多チャンネル・ベーシックの曲がり角 総合編成的パッケージは終焉へ

2012.1.30
第三種郵便物認可
13
ケーブルテレビ、番組供給
多チャンネル・ベーシックの曲がり角
総合編成的パッケージは終焉へ
日本では多数ある有料専門チャンネルをパッケージ化
声が強まってきた。
して売るスタイルがスタンダードと考えられてきた。い
<風化し始めた総合編成的パッケージ>
わゆるベーシックパッケージと呼ばれるものである。
総合編成的なパッケージが曲がり角を迎えつつあるこ
ベーシックパッケージは、プラットフォーム側が用意
とに拍車をかけることになったのが、地デジ化に合わせ
した多種多様なジャンルのチャンネルの集合体になって
てテレビを買い替える際にスタンダードとなった 3 波共
いる。加入世帯が全チャンネルを視聴することは想定し
用機である。単品買いのできなかったチャンネルも、直
ておらず、パッケージの中から幾つかお気に入りのチャ
接受信に切り替えれば単品で買えるようになった。新 BS
ンネルを見つけてくれれば良いというのが、その発想の
や 110 度 CS の HDTV 化を進めるチャンネルは、費用対
原点である。個々の加入者が視聴したいチャンネルを選
効果を検証して、十分にメリットが見込めると判断され
べるようにした方が効率的に見えるが、パッケージを用
ただけに、有力なチャンネルが多いという事情もある。
意する側としては、その方がコスト増になってしまう。
ケーブルテレビや IPTV の事業者も、総合編成的なパ
最も安価で提供できる仕組みとして、ベーシックパッケ
ッケージだけを売っていると、ユーザーニーズにそぐわ
ージが組成され、加入世帯として見たくないチャンネル
なくなってくることを意識し始めているので、加入世帯
は見なければ良いという組み立てだ。
から人気の高いチャンネルを中心としたパッケージに切
一般にケーブルテレビや IPTV では、各ジャンルをカ
り替えようという動きも見られ始めた。おそらく、この
バーした形の総合編成的なパッケージが売られている。
傾向は拡大することはあっても、元に戻ることはなさそ
旧来の BS 放送の有料チャンネルに代表されるようにオ
うである。
プションとかプレミアムと呼ばれるチャンネルと契約す
日本では、世界的に有名なチャンネルも、あまり評価
るには、ベーシックパッケージの購入が前提条件になっ
されないという指摘があり、ユーザーの好みに合わせた
ているケースが大半である。一方でスカパーを直接受信
パッケージが主力になると、いよいよ見られなくなって
する世帯では、単チャンネル契約することができる。ま
しまうという声も聞く。しかし、言語や文化の違いを考
た「プロ野球セット」に代表されるように、自分の見た
えれば、どれだけ世界で売れようとも、日本で売れない
いジャンルに特化したパッケージを買うこともできる。
チャンネルが出てきて当然である。それをパッケージ化
2011 年のアナログ停波を契機として、多チャンネルの
されることで解消しようという発想が間違いであり、日
加入世帯側にも大きくニーズが変わり始めた様子が窺え
本の視聴者に向けたアピールポイントを増やす努力をす
る。震災の影響も大きいし、デジタル化対応でケーブル
べきである。日本で受け入れられない本当の理由を解消
テレビの加入世帯が増えたこともあり、見るわけでもな
しようとせず、ケーブルテレビや IPTV のようなネット
いチャンネルがセットで売られることに対し抵抗感が起
ワーク事業者に対し、ただパッケージ化されるように働
こり始めたことも事実である。総合編成的なパッケージ
きかけているチャンネルが外されていくのは当然のこと
は、視聴者が多チャンネル放送に不慣れな時期には確か
なのかもしれない。
にユーザーフレンドリーな面も見られた。パッケージ化
その最大の理由は営業する相手を間違えているからで
されたチャンネルをザッピング視聴しているうちに知ら
ある。営業する相手は、常に視聴者であるべきであり、
なかった面白いチャンネルと出会う契機になったからで
ネットワーク事業者ではない。そこに気付かないチャン
ある。しかし、有料専門多チャンネル放送が登場してか
ネルが淘汰されるのは当然であり、多チャンネルベーシ
ら、もうすぐ 20 年を迎えようという今、加入世帯からす
ックについての考え方もそれを後押しすべく曲がり角を
れば、要らないチャンネルは要らないし、専門的なこと
迎えているということなのではなかろうか。もはや総合
は分からないが、要らないチャンネルがセットになって
編成的なパッケージは終焉に向かうことになるだろう。
いるから安価で済んでいることに納得がいかないという
(西 正 = オフィス N 代表)
日経ニューメディアをコピー等で複製することは、社内用、社外用を問わず、日経 BP 社の承認なしにできません。無断複製は損害賠償、著作権法の罰則の対象となります。