では世界的な新しい研究の流れになりつつあります。このようなサ
イエンスとテクノロジーのフロンティアを切り拓く研究では、エレクトロニ
クスや IT 技術への幅広い関心と共に、物質科学など基礎科学への深い理解と
知的好奇心が必要になります。
" スピントロニクス "
電子のスピン機能を活用した 21 世紀のエレクトロニクスを開拓する
̶ 研究テーマの例(他にも様々あり)̶
図2
図3
◆強磁性を示す新しい半導体を創る結晶成長
◆強磁性半導体の光・電子・スピン物性の解明
◆その光・電子・スピンデバイスへの応用
◆半導体磁気光学結晶光の局在を用いた磁気光学効果の増大と光デバイスへの応用
◆半導体ヘテロ構造のトンネル磁気抵抗効果(TMR)とスピン依存トンネル現象の
物理
◆エピタキシャル強磁性金属/半導体ヘテロ構造の結晶成長と物性、デバイス応用
◆スピンバルブ効果、スピントンネル磁気抵抗効果など電子伝導現象を中心とした
不揮発性メモリ(MRAM)の基礎研究、微細加工プロセス、デバイスの試作など
◆スピンの自由度を活用したスピントランジスタ、スピン FET の提案・解析・試作、
デバイス物理
◆スピンデバイスを用いた再構成可能な論理回路
本研究室では、マテリアルサイエンス・デバイス・物性物理学・結晶工学な
ど Science と Technology の広い領域にまたがる新しい分野を開拓しつつ
あり、取り組むテーマも斬新なものが多い。博士課程はもちろん修士課程の
若い学生でも、努力次第では比較的短期間で研究の最前線に躍り出ることが
可能であり、そうなるように後押ししている(実際すでに多くの大学院生が
国際会議など学会の最先端で活躍している)。サイエンス志向の人は知的好奇
心をもって深く真理を探求してもよいし、エンジニアリング志向の人はデバ
イス設計 / 試作まで何でも意欲的に取り組んでみればよい。フロンティアス
ピリットと意欲あふれる学生の入学・進学を歓迎する。このような新分野の研
究を様々なアプローチから行うために、国内・海外の優れた研究機関との共
同研究も積極的に行っており、産業技術総合研究所、東大理学系物理学専攻、
SPring-8、東大工学系応用化学専攻、アメリカのベル通信研究所・ミネソタ
大学、ポーランドのワルシャワ大学、フランス CNRS-IEMN、ロシア科学ア
カデミー Ioffe Institute、ベルギー Microelectronics Center などの研究
グループとの共同研究実績がある。
学生へのメッセージ
図4
二度とない人生、二度とない若い時代の貴重な時間です。何でもよいです
から価値のある何かを創造することに全力で打ち込みましょう。私たちの研
究には、全力で打ち込むだけの価値があると信じています。
29
八井 崇 / Takashi Yatsui
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
"Let there be light!"
「そのとき、神が『光よ、あれ』と仰せられた。すると光ができた。」
【研究内容】ナノ光デバイス工学
そうです、世界は光によって誕生したのです。そして、現代では尽きるこ
とのない人類の欲求を満たすべく世界は物(デバイス)をナノ寸法まで小さく
し、そこに情報を蓄え処理する技術(ナノテクノロジー)の開発が行われてい
ます。このようなナノワールドにおいても、ナノ寸法に局在した光(近接場光)
の誕生によって光技術は進展を遂げてきました。本研究室はこの近接場光の
パイオニアである大津研究室と共同で研究を行っており、ナノ寸法光デバイ
ス、ナノ寸法光加工を実現する技術である「ナノフォトニクス」を研究のテー
マとしています。さらに、ナノワールドで初めて見える現象、可能となる概
念などを探索し、そしてそれを制御可能とすることで、限界を向かえつつあ
る光技術および電子技術のその先の世界を実現することをポリシーとしてい
ます。
■ナノ寸法光デバイス:ナノフォトニックデバイス
近接場光を用いることで、デバイス寸法が小さくなるという高集積化のメ
リットだけでなく従来の伝搬する光を用いていた場合には想像もつかない機
図 1 ナノ寸法光配線を近接場光が伝送される様子
能が実現します。ナノ寸法の微粒子の寸法および間隔を制御して配列するこ
とで、光エネルギーはナノ微粒子に集中し、そのエネルギーが微粒子間で伝
送されるということが実証されています(図 1)。
さらには、半導体結晶成長技術を駆使することで、従来の光デバイスの
1/100 以下の寸法で超低消費電力なナノフォトニックデバイス(光スイッチ、
論理ゲート、集光器など)の実現を目指しています(図 2)。
■ナノ寸法光加工:ナノフォトニック加工
近接場光を利用することにより、ナノ寸法の構造が作製可能(図 3)となる
だけでなく、従来の微細加工技術で用いるプローブやフォトマスクなどが不
要となり、微細な構造を大面積に渡り自己組織的に一括で作製可能となりま
す(図 4)。この結果、生産性の飛躍的な向上が達成され、ナノフォトニック
図 2 半導体ナノ光スイッチの実例
デバイスは産業上利用可能となります。
従来のナノ微細加工技術としては、半導体微細加工などに用いられている
電子ビームリソグラフィーなどがありますが、これらの技術において「加工
する」ことと、デバイスとして「動作させる」こととは別の技術で、ナノ寸
法デバイスを実現させるためには大きな技術的・機能的限界が存在します。こ
れに対し、ナノフォトニック加工は単にナノ寸法の微細加工が可能というこ
とではなく、ナノフォトニックデバイスを作製する手法としては、作製後デ
バイスとしての動作を保証する自己完結的手法であると期待されています。
図 3 ナノ寸法で堆積された金属の形状像(左図)と半導体からの発光の様
子(右図)
学生へのメッセージ
最先端技術であるナノフォトニクスの研究はドキドキが一杯です。こんな
ことや、あんなことができたら凄い!と思いをめぐらすワクワク感、思い通
りの物ができた時の達成感、予測を超えた結果が得られた時の叫びたくなる
ような喜び、世界と触れ合える刺激、などなど。
"Ask, and it shall be given unto you!"
図 4 ナノフォトニック加工により一括加工されたナノ寸法構造体
30
杉山正和 / Masakazu Sugiyama
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】異種材料融合デバイス作製プロセス
研究内容
シリコン LSI は、微細化により高速化・低消費電力化が可能であるという
スケーリング則に沿って発展を遂げてきたが、近年その限界が見えつつある。
シリコンを用いた電子デバイス、化合物半導体を用いた光デバイス・高速電子
デバイスは、これまで別個の技術体系として棲み分けてきた。しかし、スケー
リング則の限界を打開するためには、コストや加工性に優れたシリコン基板
をプラットフォームに、シリコン LSI はもとより化合物半導体デバイス、マ
イクロマシンに至るまで最適なエレメントをハイブリッド集積した、
「いいと
こどり」のデバイスを開発する必要がある。本研究室では、素材や対象にと
らわれずにナノ・マイクロ加工プロセスを俯瞰し、ポストシリコンデバイスの
基幹となるデバイスプロセス技術を開発している。都心随一のクラス 1 クリー
ンルームである「武田先端知ビルクリーンルーム」をはじめ、工学部 10 号
館の有機金属気相成長装置など豊富な研究開発資源をフル活用しつつ、単な
る加工ノウハウの蓄積ではなく、普遍的な物理・化学現象としてデバイス加工
プロセスを理論的に極めることを目指して研究開発を進めている。
作製プロセスの発展なしにデバイスの高性能化はあり得ない。すばらしい
デバイス構造を考案しても、実際にデバイスを作製して動作を実証できなけ
れば、絵に描いた餅である。青色 LED の原理・構造は以前から分かっていたが、
高品位な結晶が成長できてはじめて青色 LED が実用化されたのである。
逆に、デバイス構造と動作原理を理解せずには、プロセスの研究は方向性
図 1 化合物半導体結晶の有機金属気相成長装置
を見失ってしまう。本研究室は、先端研の中野・種村研究室と連携して、半導
体光デバイス用の結晶成長からデバイス作製・特性評価までを一貫して行うこ
とのできる環境を整えている。また、武田先端知ビルスーパークリーンルー
ムに集うマイクロマシンの研究者たちと協力し、マイクロマシン技術を活か
した異種材料インテグレーションプロセスの開発を目指している。
研究テーマ例 図 2 シリコン基板上に選択横方向成長した InGaAs 結晶
■化合物半導体光デバイスのマルチバンドンドギャップ・モノリシック
集積
多チャンネルのレーザーを集積したデバイスを、1 回の結晶成長で作製で
きる選択成長技術を開発している。デバイスの設計に用いる成長シミュレー
ションが完成しつつある。
■シリコンプラットフォーム上への異種材料集積技術
光活性層や高速チャネルの導入を目指したシリコン基板上への化合物半導
体へテロエピタキシャル成長、マイクロマシン技術を駆使した異種材料はめ
こみ技術を開発している。
学生へのメッセージ
最高水準の実験環境で最先端の装置を使いこなし、前人未踏の成果を目指
図 3 武田先端知ビルスーパークリーンルーム
しましょう。プロセスのわかるデバイスエンジニア、デバイスのわかるプロ
セスエンジニアを目指して一緒に研究しませんか!
図 4 マイクロマシン技術でシリコン基板に掘った超微細溝
31
竹中 充 / Mitsuru Takenaka
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
Si LSI はこれまで過去 30 年以上に渡り、集積度が 18 ヶ月で 2 倍になる
という Moore の法則に従ってチップあたりのトランジスタ数を増大させなが
【研究内容】先端 MOSFET、シリコンフォトニ
クス
ら性能の向上を図ってきました。現在最新の CPU では既にトランジスタ数は
10 億個を超えるレベルに達しており、わずか 1cm 角の LSI チップに地球の
総人口よりも多いトランジスタが集積化されるのはすぐ間近にせまっていま
す。
このような飛躍的な発展を可能としたのが、微細化によるトランジスタの
集積度と性能の向上でした(スケーリング則)。1970 年代当初 10_m 程度だっ
た配線幅は既に 65nm にまで微細化されており、2016 年頃には 22nm 程
度まで微細化が進むものと考えられています。しかしながら、ナノレベルの
微細化には物理的限界が見え始めており、従来のスケーリング則だけでは Si
LSI の性能を向上させることが難しくなってきています。MOS トランジスタ
のゲート絶縁膜にはこれまで Si を熱酸化した SiO2 が用いられてきましたが、
原子 10 個分程度まで微細化が進んだ結果、HfO2 などの High-k 絶縁膜が製
品レベルでも用いられつつあります。また、スケーリングに従って微細化が
進むべきトランジスタのゲート長にも近年、微細化の鈍化傾向が現れてきて
います。
次世代ヘテロジーニアス LSI
トランジスタレベルでの性能向上が困難になりつつあると同時に、LSI レベ
ルでの性能向上にも限界が顕在化しつつあります。CPU のクロック速度はス
ケーリングに伴って 4GHz に達したものの、発熱や配線遅延の問題で、高速
化が頭打ちになっています。また電源電圧も動作速度と消費電力の兼ね合い
から 1V 以降スケーリングされなくなっています。
このように Si LSI の研究開発は新たな局面を迎えつつあり、スケーリン
グ則が破綻したいわば「ポストスケーリング時代」に突入しようとしてい
ます。スケーリングに依らないトランジスタの性能向上を目指す「More
Moore」、LSI 上にトランジスタ以外のデバイスも集積して高機能化を図る
極限 CMOS 構造
「More than Moore」、従来の CMOS とは全く異なる原理のデバイスを目指
す「Beyond CMOS」などの標語が飛び交い、世界中で研究開発が活発になっ
てきています。
本研究室においては、ポストスケーリング時代においても LSI の性能向上
を実現するために、従来用いられなかった材料、テクノロジーを集積化した
ヘテロジーニアス LSI の研究開発を行っています。Si 基板上に Ge や III-V 族
半導体などの異種半導体を集積化し、高移動度チャネル MOSFET や光配線
LSI などの実現を目指した半導体デバイスの研究を進めています。
Si よりも高移動度な半導体としては、Ge や III-V 族半導体が近年着目を
浴びています。Ge は正孔移動度が Si の 4 倍程度あることから、次世代の
pMOSFET を実現する材料として研究が進められています。当研究室ではこ
れまでに、酸化濃縮法を用いた Si 基板上 Ge 層の形成、低欠陥 GeO2/Ge
MOS 界面を用いたトランジスタの研究開発に取り組んでいます。一方、
InAs や InSb などの III-V 族半導体は Si に対して 10 倍以上と極めて大きな
電子移動度を有することから次世代の nMOSFET 材料として研究を進めてい
微小領域選択成長技術により作製した Si 基板上 InAs 結晶
ます。微小領域選択成長技術を用いた Si 上 III-V 族半導体結晶成長や MOS 界
面形成に取り組んでおり、III-V MOSFET 実現に向けた研究を行っています。
本研究室は高木研究室と共同で研究を進めています。産学官連携プロジェク
トのもと、最先端の半導体デバイス技術を開発して、LSI の性能を飛躍的に向
上する研究に日々取り組んでいます。結晶成長、半導体プロセス、デバイス
評価など半導体技術すべてに携わることで、大学発イノベーションを生み出
すべく研究を進めています。
学生へのメッセージ
現在、Si LSI は抜本的な技術革新を必要とする激動の時代を迎えようとし
ています。本研究室では、半導体デバイスを通じて次世代 LSI を支える最先
端の研究開発に取り組むことが出来ます。これまで学んできた理論や知識を
使って新しいデバイスを生み出し、世の中を大きく変えることに挑戦して見
たい学生諸君の参加を待っています。
低ダメージゲート絶縁膜形成装置
32
加藤雄一郎 / Yuichiro K. Kato
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
ナノメートルスケールの世界では、電子や光子は量子力学に従い、不思議
な振る舞いをします。電子波の位相や、電子に磁石としての属性を与えるス
【研究内容】量子オプトエレクトロニクス
ピン、光子の偏光などを自在に操れるようになれば、現在のコンピュータよ
り指数関数的に早い量子計算や絶対に盗聴できない量子通信などが可能にな
ると言われています。当研究室では、そのような電子や光子の量子力学的な
性質を制御し利用する「量子オプトエレクトロニクス」を研究対象としてい
ます。現在のテーマは以下に示すようにカーボンナノデバイスに関するもの
ですが、今後のテーマとしては半導体量子ドットやスピンデバイスなども挙
げられます。
■カーボンナノチューブの電界発光
カーボンナノチューブのように、直径は数 nm でありながら長さは mm に
もなり、かつ電極を付けてトランジスターに加工できる材料はなかなかあり
ません。もし、一本のナノチューブを使って光を出したり、検出したりする
ことができれば、光子を一つずつ制御できるようになる可能性があります。
そのような未来のオプトエレクトロニクス技術への第一歩として、カーボン
ナノチューブに電界を作用させて発光させるという研究を行っています。最
時間分解ファラデー回転の実験データ。電界と磁界とスピンが不思議な模
様を描きます。
先端の半導体微細加工技術を駆使して最適なトランジスターを作り、レーザー
顕微分光器で測定します。
■カーボンナノピーポット∼狙った材料で狙った特性を∼
カーボンナノチューブの内部空間に、C60 など様々なフラーレン分子を導
入する事でピーポッド(さやえんどう)構造を作り出すことができます。例え
ば、強磁性を示すフラーレンを導入すればナノスケールで磁気記録ができる
カーボンナノピーポットができるかもしれません。このように、ナノ材料をナ
ノレベルでデザインし、狙った材料で狙った特性を実現することができれば、
電子や光子を意のままに操る事も夢ではないでしょう。未だかつて誰も作っ
たことの無い種類のカーボンナノピーポットを
実際に作製し、それを用いたトランジスターに
おいて、分光測定や電気伝導特性を評価します。
■主要参考文献
Science 299, 1201(2003).
Nature 427, 50(2004).
Science 306, 1910(2004).
Nature Nanotech. 2, 33(2007).
Appl. Phys. Lett. 84, 2412(2004).
■ホームページ
http://ykkato.t.u-tokyo.ac.jp
Science 306, 1910(2004)
上 フラーレンピーポットの TEM 像、
下 ピーポットトランジスタの AFM 像
学生へのメッセージ
■新しい研究室です
当研究室は、平成 19 年度からスタートしたばかりの研究室で、様々な分野
の若手精鋭による研究室が集まる総合研究機構戦略研究部門に所属していま
す。まだまだ研究室立ち上げの段階ですが、自分で作った実験装置で研究成
果を出したい、というやる気と熱意のある人を歓迎します。カリフォルニア
大学サンタバーバラ校とスタンフォード大学で世界最先端の研究を体験して
きた私と一緒に研究室を作っていきませんか?
■世界を舞台に活躍したい人を募集します
研究するからには、世界に評価される研究を目指しましょう。国際学会での
発表や海外の大学との共同研究、博士取得後には米国で研究するなど、世界
に向けたアピールも重要です。私の在米中の指導教官や共同研究者といった
ネットワークに加え、今では助教授になっている当時の研究室仲間など、米
国での人脈を活用して皆さんを支援します。
光学実験室
■英語力を鍛えましょう!
効果的な発表・議論・交渉をする英語力は、科学者を目指す人にはもちろん、
企業に就職する人にとっても是非とも習得したいスキルです。当研究室の学
生には、国際社会で十分に活躍できるよう、英語での発表および作文能力を
磨いてもらいます。本人の努力無しで身に付くものではありませんが、米国
に合計 13 年間暮らした経験とネイティブ同様の英語能力で皆さんのスキル
アップのお手伝いをします。
33
荒川泰彦 / Ysuhiko Arakawa
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
量子ドットや単分子などのナノ構造を実現し電子や光子を制御する「ナノ
テクノロ ジー」が広く注目を集めています。特に、半導体量子ドットは、ゼ
【研究内容】量子ナノデバイス工学
ロ次元電子を実現するナノ構造として 1982 年に荒川らにより提唱されたも
のであり、人工原子とも呼ばれます。この量子ドットは、半導体物理学の最
も中心的な研究分野になるとともに、レーザなど次世代光素子や将来の量子
情報技術に向けた非古典的素子への展開が大いに期待されています。
荒川研究室は、岩本研究室と共同で、量子ドットやフォトニック結晶などの
ナノ技術を駆使して、量子状態制御に関わる物性物理の理解を深め、次世代
ナノ量子情報デバイスの実現をめざし研究を行っています。研究室の大学院
学生や若手研究者の諸君は、それぞれ高い学術目標のもとで日々活発に研究
に取り組み、また国際会議などを通じて外部でも大いに活躍しています。さ
らに、ドイツ、フランス、イタリア、シンガポール、フランス、米国、インド、
中国、韓国、タイなどから研究者や留学生の人が短中長期で滞在してきており、
国際色豊かな研究室になっています。
2007 年 10 月には、総長直属の全学組織として「ナノ量子情報エレクト
ロニクス研究機構」が設立されましたが、荒川研究室がその中核的役割を担っ
ています。本機構では、次世代ナノエレクトロニクスや量子情報技術に関する
基礎研究を推進するとともに、大学院教育にも貢献しています。以下では、主
要研究テーマについて説明しますが、詳細は、研究室の HP (http://www.
qdot.iis.u-tokyo.ac.jp/)
をご参照ください。
量子ドットなどのナノ構造により光子、電子、スピンの完全制御をはかる
■量子ドットのナノ結晶技術の確立と電子・光・スピン物性の探索
電子や光子を個々に制御するナノ構造を創ることを目標にして、自己組織
化的結晶成長を利用した量子ドットの形成過程の理解とその制御に長年取り
組んでいます。MBE(2 台)
、MOCVD(3 台)
などを駆使して、ガリウム砒素
系や窒化ガリウム系半導体をベースとした高品質量子ドットを実現していま
す。また、顕微分光、STM 分光、フェムト秒レーザ分光などを駆使して、量
子ドットの電子・光・スピン物性の解明をはかっています。
■フォトニック結晶の作製技術の開拓と量子光学の研究
光子制御ナノ構造であるフォトニック結晶の研究を行っています。量子ドッ
トを組み込んだフォトニック結晶ナノ共振器レーザを実現するとともに、ナ
ノ共振器における単一光子と単一電子の強い相互作用(真空ラビ振動)など、
量子光学現象の基礎を明らかにします。最近の研究成果としては、世界最低
四半世紀前荒川研で生まれた量子ドットレーザは今や高性能レーザの代表
閾値のフォトニック結晶レーザや世界最高 Q 値を有する 3 次元フォトニック
結晶の実現などがあります。
■次世代ナノ量子情報デバイスの研究
量子ドットやフォトニックナノ構造技術を駆使して、量子ドットレーザ、
単一量子ドットレーザ、量子カスケードレーザ、など、次世代半導体レーザ
の基礎研究を行っています。また、量子情報通信に不可欠な単一光子発生器
の開発を行うとともに、量子中継や量子計算の実現に向けて量子もつれ状態
を生成する新デバイスの研究を推進しています。最近、世界で初めて通信波
長帯における単一光子発生素子の実現に成功しました。
■ガリウムナイトライドや有機半導体など新材料エレクトロニクスの研究
窒化ガリウム系半導体デバイスとして、青紫色量子ドットレーザやフォト
ニック結晶デバイスなどの研究を進めるとともに、有機半導体フレキシブル
3 次元的に閉じ込められた励起子と光子の強い相互作用(ラビ振動)の観測
エレクトロニクスの基礎研究にも取り組んでいます。また、シリコン上の量
子ドットレーザなど、シリコンフォトニクスに向けた基盤研究についても推
進しています。
学生諸君へのメッセージ
先端科学研究はスリリングな知的活動です。しかし、研究はそう簡単には
その魅力的な姿をみせてくれません。「研究力」と「執念・努力」
、そして「運」
の 3 つが重なったとき、初めて女神は微笑みかけてくれます。そのような瞬
間に遭遇することはめったにありませんが、一度経験するとやみつきになり
ます。皆さんには、この研究の醍醐味を大学院時代に味わうとともに、国際
的に将来活躍してもらうことを期待しています。機会があれば、下記 URL に
ある内閣府、文部省関係のインタビュー記事を読んでみて下さい。
http://www.nanonet.go.jp/japanese/mailmag/2003/026a.html、
世界初、光通信波長帯での単一光子発生素子の実現
http://www8.cao.go.jp/cstp/nanoweb/arakawa.html
34
藤田博之 / Hiroyuki Fujita
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
研究スコープ:
集積回路技術を用いてミクロやナノの世界の機械(MEMS、マイクロマシン)
【研究内容】マイクロナノメカトロニクス、
MEMS / NEMS
をつくり、バイオ技術やナノテクノロジーに応用する研究をしています。全
体の大きさが数 mm のチップ上に、最小で数十 nm の立体構造を実現し、静
電気などの力で動かします。例えば、シリコン製のミクロのピンセットの先
に電圧を加え、DNA 分子を捕獲するのに成功しました。また、電子顕微鏡中
でシリコンのナノワイヤーの引っ張り試験をしたら、チューインガムのよう
に伸びるのが見えました。
研究テーマ:
研究テーマは新規なマシンやプロセスを工夫したり、マイクロマシンと他
のデバイスを集積化して、バイオ技術や原子分子操作への応用を試みたり、
生体から学んだシステム構造をマイクロマシーニングで実現したりと、広い
範囲に渡っています。
1. ナノテクノロジーへの応用
分子を捕獲・操作・計測するナノピンセット
透過電顕中で働くマイクロデバイスによる原子分子の観測や評価
2. バイオテクノロジーへの応用
超高速マイクロヒータによるたんぱく─分子の計測
生体分子モータで人工ナノ構造を動かす
生体分子モータに倣うブラウン運動モータ
MEMS 黒板形ディスプレイ
黒板形ディスプレイの動作:(1)初期状態(2)押して書込み(3)部分消去
(4)全面消去
3. MEMS システムとその応用
電子回路と集積化した自律分散スマート MEMS
MEMS 応用黒板型ディスプレイ
高密度データ記録用 MEMS
研究環境:
マイクロマシーニング設備は、シリコンのプロセス装置が完備しているク
リーンルームがいつでも自由に使え、本分野で日本の最高レベルです。走査電
子顕微鏡、透過電子顕微鏡やレーザドップラー速度計等で、作ったデバイス
の動きも調べられます。バイオ応用に必要な、バイオアッセイ室や蛍光顕微
鏡なども揃っています。新しいアイディアを実際のマイクロマシンとして実
現し、試験できるまでの時間が、極めて短くできるように工夫して、進歩の
速いこの分野で、いつも先頭にいられるようがんばっています。この他、マ
金ナノコンタクト形状変化のその場観察と特性評価
金ナノコンタクトの引張による形状変化とコンダクタンスの同時測定
イクロマシンの設計や解析用の計算通信環境も整っています。国際的な評価
も高く、フランスから共同研究員を 5 人も受け入れていたり、パリに出張所
があったり、留学や国際会議の出席のチャンスも多いので、楽しく研究して
世界に雄飛したい方は是非どうぞ。(http://www.fujita3.iis.u-tokyo.ac.jp)
学生へのメッセージ
ナノテクには、2 つの流れがあります。より大きな物体を切ったり、削った
りして微小にして行く微小化の流れと、原子や分子から出発して、それを多
数組み合わせて、より大きく複雑なものを組み立てていく組織化の流れです。
原子の 0.1nm の世界から、私たちの住むマクロ世界までをスムーズにつなぐ
には、この両方の流れが、数十 nm の領域で結合することが必要です。こう
DNA 捕獲用ナノピンセット
ナノピンセット間に捕獲した DNA の電子顕微鏡写真
することによって、ナノの世界で起きた現象を、マクロの世界で読み出した
りコントロールしたりできるのです。
また、バイオ技術で得た高機能の材料をうまく生かすには、血管にあたるマ
イクロ流路、神経系にあたる電子回路などと組み合わせることが必要です。
ナノテクを実社会で活用するために、マイクロナノマシンの技術が必須なの
はこうした理由です。
ナノテクノロジーは世界が相手です。世界的に活動するには、日本だけの
狭い視点を超えた広い視野と、異なったことを受け入れられる柔軟な精神が
必要です。藤田研のメンバーの半分はフランス人で、研究の討議は英語で行っ
ています。
優れた研究成果はもちろんですが、先生や外国人研究者と対等に議論でき
る緻密な論理と表現力が必要です。ナノテクで世界をリードするためにも、
皆さんこうした研究者を目指してください。
そこには輝かしい創造の世界が広がっています。
35
中野義昭 / Yoshiaki Nakano
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】光電子デバイス , 集積フォトニクス
研究内容
21 世紀の光情報通信ネットワーク、光情報処理・記録に向けて、新しい高
性能な半導体レーザや半導体光制御デバイス(光スイッチ、波長変換器、光
アンプなど)と、これらのデバイスを集積化して構成される高機能な半導体集
積光デバイス・光集積回路を研究しています.また、これらを作製するための
化合物半導体(特に InP 上の InGaAsP, InGaAlAs などによる長波長帯量子
マイクロへテロ構造と GaN、AlN、InN 等の III 族窒化物量子マイクロヘテロ
構造)の結晶成長や加工技術も、研究対象です.
