花王 ハイジーン ソルーション 2006 10 特集 1 ― 老人性乾皮症について 特集 2 ― 疥癬について INDEX ◆ 特集 1 ― ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・1 老人性乾皮症について・ ◆ 特集 2 ― ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・6 疥癬について・ ◆ サイエンスプラザ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 ◆ トピックス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 ◆ 研究紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 ◆ 花王の衛生管理製品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 ◆ バックナンバーのご紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 表紙のデザイン 高齢 者のスキンケアをイメージ してCGを作成したものです。 特集 1 老人性乾皮症について 東北大学名誉教授 医学博士 田 上 八 朗 加齢と乾皮症 老人性乾皮症の臨床 乾皮症 (xerosis;dr y skin) は、先天性の角化異常症 この老人性乾皮症は、秋季 から冬季にかけて、外 や炎症症状のない皮膚が乾燥によってわずかな鱗屑 気の乾燥とともに皮膚表面がザラザラとして、浅いひび や亀裂を生じ、触ると粉をふいたようにザラザラした状 割れが無数に 生じてくる (図1) 。程 度がひどくなると 態をいう。多くの場 合かゆみを伴うが、明確な皮疹は 表面に白い粉をふいたように細かい粃糠様鱗屑 が見 みられないため、従来はむしろ掻痒症(pruritus) と診 られ、触れるとポロポロ落ちて寝具のシーツにも一面に 断されることが多かったが、現在では 冬期にもっとも 粃糠様鱗屑が付着するようになる。 頻用される病名の一つとなっている。 仙台地域では冬季に65歳以上の人の95%に老人性 人が生まれてから新生児、小児、成人、高齢者と 乾皮症がみられ、 その半数の人がかゆみを訴えている4)。 加齢していく中で 色々な時期に 特有の乾皮症を生じ 好発 部位は下腿 伸側、側腹部から腰部にかけてみ ることがある。先ず 新生児の場合は、胎児の時期に られ、次いで肩、大腿、 母親の胎内の羊水に漬かっていたものが、出生により 腕にみられる。多くの 突然 外気に曝されるため皮膚に鱗屑を 生じる。これ 場合は春まで続き、湿 はかゆみを伴わず、新生児乾 皮症といって生後 2 週 度が高く汗をかきやす 間から1か月の間に出生時の角層が脱落することによ い夏季には症状が軽 り消失する 1 )。 くなる。この症状は角 そして生後 6 か月を過ぎると母体のホルモンの影響 層の厚い手掌や足底 が消えて、それまでよく分泌されていた 皮脂 がほとん にも起きる。角層が厚 ど分泌されなくなる。このため、冬季には 乳 幼児や小 い分、ひび割れも深く、 児の6 ,7 割に小児乾 皮症がみられる 2 )。このアトピー 踵では 真皮組織にま 性乾皮症と紛らわしい小児乾皮症は自身のホルモンの で達して痛いアカギレ 変化により皮脂分泌がはじまる思春期には消失する。 が 生じることもある。 成人になると女性では 25歳から中年に向かい男性 ホルモンのレベルが下がる。そのため皮脂 分泌 が 減 図1 老人性乾皮症、表在性の亀裂 を見る って冬季に下肢やかかとに乾皮 症を生じる 3 )。老人 ほどではないが、二十 代にしてかゆみを感じる人も いる。成人男性でも50歳を過ぎれば、男性ホルモン 老人性乾皮症の発症機序 が 低 下して下半身を中心にして皮 脂 分泌 が 減り、さ 先ず皮膚の構造を見ると (図2) 、表面から順に、角 らに老人に向かうと角層のアミノ酸量が 低下して、老 層、顆粒層、有棘層、基底層と並んでいる。最表面に 人性乾皮症 (senile xerosis) を生じるようになる。 ある角層は、通常15層ほどの角層細胞からなる10∼ 1 20ミクロンの薄い膜であるが、体内の水分の放出を抑え なると減 少し、その部位も老人性乾皮症の好発部位 る水分保持機能と外部の刺激から守るバリア機能を と一 致している。特に老人性乾皮症がよくみられる 有している。基 底 層にある細胞は 徐々に押し上げら 下肢の皮膚では若者の皮膚に比 べ 30%も低くなって れて有棘層、顆 粒層、角層 へと変化し、最後にはア いる。 カとして剥れ 落ちる。このターンオーバーは通常約 1 か月を要している。 天然保湿因子 (NMF) の減少 角層細胞の中にも天然保湿因子 (natural moisturiz- 皮脂腺由来の脂質の減少 ing factor;NMF) と称される保水能を有する様々な 角層の表面には皮脂腺由来の皮脂(主成分はトリグ 水溶性低分子物質がある。中でも顆粒層中の細胞に リセリド) が 覆っていて、その分泌には 男性ホルモン あるケラトヒアリン顆粒に含まれる繊維間物質フィラグ が関与している。高 齢になると男性ホルモンが 減 少 リンが 代 謝されてできたアミノ酸 が 保水能に 果たす することや、皮脂分泌量の少ない部位が老人性乾皮 役割は大きい。ところが高齢者ではケラトヒアリン顆粒 症の好発部位である下半身と一 致 することなどから、 が非常に小さく4 , 5 )、構成 成分のフィラグリンも少なく 発 症 機 序の一 つと考えられている。 なる。したがってアミノ酸の量も減少していることは容 易に推測される。また老人性乾皮症の患者を重症度 角層細胞間脂質の減少 別に3 群に分け、それぞれ角層のアミノ酸量と水分量 角層細胞と角層細胞の間には 水分を保持しながら の関係をみると、アミノ酸量が 少ないほど乾燥程度が これらの細胞間を埋めているオドランド小 体 由来の 高い結果からも裏づけられる6 )。 角層細胞間脂質(セラミドを指 標 )がある。このセラミ ドは 経皮水分蒸散量(t ransepider mal water loss 角層構造の変化 :T E W L) の抑制と高い 相関を示し、角層のバリア 機能に重要な役割を担っている。この脂質も高 齢 に 乾皮症をもつ高齢者の皮膚の組織標本を調べてみ 皮脂 細胞間脂質 セラミドなどにより構成 されている 角層 角層細胞 NMF(Natural Moisturizing Factor :アミノ酸 など) を含有している ケラトヒアリン顆 粒(フィラグリン含 有) 顆粒層 角層細胞中でフィラグリンがプロテアーゼにより 加水分解をうけてNMFになる 表皮 層板顆粒(オドランド小体) 有棘層 角化の直前で細胞外に放出され、 顆粒中に含まれるスフィンゴミエリンと グリコシルセラミドが加水分解され、 セラミドを産生する 細胞核 基底層 以下真皮 図2 表皮の構造 2 老人性乾皮症について ると、若 年者のそれに比べ、角層の肥厚と表皮の萎 アトピー性乾皮症との比較 縮と顆粒層の消失とが見られる (図3) 。高齢者におい ては 若年者に比べて表皮の萎縮が見られる一方、角 次に乾皮症という点では同じであるが、最近よく見ら 層のターンオーバーが1.5 倍にもなるため、古くなった れるアトピー性乾皮症との違いを比較してみよう。アト 角層細胞 が 蓄積し、角層が 2∼3 割肥 厚している。角 ピー性皮膚炎患者では典型的な湿疹性病変のある皮膚 層細胞の形は 大きく平たい形をし、角層は 表面の凹 以外でも、乾燥してかゆみをおこしやすい。そして躯幹や 凸が 消失している。また、バリア機能の指標である経 四肢伸側では毛孔一致性の小丘疹が目立つ (図4) 。 皮水分蒸 散量T EWLは若年者に比べて同等もしくは 減少しているが、正常の範囲にある (表1) 。そこで、本 症は皮表にひび 割れがおきない限りはバリア機能は 保たれているが、表面の角層は乾燥しているため、エ アコンなどで室内の相対湿 度が50%以下になったり、 または 掻くなどの物理的な作用によりひび 割れを生じ、 バリア機能を損ないやすい。 若年者 図4 アトピー性乾皮症. 背部に毛孔一致性 小丘疹が多数見ら れる アトピー性乾皮症と老人性乾皮症の角層を比較して みると、角層細胞面積は老人性乾皮症では正常皮膚 に比 べて 拡大 傾向にあるが、アトピー性乾皮症では縮 7) 。