設立10周年を迎えたCGN

Cordillera Green Network
News Letter
UMALIKA
2012年3月発行
ウマリカ
設立10周年を迎えたCGN
CGN代表 反町眞理子
2001年、コーディリエラグリーン・ネットワーク(CGN)は当時カリンガ州のツルガオという村
で農村開発事業を行っていたキープ協会(山梨県清里)の環境教育事業のパートナーとして
活動をスタートしました。最初の事業は環境問題啓発ポスターの制作で、ポスター用のアー
ト作品を一般公募しました。今でこそ、廃棄物処理から大型ショッピングモールSMの増築に
よる松の木伐採問題まで、さまざまな環境問題がこんな片田舎の町・バギオ市で沸騰する
時代となりましたが、10年前のバギオでは「環境問題って何?」というのどかな空気が漂って
いました。
しかし、「Let`s Green Cordillera」という今から考えれば漠然としたテーマのポスターのため
のアート作品公募に、子供からプロの作家まで250近い作品が集まりました。学校でのほと
んどアート教育をしないこの国で、日曜画家(死語ですね)がたくさん潜んでいることに驚くと
ともに、この町の文化的な奥深さを再認識しました。
CGNは、その後まもなくベンゲット州国立大学(BSU)森林学部のジャン・タクロイ教授の全
面的な協力を得て(現在はCGNの副代表)、山岳部のコミュニティにおける植林活動を開始
しました。グローバル化の波と市場経済の流入で恐ろしい勢いで森林と水源破壊が進む山
岳地では、先住民の生計向上を考慮しながらの森林保全が必要であることから、アグロフォ
レストリー(森林農法)を取り入れた緑化事業を展開してきました。標高の高い地ではアラビ
カ・コーヒー、低い地では様々な南国フルーツやカカオなどを混栽して「収入を得ながら森を
守る」という活動が設立10年の今も継続しているCGNのフィールドワークの中心です。
CGNの特徴は日本人である私以外全員がフィリピン人であること。しかもフィリピン人スタッ
フのほとんどが先住民族であることです。誰よりもよく先住民の生活習慣、メンタリティを知る
スタッフは、事業実施に当たって「絵に描いた餅」ではなく、常にたいへん実践的で現実的な
「ストラティジー(手法や実施手順)」を提案してくれます。森林保全の手段に先住民古来の
森林保全の風習を復活させて用いようというアイデアも、タクロイ教授から提案されたもの。
外から森林保全の知識や手法を持ちこむのではだけでなく、先住民の暮らしや文化に即し
た形で森を育て、森を守るというのがCGNの森林保全活動の信条です。
コミュニティにおけるフィールドワークにCGNが必ず加えているのが環境教育です。「木を
植え、森を育てる」ことの意味と重要性を伝えなければ、住民の積極的な協力は得られず、
植えた苗木は放置され森は育ちません。森を育てることは、誰のためのでもない自分たちの
暮らしを守ることであり、子供たちの将来を約束することであるということをわかってもらうこ
とから植林活動をスタートさせています。ここでも、私たちは先住民族が伝えてきた民話や伝
統の朗誦やダンスなどを取り入れ、伝統文化の維持と復興を試みながら学び伝えるという
手法を実践してきました。
設立10年目を迎えた2011年。草の根活動で撒いた種が小さな実を付けた出来事が二つあ
りました。一つはアグロフォレストリー指導によって育ったアラビカ・コーヒーが収穫を迎え、
初めてフェアトレードでの輸出を実現したこと。CGNが取り組んできた環境保全活動をサ
ポートし続けてくれた日本の皆様に、「1杯のコーヒー」という形で成果をお届けすることがで
きました。もう一つは「Aanak di Kabiligan(山の子どもたち)」と名付けた様々な先住民で構成
された青少年グループの日本訪問です。CGNの先住民族文化を生かした環境教育プログラ
ムを日本の方たちに見ていただく機会を得ることができました。
この10年の間に、NPO,NGOなど非営利団体に対する一般の方の認識、そしてその社会貢
献活動の日本社会におけるあり方は大きな変化を遂げました。2011年の東日本大震災で、
市民団体やボランティアのサポートが大きな復興の力となっている今、政府や国際機関の
人でなく「普通」の人が、それぞれできる立場でできることを社会に対して提供していくのが
当たり前の世の中に近づいてきていると思います。CGNはここフィリピンの田舎町で、これか