■研究室の特徴
それは、半導体レーザや集積光デバイスを、一から実際に作ることです.
もちろん、素子の信頼性や集積度で企業と競争することは意味がありません.
しかし、実際に作製されたデバイスと向き合って、丹念に特性を調べてみると、
コンピュータ上にモデル化されたいわばヴァーチャルなデバイスとは随分異
なっていることがわかります.見落としていた問題、意外な結果、不思議な
現象が必ず現れてくるのです.これらは、次の研究課題を与えてくれますし、
画期的な新デバイスを発明する種ともなるのです.リアルなデバイスとの対
図 1:試作デバイスの実例 1:当研究室が世界に先駆けて開発した全光フリッ
プフロップ素子
話は、われわれにとって最も重要な研究過程と言えます.
■研究室の構成
杉山正和准教授、種村拓夫講師と共同運営しており、ポスドク / 研究生、
博士課程・修士課程院生、学部卒論生および教職員(教授、准教授、講師、助
教、秘書)合わせて例年約 30 ∼ 40 名の体制になります.
■研究の形態
当研究室における研究の典型的な流れは、次の通りです:(1)基礎理論の構
築、(2)デバイスのモデル化、
(3)動作特性の計算機シミュレーション、
(4)
デバイスの計算機支援設計(CAD)、(5)試作プロセス技術の開発、(6)デバ
図 2:全光フリップフロップ集積回路のチップ写真
イスの試作、
(7)
試作デバイスの静特性、超高速動作特性、雑音特性の測定評価.
■研究テーマ例
具体的な研究テーマの例として、次のようなものが挙げられます:・GaN/
AlN 量子井戸サブバンド間遷移超高速光スイッチ、・半導体光アイソレータ、・
InAsP 量子細線 DFB レーザ、・全光フリップフロップ、・電界吸収光変調器
(EAM)
に基づく全光制御デバイス、・半導体光アンプ(SOA)に基づく全光ス
イッチ集積回路、半導体アレイ導波路格子(AWG)光集積回路、など.
■研究ツール
・基礎理論 : フォトン系を記述する電磁波工学、波動光学、量子光学.電子系
を記述する量子統計力学など.
図 3:試作デバイスの実例 2:当研究室で作製した波長多重光通信用光集
積回路のチップ写真
・解析・設計 : ワークステーション、PC 上の各種 CAD.
・試作 : 有機金属気相エピタキシ(MOVPE)+分光エリプソメータ / 異方性
反射測定計、光集積回路用超精密電子線描画装置、誘導結合プラズマ反応性
イオンエッチング(ICP RIE)
、レーザマイクロマシーニング装置、フォト
リソグラフィー設備、クリーンルームなど.
・評価 : 電子顕微鏡、4 結晶 X 線回折装置、顕微フォトルミ装置、波長可変レー
ザ、50GHz オシロ、40GHz ネットワークアナライザ、光シグナルアナラ
イザ、光スペクトラムアナライザ、ストリークカメラなど.
学生諸君へのメッセージ
見学、相談、質問はお気軽にどうぞ.中野義昭(03-5452-5150, http://
図 4:当研究室の主力設備である有機金属気相エピタキシャル成長装置
www.ee.t.u-tokyo.ac.jp/ nakano/lab/welcome-j.html)
36
平川一彦
/ Kazuhiko Hirakawa
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】量子半導体エレクトロニクス
研究内容
ナノメートル寸法の構造(ナノ量子系)の中では、電子の軌道や電荷、スピ
ンなどの物理量が量子化されており、それにより様々な新しい物理現象を発
現します。平川研究室では、このような 量子半導体 の中で現れる新規な物
理現象を発見・解明するとともに、それらを制御することによりエレクトロニ
クスに新しい展開をもたらしすことを目標に研究を行っております。
その第一は、テラヘルツデバイスの研究です。テラヘルツ(THz)/フェム
ト秒(fs)領域は、従来の半導体デバイスが動作しない未開拓の周波数領域と
して取り残されてきましたが、近年のナノテクノロジーの進歩により実現で
きるようになった量子ナノ構造やパルスレーザ技術の発展により、次第にそ
のギャップが埋まりつつあります。我々は、 量子半導体 の新しい電子物性
を用いることにより、THz/fs 領域で動作する超高速デバイスや量子カスケー
ドレーザ、超高感度 THz 光検出素子を開発しています。
もう一つの大きなテーマは、ナノ領域の伝導物性と制御の研究です。単一
分子や量子ドットなどナノ量子系の状態を金属電極により電気的に制御・読み
出すことができれば、演算や記憶を司る情報処理デバイスに革新をもたらす
ことができます。本研究では、精密に構造制御したナノギャップ電極により
単一分子や InAs 量子ドットへの接合を作製し、金属接合を介した 1 電子の
注入と金属/ナノ量子系接合が発現する新規な物理現象の解明とその高機能
デバイスへの展開について研究を行ってます。
主 な 研 究 テ ー マ は、 以 下 の 通 り で す。
( 研 究 室 URL:http://thz.iis.
u-tokyo.ac.jp)
時間分解 THz 分光法により検出した半導体超格子中の電子のブロッホ振動
●フェムト秒レーザパルスを用いたコヒーレント THz 光の発生・検出・分光:
フェムト秒レーザパルスを用いて、バルク半導体や半導体超格子中の電子
の動きが放出する THz 電磁波を検出することにより、数十フェムト秒の時間
分解能で電子波束のダイナミクスを明らかにする研究を行っています。その
ために必要な新しい THz 電磁波の発生・検出に関する基礎研究を行っていま
す。さらに、極微量の試料や波長限界を超えたナノメータ寸法の試料の THz
分光を可能にするための検出方法の開発を行っています。
● THz 領域における量子ナノ構造の電子物性とデバイス応用:
単一の自己組織化量子ドットを活性層とするトランジスタの物理と応用
半導体中の多くの物理量は、THz/fs 領域に包含され、量子ナノ構造中の物
性の解明には、電子と THz 領域の電磁波との相互作用を調べることが極めて
有効です。我々は、THz 分光法により、量子ナノ構造中の電子状態や伝導機
構の解明を行っています。これにより、トランジスタの動作限界の解明やブ
ロッホ発振器のダイナミクスの研究を行っています。さらに、分子線エピタ
キシー技術を駆使して、量子カスケードレーザなど新しい THz 発振素子や量
子ドットを用いた超高感度光検出(単一光子検出)技術の開拓を行っています。
●単一量子ドットトランジスタの物理と応用:
量子ドットは 人工原子 とも呼ばれ、その中では電子の軌道が殻構造を作っ
て量子化されるとともに、スピンが関与した新規な物理現象が現れます。我々
は、単一の自己組織化 InAs 量子ドットにナノギャップを有する金属電極を形
成し、量子ドットと金属の接合系が織りなす新しい物理の研究を行っていま
す。特に、スピンが関与したコヒーレントな伝導(近藤効果)
、強磁性体電極
と組み合わせた単一スピントランジスタ、さらに超伝導電極と組み合わせた
ジョセフソントランジスタの研究を行っています。
●単一分子トランジスタ実現に向けたナノ技術・ナノ科学:
原子レベルの超微細加工を用いた単一分子を活性層とするトランジスタ
単一の分子は機能を発現する最小単位として、以前よりデバイスへの応用
が議論されてきましたが、近年ようやく原子レベルで制御された精密な加工
や精密な計測が可能になってきました。我々は、単一分子にアクセスするた
めの 1 nm 以下のギャップを有する金属電極の作製技術の確立や単一分子素
子の THz ダイナミクスの研究などを通して、分子機能素子や電子や核のスピ
ンを用いた量子情報処理の可能性の探索を行っています。
学生へのメッセージ
分子線エピタキシーや電子ビーム露光を用いたナノ量子構造の作製
本研究室では、国内の様々な研究グループはもとより、ルント大学(スウェー
デン)
、エコール・ノルマル(仏)、マンチェスター大学(英国)など、海外
の研究機関とも連携して、研究を進めています。 ものいじり が好きな人、
物理にロマンを感じる人などを歓迎します。質問、見学などは遠慮なく平川
([email protected]、03-5452-6260)
までご連絡下さい。
37
平本俊郎 / Toshiro Hiramoto
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
■研究室の概要
現代の高度情報化社会を根底で支えているシリコンテクノロジーをデバイ
【研究内容】シリコンナノデバイス
スサイドから研究する研究室です。駒場リサーチキャンパスにシリコンナノ
デバイスを実際に試作できるクリーンルームを擁し、この分野における世界
でも代表的な研究室の一つです。カバーする研究分野は、単電子現象の物理
から微細トランジスタの回路特性まで多岐にわたります。大学院生が世界的
な国際会議等で大活躍しており、卒業生もそれぞれ内外の半導体企業や大学
で活躍中です。
■研究ターゲットと 3 つのアプローチ
研究の最終目標は、将来の超低消費電力・超高速集積ナノデバイスを実現す
ることです。そのために、3 つのアプローチで研究を行っています。第一の
アプローチは、従来の微細化を中心とするデバイス高性能化です。企業と協
力して研究を進めています。第二のアプローチは、回路とデバイスとの協調
です。桜井・高宮研とも協力し回路特性を最大限引き出し超低消費電力を実現
するデバイス設計を行っています。第三のアプローチはナノ物理の積極的利
用です。ナノデバイスで発現する量子効果や単電子現象を利用して、将来の
新機能デバイスの実現を目指しています。これら 3 つのアプローチはすでに
融合し始めており、将来的にはこれらを統合して、10nm サイズの集積ナノ
デバイスを実用化する研究に取り組む予定です。
Fig. 1. 将来の超低消費電力・超高速ナノデバイスへの 3 つのアプローチ
■主な研究テーマ
(1)トランジスタの微細化:これは第一のアプローチに相当しますが、最近
ではデバイスサイズがナノの領域に入ったため各種量子効果が室温でも現れ
始め、第三のアプローチと融合が進んでいます。これまでにシリコンナノワ
イヤや極薄 Si 層において現れる量子効果などの物理現象について研究を行い、
世界的に注目を集めてきました。一方、離散的な不純物分布による微細トラ
ンジスタの特性ばらつき問題についても研究を進めています。
(2)回路との協調:10 年以上前から基板バイアス効果を利用した回路・デバ
イスの協調の重要性を提言してきました。これが第二のアプローチの一例で
す。ナノデバイスにおいても特性ばらつきを補償し低消費電力を実現するた
めには基板バイアス効果の利用が必須であり、そのためのデバイス設計を行っ
ています。
Fig. 2. シリコンナノワイヤトラ
ンジスタの電子顕微鏡写
真.ワイヤ径は 3nm 程度
(3)ナノ物理:ナノ領域のデバイスでは、量子効果以外にも単電子現象など
の特殊な物理現象が起こります。これらの現象を積極的に利用することが第
三のアプローチです。平本研ではシリコンの室温動作単電子トランジスタの
研究で先駆的な業績を挙げることができました。最近では極性を n 型から p
型に変えた単正孔トランジスタの研究で世界最大のクーロンブロッケード振
動を得ることに成功しました。単電子・単正孔トランジスタと CMOS との融
合回路についてもユニークな提案を行って世界的に注目を集めています。
■国際会議
シリコンデバイスの分野では国際電子デバイス会議(IEDM)という学会が
最も権威のある国際会議です。毎年、インテル、IBM をはじめ世界の半導体
企業から最先端のデバイスが発表されます。日本の大学からの発表が極めて
少ない中、平本研では 1998 年に初めて IEDM で発表を行い、以来 14 件も
の論文を発表しました。これは日本の大学では最も多い件数です。ほとんど
Fig. 3. 薄膜 Si トランジスタの移動度.量子効果により移動度の上昇が観
測されている
が大学院生の研究成果を大学院生自身が発表したもので、多くの大学院生が
この国際会議で世界に飛躍しました。
学生へのメッセージ
シリコンデバイスは企業で最先端の研究が行われており非常に競争の激し
い分野ですが、大学で良い研究を行うと世界的に非常に注目されるのでとて
もやりがいのある研究分野です。皆さんにはぜひこの分野に入って世界の最
前線で活躍して欲しいと思います。この分野は企業との結びつきが強いので、
平本研の卒業生はほとんどが半導体企業に就職します。最近では海外の企業
に就職する大学院生も増えてきました。平本研卒業生のうち 2 名は企業で活
躍した後、大学の先生になりました。私自身も博士課程修了後 5 年間半導体
企業の現場でデバイス開発に従事した後、大学に戻りました。大学院時代の
Fig. 4. 室温における単正孔トランジスタの特性.世界最大のクーロンブ
ロッケード振動を示す
活躍次第でさまざまな将来の展望が開けます。ぜひ大きな夢を持って研究に
取り組んでください。
38
高橋琢二 / Takuji Takahashi
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】ナノプローブ技術
研究内容
ナノメートルオーダの分解能を有する走査トンネル顕微鏡(STM)
や原子間
力顕微鏡(AFM)
などの走査プローブ顕微鏡(SPM)
は、近年様々な分野で利
用されるようになってきています。本研究室では、そのような走査プローブ顕
微鏡(ナノプローブ)
技術を駆使し、大気中、超高真空中、あるいは極低温・強
磁場中など様々な環境下においてナノ領域での新しい物性を評価する技術を
確立すること、および実際に得られたナノ構造の特性を通じて新しい極微細デ
バイスの開発の道を探ることを目指しています。
■より速く
ナノプローブ系では、非常に高い空間分解能が達成されている反面、通常は
プローブの位置を常にフィードバック制御し続ける必要があるため、その動作
速度が遅く、観測のスループットが低いという欠点を持っています。このよう
な欠点を克服するために、新しい高速画像獲得手法の開発を目指しています。
実際、探針の変位量をサンプル・ホールド回路によって逐次取り込む新しいデー
タ獲得モードを提案し、通常モードと比べて約 30 倍の高速での走査が可能
となることを明らかにしています。
■より正確に
図 1 主なナノプローブ実験系
図 2 通常の 30 倍程度の走査速度で動作する AFM での観測例
ナノプローブを物性計測に利用するには、その測定精度、確度を向上させる
ことが不可欠です。我々は、その測定原理や動作モードに立ち戻って、計測手
法としてのナノプローブの正確さの向上を図っています。
例えば、AFM の探針と試料の間に働く静電引力を利用して試料の表面電位
を決定するケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)
においては、その精度や
確度を向上させるためには、試料の清浄化を図ることはもちろん、測定のベー
スとなる AFM の動作モードや測定中の探針−試料間距離などについても考
慮することが重要であることを、実験やシミュレーションを通じて明らかにし
てきました。また、静電引力に対する感度を高めるためのサンプリング法や、
電界分布が探針先端に集中したときの静電引力のみを測定に利用して電位決
定の空間分解能を向上させるための間欠バイアス法などを提案するとともに、
それらの実証実験を行い、世界トップレベルの空間分解能を達成して、その有
効性を確かめています。さらに、フィードバックを用いずにポテンシャルを決
定できる新たなアルゴリズムを提案するなど、計測手法としての KFM の性能
向上を目指しています。
一方、試料への光照射を組み合わせた KFM 測定系を構築し、正確かつ局
所的な光起電力測定を実現しています。この測定系により、多結晶シリコン太
陽電池の光起電力特性のみならず、同材料中の少数キャリアの寿命、拡散長、
移動度などの物性計測が達成できることを示しています。
■さらなる新しい機能の開発を目指して
図 3 間欠バイアス KFM によって観測した InAs 量子ドット
図 4 200 nm 間隔で隣接する電流路間周囲での MFM による電流誘起磁場
分布像
ナノプローブの持つ高空間分解能性を最大限生かして、ナノ構造の持つ電気
的・光学的特性を明らかにするための新しい計測手法を探求しています。
上記の光起電力計測の他にも、物質表面に光を照射したときに生じる電気
的な変化を STM や AFM で観測することにより物質表面の光学的・電気的特
性の空間分布を高分解能で調べる光 SPM 法を開発しています。一例として、
幅 50nm 程度の単一の InAs 細線での光吸収に起因する信号とその照射光波
長依存性の観測に成功しました。
また、カーボンナノチューブなどのナノ材料で構成されるネットワーク状電流
回路を想定し、高空間分解能を有する磁場センサである磁気力顕微鏡(MFM)
による電流誘起磁場観測を通じた電流定量評価手法の開発を進めています。
これまでに、実測された磁気力信号がその符号も含めて電流値とよい比例関
係にあることを確認し、電流の定量的測定が実現可能であることを示すととも
に、同手法が少なくとも 200 nm を切る空間分解能を持っていることを確認
しています。
さらに、ナノ構造中の電子状態を詳細に探るための二重バイアス変調法を用
いたトンネル・スペクトロスコピー計測手法などの提案や実証実験を進めてい
ます。
学生へのメッセージ
実験を中心とした研究では、時には失敗続きでうまく先へ進めないこともあ
ります。ですが、一つずつ問題点を洗い出し、それを克服しながらねばり強く
挑戦していけば、
必ず道は見えてきます。やればできることがわかっていること、
をするのは研究ではありません。また、
「楽な研究」もあり得ません。困難に
立ち向かう勇気と気概を持って、大学院での研究に取り組んで下さい。努力す
ればするだけ、達成感・充実感を味わえるはずです。
当研究室のある駒場第二キャンパスは、研究者中心の静かな環境にあり、
落ち着いて研究に取り組めます。もちろん、たまには(頻繁に?)