また、角層 のターン 小 の傾向を示している (表 2) オーバー時間は老人性乾皮症では正常皮膚に比べて 角層の肥厚 高齢者 延長傾向にあるが、アトピー性乾 皮症では 短 縮の傾 向にある。このアトピー性乾皮症のターンオーバー時間 の短 縮は、軽い 炎 症による表皮の代 謝 亢 進により 萎縮した 表皮と 顆粒層の 消失 図3 角層の病理組織像 表1 高齢者と若年者の皮膚の比較 若年者と比べた高齢者の皮膚 TEWL 同等以下 角層細胞間脂質 低下 表皮の変化 萎縮 角層のターンオーバー 1. 5 倍長い 時間 (若年者14日、高齢者 21日) 角層細胞の形態 大きく平たい 角層の厚さ 2∼3割肥厚 引起されたものである。 表2 老人性乾皮症(senile xerosis ; SX )と アトピ ー 性乾皮 症(atopic xerosis ; AX) との機器分析 による角層異常の比較 AX SX バリア機能 低下 正常∼上昇 水分保持機能 低下 低下 角層細胞総数 増加 増加 角層細胞面積 縮小 拡大 ターンオーバー時間 短縮 延長 pH 上昇 正常 不安∼低下 低下 角層細胞間脂質 低下 低下 水溶性アミノ酸 低下 低下 皮表脂質 (田上八朗:乾皮症と乾皮症性皮膚炎, MB Derma , 57: 2 - 8, 2002より)8) 3 老人性乾皮症から発生する疾患 しかし、過度の洗浄により皮膚表面の皮脂腺由来 の脂質や角層間脂質、天然保湿因子が 流失して、角 老人性乾皮症はか 層がひび 割れてバリア機能の低下を引起し老人性乾 ゆみのために皮膚を 皮症が発現する。そのため洗浄剤は低刺激のものを 掻破すると、亀裂の 使用することが 好ましい。アルカリ性 の石けんを用い 部位を中心として乾皮 たり、強くゴシゴシ洗うのは避けたい。老人性乾 皮症 症性皮膚炎(xerotic では擦りすぎるとかゆみを誘発して悪 化させることに der mat i t is) ( 図5) 、 もなる。 乾皮症性湿疹(xer- 道具についてもナイロンタオルやスポンジなどは強 otic eczema) を生じ く擦って使うと角層に傷を付けてひび 割れを起こし、 てくる。さらにはアトピ 乾皮症が発現する。ときにはナイロンタオル皮膚炎を ー性皮膚炎と同様に 起こすこともある。柔らかい木綿などで作られたものを 環境の抗原である高 用いて極力物理的刺激は避けたい。 分子タンパクがバリア また湯 船に漬 かるとき、さら湯を用いると角層から 機能を破壊された皮 多くの保湿成分が流失するため、入浴 剤の使用が好 膚から侵入して免疫反 図5 乾皮症性皮膚炎の亀裂を中心 とする炎症症状 ましい。 くなると貨幣状 湿 疹 3)保湿剤 が生じてくる。貨幣状湿疹は 若年者では虫さされ 部位 高齢者 の皮膚のバリア機能の低下を補ったり、予 を掻破して起こることが多いが、高齢者ではこのように 防のためには、角層で 減 少している脂質や保 湿因子 応を起こし、反応が強 乾皮症に続発することが多い 8 )。 (セラミド、NMFなど) を補うことが重要で、これを補う クリームやローションを塗布するとよい。特に入浴 直 予防とケア 後は脂質や保湿成分が 流失しているため、ケアが必 要な状態にあるが、入浴 時に外から取り込んだ水に 日常のなかで、老人性乾皮症を未然に防いだり、また より角層が 著しく膨潤して角層細胞間にゆるみが 生 これをケアするためには、前述の発症の機序からも考え じている。そこからは、クリームやローションの脂質や られるように、1.室内湿度 2.入浴方法 3.保湿剤に注 保湿剤を吸収しやすくスキンケアを行なうよい機会で 意を払うことが望ましい。 あるとともに必要 な機 会でもある。また 最近 では保 湿効果の高いスキンケアタイプの入浴剤もあり、浴水 1) 室内湿度 中に保湿成分を効果的に作用させることもできる。 冬季は大気中の湿度が 低くなるが、そのまま室内 で暖房を用いると更に 湿度は 低下し乾 皮 症 が 現れ る。季節が春になり外気の湿度が 増すとともに 症状 炎症・かゆみの治療 はかるくなり、あるいは 消 失する。このように発現は 湿 かゆみがあるからといって、掻くことは皮膚のバリア 度に依存している。老人のいる室内は 湿 度を60%以 を破壊し、ひいては外界からの刺激物質、アレルゲンの 上に保つよう注意すると予防ができる。 皮膚への透過を容易にすることから厳禁である。かゆみ に対しては風呂から出たあと、ワセリンなど油脂剤をか 4 2) 入浴方法 ゆいところ一面に塗る。油脂類がべたべたと感じられ、 入浴時にからだを洗う行為は、皮膚表面の汚れや 耐えられない場合は角層剥離作用がある尿素を10 % 垢(古くなった角層) を洗浄除去し皮膚を清 潔に保つ 含んだ外用剤、あるいは、保湿性の高い保湿クリーム 観点から、皮膚疾患を予防する上で重要である。特に を用いる。塗布の頻度は皮膚表面の乾燥程度により 高齢者にとっては、角層のターンオーバーが長くなって 決める。最低 1日2 回、夜 (風呂上り) と朝起きたときに いるため、蓄積している古い角層を除去して新陳代謝 は 塗布する。 を促進させる意味を持っている。 足の裏、とくに 踵にはアカギレがよくおきるので、 老人性乾皮症について 風呂から出たところで、ワセリン、オリーブ油などを塗り、 のステロイド軟膏により炎症性変化を短期間に治療 上からポリエチレンのラップで 覆い、ずれないように し、軽 快後に保湿剤によるスキンケアを 継 続する。 縁を絆 創膏でとめてから靴下をはかせる。昼は 尿素 痒みが強いと掻破により湿疹性病変が悪化すること 軟膏あるいはワセリンの単純塗布だけにする。 が多いので、抗ヒスタミン剤や 抗アレルギー剤を用い 保湿 剤の外用だけでは皮膚炎の痒みがとれないこ て止痒を試みる。 とが多いため、はじめにmi ld ないしmoder ateクラス 参考文献 1)Saijyo S et al.:Dry skin of newborn infants:function analysis of the stratum corneum,Ped Dermatol, 8:155-159, 1991. 2)田上八朗ほか:皮膚水分. 高瀬吉雄, 石原 勝, 戸田 浄,森川藤鳳編:加齢と皮膚.清至書院,1986,pp107-116 3)Saint-Leger D et al.:Stratum corneum lipids in skin xerosis. Dermatologica, 178:151-155, 1989. 4)Hara M et al.:Senile xerosis:Functional, morphological, and biochemical studies. J Geriatr Dermatol, 1 :111-120,1993. 5)Tezuka T:Electron-microscopic changes in xerosis senilis epidermis. Its abnormal membrane- coating granule formation. Dermatologica, 166:57- 61,1983. 6)Horii I et al.:Stratum corneum hydration and amino aci d content in xerotic skin. Br J Dermatol, 121:587-592, 1989. 7)Urano-Suehisa S et al.:Functional and morphological analysis of the hornay layer of pityriasis alba. Acta Derm Venereol, (Stockh)65:164 -167,1985. 8)田上八朗:乾皮症と乾皮症性皮膚炎, MB Derma, 57: 2-8, 2002. 9)Aoyama,H et al.:Nummular eczema:An addition of senile xerosis and unique cutaneous reactivities to environmental aeroallergens.Dermatology,199:135 -139,1999. 5 特集 2 疥癬について 九段坂病院 皮膚科 大滝倫子 せた要因と考えられている。幸い、2006 年 8月よりイベル はじめに という内服薬が疥癬 メクチン (商品名ストロメクトール R ) 現在、高齢者介護施設など高齢者の集団生活の場で 1) おこる感染症のなかで桁外れに多いのは疥癬である 。 