情報提供資料 GSAM 会長 2013年3月 ジム・オニールの視点 BRICs は、BRICs 開発銀行創設を発表するか? 先週は、世界中の株式市場のほとんどが続伸し、特に米国のダウ工業株30種平均が連続して史上最高値を付けた 後には、マスコミの注目も大変なものでした。但し、S&P 500種株価指数(S&P 500)は、金融危機以前の最高 値には、今一歩のところで到達しませんでした。重要な経済データという面では、先週はあまり大きなニュース がありませんでしたが、いつも通り、さまざまなところで、興味深いことがたくさん起こっています。週の終わ りにシンガポールに短い出張をし、ACI(Financial Market Association)という団体が開いた外国為替会議に出 席するとともに、ゴールドマン・サックスを去るにあたって、当社(ここではゴールドマン・サックス・アセッ ト・マネジメントを指します)の主要顧客にご挨拶をしてまいりました。今週は、近々開催されるBRICs首脳会 議、ならびに、すでにマスコミでもある程度取り上げられているBRICs開発銀行の創設という興味深いトピック スについて、主にご紹介しようと思っています。もしこれが実現すれば、それが持つ意味は、非常に大きいもと のとなる可能性がありますし、間違いなく、経済と金融の世界が変わりつつあることを強く印象づける象徴的な 出来事となるでしょう。会議は、南アフリカのダーバンで、今月26日と27日に行われます。 BRICs の重要性 BRICsの首脳会議は、世界景気がいくぶん回復しつつあるムードの中で開催されることとなります。回復基調を 支える主な要因は米国で、BRICs諸国の経済は、各々がしばらく経験しなかったような試練に直面しています。 実際、各国の事情には、大きな違いがありますが、将来の経済成長に対する大きな課題を背負っている点では共 通しています。先週少し触れましたように、「そもそもBRICsを中心とする投資テーマは、もてはやされすぎて いるのだ」と考えている方も出て来ています。今、この点に関するもう少し長いレポートを書いていますが、そ こでは、今回のシンガポール出張で見聞きしたことを掘り下げ、BRICsが過去と比べて、最近の状況をどう乗り 切って来たのか、さらに、この10年間(2011年〜2020年)何が予想できるかを検討しています。このレポート には、BRICs各国の成長と、その間の世界主要地域の経済成長を、過去30年間、2011年から2020年の10年間、 そして2011年から今年までについて示した表を添付しました。 これを見ると、BRICs諸国の2001年から2010年にかけての年率8.1%という驚くべき成長ペースは、明らかに鈍 化しています。しかし、2011年以降の2年間を通して見ると、当社の期待通りのペースで成長しています。こう した様子を見ると、「BRICsは期待はずれだ」とするのは、あまりに時期尚早であり、正確ではないと考えます。 過去いろいろな機会に、あるいは拙著「次なる経済大国。世界経済を繁栄させるのはBRICsだけではない」でも 1 お伝えしてきた通り、BRICsの経済成長は、当社の予測をはるかに上回るものでした。ですから、彼らの成長率 がこの10年(2011年〜2020年)鈍化するからと言って、それはさほど驚くべきことではないと思います。当社 のこの10年間の予測は、約6.6%ですが、その原因が特に中国の鈍化にあることは明らかで、それは、とりもな おさず、中国首脳部がより緩やかでバランスの取れた成長を望んでいるからなのです。 すべての面で、中国の重要性は、いくら強調しても強調しすぎるということがありません。BRICsの中での重要 性についても、まったく同じことです。中国の現在の経済規模は、2012年末現在で8.2兆米ドルです。実は、こ れは、BRICsの他の3カ国(および南アフリカの4,000億米ドルという小さい数字を含めたもの)の経済規模の合 計に匹敵するのです。しかも、2010年以来の2.3兆米ドルの伸びは、インドの経済規模を上回っています。2011 年には、13週ごとにギリシャ1国分の冨を創造したばかりか、4カ月ごとに南アフリカ1国に匹敵する冨を生み出 したことになるわけです。中国のこの10年間の経済成長を、当社では年率7.5%と想定していますが、今現在、 実際のペースはこれを上回っています。過去2年間では、平均約8.5%の成長を示しているのですから。 何にも増して中国のBRICs内での影響力がカギです。この点は、おそらくBRICs銀行の創設や、どんな形式で、 どんな実態のものにするかを決める際のカギとなります。多くのお話しの中で分かったのは、明らかに、南アフ リカ、インド、そしてブラジルが、こうしたことに大いに関心を寄せているということですが、中国の重要性は 揺るぎません。一方で、ロシアの関心はやや薄く、銀行の必要性にも疑問を抱いているという状況のようです。 