、歩いて 10
分余の下北の街で仲間と酒を酌み交わすのも良いでしょう。メリハリを大切に。
39
年吉 洋 / Hiroshi Toshiyoshi
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】MEMS・マイクロマシンシステム
工学
研究内容
半導体プロセスで作れるものは集積回路だけではありません。いまでは、
ミクロンオーダーの微小な「機械」をシリコン基板上に製作可能です。しか
も、その機械を駆動し、制御する回路とのモノリシック集積化もできる時代
になりました。この技術を MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)
と言います。身近な例では、マイクロミラーを用いた画像プロジェクタや、
ゲーム機やクルマに搭載する MEMS 加速度センサがあります。本研究室では、
MEMS 技術を光ファイバ通信や画像ディスプレィ、高周波無線通信デバイス
などに応用しています。ここでは最近の研究成果を 4 点紹介しましょう。
■ MEMS 光スキャナの医療用内視鏡応用
体の内部を低侵襲観察する医療機器を MEMS 技術で製作しています。直径
2 ミリメートル程度の微小な光スキャナ(振動する鏡)をシリコン・マイクロ
マシニングで製作し、レンズや光電変換素子(太陽電池)とともに細いガラス
管に実装します。体の中に電線を差し込むのは感電や電磁波干渉の危険があ
りますので、この光ファイバ内視鏡は光によってエネルギ供給して、光で体
内の画像を可視化します。MEMS ミラーの設計から製作、評価まで、ラボ内
で実現可能です。
図 1 MEMS 光スキャナの医療用内視鏡応用
■ VLSI と MEMS の集積化
MEMS の本来の姿は、微小機械(マイクロマシン)と駆動・制御系のモノリ
シック集積化にあります。マルチチップサービスを利用して駆動回路 LSI を
製作し、そのチップをシリコン・マイクロマシニングや金属メッキ技術を用い
てポストプロセス(追加工)し、メカとエレクトロニクスを集積化する設計製
作技術を開発中です。この技術は将来、回路のマルチチップサービス同様に、
広く LSI 設計者に開放可能な共通技術プラットフォームに仕上げる予定です。
■ ロール・ツー・ロール印刷による大面積 MEMS ディスプレィ
MEMS 化できる材料はシリコンだけではありません。プラスチック・フィ
ルムを使って微小機械を作ることもできます。しかも、ロール・ツー・ロール
図 2 VLSI と MEMS の集積化
印刷技術によって大面積化も可能です。厚さ 10 ミクロン程度のプラスチック・
フィルムの表面を加工して、干渉色を静電気で変化できる透過型の可変カラー
フィルタを製作中です。このデバイスを用いた大面積フレキシブル・画像ディ
スプレィや電子看板(サイネージュ)への応用を検討中です。
■ MEMS 高周波スイッチの衛星通信応用
MEMS 技術は無線通信にも応用可能です。特に、波長がミリメートル程度
になる高周波数領域(5 ∼ 20GHz)では、ミリメートル寸法のメカを使って
可変マイクロ波回路を構築できます。たとえば、マイクロ波導波路型のスイッ
チを MEMS 技術で製作して、指向性を電子的に制御できる衛星通信用アンテ
ナを開発中です。他にも、MEMS 的に特性を制御できるメタマテリアルを開
図 3 ロール・ツー・ロール印刷による大面積 MEMS ディスプレィ
発中です。
学生へのメッセージ
MEMS は電気、機械、化学、材料力学、流体力学、光学…の複合領域です。
また、製作プロセスの構築には、材料特性、半導体プロセスを理解したパズ
ル解法的なひらめきが必要ですし、プレゼンのテクニカル・ドローイング(製
図)には、芸術的センスも必要です。しかも、当ラボのメンバーは多国籍(日、
仏、米、韓、中、台、露…)です。新分野の MEMS で、現代のレオナルド・
ダ・ビンチを目指してください。ここでは、手足腰くちアタマの強いエンジニ
アを育成します。
図 4 MEMS 高周波スイッチの衛星通信応用
40
岩本 敏 / Satoshi Iwamoto
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
研究内容
岩本研究室では荒川泰彦教授・荒川研究室との密接な連携のもと、フォト
ニック結晶やフォトニックナノ構造に関する研究を中心に進めています。特に、
【研究内容】ナノオプトエレクトロニクス
フォトニックナノ構造の設計・作製技術の確立、MEMS や量子ドットなどと
の融合による興味深い物理現象の探索とそのデバイス応用を進めています。
またフォトニックナノ構造を利用したシリコンフォトニクス技術への展開にも
力を入れています。
フォトニック結晶とは光の波長程度の屈折率周期構造をもつ人工光学材料
です。フォトニック結晶中の光子は、結晶中で電子が原子核のポテンシャルを
感じながら運動するのと同様に、屈折率の周期構造を感じて運動します。そ
の結果として光に対するバンド構造が形成され、従来の材料では困難であっ
た数々の光制御技術や特異な光学現象などが実現でき、幅広い応用が期待
されています。特に、屈折率の周期性に
欠陥 を人工的に導入することで
形成されるフォトニック結晶光ナノ共振器では、波長程度の領域に光が非常
に強く閉じ込められるため、既存の光デバイスの小型化だけでなく、光と物
質の相互作用が増強されることを利用した新現象の発現と量子情報デバイス
への応用が期待できます。図 1(a)はフォトニック結晶光ナノ共振器の電子線
顕微鏡(SEM)写真です。中心部の 1_m 程度の領域に光を強く閉じ込めるこ
とができます。図 1
(b)は実際に数値計算により求めた共振器モードの空間分
布です。一波長程度の共振器部分に光が局在している様子が示されています。
[テーマの例]
MEMS を用いた機能性フォトニック結晶素子の研究
荒 川教 授の 提 案された微小電 気 機 械システム(MEMS)を用いて特 性を
制御するフォトニック結晶素子について解析・評価を行い、世界ではじめて
図 1:(a)フォトニック結晶光ナノ共振器と
(b)共振器モードの電場強度分布
MEMS 制御型フォトニック結晶デバイスの動作を確認しました。写真 2 は
素子の心臓部の SEM 写真です。現在、高性能化および新たな機能デバイス
の実現を目指しています。素子の作製は年吉助教授および藤田博之教授のグ
ループなどの協力を得て進めています。
量子ドットを含む高 Q 光ナノ共振器の作製・物性探索と量子情報デバイスへの応用
InAs や GaN の量子ドットを発光体として含む良質なフォトニック結晶ナノ
共振器を作製し、量子暗号通信・量子情報処理の基本素子の実現に向けて量
子ドットと共振器中のフォトンとの相互作用を探求しています。最近では、荒
川教授と共同で、ナノ共振器レーザの室温連続発振を世界で初めて実現しま
した。引き続き単一量子ドットレーザや量子光源の実現を目指した研究を進
めています。
フォトニックナノ構造を用いたシリコン発光デバイスの基礎研究
シリコンフォトニクス技術が大きな注目を集めていますが、シリコン関連材
料を用いた光源の実現は特にチャレンジングなテーマとなっています。シリコ
ンは間接遷移半導体のため、発光体には適さないと考えられてきました。我々
は、物質の自然放出レートは材料固有の物理量だけでなく、環境(輻射場)を
図 2: MEMS 集積化フォトニック結晶導波路素子
制御するでも増強することが可能であること(パーセル効果)に注目し、フォ
トニックナノ共振器を用いてシリコンの発光を大幅に増強することに初めて成
功しました。図 3 はその結果です。今後、メカニズムの詳細を明らかにし更
なる増大効果の実現、LED への応用を目指しています。またレーザ実現の可
能性を探索していきます。
新しいフォトニックナノ構造の開拓
金属ナノ周期構造などの新しいフォトニックナノ構造の基盤研究も計画して
います。金属ナノ構造を利用することによって、光の局在体積をさらに小さく
することが可能です。このような微小領域への光閉じ込めは、シリコンの発
光増強にも応用が期待できます。
学生へのメッセージ
岩本研究室は非常に新しい研究室ですが、荒川研究室との共同運営のため多
図 3: フォトニックナノ共振器によるバルクシリコンの発光増強
くの先輩たちと接しながら自分を磨くことが可能です。研究にはいろいろな
苦労もありますが、自分の手で何かをはじめる楽しさも体験できることと思
います。議論を重ねながら新しい研究を進めていく、やる気と元気に溢れる
皆さんの参加を期待しています。
41
種村拓夫 / Takuo Tanemura
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】半導体光集積回路、フォトニック
ネットワーク
研究内容
当研究室では、将来のフォトニックネットワークの実現に向けて、各種光
信号処理を数 mm2 の半導体チップ上で実現する光集積回路(光 IC)の研究を
進めています。
光通信技術と言えば、すっかり成熟した技術のように思われますが、実際、
現在の通信システムで用いられている光デバイスは、半導体レーザや受光器
など、ごくごく基本的な素子に限られており、伝送信号の経路制御や波形再
生などの 頭の良い 複雑な信号処理は、全て電子回路で行っているのが現状
です。次世代の超大容量フォトニックネットワークでは、これらの処理を可
能な限り光領域で行うことで、光の持つ Tbit/s 以上の超広帯域性を最大限に
活用した全光情報網を構築することが考えられています。
特に緊急の課題として、基幹ネットワークのコアノードで行われる電気的
なルーティング処理に要する消費電力の増大が環境問題に発展しており、よ
り低消費電力の「光ルータ」の開発が急務になっています。現在用いられて
いる電気ルータでは、伝送した光信号を一旦電気信号に変換してから経路制
御を行い、再び光信号に戻して次のノードに伝送しています。電車に例えて
言えば、高速な新幹線に大量の乗客(情報)を乗せて伝送しているものの、駅
に到着するたびに一度全ての乗客を降ろし、行き先毎に適切な新幹線に乗せ
換えて再度伝送しているようなもので、ビットレートの増大とともに、この
ルーティング処理が大変になることは容易に想像がつきます。一方、光ルー
タの構成例を図 1 に示しますが、大容量光パケット信号を電気信号に変換す
図 1:光ルータの構成例
ることなく光スイッチを用いて所望の出力ポートに送り出します。いわば、
同じ行き先の乗客を乗せた新幹線を、車両から乗客を降ろすことなく経路の
切替えを行っているようなものですので、信号のビットレートに依存するこ
となく、低消費電力かつ低遅延のルーティングが可能になります。
光ルータを実現するためには、光の経路を数ナノ秒以下で高速に切り替え
ることが出来る集積光スイッチが不可欠になります。現在、様々な光スイッ
チが提案されていますが、大規模かつ高速な光スイッチは実現できていない
のが現状です。当研究室は、ポート数の増大に対してスケーラブルな半導体
集積光スイッチを各種考案し、設計・試作・検証を進めています。その一例が、
図 2 に示す「フェーズアレイ型半導体光スイッチ」です。本スイッチは、ア
レイ状に並べられた光位相制御器を用いて光の干渉位置を制御するものであ
り、従来手法に比べて潜在的に優位なスケーラビリティを持ちます。現在ま
でに、1 × 5 光スイッチを作製し、数ナノ秒の高速光スイッチング動作、広
帯域波長動作など、基本特性の実証に成功しております。
図 2:フェーズアレイ型 1 × 5 半導体光スイッチ
当研究室は、設立 2 年目の若い研究室ですが、中野義昭教授、杉山正和准
教授の研究室と共同で運営しております。光エレクトロニクス、半導体物理、
波動光学に立脚した深い理解をもとに、新規光デバイスの提案・理論解析・設
計を行います。同時に、机上の空論に終わることなく、実際にモノを作って
実証することを重視しています。デバイス作製には、専用のクリーンルーム
とプロセス装置が、評価には、最新鋭の実験設備が整っています。
学生へのメッセージ
研究とは、広い砂漠の真ん中に放り出されて、漠然と「オアシスを探せ」
と言われるようなものです。当然、解答方法は分からなければ、多くの場合は、
「何をすれば意味があるのか?」という具体的なゴールさえ誰も教えてくれま
せん。そこで試されるのは、「自分で調べ、自分の頭で考え、自分の言葉で理
解し、自分で手を動かし、自分で解決する力」です。これは、研究職を目指
す方はもちろんですが、たとえ研究職に就かなくても、社会で普遍的に求め
られる大変重要な能力です。研究は、その能力を鍛えるための絶好の題材です。
図 3:光デバイス評価装置
ぜひこの貴重な機会に受け身にならず、貪欲に成長して下さい。
42
田島道夫 / Michio Tajima
【研究分野】ナノ物理・デバイス分野
【研究内容】半導体結晶工学、光物性工学
研究内容
現在の高度情報化社会を支えている超 LSI や半導体レーザー、エネルギー
問題を解決すると期待される太陽電池や低損失電力デバイス、そして宇宙環
境に耐える衛星搭載用デバイス、これらの電子デバイスは、半導体結晶のい
ろいろな性質を利用して作られています。
当研究室では、半導体結晶の特性を左右する不純物や欠陥を精密に解析し、
デバイスの高機能化・高性能化・高信頼性化に直接役立てるような研究をして
います。とくにフォトルミネッセンス(PL)
法という手法を使って、他所では
出来ない極微量の不純物の分析や微小欠陥の検出を行っています。この手法
は、結晶にレーザー光を照射したときに発せられる微弱な蛍光を分析するも
ので、当研究室では、用途に応じて開発した世界最高クラスのユニークな装
置 6 台が活躍しています。国内外の研究機関と最先端の半導体材料・デバイ
スに関する共同研究を行っています。
当研究室では、研究成果のプレゼンテーションの指導に力を入れており、多
くの学生が国際会議での発表を経験しています。その伝統が引き継がれ、毎年、
各種学会や講演会で受賞者を排出しています。以下に、主な研究テーマを簡
単に紹介します。
■ 極微量不純物の定量分析
超 LSI などに使用されている Si(シリコン)ウエハー中に 10 億分の 1 程度
図 1 世界最高純度の Si 結晶中の極微量ホウ素、リン不純物の検出
含まれるごく僅かの不純物を分析しています(図 1)。当研究室のオリジナル
技術で、JIS 規格(JIS H 0615)や SEMI 国際規格(MF1389-0704)に
採用され、世界中で使用されています。最近では、太陽電池用原料中の不純
物解析のために高濃度側へも適用範囲を拡張し、さらに軽元素不純物評価の
ための電子線照射発光活性化法という手法を開発しました。
■ SiC ウエハー、SOI ウエハーの評価
宇宙探査では高温や放射線環境に耐えるデバイスの開発が必要です。そこ
でこうした環境に強い SiC(炭化珪素)デバイス、SOI(silicon-on-insulator)
デバイス用のウエハーを評価しています。SiC デバイスは低損失電力デバイ
図 2 PL マッピング装置に口径 300 mm の Si ウエハーをセットする田島
教授
スとしても優れた特性を示し、地球温暖化対策の観点から大きな関心を集め
ており、また SOI デバイスは次世代の高速・低電力・高集積デバイスの基板
として実用化が始まっています。図 2 に示すような PL マッピング装置を使っ
て、これらウエハー中の欠陥分布を捉えています。SOI に対しては、
紫外線レー
ザーを使った凝縮ルミネッセンス法を発明し、0.1 ミクロン程度の極薄の Si
層中の不純物・欠陥を検出することに成功しました(図 3)。
■ 高効率太陽電池の研究
宇宙用太陽電池では、放射線照射による特性劣化が大きな課題です。衛星
搭載用の III-V 族化合物半導体多接合太陽電池や次世代の CIGS 薄膜太陽電池
図 3 口径 200mm の極薄 SOI ウエハー中の欠陥解析
の放射線照射効果の研究により科学衛星プロジェクトを支援しています。さ
らに地上用太陽電池材料の 6 割を占める多結晶 Si 基板の品質評価に対し、従
来法に比べて基板 1 枚あたりの評価時間を 1/1000 以下の 1 秒以下に短縮
し、空間分解能も 10 倍以上向上させた画期的な技術「弗酸水溶液浸 PL イメー
ジング法」を開発しました(図 4)。
学生へのメッセージ
最近は優等生的な学生が多くなってマニュアル通りにやることは大変得意
なのだけれども、新しい未知のことに向かっていく意気込みのようなものに
今一つもの足りなさを感じています。どんなに小さいことでもいい、無から
図 4 太陽電池基板評価の画期的高速化(a)従来法、20 分、(b)新評価法、
1秒
有を作る楽しみを一度経験すると、研究の面白さが分かるものです。田島研
でそうしたことを是非体験して欲しい。そして環境・エネルギー問題の解決に
向け大きく羽撃いていって欲しいと思います。
43
鷲津正夫 / Masao Washizu
【研究分野】バイオ・複雑系分野
【研究内容】バイオナノテクノロジー、応用静電
気工学
研究内容
微細加工技術を用いて作製したマイクロ・ナノメートルオーダーの微細構造
の中で、流体・細胞・細胞内器官・生体分子等のマニピュレーションを行う技
術と、その生体分子・細胞の計測や分析、生物的機能の制御、工学要素部品と
しての利用などへの応用について研究を行っています。特に、狭い構造中で
のマニピュレーションの手段として、誘電泳動・電気浸透流・光マニピュレー
ションなど、電気力学的方法の理論的・実験的研究と応用の開発を中心に研究
を進めています。
■マイクロオリフィスを用いたエレクトロポレーション・電気細胞融合
バイオテクノロジー、特に近年の再生医療に関する細胞の機能制御の研究
においては、細胞内に遺伝子を導入したり、1 つの細胞の中にある因子を他
の細胞に移植したりする技術が必要とされています。私たちは、微細加工技
術を用いて電界の形状を制御することにより、細胞膜に一過的な孔をあけて
物質を細胞内に導入したり、2 つの細胞を融合させて細胞質を移植したりす
る技術とその応用を開発しています(図 1)
。
図1
■ DNA のマニピュレーションと遺伝子解析・エピジェネティクス解析
への応用
DNA には、塩基の並びとして遺伝情報が書き込まれています。しかしなが
ら、従来の試験管ベースのバイオテクノロジーには、1 つの分子を狙ってそ
の指定位置に操作を加えるといった、
「位置」に関する情報を生かす手段があ
りません。私たちは、誘電泳動・静電配向や光ピンセットの技術を用いて 1
つの DNA 分子を細胞から取り出して引き伸ばし、顕微鏡の下でその任意の位
置に操作を加える技術の開発を行っています(図 2)。
■電気力学的な液滴ハンドリング法の開発とその微小化学反応系への応用
試験管内で行っている溶液の混合や反応などの操作を、基板上での液滴の
駆動・衝突・融合などで置き換えれば、微小な試料や試薬で高速な反応を行え
る新しい微小化学反応系が実現できます。私たちは、基板上に配列した微細
電極を用いて、ちょうど蓮の葉の上の水滴が転がるように液滴の運動を制御
図2
する技術を開発し、この応用に関する研究を行っています(図 3)。
■細胞膜様物質のハンドリング法の研究
細胞膜は、リン脂質の 2 重層でできており、シャボン玉のように膜内の流
動性があります。このようなベシクルには、薬剤を封入して治療や、ベシク
ル間の融合を通じた新しい化学反応系など、さまざまの新しい応用がありま
す。私たちは、電気浸透流振動場による流体力学的不安定性や、局所レーザー
加熱などを用いた、新しい細胞膜様物質のハンドリング法の研究を行ってい
ます(図 4)。
図3
学生へのメッセージ
研究の世界は、専門が細分化しつつある一方、それらの融合として新しい
分野ができつつあります。このような状況では、ニュートンの時代のように、
物理学者が生物も研究するような、自分の専門のベースの上に立ってより広
い分野を俯瞰することが要求されます。学部で学んだ専門に基づき、新しい
自分独自の世界を展開する場として大学院の数年間を有意義に過ごしましょ
う。
図4
44
田畑 仁 / Hitoshi Tabata
【研究分野】バイオ・複雑系分野
【研究内容】酸化物・バイオエレクトロニクス
研究内容
田畑研究室では、原子レベルで結晶構造が制御可能なレーザー分子線エピ
タキシー法(レーザー MBE 法)を駆使し、新規エレクトロニクス材料の開発
とその巨大物性の発現機構解明に関する基礎的研究を行っています。近年で
は特に、生体に学んだ信号処理機能を新規デバイスに応用すべく、酸化物磁
性半導体や、酸化物人工格子系における次元性や揺らぎと物性の相関の解明
や、光スピン素子やシナプス接合型メモリ等の開発に注力しています。さらに、
ナノバイオデバイス創製を目指して、生体関連分子の自己組織化機構・クロー
ニングを利用したナノ構造制御によるバイオセンサ・メモリの開発や、走査プ
ローブ顕微鏡を用いたナノ領域物性に関する研究を推進しています。これら
酸化物 / バイオ技術の融合により新しい "BIOxide Electronics" の開拓を目
指します。
■人工生体情報ナノ材料
̶原子の積み木細工による酸化物人工格子の創製̶
次世代エレクトロニクスの基幹材料として期待される強相関系酸化物を対
象として、レーザー MBE 法により原子を積み木細工のように積み上げ、機能
性人工格子薄膜(スピングラス、リラクサー、光磁性体)の創製を行っていま
す。またこれらの物質中で実現される相共存と ゆらぎ が引き起す新規物性
図 1 レーザー分子線エピタキシー装置
を、生体ゆらぎの模倣に利用した新しい生体情報電子デバイスの開発を行っ
ています。
■機能融合型マルチフェロイックデバイス
−フュージョン・フェロトロニクス創成を目指して̶
電気双極子秩序とスピン秩序を一つの物質やナノ超構造の中で融合したマ
ルチフェロイック現象を利用するエレクトロニクスの創成は、高度情報化社
会を支えるエレクトロニクス分野において残された最後のフロンティアです。
我々は、磁性薄膜 / 基板界面の格子ミスマッチによる歪効果を積極的に利用
して、独自に室温マルチフェロイック材料の創製を行っています。
図 2 機能融合型フェロイック材料の創製
■ナノバイオデバイスの開発
−半導体チップの上で生命機能を見る−
空間的に階層制御されたプログラム自己組織化による原理の解明および、
その原理を用いた人工生体情報材料の創製とデバイス応用を目指しています。
特に、DNA やタンパク質に代表される生体分子を重点研究対象とし、遺伝情
報をはじめとする一人一人の生体情報を内包し、個々人に適した快適な生活
環境を提供可能なバイオチップの実現に向け、酸化物・バイオ技術を駆使して
ナノバイオデバイスの基礎研究を推進しています。
■生体分子の遠赤外分光・イメージング
−安全・安心に向けたテラヘルツテクノロジー−
図 3 バイオ・酸化物の融合によるナノ薬理センシングシステム
THz(テラヘルツ)時間領域イメージング装置を使い、生体関連分子の分光・
イメージングを行っています。現在我々は、災害環境下での生命体データ取得、
食品中の薬物検出、さらには水素結合の直接検出や iPS 細胞の分化過程評価
など、安全・安心に向けた THz 分光技術の開発を目指しています。
学生へのメッセージ
本研究室では、自由でアットホームな雰囲気の中、学部学生でも存分に最
先端の研究に打ち込める環境が整っています。
「独創的な物質の組み合わせで、
世界に一つしかない新機能材料を創り出したい」、「未知の生命現象・生体機能
の解明に挑戦したい」という知的好奇心にあふれ意欲的な学生を歓迎します。
図 4 テラヘルツ分光・イメージング装置
45
合原一幸 / Kazuyuki Aihara
【研究分野】バイオ・複雑系分野
研究内容
本研究室では、この世の中に存在する様々な現象の中から各々の大学院生
が興味のある現象を自分自身で選び、数理モデルを使って研究しています。さ
【研究内容】カオス工学・生命情報システム論
らに、その数理モデルを電子回路で実装したり、現象を予測・制御したりする
研究も行なっています。本研究室では現在、科学技術振興機構の ERATO 合
原複雑数理モデルプロジェクトとも協力して研究活動を行っています。
スタッフ、
大学院生、ポスドク研究員を含めて総勢約 40 名が分野横断的な複雑数理モ
デリングの手法開発と幅広い応用研究に従事しています。国内外の著名な研
究者によるセミナーを頻繁に開催して最先端の研究成果を常に把握するとと
もに、国内外の研究グループとの共同研究も活発に推進しています。大学院生
の指導に関しては、自主性を重んじており、のびのびとした雰囲気で研究に打
ち込める環境が整っています。
■神経回路網のダイナミクスと生体情報処理
脳における情報表現や神経細胞の学習則などを理解するため、神経回路網
の理論的研究を行っています。例えば、情報理論の観点からの最適な学習則
の導出、非線形システム論やカオス理論に基づく神経モデルの解析、さらには、
脳や神経の実データ解析、カオス動力学による組み合わせ最適化、人工頭脳
の開発(図 1)
などに取り組んでいます。
■非線形システム解析とリアルワールドへの応用
カオスを典型例とする非線形動力学理論や複雑ネットワーク理論を駆使し
て、複雑でありながら背後に規則性をもつ世の中の様々な現象(図 2)
を理解
することを目指しています。システムの「非線形性」に注目して世の中の複雑
な現象を数理モデルで記述し、その解の定性的振る舞いの分岐解析や時系列
解析などのために本研究室で開発してきた数理解析ツールを用いることで(図
3)
、いかに単純な非線形系が複雑な現象を生成しうるか、いかに複雑系が組
織化されるか、いかに複雑現象を予測・制御するか、などの基礎数理的な問題
図 1:カオスやフラクタルを応用したアナログニューロ集積回路とカオス
人工頭脳
やカオスの数理芸術などへの応用にも取り組んでいます。
■コミュニケーション・学習・進化の数理
人間社会をはじめとする多くの生命システムは、環境や他者との相互作用を
伴う複雑適応系です。それらのシステムは、環境の変化や他者の振る舞いに
応じて他者の内部状態を推定し、意思決定を行い、また、外界との相互作用
により、自身の行動を学習・進化させます。これらの性質を踏まえ、生命シス
テムの複雑な関係性を、非線形力学系、ゲーム理論、マルチエージェントなど
の手法によってモデル化し解析しています。さらに、経済現象の数理解析や経
済データの時系列解析にも取り組んでいます。
■遺伝子・タンパク質ネットワークの数理
21 世紀の生物学は網羅的なゲノム配列情報の蓄積に遺伝子ネットワークの
図 2:カオスの典型例である二重振り子のカオス的挙動
ダイナミクスを取り込み、生命の設計原理の理解へと歩みを進めようとしてい
ます。本研究では、遺伝子・タンパク質ネットワークのダイナミクスの記述と予
測・理解を目指しています。非線形な動的特性および確率性に注目して、遺伝
子ネットワークの数理モデル化および人工遺伝子ネットワークの提案を行って
います。実験に先立つ新たな現象の予測や遺伝子ネットワークの動的特性を
理解するための数理的解析手法を開発し、また遺伝子スイッチや概日リズムオ
シレータの数理的設計方法の提案や確率ゆらぎの影響の分析などを行ってい
ます。
■疾患の数理モデル
複雑系の解析手法を応用することにより、社会的重要性や緊急性の高い医
学および社会システム分野における様々な具体的問題に取り組んでいます。例
えば、SARS や新型ヒトインフルエンザのような流行が懸念される新型感染
症の伝播に対して、複雑ネットワーク理論をベースにシミュレーションを行い、
効果的な流行予測・防御対策を提案しています。また、前立腺ガン、ポケモン
図 3:分岐理論に基づいて計算した神経回路網の動力学的挙動を分類した
分岐図
発作、コンビニ症候群といった生活スタイルの変化に起因する現代病や免疫
系のメカニズムについても数理モデルを用いて理論解析を行っています。
学生へのメッセージ
研究は、自分が一番興味のあるテーマを選ぶことが肝要です。研究の面白
さ、楽しさはまさにそこにあるからです。自分で研究対象を選び研究テーマを
設定することで、未知の分野に挑戦することをぜひ学んで欲しいと願っていま
す。もちろん、数理モデルの創り方や数理的解析手法に関しては、本研究室に
は長年の蓄積がありますので、予備知識は不用です。卒業生をみていると、自
分で研究テーマを設定するという経験は、研究者になる人にとってはもちろん
図 4:前立腺ガンに対する間欠治療の数理モデルとその臨床応用研究
ですが、社会に出てからもたいへん役に立っている様に思います。
46
河野 崇 / Takashi Kohno
【研究分野】バイオ・複雑系分野
研究内容
当研究室では、思考機械の実現を最終目標に掲げ、シリコンニューロン回
路とこれを用いたニューラルネットワークを研究しています。
【研究内容】神経形態学的システム、神経システ
ムモデリング
私たちの目指す思考機械とは、ヒトの脳のようにロバストで高度な情報処
理能力、特に大量の情報の流れ中から必要なものを能動的に選択し、組み合
わせて別の情報へ変換あるいは新しい情報を生成する能力を持つシステムで
す。このようなシステムを構築するためのひとつのアプローチとして、神経
系を模倣したシステム(ニューロモルフィックシステム)を目指すという考え
方があります。神経系はシナプスを介して互いに結合した多数の神経細胞で
構築されています。神経細胞と同等の機能を持つよう設計された電子回路を
シリコンニューロン回路と呼びます。これを神経系と同じように組み合わせ
て神経回路網を構築することによって脳と同じように情報を処理できる機械
を実現することを目指そうというものです。
このためには、脳における情報処理機構の解明とシステム構築のための技
術の確立という難問を解決しなければなりません。脳は古代より解剖学的、
20 世紀になってからは生理学的、さらに分子生物学的研究の対象となってき
ました。しかし、これらの研究により際立ったのは脳の複雑さであり、その
機能が簡単な統計処理や単純な論理だけで理解できる範囲を越えていると考
えられるようになりました。そこで、より複雑で非自明な構造を描出できる
図 1: 数理モデルに基づいた設計手法の概念
手法として、高度な統計処理や非線形力学、分岐解析などの数理的な手法の
重要性が認識され、これらの手法を積極的に用いる計算神経科学という分野
が生まれました。私たちはこの立場に立ち、理論系の研究室と密接に連携し
ながら脳の情報処理機構の解明を目指すとともに、脳と同等の能力を持つシ
ステムを構築するための技術を確立するための研究を進めています。
現在の私たちの研究テーマは、電子回路で神経回路網を再現するための二
つの基本要素、すなわちシリコンニューロン回路と、シナプスと同等の働き
をするシリコンシナプス回路です。神経細胞は非常に多彩なダイナミクスを
もち、何が脳における情報処理を本質的に担っているのか未だに完全には解
明されていません。しかし、神経細胞のもつダイナミクスを完全に電子回路
で実装しようとすると非常に大規模で複雑な回路が必要となります。多数の
シリコンニューロンを結合してシリコンニューラルネットワークを構築しよ
図 2: 数理モデルに基づいて設計手法によるシリコンニューロンチップ
うとするとき、このような回路は実装面積、消費電力の両方の面から不利に
なります。そこで、私たちは理論的研究が明らかにしてきた神経細胞のダイ
ナミクスの数理的構造を電子回路にとって自然な特性曲線を用いて再構築す
る設計手法「数理モデルに基づいた設計手法」を提案しました。この手法は
特定のデバイステクノロジに依存せず、理論研究で明らかにされている神経
細胞の様々なダイナミクスをシンプルな回路構成で再現することを可能とす
るため、デバイステクノロジ、理論モデルの両方の進化に耐えることができ
ます。
この設計手法によって、サブスレショルド領域で動作する MOSFET を用
い、差動対を組み合わせただけの単純なアナログ回路により数μW程度の消
費電力で神経細胞の持つ多彩なダイナミクスを再現することのできるシリコ
ンニューロン VLSI を実現することに成功しています。今後は同様の設計手法
により、これらのシリコンニューロン回路を結合するためのシリコンシナプ
ス回路を実現し、小規模なニューラルネットワークを構築することを目指し
ています。まず、生体の中で運動リズムを生成しているセントラルパターン
ジェネレータと同等のシリコンニューラルネットワークを実現し、その成果
を理論研究にフィードバックする(構築による解析)と共に、より大規模でイ
ンテリジェントなネットワークへと進んでゆきます。また、同時にデジタル
回路を用いたシリコンニューロンにも取り組んでいます。耐ノイズ性が高く、
動作が数値シミュレーションと完全に一致するという利点を生かし、大規模
なニューラルネットワークのシミュレーションシステムへの応用を探ってい
ます。
学生へのメッセージ
私たちに研究室は、電子工学専攻の研究室であると同時に、数理情報学専
攻の研究室でもあります。現役医師という側面をもつ指導教員の感性のもと、
構築的、解析的な立場からの研究を有機的に結びつけ、革新的情報処理シス
テムの構築を目指しています。一つの分野に閉じこもらず、新しい知・智を貪
欲に求める人を歓迎します。是非いっしょに研究しましょう!
