ユーザビリティに注目した ウェブサイトの評価に関する一

■第 46 回全国大会
院生報告
ユーザビリティに注目した
ウェブサイトの評価に関する一考察
Analysis and evaluation of local government websites focused on usability
1.
東京工業大学
奥野行章
Tokyo Institute of Technology
Yukiaki OKUNO
東京工業大学
包捷
Tokyo Institute of Technology
Sho HO
株式会社自治体情報研究所
廣田伝次郎
Institute of Municipal Information Co., Ltd.
Denjiro HIROTA
東京工業大学
飯島淳一
Tokyo Institute of Technology
Jun-ichi IIJIMA
序論
このようにして定義されるユーザビリティを定
商用目的で運営されているウェブサイトは早く
量的・定性的に測定するための方法としては、専
からユーザビリティを念頭に置いた改良が繰り返
門家によるヒューリスティック評価法、被験者を
されてきた。それに対して、非商用目的で運営さ
集めて行うユーザーテストやアンケート調査など
れるウェブサイトではユーザビリティの視点から
の手法が用いられる[2]。
の改良が遅れている。
3.
電子自治体の実現
本研究では、非商用ウェブサイトの典型例であ
情報通信技術(IT)の進歩に伴い、地方自治体
る地方自治体の運営するウェブサイトを題材とし
においても IT を活用した行政サービスのオンラ
て取り上げ、既存のウェブサイト評価手法を基本
イン化(電子自治体構想)を実現するため、様々
にユーザビリティの視点からウェブサイトを評価
な取り組みが推進されている。
する方法の考案を行い、自治体のウェブサイトが
サービスの受け手である住民は、生活と密接に
持つユーザビリティ特性を明らかにし、改善に向
関連した分野や全ての住民が関わりを持つと考え
けての提案を行うことを目的とする。
られる分野への電子化に高い期待を寄せており、
2.
全体に占める割合は大きいほうから医療・保健が
ユーザビリティ
ユーザビリティの定義やその構成要素について
は、ISO9241-11[1]で定義されているほか、ユー
71.0%、住民記録関係が 60.8%、高齢者・障害者
福祉・年金が 60.2%などとなっている[6]。
ザビリティや人間工学の研究者によって定義され
このような住民の期待に応えるべく、多くの自
たものがいくつかある[4]。ウェブサイトのユーザ
治体ではウェブサイトを開設してサービスの提供
ビリティ研究についての第一人者である Jacob
に努めているが、ウェブサイトに対する住民の満
Nielsen は、「学習しやすさ」、「効率性」「記憶し
足度は企業の満足度に比べて低く[6]、地域に根ざ
やすさ」、「エラー」、「主観的満足度」の 5 つを定
した運営とは呼べない状況である。
義している[2]。
4.
本論文における実験・評価の方法
ユーザーテストについて
「サイトの一貫性」の 2 点を重視する。また、こ
今回行ったユーザーテストは、Jared M. Spool
の 10 原則の中にはウェブサイトではなく、ブラ
らが 1999 年に実施した「宝探しテスト」[2]を基
ウザが実装するべき機能についての原則(「システ
礎にした。以下にその内容について述べる。
ムの状態がわかるようにする」など)も含まれる
被験者
ため、こういった原則は評価項目に含めない。
理工系の学科に所属する大学生・大学院生計 8 名
評価方法
使用システム
前項で述べた原則に注目しながら各サイトのトッ
Microsoft Windows 2000 上で稼動する Microsoft
プページから 2 階層程度を調査し、原則に則って
Internet Explorer 及びその互換ブラウザ
いないと判断された項目をリストアップする。2
対象とするウェブサイト
e 都市ランキング 2002[5]で対象となった自治体
のうち、関東地方とその周辺地域にある 10 都市
ユーザーテストのタスク内容
自治体が提供する情報を必要とするある状況を想
定し、以下に挙げる情報をウェブサイトから探し
てもらう。これらのタスクは、3.で述べた住民が
自治体に期待するサービスの種類の中で上位にあ
ったものから選んだものである。
l
市役所までの交通手段
l
住民登録に必要な書類
l
ごみの収集日
l
休日・夜間診療を行っている病院の所在
これらのタスクを実行した後、作業中に感じたス
トレスなど 3 点についてのアンケートを行い、得
られた解答の算術平均を計算する。これにより得
られた 3 つの数字を掛け合わせてスコアとする。
階層程度としたのは、今回対象とするサイトは個
別記事がほとんど 3 階層目以降にあり、サイトの
末端となっていることがわかったためである。さ
らにユーザーテストの結果やサイト間の比較など
を通じて改善案を提供する。
5.