らも小さな種を撒き続けます。フィリピンのため、日本のため、そして世界のために。
カリンガ州マララオ村での植林
目次:
先住民族グループ「山の子供たち」
環境と演劇をテーマに日本で交流 プ
ログラム ........................................ 2
KAPI TAKOコーヒー発売中 ......... 4
WE21ジャパンとコーヒーの森づくり
事業スタート ................................. 4
インターン大学生・亀井君のコーヒー
植林体験記 .................................. 5
コーディリエラ・グリーン奨学金プログ
ラム .............................................. 6
イフガオ州でコミュニティ・アート・イ
ベント開催 .................................... 7
台風フアン被災者支援事業.......... 7
植林事業を継続しています ........... 7
2011年フィリピン天然資源省エコ
パートナーとして表彰されました。
先住民族グループ「山の子どもたち」
環境と演劇ををテーマに日本で交流プログラム
山の子どもたち
AANAK DI KABILIGAN
―日本での日程-
5月10日 中部国際空港着~山梨
県清里キープ協会
5月11日‐13日 キープ協会で環境
教育ワークショップ受講
5月14日 北杜エコアートビレッジ
津金会場にてワークショップ(もち
米菓子作り、竹楽器作り、伝統舞
踏指導)/民芸品ブース販売/民話
演劇公演(「アリムランという名の
果実の伝説」「マキルキラン山の
金の弓」「山の神様から贈られた
草の芽、パコ」)
5月15日 北杜市エコアートビレッ
ジ明野会場(キャンピカ明野)に
て、竹の民族楽器作りワークショッ
プ、先住民族の民芸品ブース販売
5月16日 長野県佐久市の木酢農
家訪問、河口湖周辺観光
5月17日 キープ協会で環境教育
ワークショップ受講/清里小学校で
竹楽器演奏を通じての国際交流
5月18日 清里~名古屋/名古屋
城見学/朝日新聞名古屋本社内
見学ツアー
5月19日 モリコロパーク(愛知郡
長久手町)にて愛知県立大生と交
流/愛知県立大主催多文化共生
フォーラム「環境・災害と向き合う
地域づくりを目指して」名古屋市芸
術創造センター(コーディリエラ地
方の台風災害におけるCGNの活
動を反町が紹介/民話演劇公演
「マキルキラン山の金の弓」「山の
神様から贈られた草の芽、パコ」)
5月20日 東海高校にて交流プロ
グラム(交響楽部の演奏/ 「アリ
ムランという名の果実の伝説」「お
米の神様ブルル」公演/懇親会)
2010年5月21日 中部国際空港~
マニラ
※国際交流基金助成
2
CGNは環境問題をテーマ にハイス
少しずつ心を開き始め、最後には民族
クールの生徒(12-16歳)を対象とした
の壁を越えて兄弟のように心を通わせ、
演劇ワークショップを数多くの先住民コ
同じステージの上でエネルギーをぶつ
ミュニティで実施してきました。2010年5
け合っていたのがとても印象的でした。
月には、それまでに環境教育活動を行
なってきた村の様々な民族の子どもたち
を一堂に集め、それぞれの違いや似て
いるところを学びながら、コーディリエラ
全域の環境について考えようという新し
い試みのワークショップを開催しました。
2010年12月のイフガオ州でのエコキャ
ラバンから半年、40名の中から選抜した
16名による「山の子どもたち‐Aanak di
Kbiligan」と名付けた日本ツアーを実施し
ました。環境教育プログラムを一緒に企
画制作してきたキープ協会(山梨県清
私たち日本人にとっては、ルソン島北
里)を訪問し、日本の環境教育分野を
部に住む先住民族は一つにしか見えま
リードする環境教育プログラムを体験す
せんが、実際には数多くの民族や部族
るのがツアーの大きな目的でした。ま
に分かれています。時には電気や道路
た、世界共通である環境問題に日本の
さえない環境に住む彼らの持っている距
人たちがどのようにして市民レベルで取
離感は、今や世界中の人と瞬時にコン
り組んでいるかを知るために、北杜市で
タクトをとれる日本人のそれとは大きく
のエコビレッジ・イベントに参加。子ども
異なります。今でも山奥深い村では町に
たちは先住民族文化をワークショップや
一度も行くことなしに一生を終える人も