に対して保険が適用され投薬が可能になった。その結 果、疥癬の撲滅に若干の希望が出てきたところである。 疥癬はヒゼンダニという体長0.4mmの小さなダニ (図1) が人の皮膚に寄生して起こす皮膚感染症で、人か ら人へと感染する。この病気は従来30年周期で流行を 二つの病型(普通の疥癬、角化型疥癬) 繰り返すと言われてきた。今回の流行の始まりは1975年 2) 疥癬には普通の疥癬と角化型疥癬(ノルウエイ疥癬) であった。前回の流行はその30年前の1945年、第二次 との二病型がある (表1) 。両 者 ではダニの寄生数に 世界大戦の敗戦直後に爆発的におこり数年で流行は去 よる感染力の違いから感染予防対策が異なる。 った。ところが今回はすでに2006年で31年になるが終 表1 普通の疥癬と角化型疥癬の違い 焉するどころか、高齢者を取り巻く環境で疥癬の発症 疥 癬 角化型疥癬 が続いているのが現状である。東京都、神奈川、千葉、 寄生数 1000以下 100万∼200万 埼玉各県の高齢者施設で行った筆者らの疥癬アンケー 免疫力 正 常 低 下 感染力 弱 い 強 い 痒 み あ る 不 定 症 状 赤い小丘疹 角 化 トでは特別養護老人ホームで、その80%近くが疥癬の 集団発生を経験しているという結果を得た 3)。また国全 体を対象とした2002年のアンケートでは介護療養型医療 施設で、50%に疥癬の発症があったと報告されている4)。 1)疥癬 これらのデーターは高齢者施設での近年の疥癬の流行 感染後、約1カ月の潜伏期間をおいて発症する。激し の様相を示すものである。 い 痒をともない、胸腹部、大腿内側、腋窩、前腕や上 腕の屈側などに散発する赤い小丘疹(図2) 、外陰部や 肘頭、腋 窩などの赤褐色の小結節(これは必発では ない) 、疥癬の特異疹で診断の目安になる疥癬トンネル (手や指、足に好発する細い僅かに盛上がった線状の 皮疹でヒゼンダニの産卵場所) などが特徴である。乳幼 児を除き頭頚部には皮疹を欠く。 図1 ヒゼンダニの雄雌と卵 何故このように高齢者の間での疥癬の流行が続くの かは不明であるが、一つには高齢者の増加により、その 集団生活の場が増えたことである。 また医師を含め看護者、 介護者など医療関係者間で疥癬に対する十分な知識 がないため誤診も多く、 しかも公的に疥癬に使える薬剤が 国内になかったなどが、このような疥癬の流行を長引か 図2 普通の疥癬、腹部に散発する紅斑性小丘疹 6 疥癬について 2)角化型疥癬 (ノルウエイ疥癬) 他人のベッドで寝る、他人の寝間着を着るなどで感 老衰、重症感染症、悪性腫瘍などの基礎疾患がある 染が広がる。デイサービスなどで一人ずつシーツを 場合や、他疾患で副腎皮質ホルモン剤 (ステロイド剤) かえないことで感染が広がる。 や免疫抑制剤を投与されているなど、免疫力の低下に 2)角化型疥癬からの感染 伴い発症する。高齢者では副腎皮質ホルモン外用剤の 普通の疥癬同様に直接接触、衣類などの間接接触 使用で角化型疥癬に移行する例も多い。 で 容易に感染する。しかし角化型疥癬では感染予防に 皮膚症状は手や体の骨ばって摩擦を受けやすい部 一層の注意が払われなければならないのは、その皮膚 位に厚い黄白色の汚い鱗屑が蛎殻のように付く (図3) 。 から落ちる多量の落屑のためである。この落屑には多数 の生きたヒゼンダニが生息している (図4) 。これらが飛 び散り皮膚や衣服に付着し同室者に容易に感染する。 医師、看護師、理学療法士、介護士などの衣類に落屑 が付いて運ばれ別の部屋、別の階にも拡大する。病院 内、施設内を動きまわれる患者では、食事室、浴室の脱 衣所、洋式トイレなど共通に使用する場で、直接接触が なくても感染が広がる。老人病院、高齢者施設などでの 疥癬集団発生のほとんどが角化型疥癬患者を感染源と している。角化型疥癬の診断が遅れると、施設や病院 の職員、さらにその家族にも二次、三次と感染が広が 図3 角化型疥癬の手、厚い鱗屑が特徴的 っていく。 手・指、肘頭、膝蓋、臀部、体幹、四肢の関節背部など に好発、頭部や耳介も発症する。痒みは不定である。 ダニの寄生数は、普通の疥癬では 5 割の患者は 雌 成虫の寄生数が1人に1∼5匹で、最悪でも1人に千匹程 度である。結果として感染力は弱い。これに比べ角化 型疥癬では1人に100万∼200万匹と桁違いに多く、感 染力は強力である。両者での感染対策の違いはダニの 寄生数の差に基づくことが理解されよう。しかし多くの 病院、高齢者施設、介護施設では両者に対して同じ対 応をしているところがほとんどである。その結果パニッ 図4 角化型疥癬の落屑中のヒゼンダニ クや過剰労働を生んでいる。両者をはっきりと区別した 上で、対応するべきである。 疥癬の感染経路:病型で違う 未然に感染を予防するには 皮膚の観察:早期診断のために皮膚の観察を怠らないこと 1) 新規入院患者、新入所者は入院、入所時に皮膚を良 普通の疥癬からの感染 1) く観察すること第一である。 疥癬は肌から肌へと直接接触によって感染し、雑魚 普通の疥癬ではたとえ感染しても、その範囲は狭く 寝でも感染する。布団やベッドを介しても感染する。現 小人数の感染で処置も最小限で済んでしまうが、一旦 在ではほとんどタタミの病室はないと思われるが、高齢 角化型疥癬になると感染範囲は広範囲に及び、対応 者施設などでは 今でもタタミ室が使われているところ もそれに応じおおごとになる。疥癬も早期診断、早期 がある。タタミ室での雑魚寝で感染する。ただし、タタ 治療が第一である。 ミの上でヒゼンダニがふえるわけではない。ふつう 皮疹の無い場合 体から離れたヒゼンダニは感染力も弱く、室温では 疥癬には約1カ月 (長いと6カ月) の無症状の潜伏期間 動きも鈍く比較的短期間死滅する。その他、長椅子 があるので入所時に無症状でも入院後、入所後に発症 で長時間身を寄せあうなどで感染したり、認知症で することがある。常に皮膚の観察を続けることが望ま 7 れる。また新規入院患者、新入所者が老人病院や他の介 ている入所者の皮疹が悪化し垢がついているように見 護施設からの入所であれば、 それらの施設での疥癬の感 える場合には、角化型疥癬の可能性が疑われるので皮 染状況を問い合わせておく。普通の疥癬では発症した時 膚科医に診てもらう。 点で治療を行えば、他への感染が防げる。不明な場合 にはタタミ部屋での雑魚寝はさけ、長時間他者との直接 接触を避ける。隔離や特別な予防処置は不要である。 実際に集団発生した場合 新入院患者、新入所者を対象に入所時に予防的治 入院患者、入所者の複数に同じような痒い皮膚症状 療を行う施設もあるが、最近では 3カ月ごと、あるいは が現れる、同様な症状が看護者、介護者にも生じてくる もっと頻繁に病院と施設を行き来する患者も多く、その などが起きたら、疥癬の集団発生の可能性が疑われる。 度に予防的治療を行うのは疥癬治療薬の毒性を考え 表2 普通の疥癬と角化型疥癬の対応の違い ると実行しないほうが賢明であろう。 疥 癬 治療のみが必要 皮疹のある場合 角化型疥癬 隔離(1∼2週間で良い) 治療 感染予防処置 疥癬に似て否なる疾患は数多あるので、疥癬に長け た皮膚科医師に診てもらう。疥癬は激しい痒さを伴う ● ● 疾患で、夜間に痒みが増強するが、痒みを伴う皮膚疾 熱処理(最初と最後で良い) 殺虫剤散布 (1回で良い) 患の多くは夜間に痒みが増強する。従って痒い、特に 1) 診断の確定 夜間痒がるからと言っても、そのほとんどが疥癬では 疥癬であるかないか、さらに感染源と思われる患者 ない。けっして自己判断してはいけない。 が普通の疥癬か角化型疥癬かを確定する (表 2 ) 。 角化型疥癬では厚い鱗屑が特徴で痒みは必発では 2)感染対策委員会をつくり委員長を決める ない。足の白癬、入浴しないための垢、紅皮症や乾癬 3)職員への周知と啓発を図る などと誤診されることも多く、類似疾患が多いので自己 4)感染源を見つけ隔離し治療を開始する 判断は禁物である。 感染源の角化型疥癬患者を見つけ隔離し治療を開始 する。しかし慢性湿疹、乾癬、紅皮症などと誤診されて A)普通の疥癬の場合 皮膚科医の診察で普通の疥癬と診断された場合には、 入院室、入所室はベッド部屋とし、タタミ部屋の使用を 避けるなどの注意を守り、ただちに治療を開始すれば 良い。隔離や特別な処置は不要である。 B)角化型疥癬の場合 速やかに隔離し、治療する。隔離期間は1∼2週間で良い。 隔離室内での対応、 リネンの処置などは次の項で述べる。 