移動マニピュレータにおけるプラットフォームとアームの双方向協調

移動マニピュレータによるプラットフォームとアームの双方向協調
山本研究室
上水 光士
緒言
移動マニピュレータは,機動性の高い移動プラットフォー
ムと,それに搭載された多関節ロボットアームから構成さ
れる.そのため,固定式のマニピュレータに比べ,非常に広
範囲な作業領域をもつだけでなく,プラットフォームの機動
性を積極的に作業に導入することにより,固定式のマニピュ
レータの作業と比較して作業時間の短縮など作業性の向上
が可能となる.このようにアームと移動ロボットの協調動
作を用いたシステムは,製造業における搬送やメンテナン
スのほか,福祉や災害救助など様々な分野での活躍が期待
される.従来から移動マニピュレータに関する研究は数多
くされているが,力学解析や制御方法,および移動経路の
計画を容易にするために,アームと移動プラットフォーム
をそれぞれ独立したシステムとして扱う場合が多い.この
場合,アームと移動プラットフォームのどちらかだけが動
いている状態になり,実際の作業では非効率的である.ま
た 本のアームだけで実行可能な作業には限界があり,人
間の腕のように 本のアームが備わることにより作業の範
囲が飛躍的に広がる.そこで本研究では, 本の多関節アー
ムを 台の移動プラットフォームに搭載した双腕型の移動
マニピュレータの双方向協調のシステム開発をすることを
目的とする.
双腕型移動マニピュレータの構成
¾º½
ハードウェアの構成
¾º¿
マニピュレータの構造概要
システムのモデリング
½ ½ ½ ½ ÚÚ ½ Ì ½
¾ ¾
¾ ¾ ¾ ÚÚ ¾ Ì ¾
Ú Ú
Ú
ÚÚ Ì Ú Ú ½½ Ú ¾¾ ½
式 は 本のアーム,式 は移動プラットフォーム
の運動方程式を表している.式 , における右辺第 項は,移動プラットフォームの加速度運動が各アームに及
ぼす動的干渉力を,式 の右辺第 , 項はアームの加速
度運動により,移動プラットフォームが受ける動的干渉力
をあらわす.
本研究で使用した双腕型移動マニピュレータの脚部に相
当する移動プラットフォームは 輪独立駆動型の車輪型移
動ロボットで, 社製 を使用してい
る.双腕マニピュレータの各アームは,肩に 自由度,肘・
手首に 自由度を有し, 本のアームを支える架台の昇降
に 自由度の計 自由度を持っている.移動マニピュレー
タの概観を図 に示す.
双腕型移動マニピュレータの模式図
図 に双腕型移動マニピュレータの模式図を示す.ここで
¼ における車輪間の中点の座標 ¼ ¼ ,
は移動プラットフォーム進行方向が 軸と成す角度, Ö
と Ð は移動プラットフォームの右輪と左輪の回転角, は
車輪の半径, は車輪間距離である.移動プラットフォー
ムは,車輪を有するため式 のホロノミックな制約と式
, の非ホロノミックな制約を受ける.
¾º¾
双腕型移動マニピュレータ
マニピュレータの関節設定
今回使用した双腕マニピュレータは片腕 自由度ずつと,
架台の昇降が 自由度の計 自由度を有する.各リンクの
座標系の設定を図 に示す.
¼ は慣性座標系
Ö Ð
¼ ¼ ¼ ¼ Ö Ð 移動プラットフォームは,車輪を有するため式 の左
右の車輪の回転角の差によって,移動プラットフォームの
進行方向の角度が決定されることを示す.式 はプラット
フォームの瞬間的な横方向の速度成分がゼロであることを
表している.式 は車輪と床の間にすべりを生じないと
Ì
いう制約を与えている.ここで ¼
¼
Ö
Ð
とすると非ホロノミック拘束条件式 は次のように表
せる.
ここで
!