このロシアの態度は、彼らが最初にBRICs首脳会議開催を主導したことから考えると、非常に興味深いところで す。 経済的に中国が圧倒的に大きな地位を占めることは間違いありませんが、他の国々の経済規模も無視できませ ん。ブラジル、インド、ロシアは、いずれも、世界の10大経済大国に入っており、2011年に記録されたBRICs4 カ国の経済規模の増加額2.3兆米ドルは、この年にイタリア1国の冨を創造したことに匹敵します。この増加に対 する中国の寄与分は、半分を超えてはいますが、他の国々の合計増加額も1兆米ドルにも達するのです。 添付表を見ると、この10年では、ブラジルとインドは、他との比較では期待はずれとなっており、特に2012年が 弱かったと言って良いでしょう。しかし、ブラジルの場合は、この10年、成長率は加速すると当社では予測して います。BRICs全体のこの10年の成長が期待はずれであったというのは当たっていないにせよ、この2カ国につ いては、間違いなくあてはまります。特にブラジルが顕著です。こうした状況が続けば、彼らは、経済を活性化 させるために、引き続き何らかの措置を探ることになると思われ、そうした策には、他のBRICs首脳と連携を深 めることも含まれるのではないでしょうか。このことが、BRICs開発銀行創設に向けての熱意に温度差があるこ とについて、ある程度の説明がつくように思います。 BRICs 開発銀行は、何をするのか? 各国の開発銀行は、通常、その国の長期的な経済発展のためのプロジェクトに資金を提供する役割を担うことか ら、極めて重要です。こうしたプロジェクトは、その国の国益に合致するものである一方で、民間でこれを遂行 することが難しいものです。2008年金融危機後の心理的な傷が続くことに鑑み、いわゆる先進国においても、同 じような組織創設が議論されています。私が、いろいろな機会に提案してきたのは、内輪もめが予測されること から、BRICs銀行の本拠をロンドンにしたらいいのではないかということです。英国内では、国立銀行に関する 2 新聞報道があまりに多いため、おそらく政策立案者の中には、他所の国のことではなく、自国のインフレ整備に もっと注力すべきであると考えるかもしれません。しかし、こうした考え方は、BRICs首脳たちからは、あまり 好意的に見られることはないと思います。 BRICs銀行の主な目的は、長期的なインフラ整備プロジェクト、それも国をまたいだ資金供給、そして、貿易や 金融面での繋がりを強化するための支援であると思われます。もちろん、地理的な距離があまりに遠いケースも あるため、物理的に国と国を結ぶインフラ整備プロジェクトを考えるのが難しいこともあります。例えば、ブラ ジルとロシアです。そう考えると、中国とインド、中国とロシアの場合は、ニーズがより明確です。その上、中 国とインドには、資源確保の面で大きな制約がある一方、ブラジル、ロシア、南アフリカでは、技術面とインフ ラ面での大きな制約があることから、BRICs銀行を創設する意義は大いにあると思います。特に、BRICs諸国に 対するアドバイザー達が、世界銀行も、各国の開発銀行も十分でないと感じるならば、BRICs銀行の必要性は、 一層高まるでしょう。南アフリカにとっては、BRICsというグループの中で考えた場合、このことが非常に重要 なものとなってきます。南アフリカが、アフリカ大陸諸国間のインフラ整備と貿易拡大に貢献できれば、BRICs の中で確固とした位置づけを得ることができるからです。この点は、南アフリカに課せられた義務であると言え ましょう。この貢献ができないならば、彼らがBRICsの中に地位を確保する意味が曖昧なものになってしまうか らです。かつて私は、南アフリカの経済規模が小さいという経済学的な論理で、彼らをBRICsに入れるべきでは ないと主張しておりました。しかし、彼らがこうした責任を果たせば、彼らを排除する理由はなくなるでしょう。 シンガポール シンガポール出張の滞在期間は、僅か24時間でしたが、最近のシンガポールでの成長国(グロース・マーケッツ) ストーリーの鼓動を十分体感できました。あらゆる面で中国の影響は明らかで、それは、ACIのイベント会場で あったマリナ・ベイ・サンズ・ホテルが、まるで大洞窟のような、しかし率直に言って、あまり魂のこもってい ない建物であることにも表れていました。会場内のショッピング・モールを歩きながら、出席者の方々と冗談を 言い合ったのですが、まるで上海にいるような気分だったのです。また、最近シンガポールにはインドの影響が 色濃くなってきており、あるいは、非常にエキサイティングなASEAN諸国の成功物語からの影響も増している ようです。シンガポールとクアラルンプール間に、2020年までには、欧州の国際列車であるユーロスターのよう な高速鉄道を敷く計画があると聞きました。