いたり、ミトンのなかに角化病変が隠れていたり、痒がら ないので 垢と思われていたり見落とされることも多い。 さらに退院後に気 付くこともある。 隔離が必要なのは角化型疥癬の患者のみで、期間も 治療開始1∼2週間で良い。 5)発症している感染者を治療する 角化型疥癬からの感染者のほとんどは普通の疥癬 として発症する。治療のみで十分であり、徘徊患者 入院時、入所時に角化型疥癬の診断がつけば感染 以外は隔離の必要はない。 の拡大は防げる。疥癬の集団発生の多くは角化型疥癬 6) 感染範囲を推定し未発症者も予防的治療を開始する を見逃すことで始まる。これを防ぐには入所時に疥癬に 角化型疥癬の早期診断を怠ると、前述のように広範 長けた皮膚科医に診てもらうことであるが、もし皮膚科 囲に広がるので施設や病院の職員及びその家族も予 医が近くにいない場合には、角化病変より鱗屑あるい 防的治療の対象となる。感染源患者の行動範囲が広い は落屑を一片 (ベッドに落ちているものから検出される 場合には共同の食堂、風呂場の脱衣室、洋式トイレな こともある) を取り、鏡検してくれる検査施設に送ること どを使用していた人々も対象となる。集団発生がおさま でも診断はつく。 らない施設では、潜伏期間にある無症状の感染者を放 2)普通の疥癬を角化型疥癬にしない 置することから再燃している。 高齢者では普通の疥癬がステロイド剤の外用、内服 なお普通の疥癬でも病室、居室が畳部屋だとか、ま 。高齢者にステ た洋室でもベッド間が極端に狭く布団が重なり合う場 ロイド剤を用いる場合には常に疥癬でないことを確か 合、または認知症などで他人のベッドに潜り込む、他 めることが大事である。ステロイド剤による治療を受け 人の衣服を着る、あるいは長期間他人と肌の接触があ などで角化型疥癬となることが多い 8 5、 6 ) 疥癬について る場合などでは感染し集団発生を起すことがある。感 るもので、普通の疥癬患者には不必要である。ただし 染が予測される場合には予防的治療が必要となる。 隔離前の角化型疥癬患者と同室だった患者、特に隣の 7)隔離室内など角化型疥癬患者からの感染予防 ベッドで寝ていた患者の布団、シーツなどの寝具は角 角化型疥癬の落屑中には多数のヒゼンダニが生き 化型疥癬患者と同様の処置(熱処理など) を行う。 ているので感染予防処置が必要である。 室内作業 おわりに 隔離室内での作業は予防着と手袋を着用し、患者接 触後はビニール袋に入れ密閉し熱処理する。角化型 2006年 8月より内服薬イベルメクチン (ストロメクトー 疥癬患者を他の部屋に移す場合には使用したベッド が疥癬に対し保険が適用されるようになり、投薬 ルR) や寝具は2週間使わないか、あるいは必ず患者をベ できるようになった。これにより以前には外用剤の全身 ッド寝具ごと隔離室に移動する。けっしてすぐ次の 塗布を必須とされた疥癬の治療が患者にとっても医療 患者を、そこに寝せてはいけない。感染経路で述べ 側にとっても楽になった。しかし、それでも角化型疥癬 たようにベッドやシーツを介して次の患者に感染す を見逃すとか、普通の疥癬を角化型疥癬にするなどで、 る。ベッドごと移動は普通の疥癬にも適応される。 容易に集団発生が 起こるので、常々皮膚のチェックを 熱処理を行う 怠らない注意が大切である。 ヒゼンダニは 熱に 弱く50℃10分の加熱で 死 滅 す る。従って寝間着、シーツなど熱湯に漬けるなど熱 処理できるものは熱処理する。洗えない布団などは 熱乾燥車などで熱処理する。シーツなどの交換にさ 引用文献 いしては落屑が部屋に飛び散らぬように注意し、ビ 1)稲松孝思:高齢者施設と疥癬対策,編集日本感染症学会, ニール袋などに入れ密閉し、そのまま熱処理しても 良い。掃除機で良く掃除をするだけでも飛び 散って いるものは処理できる。ヒゼンダニは高湿度、低温の 場合(気温12℃、高湿度) 、2週間生存したという記録 がある。角化型疥癬患者 の使用していた部屋、ベッド 寝具の類は 2 週間接触を絶ち、衣 類もビニール 袋に 院内感染対策テキスト改訂4版, 176−183頁 ,へるす出版. 2)大滝倫子:西日皮膚,40:668−672 ,1978 . 3)大滝倫子:皮膚病診療,19:468−472,1997. 4)全国老人保健施設協会:疥癬対策マニュアル,2003年, 全国老人保健施設協会,厚生科学研究所販売. 5)N.Ohtaki,et al. :JD,30 (5) :411−416,2003. 6)大滝倫子ほか:臨皮,59:692−698,2005. 詰めて口を閉じ2 週 間 放 置する。これが一番 安価で 確実な処置である。 殺虫剤を使う 熱処理できないものには殺虫剤を用いる。角化型疥 癬の隔離室、隔離前にいた病室、隔離室の壁、床、 カ ーテンなどに殺虫剤を散布する。いずれも隔離時1回 で十分である。使用する殺虫剤はピレスロイド系の殺虫 剤が良い。同剤は即効性があり、人に対する毒性は低 い。この系統のペルメトリンは外国では疥癬の治療に 用いられている。エアゾールや燻煙剤が簡便である。残 効性があるので一度の処置でよい。角化型疥癬患者の ほとんどはベッドから動けない程の重症患者が多いので 隔離室だけの処置ですむが、中には共同風呂、食堂、 洋式トイレなど広範囲に施設内を移動することもあり、 そのような場合にはその移動場所にも同様の殺虫剤に よる処置が必要となる。 繰り返しになるが、患者の隔離、熱処理、殺虫剤噴 霧などの処置はあくまでも角化型疥癬患者のみに対す 9 皮膚の乾燥による かゆみとスキンケア 産業医科大学皮膚科教授 戸 倉 新 樹 1 図1に示 すように、かゆみを伝える神経は、C 線維 乾燥した皮膚がかゆい理由 と呼ばれる最も細い神経線維であり、脊 髄から皮膚 空気が乾燥し湿度が 低下する秋から冬の時期に、 まで伸びている。その先端は通常、表皮・真皮境界部 腕や脚の皮膚が乾燥し白い粉をふいた 状 態になる。 近辺で自由神経終末となっており、そこがかゆみ刺激 この乾燥とともに発生するかゆみは、乾 燥性皮膚疾 を感受するリセプターとなっている。このリセプターに、 患の代 表であるアトピー性皮膚炎を罹患している患者 機械的、物理的、化学的刺激が作用すると電気信号 はもちろん、高齢者の多くの方が 経験する症状であ (インパルス) に変換され、脊髄を経由して大 脳皮質 ろう。かゆみとは、 「掻きたくなる不 快な感覚」 と定義 に伝達され、かゆみが知覚される。 される。従来、かゆみは痛みの強度レベルの低いも ところが、乾燥皮膚では角層のバリア機能や水分 のであると考えられていた。しかしながら、最近の神 保持機能が低下しており、C 線 維が表皮内に侵入し 経生理学の進歩により、かゆみは痛みとは異なるメカ 角層近くまで達している1 )。その結果、かゆみの知覚閾 ニズムで 認識されていることが明らかになってきた。 値を下げ、通常ではかゆみを起こさない弱い刺激で 刺 激 角層 ヒスタミン C線維 表皮 サイトカイン ケラチノサイト NGF サブスタンスP 真皮 ヒスタミン かゆみ マスト細胞 図1ドライスキンのかゆみ発現メカニズム (仮説) 文献1より一部改変 10 さえ、かゆみを生じるアロネーシスの状態にあると考え かゆみの評価方法は、以下の3つに分類することが られる。たとえば、有機溶剤によりセラミド等 の細胞 できる。 間脂質を除去して誘 導したヘアレスラットの低 バリア皮 膚を観察した結果、48時間後にはすでにC線維が角層 1) かゆみの感覚を直接本人が評価する方法 直下まで侵入し、その長さと本数が共に処理後の時 2)掻き動作を測定し間接的に評価する方法 2) 間に依存して増加することが 報告されている 。 3)機器測定により定量化する方法 一方、外部刺激によりケラチノサイトからは神経成長 因子 (nerve grow th fac tor : NGF ) が放出され、さら 3) の試みとして、小林ら 4)はNeurometer R(CP T/ にC 線維の表皮内への侵入を誘 導すると考えられる。 C) を用いてアトピー性皮膚炎患者の知覚神経刺激閾 また、ケラチノサイトはヒスタミン等の起痒 物質を放出 値について検討を行っている。Neurometer R は神経 し、それがリセプターに結合するとかゆみインパルスが 内科、麻 酔 科、整 形外科等で定量的な知覚 神経診 発生する。生じたインパルスは中枢と末梢の2 方向に 断法として神経障害の検査に用いられている機器で 伝達され、末梢に 伝達されたインパルスはサブスタン あるが、刺激電流の強度を変え、被験者が認知できる スPを遊離し、マスト細胞に作用しヒスタミン等を放出、 最小電流値より電流感覚閾値(CP T ; Current percep- それがリセプターに結合し、ますますかゆみが 増強さ t ion threshold) を測定することができる。