¾
¾
Ö
Ö
"
をその列ベクトルが非ホロノミック行列 ヌル空
間に存在するような の行列であるとすると, は
を満足する.拘束条件式 より,速度ベク
トル も非ホロノミック行列 のヌル空間に存在しなけ
ればならない.つまり ½ ¾ である.こ
Ì
が存
のとき次式を満たす滑らかなベクトル ½ ¾
在する.
式 を時間微分すると次のようになる.
Ì Ú Ú Ú Ì ÚÚ Ì Ú ½½ Ì Ú ¾¾ 式 を用い,式 に左から Ì を掛けると
式 と式 に式 を代入したものを整理すると
双腕型移動マニピュレータのモデルとして次式が得られる.
Ì Ú Ì Ú Ì Ú ½ ½
½
½
½ Ú
¾
¾
¾
Ú
Ì
Ú
Ì
Ú
½ ½ ½ Ú ¾
¾
¾
Ú Ì
Ú Ú ½ ¾ Ì ½¾
制御システム
協調方法
双腕マニピュレータと移動プラットフォームの協調方法
は,まず双腕マニピュレータが初期状態(可操作性最大)時
の両手先の中点に移動プラットフォームの参照点を設定す
る.双腕マニピュレータが目標に向かって手を伸ばすと,移
動プラットフォームは手先の中点に設定された参照点を追
従するように移動する.手先が目標に到達すると手先はそ
の位置を維持しながら、参照点が手先位置と一致するまで
移動プラットフォームは移動する.参照点と手先位置が一
致した時点で,双腕マニピュレータが初期状態(可操作性
最大)の状態になり,双腕マニピュレータと移動プラット
フォームはともに動作を停止する.
動作シミュレーション
%&'$()*+ を使用して先で述べた協調方法の動
作シミュレーションを作成した.このシミュレーションはマ
ニピュレータに目標位置 13 座標 を与えると,マニピュ
レータは目標を追うようにアームを伸ばす.アームが動くこ
とで両手先の中点に設定した参照点が動き、アームを可操
作性最大,つまり初期状態と同じ状態になるように動作す
るプラットフォームはこれを追従するように動き出す.アー
ムは目標位置に近づくにつれて伸びていたアームが初期状
態と同じ状態になるように動き,その時点で結果てきにプ
ラットフォームも動作を停止する.つまり,目標位置に到
達するとアームと移動プラットフォームは初期状態と同じ
姿勢で止まる.シミュレーションの事例を図 に示す.
制御システム
双腕型移動マニピュレータの制御システムは,マニピュ
レータと移動プラットフォームがそれぞれ別のパソコンで制
御され,両者の協調動作に必要な情報が 台のパソコン間で
ボードを介して交換される.マニピュレータの制御には #$
ボード %% 社製 を用い,ソフトウェアには %&',
$()*+, , *-( . +/ 0 を用いる.移動プラット
フォームの制御には無線イーサネットを用い,&)1 上の 2
言語プログラムによって制御する.ソフトウェアには $ 0/
用いる.
制御システムを図 に示す.まずマニピュレータの現在
の姿勢情報を 2 により読み取り、その情報を 2 から
2 に送信される. 2 から移動プラットフォームにマニ
ピュレータの姿勢情報に応じた制御命令を生成し、無線を
介して送信する.次に移動プラットフォームの現在の位置
情報が 2 に返される.その情報を 2 から 2 に送ら
れ, 2 からマニピュレータに位置情報に応じた制御命令
が生成され、送られる.この制御システムによりマニピュ
レータとプラットフォームの双方向協調が可能となる。
シミュレーションの事例
結言および今後の課題
双腕型移動マニピュレータの双方向協調の制御システム
の開発, %&',$()*+ による動作シミュレーショ
ンを作成した.今後の課題として具体的な作業を想定して
のシミュレーションの考察,実機による双方向協調の制御
システムの開発,実機による動作確認などが挙げられる.