民話の公演を通して紹介しました。その
いますし、隣村での出来事を隣の国の
後、名古屋に会場を移し、東海高校や
話のように感じる人も少なくありません。
愛知県立大学の学生などとの交流プロ
ワークショップのために集った子どもた
グラムにも参加しました。
ちの中にも、「はじめてカリンガ族の人と
3月に予期せぬ震災が起こり、一時、
会いました。今でも部族間闘争で人殺し
日本訪問をあきらめかけたのを「こうい
があるという恐ろしい民族と聞いていま
う時だから来てください」という日本の受
したが、優しい素敵な人たちで、あっと
け入れ側の方たちの言葉に励まされて
いう間に友達になりました」と話す子ども
決行したのですが、出会った多くの人か
がいました。このワークショップに参加し
ら「子どもたちたちから大きな元気をもら
た約40名は、日本から参加してくれた舞
いました」とあたたかい言葉をいただき、
台演出家の吉田智久さん、バギオ市在
たいへん充実したツアーとなりました。
住のアンジェロ・アウレリオ(Angelo
Aurelio)さんという二人の指導者の下
で、環境問題やコーディリエラの民話を
テーマとした何本かの演劇作品を仕上
げ、マウンテン州タジャン郡、ベンゲット
州カバヤン郡、イフガオ州フンドアン郡
でのエコ・キャラバンで公演を行いまし
た。最初は堅い表情だった子どもたちが
キープ協会の雄大な自然を満喫
「清里には美しい森とそれを大切に思う人たちがいた。
僕のふるさと・イフガオには、もう森がない・・・」
(参加者の一人ヘイソン君の感想)
北杜市エコアートビレッジ津金
会場で米つきワークショップ
名古屋市芸術創造センターでベンゲット州の民話
「山の神様から贈られた草の芽・パコ」を上演
“光の記憶”
A MEMORY OF PURE LIGHT
By アンジェロ・アウレリオ(CGN演劇指導スタッフ)
夢はどこから生まれ、そしていつ終わる
かは誰も知らない。だが、素晴らしい富士
山の大地への初めての旅は、私に夢は実
現するということを確信させてくれた。清里
でのバスの中から初めてその雄大な姿を
見たとき、小さかったころ写真集を見つめ、
いつか必ずこの目で見よう、と自分に言い
聞かせたことを思い出した。それはついに
実現したのだ。
むろん、私たちの日本訪問の目的は、富
士山を見ることではなかった。観光として
記念に写真を撮って帰るだけでも、若く貧
しい演劇アーティストにとっては非常に高
価で、不可能だったはずである。私が日本
を訪れたのは、コーディリエラの子ども達と
スタッフとともに日本で演劇を行うという夢
のプロジェクトのためだった。全員にとって
なにもかもが初めての経験だった。
フィリピンでの準備期間は、強いエネル
ギーで満ちていた。我々は出発の前に三
日間リハーサル会場に泊まって練習した。
霧雨に煙る中部国際空港では、滑走路の
指示灯が橙の虹をつくり浮かんでいた。清
里へ向かうバスの前で、とても気さくな紳
士に出迎えていただいた。そして我々は夢
への一歩を踏み出し、チョコレートの香りの
するバスに乗り込んだのである。皆日本の
道路を見て興奮したが、もう夜中だったの
で外の景色がどんな風かは翌朝まで待た
なければならなかった。
清里ハリスホールにて、凍える夜をあ
たためるお茶とともに出迎えていただき、
柔らかいフトンで皆よく眠った。そして私は
窓から降り注ぐ甘い光、春の朝日によって
目覚めた。自分が目覚めたことを確信した
かったのだけど、現実がこんなにも美しす
ぎると難しい。
光は、自然に光同士で引きつけ合う、と
私は信じている。虹が色づき、蝶が黄色の
タンポポに魅入られるように。
フィリピンにおいて、私たちはコーディリエ
ラ地方の様々な場所でパフォーマンスを
行ってきた。地域の人、家族に見てもらっ
たとき、それはいつでも素晴らしい時間と
なる。そして、日本でのパフォーマンスはな
かでも特別だった。私たちは永遠の愛を約
束された家族から受けるような、特別にあ
たたかい反応を期待していたわけでは決し
てなかった。しかし観客が、特に年老いた
方たちが拍手してくれたとき、私の目から
涙が落ちた。それは心に触れる拍手であ
り、笑顔だった。私はお年寄りが大好きだ。
彼らの歴史の美しさが、おのおのの顔の
皺に刻まれている。それは画家の絵筆の
描線のようであり、それは勇気と信条の、
ときには孤独を物語る。そんなことを感じる
私は、たぶん年老いた魂をもっているのだ
ろう。
光は、常にショーの中にある。私達は普