ユーザーテストの結果と考察
e 都市ランキング 2002 による評価は、役所内で
の PC の普及率や情報技術に関する政策の有無な
どを基礎としており、これは自治体の電子化政策
に対する関心の高さ、情報技術の浸透度などを間
接的に評価したものと考えることができる。
一方、今回行った実験によるランキングはユー
ザビリティテストの手法に則って得たものであり、
その基礎となっているのはテストユーザーに対し
て行ったアンケートである。この結果はそのまま
「自治体サイトに対するユーザーの主観的感想」
を表すものである。
表 1:ユーザーテストの結果
ヒューリスティック評価について
以下に本研究で行ったヒューリスティック評価
自治体
e 都市ランキング
スコア
の詳細を述べる。
A
100
1
対象
B
45
2
ユーザーテストで調査対象とした 10 都市のウェ
C
226
3
ブサイト
D
157
4
E
46
5
Jacob Nielsen が提唱するヒューリスティック 10
F
171
6
原則[2]を基礎とし、これに従う。自治体サイトの
G
26
7
主な利用者が地域住民であり、年齢・性別・所属
H
110
8
などが多様であることから、10 原則のうちの「ユ
I
28
9
ーザーの使う言葉を用いたインターフェイス」と
J
94
10
基礎とする評価原則
Kendall の順位相関係数: rk = 0.244
用しているが、コンテンツを直接参照した場合に
Pr { Z > Z 0 = 0.9839} = 0.3251 > α = 0.05
改善案:サイトのレイアウトや記述方法に関する
表 1 はユーザーテストの結果と相対化した e 都
備えた対策をしてあるのも特徴。
改善案は無い。フレームに依存しないサイトデザ
インへの移行を候補に入れるべき。
市ランキング 2002 の中での順位を表形式で並べ
D 市の場合
たものである。この 2 つの順位付けの関係につい
評価:ページデザインや文書のフォーマットに一
て妥当性を調べるため、Kendall の順位相関係数
貫性が見られない。
を算出して検定したところ、相関関係は認められ
改善案:ページの基本レイアウトをサイト全体で
なかった。これは、自治体の電子化への取り組み
統一するようにして、HTML で表現可能な文書は
がウェブサイトのユーザビリティに反映されてい
なるべく HTML で記述するようにするべき。
るとは限らないことを意味している。
6.
ヒューリスティック評価に基づく改善案
本研究ではユーザーテストにおける実験現場で
E 市の場合
評価:ページデザインに一貫性があり、軽量化・
簡素化にも注力されている。
の観察、被験者へのアンケート、そして 4.で述べ
改善案:メンテナンス情報など重要な情報は上部
た原則を用いて行ったヒューリスティック評価の
の目立つ位置に置くべき。
結果に基づいて、対象とした 10 の自治体ウェブ
サイトそれぞれについてユーザビリティの現状評
価と改善案の提示を行った。その上で、これらの
自治体のウェブサイトによく見られる問題点と特
徴をまとめた。この節では、各自治体のウェブサ
イトの評価と改善案の概略を述べたあと、共通の
問題点・特徴を提示する。
A 市の場合
評価:与える情報の量は十分に多く、検索もしや
すい。しかし、1 ページあたりのリンクが多すぎ
る上に、リンクの書式に統一感が無い。
改善案:載せる情報の構成方法を見直し、トップ
ページの圧迫感をなくすようにするべき。
B 市の場合
評価:デザイン重視の設計のために検索性が犠牲
になっている。また、配置場所がユーザーの期待
する場所と異なっている情報があるため、目的の
情報を得るまでに時間がかかる。
改善案:サイトをテキスト主体の構成とし、動き
のある表現を最小限に止めるようにするべき。
C 市の場合
評価:一貫性のあるデザインとわかりやすい表現
で情報の検索性が高くなっている。フレームを使
F 市の場合
評価:サイトマップや検索機能を備えておらず、
原色を使った見出しのためにリンクアンカーのテ
キストが目立ちにくくなっている。
改善案:検索機能の充実を図るべき。また、見出
しに用いる色の選択を見直すべき。
G 市の場合
評価:情報へのアクセスが1通りしかなく、その
配置も一貫性が無い。
改善案:一つの情報に対して複数のアクセス手段
を設けるべき。
H 市の場合
評価:見やすくまとめられており、検索性も高い
が、リンクアンカーのテキストに他のサイトでは
見られない表現を用いている。
改善案:見出しやリンクアンカーに使うテキスト
の選択を再考するべき。
I 市の場合
評価:デザインが一貫しており、しかも検索性に
優れている。
改善案:サイトのレイアウトや記述方法に関する
改善案は無い。フレームに画像に依存しないサイ
トデザインへの移行を候補に入れるべき。
示することができた。
J 市の場合
8.
