緑茶文化のリデザイン -お茶屋さん 伊藤園の挑戦

2005年度
プロジェクト実習レポート
緑茶文化のリデザイン
-お茶屋さん 伊藤園の挑戦-
2005.8.20
グループ名:5人の茶むりゑ@神戸大MBA茶園
メンバー:岡島英樹 加藤美幸 門脇一彦 金森淳一郎 金田喜久
目次
1. はじめに
2. 伊藤園の概要
(1)企業の歴史
(2)事業概略
(3)伊藤園の売上
3. 伊藤園の提案する「緑茶文化」の革新
4. 4P解析
5. プレイスリデザイン
(1)容器の革新によるプレイスリデザイン
(2)流通業の変化の予測
6. プロダクトリデザイン
-緑茶文化の製品への埋め込みー
7. プロモーションリデザイン
(1)「お~い お茶」と新俳句大賞
(2)参加型プロモーションによる差別化
(3)多層なコミュニケーションを実現するプロモーション
(4)プロモーションの内的な動機づけ
8. まとめ
(1)伊藤園による「緑茶文化」の市場埋め込み
(2)今後の伊藤園
参考文献
1
1.はじめに
私どもメンバーは、
「緑茶文化のリデザイン」と表題を設定し、伊藤園の「緑
茶飲料」の取り組みと、どのようにして緑茶と日本人の関係を全く新しく作り
変えてきたかを検証した。
飲料メーカが壮絶な競争を繰り広げる中、毎年着実に売上を拡大し、ここ数
年大幅に増収増益を達成した企業が伊藤園である。伊藤園の主力商品は、かの
有名な緑茶飲料「お~い お茶」であり、伊藤園は、日本人と緑茶の関係を、
家で時間をかけて大人が味わうものから、いつの間にか「いつでもどこでも」味
わえる飲料にリデザインしてしまった。更に、飲料業界の強者コカコーラ、サ
ントリーとの競争の中、
「緑茶ナンバー1」の地位を築き上げ、更なる飛躍を続
けている企業である。これは、企業のサクセスストーリーだけでなく、日本人
の「緑茶文化」にまで影響を与えた文化的偉業とも言える。
本活動は、伊藤園が顧客との関係で実施してきた「リデザイン」を検証し、
茶専業メーカのこだわりと強さの秘訣、今後の飛躍の方向などを考察するもの
である。
2.伊藤園の概要
(1)企業の歴史
本庄正則氏とその弟であり現代表取締役社長の本庄八郎氏が、1966年に
静岡県で茶葉の販売会社として創業したフロンティア製茶株式会社が伊藤園の
前身である。当時は茶葉の販売を行い、アルミ箔に真空パックした茶葉の販売
を日本ではじめて導入した。1969年に茶葉の仕入先であった伊藤園から商
号を譲り受けて改称し、茶葉の製造、販売会社として体制を整えていった。
1979年には中国福建省から烏龍茶葉の5年間独占輸入販売権を得て輸入
を開始、サントリーへ原料を提供し、烏龍茶ブームを巻き起こした。緑茶に関
しても、酸化し変色しやすいという問題を独自の技術で解決し、緑茶の飲料化
に成功、1985年に缶入り緑茶の販売を開始した。1989年には緑茶飲料
を「お~い お茶」にリニューアルし、現在でも緑茶飲料でトップシェアを維持
している長寿商品を投入している。
1990年に2リットルのペットボトル入り緑茶飲料、1996年には50
0mlPETボトル入り緑茶飲料を発売し緑茶市場の拡大を牽引、2000年
にホットペットボトルの製品を業界に先駆けて販売開始し、季節による売上高
変動の平準化を図っている。
また、緑茶飲料以外では、1981年に缶入り紅茶、1986年に人参野菜、
1987年に缶入りコーヒー、1989年には缶入り麦茶、1992年には野
菜ジュースと果汁をミックスさせた充実野菜シリーズを発売して、商品カテゴ
2
リーを拡大している。
(2)事業概略
2005年4月期に発表された伊藤園の部門別売上高構成比によると、茶葉
(リーフ)10.8%、日本茶飲料51.5%(内「お~い お茶」45.1%)、
中国茶飲料5.6%、野菜飲料11.6%、野菜飲料4.5%、コーヒー飲料
6.7%、紅茶飲料2.6%、機能性飲料3.0%、その他飲料2.7%、そ
の他1.0%となっている。
伊藤園は、日本茶飲料、特に緑茶飲料を中核商品とし、嗜好飲料を中心とし
た総合飲料メーカである。
緑茶の生産には原料の安定調達が重要であり、契約栽培等により高品質の原
料を確保するとともに、品質の安定化のため荒茶製造は自社工場で一貫製造を
行っている。また、将来の緑茶原料茶の需要増に対応し、原料調達の季節性を
低減するために、連結子会社 ITO EN AUSTRALIA PTY.LIMITED を設立し、オース