通のライトを使っているのに、山の子どもた
ち(Aanak di Kabiligan)の力強く、心からの
パフォーマンスはステージを信じられない
ほど優美に照らし出した。それはまるで何
千もの蛍がハパオの森(注:イフガオ州の
世界遺産の棚田がある村の名前)から一
緒についてきて共に演じているようだった。
私たちは幸運だった。
私は夢を追いかけていたが、ときにそれ
は急に目の前に開かれる。日本で訪れた
学校や寺社、城を思い返すとき、夢を追う
ということは精神的な旅である、と知る。夢
はだれかの計画の設計図であり、そして夢
を追いかけることは、あなた自身の存在を
認識し、あなたの本当の目的を遂行するこ
とである。時にそのような認識が、予期せ
ぬ状況から生まれるのは愉快なことだ。名
古屋城の長い階段を上ったとき、あるいは
竹の笛を日本の子どもたちに教えたとき、
河口湖のアヒルに餌をやったとき…私は私
自身の存在を呼び起こされたのだ。
(翻訳:亀井遥海)
3
鮮やかな赤色のコーヒー・チェリー
KAPI TAKOコーヒー発売中!
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク
「甘くて、優しくてパイナップルの香りが
が2003年から行ってきたアグロフォレス
しますね」
トリー(森林農法)によるアラビカ・コー
とは、ある自家焙煎屋さんのカピタコ・
ヒーの栽培。最初の事業地であるキブ
コーヒー評。ぜひ一度お試しください。ま
ガン町ではすでに収穫が始まっていま
た、グループや店舗で販売してくださる
KAPI TAKOコーヒー
す。CGNでは栽培農家の方たちが丹精
方も大募集中です。生豆の卸販売も始
のご購入方法
込めて育ててきたコーヒーが確実に収
めました。
入につながるようにと、フェアトレードに
よる買い付けと日本への輸出を開始し
価格:
ました。
3袋
3,000円
6袋
4,800円
12袋
8,700円(約1割引き)
を柱として活動しているNGO「わかちあ
24袋 15,500円(約2割引き)
いプロジェクト」(東京都墨田区)が輸入
(いずれも送料、税金込み)
をしてくれることとなり、ホームページや
日本側は、フェアトレードや難民支援
カタログでの通信販売が開始されてい
ご注文先:
わかちあいプロジェクト
●インターネットでのご注文
http://www.wakachiai.com/shop/
coffee/index.html
●FAXでのご注文
お名前、送り先住所、お電話番
号、品名の「カピタコ・コーヒー」と
ご注文の個数(上記の3,6,12,24
袋のいずれか)と「粉」か「豆」のど
ちらを希望かを明記のうえ、033654-7808 までファックスをお送り
ください。商品到着後、同封されて
いる郵便振替用紙にて代金をお
支払いください。
●生豆でのご購入:
50㎏麻袋入り
ます。商品名は「KAPI TAKO(カピ・タ
コ)」。先住民族の一つカンカナイ族の言
葉で「コーヒーを飲みましょう!」という意
味です。
収穫したコーヒー・チェリーを
皮むき機にかけます。
WE21ジャパンとコーヒーの森づくり事業スタート
神奈川県の特定非営利活動法人「WE21ジャパン」と共同で、コーヒーの森づくり事
業(正式名称:フィリピン・ベンゲット州におけるコーヒーのアグロフォレストリー栽培に
よる災害に強いコミュニティづくり)がスタートしました。(かながわ民際助成)
この事業は、2009年10月に台風ぺペンによる土砂崩れで壊滅的な被害を受けた
ベンゲット州アンバサダー村コロス集落での長期復興、および防災事業として計画さ
れました。細々とした野菜栽培に代わる収入源としてアラビカ・コーヒーのアグロフォ
レストリーによる栽培指導を行い、村の緑化と生計向上を同時に図ろうというのが事
業の目的です。2年目の2011年10月からは、有機栽培指導にも力を入れ、集落全
体がコーヒーの森を中心としたエコビレッジとして生まれ変わることを目指していま
46,000円(送料込み)
す。事業は3年計画。1年目には6600本のコーヒーの木を、松林の中やカリエンド
わかちあいプロジェクト
ラ、アルヌスとともに植林しました。最初の収穫は3年後を予定しています。
[email protected]
までメールをご注文ください。
4
WE21ジャパン主催スタ
ディツアーではコロス集
落を訪れ、CGNスタッ
フ、栽培農家の方ととも
に収穫を体験しました