47
鈴木秀幸 / Hideyuki Suzuki
【研究分野】バイオ・複雑系分野
研究内容
私たちの研究室では、生体や工学など諸分野に現れる現象を、非線形科学
をはじめとする数理的な道具を駆使して解析しています。
【研究内容】非線形現象・力学系理論・生体数理
モデル
■数学を使って現象を解析する
現実の世界の現象を、数学を使って解析するためには、その現象を数学の
世界の言葉で記述する必要があります。それが数理モデリング(モデル化)で
す。これは、誰がやっても同じ結果が得られるような単純な作業ではありま
せん。現象のどのような側面に着目して、何を仮定して、何を近似して、ど
のような数学で記述するのか。数理モデリングとは、試行錯誤しながら目的
に合わせて数理モデルを創り上げていく作業であり、創意工夫やセンスを求
められる創造的な作業なのです。優れた数理モデルに、数学の理論や計算機
シミュレーションなどの強力な数理的手法を組み合わせることで、現象を理
解したり問題を解決したりすることが可能になります。
私たちの研究室では、生体・工学・物理現象・社会現象・地球環境など諸分
野に現れる現象を対象とし、主に非線形科学などの数理的な道具を用いて、
数理モデルによる研究を行っています。
《研究トピックの具体例》
・神経データ・ゲノムデータ解析
脳がどのように情報を表現しているかという問題は、脳科学に残る重要な
未解決問題の一つです。生理実験の専門家と共同研究を行い、様々な数理的
手法を用いて神経データを解析しています。また、遺伝子の発現時系列や塩
基配列などのゲノムデータの解析手法も開発しています。
・部分放電
部分放電は絶縁の劣化やエネルギーの損失の原因となる現象であり、その
図 1 部分放電の数理モデル
解析・診断は高電圧システムの運用において重要です。しかし、部分放電デー
タは複雑な形状をしていて、それが解析・診断の障害となっています。数理モ
デルを用いると、この複雑な挙動がフラクタルやカオスなどの概念で数理的
に説明できます。
・風力発電
風況時系列データに非線形時系列解析を応用して風況の短期予測を行い、
予測に基づいて風車を制御することにより、風力発電の効率を上げる手法を
研究しています。
■現象を解析するための数学を創る
上に挙げた研究トピックは互いに全く関係がないように見えるかもしれま
せん。しかし、異なる分野の異なる現象を、数理的には同じ視点から扱うこ
図 2 風況のカオス性に関する研究
ともできるのです。このような普遍性が、数理的な手法を用いることの強み
であり、数理モデリングの面白さの一つです。一方で、新たな現象や問題に
対して、必ずしも既存の数理的手法がそのまま使えるとは限りません。その
ときは、既存の手法を改良したり、新たに開発したりする必要があります。
このように、私たちの研究室では、様々な現象を解析するために必要な数
理的手法や理論も研究しています。
《研究トピックの具体例》
・非線形時系列解析
非線形時系列解析とは、非線形力学系理論に基づく時系列解析手法です。
神経データや風況データなど、様々な現象から計測される実データに適用す
ることで、現象の解析や予測を行うことができます。そのための手法を開発・
改良しています。
・不連続写像のダイナミクス
神経細胞における「発火」や、部分放電における「放電」などの事象は、
数理モデルの世界では不連続性となって現れてきます。不連続写像の持つ豊
かなダイナミクスを研究しています。
図 3 不連続写像のダイナミクス:二重回転写像
学生へのメッセージ
数学と言っても、高度な数学を扱う必要はありません。優れた数理モデル
研究は基礎的な数学でいくらでも可能です。私たちのように「数学を使って
研究する」ことは、
「数学を研究する」こととは違うのです。それよりも、研
究を進めるために遥かに大切なのは「この現象を解き明かしたい」という好
奇心と情熱です。だから、私たちの研究室では研究テーマを与えることはし
ません。学生自身が「面白い」と思う現象や問題を発見するプロセスを重視し、
その手助けをします。もちろん、研究対象がすでに決まっている学生も大歓
迎です。どんな分野のどんな現象でも、数理モデルが作れそうなら持ってき
て下さい。
48
融合情報学コース
1.融合情報学コースの研究理念
どのような学問領域でも、その成熟が進むにつれて専門分野の細分化が起こり、
比較的強い関連を持つ領域でも別々に研究が進むようになります。専門分野の細分
化が進むと、関連分野の既存の成果も研究の制約条件と考えられるようになり、そ
の条件下でもっともよい結果が得られる手法に目が向きやすくになります。このよ
うな手法は研究の停滞を生みやすくなりますが、これを打破するには、全体を俯瞰
する視野を持つことが極めて重要です。
情報通信技術が急速に進展するなかで、電気電子工学と情報通信工学の間にもこ
のような問題が生じています。すなわち、ソフトウェアとハードウェアの細分化で
す。既存のソフトウェアを前提としたハードウェア、既存のハードウェアを前提と
したソフトウェアだけを考えていたのでは、本当に使いやすい情報通信システムを
作ることはできません。
この問題意識にたって、新領域創成科学研究科基盤情報学専攻では、情報・通信
のハードウェア技術とソフトウェア技術とを再融合した新しい学問分野の創成を目
指し、教育・研究を推進してきました。9 年間を経てその努力が一定の成果をあげ
た今、伝統ある工学系研究科にこの新しい分野の血を注ぐため、基盤情報学専攻を
改組し、工学系研究科に電気工学・電子工学専攻と一体となった電気系工学専攻を
設置する運びとなりました。融合情報学コースは、この新しい専攻の中で、新たな
学問分野の創成を継続していく使命を帯びています。教育面でも、ハード・ソフト
の両面を理解することができ、広い視野から次世代の情報通信技術の構築に貢献で
きる人材の育成を目指しています。
2.融合情報学コースの研究分野
融合情報学コースでは、高度情報化社会に必須の情報技術と科学の基盤を、ソフ
トウェアとハードウェアの両面にしっかりと立脚した形で再構築し、その上に立っ
て、両者相挨って情報学のフロンティアを開拓して行きます。融合情報学コースに
含まれる専門分野は、下記のようにそれぞれ独自の特徴をもち、かつ同一コースに
結集し、電気電子工学コースとコラボレーションしながら上記の使命を果たしてい
きます。
■ メディア・知能・計算分野
計算機が広く社会に普及した現在、人間とのインタフェースの高機能化・高度化
がますます重要となっています。また、マルチメディア等で大量の情報を処理す
る必要がますます増大しています。そこで、人間が機械の存在を意識しないイン
タフェースを構築するために、人間の基本的な情報伝達手段である音声を主体とし
て、文字、画像等を統合的に取り扱うシステムを研究します。また、情報を扱うコ
ンピュータの高性能化と、複数のコンピュータをネットワークで結んだ分散処理の
研究を行います。さらに、高性能計算機が有する強力な計算能力の研究各分野への
適応方法、高性能計算機の新しい計算アルゴリズムに基づく計算速度向上の効率的
実現方法、高性能計算用計算パッケージの作成などの高性能計算に関する基礎研究
を行います。
51
■ ユビキタス情報環境分野
高度情報化社会では、常時、任意の場所で情報の授受が出来ることが要求される
ため、情報を伝えるネットワークは有線・無線、あるいはインターネット・衛星通
信と、さまざまの媒体で構成されることになります。このような情報ネットワーク
をシステムとして取り扱い、ネットワークを構築する研究を行います。また、情報
通信における性能と安全性の両者を同時に最大限実現することを目的として、情報
通信ネットワークに係わる各種リソースの有効利用を徹底するとともに、不正利用
の回避を図るために必要な設計・運用・管理技術の研究を行います。
■ 半導体システム分野
トランジスタを微細化して、膨大な数のトランジスタを集積することによってコ
ンピュータを高性能化するという従来のアプローチは、今深刻な物理的限界に直面
しています。本分野では、材料・デバイス・回路・システムの最先端技術の研究開
発を推進するとともにこれらの成果を統合し、新たなコンピューティングパラダイ
ム創出を目指します。材料・デバイスのレベルから知能処理の原理を埋め込み、人
間のように柔軟で臨機応変な応答の出来る賢い電子システム創成を目指した研究を
推進しています。
■ フォトニクス・ワイヤレス分野
光ファイバーネットワークやワイヤレスネットワークは高度情報化社会の神経網
を担うものです。従来、光デバイスやワイヤレスデバイスについては、単一のデバ
イスに着目した教育・研究が主でしたが、それらのデバイスを複合することにより、
情報取得、処理等の新しい機能を具現化したシステムの研究を行います。
52
3.担当教員一覧
■ メディア・知能・計算分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
伊庭 斉志 教 授
本郷キャンパス
進化システム・複雑系
金田 康正 教 授
本郷キャンパス
高性能計算学
佐藤 周行 准教授
本郷キャンパス
プログラム言語処理系・情報セキュリティ基盤
杉本 雅則 准教授
本郷キャンパス
ヒューマンコンピュータインタラクション
近山 隆 教 授
本郷キャンパス
知能情報処理
峯松 信明 准教授
本郷キャンパス
音声言語コミュニケーション
■ ユビキタス情報環境分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
相田 仁 教 授
本郷キャンパス
ネットワーク・分散処理
※
小川 剛史 講 師
本郷キャンパス
グループウェア・ヒューマンインタフェース
中山 雅哉 准教授
本郷キャンパス
ネットワーク工学
南 正輝 准教授
駒場キャンパス
ネットワーク応用システム・デザイン
森川 博之 教 授
駒場キャンパス
ユビキタスネットワーク
若原 恭 教 授
本郷キャンパス
ネットワーク工学
※今年度学生配属はしない
■ 半導体システム分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
浅田 邦博 教 授
本郷キャンパス
先端システム LSI デザイン
池田 誠 准教授
本郷キャンパス
環境適応型 LSI システム
櫻井 貴康 教 授
駒場キャンパス
先端融合 VLSI システム設計
柴田 直 教 授
本郷キャンパス
知能集積デバイス工学
高宮 真 准教授
駒場キャンパス
多機能集積半導体システム工学
竹内 健 准教授
本郷キャンパス
VLSI 回路設計・ナノデバイス
藤島 実 准教授
本郷キャンパス
先端ワイヤレス LSI システム
藤田 昌宏 教 授
本郷キャンパス
組み込みシステム・VLSI 設計支援技術
三田 吉郎 准教授
本郷キャンパス
知的半導体マイクロデバイス(MEMS)
■ フォトニクス・ワイヤレス分野
教 員 名
研究室所在地
主な研究領域
五十嵐浩司 講 師
本郷キャンパス
超高速フォトニックシステム
何 祖源 准教授
本郷キャンパス
フォトニックセンシング・コンピューティング
菊池 和朗 教 授
本郷キャンパス
光・量子情報ネットワーク
*
廣瀬 明 教 授
本郷キャンパス
インテリジェント&ワイヤレス エレクトロニクス
保立 和夫 教 授
本郷キャンパス
システムフォトニクス
山下 真司 准教授
本郷キャンパス
フォトニックデバイス
*バイオエンジニアリング専攻への振替可能
53
伊庭斉志 / Hitoshi Iba
【研究分野】メディア・知能・計算分野
【研究内容】進化システム・複雑系
研究内容
当研究室では、進化をキーワードにした計算やシステムについて研究して
います。
「クジャクの羽はなぜあんなに美しいのか?」
「キリンの首はどうして長くなったのか?」
「働きバチは自分で子供を産まずに、どうして女王バチに奉仕するのか?」
これらの謎に迫っていくと、生物が進化の過程で、ある種の最適化問題を解
いていることがわかります。こうした生物の進化のメカニズムをまねて、デー
タの構造を変形、合成、選択する工学的な手法が「進化論的手法」です。目的は、
効果的な計算システムを実現させることにあります。この手法は、最適化問
題の解法、人工知能の学習、推論、プログラムの自動合成などに広く応用され、
「自然に学ぶ問題解決(Problem Solving from Nature)
」をめざします。
進化論的手法を利用して最適化問題の解法や有益な構造の生成をめざす例
として、飛行機の設計について考えてみましょう。飛行機などのモノづくり
で大切なのは、必ずしも新奇な物をつくることではありません。独創的な天
才肌の職人は確かに必要ですが、多くの場合、奇抜なデザインでは成功しま
せん。それよりも重要なのは、過去の設計のマイナーチェンジをしたり、ア
イデアを取捨選択して組み合わせたりすることです。これが、まさにライト
兄弟らが飛行機の設計に用いた原理です。彼らは先人の失敗から主翼をひねっ
てバランス調整をする「たわみ翼」を考案し、1903 年、世界初の操縦可能
1.進化型ロボットの例:ヒューマノイドによる協調搬送
な機体による動力飛行に成功しました。この過程は、生物(遺伝子)の突然変異、
交差、および選択淘汰と同じです。つまり、人間は知らず知らずのうちに生
物の進化の考えを導入し、人工物の最適な設計に用いていたのです。
このような考えに基づいて計算システム(進化型システム)を実現するのが、
進化論的手法の目的です。その代表例は、
「遺伝的アルゴリズム」や「遺伝的
プログラミング」と呼ばれています。これらの手法は、工学的最適化のみな
らず、バイオインフォマティックス、金融工学、芸術やデザインなどに広く
応用されています。また、生物の進化や生態形成を計算機上で実現すること
2。対話型進化による作曲システムと得られたリズム例
をめざす「人工生命(Artificial Life)
」という分野もあります。
進化型システムは、工学と生命科学の融合をめざし、最近注目されている
「共生」と「多様性」といった生命現象の主要な概念をコンピュータで実現す
るものです。そのため、情報工学や計算機科学の枠にとどまらず、分子生物学、
経済学、進化生物学、エコロジー、そして集団遺伝学の世界にまで積極的に
足を踏み入れながら研究をしています。その結果、異なる分野の専門家と共
同で研究することもあります。このような研究スタイルは、工学への新しい
アプローチを切り開くでしょう。
3.遺伝子ネットワークの推定と可視化システム
学生へのメッセージ
純粋な独創性などというものは幻想にすぎない。あらゆる偉大なアイデア
は、その発案者とされる人間が最初に唱える以前に、すでに考えつかれ口に
出されているものである。発見者や創始者と呼ばれる人々が名声を獲得した
のは、先駆者たちがほとんど評価できていなかったアイデアの意義を、十分
に把握していたからなのである。(S.J. グールド)
4.遺伝的プログラミングによる金融データ予測システム
55
金田康正 / Yasumasa Kanada
【研究分野】メディア・知能・計算分野
研究内容
■高速・高性能計算手法の確立をめざして
計算機を便利な研究の道具ととらえた時、計算機が持つ高い計算能力を研
【研究内容】高性能計算学
究の各分野にどのように生かすのか、また現在の計算機の処理速度をさらに
向上させる方法は、今までには無い新しい使い方は、新規の使い方をする為
に欠けていることは、使い易くするにはどのような点に注意すべきか、といっ
た利用者の立場に立った方面の研究テーマの研究を行っています。
研 究で 使 用できる計算 機として全 国 共同 利 用施 設 である東 京 大 学 情 報
基 盤センターがサービ スしてい る(1)2007 年 3 月末に導入された、
128
PE の ベクトル並列 方 式 のスーパーコンピューター HITACHI SR11000
(18.84 TFlops、16 TB)
、
(2)8 CPU の SMP 構成の 5 機種の並列計
算機、最大で 16 ノードからなる PC クラスター(Pentium III、Pentium 4、
Athlon)、
(3)13 種類のプロセッサーアーキテクチャー(Alpha、Power3、
P o w e r4、S p a r c、M I P S、I t a n i u m、P e n t i u m、P e n t i u m P r o、
Pentium II、Pentikum III、Pentium 4、Athlon、HP-PA RISC)
のマシン、
があります。具体的に行っているあるいは興味を持っている研究テーマとして、
1.
「並列アルゴリズムによる数値計算・整数計算の高速化に関する研究」では、
ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、あるいはハイエンドコン
ピューティング(HEC)の応用として、暗号化通信等で使用する数の高速素
因数分解、4 倍長演算の高速化、固有値問題、円周率多倍長計算、連立
一次方程式の解法、メルセンヌ素数の探索、暗号の復号化また高速ソー
ティング等を例として取り上げ、高性能計算アルゴリズム、高性能計算機
アーキテクチュアー、ソフトウェアーアーキテクチュアー等の研究を行いま
現在使用中の HITACHI SR11000(18.8TFlops、16TB)
す。その為に、数学的知識の獲得はもちろんの事、高性能計算機に関する
知識と、各種計算機言語を使いこなせるとともに十分なプログラミング能
力は必須です。
2.
「HEC 用コンパイラーに関する研究」では、次世代コンピューターの高度
利用には OS やコンパイラー等のソフトウェアーの研究や実現が鍵となり
ます。HEC 用ソフトウェアーに対するこれまでの経験や考察を基に、実
際のベクトルコンパイラー及び並列化コンパイラー(FORTRAN 及び C。
可能ならば HEC 用新言語。
)の研究を行います。その為に、計算機アーキ
テクチャーを含む一般的知識とコンパイラーに関する知識は必須です。
3.
「高速計算機の性能評価手法に関する研究」では、スーパーコンピューター
向きライブラリーの中の固有値問題プログラム、連立一次方程式の解法、
高速フーリエ変換プログラムや高速乱数発生プログラム、また現在開発し
過去に使用していた HITACHI SR8000/MPP(2TFlops、2.3TB)
ている自動チューニング機能付各種数値計算ライブラリープログラム等を
使って国内外のスーパーコンピューター上でベンチマークを実施します。そ
の上で各種高速計算機の長所・短所を研究するとともに、高速計算機の性
能評価手法を研究し、これらのアルゴリズムの高速化を目的とし実際に使
い物になる各種数値演算アルゴリズム及び実際の高性能計算向きのプロ
グラムを開発します。その為に、計算機アーキテクチャーを含む一般的知
識と、各種数値計算アルゴリズムに関する知識は必須です。
4.
「研究の研究」では、論文の引用頻度分析に基づく「研究の社会学」に関
する研究です。各種統計処理手法の実施において、高性能計算器の利用
が必須であり、解析の為のプログラムの自作が必要となります。なおこの
研究は現在休止しています。
5.
「計算機代数」では、C 言語で書かれた非常に高速な LISP 処理系を各種
の UNIX/Linux マシンへ移植を試みることによる、ポータビリティー並び
に計算性能が高い並列処理プログラム体系に関する研究です。なおこの研
過去に使用していた HITACHI SR8000/128(1TFlops、1TB)
究も現在休止しています。
学生へのメッセージ
私は理学系研究科物理学専攻の出身という事もあってか、本研究室の構成
員として理学系研究科の出身者が少なくはありません。また学生の自主性を
重んじる研究室運営を行ってきており、現在行っている研究テーマと異なる
研究テーマの研究も歓迎します。特に計算機資源として小型機から超並列型
スーパーコンピューターまでの各種計算機が使える事から、プログラミング
経験が豊富で、広く計算あるいは計算機関連の研究に熱意を持ち、博士課程
への進学を考えている方に来て頂ければ成果をあげやすい研究室です。また
大学院の課程は勉強をする場では無く、研究を行う場であり、進学に当たっ
てはそれなりの覚悟を持ってください。加えて修士・博士論文は英語での記
述を必須としており、修士・博士論文執筆までにこちらの能力習得が求めら
過去に使用していた HITACHI SR2201(300GFlops、256GB)
れます。なお研究室は浅野地区の情報基盤センター内にあり、http://www.
