ナギの葉にまつわる話 2010.08.18 南部牛追唄にナギ?? 南部牛追唄に「ナギの葉」が出てくることをご存知でしょうか。 私もこのことを先日生産者の尾屋さんに伺い、初めて知りました。 「今度来るときはナギの葉を持って来てけれぇ~♪」みたいな歌詞のようです。 南部牛追唄の歌詞(←クリック!)ばっちり「ナギの葉」って書いてある! 南部牛追唄といえば、主に岩手の地域で歌われた歌です。 それにしても不思議です。 ナギは関東以北には自生しないと聞いていましたし、しかも岩手のような寒いところにナギの樹がある はずがありません。なぜ東北の人々はナギの葉を知っていて、しかも民謡にまで歌うようになったので しょうか。 憶測としては山伏の行き来があったからかもとか、東北と同様に和歌山県新宮市周辺で金が採れたそう ですから、その技術者の交流があったのではないかなどなど、仮説は膨らみます。しかし、確定的なこ とはわからないので、思い切って岩手県の方に聞いてみることにしました! 農業関係のお仕事に就かれるその岩手県の方は、すぐに調べて教えてくださいました。 その方によると、岩手の地域の方が米を牛の背にのせ、南部藩の米蔵のあった盛岡などに届けた後、春 から秋にかけて伊豆などへ出稼ぎに行ったようです。 そしてお守りとして持って帰ってきたのが、ナギの葉だったそうです。 また、『本朝俗諺誌(ほんちょうぞくげんし)』(江戸中期)には 「梛の木、葉厚く竪に筋あり、此の葉を所持すれば災難を免れると守り袋に納む、女人鏡の下に敷けば 即ち夫婦の仲むつまじきとなり云々」 とあります。つまりナギの葉は災いをナギ祓うお守りとして、また女性が鏡の後ろに入れて持つと、夫 婦の仲を取り持つ役割を果たすということです。 南部牛追唄に出てくる「ナギの葉」は、ずっと真意が掴めず随分と熱い論争が続いていたようです。 ナギの葉は自生地のみならず、全国津々浦々で人々のお守りとなっていたんですね。 今度くる時 持てきてたもれ 奥の深山のナギの葉を♪ というのは以前に書いた南部牛追い唄の続きの詞。 ナ ギの葉というのは引っ張りに強くなかなか千切れないので、切れない強い縁(えにし)という洒落にか けて牛追い唄に謡いこんだものだろう。 しかし、WEBで検索してみれば、植物としてのナギは紀州熊野の神社境内に人手によって植栽された 群生が稀な例として知られているものの、生育北限は関東南部とされている。 同じ南部(汗)と言っ ても岩手という北の大地の山奥で生育できるような樹木ではないらしい。 にもかかわらず、その岩手の民謡にしっかりと詠いこまれている「ナギの葉」は、♪持って来て「た もれ」♪ というおよそ牛飼いらしくない雅(みやび)な言い回しからも推察できるように牛飼い達の 生活実感の裏づけのある発想とは違うものだろう。 この上流階級独特の「たもれ」という言葉を、なかば気取り、なかば揶揄するような気分をこめて唄 に織り込んだものとすれば、奈良和歌山の神社の伝承を知悉する南部の唄い手の気位の高さをそこから 読み取ることも、あながち的外れとは言えないように思う。 WEB上の百科辞典によれば 「その名が凪に通じるとして特に船乗りに信仰されて、葉を災難よけ にお守り袋や鏡の裏などに入れる俗習がある」 とされているが、なるほど前掲のBLOG記事に書い たとおり、牛荷駄を「陸舟」として見るならば、持って来てたもれナギの葉を という言い方に幾重に もかけられた牛方あらため船頭の洒落の面白さを読み取ることができそうだ。 百科辞典では触れていないが、ナギの葉を鏡の裏に忍ばせておくと、いつかその鏡に恋しい人の姿が 映る という俗信があるのだとか聞き及ぶ。
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