インターン大学生・亀井君のコーヒー植林体験記
2011年夏期ボランティア・インターン
としてお世話になった亀井遥海です。
普段は工学部で化学を専攻していま
す。よく聞かれたこと、
「…これ、君の専門に関係あるの?」
はい、正直関係ありません。自分の
視野を広げたい!と思って望んだこの
インターン中、ずっと学ばせてもらって
ばかりだった若輩者ですが、このよう
な記事を書くスペースをいただきまし
た。
滞在は3週間という非常に短い間で
したが、CGNの主な活動である植林・
アグロフォレストリーのお手伝い、環
境教育、奨学金事業など様々な内容
を少しずつ体験しました。その中でも
僕にとってメインの活動だったのは、
トゥブライ町コロス集落におけるコー
ヒーの植林体験です。
コロス集落にあるコーヒーモデル農
場は、バギオから車で1時間程度、
CGNの事業地の中でもお手軽にいけ
る場所だそうです。しかし初めての訪
問のときには、幹線通り沿いから小道
に入ったとたんいきなり異国に誘いこ
まれたような気がしました。鉱山発掘
によって切り出された鈍色の崖また
崖、森が薄くジオラマのようにも見える
山々、果たしてこれは道なのか?とい
うほどのオフロードを通って現場につ
いた頃には、車酔いのするひ弱な大
学生にはもうお腹いっぱいです。
さて現場につき、ニワトリとヤギが走
り回る集落の中、いつもニコニコと出
迎えてくれるデイケアセンターの先生
フェリーさんご家族と団欒してから、い
よいよ植林。穴掘り、苗の運搬、そし
てコンポストから作った有機肥料を加
えて、苗に土をかぶせます。文字にす
ると単純なようですが、植樹総数2000
本という量。それも軽く“登山”と言える
ような急な斜面での作業で、運搬も含
め何から何まですべて手作業ですか
ら、“皆で楽しく植林イベント!”なんて
名目で片付く仕事量ではありません。
バギオの大学生や、現地の人々がお
手伝いに来てくれることもありました
が、基本的には受益者の方たちとフォ
レスターのリリー、CGNスタッフだけで
行っていました。それも作業はお天気
まかせ、雨が降れば木陰に隠れたり
「カピ・タコ(コーヒー飲みましょ!)」タ
イムに入ったりと、とてもシステマチッ
クとはいえない人間らしいリズムで、
植林は進んでいきます。
そんなわけで作業自体は大変です
が、標高の高い晴れやかな空気と、現
地の人の和やかな雰囲気の中で清々
しく仕事ができました。しかし、帰りの
夕立ではいつも不安になります。不安
定な道路が雨による土砂崩れで道が
封鎖され、立ち往生になることも少なく
ありませんでした。ちょうど遭遇した台
風の際には、コロス周辺で土砂災害
があり、何キロも離れた病院まで徒歩
でけが人を運んだそう。あの霧雨の中
の心細さが、耳で聞いたどんな情報よ
りも緊迫して今のベンゲット州が直面
する問題をダイレクトに教えてくれまし
た。
このコロス集落の植林事業に参加し
て、ボランティア/草の根で活動する
という意義について考えさせられまし
た。先のような土砂災害の防止や水
源の確保、また同時に貧しい農家の
人の継続的な収入のためにコーヒー
を植林するというCGNの活動は、本当
に素晴らしいものだと思います。ただ
それは文字どおり実るまでに時間が
かかり、即物的な富を分け与えて満足
するような簡単なものではないし、マク
ロに見た事業の必要性と、現地の人
のニーズを符合させなくては事業は継
続していきません。実際に時間を割い
て森を守っていかなければならないの
は現地の人です。別のCGNの事業地
であるカダクラン(マウンテン州)の山
奥のバランガイなど、原始的ながら豊
かな自然に囲まれて資源が循環する
コミュニティと比べて、都市と山岳の狭
間にあるコロスでは(失礼ですが)本
当の困窮というものを感じ、今の生活
で精一杯だとしても仕方がないように
も見えてしまいます。
では何が豊かさを可能にするのかと
いえば、人と人との団結の中に見いだ
すしかありません。馬鹿みたいに月並
みですが本当にそう感じました。反町
さんやリリー、他のフォレスターがやっ
てきたように長い期間をかけて住民と
一緒に木を植えていくこと。その作業
の中で自分たちの故郷と歴史を守ろう
という意識をともに築くこと。本当に根
気のいる仕事だと思います。でもそう
して得られた住民方との信頼関係を、
行く先々、節々に感じました。
また、コロスの小学校に環境教育の
お供としてお邪魔したとき、集落の規
模からは考えられないような子ども達