super-computing.org/ が研究室のホームページです。
56
佐藤周行 / Hiroyuki Sato
【研究分野】メディア・知能・計算分野
【研究内容】プログラム言語処理系・情報セキュ
リティ基盤
研究内容
プログラムといわれて何をイメージするかが個々人によって大きく異なる
のは当然だし、健全なことであるが、そのバラエティはプログラムの持つ多
様な側面を反映していることを理解しておくことが必要になる。その中でコ
ンパイラを中心とする言語処理系はプログラムの持つ抽象的な側面(アルゴ
リズムまたはそれより高位の仕様の表現)と具体面における側面(ターゲット
アーキテクチャで実際に動作するコードの表現)の間の「良い」かけはしにな
ることが強く期待されている。この研究室で行われていることはコンパイラ
を構成する時の、上記から見たさまざまな問題に解を与えること、方法論を
与えることとまとめることができる。具体的に以下にあげる活動内容はいず
れもプログラム解析を軸とした理論のバックグラウンドを持っている。
■最適化効果の正確な予測
現在最適化はコンパイラ研究の中心である。しかし、その効果を定量的に
分析することは従来あまり行われていなかった。しかし、効果を正確に予測
して適用するかどうかを判断することはコンパイラのサイエンスとしてぜひ
とも必要なことである。われわれはループアンローリングという最近のアー
キテクチャに非常に効果的な最適化をターゲットとしてその精度の高い性能
モデルを構築することに成功した。
■最適化効果の正当性の証明
コンパイラ最適化は、適用後に不正確なコードを生成するようでは役に立
たない。最適化の正当性の証明は、セキュリティの確保に直結する非常に重
要なプロセスであり、世界的に研究が本格化している。本研究室では、最適
化の正当性を保証する型システムを構築することに成功した。ここではプロ
グラム解析に本質的なデータフロー解析を型理論で表現している。
最適化検証つきコンパイラの 2 つの側面
本研究の目的は検証付きコンパイラ(Verifying Compiler)
をコンパイラ最
適化に適用し、最適化の数理的な性質を明らかにし、適用の地平を拡大する
ことにある。
コンパイラの研究の中心である最適化において、従来、研究の展開はアド
ホックなノウハウの蓄積によってなされてきた。しかし、副作用を許容する
最適化、性能的にトレードオフを持つ最適化群の登場など、最適化が複雑・高
度になった現在では、理論的基盤を持たなければ最適化適用の正しさの証明
さえ危うくなってきている。事実 Gnu-C では、いまだに大量のバグレポート
がなされている。検証付きコンパイラ(Verifying Compiler)は、もともと
Hoare の提唱したプログラムの正当性を併せて証明するコンパイラシステム
として 21 世紀の課題として提唱した概念である。本研究で目指すのは、コ
ンパイラ最適化における上のような危機的状況に対応すべく最適化をその正
しさの証明を込めて適用するコンパイラの構築であり、最適化検証つきコンパ
イラ(Optimization Verifying Compiler)
と呼ぶべきものである。
学生へのメッセージ
数学者は言う。
「数学はひとつだ。
」コンピュータサイエンスも同じだ。計
算に関するあらゆる結果が想像もつかないような分野で花を開かせることが
ある。日曜大工の延長でプログラミングをするのではなくて、プログラムの
表と裏で表現されているさまざまなことに興味を持って研究してみよう。豊
かな世界が展開されるはずだ。
57
杉本雅則 / Masanori Sugimoto
【研究分野】メディア・知能・計算分野
【研究内容】ヒューマンコンピュータインタラク
ション
研究内容
■はじめに
コンピュータと聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。 計算機
である以上、 計算をするための機械 ですが、その用途は 計算 というそ
もそもの目的から発展し、私たちの生活のあらゆる場面に浸透しています。そ
れは例えば、携帯電話であったり、ゲームであったり、あるいはロボットであっ
たりします(むしろ、今では、 計算するための機械 、と考える人の方が少
ないかもしれません)
。今後コンピュータの性能がどんどん向上し、用途もさ
らに多様になると予想されますが、常に私たち人間のために使われるという
目的には変わりがありません。そこで、人間がコンピュータとどのように関
わるか(インタラクション)が、ますます重要になります。しかし、コンピュー
タが対象とするのは、人間が直接見聞きできない、あるいは触れることがで
きない仮想世界なので、実世界にいる私たちが直感的に理解、操作するのは
容易ではありません。逆にコンピュータは、人間が実世界で行っていること
をそのまま認識するのは、まだまだ難しいと言えます。そこで、私たちの研
究室では、人間(実世界)とコンピュータ(仮想世界)をつなぐインタラクショ
ン技術を進めています。(詳細は、http://www.itl.t.u-tokyo.ac.jp/ をご覧く
ださい。)
■拡張現実感に関する研究
わたしたちが住む世界(物理世界)と、コンピュータが作り出す世界(仮想
世界)とを連携させることにより、あたかも物理世界の人工物を介して、仮想
世界を操作する、という感覚を実現することができます。IC タグを応用した
同時多入力デバイスを用いることで、図 1 のような没入感の高い対面型協調
支援環境を構築します。
■携帯端末向けインタラクション技術の研究
拡張現実感手法を用いた協調作業支援環境
小型、軽量、携帯性という携帯端末の特徴を生かすことで、より人間にとっ
て優しいインタラクション技術を目指す研究です。私たちは普段、相手に「ト
ス」をして物を渡したり、手を水平に「振る」ことで、トランプのカードを
ばら撒くように複数の人に配ったりします。同じやり方で、図 2 のように携
帯端末中の写真や文書データを相手に送れるようにします。慣性センサを実
装した基板を設計し、それを携帯端末に搭載することで、人間のジェスチャ
を認識します。
■人間とインタラクションを行うロボットの研究
直感的なジェスチャによる情報移動
3 次元空間を飛行するロボットは、地上ロボットに比べ、障害物回避とい
う問題が軽減される、高い視点からの広域情報が得られる等の利点がありま
す。一方、室内での利用を考えると、できるだけ小さく安全であることが求
められます。本研究では、飛行船に搭載された小型軽量無線カメラからの映
像だけを用いることで、自律飛行を行うとともに、人間のジェスチャを認識
することで、人間と協調しつつナビゲーションを行えるロボットや、複数台
の飛行ロボットの協調による室内監視システムの構築を目指しています。
また、ロボットとのインタラクションの新たな可能性として、「投影による操
作」を実現する技術を研究しています(図 3)
。携帯型プロジェクタを用い、
ロボットへ投影することで、ロボットを意図通りに移動させることができま
す。この技術を用いて、エンタティメントや教育への応用を進めています。
■屋内向け相対位置認識システムの研究
「いつでも、どこでも、だれでも」を目指すユビキタスコンピューティング
環境では、ユーザの位置・方向を瞬時に正確に取得することは、非常に重要な
研究課題です。これまでの位置、方向認識の研究では、あらかじめさまざま
なセンサ等を環境に埋め込むのですが、たとえば体に身につけられる安価で
小型軽量のデバイスだけを使って実現することは容易ではありません。そこ
で、本研究では、携帯端末に取り付け可能な超音波センサのみを用いることで、
端末間の相対位置、方向認識を行うための技術の構築を目指しています。ま
たその応用の 1 つとして、ロボットトラッキングシステムやナビゲーション
システムの構築を進めています(図 4)。
学生へのメッセージ
携帯プロジェクタによるロボットの協調操作
超音波通信を用いた相対位置認識システムとロボットトラッキング
伝えたいメッセージはたくさんありますが、とりあえず 2 つだけ書きましょう。
1 つ目は「失敗を恐れるな」です。失敗を恐れて、なかなか最初の 1 歩を
踏み出せない人がいます。でも、きちんと計画を立てて、まずは始めてみましょ
う。失敗しても学ぶことは多いのです。皆さんがこの専攻で行う研究は、お
そらく世界で誰もやっていないことですから、そもそも正しい方法も答えも
ないのです。だから、きちんとした計画に基づいて行った上での失敗は、い
ろいろな意味で貴重です。失敗を繰り返しながらも、それまで見えなかった
道筋が、少しずつ見えてくるのです。この過程は、精神的にも体力的にもタ
フさが求められますが、1 度乗り越えてしまえば、あとは人もうらやむ楽し
い世界が待っています。ぜひその境地にたどり着き、研究の本当の楽しさを
味わってほしいと思います。
2 つ目は「議論をしよう」です。研究は人とのコミュニケーションを通して、
どのようにも発展をする可能性を秘めています。たくさんの人と話すことで、
多くの input を得、同じくらいの output を示せるようになり、あなたの研
究者としての能力は飛躍的に向上するはずです。それは、卒業後どの世界に
身をおいても、必ず生きる能力になるはずです。
58
近山 隆 / Takashi Chikayama
【研究分野】メディア・知能・計算分野
研究内容
近年、大容量の計算・データアクセス能力が必要な場合、多数の CPU を用
いて処理する並列分散処理が主流になっています。しかし、従来の逐次処理
【研究内容】知能情報処理
を手作業で並列に拡張するやりかたでは、通信・同期の煩雑さなどから複雑な
問題を解くソフトウェアの構築は困難で、比較的並列化しやすい数値計算や
データベース処理などの分野以外での利用は限られています。知的な情報シ
ステムに必要な複雑な処理には新たな枠組が必要で、私たちはこのための基
盤技術を構築する研究を行っています。
■通信コストに主眼を置いた計算量モデル
伝統的な計算量モデルは、一定の手間で読み書きできるランダムアクセス
メモリを仮定します。しかしこのモデルは、分散並列処理についてはもちろん、
逐次処理でも多層キャッシュを持つプロセッサにおいては、非現実的になっ
てきています。私たちは、京都大学や早稲田大学の研究グループと協力、メ
モリアクセスを含めた通信コストに主眼を置いた新たな計算量モデルの構築
を目指し、研究を進めています。
■ソフトウェア開発環境の設計と実装
高度な知的処理を行なう複雑な並列 ・ 分散処理ソフトウェアを構築するに
は、従来使われてきた C/C++ などを直接用いるのでは煩雑過ぎます。私た
図 1 近山研開発の将棋ソフト「激指」
ちは、こうした新たな要請に対応できるプログラム言語やソフトウェア開発
環境の、設計と効率的な実装方式の研究を行なっています。具体的には、分
散並列処理のための負荷分散ライブラリ、実行監視システム、自動メモリ管
理の効率化などがあります。
■コンピュータゲームプレイヤ
コンピュータによるチェスなどのゲームプレイヤの研究は、実用的な知識
処理の雛形として実りある成果をあげてきました。私たちは、コンピュータ
がまだプロにかなわない将棋などを題材に、コンピュータプレイヤの研究を
進めており、世界コンピュータ将棋選手権で優勝するなどの実績をあげてい
図 2 WWW からの学習に基づく和声づけ支援システム
ます(図 1)。
■大量データからの知識獲得
計算機がどんなに速くなっても、処理方法を人間がいちいち教えているので
は、そこがボトルネックになってしまいます。私たちは、並列処理による大
容量の処理能力を生かし、大量のデジタルデータから計算機に自動学習させ
る方式の研究を進めています。これまで大量の文書からの自然言語の構文や
語義の推定、大量の MIDI データからの和声進行ルールの抽出
(図 2)、Web ペー
ジ間のリンクやブックマークを利用したページの評価、多数の将棋局面デー
タからの詰み・不詰の特徴抽出などを試みてきています。
■やりたい研究をしよう
近山研ではテーマの選択には学生の希望を最大限尊重しており、ここに掲
図 3 自動伴奏システム "Sidemen"
げたテーマのいくつかはそこから育ったものです。他にも、ネットワークセ
キュリティ、ネットワークエージェント、音楽情報処理(図 3)などの領域の
研究も手がけています。ソフトウェア関係ならやりたいことを、なんでも提
案してください。できる限りサポートします。
学生へのメッセージ
研究はそれほど楽なものではありません。順調に進むときもあれば、思わ
ぬところでひっかかって、なかなか進展しないこともあるものです。ですから、
自分自身がやりたいという強い意思を持っていないと、研究はなかなか進ん
でいかないものです。自分で面白いことを早く見つけ、やりたいことをしっ
かりと決めて、大学院の数年間はそこに向けて邁進していきましょう。楽し
い学生生活を送るにはそれが大事です。
59
峯松信明 /Nobuaki Minematsu
【研究分野】メディア・知能・計算分野
研究内容
この人間を人間たらしめる音声コミュニケーションを多角的に捉える研究
をしている。工学、理学、医学、そして文学。人間を眺めるのに境界を定め
【研究内容】音声言語コミュニケーション
る方が誤りである。「音声を物理的にどう捉えるべきなのか」という基礎研究、
「それを用いてどのようなアプリケーション、社会貢献ができるのか」という
応用研究、更には「コトバの起源はどこにあるのか、コトバの存在は人間を
どう変えたのか」という哲学研究、
「サルとヒトの認知能力の決定的差は何か」
という人類学研究、我々の研究スタイルに境界は無い。その幾つかを紹介し
よう。
世界には 60 億の[a]という音声がある。人が異なれば[a]という音は
物理的に異なる。性別、年齢、様々な要因によって[a]は異なる。でも人間
はこの多様な[a]を難なくこなしている。
「音声物理の多様性と音声知覚の
容易性」実はこれが解けていない。我々の研究室では、言語学・相対論・量子
論を哲学的、数学的に融合することで一つの数学的解答を示している。音響
的普遍・不変構造と呼んでいる。そしてこの構造に着眼することで、人間がコ
トバを獲得するに至ったプロセスに対して一つのストーリー(仮説)を描いて
いる。そう、空気振動からのこの構造抽出は、ヒト以外の霊長類には困難な
のである。コトバの起源である。様々な議論を通して見えてきたのは「コト
バは複雑系であり、それを処理する人間の認知もまた複雑系であった」とい
うことである。
「まずは音声データを収録するところから研究は始まる」
構造抽出によって、音声から「話者・年齢などの非言語的な特徴」をそぎ
落とすことに成功している。峯松の声から峯松であることを消す技術である。
構造化されれば、それが音であることは分からない。ある種の「動き」のモ
デル化である。当然音以外の他メディア(視覚など)への応用も可能であり、
構造論をメディア普遍の情報処理フレームワークとして位置づけている。下
記は音声を主体とした構造論の研究例でる。音声認識、感情・意図推定、発音
学習支援、言語獲得などである。
従来の音声処理は大規模音声データベースに基づく統計処理に明け暮れて
いた。「多様な」音声を扱う適切な方法論が無かったからである。構造解析は
それに対する一つの解答である。例えば、大人の音声データから作った音響
モデルを使って 70cm の小人の音声を認識させてみる。率は急激に落ち、ほ
ぼ 0%となる。一方、我々が提案する構造技術では、率は落ちない。そもそ
「そしてそれを分析にかける。にらめっこ上手になる必要がある」
も声の身体性(太い声、細い声)の区別ができない技術である。音声構造は、
感情や意図をこめると微妙に歪んでくる。この歪みの情報を利用して、頑健
な感情・意図推定を検討している。更に発音学習への応用も行なっている。世
界には 20 億の英語学習者がいる。厳密にはみんな違った「訛り方」をして
いる。音韻構造をこの音声構造として抽出すると、男女差、年齢差が見えない、
純粋な言語構造(方言差)が見えてくる。この構造を分類すれば、20 億の一
人一人を単位として彼らを分類することもできる。人間を単位とした地球規
模の英語地図の出来上がりである。既に数千人の分類を行なっている。幼児
の言語獲得は音声模倣というプロセスの上に成立しているが、彼らは親の声
を真似る訳では無い。音声構造抽出は幼児が親の声から抽出する情報のモデ
ル化として考えられている。その音声構造に対して幼児の短い喉(身体)を返
してあげると「かわいい声」が生成される様子を工学的に実装している。ヒ
ト以外の霊長類では、この構造抽出が困難なのである。
我々の研究活動のほんの一端を紹介した。他にも音声の韻律的特徴のモデ
「時には理論構築だってやる。新しい数学定理だって導くのである」
リング、音声合成用のアクセント規則の構築、音声からの年齢推定、女声度
推定、対話システム、古典歌唱の音響分析、福祉応用など、多角的にコトバ
と付きあっている。
学生へのメッセージ
なぜ、コトバが使えるのでしょう? 峯松は小さい時、自分がなぜ日本語を
使えるようになったのか、悩んだことがあります。誰に教えてもらった訳で
もない、でも、僕はなぜか日本語が使える。どうして? コトバは不思議に満
ちあふれています。もしコトバに対して「?」と思うことがあったら、是非
いらっしゃい。その「?」は峯松研究室で必ず「!」に変わることでしょう。
「最後は実社会に還元する。そう、見たいのはみんなの笑顔である」
60
相田 仁 / Hitoshi Aida
【研究分野】ユビキタス情報環境分野
【研究内容】ネットワーク・分散処理
研究内容
■研究テーマと研究ポリシー
当研究室では、コンピュータやマルチメディア端末を有機的に結合して、
高度情報システムを実現するための、ネットワークアーキテクチャやアプリ
ケーションについて研究を行っています。
■次世代ネットワークアーキテクチャ
インターネットのトラヒック量はすでに電話を上回り、今後のネットワー
クの中心となるものと考えられていますが、現在のインターネットは品質・信
頼性が不十分であり、今後、マルチメディアアプリケーションや電子商取引
などを含む幅広いアプリケーションにインターネットを活用していくために
は、容量を拡大するとともに、品質・信頼性に対する考慮をしていかなければ
なりません。そこで当研究室では、エンド・エンド間で複数のパスを張り、そ
れらを同時に活用することで通信の品質や信頼性を向上させる複数経路通信
について研究を行っています。また、災害時等に確実に通信手段を確保する
方法についても検討を行っています。
図 1:複数経路通信プロトコル M/TCP
■次世代分散処理アーキテクチャ
近年の自然科学分野の進歩にともない、通常のコンピュータでは処理のでき
ない大規模な計算処理、大規模なデータベース、あるいはネットワーク上の
様々な機能を持ったデバイスを取り込んだ新たなアプリケーションの実現に
対する要求が高まっています。それらの要求に対し、グリッドコンピューティ
ングという分散処理技術の研究が活発に行われていますが、現在は科学者の
ような一部の人たちの利用に限定されています。そこで当研究室では、より
多くの人々が容易に利用可能なグリッドコンピューティングプラットフォー
ムや、グリッドコンピューティングにおける品質管理(QoS)について検討し
図 2:分散処理プラットフォーム EcoGrid.NET
ています。
■高速鉄道におけるブロードバンド通信
近年人々の生活において、ブロードバンド通信は不可欠なものとなりつつ
あります。これに伴い、外出時におけるブロードバンド通信に対する要求も
増大してきており、駅や空港、宿泊施設などへの公衆無線 LAN の基地局の設
置が急増し、航空機内での無線 LAN サービスも開始されています。これに対
して、鉄道車両のブロードバンド接続に関しては、一部の路線においてトラ
図 3:高速鉄道向けブロードバンド通信方式
イアルが行われている段階であり、正式サービスに至っていません。
現在列車無線のデジタル化が進められており、数 Mbps の帯域を確保する
ことができるようになります。また、130km/h 走行中に無線 LAN のハン
ドオーバーを行うこともできるようになっています。そこでこれらの通信技
術を発展させて高速鉄道をブロードバンド接続し、車内の旅客サービス向上、
車内のオフィス化を目指すべく、通信セルの構成法、複数の通信手段の有効
活用、通信帯域の公平な分配など、高速鉄道向けのブロードバンド通信方式
を検討するとともに、列車の運行状況や周囲の天候、車両搭載機器の状態等
をリアルタイムに把握し、列車の安全な運行や保守の省力化に役立てるなど
のアプリケーションについても研究を行う予定です。
学生へのメッセージ
以前のように、東京大学を卒業している(というより東京大学の入学試験
に合格した)というだけで、会社の中で高く評価してもらうことができた、と
いう時代はもう過去のものとなっています。大学にいる間に何をしたか、自
分をどのように磨いたかで、その後の人生に大きな差が生じます。ぜひ大学
にいる間に意欲を持って、新しいことにチャレンジしてください。
61
小川剛史 / Takefumi Ogawa
【研究分野】ユビキタス情報環境分野
【研究内容】グループウェア・ヒューマンインタ
フェース
研究内容
これまでに実世界から仮想世界を構築し、その実世界と仮想世界を融合さ
せることで、人々のコミュニケーションを支援する研究を進めてきました。
構築した仮想世界を可能な限り現実世界に近づけるためには、現実世界の状
況を如何に把握しその情報を収集するのか、また、構築した仮想世界の規模
が拡大し、仮想世界に関する大量の情報を大多数のユーザに提供するために
はどのようにデータを配信するのかが問題となります。そこで、以下の2つ
の技術に関する研究を中心に行っています。
■仮想空間データの配信技術に関する研究
大量のデータを大多数のマシンに提供するためには、プッシュ型の放送技
術が有効であると言われています。プッシュ型放送を用いるとデータを提供
するサーバでは、データを受信するクライアントの数に限らず、一定のコス
トでデータ配信が行えます。また、クライアントでは、自分の必要なデータ
が提供されるときだけ放送を受信すればよいため、効率良くデータを受け取
ることができます。しかし、プッシュ型の放送配信では、クライアントが必
要なときに必要なデータを得られないという問題もあり、このような問題を
解決する技術について研究を進めています。
■センシングデータの収集技術に関する研究
実世界に配置したセンサからのデータをマルチホップ通信を用いて収集す
るセンサネットワークの研究が盛んに行われていますが、センサの配置密度
を多くしなければセンサの故障や通信範囲の影響からデータの収集が困難と
なる場合があります。そこで移動機能をもつセンサで構成される移動型セン
サネットワークに関する研究も行われています。この場合、センサの移動に
必要な電力コストが大きいため、その低減が課題となっています。本研究で
は、データを収集する基地局までの通信経路が確保されている地点の情報を
プッシュ型放送を用いることで、全センサに通知し、センサはその情報によっ
て移動経路を決定することで、コストの低減を目指しています。
また、人と人のコミュニケーションを支援するというのは、ひとつの大き
な目標ですが、人とコンピュータの関係も非常に重要です。コミュニケーショ
ンという言葉をキーワードに、人と人の関係だけでなく、人とコンピュータ
との円滑な関係を実現することを目標にヒューマンインタフェースに関する
研究も進めます。
学生へのメッセージ
「真剣に学び、真剣に遊ぶ。」小川の目標とする先輩のモットーでした。遊び
だけでは、研究者として?な人になっちゃいますし、研究だけでは人間的に
あまり魅力のない人になってしまうかもしれません。体力や時間、いろいろ
な制約があり、一方に力を入れるともう一方が疎かになってしまいがちです
が、皆さんも研究と遊びの両立を目指して頑張ってください。きっと、充実
した大学院生活を過ごせることと思います。
62
中山雅哉 / Masaya Nakayama
【研究分野】ユビキタス情報環境分野
研究内容
大規模広域分散環境における安定した情報処理・運用技術の確立
当研究室では、主として Internet に代表される大規模広域分散環境におけ
【研究内容】ネットワーク工学
る安定した情報処理技術・運用技術の研究開発を行っている。このうち、最近
の研究トピックスは以下の通りである。
■広域分散環境での負荷分散処理技術に関する研究
Internet 等の広域分散環境における情報共有の仕組みとして、WWW サー
バを中心としたシステム構築が広く行われている。しかし、単一の WWW サー
バによる情報共有では、災害時の安否情報など、広域から大量のアクセスが
集中して発生する場合には、当該システムへの負荷集中や中継ネットワーク
で輻輳が発生し、十分に情報共有機能が働かない状況が生じてしまう。この
対策として、分散配置された複数のサーバ間で緩やかな一貫性制約を導入し
て負荷分散する方式の研究を行っている。この研究テーマでは、分散したサー
バ間の一貫性制御のための安全なデータ転送方式、更新情報の動的最適配置、
分散サーバへの適切なアクセス分散化など、複数の基本要素技術を組み合わ
せて、総合的に高性能化・安定化を達成する技術開発を行うことになる。
■広帯域情報の安定した通信方式に関する研究
高速で広帯域な情報を伝送することができるメディアやネットワークインタ
フェース、ネットワーク通信機器に関する研究開発は非常に活発に行われて
おり、数 Gbps での情報転送を可能とする情報機器は十分に利用可能な状況
にある。このため、Audio や Video などの広帯域な情報を Internet などの
広域分散環境で搬送する通信方式に関する研究が行われるようになってきた。
本研究では、数 10Mbps ∼数 Gbps 程度の連続した広帯域情報を安定して
通信するための技術開発を行っている。
■携帯端末を用いた安全な通信方式に関する研究
移動する携帯端末を用いたネットワークにおいては、端末間の信頼性確認に
既存の認証インフラの利用を仮定できないため、新たな安全確認方式を確立
する必要がある。また、移動携帯端末を利用することで利用者の移動状況の
推定を行うなど新たな情報活用の形態も模索されている。本研究では、携帯
端末で構成されるネットワークの特性を活かした安全な通信方式の技術開発
を行っている。
学生へのメッセージ
大学院に進む研究者は、研究する領域を探査し、関連する研究状況を精査し、
自ら切瑳することが必要であると考えています。新領域創成科学研究科では、
その名の示す通り新しい領域の学問を創成する積極的な研究者を求めていま
す。あなたも最先端の研究の緒につきませんか?
63
南 正輝 / Masateru Minami
【研究分野】ユビキタス情報環境分野
研究内容
■研究室について
南研究室は森川研究室と一緒に駒場リサーチキャンパスの先端科学技術セ
【研究内容】ネットワーク応用システム・デザイ
ン
ンターで研究活動を行っています.これからの情報通信技術においてはデザ
イン力が重要になると考えています.疲弊したネットワークの各機能をきち
んと立て直し、情報を整理・活用できるようにすることが大切だと考えていま
す.しなやかさと力強さを持ちあわせる実用的なアーキテクチャを再設計し、
浪費型ネットワークから堅実なネットワークへ、さらにはクリエイティブな
情報環境へとどうつないでいくか、これが私たちの当面のタスクと考えてい
ます.
良い研究成果は研究室の仲間との気取らない自由なディスカッションから
生まれるものです.アイデアだけ持っていても実現できなければつまらない.
知識や腕前があっても活用できなければもったいない.そんな雰囲気で研究
を進めることが大切だと考えています.現状を把握した上で研究室の力を集
結し、未来に対して何を示せるか.そこを皆さんと一緒に考えていきたいと
思います.
■研究内容について
インターネットが生まれて 40 年になろうとしています.そろそろインター
ネットも疲れてきたのでしょう.そのため色々な問題が出てきています.例
えばディスプレイの前に広がる膨大な情報に圧倒され、必要な情報へ直感的
にアクセスできない WWW システム、迷惑メールであふれかえる電子メール
システム、大量のエネルギーを浪費しながら 24 時間 365 日稼働し続けるサー
バとネットワーク、知らない間に収集される個人情報などがそうです.この
ような問題がインターネットを疲弊させ、私たちもこれにうんざりしていま
す.私たちはこのような問題に対して「できるところからこつこつとアプロー
Fig.1: グリーンネットワークアーキテクチャ
チ」したいと考えています.具体的には下記のような研究テーマに興味を持っ
ています.
・グリーンネットワークアーキテクチャ
インターネットで使われている TCP/IP は省電力性を意識して設計されて
いません.その一方でネットワークのトラフィックは増加の一途をたどって
います.電子メール 1 通を地球の裏側に送るにはトータルでどのくらいのエ
ネルギーを消費しているのか? 消費電力の観点からのインターネットは分
からないことだらけです.省電力性を実現しながらパフォーマンスを向上さ
せる方法はないのか.こういった問題を解決できるプロトコルやネットワー
クアーキテクチャのデザインを考えたいと思っています.