小林らによる れる (図1) 。 と、アトピー性皮膚炎患者では健常人対象に比べ有意 ヒスタミン反応性のC線維の活動は温度依存性があ にその閾値が低下しているという4)。 るため、冷却することによりかゆみは感じにくくなる。 かゆみを感じやすいアトピー性皮膚炎患者において また、最新の研究によるアトピー 性 皮膚炎では、通 CP T 値が低下していることより、かゆみとCPT値との 常はかゆみを抑えるはずの痛み刺激が逆にかゆみを 相関が示唆される。 誘発し、よりかゆみを感じやすくなっていることがわか ってきた 3)。そのため、本来、痛みを発生するはずの掻 破行動でさえかゆみを増強し、それがかゆみの悪循環 の一因となっている可能性がある。 3 スキンケアによる効果 セラミドは角層の細胞間脂質の約半分程度の量を占 め、皮膚がバリア機能、保湿機能を発現するために 2 かゆみの評価方法 重要な役割を果たしている。乾 燥した皮膚ではセラ ミドが 不足しがちであり、セラミドを用いたスキンケア かゆみは主観的な感覚であり、その強度を客観的に は非常に効果的である5 , 6)。 計測、評価することは困難である。しかしながら、かゆみ 我々は、下腿にかゆみを伴う乾 燥症状を有する被 を伴う皮膚疾患患者の治療現場では、患者のかゆみ 験 者に対し、合成疑 似セラミドを含 有するクリーム製 の強さの評価が正確な診断に結び つくこともある。そ 剤を用いたスキンケアを行わせ、その皮膚 状 態の変 のため、かゆみ強度の評価方法については、種々の方 化について、スキンケアを行っていない部位と比較検 法が提案されている。 討した。その結果、スキンケアを行うことによりバリア 11 機 能や保湿機能の改善に加えて、かゆみレベルの改 たらしている傾向が 示 唆された 7)。このことは、乾燥 善も認められることを見出した。また、スキンケアの 皮膚におけるC 線維の角層近傍 への侵入とは逆の現 実 施によりCP T 値が上昇し、かゆみとの変化の相関 象が 生じていると考えられ、乾燥皮膚に対するセラミ も認められた。更に、アトピー性皮膚炎患者において ドを用いたスキンケアが、かゆみに対しても有効である もバリア機能・保湿機能の障害がCP T値の低下をも ことを示している。 60 平均値+標準誤差 p<0.005 p<0.005 試験前 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 スキンケア有 スキンケア無 p<0.05 0 スキンケア有 スキンケア無 検定:paired t-test 検定:paired t-test 4 3 3週間後 80 p<0.005 p<0.05 p<0.05 p=0.675 p<0.001 60 40 20 2 0 1 0 -20 スキンケア有 スキンケア無 検定:Wilcoxonの符号順位検定 -40 -4 -3 -2 -1 0 1 2 かゆみスコア 検定: Spearman順位相関 参考文献 1)高森健二:ドライスキンによるかゆみのメカニズム,臨床皮膚科 54:52- 56,2000. 2)高森健二,吉池高志,長谷正:皮脂減少性湿疹における表皮内神経線維について,第7回かゆみシンポジウム,69 - 72,1998. 3)生駒晃彦,宮地良樹:アトピー性皮膚炎患者において痛み刺激で生じるかゆみ,第12回国際かゆみシンポジウム,23 - 25,2002. 4)Hiromi K,Katsuko K,Yoshitaka T,Hachiro T: Measurement of Electrical Current Perception Threshold of Sensory Nerves for Pruritus in Atopic Dermatitis Patients and Nomal Individuals with Various Degrees of Mild Damage to the Stratum corneum.Dermatojogy,206,204 - 211,2003. 5)中村哲史,本間大,柏木孝之,坂井博之,橋本善夫,飯塚一:アトピー性皮膚炎患者に対する合成疑似セラミドクリームの有用性及び安全性の検討, 西日本皮膚科,61,671- 681,1999. 6)水谷仁,高橋眞知子,清水正之,刈屋完,佐藤広隆,芋川玄爾:アトピー性皮膚炎患者に対する合成疑似セラミド含有クリームの有用性の検討, 西日本皮膚科,63,457- 461,2001. 7)森智子,廣川陽子,廣川久忠,戸倉新樹,石田耕一,棚橋弘枝,野尻浩,芋川玄爾 ,第56回日本皮膚科学会西部支部学術大会,117,2004. 12 最近話題の感染症 あらためて注意したい国内での感染症 国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室 研究官 高木 弘隆 近年高病原性鳥インフルエンザウイルスの世界的 な拡大により、このウイルスのヒトへの馴化と爆 発的 (2)アデノウイルス感染症 な感染拡大が懸念され、各国においてこれに対する 国内では春先から流 行が始まり、6∼7月にピーク 対 策 プランが 作 られている。しかし本 ウイルスのみ を迎えることから一般的には「プール熱」と呼ばれ、そ で なく、かつて国内 で「季節的流行」 と 位置づけられ の多くは咽頭結膜熱とされる。発症の対象は小 学 校 ていた感染 症の中にも、それだけでは割り切れない 低学年以下が主であり、症状の多くは 咽頭 炎 や 発 熱 ケースが出現してきている。特にウイルス性感染症に である。本ウイルスは 飛沫 及び接触感 染を起こすが、 おいてはこの傾向が見受けられており、先入観にとら 罹患者は治癒 後も糞便等にウイルスを排出するため、 われると感染制御対策に多大な影響を与えかねない。 プール 水からアデノウイルス遺伝子が 検出され た報 今回こうした感染 症をいくつか取り上げ、感染制御に 告もある。また国内では2002∼2005年を 通じて 生かしていただければ幸いである。 咽頭 結膜 熱 から分離されたアデノウイルス血清型は ヒト−ヒト間で起こるウイルス性感染症で麻疹や風疹、 3型が圧倒的に多く、次いで2、 1、5型であった。アメ 水疱瘡などの強い感染性を示す全身性感染症を除く リカでは血清 型 4 型及び 7型による軍隊訓練キャン と、規模の大小はあるが 呼吸器 系 感 染 症と 経口性下 プでの集団発 生 がみられ、発 症者は成人以上で急性 痢性感染 症 が問題となる。特に保育所 や学校、老健 呼吸器症(ARD) の大きな要因となっている。ドイツの 施設といった 感受性が高いもしくは免疫力の弱い人々 軍隊キャンプでもARDを発症した30代 後半の兵 士 が集団活動(生活) を行う場所では容易に集団発生が から血清型11b型に近縁のアデノウイルスが分離され 起こりうる。これらを 踏まえ今回はインフルエンザウ ている。国内では成人以上の集団発生は少ないもの イルス、アデノウイルス、ロタウイルスそしてメタニュー の、諸外国の状況をみると「小児 感 染 症 」ではなく、 モウイルスについての特徴と流 行、感 染 制御について 年齢にかかわることのない簡易キットなどによる鑑 若 干の考察を述べようと思う。 別診断は重要である。また本年はアデノウイルス検出 報告数 が 例年に比べ流行初期より多いことからより (1)インフルエンザウイルス感染症 注意が必要であろう。 毎年冬季に流行、春には収束し、国内ではA/H3型が その主流を占め、ついでB、A/H1型と続く。A/H1型は (3)ロタウイルス感染症 2001/2002シーズン以降の報告数は非常に少なかっ 本ウイルスは水様性下痢、発熱を 主徴とし、多くは たが、2005/2006シーズンで報告数が増加した。 乳幼児や幼児、小学生といった年齢層が 対象となる。 B型はA型が 下火になってからも流行が 継続する傾 流行時期は冬季であり、患者から分離されるほとん 向があり、2001/2002及び2005/2006シーズンで どはA群に属するものである。また報告例は少ないが は4月以降での流行持続がみられ、昨年は沖縄地方で C群、群不明(電顕像にて確認) というものもみられる。 夏場にB型の流行が起こっている。