の熱気がありました。あのパワーがコ
ロスにすべて還元されたらどんなに心
強いか。人と人とのつながりが希薄に
なっている日本に対して、今、熱い進
歩を、賢く冷めた頭でつくりだせるよう
な人々の団結が、フィリピンのこの地
で実現することを夢見てしまいます。
勝手手前なことを長々と書いてしま
いましたが、 “リッチな日本社会”生活
に薄々の違和感を感じていた無知な
工学生の僕にとって、日本が持ってい
る美点と足りないものを発見できたこ
の経験は本当に得難いものです。口
だけでなく、実際に土にまみれること
ができたのは幸せなことでした。半端
な労働力の僕に一から現状を教えてく
れ、笑顔でいろんな場所につれていっ
てくれたスタッフの皆に深く感謝しま
す。
「実際に土にまみれることができたのは
幸せなことでした。」
5
2012年度里親募集中
コーディリエラ・グリーン奨学金プログラム
CGNでは、2012年6月から始まる新
コーディリエラ・グリーン奨学金プログ
持続可能なエネルギー事業を行ってき
年度の奨学金サポート会員(里親)
ラムでは、2011年、10人の奨学生が卒
たカリンガ州パシル、森林再生事業を
を大募集中です。
業しました。
行ってきたベンゲット州キブガン、アグロ
コーディリエラ・グリーン奨学金プロ
CGNが奨学金を支給しているのは、山
フォレストリー事業や持続可能な農業指
公立大学で学ぶ学生の授業料のサ
間部の村の学生が多く、決して教育レベ
導を行ってきたカリンガ州タブック町マラ
ポートをしています。
ルが高いとはいえません。せっかく、あ
ラオ村、ベンゲット州カバヤン、アパヤオ
卒業後、環境に配慮しながらコミュ
こがれの大学に奨学金をもらって入学し
州コナー、イフガオ州マヤオヤオ出身の
ニティ発展のために貢献できる人材
ても、授業についていくのが難しかった
公立大学での学費をサポートしてきまし
を育てることが奨学金プログラムの
り、授業料以外の生活費や交通費が払
グラムでは、山岳地方の先住民の
目的です。
そのため授業料サポート以外にも、
えなくなったり、生活になじめず体を壊し
環境セミナーなどを行い、大学では
たりと、途中で脱落していく学生もいま
学べない環境に関する幅広い知識
す。CGNでは、月に一度のミーティング
を身に着けてもらうようなプログラム
で、学生たちとの交流を図り、抱えてい
を実施しています。
る問題などを知るためにできるだけきめ
細かい対応をしていますが、それでも、
里親サポート代:年間2万円
連絡もなく大学から姿を消してしまう学
奨学生から毎年2回の手紙とクリス
生もおり、担当スタッフの苦労は測りし
マスカードが届きます。
れません。
ご希望の方は、住所、お名前(フリ
ガナ)、電話番号、メールアドレス
を、下記のEメールアドレスまでお送
りください。
[email protected]
サポート代の振込先は以下です。
2011年に卒業した10人も、大変な努力
た。2011年度は、5月に日本で行った環
を積み重ねて卒業にこぎつけており、卒
境教育プログラムに参加した「AANAK
業式での両親との誇らしい姿はそれを
DI KABILIGAN(山の子どもたち)」のメン
表していました。卒業まであたたかいサ
バーから、ベンゲット州マンカヤン、アブ
ポートを続けてくださった里親の皆様、
ラ州ツボ出身者も加わり奨学生の出身
ほんとうにありがとうございました。
地はさらに広い範囲からとなりました。
前年度からの奨学生を合わせて、
ゆうちょ銀行振替口座
11040-1-51319
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク
皆様のご協力、どうぞよろしくお願
いいたします。
2011年度は書類、筆記試験、面接に
2011年度コーディリエラ・グリーン奨学
よる選考が行われ、17人の新しい奨学
金プログラムで学ぶ学生は53名です。
生が選ばれました。
また、カリンガ州タブックの障害児施設
CGNの奨学生は、CGNが行ってきた
事業のパートナー団体メンバーの子ども
LIN-AWAセンターに対しても奨学金プロ
グラムでサポートを行っています。
であることが基本条件となっています。
カリンガ・アパヤオ州立大学(KASC)からの卒業生
1.ノバ・グレイル・アガヤオNova Grail Agayao(情報技術学部)
2.クレア・アントネット・バランシClaire Antonet Balansi(商学部)