・テイラーメイドサービスアーキテクチャ
こうだったらきっと便利なのにと思ってもすぐにそれを実現することがで
きない.こういうことは良くあります.ネットワークの世界も同じです.特
別あつらえの万年筆があるように、機能満載のワープロソフトよりも、自分
Fig.2: 環境エネルギー駆動型センサネットワーク Solar Biscuit
が欲しい機能を持ったワープロソフトを作ってもらった方が使いやすいはず
です.これからの時代はインターネット上のサービスはテイラーメイドになっ
てほしいと考えます.思いついたアイデアを機能レベル、物理レベルにすぐ
に落とし込んで試せるようなサービスプラットフォームをネーミング技術や
センサネットワーク技術、ロケーション技術など、これまで培ってきた技術
を融合させて実現したいと考えています.
学生へのメッセージ
それぞれの道を進む中で次第に幅が広がって良き理解者が増えること、こ
れがエンジニアリングの道を志す者にとって大事なことなのかなぁと思って
います.決して易しいことではありませんが、逆境の中でも希望を見いだせ
る心がまずは強い味方になってくれると思います.研究も同じかなぁ.若者
は未来予想図を片手に勇気を持って歩き出すことから……
64
森川博之 /Hiroyuki Morikawa
【研究分野】ユビキタス情報環境分野
【研究内容】ユビキタスネットワーク
研究内容
森川研究室は、
2007 年 4 月に先端科学研究センターに移転し、駒場リサー
チキャンパスにおいて研究活動を行っています。
森川研究室の研究目的は、将来のネットワーク社会はどうあるべきか、将
来のネットワークを構築するにあたっての基盤技術は何か、といった点につ
いて明確な指針を与えることにあります。新世代の「キラーアプリケーション」
を考慮に入れた基盤技術の開発とともに、
「Proof of Concepts」プロトタ
イプの実装をも進めています。
■ビジョン:性能品質から魅力品質へ
ICT 技術の進展により、
「性能品質」のみならず「魅力品質」を高めていくこ
とのできる研究開発が必要であると考えています。性能や効率ではあらわすこ
とのできない付加価値の重要性が高まりつつあるためです。
「魅力品質」の実現に向けては、従来のモノの視点に加えて、ヒトの視点を
も新たに取り入れた研究開発を行っていかなければなりません。われわれは、
ヒトの視点に立ちながら、
「パーソナライゼーション(個人化)」
「見える化」
「実
空間との融合」
「グリーン(省電力)ネットワーク」といった 4 つの軸を中心に、
フォトニックネットワークからコンテキストアウェアサービスまで幅広い分
野の研究開発を進めています。
あわせて、チャレンジングかつ革新的な研究プロジェクトを推進することで、
Fig.1: 秋葉原ダイビルサテライトラボ
「魅力品質」の実現を先導できる次世代の研究者や開発者を育成していきた
いと考えています。新たな面白いアイデアを創出し、設計し、実装して評価
できる環境の提供に取り組んでいます。
■ MLAB スタイル
研究室のイベントとして大きなものは、7 月に行われる電気系学科公開と
冬に開催しているスポンサー企業向けの MLAB フォーラム(2007 年度の参
加者は 100 名程度)であり、これらのイベントにおけるデモ展示が研究生活
の一つの節目となっています。積極的に外部機関と連携するとともに、泊り
込み合宿なども適宜行いながら、鋭意研究を進めています。
■研究テーマ
革新的な新世代ネットワーク・コンピューティング情報基盤の構築に向け
Fig.2: 無給電無線センサデバイス SolarBiscuit
て、現在のネットワークアーキテクチャを再度根本から捉え直し、新たなるフ
レームワークの構築を目指しています。また、新世代ネットワークの利用技術、
コンピューティング環境のあり方の示唆に向け、
「新しいネットアーキテクチャ
の開発」
「革新的なアプリケーションプロトタイプのデモ」といった両面から
研究開発を進めています。
具体的には、
「センサネットワーク」「コンテキストアウェアコンピューティ
ング」
「モバイルインターネット」
「フォトニックネットワーク」
「 新世代ネットワー
クアーキテクチャ」などのテーマを、駒場キャンパス、秋葉原ダイビル、YRP
ベンチャー棟(横須賀)などに構築を進めているユビキタス実験環境を有機的
に利用しながら研究を行っています。
Fig.3: 地震モニタリング用センサデバイス
また、革新的な新世代ネットワークを企業や海外の研究者と共同して実環
境で実証研究するため、海 外、国内を問わず種々の大学、機関、企業 等と
積極的に交流してさまざまな研究プロジェクトを進め、最も先端的なネット
ワーキング技術の研究を行っています。研究内容の詳細などは http://www.
mlab.t.u-tokyo.ac.jp を参照してください。
学生へのメッセージ
技術的・肉体的労苦と愉悦から精神的輝きを得ることができれば素晴らし
いと思います。また、人間というものは垂直に立っているときと平行に寝て
いるときとで趣味思考も異なってくるそうですから、たまには横になるのも良
いのでは。ネットワーク研究は柔軟な発想が求められています。しなやかな
若い発想で一緒に革新的なネットワーク技術やアプリケーションを開発して
いきませんか。Making the Vision a Reality!
Fig.4: 光パケットスイッチ HOTARU
65
若原 恭 / Yasumasa Wakahara
【研究分野】ユビキタス情報環境分野
【研究内容】ネットワーク工学
研究内容
情報通信ネットワークは、豊かで安心できる情報社会基盤の核として、ア
プリケーションの急激な発展とともに、転送情報量の規模的な拡大に加え、
機能面の質的な変革も必須で、安全性・信頼性・経済性・利便性・高機能性等
を徹底して図っていくことが必要不可欠です。このような認識のもと、情報
通信ネットワークの合理的な設計・運用・管理のための技術に関する研究に取
り組んでいます。
■アドホックネットワークの運用管理
無線通信技術と高性能携帯通信端末の発展等によって、スイッチやルータ
等の特別なネットワーク設備を持たず無線端末だけでダイナミックに構成さ
れるアドホックネットワークが、ユビキタスネットワーク社会の展開ととも
に益々重要になっていくものと予想されます。このようなアドホックネット
ワークに関し、特に無線端末の移動性を考慮して、ネットワーク内サービス
の効率的な利用を可能とするための管理、パケット転送品質の維持確保を可
能とする制御、有限リソースである周波数帯域の効率的利用とネットワーク
としての通信容量の最大化等についての研究に取り組んでいます。
図 1 アドホックネットワークで発生しがちなリンク切断を迅速に回復させる
方式
■ネットワークセキュリティ確保技術
情報通信ネットワークの発展に伴って、不正アクセスやウィルス等のセ
キュリティ上の脅威も増大し深刻度が増しています。このような脅威の低減
と解決に向けた検討を進めています。例えば、分散型サービス妨害 (DDoS:
Distributed Denial of Service) の攻撃元を迅速に特定するための効率的な
トレースバック手法、モニタしたトラヒック情報から特定のアプリケーショ
ンや不正アクセスを正確にかつ素早く検知する技術等についての検討を進め
ています。
■次世代衛星ネットワークの設計と運用
図 2 パケットのモニタ情報から P2P
(ピアツーピア)ユーザを特定する手法の効果
今後の情報通信ネットワークではモバイル化の流れが益々強くなります。
モバイル性を実現するワイヤレスネットワークのうち、特に低軌道周回衛星
ネットワークには、グローバル性・均質性・安定性等の観点から優れた特徴が
あります。この衛星ネットワークでは、全体コストの大きな割合を占める宇
宙部分のシステムリソースの最大有効利活用を図ることが重要な課題で、障
害時の対応を含め、この課題の解決に向けた衛星間ルーティング、地上端末
からアクセスする衛星のハンドオーバに伴う端末移動管理等の研究に取り組
んでいます。
■その他の研究テーマ
以上の他、異なる特性を持った回線を適切に組み合わせて利活用すること
図 3 衛星間光リンクによって構成される次世代低軌道周回衛星ネットワーク
によって総合的な情報転送スループットの向上を図る技術、大規模ネットワー
クソフトウェアの生産性と品質の向上を図る様々なソフトウェア工学技術等、
情報通信ネットワークシステムの設計・運用・管理に関する研究を幅広く扱っ
ていく予定です。
学生へのメッセージ
研究テーマの選択や研究アプローチは、基本的には学生個々人の希望に応
じる方針です。機能の高度化・構成の複雑化が昨今著しい情報ネットワークシ
ステムの本質を見極め、設計・運用・管理の更なる高度化のための最適な次世
代ネットワーク技術の探求に興味を持ち、熱意ある積極的な方を大歓迎しま
図 4 複数種類の回線を組み合わせてスループットの最大化を図る制御システム
す。なお、情報処理に関する基礎知識、プログラミングの経験、英語の基本
能力を持っていることを期待しています。
66
浅田邦博 / Kunihiro Asada
【研究分野】半導体システム分野
【研究内容】先端システム LSI デザイン
研究内容
三次元形状・画像の実時間での取得は、車載衝突防止装置などへの実用をは
じめ、ロボット制御や 3 次元テレビコンテンツ作成において今後大きな発展
が見込まれています。一般的には、ステレオマッチング等汎用のイメージセ
ンサーの画像を高性能な計算機を用いた画像処理により三次元を求めますが、
より精度の高い、また実時間性の高い三次元映像を取得するためには、演算
機能を付加した独自のイメージセンサーを用いる必要があります。ここでは、
CMOS 技術を活用して、センサー面上での演算機能を実現するイメージセン
サーおよびそれを用いて高速・高解像度な三次元形状を実時間にて取得するシ
ステムの構築を目指しています。
LSI は 1 年半で性能が倍増し、すでに数億∼数十億トランジスタが数 GHz
の速度で動作することが可能になっています。これは一昔前のスーパーコン
ピュータを凌駕する性能を 1 つのチップで実現することに相当します。また、
LSI 中のシリコンデバイスは、最小寸法がすでに 45nm のものが実用化され、
研究段階では 10nm 以下のトランジスタが実現されています。このような最
先端の VLSI を用いると、従来はアナログ回路でしか実現できなかった機能を
デジタル的に実現することが可能となります。デジタル RF 技術では、無線通
信で使用するサイン波の電波をデジタル的に発生・制御することにより、アナ
実時間・高精度 3 次元形状取得を実現するイメージセンサーシステム
ログ動作部分をなくしたオールディジタルな RF 回路の実現を目指します。
現在の VLSI 設計およびその検証作業において、従来は無視もしくは近似的
に処理されていた様々な要因をすべて考慮しなくてはいけなくなっています。
従って、集積回路の設計において、計算機を用いた自動化、計算機による設
計支援は不可欠なもので、特に真に卓越した設計、新しいコンセプトの設計
を行う場合、既存のアルゴリズムのみではなく設計者の意に従う設計アルゴ
リズムが必要で、時として設計者自身によるアルゴリズム開発が求められま
す。本研究は、設計を中心に行っている研究室の利点を生かし、様々な設計
上の問題を解決するための設計手法の構築を目指した研究を行います。
現在の IT 社会において、LSI の果たすべき役割は、安心安全信頼性よく動
先端 LSI の設計の流れ
作するための、ディペンダブルシステムのとしての機能、および各種のセン
サーに代表されるリアルワールドと IT のつかさどるサーバーワールドのイン
ターフェースとしての機能であり、当研究室はそれらのテーマおよび LSI の
設計を大きく効率化する論理・回路・レイアウトの自動設計、LSI を構成する
トランジスタや配線の精緻なモデル化とシミュレーション手法を研究テーマ
としています。
学生へのメッセージ
私たちは、これからの先端 LSI を用いた、信頼できるシステム作りを目指
しています。研究室では、学生が実際に先端の LSI を設計しそれらを測定す
ることで、先端 LSI を用いたさまざまな基盤技術の研究に取り組みます。各
種の CAD を使いこなし、最先端の技術情報に触れ、最先端のロジックテスター
や電子線プローバ、各種測定装置などを使いこなして、皆さんのアイデアを
ガラス基板上に作成した集積回路とその測定風景
ᓥ᧪ߩࠕ࠽ࡠࠣ RF
具現化する研究に取り組んでみませんか。
዁᧪ߩ࠺ࠫ࠲࡞ RF
オールディジタル無線通信の概念
67
池田 誠 / Makoto Ikeda
【研究分野】半導体システム分野
【研究内容】環境適応型 LSI システム
研究内容
どうして、飛行機中の離着陸中にはすべての電子機器の電源を切らなくて
はいけないのでしょう?どうして携帯の電波は心臓ペースメーカーや医療機
器に影響を与えてしまうのでしょう?皆さんは身の回りにどれだけの電子機
器を持っていますか?それらにどれだけ頼っていますか?それらが機能しな
かったとしたらどうなるでしょうか? 私たちの研究はこのような電子機器の
抱える問題点に対して LSI 設計の立場における解決策の検討を行うものです。
LSI は 1 年半で性能が倍増し、すでに数億∼数十億トランジスタが数 GHz
の速度で動作することが可能になっています。これは一昔前のスーパーコン
ピュータを凌駕する性能を 1 つのチップで実現することに相当します。また、
LSI 中のシリコンデバイスは、最小寸法がすでに 45nm のものが実用化され、
研究段階では 10nm 以下のトランジスタが実現されています。現在の IT 社
会において、LSI の果たすべき役割は、安心安全信頼性よく動作するための、
ディペンダブルシステムのとしての機能、および各種のセンサーに代表され
るリアルワールドと IT のつかさどるサーバーワールドのインターフェースと
しての機能であり、当研究室はそれらのテーマおよび LSI の設計を大きく効
率化する論理・回路・レイアウトの自動設計、LSI を構成するトランジスタや
配線の精緻なモデル化とシミュレーション手法を研究テーマとしています。
90nm プロセスを用いた環境、目標計算速度に動作速度が追従するマイク
ロプロセッサ
LSI 中の個々のトランジスタはその動作に際して微小な電流の変化を引き起
こします。多数のトランジスタが集積される VLSI においては、トランジスタ
の同時動作により大きな電流の変化を引き起こし、配線中の抵抗成分、誘導
成分により電圧の変動、さらには電磁界の放射を引き起こします。また、逆
に周囲の強力な電磁界の変化によってトランジスタの微小な電流・電圧値が変
動してしまい誤動作することもあります。将来の「信頼できる情報機器」を
目指し、雑音の発生の抑制、雑音発生量の推定、耐雑音性能の向上を、アー
キテクチャ、回路、デバイスの側面から検討を行います。本研究の究極の目
的は、「壊れないシステム」
、
「壊れても自動的に故障を復旧するシステム」を
実現することが私たちの目標です。
学生へのメッセージ
私たちは、これからの先端 LSI を用いた、信頼できるシステム作りを目指
しています。研究室では、学生が実際に先端の LSI を設計しそれらを測定す
ることで、先端 LSI を用いたさまざまな基盤技術の研究に取り組みます。各
FPGA を用いたアイデアの検証
種の CAD を使いこなし、最先端の技術情報に触れ、最先端のロジックテスター
や電子線プローバ、各種測定装置などを使いこなして、皆さんのアイデアを
具現化する研究に取り組んでみませんか。
ロジックテスターを用いた LSI の測定
研究の拠点は産業界からの寄付によって建てられた武田先端知ビルです
68
櫻井貴康 / Takayasu Sakurai
【研究分野】半導体システム分野
【研究内容】先端融合 VLSI システム設計
研究内容
当研究室では VLSI 設計の研究を行っています。研究テーマは集積回路シス
テムに関係あることすべてですので、デジタルプロセッサ、アナログ、メモ
リなど興味あることには何でもチャレンジできます。中でも、現在注目の環
境にやさしい超低電力 VLSI 回路設計で世界的に有名で、VLSI のオリンピッ
クと言われる ISSCC(国際固体回路学会)では歴代 30 件以上の論文を発表す
るなど世界をリードしています。また、高宮研究室と緊密に連携して研究室
を運営していますので、そちらも参照してください。
■ 人々の生活に溶け込む VLSI
半導体チップは情報ネットワークや携帯電話、テレビやオーディオなど現
代の情報社会の基幹技術となっています。しかし近年、情報処理だけでなく、
もっと物理的な世界にも応用が始まっています。環境全般、野山、街角、交
通機関、ホーム、ボディなどにも半導体チップが入り込み安心・安全・豊かな
生活を支えるために人々の生活に浸透してゆこうとしています。このように、
巨大な数のチップが使われ始めたので、今まで以上に低電力性が求められる
とともに、エネルギーをどのようにチップに与えるか、あるいは自然界との
インターフェイスをどのようにとって行くかなど、新しいチャレンジが一杯
でてきました。これらの新天地では、新しい VLSI 設計の考え方が必要となっ
ています。
図 1 自分で自分の「健康」状態を管理しながら動作する賢い三次元 VLSI
システム
■ 低消費電力で高速な三次元 VLSI システム(図 1)
消費電力を抑える切り札は、トランジスタというスイッチをなるべく密集さ
せて、相互の通信エネルギーを低減することが肝要です。そこで三次元的に
チップを積層してトランジスタ密度を上げる三次元積層システムがエコチッ
プが考えられています。そこで、世界に先駆けて、三次元積層チップ間の無
線接続を実証して注目され、スーパーコンピュータやテストへの応用がさか
んに研究され始めました。最近では無線給電による電力のチップ間伝送の研
究も進めています。実現すれば完全にワイヤレスなチップ間接続が可能とな
り、自由に気ままにチップを使えるインフラが整います。自分自身の状態を
監視し、ヘルスケアをしながら自分自身で低電力動作点を探してゆく適応型
チップの研究も世界をリードしています。
■有機トランジスタ集積回路(図 2)
炭素と水素を基調にした有機トランジスタ回路を研究していて、将来ロボッ
トの電子人工皮膚、曲がった表面からも画像を取り込める光学スキャナ、プラ
スチック MEMS(マイクロマシン)と組み合わせたシート型点字シート、コー
ドがなくてもパソコンや携帯が動く無線電力伝送シート、置けばつながる通
信シートなどの研究を行ってきました。これらのシリコンなどの無機材料と
プラスチックなどの有機材料を組み合わせた融合型の集積回路は新しい可能
図 2 LSI と異種デバイスを融合させた先端的な大面積エレクトロニクス
性を拓きますが、世界でも例を見ない当研究室の成果に注目が集まっていま
す。
学生へのメッセージ
研究室には年に数回の高価なチップ試作ができる設計環境と、微細チップ
を測定する各種の装置などのインフラが整っていますので、他ではできない
ものを作ってみることができます(図 3)
。もちろん、理論が面白いと思えば
理論的な研究もできます。スキルと知識、そして創造力を鍛えてみませんか。
図 3 自分で設計した VLSI を測定しているところ
69
柴田 直 / Tadashi Shibata
【研究分野】半導体システム分野
【研究内容】知能集積デバイス工学
研究内容
人間のように しなやかな情報処理 のできる全く新しい原理のコンピュー
タを創りたい。この願いを、最先端の半導体技術を駆使して実現しようとい
うのが本研究室の目的である。既存のコンピュータ上で走る高度なソフトウェ
アで、一見ヒトの知能のように見える賢そうな機能を作り出すのではなく、
シリコン集積回路のハードウェア自身に柔軟な判断機能を持たせる。われわ
れの脳はいったいどんな風にものを見て、そして理解しているのか?その心
の働きをよく観察し、心の情報処理原理を直接 VLSI ハードウェアとして実現
する。こういった 心理学的脳モデル VLSI システム の実現が、本研究室の
目的である。
半導体技術の進歩は驚異的で、もうまもなく約 1cm 四方のシリコンチップ
上に 100 億個を超えるトランジスタの集積が可能になる。100 億といえば、
これは人間の脳細胞の総数に匹敵する。しかし、果たして「賢い」コンピュー
タができるのだろうか。アインシュタインの天才頭脳を持ってしても、流体
力学の方程式を手計算で解いて気象予測をすることはできないが、コンピュー
タはこんな計算を難なくやってのける。しかし、2 ∼ 3 歳児用の動物の絵本
を見せて どれがわんわん? といった質問には答えられない。漠とした対象
図 1.心の情報処理をまねる…
に対し、直感的にものごとを判断したり、連想や類推によってそれなりの解
を見つけ出すといったことが、とてつもなく難しいのである。
ものを見てわれわれがそれを即座に認識・判断するのは、何も脳が難しい連
立微分方程式を解いているからではない。われわれの脳には、過去の経験や
体験がいっぱい詰まっていて、即座に良く似た記憶を連想想起することで認
識・判断を行っている。論理演算・数値演算に特化した現在の CPU に代わり、
過去の記憶を大量に蓄え、似たもの探しを瞬時にやってのける VLSI チップ 連
想脳プロセッサ を開発している。このチップに、専門医の知識を入れておけ
ば、まだ問題の範囲は限られているが、大学病院で 10 年のキャリヤを持つ
専門医と同様の判断をさせることができる。また、人間の顔を例として色々
図 2.頭部レントゲン写真の解剖学的特徴点検出
教えておくと、さまざまなシーンの中から人の顔を柔軟に見つけ出して来る
こともできる。
我々の心理学的脳モデルシステムは、最初に視野の中から注目すべき対象
を見つけ出す。生物は獲物を捕らえたり敵から身を守るために、何よりも動
いているものによく反応する。Motion-Based Saliency Detector はこれ
をモデル化したチップで、複雑な背景の中から動き物体を検出する。捉えた
対象のイメージは、二次元のビットマップであるが、これを連想脳プロセッ
サが処理できる形に変換するのが Visual Pre-Processor である。我々の眼
によく似たものと映るイメージは、ベクトル空間でも近くにマッピングされ
る、縮約されたベクトル表現に変換するチップである。これは、大変計算負
荷の高い処理であるが、専用プロセッサの開発で、2GHz の CPU を用いた
図 3.ダリの絵から顔を見つけ出す
ソフトウェア処理に比べ、はるかに低消費電力で約 1 万倍の高速処理ができ
る。このように、最先端の VLSI 技術を駆使して人間のように柔軟な判断・処
理のできる電子システム開発に取り組んでいる。
学生へのメッセージ
まもなく、少子超高齢化社会がやってくる。ケアを必要とする人々がいっ
ぱいいるのに、全く人手がない時代が到来する。柔軟な判断力を持ったもっ
と人間に優しい電子システムが実現すれば、病院で看護婦さんの手助けをし
て、24 時間体制で病状を見守ることができるだろう。また、一人暮らしをし
ていても異変を的確に察知してもらうことができる。我々にもっと安全・安心
図 4.心理学的脳モデル VLSI システム
を与えてくれる電子システム実現の研究を、若い学生諸君の知恵を結集して
進めたい。それと同時に、脳の機能を実際に電子回路を作るという立場から
解明していきたい。そんな研究に挑戦している。
70
高宮 真 / Makoto Takamiya
【研究分野】半導体システム分野
【研究内容】多機能集積半導体システム工学
研究内容
■高まる LSI の重要性
皆さんの身の回りにあるノートパソコン、携帯電話、携帯型デジタル音楽
プレイヤー、ハードディスクレコーダ等の最先端のデジタル家電の中核部品
が LSI です。LSI が進化するにつれ、1 チップにありとあらゆる機能が詰め
込めるため、LSI チップそのものがデジタル家電などの最終製品の価値を決め
るとして、LSI 設計の重要性が高まっています。この LSI の回路設計が本研
究室の研究テーマです。
■研究の進め方(図 1)
まず、研究のターゲットを決め、どのような LSI を実現したいかを考えます。
次に、これを実現するための LSI 設計を行います。ここで新しい回路のアイ
デアを入れます。LSI の設計は、大まかに回路設計とレイアウト設計の 2 つ
からなり、専用のソフトウエアを用いて行います。設計が完了すると、レイ
アウト設計データを半導体メーカに渡して工場で LSI チップを製造してもら
います。LSI チップが納品されると、大学で測定を行います。測定が LSI 設
計者としての真価を問われる場となります。測定で LSI が期待通り動作して
いることを確認し、アイデア実証を行います。その成果に関して、国際学会
での発表や特許出願を行います。これで研究の 1 サイクルが完了です。実際
には、このサイクルを繰り返します。
■研究内容
図 1 研究の進め方
1 人当たり数 100 個∼数 1000 個の LSI が人間の生活環境中に分散配置
して、安心・快適な生活環境を実現する「ユビキタス・エレクトロニクス社会」
が将来到来することを予測しています。ここで、重要となるのが無線通信の
低電力化、情報処理の低電力化、インテリジェントなヒューマンインタフェー
スの 3 点です。これらの課題に対処するため、以下の研究を行っています。
(1)低消費電力無線通信用送受信回路(図 2)
現在の無線 LAN に対して、同程度のデータレートを 2 桁低い消費電力で
実現することを目指しています。具体的には、超広帯域(UWB)インパルス
無線方式を用いて、従来はアナログ回路が多用されてきた無線通信(RF)
回路
をデジタル化できる新回路を提案することにより、低電力化を目指します。
(2)超低電源電圧ロジック LSI
マイクロプロセッサに代表されるロジック LSI の低消費電力化には電源電圧
を下げることが最も有効です。しかし、単純に電源電圧を下げると、性能低
下や誤作動が生じるため、市販レベルでは電源電圧は約 1V で下げ止まって
います。そこで、電源電圧 0.3V に向けた超低消費電力ロジック LSI に関す
る研究を行っています。
(3)LSI と異種デバイスを融合させた大面積エレクトロニクス(図 3)
LSI は情報の処理や記憶は非常に得意ですが、サイズが小さいため、ヒュー
マンインタフェース用の素子としては使いにくい場合があります。そこで、
フレキシブルな数 10cm 角のプラスチックフィルム上に作成した低コストの
有機トランジスタや MEMS スイッチと、LSI を組み合わせた大面積エレクト
ロニクスのアプリケーション提案とこれに必要な回路技術の開発を行ってい
ます。これまでに、
「点字ディスプレイ」、
「無線電力伝送シート」、
「通信シート」
の実証を行ってきました。
■本研究室の特徴
図 2 無線通信用送受信 LSI のチップ写真
(1)新しい研究室
2005 年に発足した比較的新しい研究室で、桜井研究室と緊密に連携して
研究室を運営しています。当研究室の第 4 期生となる皆さんと一緒に、自由
な発想で研究を進めたいと考えています。
(2)企業出身の教員・産業界との連携
以前、半導体メーカの研究所で LSI 回路の研究開発に従事しておりました。
企業での経験を生かして、実用的な半導体技術を世の中へ発信したいと考え
ています。また、産業界との共同研究を積極的に行います。学生の皆さんに
も大学に閉じこもることなく、産業界の方々と交流することにより、半導体
技術の「ストライクゾーン」を会得して欲しいと考えています。
■ LSI 設計の面白さ
現在の最先端 LSI では、数 mm 角の LSI チップ上に、幅 100nm 程度の
線を縦横無尽に引くことにより、約 100 万個のトランジスタと呼ばれるス
イッチ素子を搭載することができます。最初は、設計の規模の膨大さと設計
自由度の大きさに面食らうかもしれません。しかし、100 万個のトランジス
タを自分の思い通りに使いこなして、意図した機能が実現されたときの喜び
は格別です。
また、LSI を動かすには回路技術だけではなく、半導体物理、半導体プロセ
ス・デバイス、コンピュータアーキテクチャ、無線通信方式、電波、測定装置
などに対する広範囲な知識が必要です。このように、広範囲の技術が連携して、
超大規模ハードウエアシステムの実現を目指すという点が LSI 設計の醍醐味
です。
学生へのメッセージ
図 3 LSI と異種デバイスを融合させた大面積エレクトロニクス
LSI は高度な技術が詰まったブラックボックスと考えられています。このブ
ラックボックスの中を 100%理解し、自由自在に設計できる人になりません
か? LSI 設計は産業的に重要な分野であるだけでなく、エンジニアのチャレ
ンジ精神を刺激するエキサイティングな分野です。ご連絡を、お待ちしてお
ります。
71
竹内 健 / Ken Takeuchi
【研究分野】半導体システム分野
研究内容
2007 年 7 月にスタートした新しい研究室です。 半導体メモリの大容量
化によって携帯電話・MP3 プレーヤー・デジタルカメラなどのポータブルデ
【研究内容】VLSI 回路設計・ナノデバイス
バイスが実用化され、今後もメモリの大容量化の必要性は益々高まっていま
す。例えば、メモリを現在の 100 倍大容量化することで 10 ドルのパソコン
を最貧国の子供達に配り、インターネットを通じて教育ができるようになり
ます。しかし、従来のシリコンの微細化技術による大容量化は限界を迎えて
います。当研究室では、強誘電体材料など従来の LSI では利用されていない
ユニークな物性を利用した新メモリや 3 次元 LSI など、ブレークスルーとな
る技術の研究を行っています。 研究領域としては、回路設計を中心としてシ
ステム・デバイス・物性物理と幅広い分野を扱っています。 研究室の詳細は
http://www.lsi.t.u-tokyo.ac.jp を参照して下さい。次に研究例を紹介します。
■ Fe-NAND フラッシュメモリ
メモリカードや携帯電話に使われているフラッシュメモリを更に大容量
化する可能性を持った Fe-NAND フラッシュメモリを世界で最初に提案し、
2015 年にテラビットの容量を実現することを目指しています(産総研酒井
グループ、生産技術研究所桜井・高宮研究室と共同)。Fe-NAND はメモリト
ランジスタのゲート絶縁膜が強誘電体膜 SrBiTaO と絶縁膜 HfAlO の積層で
構成され、従来の LSI では使われていない強誘電性物質を採用しているとこ
メモリの大容量化により実現したポータブルデバイス
ろが特徴です。Fe-NAND では、電界によって強誘電体の結晶格子内のイオ
ンを移動させて情報を記憶するため、数ナノメーター(格子サイズ)の極限ま
で微細化できることが期待されています。
■ 3 次元 LSI 回路設計
LSI を小型化・高機能化・低電力化する技術として、マイクロプロセッサー・
イメージセンサー・アナログ回路・DRAM・フラッシュメモリなど複数の LSI
を 1 個のパッケージ内に積み重ね、1 つの LSI として機能させる 3 次元 LSI
の研究を行っています。従来の研究では各種 LSI は独立して最適化されました。
当研究室では異種 LSI 間のレイヤーを超えて、領域を横断して最適化するこ
とで、低電力・高機能な 3 次元 LSI を実現するような回路の研究を行ってい
ます(生産技術研究所桜井・高宮研究室と共同)。
■ SSD(Solid-State Drive)システム
システム分野では、パソコンの記憶媒体として注目されている、Solid研究テーマ
State Drive の研究を行っています。フラッシュメモリと、それを制御する
コントローラーチップのアーキテクチャーの革新により、消費電力を半減す
ることに成功しました。現在、インターネット上で扱われるデータの量が爆
発的に増加した結果、サーバーのハードディスクの発熱の増大が問題になっ
ています。グーグルやアマゾンドットコムなどの大規模なサーバーでは、冷
却のために一社で年間 1 兆円以上の電気代がかかっています。メモリシステ
ムの電力を劇的に削減することで、地球環境の改善に貢献したいと考えてい
ます。
■教育方針
専門外に思える分野も相互につながっています。T の字のように視野が広
く、しかも特定分野について奥行きの深い、 T 字型人間
研究領域
の育成を目指して
います。まず研究テーマを基礎から深く掘り下げましょう。当研究室はシス
テムから物性物理まで幅広い領域を扱うので、自分の研究テーマ以外にも興
味を持ち見識を広めましょう。さらに研究成果の実用化に関して、知的財産
戦略やマーケティイグなどの技術経営(MOT)や、シリコンバレーなどのベン
チャー企業の動向を学ぶこともできます。
学生へのメッセージ
私は大学に赴任するまで東芝でフラッシュメモリの研究・開発に加え、工場
の立ち上げ・マーケティングなど様々な仕事をしてきました。また、アメリカ
で MBA を取ったり特許に関する裁判を経験したりと、ちょっと変わった経歴
のためか、学生さんから将来の仕事についてよく質問されます。先が見えない
時代、残念ながら私にも将来の動向など全くわかりません。しかし、変化の激
しい今を楽しむことがでれば、大変チャンスが多く面白い時代です。この「変
化を楽しむ力」の育成こそが大学の重要な役割だと思っています。その力の根
源は、成功体験に裏付けられた自信です。研究テーマに真剣に挑戦し、教員や
周囲の学生と助け合ったり議論したりする中から、自分なりに困難を克服でき
教育方針:T 字型人間を目指そう!