トラリアで茶園の展開を開始している。
飲料事業においては、消費者のニーズの多様化や販売チャネルの拡大による
容器の設備投資リスクの軽減を図りながら、市場環境の変化に迅速に対応でき
るようファブレス方式を採用し、伊藤園本体では、研究・開発および営業に集
中している。さらに、生産は日本全国を5ブロックに分け、それぞれの地域を
中心に販売することにより、物流コストの軽減を図っている。
(3)伊藤園の売上
伊藤園の2005年4月期の連結業績を以下に示す。
売上高 : 2637.6億円 (前年比110.3%)
営業利益:
197.1億円 (前年比112.6%)
経常利益:
192.2億円 (前年比115.7%)
当期利益:
104.5億円 (前年比119.7%)
ROE :
15.9%
ROA :
9.9%
低迷を続ける日本の製造業の中、驚異的な成長率を維持している。
これらの業績は、緑茶飲料に依存するところが大きく、商品のライフサイク
ルが極端に短い飲料業界で、伊藤園の主力製品である「お~い お茶」は緑茶
市場が拡大する中、トップシェア約30%を16年間維持し続けている。
3.伊藤園の提案する緑茶文化の革新
伊藤園は、日本人が生活文化の奥底に取り込んできた緑茶を、手軽に屋外で
3
も楽しめる飲料に変貌させた。伊藤園の取り組みは、単なる企業の商品販売領
域を超え他壮大なアプローチであることに着目し、4P解析から発見した、「プ
レイスリデザイン」「プロダクトリデザイン」「プロモーションリデザイン」の3
つの革新を検証した。
4.4P解析
伊藤園のマーケティング手法について4Pで解析を行う。4Pとは、プレイ
ス、プロダクト、プロモーション、プライスである。ここで、プライス、すな
わち価格は、缶飲料、ペットボトル飲料の販売価格が各社ほとんど同一である
ので、差別化は無いと考えた。缶やペットボトル飲料は形状や物流や自動販売
機が規格化されており、なおかつコストの大部分をパッケージや物流コストに
依存するためか価格差がつけにくくなっていると推定される。残る3Pについ
て伊藤園がどう差別化していたかを分析する。
まずはプレイスであるが、お茶は、昔は家庭でお茶の葉を急須にいれて「く
つろぎ」の空間で作るものであった。また茶葉はお茶の専門店で購入するもの
であった。もう一つのプレイスは販売チャネルである。お茶の販売が、専門店
からスーパーなどの流通業での販売にかわるとともに、伊藤園はお茶をアルミ
パックにつめてスーパーやコンビニで売り易いパッケージを考案する。伊藤園
は、その後、次々にプレイスの変化をしかけていく。伊藤園が実施した緑茶の
「家出」の仕掛けは成功したといえる。
お茶を飲むシーンとして、駅や、病院などで「待つ」時間を快適にすごす飲
み物や、弁当とともに飲む飲み物、喉の「渇き」を癒す水分の代わりに家の外
で飲まれる飲料にする。販売チャネルとしても自動販売機をターゲットに開始
した。
さらに、プロダクトも、伊藤園は、糖分や炭酸の入っていない緑茶系に力を
入れる。健康ブームの波にのり、健康飲料をプロデュースしていく。仕事の合
間や、学校などで、気分転換や、喉の渇きを癒すために様々な緑茶系飲料をだ
す。また販売の主流が、コンビニに移るとみると、ペットボトルにお茶をつめ
ることを考案する。さらにホットペットボトルの業界初の投入など新しいプロ
ダクトを次々している。
伊藤園は、飲料業界では後発ながら着実に売上を伸ばすため、飲むシーンを
次々に考案し、製品開発をするとともに、緑茶文化を定着させるべく伊藤園独
特の「新俳句」というプロモーションをしかける。従来の大手飲料メーカが手
がけているような新製品の名前を葉書にかかせたりシールを集めさせたりして
応募させプレゼントをもらうような一過性のプロモーションとは異なる手法で
ある。
4
そこで、伊藤園の飲むシーンや、販売チャネルに関する仕掛けを「プレイス
リデザイン」、製品や、パッケージに関する仕掛けを「プロダクトリデザイン」
緑茶文化を広める仕掛けや伊藤園のブランドを広める仕掛け「プロモーション
リデザイン」と定義し、以降詳細に説明する。
5.プレイスリデザイン
前述の通り、伊藤園は家庭内で飲用するものとして定着していた茶を、巧み
な仕掛けによって「家出」させ、あらゆる生活シーンで飲用できるものへプレ
イスリデザインした。本プロセスについて詳細に記載する前に、まず家庭に緑
茶文化が定着した過程について述べる。