夏場に向けてはア C群ロタウイルスは2002/2003シーズンの4∼5月 デノやピコルナウイルスなど症状の似た 感 染 症 が 多 にかけて検出報告数が増加したが、そ の前後 のシー いため、簡易診断・治療方法が存在する本ウイルスの ズンでは顕著な 増加は認 めら れなかった。2005/ 鑑別には注意する必要があるだろう。 2006シーズンでは流行ピークの2∼3月にかけて報 告数が増えたが、島根・大阪で小学校における集団発 13 生が探知され、島根の事例(2月下旬) では最終的な有症 も感染症制御の第一歩 は「早期探知」である。とりあげ 者数は300名を越え (うち 家庭内感染 疑い99名) 、大 た4つのうちインフルエンザ、アデノ、ロタについては迅 阪での発生例(3例、3月上旬)では「嘔吐」がその主徴 速診断キットがすでにあり、臨床診断での活用により迅 となっている。A 群ロタウイルスでの集団発 生に比べ 、 速な鑑別が可能である。またhMPVについても流行時期 今回のC群によるものは時期・規模・症状ともにノロウ と症状の特徴からRSウイルスとあわせて疑い項目に入 イルス感 染 症との類似点が多く、有症者の中には成人 れるのが望ましいであろう。予防策としてのワクチンは、 以上も含まれているので、早期診断・感染制御対応は 国内では現在 インフルエンザのみであり、アデノは アメ 今後非常に重要となるであろう。 リカで軍隊用に作成されたものがあるのみ、ロタは諸外 国で使用され実績が 増えつつあるが日本ではまだ 認可 (4)メタニューモウイルス (hMPV)感染症 されていない。そして 治療に関しても抗ウイルス薬が汎 用薬として 存 在するのはインフルエンザ のみで ある。 本ウイルスは2001年に発見されたウイルスであり、そ hMPVはRSウイルスと非常に類似しているため、リバ の属性はRSウイルス (小児呼吸器症ウイルス)に類似す ビリンなどの抗ウイルス剤やグロブリン製剤の投与も る。近 年 の報告 では 乳幼児期に多くが 感 染している可 有効性も挙げられており、これからに期待したい。 能性、流行時期は春から初夏であろうことが判明してき 集団生活における感染拡大 制御としてはゾーニング ているものの、その実態の多くはわかっていない。症状 などによる一時的な住み分けも有効である。ただロタウ としては発熱、咳き込み、鼻汁が多く、ラ音・喘鳴もある イルスで見られた家庭内感染のような住み分け困難な ことから喘息用症状として多く認められる。hMPV検出 場 合 や下痢や嘔吐といったウイルス含有物による汚 染 には現在のところ遺伝子診断(RT-PCR) が最も有 効で が 起こり得る場 合は、適切 な 除染・消 毒を実 施 するべ あり、 (1) から (3) に挙げた感 染症のような迅速簡易キ きである。ロタウイルスは 水道水の殺菌において、ヒト ットはまだ 開発されていない。本年 3月下旬から4月上 由来のものはサルロタウイルスに比べオゾンに対する感 旬にかけて、福岡の高齢者福祉施設に於ける集団発生が 受性が 高く、このサルロタウイルスも有効塩素0.4ppm 探知され、有症者は6割弱(48名/84名)であった。本 で3分以内に5log10減少 (反応比 ウイルス:塩 素水= 例は高齢のための易感 染状態、類似症状が通年で認め 1:200) という報告があり、よほどウイルスが 濃厚もし られていることなどから、感染症としての探知が難しい くは有機物が多い場合を除き、有効濃度50∼100ppm ケースといえる。しかしウイルス検出とともに有症者と の塩素系消毒剤での除染は可能であろう。むしろ不適切 健常者のゾーニングなどの措置が迅速にとられ5月上旬 な消毒による健康被害を留意すべきである。 に終息を迎えた。hMPVが鼻咽頭粘膜上皮で増殖しや またこれまで「塩素に対して感受性が高い」とされてき すく、症状として咳き込み・鼻汁などがあることからこう たアデノウイルスは図1及び2に示すように分離株によっ した感染制御の迅速対応は 非常に重要であることが証 て感受性に差がみられ、一概に判断するのはかえって危 明された。またRSウイルスとの重感染により重症化す 険であり、株間での感受性差がみられない濃度はおよそ るという報告もあり、この点にも注意したい。 汎用にはむかない。筆者による試みでは液体石鹸の成分 でもあるラウリン酸カリウムに有用な感受性が認められ (5)感染制御を目指して これら4つの感染症については、従来の流行時期とは 異なったり、思わぬ年齢層に拡がったりといったケース が少なくないものばかりであるが、たとえそうだとして 14 (図3)、乳幼児などのお尻洗いやおむつ交換時の手洗い、 日常的手洗いにおける有効な感染制御の手段となりうる と考える。 最近話題の感染症 参考文献: (6)おわりに 1)国立感染症研究所 感染症情報センター 病原体検出情報 週別型別インフルエンザウイルス・検出報告数 , 過 去 4シーズンとの比較, 今回とりあげた感染症はごく一部であるが、対策の根幹 2006 年 6月22日作成. は「早期探知」、 「宿主 (集団)の感受性」 「感染経路」を踏ま 2) 国立感染症研究所 感染症情報センター 病原体検出情報 咽頭結膜熱患者から分離・検出されたウイルス , 2001∼2005年, えた上での予防・制御が必須となる。また日頃からの情報 2006 年 4月21日現在. 3)国立感染症研究所 感染症情報センター 病原体検出情報 収集も非常に重要な予防策となる。そのために私どもが 検出されたロタウイルスの内訳 , 2005 / 06シーズン, 2006 年 6月22日作成. 微力ながらもお役に立てれば光栄である。 4)国立感染症研究所 感染症情報センター 病原体検出情報 速報 小学校でのC群ロタウイルスによる集団感染事例 ― 島根県 (IASR 27 : 121 - 122 , 2006 ) . 5)国立感染症研究所 感染症情報センター 病原体検出情報 速報 C群ロタウイルスによる胃腸炎の発生事例 ― 岩手県 Disinfection of Human Adenovirus type 3 by NaCIO virus:NaClO=1:4,Reaction time: 2min (IASR 27 :153 -15 4 , 2006) . 6)国立感染症研究所 感染症情報センター 病原体検出情報 速報 大阪府におけるC群ロタウイルスによる集団胃腸炎の発生 (IASR 27 : 154 -155, 2006) . log10 TCID50 5 4 3 7)国立感染症研究所 感染症情報センター 病原体検出情報 GB3 CL1 CL7 CL12 速報 高齢 者福祉施設におけるヒロ・メタニューモウイルス集団感染事例 ― 福岡県(http : // idsc. nih . go. jp / iasr / rapid / pr 3172 . ht ml ) . 8)菊田英明 モダンメディア 51巻 9 号 2005〔感染症〕p217- 222. 9)B. Chmielewicz, et al., Respiratory Disease Caused by a Species B2 Adenovirus in a Military Camp in Turkey, J. Med. Vir 77: 232-237 (2005) . 2 10)Gregory C. Gray, et al., Respiratory Diseases am ong U.S. Milit ary Personnel : Countering Emerging Threats, Emg. Inf. Dis: ( 5 3)379 -387, 1 May - June ,1999. 0 11)J . M. Vaughn et al., Inact ivat ion of Human and Simian Rotavirus 0 100 200 300 400 500 by Ozone, Appl. Environ . Microbil . ,Vol. 5 3(9) , 2218 - 2221,1987. 12)W.O. K. Grabow et a l., Inactivation of Hepatitis A virusand Indica- Available Chlorine of Reagent(ppm) tor Organisms in Water by Free Chlorine Residuals, Appl. Environ. Microbil., Vol. 46(3) , 619 - 624 , 1983. 