た、と思えればしめたものです。是非一緒に変化を楽しんでいきましょう。
72
藤島 実 / Minoru Fujishima
【研究分野】半導体システム分野
研究内容
私たちはエレクトロニクス社会を支える LSI テクノロジを用いて先端ワイ
ヤレスシステムの実現を目指します。あらゆるものがネットワークで結ばれる
【研究内容】先端ワイヤレス LSI システム
ユビキタスネットワークには、超小型軽量のワイヤレスシステムが不可欠で
す。ワイヤレス回路と共にシステムを構築するロジック回路も同時に作りこむ
ことができる LSI テクノロジは、超小型軽量のワイヤレスシステムの実現に
欠かせません。しかし、LSI に使われるシリコンは、化合物半導体よりも材料
としての性能が劣っていると考えられ、超高速のシステムを構築することは不
可能と思われていました。ところが、いまや、トランジスタの微細加工技術の
恩恵により、少し前までは不可能と思われていたギガビットを超える超高速通
信ですら LSI を用いて実現できる時代となりました。その結果、ブロードバ
ンドネットワークにワイヤレスで接続される超高性能システムを手のひらサ
イズに納めることも夢ではなくなりました。このような時代において、LSI を
用い、スピード・パワー・セキュリティのそれぞれの性能を高い次元で実現す
る先端ワイヤレスシステムを私たちは追究します。ワイヤレスシステムの進化
は、
コンテンツの拡大とポータビリティの向上に貢献するでしょう。私たちは、
最先端の LSI の性能を引き出し、ブロードバンドコミュニケーションとユビ
キタスネットワークの新しい可能性を切り開いていきます。
このコンセプトを具体化するプロジェクトをいくつか紹介しましょう。
波長が 10mm 以下のミリ波帯と呼ばれる電波を用い、ギガビットワイヤレ
ス通信を実現するプロジェクトに取り組んでいます。ミリ波帯の電波は直進
性が強く、これまで車載レーダーなどに用いられていました。このプロジェ
スピード・パワー・セキュリティを高い次元で実現する
クトでは、ミリ波通信を用いるトランシーバにより、品質を保証された高速
無線通信を目指しています。超高速無線通信回路は、ハイビジョン画像を伝
送するための HDMI と呼ばれるインタフェースをワイヤレス化します。また、
物の位置・速度・形などの情報を精密に得ることのできるインテリジェント
レーダを実現することも可能です。私たちは、超高速無線通信やインテリジェ
ントレーダの実現に向けた超高周波 RF 回路の研究を行なっています。ミリ波
帯向け LSI の研究を通じ、生活を豊かにする小型高性能なシステムづくりを
目指しています。
超高周波を用いる LSI システムの自動設計にも取り組んでいます。数十億
個のトランジスタが集積された最先端の LSI は、コンピュータによる設計支
援ツール抜きで設計することはできません。一方、
超高周波を用いる回路では、
トランジスタのパラメータだけでなく、キャパシタ、インダクタ、伝送線路
といった受動素子のパラメータを適切に選び、LSI の中に作りこむことが必要
ミリ波パルス送信回路
になります。この作業はロジック回路の自動設計とは異なり、勘や経験に頼
ることが多く、従来人手で設計されてきました。しかし、手軽に最先端のワ
イヤレスシステムを実現するには、超高周波回路でもコンピュータによる設
計支援ツールは不可欠です。そこで、我々は超高周波 LSI システムの設計を
支援するためのツール PREMICS を開発しました。PREMICS を用いれば、
所望の仕様を与えることにより LSI のレイアウト(設計データ)が予測性能と
共に瞬時に得られるようになります。超高周波回路の自動設計ツールの研究
を通じ、斬新なシステムレベルのアイディアを容易に具体化できる環境づく
りを目指しています。
テクノロジの進歩を利用し、革新的なシステムを作り出すためには、さま
ミリ波パルス受信回路
ざまなノウハウに支えられた独創的なアイディアが必要です。すなわち、常
識にとらわれない、何事もタブー視しない発想です。経験則は正しいとは限
りません。社会環境が変化すれば常識が実情に当てはまらない場面も出てく
るかもしれません。何事も鵜呑みにせず、思考プロセスの必然性を考え、自
由な発想で大胆に挑む、それが私たちの姿勢です。私たちは革新的なアイディ
アを出しながら様々なノウハウを蓄積することにより、大企業にも負けない
競争力のある成果を目指しています。
学生へのメッセージ
私たちは、これからの情報・通信に必要となる先端 LSI 技術を用いた新し
いシステム作りをめざします。研究室では、学生自身が実際に LSI を作ります。
LSI 回路の設計、設計支援ツールの作成、ギガビットワイヤレス通信システム
の設計など革新的な性能向上をもたらすためのさまざまな基盤技術の研究に
取り組むとともに、その卓越した性能を有効活用し「人に優しい LSI」を実現
したいと考えています。スーパーコンピュータの性能さえも 1 チップに収め
られる時代ですが、革新的なエレクトロニクスシステムを通じて未来社会を
超高周波回路自動設計プログラム PREMICS
一緒に考えようではありませんか。
73
藤田昌宏 / Masahiro Fujita
【研究分野】半導体システム分野
研究内容
集積回路技術の進歩により、大規模なシステムを高性能かつ低コストで製
造することが可能になり、情報家電、携帯電話や映像・音声機器の性能は飛躍
【研究内容】組み込みシステム・VLSI 設計支援
技術
的に高まりました。一方で、その設計期間・コストは急速な増加が大きな問題
となっています。これを解決するために、当研究室では、ハードウェア・ソフ
トウェア協調システム(組込みシステム)の設計を効率化するための設計方法
論・設計支援の研究を行っています。特に、近年、重要性が高まっている、
「上
位設計」と呼ばれる設計の初期段階を主なターゲットとし、実際の設計で十
分に適用可能な手法・方法論の実現を目指しています。以下に主な研究テーマ
を紹介します。
■上位設計方法論
近年の大規模な電子機器設計では、多くの開発メンバーが 1 つの設計プロ
ジェクトに参加することが当たり前になっています。全設計者が設計の仕様
を正確に理解していないと設計がうまくいかず、設計のやり直しによるコス
ト増加を招き、これが実際の設計現場においても問題となっています。これ
を解決するため、UML という図言語を用いたシステムの仕様記述方法を研究
しています。同時に、この仕様記述を核として、上位設計において設計再利用・
システムの性能見積もり・機能検証を考慮した設計方法論の検討も進めていま
す。これらの作業を上位設計で行い、設計するシステムにとって最適なアー
図 1. UML を利用した上位設計方法論
キテクチャと正しい機能仕様の正確な記述が得られれば、その後の設計工程
の効率が飛躍的に高まることが期待できます。
■設計再利用のためのプロトコル変換器の自動合成
大規模システムを短期間に設計するためには、既存設計を再利用すること
が有効です。実際に、大規模システムの全ての部分を初めから設計すること
は少なくなりつつあります。しかし、再利用したい機能ブロックが通信プロ
トコルの点で他のブロックと接続できない場合があります。このとき、プロ
トコル変換器を挿入すれば通信の相互変換が可能となり、その機能ブロック
の再利用が可能になります。この研究では、このプロトコル変換器の自動合
成の実現を目指しています。提案した合成手法はソフトウェアツールとして
実装されており、実用的なプロトコルの変換器が自動合成できます。今後は、
合成された変換器の正しさの検証やプロトコルの仕様を記述する方法を検討
していきます。
■形式的検証とデバッグ支援
システム設計では、設計が正しいかどうかを確かめる検証と、バグがあっ
た場合のデバッグに全体の 6 割から 8 割の時間が費やされています。そのた
め、当研究室では、自動検証とデバッグ支援の研究も行っています。検証では、
図 2. プロトコル変換器の合成
特に、数学的に設計の正しさを検証する形式的検証手法を扱っています。こ
れは、従来のシミュレーションで発生する「検証漏れ」の問題を解決するこ
とができるもので、当研究室では、上位設計の等価性検証を目指して、研究・
開発を進めています。
この他にも、近年注目されている動的再構成可能ハードウェア向けの合成
手法の研究や、当研究室で提案した設計方法論による高性能なハードウェア・
ソフトウェア協調システムの設計も行っています。
学生へのメッセージ
VLSI やハードウェアというと物理・物性の話だと思う人も多いかもしれま
せん。しかし、現在のハードウェア設計は、実現したい機能・性能を得るため
に、1 億個のトランジスタの動作を組み合わせる問題となっており、数学的
図 3. ハードウェア・ソフトウェア協調システムによって検証を高速化した
検証例
素養が重要になっています。そのため、当研究室で扱っている研究テーマは、
コンピュータサイエンスと電子工学が融合した分野となっています。
74
三田吉郎 / Yoshio Mita
【研究分野】半導体システム分野
【研究内容】知的半導体マイクロデバイス
(MEMS)
アスペクト比 1:107 は世界でも最高級の記録。
研究内容
柴田・三田研究室「TeamMEMS」では、ナノメートル領域でのものづく
りに軸足を置き、デバイスから回路・アルゴリズム・応用まで一気通貫に見通
した研究を目指しています。TeamMEMS は、柴田・三田研究室と中野・杉山・
種村研のメンバ中、主に MEMS を研究している部隊で研究室横断的にチーム
を作っているもので、連邦規格クラス 1 を誇る「武田先端知ビルスーパーク
リーンルーム」
(山手線内で最も清浄な部屋といえる)と、工学部 10 号館電
気系クリーンルームとを舞台に、半導体微細加工技術の腕を磨きながら、世
の中に新しい電子デバイスを提案するべく研究を行なっています。
Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)という言葉を御存知で
しょうか ? アメリカでは 80 年代、日本でも 90 年代から聞かれるようになっ
た、微小な機械構造とそれを応用した電子システムのことを言います。年々
微細化が進行しており、MEMS のカバーする領域は現在では、髪の毛の直径
程度(100μm)からその千分の一(100 ナノメートル)に迫ろうとしていま
す。既存の機械加工技術の限界を超えた精密機械ができること、特に MEMS
はシリコンの微細加工技術を応用するために、電子回路と集積化できるとい
う特徴があることなどの理由で、電気と機械を融合した高機能なデバイスが
できると期待されており、21 世紀になった今日も益々注目を浴びている成長
分野です。特に、今後は機械構造だけでなく、電子回路から先、アルゴリズ
ムまでを見通せる研究者・技術者が必要とされるようになると予想され、電気
系の素養が益々重要となってきています。
■高度半導体微細加工技術
MEMS は半導体加工技術で作製します。半導体加工といえば薄膜形成・パ
ターン転写・切削のいわゆる「積んで・リソして・削る」技術の集合といえま
すが、TeamMEMS はこの中でも「削る」技術、特に近年の MEMS で最も
注目されている、シリコン深掘りエッチング技術を最も得意としており、フ
ランスとの共同研究によって幅 374 ナノメートル、アスペクト比 1:107 と
いう世界でも最高級の深掘り構造を作製し、国際会議等で発表しています。
単に記録を出すだけでなく、エッチングの裏に潜む物理を理解し、物理の裏
付けを持った上で、幅広い応用が効く新たな三次元微細加工手法を提案して
います。チームに競争力があるので、入門してからきわめて短時間に成果を
出すことも可能で、先輩達の多くがマスター 1 年生のうちから国際会議など
の大舞台で活躍しています。
■ MEMS 融合高機能半導体デバイス
(左)信頼性と可能性の「いいとこどり」を目指す。
できあがった微細構造はバネや重りなどの機械的構造として使い、センサ
などにするのが一般的です。TeamMEMS ではこの常識を一歩進め、三次元
構造をただの機械構造としてのみ用いるのではなく、ダイオードやトランジ
スタなどの能動電子素子を高度に集積化して応用することを試みています。
三次元 MEMS 構造がちょうど光の波長と同程度にまで微細化したため、機械
的構造そのもので光の干渉や偏光などの制御ができるようになっており、こ
れと電子素子とを協調させることで高機能な新型素子ができるだろうという
目論見のもと、トレンチ型フォトダイオード(感度向上)や偏光素子集積化太
陽電池(液晶の偏光板に使えばエネルギーを回収して有効利用できる)を考案
したり、シリコンを 10μm 以下に薄くすると透明になると同時に自由に曲
げることができるようになるので、これを利用して集積回路をシリコーンゴ
ムの薄膜にはりつけて薄くすることで、透明、かつ、曲がる集積回路を考案
するなど、自由な発想で世界に提案を続けています。
■半導体デバイスとアルゴリズムの融合による高度情報処理
MEMS の画像情報処理分野への応用。例えばステレオ視ではスピードと
検出精度がトレードオフだが MEMS デバイスを融合することで速度と精
度の両方を向上できるだろう。
微細加工技術から半導体デバイスへ進化させる研究は、下から上へのいわ
ゆる「ボトムアップ」方向の研究ですが、特に平成 21 年度からは、アルゴ
リズムからひもといて電子デバイスを提案する「トップダウン」の方向も充
実させたいと考えています。例えば高機能なイメージセンサの分野はロボッ
トや車などへの応用で今後の成長が期待でき、この方向に TeamMEMS の知
見が活かせると考えています。情報学と半導体微細加工技術は遠い印象です
が、それだけに幅の広い充実した研究が楽しめることでしょう。
学生へのメッセージ
世界最高の装置を自由に使える。頑張ればすぐにエキスパートになれる。
「最近の若いものはものづくりを知らん」などとよく聞かされるので、心配
になったことはありませんか ? TeamMEMS に限ってそんなことは心配御
無用です。「超」のつく素人だった先輩も、アットホームな雰囲気に囲まれて
毎日を楽しく過ごすうちに、あら不思議、自分で半導体プロセスを走らせる
だけでなく、後輩に指導できるようになるのです。設計もあればビーカー片
手の実験もあり、はたまた半田付けもありで、各々の得意技を生かしながら
研究を進められることでしょう。
また、TeamMEMS はヨーロッパとの縁が深く、フランス国立情報学研究所
(INRIA- ベルサイユ)
、フランス電子工業技術高等学院(ESIEE- パリ)
、スコッ
トランドマイクロエレクトロニクスセンター(SMC- エジンバラ大)との交流
を盛んに行なっています。共同研究に遊学に、国際派で鳴らしてみたいあな
たにもお勧めです。
75
五十嵐浩司 / Koji Igarashi
【研究分野】フォトニクス・ワイヤレス分野
研究内容
インターネットに代表される情報伝送ネットワークの通信容量は増加の一
途を辿っています。今後、高精細動画の配信に代表される大容量コンテンツ
【研究内容】超高速フォトニックシステム
の普及がそれを更に加速させることになるでしょう。このような情報伝送容
量の急増に既存技術の延長によって対応するには限度があり、これに代わる
新規技術の開発が強く望まれています。その一つが光時分割多重(optical
time division multiplexing: OTDM)方式です。今まで、電子回路を用いて
信号の高速化を実現していた為に電子回路スピード以上の 100 Gbps を超
えるビットレートを実現することが困難でした。OTDM 方式は、電子回路を
用いるのではなく光デバイスを用いることによって信号の高速化を実現する
方式です。この技術を用いることによって電子回路帯域以上、例えば 160
Gbps、の信号ビットレートが実現可能となります。
本研究室では、この 160 Gbps OTDM 光ファイバ伝送システムに関する
研究に注目しています。そのシステムの構成を図 1 に示します。そこでは、
パルス列発生・時間多重分離及びクロック抽出といった機能を超高速領域で実
現する光デバイス・サブシステムが必須となります。当研究室では、それらを
高性能・高安定に実現する方式を提案し、160 Gbps 光送受信器を開発して
います。また、それらを用いて 160 Gbps 光信号の 1000 km 光ファイバ
伝送実験も予定しています。
図 1 160 Gbps OTDM 光ファイバ伝送システム。
■超短光パルス列発生器の研究開発
光変調器、非線形光ファイバそして位相同期ループを用いる方式を提案し、
実際に OTDM 送信器で必要となる 10 GHz ピコ秒パルス列発生器を実現し
ました。このパルス列を用いて 160 Gbps 光信号を発生させることが可能で
す。図 2 が開発したパルス発生器の外観写真と 160 Gbps 光信号の時間波
形です。本方式は、従来方式では実現が困難であった波長・繰返し周波数可変
性や高安定動作が実現されます。現在、更なる構成の簡素化及び 40 GHz 繰
返しの実現といった性能向上を図っています。
■光クロック抽出回路の研究開発
160 Gbps 光受信器では 160 Gbps 光信号から 40 GHz 電気クロック
信号を再生する機能が必要です。我々は、従来方式とは全く異なる動作原理
である光位相変調器と光フィルタを用いる方式を提案し、それを用いて 160
図 2 10 GHz パルス列発生器と 160 Gbps 光信号。
Gbps 光クロック再生回路を実現しました。著しく劣化した光信号に対して
も高安定な動作が実現できる方式です。
■光時間多重分離回路の研究開発
160 Gbps 光受信器では 160 Gbps 光信号を電気処理可能なスピードで
ある 40 Gbps のビットレートに時間多重分離する必要があります。上記ク
ロック再生回路と同様の方式で 160 Gbps 時間多重分離動作を実現しまし
た。また、光クロック再生回路と組み合わせることによって 160 Gbps 光
受信器を実現し、その高安定・低雑音動作を確認しています。図 3 が 160
Gbps 光受信器の構成です。その光クロック再生回路の外観写真、抽出され
た 10 GHz クロック電気信号と多重分離 40 Gbps 光信号の時間波形が図 4
です。
当研究室は菊池和朗教授の研究室と共同運営しています。両研究室の技術
図 3 160 Gbps 光受信器の構成
を融合した高機能・超高速伝送システムの構築も視野に入れた研究を進めてい
きます。
学生へのメッセージ
今、企業が求めているのは、本当に能力を有している人材です。大学・大学
院では、自分の能力を向上させることに貪欲になってください。講義で得ら
れる知識・技能とは異なる能力を、大学院の研究を通じて、身につけることが
可能です。そこで得られるものは、社会に出た後の人生を大きく変える「ち
から」になるでしょう。
図 4 光クロック再生回路、160 Gbps 光信号・クロック信号・多重分離
信号。
76
何 祖源 / Zuyuan He
【研究分野】フォトニクス・ワイヤレス分野
【研究内容】フォトニックセンシング・コン
ピューティング
研究内容
フォトニクス(Photonics)は光の発生、制御、伝搬、検出とその応用シス
テムを研究する学問分野です。21 世紀の情報化世界の中で、フォトニクスは
これまで以上に重要な役割を担っています。情報の取得、処理、伝送、保存
や表示などの技術は、光によれば、今までより高精度、大容量、高速度ででき、
社会基盤、環境、産業、民生、医療、宇宙開発などの領域にわたって、幅広
く応用されています。本研究室の研究テーマは、主に情報の取得と処理のた
めのセンシングとコンピューティング技術にあります。フォトニクスに基づ
いて、種々の新しい光ファイバセンシング、光デバイスの特性計測技術、お
よび光コンピューティング技術を開拓しています。
当研究室は、保立和夫教授研究室と連携しており、共同研究テーマも進めて
います。
■ 光リフレクトメトリと光デバイス・システムの診断
図 1 高速高精度光リフレクトメトリの構成(a)、従来手法による測定結
果(b)、波長掃引平均を施し、精度を向上した結果(c)。
光ファイバ通信を支えている重要な基礎技術の一つに、光計測技術があり
ます。本研究室では、光の干渉、偏波、非線形効果などの物理現象を用いて、
光ファイバ、光デバイスと光システムの計測技術の研究を進めています。具
体例として、光デバイス診断用光リフレクトメトリ、そして光ファイバ加入者
系ネットワーク(Fiber to the Home: FTTH)診断用光リフレクトメトリの
研究を展開しています。光リフレクトメトリは、光経路に沿った反射・後方散
乱の位置分布を測定することによって、光ファイバの断線や光デバイスの異
常などを診断する技術です。従来、光パルスを用いて反射箇所を特定する時間
領域手法などがあります。しかし、従来手法は、空間分解能、反射率精度と測
定時間などの制限により、光デバイスの高精度診断や FTTH ネットワークの
診断には適用できません。これに対して、本研究室では、光の干渉特性を制御
する「光波コヒーレンス関数の合成法」(SOCF)を活用し、連続光で機械的
な掃引とデジタル計算を必要としない光リフレクトメトリに成功しました。
図 1 には光ファイバシステムの製造工程において未解決な課題である光
ファイバモジュールの診断のために発明した新型高速・高精度光リフレクト
メトリの例を示しています。光リフレクトメトリのレーザ光源に、分布計測
に必要な正弦波光周波数変調に加えて連続的な光周波数掃引を施すことで、
SOCF と波長掃引平均法を光学的に融合させ、反射分布計測を高速・高精度
で実現させることを可能にしました。
■ フォトニックセンシング
図 2 ダイナミックグレーティングを用いた分布型光ファイバセンサの構
成(a)、歪分布測定実証結果(b)、歪センシング感度実証結果(c)。
光ファイバは、光波の伝送媒質として、光通信に使われています。さらに、
光ファイバを伝搬する光波の強度、位相、周波数、偏波状態などの特性は、
外部の温度、圧力などの変化を感知することができます。これによって、光
ファイバは分布型のセンサになり、測定対象(温度、圧力など)対空間位置の