日本における緑茶文化の考え方には、古来より自生したとする考え方とユー
ラシア大陸より伝来したとする考え方の二説がある。前者に関しては、考古学
研究が進展しないと明確にならないため、現在のところ、稲作や仏教などの大
陸文化とともに伝来したとする説が主流である。茶の伝来については、樹種、
日本の分布、生活習慣、文化などさまざまな角度から現在も研究が進められて
いる。
茶の伝来に仏教が深く関わっていることは、多くの史実が物語っており、遣
隋使や遣唐使などの大陸文化との交流を通じて、人々に伝わったと考えられて
いる。中国からの茶の伝来は、煎じ茶、抹茶、煎茶(淹茶)の3ルートに分け
ることができるとされているが、茶が禅の修行に用いられたことから、いずれ
もその製法や喫茶法は仏教と近い関係で日本に広められたと考えられている。
実際に、最澄や空海の書簡からも茶の存在を伺うことができる。
この中で、日本茶の現在の姿は抹茶の伝来が起源とされており、栄西禅師が
中国の宋代に日本に持ち帰ったものが最初とされる。また、栄西禅師から明恵
上人に茶の実が送られ、京都の栂尾で茶の栽培が始まったと言われている。こ
のようにして国内へ伝わった緑茶文化は、鎌倉・室町時代には主に効能が注目
され、武士階級を中心とした広がりを見せた。江戸時代に入ると、
「茶の湯文化」
の広がりや千利休による茶道の確立などと相まって、緑茶文化は徐々に庶民の
食文化に取り込まれていく。さらに、栽培方法の発明や栽培地の広がりに伴い、
飲茶は庶民が日常生活の中で広く楽しめるものとなった。
このように日本の緑茶文化の歴史を紐解いてみると、緑茶文化が家庭から切
り離せない存在となった理由を以下の通り挙げることができる。
1)食文化とともに大衆に取り込まれていったため、食事と切り離すことが
できない存在であったこと。
2)薬としての側面を有しているため、煎じて飲用する、即ちお湯を用いて
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飲用するものであったこと。
このような理由から、当時の茶は家庭から出る必要は無く、飲用シーンは家
庭内に限定されていたのである。
一方、1966年8月に創業された伊藤園(当時はフロンティア製茶)は、
茶葉の店頭販売からスタートしている。緑茶葉は、4~5月期から7~8月期
にかけて1年分を採取し、これを1年間貯蔵しながら販売するというものであ
った。また、当時の緑茶販売は、専門店での量り売りが主流であった。これは、
茶葉が湿気を帯びやすく管理が難しい食材であり、多用な食材を販売するスー
パーでは販売しづらかったためである。
このような現状の中で、フロンティア製茶は茶葉のパッケージ販売に目をつ
けた。茶葉をアルミ箔の袋に真空パックすることにより、スーパーを始めとす
る食品小売店で扱うことのできる商品に変えたのである。これは、その後の伊
藤園を運命づける重要なエポックであった。一つは、流通によってメーカ、小
売業者、顧客のリレーションが大きく変化することを体験したことによって、
将来の流通変化に対して鋭敏な感覚が身についたことであり、もう一つはパッ
ケージの変更によってプレイスが変化することを認知したことである。
実際に、伊藤園のプレイスリデザインはこの2点に大別できる。以下に、そ
れぞれの内容を記載する。
(1)容器の革新によるプレイスリデザイン
伊藤園は、1979年に日本で初めて中華人民共和国と「ウーロン茶」の輸
入代理店契約を締結していた。その後飲料マーケットに参入し、1981年に
は世界初の「缶入りウーロン茶」の開発に成功している。当時の缶飲料はコー
ラなどが中心であり、お茶を缶入りで飲むという発想は全くなかった。
しかし、発売の翌1982年に、ウーロン茶は大ヒット商品となった。それ
まで家庭内での飲用で完結していた緑茶文化が、屋外へ最初の一歩を踏み出し
たのである。さらに、1985年には技術的に不可能と言われていた「缶入り
緑茶」の製品化にも成功した。売上が増加したのは1990年代半ばであった
が、この理由は新規食品であったウーロン茶の成功とは異なり、緑茶は家庭内
で飲用し、かつただで当たり前と長らく考えられていたためである。
しかし、このような考えが根強く残る緑茶が新しいプレイスへ「家出」した
ことは、伊藤園の歴史の中で極めて意義深い出来事であった。当時は、水道水
への不信感からミネラルウォーターの消費が拡大していた時期でもあり、ただ
