第 12 報 疏水分線・哲学の道の散策―1

08−06−17記
第 12 報
疏水分線・哲学の道の散策―1
前回までは、大津運河―山科疏水―蹴上地区―鴨東運河―鴨川運河の疏水本線20km
の散策を紹介したが、今回は蹴上地区から分かれて南禅寺境内を経て「哲学の道」につな
がる疏水分線の散策コースを紹介する。
建設当時にはこの分線ルートが疏水本線であり、主目的の一つであった工業用「水車動
力」の確保のため蹴上以北の東山斜面に数段の水車群を設置し、この水車回転軸に直結し
た設備を持つ工場地帯にする予定であった。ところが、疏水建設工事の末期になって「水
車動力」から水位差を利用した「水力発電」に切り替えることになり、急遽鴨東運河―鴨
川運河のコースが本線となったのである。
このルート変更は渡米先で発案されたもので、土木・機械・建築分野の総合力に秀でた
工事責任者・田邊朔郎の最大の功績といわれている。もし、この決断がなければ、東山西
斜面の緑地が工場地帯になり、効率の悪い水車動力を利用した工業製品の競争力も低く、
琵琶湖疏水の経済的成否と東山の景観に影響する重大な決断であった。
今回のルートは疏水の本流から支流に変わった「疏水分線」の散策路の紹介であるが、
その中に「哲学の道」と呼ばれる京都市トップクラスの観光ルートが含まれている。この
道は、疏水分線の水路に沿った2kmくらいの散策道で、春・秋の観光シーズンに1日あ
たり1万人を超える観光客が集まり、バス交通は渋滞で動かなくなることが多い。
「哲学の道」の観光ルートは幾つかあるが、今回は京阪・阪急・JRとつながっている
地下鉄蹴上駅を出発点とするコースを紹介する。②番出口を右折してインクライン下をく
ぐる「ねじりまんぽ」を通って北進すると、「水路閣」のある南禅寺境内に達する。
「ねじりまんぽ」と呼称されているトンネル
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疏水分線の水路が通る水路閣
「ねじりまんぽ」を通過してから南禅寺に至る途中に「金地院」と呼ぶ南禅寺塔頭があ
る。小堀遠州作の鶴亀庭園や徳川家康を祀る東照宮があり、1 時間以内で見学できる。
南禅寺三門のすぐ右手にある塔頭「天授庵」は枯山水庭園と池泉回遊式庭園が存在し、
季節の変化に富んだ寺院である。水路閣の背後にある「南禅院」には夢窓国師の庭園があ
るが、これら3寺の庭園用水には疏水の水が使用されている。
金地院の鶴亀庭園
天授庵の池泉回遊庭園
南禅寺自体の境内は無料で公開されており、桜や紅葉では京都有数の名所である。もし
昼食時であれば、近辺に湯豆腐専門店が集まっているので賞味していただきたい。南禅寺
境内を通って「哲学の道」に進む道は、日本三大門の一つである「三門」に向かって左奥
隅にある門を出て鹿ケ谷通を北に進み、左に野村美術館、右に東山中・高校を越えて紅葉
で有名な「永観堂」の敷地北端を右折(哲学の道の道標あり)すると、若王子橋に達する
が、ここが「哲学の道」の南端である。
紅葉の季節の「哲学の道」
桜花の季節の「哲学の道」
今回は、地下鉄蹴上駅から歩いて哲学の道に達するコースを紹介したが、寄り道せずに
直行すれば1時間くらいの距離にある。次回はわずか2kmしかない哲学の道の散策につ
いてくわしく紹介する予定である。
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関連ホームページ
http://www.geocities.jp/biwako_sosui/
琵琶湖疏水の歴史観光開発を推進する
近代京都の礎(いしずえ)を観る会
会長
−3(完)−
高桑暉英