3.アベゲイル・カマロAbegeil Camalo(助産婦学部2年コース)
4.クリスティ‐ナ・ドナアルChristina Donaal(経営管理学部)
5.マイリーン・ガヤウェットMyline Gayawet(初等教育学部)
6.ラッセル・スガルRussel Sugal(電気技術学部 2年コース)
7.ライナー・サラヤRainer Sallaya(農学部)
ベンゲット州国立大学(BSU)からの卒業生(上の写真の3名)
1. ラセル・ボティワイRacel Botiwey (情報技術学部)
2.デルファー・ファウスティーノDelfer Faustino(農学部)
3. ジェイソン・ティティワJason Titiwa (農学部)
6
ベンゲット州国立大学(BSU)の奨学生のための環境教育ツアー(ボントク博物館)
イフガオ州でコミュニティ・アート・イベント開催
第二次世界大戦中にたくさんの日比の方が亡くなった日本軍最後の地・イフガオ州ハ
パオ村とバアン村で、亡くなった方への慰霊と平和への想いを込めたコミュニティ・アー
ト・イベントを開催しました。日本からミュージシャンのkuri(民族楽器)、福本卓道(尺八)、
山本公成(笛・サックス)、南澤靖浩(シタール)、コンテンポラリー・ダンサー傾舞のJun
Amanto、 造形作家・廣田緑、手漉き紙作家・志村朝夫、フィリピン側からは民族音楽演
奏家・エドガー・バナサン、ケント・バナサン、現代美術家・カワヤン・デ・ギアなどが参加
し、コミュニティの人たちともにアート作品の制作と慰霊のパフォーマンスを行い、環境保
全や平和への願いを新たにしました。(2010年12月。モリコロ基金/国際交流基金助成)
台風フアンの被災者支援事業完了
2010年10月の台風フアンで、
前年の台風ぺペンの被害に続
き、山岳地方は大きな被害を
棚田の稲わら手漉き紙を使っ
て凧を作り、ワシの絵を描いて
イフガオの空に飛ばしました。
受けました。2年連続しての大
型台風被害のため、零細農家
は復興への足掛かりがつかめ
ず、苦難の状況に置かれてい
ました。CGNは、被災者が一刻
も早く立ち直り自立した生活を
取り戻せるようにと、「北ルソン
地方における台風被災者のための農業支援実施計画」をマニラの日本大使館の草の
カダクラン地区ではアラビカ・
コーヒーを中心に植えました。
根・人間の安全保障無償資金協力に申請し、資金援助を得られることになりました。事
業地は、ベンゲット州、カリンガ州、イサベラ州、カガヤン州の19のバランガイ(村)。被災
農家に植え替えのための野菜や米の種子と肥料、ビニールシート、ネットを支給しまし
植林事業継続しています
山梨県のキープ協会との共同事業で
けています。3年目の植樹予定本数
(社)国土緑化推進機構・緑の募金公募
59,090本のうち、折り返し地点の2011年
事業として、マウンテン州バーリグ郡カ
9月末時点で23500本の植樹を終えまし
ダクラン地区の4つの村で森林再生事業
た。
を実施し、2010年9月~2011年8月に
2007年に開始されたフィリップ・モリス
32,666本の植樹を行いました。2年目
(PMFTC=Philip Morris Philippines
は、ベンゲット州ブギアス郡で水源涵養
Manufacturing Inc.)のCSR事業「北ルソ
のための植林を実施中です。2012年6
ンのタバコ栽培農家 のための 植林事
月までに100,000本の植樹を行う予定で
業」も継続中です。2007年以来、タバコ
す。
栽培農家の人と植えた木の数は、すで
3年目を迎えているイオン環境基金助
に129万6000本(うち4000本は竹)に上り
成によるカリンガ州タブック町マララオ村
ました。この事業は、国際ビジネス大賞
などにおける植林事業「マララオ・カラン
の「Environmental Responsibility Pro-
ギン・レパント地区水源の森林再生のた
gram of the Year in Asia, Australia and
めの植林事業」も順調です。2010年11
New Zealand」(環境責任プログラムーア
月の台風フアンで多くの苗木が被害を
ジア、オーストラリア、ニュージーランド
受けましたが、コミュニティの方々は
地域)というカテゴリーで、最も優れた事
CGNスタッフとともに辛抱強く植林を続
業として)表彰されました。
7
奨学金サポート会員
年会費20,000円
サポーター会員募集中!