同然の緑茶飲料に対してお金を払うことに対する抵抗感が薄れていたことも影
6
響していると考えられる。さらに伊藤園は、1990年に世界初のペットボト
ル入り緑茶も販売し、継続的なプレイスの拡大を行った。
清涼飲料は、天候の影響によって売上が左右される商品の一つである。特に、
茶飲料のように止渇が主な目的であるものは夏の暑さに影響を受けるため、7
~9月が主な需要期であった。反対に、冬季には全く売上が見込めなかったの
である。パッケージの主流となりつつあった通常のペットボトルでの加温販売
が試みられたが、1 週間程度で味を損なってしまうことが欠点であった。伊藤園
は、茶飲料を季節を問わず屋外でも楽しめる飲料にするため、容器に対する工
夫を講じた。酸素を通しにくく、加温による変質を軽減する強化ペットボトル
を採用することでこの問題をクリアし、2000年にはホット対応のペットボ
トル緑茶を発売している。この成功により、
「家出」した茶飲料が「いつでも家
出」できるようになったのである。
また、現在の茶飲料は、缶、ペットボトル、紙パックなど、多用なパッケー
ジに入れられ、様々な容量で販売されている。今年は、取っ手つきの2リット
ル入ペットボトルの緑茶が販売され、茶飲料が屋内へ回帰した年であった。容
器の革新によって、
「いつでもどこでも」家出できるようになった茶飲料が再び
屋内へ戻ることにより、大人から子供まで年齢を問わず飲むことのできる飲料
として再び認知されたといえる。
伊藤園は、容器の革新によるプレイスリデザインを次々に実施することによ
って、現代のライフスタイルにマッチした緑茶文化を提供し続けてきたのであ
る。
(2)流通業の変化の予測
清涼飲料は、スーパーや小売店、コンビニエンスストア、自動販売機といっ
たチャネルで販売される。伊藤園は、スーパーにおける茶パックの販売から、
プレイス変化の予測が重要であること、またその際に容器の選択が重要である
ことを認知していた。この成功体験をもとに、伊藤園はエンドユーザーである
消費者に対してダイレクトマーケティングを行うのではなく、最適なパッケー
ジを最適な販売チャネルへ持ち込むことによって、消費者までの交通整備を行
ったのである。実際、主力製品である「お~い お茶」は、紙パックや缶から
取っ手つきの2リットル入ペットボトルまで、多用なパッケージが準備されて
いる。例えば、弁当屋では紙パックや缶を中心にそろえ、大型スーパーでは1
Lや2Lなど、家庭の人数に応じて使いやすいパッケージがそろえられている。
販売チャネルごとに設置する容器の大きさを最適化することによって、持ち歩
きに便利、保存しやすいといったメリットを最大限に生かしつつ、全ての世代
のニーズに対する機会損失を防いでいるのである。
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このような流通に着目したプレイスリデザインには、生産と小売を直接結ぶ
伊藤園独自のルートセールス販売体制が大きく寄与している。
以上のプレイスリデザインによって、消費者は様々な生活シーンで緑茶文化
と接することが出来るようになったのである。
6.プロダクトリデザイン
伊藤園は、日本で初めて缶入りウーロン茶の開発に成功した後に缶入り緑茶
を販売し、現在は世界の三大茶(緑茶、ウーロン茶、紅茶)を始めとする総合
飲料メーカとして事業展開している。他社と比較すると、伊藤園のラインアッ
プは特に茶飲料に特色があり、緑茶、ウーロン茶はもとより、ジャスミン茶や
そば茶といった多用な品揃えを誇っている。この茶飲料に特化した品揃えによ
る消費者の機会獲得こそが、伊藤園が実施した第二のリデザインであるプロダ
クトリデザインである。
飲料市場は、金額ベースで見ると2000年以降成長が横ばいとなっている
が、緑茶を含む茶系飲料市場は、現在も拡大を続けている。2004年の緑茶
の飲料化比率(茶葉全体の消費に占める飲料の割合)は、17.9%であり、
前年比3%増と急拡大を続けている。コーヒーや紅茶の飲料化比率は約30%
であることから、緑茶のそれも同レベルまで上昇すると見込まれている。これ
によって、緑茶市場は10年後には1兆円規模に成長するとの予想もある。
このような緑茶を含む茶系飲料市場の成長には、飲料と生活との接点が多様
化するにつれて消費者のニーズも多様化していることが大きな要因の一つと考