分布情報を得ることができます。光ファイバを複合材料・構造に組み込むこと
によって、自己診断機能を有するスマート・マテリアルとスマート・ストラク
チャが実現できます。本研究室では、このような「痛みの分かる材料・構造」
を目指して、新しいセンシングデバイスとシステムの創成を進めています。
図 2 に PM − EDF という特殊な光ファイバにダイナミックグレーティン
グを光ファイバの任意位置に合成し、分布型歪センシングを実現した例を示
しています。また図 3 に、光ファイバ中のブリルアン散乱という非線形現象
の特性を検討し、温度と歪の同時分離測定という難関をチャレンジする実験
系と実験結果の例を示す。
■ フォトニックコンピューティングとバイオフォトニクス
図 3 光ファイバ中のブリルアン散乱スペクトルおよびその歪・温度依存
性の測定系(a)
、各次ブリルアン散乱の周波数対歪・温度依存性の
測定結果(b)(c)
光通信・光ファイバセンシングなどの分野で発展させ鍛えてきたフォトニク
ス技術を活用して、新たな高機能光生体計測・情報処理技術を探求し、研究を
進めています。光の波長(スペクトル)
、偏波などの物理特性を制御し、光波
の干渉・相関を操作することによって、今まで見えないもの、隠されたものを
画像化することができます。その好例の一つは、光コヒーレンストモグラフィ
(OCT)があります。光トモグラフィは、X 線等を用いたトモグラフィにまつ
わる被ばく安全性の問題を回避し、人に優しい非侵襲臨床診断技術として大
いに注目されています。さらに、血流の流速など動的な情報の無侵襲画像化
も実現できると考えられます。本研究室では、「光波コヒーレンス関数の合成
法」を活用し、純光学的な合成コヒーレンス光トモグラフィ(SOCT)技術を
発明しました。図 4 は、SOCT によって得られたある人工散乱物体の断層像と、
SOCT システムにドップラーシフト周波数の測定という手法を加えて、散乱
物体中の移動部分の速度分布を得た結果を示しています。
学生へのメッセージ
図 4 合成コヒーレンス光トモグラフィ像(a)(サンプル I)、3 次元散乱
分布(b)と 3 次元速度分布(c)(サンプル II)。
「好的開始是成功的一半」と中国の諺があります。気を引き締めて本気で始
めることが一番大事です。
77
菊池和朗 / Kazuro Kikuchi
【研究分野】フォトニクス・ワイヤレス分野
研究内容
インターネットを流れる情報トラフィックは、年率 100%以上の増加率で伸
び続けています。光ファイバ通信システムは、このような膨大なデータを流通
【研究内容】光・量子情報ネットワーク
させるグローバル・ネットワークのための基盤技術として大発展してきました
(図 1)。そして現在、大容量コンテンツの配信を可能にするブロードバンド・
アクセスの普及により、光ファイバ通信システムには、超高速・大容量の信号
伝送能力、柔軟な信号処理機能など、従来に比べて格段に高い性能が要求され
るようになっています。 しかし、単なる従来技術の延長でこれらの要求に対応
することは次第に困難になりつつあり、新しい概念を導入した技術革新が急務
となっています。
このために本研究室では、量子エレクトロニクスや情報理論に立脚した光・
NW
量子制御のための新機能の創成、これに基づく極限的な光・量子制御技術の開
発、これらの技術のシステム上での実証という方向で研究を推進しています。
したがって、研究分野は物理、光デバイス、計測、ネットワークなどの広い分
野をカバーしていて、これらの中から自由にテーマを選択することができます。
以下にいくつかの研究テーマの例を紹介します。
光通信で利用されている光波長は 1.55μm であり、
周波数は 200 THz
(2 ×
1014 Hz)という超高周波領域にあります。この豊富な周波数資源を如何に有
効に利用するかが、
将来の光ネットワークの課題です。私たちは、
2つのアプロー
チでこの問題にチャレンジしています。
図1 光ファイバ情報ネットワークの構成
第一は、光の波動としての性能を極限まで発揮させるための技術開発です。
現在の光ファイバ通信技術では、光強度のみを変復調のパラメータとして用い
ていますが、電気通信技術に見られるように位相情報を駆使することによって、
より高度なシステムを構築できる可能性が開けてきました。私たちの研究室で
は、デジタル・コヒーレント光受信器という新しいコンセプト(図2)を提案し、
光位相を操る技術の開発を進めています。この受信器では、ホモダイン検波に
Signal
Phase & Polarization
Diversity Optical Circuit
ADC/DSP
Decoded
symbol
より光複素振幅の情報を得た後、高速のデジタル信号処理によって送信された
シンボルを復元しています。図2にデジタル・コヒーレント光受信器を用いて
復調された 30Gbps、8相 PSK 信号の複素振幅分布をあわせて示します。光
Free-running
Local
Oscillator
の複素振幅が8つの領域に変調されており、シンボル当たり 3 ビットの情報を
図2 デジタル・コヒーレント光受信器の構成と8相 PSK 信号の光複素振
幅分布
送ることができます。このような技術は、将来、無線通信並みに光の周波数資
源を有効活用する手段となるでしょう。
第二は、光が潜在的に持つ超高速な情報処理機能を実現するための技術開
発です。このためには、電気信号への変換を介さずに、光のままで信号処理を行
なう技術の確立が必要です。私たちの研究室では、ピコ秒(10 − 12 s)領域で
動作する非線形光信号処理デバイスおよびシステムに関する研究を行っていま
す。図 3 は民間企業と共同で開発した世界最高性能の高非線形 Bi2O3 ガラス
フォトニック結晶ファイバの断面写真です。ガラスの高非線形性と空孔によっ
て囲まれた小さなコアのために、非線形性が増強されています。このファイバを
用いて各種の非線形光信号処理デバイスを開発し、大きな成果を上げています。
また、五十嵐講師と共同で、160Gbps、2,000km 伝送システムテストベッ
50 µm
ドを構築しており、実際のシステム上で自分の開発した超高速デバイスやサブ
5 µm
システムを評価することも可能です。
さらに遠い将来を考えると、光ファイバネットワークで量子情報がやりとり
図3 非線形性を増強した Bi2O3 ガラスフォトニック結晶ファイバの断面
構造
されることが予想されます。量子情報の伝達は 量子テレポーテーション と
呼ばれるプロトコルによって行われますが、このプロトコルを実行するために
は、リソースとして量子エンタングルメントを用いる必要があります。量子エ
ンタングルメントを共有することができれば、高度な量子情報処理、例えば分
Classical
Comms
Line
Control
Circuits
散量子コンピューティングや量子暗号が可能になるのです。私たちの研究室で
は、光ファイバの非線形光学効果を用いて量子エンタングルした光子対を生成
AWG
1
A
2
B
3
C
4
D
1
A
2
B
3
C
4
し、光ファイバ伝送路でこれらを超高速で配布する量子情報ネットワークに関
して、基礎的な研究を行なっています。図4は、量子情報ネットワークで用い
PBS
Beam-splitter
Decision
Circuits
られる量子中継器の構成図です。実際にこのような中継器を作ることを目標に、
研究を行なっています。
D
QM PWC
Photon
detectors
学生へのメッセージ
私たちの研究室では、どんな課題に対しても徹底した議論を通じて、より
深い理解に至ることを重要視しています。このような議論では、学生といえ
図 4 量子テレポーテーションを可能にする多波長量子中継器の構成
ども対等な研究者として扱いますので、 自分の頭で考える という研究者と
して最も大事な習慣が身につくと思います。大学院での自由な時間、恵まれ
た研究設備、まわりにいる優秀な研究者をフルに活用して、果敢に研究にチャ
レンジして下さい。
78
廣瀬 明 / Akira Hirose
【研究分野】フォトニクス・ワイヤレス分野
【研究内容】インテリジェント&ワイヤレス エ
レクトロニクス
研究内容
当研究室では、電波、光波などを利用する計測や通信の情報エレクトロニ
クスに、人間の脳の仕組みも取り入れた、新しい波動工学・アンテナ工学を開
拓しています。たとえば、柔軟なイメージングや通信方式の開発、高機能な
アンテナの設計やシステム構築、そのレーダなどのシステムへの応用などに
関する研究を進めています。
■脳の不思議とその工学的利用
生まれて間もない赤ちゃんでも、動くものを目で追いかけようとします(赤
ちゃんの追視)
。これは人間が生きてゆく上で必要な無意識な行動です。この
ような非記号的な(明示的な論理によらない)情報処理はパターン処理とよば
れ、単純な反射から複雑な「気分」や「第六感」に至るまで、人間のあらゆ
るレベルで見られます。一方、多くの大人は論理的な思考(足算、アルゴリ
ズムを考えるなど)も行うことができ、これは記号処理とよばれます。この両
方を「脳」はやってのけています。その原理は、サイエンスとして全てが明
らかになっているわけではありません。しかし多くの推測がなされており、
新しい脳的機能を創造してゆくことによりエンジニアリングとして面白い世
界を構築してゆくことができます。
図 1 【理論の構築】脳の原理を拡張して新しい情報処理・信号処理の基礎
を作る
■モノ作り
われわれは実際にそのような新しい脳的処理原理を構築し、それに基づい
たシステムやサブシステム、デバイスを実現して、有用なモノづくりを進め
ます。たとえば、電磁波や光波の位相を見ることができる「眼」と「脳」に
よるレーダ・システムなどです。有用なモノを構築し、コト(機能)を実現し
て世の中に役立てます。
■ユビキタスでの活躍
図 2 【創造と発明】脳型システムに適した新しいモノを考案し設計する
高度な位相情報処理が重要な役割を演ずる最も重要な分野が、ユビキタス
やモバイルなどの通信分野や計測分野です。たとえば、ある特定の望ましい
電波を受信し不要な電波を避けるような、高い機能を持った柔軟なアンテナ
を、位相と振幅(すなわち複素振幅)を自在に操ることによって、さまざまに
実現してゆきます。ユビキタスの空間自体が賢い、いわばインテリジェント・
ユビキタス空間です。現代社会は多様な情報を担った電波が複雑に行き交う
社会です。脳的な柔軟性やさまざまな分散的・適応的な手段を創造してゆくこ
とによって、世界の人々が より安全・安心に心豊かに暮らせるよう貢献した
いと、研究室一同頑張っています。
■テーマ例
アダプティブ・アンテナ:ユビキタスで活躍する賢いアンテナシステム、ア
図 3 【実現と評価】新方式のシステムを作製し性能を評価して、また実際
に役立てる
ンテナとイメージング:ミリ波・マイクロ波による画像化セキュリティシステ
ム、電磁波計測と適応処理:対人プラスチック地雷レーダ・システムの開発、
超音波計測:超音波精密 3 次元計測、画像処理原理:人工衛星による地球計
測のための脳型複素振幅画像処理、自然画像中の文字情報抽出、光波情報処
理:超高速光通信システムの適応的高速分散補償、3 次元ムービーの高速生成、
脳型システム:能動性の発現機構
学生へのメッセージ
思う存分 楽しいことができ、人も幸せにできれば、理想的です。研究の楽
しさを早く見つけてください。詳しくは、ウェブページをご覧下さい。
図 4 【新たな展開】アイデアをユビキタスやさまざまな情報エレクトロニ
クスに応用する
79
保立和夫 / Kazuo Hotate
【研究分野】フォトニクス・ワイヤレス分野
研究内容
当研究室では、フォトニクスとフォトニクスデバイスの物理に基盤を置い
て、新たなセンシング機能やコンピューティング機能を創成するシステムの
【研究内容】システムフォトニクス
提案・研究を進めています。光ファイバや半導体レーザ、光増幅器といったフォ
トニクスデバイスは、インターネット社会を支える光通信技術を実現しまし
たが、この他にもこれらデバイスを賢く活用して、様々な新機能を創成する
ことが可能です。本研究室では、これまでに、航空機等の姿勢制御にとって
不可欠な絶対回転センサ機能を実現する「光ファイバジャイロ」や、橋脚や
パイプラインに張り巡らせた光ファイバによりこれら構造や材料に加わる歪
分布を mm の空間分解能で測定できる「光ファイバ神経網」など、ユニーク
なセンシングシステムを提案・実現してきました。システムと言っても、単に
デバイスを組み合わせると出来るものは扱いません。システム化する場面で
斬新なアイディアを投入することにより、他の手法では全く不可能な性能・機
能を実現します。つまり、不可能を可能にする「手品」をしたいのです。手
品ですから、もちろん種があります。その種は、光物理でありデバイス物理
であって、これにより新機能を有したシステムを創り上げるのは、私たちの
アイディアです。このような研究領域を「システムフォトニクス」と名づけ
図 1 痛みの分かる材料・構造の為の光ファイバ神経網
ました。
当研究室は、山下真司准教授、何 祖源准教授の研究室と連携しており、
何研究室とは共同研究テーマも進めています。
■痛みの分かる材料・構造の為の光ファイバ神経網技術
光ファイバに加わる歪や温度等の分布状態を高い空間分解能でセンシング
するシステムを提案・研究しています。この分布的センシング機能を持たせ
た光ファイバを、橋脚や航空機の翼に張り巡らすことで、これらに自己診断
機能を付与できます。「痛みの分かる材料・構造の為の光ファイバ神経網」の
実現です(図 1)
。光ファイバを伝搬する光波が後方に生成する誘導ブリル
アン散乱の周波数シフト量から引張り歪が分かります。
「光波コヒーレンス関
数の合成法」と名づけた独自技術によると、この散乱発生位置を狭い領域に
局在化しつつ掃引できます。こうして発明した光ファイバ神経網技術である
BOCDA 法(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis)
(図 2)は、
従来法を 3 桁も凌ぐ空間分解能 1.6mm(図 3(a))と従来法を 10 万倍も凌
図 2 ファイバブリルアン光相関領域解析法(BOCDA 法)による光ファイ
バ神経網システム
ぐ 1KHz のサンプリング速度を達成しました。図 3(b)
は、BOCDA 法によ
る高層ビルモデルでの多点・動的歪センシング結果です。
光ファイバグレーティング(Fiber Bragg Grating: FBG)
という歪センサ
を光ファイバに沿って多数配置し、多点歪計測を実現するシステムも開発し
ています。長尺な FBG 中の歪分布を測定できる独自の新技術も、
「光波コヒー
レンス関数の合成法」を手品の種として、提案・実現しました(図 4)。光ファ
イバに沿う側圧分布センシング、振動分布センシング、温度分布センシング
など、様々な「光ファイバ神経網」も創造しています。
最近、BOCDA 法の可般型システムを計測器メーカと共同開発し、ビジネ
スジェットに搭載して、急降下や急旋回時の機体の歪を動的にまた分布的に
測定することに成功しました。将来、全ての航空機の入り口に[Hotate-Lab.
Inside]とステッカーが貼られるように、オリジナル技術の実用化を進めた
図 3 BOCDA 法による 1.6mm 空間分解能の実現(a)とビルモデルでの多
点・動的歪センシング(b)
いと考えています。
■光ファイバジャイロ
光波の干渉により慣性空間に対する回転角速度をセンシングできる光ファ
イバジャイロを、わが国で初めて実現して、その実用化へと研究を進めてき
ました。ボーイング 777 や M-V ロケットの航法や、2 足歩行ロボット制御、
無人ヘリ制御、望遠レンズ安定機構、地殻変動計測等、新用途も開拓されて
います。最近、フォトニック結晶ファイバという新デバイスの物理を活用して、
本ジャイロの性能を格段に向上させる研究を展開しています。
■フォトニックセンシング・フォトニックコンピューティング
電流・磁界センサ、音響波センサ、振動センサ等も提案・研究しています。「光
波コヒーレンス関数の合成法」により、機械的可動部分もデータ後処理も不
要な光並列情報プロセシングシステムや、散乱媒体の断層像取得システム(光
コヒーレンストモグラフィ)
、光ファイバ加入者系の診断技術等も、提案・研
究しています。
図 4 長尺光ファイバブラッググレーティング内の歪分布センシング。実
験結果とシミュレーション結果
学生へのメッセージ
「知識と情報」を糧にして「想像力」を大いに働かせることが、新技術を「創
造」することにつながります。
「糧」を取得する努力のみならず、好奇心を醸
成して「想像力」を鍛錬しましょう。
80
山下真司 / Shinji Yamashita
【研究分野】フォトニクス・ワイヤレス分野
【研究内容】フォトニックデバイス
研究内容
山下研究室では、光通信・センシングシステムにとって重要な新しい光デバイ
スの研究を進めています。インターネットや携帯電話などの通信サービスを影で
支えているのは光ファイバ通信です。現在では、
波長多重(WDM)
を用いた超大
容量(1Tbit/s 以上)
・超長距離(10,000km 以上)光ファイバ通信が実現さ
れており、一本の光ファイバで 10Tbit/s 以上のデータ伝送が可能になっていま
す。そのためのキーデバイスとして、エルビウムドープ光ファイバを用いた光増
幅器(EDFA)、ある波長の光のみを選択するデバイスである光ファイバ型回折
格子(FBG)
などの光ファイバデバイスが挙げられます。さらに、将来のフォトニッ
クネットワークのための全光光信号処理のためには、光非線形性を利用したデバ
イスが不可欠です。山下研究室では、以下に示すような次世代の通信およびセ
ンシングのためのフォトニックシステム/デバイスの研究を進めています。
■光ファイバレーザ
図 1 広帯域・高速波長可変モード同期光ファイバレーザ
上記の EDFA などの光増幅媒質に、これに上述の FBG などで光帰還を与え
る、つまり光共振器を構成することにより簡単にレーザが構成できます。光ファ
イバレーザは多くの波長の光を一括で出力することができ、またモード同期とい
う技術により短パルスが容易に得られるという特長を持っています。当研究室で
は、多波長およびモード同期光ファイバレーザを通信およびセンシングに応用す
るための研究を進めています。
最近の研究の一例として、図 1 に示す半導体光増幅器(SOA)
を用いた新し
いタイプの光ファイバレーザがあります。これは外部から電気信号で光共振器に
変調をかけるモード同期レーザという短パルスを発生できるレーザの一種ですが、
通常は光共振器内の波長分散をできるだけ小さくするところ、逆に非常に大きな
波長分散を与えることで、パルスは短くないものの電気信号の周波数により発生
する光の波長を制御できるレーザです。電気信号の変調は非常に速く行え、ま
た SOA の利得波長範囲は広いため、非常に広い波長範囲(100nm 以上)
を
高速(繰り返し周波数数十 kHz)でスキャンすることができます。このレーザの
光ファイバ計測、および医療応用についても研究を進めています。
■ UV 光照射による光デバイス作製
光ファイバに紫外(UV)光を照射してミクロンオーダーの屈折率構造(グレー
ティング)
を書き込むという技術が近年開発され、ある波長の光のみを選択する
素子として幅広く応用されています。これが FBG で、当研究室では、大容量
WDM のための新しい FBG を提案・試作し、発展させています。さらに、UV
光照射技術を用いた光導波路の作製にも取り組んでおり、高機能な光導波路素
子を低コストで実現する方法を研究しています。
■光ファイバ非線形デバイス
図 2 ビスマスガラス非線形光ファイバ中でのパラメトリック増幅の世界
初の実現
光ファイバに高いパワーの光を入れると、種々の光非線形現象を起こすことが
できます。当研究室では、光信号処理に特に有用な四光波混合(FWM)
やパラ
メトリック増幅(PA)
と呼ばれる非線形現象を利用したデバイスとその通信応用
の研究を進めています。図 2 は、昨年度に世界で初めて実現したビスマスガラ
ス非線形光ファイバ中での PA の実験結果です。通常の石英ガラス光ファイバで
は光非線形性が小さいため、数十メートル以上の長さが必要ですが、もともと光
非線形性が大きいビスマスガラスで作られた光ファイバにより、1 メートル程度
で PA を実現することができました。このデバイスを全光光信号処理や光ファイ
バレーザに応用することを検討しています。
■カーボンナノチューブ光デバイス
図 3 カーボンナノチューブを用いた世界最小のフェムト秒光ファイバ
レーザ
最近、
カーボンナノチューブ(CNT)
が光非線形性を持つことが発見されました。
当研究室では、CNT を利用した通信用光デバイスの研究を進めています。図 3、
4 はカーボンナノチューブを用いた世界最小のフェムト秒光ファイバレーザの写真
と実験結果です。ここでは CNT は非常に高速な可飽和吸収素子として働いてい
ます。可飽和吸収とは光の強弱により吸収量が変わる現象で、
ちょうど上述のモー
ド同期と同じことが起こり、短い光パルスを生成することができます。CNT が超
小型であるという特性を生かし、全長 1cm で繰り返し周波数 10GHz という世
界最小ながら高出力短パルス光ファイバレーザの実現に成功しています。
■通信用光デバイス
その他にも通信用の光デバイス、波形整形器や可変光フィルタの研究を進め
ています。
学生へのメッセージ
図 4 カーボンナノチューブを用いた光ファイバレーザの構成およびパル
ス波形・スペクトル
レーザなどの理解のためにはその物理を理解することがもちろん必要です。た
だし物理だけでは不十分です。レーザだけをとってみても一つのシステムで、そ
の組み合わせかたにより特性は全く異なります。ましてや光ファイバ通信や計測シ
ステムはさらに複雑で、まだまだ開拓の余地はたくさんあります。当研究室ではこ
のような光という物理現象を用いたシステムの研究をしています。すでに良く知ら
れている物理現象でもシステムの作り方によっては全く新しい機能を引き出すこと
も可能です。一緒に世の中に貢献できる新しい光システムを創造してみませんか?
81