「コーディリエラ・グリーン奨学金プログラム」で学ぶ先住民
族の大学生の授業料をサポートします。会員お一人に奨学
生一名をご紹介させていただく里親制度です。奨学生から
山岳地方の農業と持続可能な暮らしをサポートします。ベン は年2回のお手紙とクリスマスカードが届きます。
ゲット州とマウンテン州で実施している、昔ながらの伝統農
法を守りながら、有機農法、アグロフォレストリー(森林農 一般サポート会員 年会費5,000円
法)、エネルギー自給の小さな技術を取り入れてゆっくりと持 コーディリエラ・グリーン・ネットワークのすべての環境保全
続可能な暮らしを実現していくための事業をサポートしま 活動のサポーター会員です。
す。サポータ―の方には、カ
リンガ族の手織りポーチと、 ●古着・古文具の寄付
会費やご寄付のお振込先
アグロフォレストリーで育てた も受け付けています
お い し い ア ラ ビ カ ・ コ ー ヒ ー ●ボランティア(翻訳、
ゆうちょ銀行
「KAPI TAKO」(250g入り)3袋 デザイン、WEB更新、
振替口座番号:00140-1-51319
口座名:
をお送りいたします。
ニュースレター制作)&
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク
インターンも募集中!
有機農業と持続可能な暮らしサポーター
一口 10,000円
CGNエコストア
CORDILLERA GREEN
NETWORK
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク
フィリピン・ルソン島北部のコーディリエ
ラ山岳地方で活動する環境NGOです。
スタッフは現地在住の日本人とフィリピ
ン人。山岳地方の環境保全、環境を壊
さない手段による先住民の暮らしの改
善、自然と調和した暮らしの尊さを伝
える環境教育活動を行っています。
[フィリピン事務局]
14D General Lim Street, Baguio City
2600,Philippines
Tel:+63(0)74-423-0839
+63(0)928-521-8124(反町)
―先住民族の暮らしを助けるフェアトレード商品の紹介-
4ページでご紹介した「カピタコ・コーヒー」以外にも先住民族のコミュニティで作
られたプロダクツを販売しています。
カバヤン村の女性たちが作
るレモングラスオイル
ナトーニンの女性たちが作る
Ginger with
Lemongrass tea
Native`s Best
ベンゲット州カバヤン村の
女性たちが植えたレモング
ラスからエッセンシャルオ
イルを抽出し、ココナツオ
イルとブレンド。虫よけ、
マッサージオイルに。
ナトーニン村は山奥の素朴な
暮らしの村です。生計向上の
ために植えた生姜で、甘みを
抑えたジンジャーティーを作り
ました。
5 0 m l プ ラ ス チ ッ ク ボ ト ル 入 り 320mlガラス瓶入り
1,000円
1,200円
SLUの指導で小規模農家が
作るはつみつ
GOLDWELL
名門セントルイス大学が小規
模農家に対して行った養蜂指
導により生産されたハニー。
バギオ中に咲き誇る小ぶりな
ヒマワリのさわやかな味のはち
みつです。
320ml入りガラス瓶入り
1,400円
[日本事務局]
〒173‐0023
東京都板橋区大山町19-1-601
Tel:090-3595-8909(中村)
090-7699-2156(松野下)
090-1453-4092(吉田)
E-mail: [email protected]
[HP]http://cordillera-green.net/
[ブログ]http://cordillera.exblog.jp
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美/大滝裕子/蔵貫亜由美/
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