えられている。特に、茶系飲料は食事時に併せて飲用されることが多く、食の
スタイルの変化は、茶系飲料に対するニーズを大きく変化させた。具体的には、
合成保存料が多用された食品に対する自然志向、高いカロリーや塩分を有する
食品に対する健康志向など、茶飲料が有する止渇性以外の側面に対するニーズ
が急拡大したのである。
このように、現代の緑茶文化は、飲用シーンや消費者志向の多様化によって
多用な側面を有するようになったが、伊藤園は、多用な消費者ニーズに応える
べく、以下の視点に基づいたプロダクトリデザインを進めてきた。
①味へのこだわり
・ 緑茶を始めとして、中国茶、穀物茶などの多用な品揃え
・ 緑茶本来の香りと風味を生かした味わい
・ 季節限定(新茶)の商品
② 健康志向
・ 特定保健用食品
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③ 止渇性
・ すがすがしく、すっきりとした旨み
江戸時代には、栽培地の拡大や栽培方法の革新によって多用な茶葉を用いて
飲茶を楽しむ風習が広がった。これは、栄西禅師によって伝えられた茶(プロ
ダクト)に対する最初のリデザインと言えるが、伊藤園はこれよりもはるかに
複雑なプロダクトリデザインを行うことにより、緑茶文化そのものをリデザイ
ンし続けているのである。
7.プロモーションリデザイン
(1)「お~い お茶」と新俳句大賞
伊藤園は、緑茶飲料のパッケージを活用したプロモーション活動をしている。
パッケージには、一般から公募した俳句が印刷されている。1989年より公
募され、累計応募数は1000万件を突破し、2004年度の第16回では過
去最多の152万3876句の応募があった。伊藤園は、PR 担当のピーアール
コンビナート社と俳句を活用したプロモーションを企画し、緑茶を屋外で買っ
て飲むという習慣を消費者に広めていくための効果的なプロモーションを考案
した。
俳句に着眼した理由は、1987年に俵万智の「サラダ記念日」という素人
風の短歌集がベストセラーになり、一般に短歌が知られるようになり、ここか
らヒントを得た。短歌では長すぎるため缶や紙パックに印刷できる俳句に着眼
している。まずは俳句人口800万人市場に絞って緑茶を購入して飲む習慣を
植え付け、次第に一般に緑茶を購入して飲む習慣にしていく戦略である。
しかし、この戦略の問題点は、俳句は俳句のルールを覚えるのに年数がかか
るため60歳で一人前という世界で、高齢者主体のセグメントである。単純に
俳句キャンペーンをしかけても新しい生活習慣を取り入れてもらいたい若い層
を取り込むことにはできないわけである。
そこで、若年者や俳句の素人を取り込むために、その時々の感性を俳句のル
ールにとらわれず、5・7・5の文字数のみを守ることに限定して新俳句とい
う呼び名にした点が新しい点である。俵万智の「サラダ記念日」の感覚を活か
した新俳句の誕生である。
また、新俳句を応募するにも、短期的な売上増を目指すなら、商品を買って
シールを貼ってもらい、高額賞金を付けるようなクローズドなキャンペーンを
することもできたが、習慣を定着させるために伊藤園の商品の購入とは関係な
く、オープンなキャンペーンにしたと思われる。
新しい商品、習慣、新しいセグメントに販売するには、AIDMA(Attention(注
9
目), Interest(興味), Desire(要求), Memory(記憶), Action(行動)
の略)の購入モデルに照らし合わせると、Attention、Interest という点に集中す
るべきであり、新俳句のキャンペーンをうまく使った注目度アップ、好奇心度
アップを目指したプロモーションができていると言える。
その結果、俳句の応募者も増加するとともに、伊藤園の売上も増加してきて
いる。1990年の第1回の俳句募集時は、応募総数が4万句で、伊藤園の緑
茶の売上は40億円であったが2005年の第16回には応募総数152万句
で、38倍、緑茶の売上は1200億円で30倍である。
このプロモーションのしかけは、俳諧、芸能界の一流の審査員、文部省、N
HKといった一流の後援団体、文部大臣賞(後の文部科学大臣賞)という一流
の賞の設置、小学校から高等学校の国語教育への展開が上げられる。
これらのしかけから、文部大臣賞を設置した第6回の公募より急速に学校関係
より応募者が増加している。プロモーション面からいえば、Attention(興味)の