こうしたことも、明らかに、高揚したムードをさらに盛り上げるこ とになるでしょう。 一方で、このような急成長をうまくコントロールすることの難しさを示す兆候も見えてきています。例えば、空 港の入国審査での長い列もその例です。もっともこれは、多くの先進国でのいらいらするほどの長い列から見れ ば、とるに足りないほどのものです。この他にも2つほど、シンガポールの効率性に対する完璧主義的な基準に は達しない点を見つけました。インフレが不快な水準と言えるほど高いこと、そして、不動産業界のベテラン数 人に聞いたところでは、シンガポールの不動産価格は、東京の六本木の一等地に引けを取らないくらいに高騰し ていることです。 もうひとつ聞いた話は、英国にとって特に興味深いものでした。ポンド安の影響で、多くのシンガポール人は、 英国の教育費がその他の有力候補地に比べると比較的安いと見ているというのです。特に、オーストラリアとの 比較がよく話題になっていました。そう考えると、他の国の子女教育に関心の高い富裕層の人々も、同じように 3 感じているのではないでしょうか。 シンガポールから見た外国為替のトレンド この話を突き詰めると、ポンドに対して豪ドルを空売りすれば良いということになります。しかし、私も参加し たパネル・ディスカッションには、主催者であるシンガポール政府投資公社を近々退くNg Kok Song最高投資責 任者、スイス国立銀行元総裁のフィリップ・ハイデブランド氏、そして「ミスター円」その人である榊原英資氏 も出席していましたが、この為替取引が話題となることはありませんでした。 「主要通貨」のうち投資する魅力のない一群の通貨の中では、米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和で上値 が抑えられる可能性があるにしても、米ドルがまだましというコンセンサスがあるようでした。この考え方には 同調できるのですが、米ドルの上値の可能性については、私が最も悲観的な見方をしているようでした。 すべてのパネリストは、今後2〜5年を見通した場合に、米ドル、ポンド、円、ユーロ、そしてスイスフランを有 望な順番にランキング付けするよう求められました。はっきりした答えをしたのは、私だけでした。私の提案は、 有望な順に、米ドル、ポンド(ポンドは、期待以上に値上がりするかもしれないと付け加えました)、ユーロ、 円、そしてスイスフランというものでした。 この他の議論の中では、榊原氏が、100円を超えて円安になるとは思えないという発言をしました。落着きどこ ろは、92円から98円のレンジであるというのです。また、2%のインフレターゲットの達成は、一般に考えられ ている以上に難しいという、日本での見方を披露しました。私が少し驚いたのは、他のパネリストが、この榊原 氏の見解に賛成している様子であったことです。それを見て、次にどう円が動くかについて、それでなくてもや や確信のなかったものが、余計に漠然としたものになりました。私は、日銀による政策変更は、ここでのパネリ ストの皆さんが考えている以上に大きな変更であると見ていますが、100円を超えて今まで通り、一直線に円安 に向かうことに対する人々の感じ方を見たように思いました。そう考えると、これまで通りの円安が続くために は、米国経済が回復に向かっているというデータが継続して出て来る必要があるようです。 また、パネル・ディスカッションでは、新興国と「出口」政策についても、話し合われました。フィリップ・ハ イデブランド氏は、各国の中央銀行には、才能豊かでかつ強いコミットメントを持った人々が多くいるので、出 口(金融緩和政策の終了)が破滅的なものになることはないと、聴衆の説得につとめようとしていました。この 努力は、完全に聴衆を納得させるまでには至らなかったものの、十分に安心感を与えるものでした。私は、付け 加えて、少なくとも現状で今後の展開を予測するには、1994年の経験が役に立つであろうと思ったので、その経 験について話をしました。 中国と人民元については、シンガポールの人々の声が特に興味深いものでした。今後も、一層の市場開放と利用 が進んで行くとは思いますが、だからと言って人民元の完全な変動相場制移行は、いつかは起こるとしてもすぐ には起こらないだろうという見方があります。一般的な考え方は、人民元の貿易目的での利用を強く進めるべき であるというものですが、グローバル投資目的については、人民元の利用は、厳しく制限されるべきだというも ののようです。パネリスト中何人かの方は、人民元は十分に開放されて、可能ならば2015年までに最終的には SDR(外国為替準備資産の特別引出権)のバスケットに組み入れられるべきという私の考えに同調していました。 4 中国に関するもうひとつの関心事 先週は、前週に続いて中国株式にとっては、あまり芳しくない週となりました。