図1 GB3 :論文で頻繁に使用されている標準株(ATCC) CL1∼:臨床分離株1∼ Disinfection of Human Adenovirus type 3 by NaCIO virus:NaClO=1:4,Reaction time: 2min Disinfection of Human Adenovirus type 3 by K-Laurate virus:K-Laurate =1: 1,Reaction time: 2min 4 3 5 GB3 CL2 CL3 CL4 CL5 CL6 2 log10 TCID50 log10 TCID50 5 2 0 0 100 200 300 400 500 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Reaction conc of K-Laurate (%) Available Chlorine of Reagent(ppm) 図2 3 CL1 CL2 CL4 CL6 CL10 CL11 CL12 GB3 1 1 0 4 図3 15 研究紹介 お湯に溶かして簡単にスキンケアできるローションについて 現代は高齢化社会を迎えていますが、高齢化に伴い その忙しさから、複数の入所高齢者の方に対してスキンケ 各種身体機能の衰えは避けてとおることはできません。 アに割くことができる時間は、非常に限られたものになり 運動機能はもちろんのこと、ヒト全体を覆っている、いわ がちです。そこで、簡単に全身のスキンケアが行えるスキ ば外界から身を守る大切な役割を担っている皮膚も例外 ンケア剤は、このような場面で有用であると考えられます。 ではありません。皮膚の最外層にある角層は、角質細胞と、 介護施設に入所している高齢者の方の肌状態を観察す おもに角質細胞間脂質、NMF (天然保湿成分) および水分 ると、自立度の低下に伴い、皮膚の萎縮や鱗屑・落屑とい とからなり、皮膚の潤いを保ち、 アレルギー物質やほこり った症状が多くみられるようになります。特に高齢者の方の など、外界からの様々な刺激から身を守るバリア機能を なかには、肌にちからを加えると破れてしまうほど薄く、脆 有しています。高齢化に伴ってこれらの機能が 衰え、皮 弱化した肌の方がいます。このような場合には、入浴の場 膚は乾燥し、 ひいては老人性乾皮症等の皮膚疾患を生じた を利用し、湯船のお湯に溶かして使用する入浴剤や上が り、また、痒み域値が低下して、そう痒感を覚えることが り湯としてかけるだけのローションであれば、こすること あります。痒みからその部位を掻くことによりさらに炎症 なく全身に使えるため、安心してお使いいただけます。 を起こしたり、また一方で睡眠の妨げとなり、QOLの低下 その他に、ローションを溶かしたお湯で陰部洗浄剤や に繋がることも珍しくありません。これら皮膚の乾燥症状 清拭用蒸しタオルなどを作成すると、さら湯にスキンケア への対処法としては、保湿用クリームやローションを塗布 効果を付与しながら同時に洗浄や清拭が行えるようになり、 する等、日頃からのスキンケアが有効ですが、高齢になる あらたな手間を増やさずにスキンケアが簡単に行えます。 と、広範囲にこれらの製剤を自分で塗布するには、労力を ローションに配合される成分としては、高齢者の乾燥 要し、日常のスキンケアとして継続することは難しくなります。 しがちな肌を守るために、保湿成分が必須になります。 一方、高齢者介護施設等においては、入所高齢者は自 「オーツ麦エキス」、 「ユーカリエキス」やうるおい補強成分 立度の低下から、自分でケアすることは困難になってきま である 「セラミド誘導体」等です。 「オーツ麦」は刺激やそう す。そこで介護者によるケアが望まれますが、介護者は 痒を和らげる効果があるとして、古くからアメリカにおいて 図1「セラミド誘導体配合入浴剤」使用者の皮膚症状軽減効果 症例1 54歳 男性 症例2 73歳 女性 入浴剤使用前の足背の表皮 入浴剤使用前 入浴剤使用後1ヶ月の足背の表皮 16 入浴剤使用後1ヶ月 (腎と透析 56 (6) :903 - 906) 花王プロフェッショナル・サービス (株) 商品開発部 マネジャー 引地 規 民間療法的に外用剤に使用されていることが知られてい 介護時の不快な臭いを抑える等の評価があり、介護され ます。オーツ麦エキスを配合した入浴剤は、乾燥性皮膚疾 る方、介護する方ともに、より快適になることが 伺えます。 患患者や、小児アトピー性皮膚炎の 「そう痒」や「鱗屑」 に また、好ましい香りは認知症を改善させる効果があると 改善効果が認められています1)。また、 「オーツ麦エキス」 、 いうことも報告されています 4 )。 「セラミド誘導体」 を配合した液体入浴剤に「ユーカリエキス」 日々のスキンケアが皮膚の乾燥や痒みの予防に効果的 を添加した場合、 「ユーカリエキス」がサイトカインのバラン であることは言うまでもなく、乾燥や痒みによるQOLの ス調整に効果的に働くことが示唆されており、アトピー性 低下を防ぎ、より快適に生活を営むことが望まれます。 皮膚炎患者への有用性が示されています 2)。 しかしながら、日々のスキンケアを継続することは冒頭に セラミド誘導体配合入浴剤を「上 がり湯」 として血液 述べたように簡単なことではありません。そこで、簡単 透析患者へ使用することにより、血液透析患者に頻発す スキンケアの実践に本稿の知見がお役に立ち、少しでも るそう痒、乾燥等の皮膚症状が 軽 減したことが 報 告さ 快適に過ごしていただけることを切に望んで、本稿の結 れて います3) (図1) 。実際に介護施設で 「上がり湯」 として びといたします。 試用調査を行なったところ、簡単にスキンケアができて、 かさつきや肌荒れによいとの結果が 得られました。また、 介護される方 (要介護者) のみならず、介 護する方(介護 者) の肌荒れにもよいとの結果も得られています (図2) 。 さらに、ローションの配合成分で重要な役割を担うもの に「香料」があります。 「香り」はQOLを向上させる有効な 手段の一つです。寝たきりでおむつを常用されている方 は、どうしてもおしり周辺部が 不潔になり、不快な臭いを 発しがちです。図2に示した使用調査では、製品の香りが 参考文献 1)前田学ほか;皮脂欠乏性皮膚炎および小児アトピー性皮膚炎 患者に対するオーツ麦配合入浴剤の使用経験, 西日皮膚 58(6) :1045 -1051, 1996. 2)塚本勝彦ほか;ユーカリエキス配合入浴剤のアトピー性皮膚炎 患者に対する有用性の検討,西日皮膚 61 (4) : 515 - 519,1999. 3)中村美津恵ほか;透析皮膚そう痒症と皮膚pH値(セラミド配合 入浴剤の使用経験) ,腎と透析 56 (6) : 903 - 906. 4)伊藤あづさ;痴呆性高齢者介護におけるアロマセラピー導入の試み, 高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター年報 2001,1,177-190. 図2 実用評価結果 使用期間 1週間 対象 介護職員 3施設合計 41人 方法 モナディック やや良くない+良くないの合計 (%) (入所者270人、デイサービス者35人) について介護職員41人が評価 要介護者の評価 要介護者305人 (良くない) 良い + やや良いの合計 (%) (良い)23 全体的評価 63 かさつきを抑える 63 要 介 護 者 (やや良くない) (やや良い)40 13 50 荒れを抑える 42 簡単スキンケア 84 かさつきを抑える 73 介 護 者 簡単スキンケア 76 使用意向 58 5 0 43 28 53 0 33 22 48 0 27 29 35 0 16 31 38 かゆみを抑える 57 0 46 42 荒れを抑える 67 0 74 38 4 0 58 8 18 2 2 37 18 24 かゆみを抑える 26 (どちらとも言えない)33 0 24 39 3 3 (当社評価) 17 花王の衛生管理製品 病院 でお使いいただく 汚染区域 一般区域 清潔区域 高度 清潔区域 準清潔区域 器材の滅菌 手指の衛生 花王滅菌バッグ 花王滅菌バッグ プラズマ用 ● 花王滅菌バッグ ポケットパウチ ● 花王ソフティ 薬用ハンドウォッシュ10 ● 花王ソフティハンドクリーン ● 花王ソフティハンドローション ● 花王ソフティ薬用クリーム ● ● 医療用医薬品 外用殺菌消毒 「花王」 アルコールラビング液0.2W/V% ● 器材の洗浄 「花王」 メディカルハイター液6W/V% ● バイオテクト55 ● バイオテクト66 ● バイオテクト88 ● ダイナミック55 ● ● 消毒用エタノール ● 消プロ (ハチ) 70 ● 塩化ベンザルコニウム液10% ● クロヘキスクラブ液4% 排泄ケア おしりの清潔とスキンケア ● サニーナ薬用スプレー状おしりふき ● サニーナ薬用泡状おしりふき 手術前室 手術室 中央滅菌材料室 トイレ ICU 入浴ケア ナースステーション 病室 トイレ衛生 ● 花王ポータブルトイレ用 泡状消臭剤 浴室 肌にやさしい入浴介護用シリーズ ● 花王ソフティ ヘッド&ボディシャンプーAROMA (アロマ) ● 花王ソフティ ヘッド&ボディシャンプー ● 花王ソフティ リンスインシャンプー ● 花王ソフティ 薬用ボディシャンプー 入浴時のスキンケアに ● 花王ソフティ 上がり湯ローション Plus(プラス) 入浴後のスキンケアに ● 花王ソフティ 薬用ミルクローション リハビリ室 薬局 検査室 内視鏡 受付 ロビー 検査準備室 CT トイレ 採血室 超音波 X線 環境衛生 透析室 外来診察室 透析装置の除菌洗浄 ダイアクリーン ダイアクリーンスケール 除去洗浄剤 ● ● 医療用医薬品 内視鏡・器具の殺菌消毒 ● ● 18 病院用ハイター リセッシュ ● 医療施設用クリンキーパー ● ステリゾール液2%・20% ステリゾールS液3%・15% ● 介護施設でお使いいただく 花王の衛生管理製品 汚染区域 一般区域 準清潔区域 排泄ケア おしりの清潔とスキンケア ● サニーナ薬用スプレー状おしりふき ● サニーナ薬用泡状おしりふき 手指の衛生 花王ソフティ薬用ハンドウォッシュ10 花王ソフティハンドクリーン ● 花王ソフティハンドローション ● 花王ソフティ薬用クリーム ● トイレ衛生 ● ● 花王ポータブルトイレ用 泡状消臭剤 ナースセンター 洗濯室 トイレ 環境衛生 病院用ハイター リセッシュ ● 医療施設用クリンキーパー ● ● 厨房 浴室 入浴ケア 肌にやさしい入浴介護用シリーズ ● 花王ソフティ ヘッド&ボディシャンプーAROMA (アロマ) ● 花王ソフティ ヘッド&ボディシャンプー ● 花王ソフティ リンスインシャンプー ● 花王ソフティ 薬用ボディシャンプー 入浴時のスキンケアに ● 花王ソフティ 上がり湯ローション Plus(プラス) 入浴後のスキンケアに ● 花王ソフティ 薬用ミルクローション 19 バックナンバーのご紹介 創刊号 No.1/ 2002年 6月発行 No.4/ 2003年 6月発行 「花王ハイジーン ソルーション」発刊にあたって 「花王ハイジーン ソルーション」発刊によせて 特集 感染対策の院内教育 特集 CDCの新しいガイドラインと 花王ハイジーンシステムについて ◆ 院内教育の現状と将来 ◆ 手指衛生のためのCDCガイドライン ◆ 洗浄剤・消毒剤適正使用の教育 ◆ 花王が提案する手指衛生管理システム ◆ 感染対策の院内教育の活動事例 ― 手洗い・手指消 毒・ハンド ケア― ◆ 器械・器具の洗浄・消毒・滅菌の教育 ◆ 環境の清掃・消毒の教育 ● ● ● ● ● ● ● ● ● 手指皮膚とハンドケアの科学 手指洗浄剤の科学 手指殺菌・消毒剤の科学 手荒れと手指衛生の科学 花王製品の性能・技術紹介 花王製品の使用症例報告 花王提案の手指衛生管理システム No.2/ 2002年 10月発行 特集 医療用器械・器具の洗浄と 感染予防 ◆ 医療現場における器械・器具の洗浄 ―より効果的な洗浄方法を構 築する ための留意点― ◆ 医療用器械・器具洗浄剤の科学 ◆ 医療現場における器械・器具の洗浄例 ● ● 一次処理工程における酵素洗浄剤の使用 医療現場における超音波洗浄と ウオッシャーディスインフェクター ◆ 花王提案の医療用器械・器具洗浄 システム ● さいたま市立病院 帝京大学医学部附属病院 東芝病院 ◆ 海外感染対策事情 ● 米国の感染対策最新事情 トピックス ● セラチア感染対策 No.5/ 2003年 10月発行 巻頭言/褥瘡対策チームの一員として1年間 院内回診をして感じたこと 特集/病院感 染 対 策のさらなる 向上をめざして ○ 病院感染対策をさらに向上させるための 組織作りと今後の課題 ○ 病院感染対策の活動事例 ● ● 特定医療法人 富田浜病院 昭和大学附属烏山病院 ◆ 海外感染対策事情 ● ヨーロッパの感染対策最新事情 ◆ 話題―臨床検査室の役割 微生物検査が外部委託という制約された 環境下での病院感染防止対策 ● ◆ 最新の研究から ● ハンドケア剤が 手指殺菌洗浄剤や 手指消毒剤の殺菌効果に及ぼす影響 ◆ サイエンスプラザ ● セラミドの話 トピックス ● No.3/ 2003年 2月発行 No.6/ 2004年 3月発行 特集 褥瘡ハイジーンケア 巻頭言 病院感染対策に思うこと ◆ 褥瘡対策のポイントとスキンケア ◆ 褥瘡と感染症 特集 最近の消毒法あれこれ ◆ 褥瘡対策チームの活動例 ◆ 生体消毒法 東芝病院 ● NTT東日本関東病院 ● 国立療養所中部病院 ◆ 器材・環境消毒法 ● ◆ 花王提案のおしり (褥瘡) ハイジーンケアシステム トピックス レジオネラ対策 ● 20 インフルエンザ 対 策 ◆ 最新の研究から ● 消毒薬抵抗菌の問題点とその対策 ◆ サイエンスプラザ ● 洗浄と界面活性剤の話 トピックス ● 最新のSARSの疫学および消毒に関する情報 バックナンバーをご希望の方は、 弊社病医院担 当又は下記まで お申し出ください。 電話 No.7/ 2004年 7月発行 03- 5630 -9158 巻頭言/ICNとして病院感染対策に思うこと 特集 病院感染対策と次亜塩素酸ナトリウム FAX 03- 5630 -7130 ◆ 「感 染症 法に基づく消毒・滅菌の手引き」 の要約 ◆ 「感 染症法に基づく消毒・滅菌の手引き」 における 次亜塩素酸ナトリウムの位置づけ ◆ 医療現場における次亜塩素酸ナトリウムの 特性と有用性 ◆ 花王の次亜塩素酸ナトリウム製品 ◆ 海外感染学会報告 第2回アジア太平洋感染制御学会国際大会に参加して ● ◆ 最新の研究から 院内の清潔ケアにおける固形石鹸の共用の現状と看護師の意識 ● ◆ サイエンスプラザ ● 殺菌と界面活性剤の話花王の衛生管理製品 No.8/ 2005年 1月発行 巻頭言/最 近 の 病院感染対 策に思うこと 特集 手指衛生とスキンケア ◆手 指 衛 生 ― 手指衛生に使用するアルコール製剤と洗浄剤 ◆スキンケア ― 手指衛生による手荒れとスキンケア ◆ 最新の事例報告 ● 手 洗い実施のための感 染 制御チーム(ICT) の取り組み ◆ サイエンスプラザ ● アルコールと殺菌の話 ◆ 製品紹介 ● アルコールラビング剤 ◆ 花王の衛生管理製品 No.9/ 2005年 9月発行 巻頭言/「花王感染管理セミナー」を開催して 特集/実践現場の感染管理 ∼ベストプラクティスをめざして∼ 花王感染管理セミナー(2004年11月6日)より ○ 感染管理と医療安全 ○ 実践現場の最善策の考え方とその手法 ◆ 活動事例 ―「感染管理ベストプラクティスの実践」 花王感染管理セミナー(2004年11月6日) より 実践現場の感染管理(第一集)∼ベストプラクティスをめざして∼の作成と活用 感染管理ベストプラクティスのワードオーディットによる評価∼薬剤の混合∼ ワードオーディットから見えてきたこと∼ドレッシング交換の結果から∼ ワードオーディットを実践して ∼採血の結果から∼ ワードオーディットと教育効果∼末梢カテーテル留置手技の結果をもとに∼ ◆ 海外感染学会報告 ● A P I C 2 0 0 5レポート 参加体験記 ◆ 花王の衛生管理製品 21 編集委員会 編集委員長 小川 秀興 (順天堂大学 編 集 委 員 坪井 良治 (東京医科大学皮膚科学教室 学長) 教授) 仲川 義人 (山形大学医学部 谷 村 久美 (NTT 日置 祐一 (花王プロフェッショナル・サービス株式 会 社 教授・附属病院薬剤部長) 東日本関東病院 看護部 感染管理師長) 学術部長) Kao Hygiene Solution No.10 花王ハイジーン ソルーション10号 発行日:2006年12月26日 編集・発行: 東 京 〒131- 8501 東京都墨田区文花 2 -1- 3 TEL 03(5630)9158 E-mail:ipv@ kao.co.jp URL :http://www.kao.co.jp/pro/HOSPITAL/hosindex.html
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