喚起、学校が推薦する新俳句の「お~い お茶」はどういう商品なのだろう?
というInterest(興味)を集め、子供が親へ商品をねだるというDesire(要求)を
投げかけ、親は学校が推薦する商品だからと購入するというAction(行動)へ
とつなげている。子供のころの原体験に根ざす潜在的ファン意識の刷り込み、
「お茶」=「お~い お茶」のイメージ植え付けるMemory(記憶)につなげ、リ
ピーターを拡大し、よい循環ができていると言える。
従来の飲料メーカがやっていたプロモーションとは異なるプロモーションを
どうリデザインしていったか次に述べる。
(2)参加型プロモーションによる差別化
伊藤園の新俳句大賞のユニーク性が大きな前提として、彼らがプロモーショ
ンに「顧客参加」による「コミュニケーション」を取り入れたところにある。
独自性の具体的要素の第1に、当初は缶のそしてその後はペットボトルという
商品の、パッケージ上の極めて限られた、小さなスペースをメディアに見立て、
そこから、多層なコミュニケーションを実現したことがあげられる。その場所
を彩る手法に、日本古来の十七文字によって情感豊かに思いを表現する俳句が
選び取られたことは、プロモーションスペースの物理的な条件と、手段の特色
とを秀逸にマッチさせた、優れた事例である。
第2の要素として、コモディティを通じて消費者(アマチュア)とオーソリ
ティー(プロフェッショナル)が結びつくことで、商品がお茶とは別の価値を
付加されて、最終的にはお茶を通じた豊かな文化の形成がされているところに
ある。
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ここでは、伊藤園がいわゆる「中間集団的」な役割を果たしている。この小さ
な世界から広がる可能性が、企業と消費者、オーソリティー、そして社会にと
って、コスト、消費、文化形成すべての面において得をする構図をなすことが、
このプロモーションが続く原因とも考えられる。
ここで、「中間集団」とは、伝統的には家族や町内会などの地域コミュニティ
をさす。最近はボランティア団体、NPO、NGO などもこれにあたる。個人と中央
を連結させる機能を持つもので、目的は親密なコミュニケーション、人格的対
応、個人の充実性による共同性と支え合いにある。
(3)多層なコミュニケーションを実現するプロモーション
食品などの製品、特に清涼飲料水業界の競合他社のプロモーションで見られ
る代表的な手法には、消費者に新製品名などの分かりきったクイズの回答を書
かせ、応募させることで、景品でつり、商品の販売を促進させるなどといった
ケースものがある。このような手法は、一時的には、商品の購買を促進させる
ものであるかもしれないが、そこには、企業と消費者だけの関係でしかなく、
しかも文化は生まれることはない。いはば、それは極めて「閉じられた関係」
である。その一方で、伊藤園の場合は新俳句をきっかけにコミュニケーション
の軸の方向がいくつも生まれている。
顧客を中心とした場合のコミュニケーションのあり方は以下に示す。
①伊藤園⇔顧客
②顧客⇔オーソリティー
③顧客⇔顧客
顧客-伊藤園-オーソリティーの三者の関係は間に伊藤園が入る形態で循環
しているが、面白いのは、顧客と顧客の関係―つまり、俳句をする人とそれを
見る人の一対多との関係、俳句をする人と俳句をする人との一対一もしくは多
対多との関係、または、俳句を目にする人同士の関係(友人とふたりで製品を
手にとり、品評するなどの関係)と、いくつかのパターンのコミュニケーショ
ンが活発化しているところである。いずれもそれは伊藤園のお茶を「飲む」と
いう行為で結びつき合っている。
(4)プロモーションの内的な動機づけ
ここであらためて確認をおこなうとプロモーションにおける緑茶の競合他社
との比較は表1のようになっている。
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表1
緑茶のプロモーション(シェア上位 5 位まで)
企業名(シェア:2005 年) ブランド
PR
伊藤園(28.1%)
お~い
CM
サントリー(18.1%)
伊右衛門
お茶
新俳句
お茶犬
CM ミニ茶缶
旅キャンペーン
キリンビバレッヂ(15.3%) 生茶
CM
コ カ ・ コ ー ラ ボ ト ラ ー ズ まろ茶(一~はじめ)
(15.0%)
特になし(一←CM?)