A株式市場は、年初来の値上が りをすべて吐き出してしまいました。このことは、先週、さまざまなところで話題となり、急落の理由ははっき りしているにも拘らず、間違いなく懸念材料となっています。近い将来、「新しく」そして「これまで以上に質」 を重視する中国の成長ストーリーが確立されれば、株式市場は間違いなく上昇し、利益を確保できると思います。 人によっては、最近の状況を生み出した重要な理由として、贅沢や派手な贈り物への取り締まりや不動産投機の 制限を挙げています。先週、今後の新首脳陣の役割分担が発表されたのを受けて、中国の国民が彼らの政策1つ1 つにどう反応するのかが、もっとも興味を引かれるところです。普段なら、首脳人の顔ぶれは私にとってあまり 大きな意味を持ちません。名前を発表された1人1人について、あまり知らないからです。それに、以前にも申し 上げた通り、新首脳陣が、中央政府で策定した計画を尊重する体質である点は、理解しておくべきでしょう。但 し、各場面では、首脳中の特定の人物が、他の人物よりも、重要性を増すことはあり得るでしょう。 多くの評論家の方々から、英国(リーズ)にある食品メーカーが、今や中国よりもコスト面で競争力が出て来た ため、カップ麺の製造を開始すると発表したというニュースを聞きました。水曜日のフィナンシャル・タイムズ の第1面でこのニュースを読んだ後、その日たまたま講演をした保守党の中国ウォッチャーグループの会で注目 すべきこととして伝えました。将来いつの日か、英国がカップ麺を中国に輸出するようになるかもしれません。 日本、円だけではない実体経済の動き このような中、いくつか新たな進展についてのニュースが入って来ました。日本で、協調的に給与を引上げる動 きが高まっているとのことですが、これは、日銀のスタンスがより積極的なものになるとしても、おそらくデフ レの終焉を間違いのないものにするために必要なことなのでしょう。何人かに話を聞くと、簡単に合意ができる ような性質のものではないとの見解でしたが、日本では、可能なのではないかと私は思っています。 進行中のエネルギー開発の革新について、大きな進展があったと多くの新聞が報道しています。「燃える氷(メ タンハイドレート)」からガスを取り出す技術の商業ベースへの転用が可能になりそうだと発表されたのです。 ある識者のコメントによると、これによって最大で、ガス輸入11年分が賄われる可能性があるそうです。日本に とっては素晴らしいニュースであり、とりわけ、将来日本が経常収支の赤字を解消することができないのではな いかという私の考えも、これが実現すれば変わってくることでしょう。 ロシア 新たな中央銀行総裁に、私もお会いしたことのあるエリビラ・ナビウリナ氏が就任しました。多くの人々がこの 就任は政治指導者たちが中央銀行を意のままに動かすためのものであったと考えています。そのことは明らかで あるとしても、彼女には人々が思っている以上に力があると思います。 英国、新たなムード? イングランド銀行(英中央銀行)総裁のマーヴィン・キング氏が今週発表した声明はとても目を引くもので、ポ 5 ンドの空売りを意図していた人たちには驚きだったに違いありません。マスコミに対する声明で、総裁は、ポン ドは妥当な価格で取引されており、これ以上のポンド安は望まないと述べたのです。おまけに彼が付け加えたの は、業績の悪かった建設業と石油業を除けば、2012年の英国の実質GDPは、1.5%のプラス成長だったはずで、 経済も回復基調に乗っていたはずだとしました。私の英国経済への見方は、非常に複雑なものですが、何故他国 に比べてそんなに弱いと考えられているのかについては、理解に苦しむところです。(但し、緊縮財政と銀行に 対する自己資本充実要請は、以前お話しした通り、妥当なものであると考えています)キング総裁の興味深いコ メントの他にも、私の頭から離れないのは、経済データが修正されたなら、経済はこれまで考えられていたほど 弱くなかったのではないかという疑問です。ポンドを空売りすることは、そんなに素晴らしいアイデアだとは、 とても思えないのですが。 新興国 対 主要国株式市場 このところ、多くの方々からの、「米国やその他の先進国市場の株式が新興国を上回るパフォーマンスを上げて いる」というコメントが続いています。これはもちろん事実ですが、その原因は、株式指標におけるBRICs市場、 特に中国とブラジルの組入比率が高いことによるものです。つまり、新興国のパフォーマンスが弱いのは、世界 中に広がったトレンドではなく、この2つの市場のパフォーマンスの弱さを反映したものです。他の市場、特に 注目すべきN-11(ネクスト・イレブン)の多くの市場は、年初来のパフォーマンスで米国を上回っています。例 えば、インドネシア、フィリピン、ナイジェリア等では、その傾向が顕著です。