今後の課題
評価:一旦 CGI を通してから表示するため、稼動
今回行ったユーザーテストは、被験者が理工系
が遅い。また、直通リンクの配置が整頓されてお
大学生・大学院生で構成されているという偏りが
らず、操作ミスを誘いやすい状態になっている。
あり、人数も少ない。今後の研究では被験者の年
改善案:サイトの稼動方法を一から見直すべき。
齢・性別・所属がいずれも利用実態に近づくよう
リンクの配列など、見易さを高めたレイアウトを
にし、被験者を多く確保する必要がある。
検討すべき
また、タスクの内容も行政組織が一方的に提供
自治体ウェブサイトの特性の傾向
するような情報についての検索テストであるため、
l
広報誌に掲載している情報のうち、分野別分
これに加えて電子会議室や電子申請に関する手続
類の中にも含まれる記事を分野別情報のほう
きなど、双方向性を利用したインタフェースのユ
にも載せていないなど、統一性を欠いた配置
ーザビリティ評価も併せて行われるべきである。
になっている。
l
l
l
さらに、本論文ではウェブサイトの各コンテン
状況別分類と分野別分類の違いが曖昧で構成
ツについての利用実態の把握(コンテンツ間の移
に一貫性が見られない。
動経路の分析など)は行っていない。より深い評
リンクや見出しに用いるテキストが「環境」
価を行うためには、このような分析も必要である
「こんなとき」などと書かれていて、リンク
と考えられる。
先(またはコンテンツ)の内容がわかるよう
参考文献
に表現できていない。
[1] ISO9241-11: 1998 Ergonomic requirements for office
スクリプトや画像、フレームなどに依存した
work with visual display terminals (VDTs) -- Part 11:
構成になっている。
Guidance on usability, ISO, 1998
今回評価対象とした 10 個のサイトには主に上
[2] Jacob Nielsen・著、篠原稔和・監訳、三好かおる・
のような傾向が見られた。ただし、これらの点は
訳、
「ユーザビリティエンジニアリング原論」、株式会
全てのウェブサイトに当てはまるものではなく、
社トッパン、1999
このような点に留意した構成を持っているウェブ
[3] Jared M. Spool, Tara Scanlon, Will Schroeder,
サイトもある。
Carolyn Snyder, Terri DeAngelo・共著、篠原稔和・
7.
監訳、三田仲人・訳、「Web サイトユーザビリティ入
結論
本論文において、ユーザビリティの観点から地
方自治体のサイトを評価し、今まで行われてきた
ランキングとの関連性やユーザビリティ評価の手
門」、株式会社トッパン、2000
[4] 伊藤謙治・著、
「高度成熟社会の人間工学」、日科技連、
1997
法の一つであるヒューリスティック評価法を用い
[5] 「日経パソコン」5 月 28 日号、日経 BP 社、2002
て自治体のウェブサイトを評価するという試みを
[6] 「平成 14 年度情報通信白書」、総務省、2002
行った。
その結果、ユーザビリティに基づく評価とこれ
まで行われてきたランキングとの間に、有意な相
関性は見出されなかったが、本論文で行ったユー
ザーテスト及びヒューリスティック評価法と併せ
て、自治体ウェブサイトの特性を明らかにするこ
とができ、それをもとにしてサイトの改善案を提