花王(8.0%)
なし
ヘルシア緑茶
生茶パンダ
従来の販促の手法としては、人気俳優による CM などで鮮烈なイメージを大
衆に植えつけること、また、マスコットやおまけなどの外的要因によって顧客
の購買活動を動機づけるところにあった。
新俳句の場合、続けさせるのはあくまで顧客自身の機会開発の志向性に根付
いた「内的な動機づけ」なのである。例えば、
「新俳句大賞に団体(または個人)
で応募する楽しみ」
「相互に寸評する楽しみ(応募する人、飲む人)
」
「創作する
楽しみ」
「新しいボトルを購入する楽しみ(鑑賞する楽しみ・仲間を新俳句を語
る楽しみ)」などである。
そこには 1 年を通じた「感動と知性のキャッチボール」が存在している。こ
の「内的な動機づけ」は、モノレベルから、見えない価値へと発展し、お茶と
いうコモディティを買わせつづけ、新俳句ひいては「お~い
茶消費文化をつくるきっかけとなっている。
お茶」によるお
8. まとめ
(1)伊藤園による「緑茶文化」の市場埋め込み
私たち日本人が、特別の感情を持ち古くは平安時代にさかのぼる緑茶文化を、
伊藤園は近年の短い時間で変貌させてしまった。伊藤園が実施した3つのリデ
ザインは、以下の通り総括できる。
1)お茶容器の拡充と鮮度維持技術によるお茶の「家出」で実現した「プレイ
スリデザイン」。
2)多様化する顧客嗜好を満足させた「プロダクトリデザイン」。
3)日本人の琴線に触れる新俳句による参加型プロモーションで成しえた
「プロモーションリデザイン」。
この3つのリデザインが相互に共鳴し日本人の生活シーンに影響する大きな
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成功を勝ち得たと確信する。
(2)今後の伊藤園
日本人の食生活と緑茶は、絶対に切り離せない関係が永代にわたり構築され
ており、食生活が変化しない限り、緑茶が日本人から遠のくことは絶対にあり
えない。日本人の緑茶に対する嗜好は、DNA に埋め込まれた深く複雑なもので、
現状の緑茶の「味」に決して満足することなく、更に深く広い要求が顕在化する
ことは間違いない。今後、伊藤園は緑茶飲料の深耕を進め、日本人に対し、多
様化した緑茶の味を提案して、DNA を刺激し更なる緑茶多様化を仕掛け、他社
差別化を促進すると考える。また、海外市場への展開が近年スタートしたが、
地球規模での日本食認知は非常に高く、健康志向の後押しで拡大が加速してい
る。この日本食拡大に、緑茶が付いてゆかない理由は無く、グローバル拡大が
次の大きな伊藤園の挑戦と考える。
以上
参考文献
事例研究-伊藤園 石倉洋子著 1999 年 青山国際政経論集
伊藤園HP http://www.itoen.co.jp/index.shtml
お茶街道HP http://www.ochakaido.com/index.htm
富士経済 2005 年飲料市場伊藤園
伊藤園
2005 年 4 月期決算説明会資料
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