私が、もう何年も言い続けてい る通り、もはや新興国をひとつのグループとしてひとまとめに論じることが、経済学的にも、その他の側面にお いても、ますます不合理になりつつあるのです。 キプロスの恐ろしい動き 土曜日の朝、飛行機を降りるとすぐに目にした新たな展開は、もちろん金曜日に起こって以来、すべてのマスメ ディアをずっと賑わせています。銀行救済措置のための予めの合意の一環として、キプロスの銀行への預金者は、 預金に対する大幅な課税を受けることとなりそうなのです。10万ユーロを超える預金者は10%近く、それ未満で あれば約6.5%が課税率となりそうです。これはかなり驚くべき動きであり、おそらくは、ドイツ議会が考えた「何 ができるか」という発想が元になっているのではないかと思われますが、他のユーロ圏の国々、あるいはおそら く世界の他の地域への影響も考慮されていません。ここから、少額預金者に対する公平感に始まり、投資家が欧 州の政治家を信頼できなくなるということまで、非常に多くの問題が発生しそうです。欧州やキプロスでまっと うなビジネスを行いながら、何がしかの現金をキプロスの銀行に預けている知人が何人かいますが、彼らも、キ プロス政府が罰則の対象としている海外投資家と同様に、無差別的に損害を被ることになるのでしょう。これが 前例となるとは思いませんが、キプロス以外の世界中のマネーセンターで、海外からの望ましくない投資資金の 流入に厳しい態度をとっているところに、市場がリスク・プレミアムを乗せることになっても、不思議はないと 思います。それに加えて、キプロスの状況は、ユーロ圏周辺国の銀行や市場においても同様であり、欧州の政策 立案者には、そうした状況がコントロール不能に陥らないように、より慎重な対応が求められることになるで しょう。いかなる手段に訴えてでもユーロを守ろうとして行うさまざまな政策は、行えば行うほど、1つ1つの政 策決定がユーロ圏各国間での商品やサービスのために存在している自由市場を破壊する方向に作用しているの ではないだろうか、と考えざるを得ません。 6 この稿を書き終えて印刷しようとしたところに入ってきたニュースは、銀行員に対するボーナス上限設定の対象 を、ヘッジファンドやその他の投資関連の管理職にまで拡げようとする議論についてのものでした。 イースターの休日が近づいてきますが、どうぞ皆様に幸運がありますように。 ジム・オニール ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長 (原文:3 月 18 日) 本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以 下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商 品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、GSグローバル・イ ンベストメント・リサーチ、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・部門の視点を 反映するものではありません。本資料はGSグローバル・インベストメント・リサーチが発行したものではあり ません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。 本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ ネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が翻訳したものです。訳文と原文に相違がある場合には、 英語の原文が優先します。 本資料は、特定の金融商品の推奨(有価証券の取得の勧誘)を目的とするもの ではありません。本資料は執筆者が入手した信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、弊 社がその正確性・完全性を保証するものではありません。本資料に記載された市場の見通し等は、本資料作 7 成時点での執筆者の見解であり、将来の動向や結果を保証するものではありません。また、将来予告なしに 変更する場合もあります。経済、市場等に関する予測は、高い不確実性を伴うものであり、大きく変動する 可能性があります。予測値等の達成を保証するものではありません。BRICsSM、N-11SM はゴールドマン・サッ クス・アンド・カンパニーの登録商標です。 本資料の一部または全部を、弊社の書面による事前承諾なく(Ⅰ)複写、写真複写、あるいはその他いかな る手段において複製すること、あるいは(Ⅱ)再配布することを禁じます。 © 2013 Goldman Sachs. 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