動画週刊誌「週刊西田」 西田昌司がズバッと答える一問一答 「グローバル化の流れは続くのか?」 平成 24 年 9 月 18 日 ●だいさんからの質問 私は大学生なのですが、大学の授業ではグローバル化という言葉が呪文の 様に教授の口から発せられます。「日本はこれから少子高齢化で経済発展は 厳しいので、外に出ていくしかない。」先生はこうした主張に対してどう思 われますか?また今後もグローバル化の流れは続くのでしょうか?最後に就 職活動を目前に控えているので、アドバイスをいただきたいです。 ●西田昌司の答え 「日本はこれから少子高齢化が進み需要がどんどん小さくなるから海外に 出なければならない」と考える人が非常に多く、これはTPP賛成派の言い 分でもあるのですが、このような意見はあまりに短絡的だと思います。今の ペースで少子高齢化が進むと理論上はいつか人口がゼロになってしまいます が、実際はそのように単純ではなく、人口が増えたり減ったり安定したり、 を繰り返すのだと思います。 少子高齢化が進むと今まで売れたものが売れなくなることはありますし、 実際に塾・学校は斜陽産業になっていますが、逆に介護・医療といった分野 は斜陽産業から成長産業になっています。「子育てから介護・医療」へと需 要の仕組みが変化しており、この変化に対応した政策が必要ですが、少子高 齢化が進んでも需要が小さくなるとは限りません。 日本が高度経済成長を遂げた 70 年代半ばくらいまでは出生率も高く、子 供がどんどん生まれて学校も増えました。学校を建てるのは主に公の仕事で すが、服・家・テレビ等の民間需要も増えて経済成長を牽引しました。これ からは以前のような民間需要は期待できないかもしれませんが、介護・医療 等の公的な需要はどんどんと増えており、この変化に対応して経済運営すれ ば経済の停滞を避けることも十分に可能です。 介護・医療といった需要を賄うには民間の資金だけでは出来ません。ある 程度、介護保険・医療保険といった形で国民に負担してもらわなければなり ませんし、社会保障負担率だけでなく租税負担率もある程度は上がらざる を得ません。しかし、給付という形で国民に戻りますからお金が国内で循環 し、負担が増えた分は年金などの社会保障として国民に給付されますから、 国民が一方的に貧しくなるわけではありません。なぜなら、その税を負担す るのは個人だけではなく法人も含まれるわけで、多くの国民にとっては負担 よりも給付の方が多いはずです。政治家はこのことを国民にきちんと説明せ ねばなりません。 民間需要が大きかった頃は「官から民へ」というスローガンの元、民間に お金を回そう、その為には負担を減らそう、という議論が盛んになり、1990 年代に入ってからは租税負担率をぐっと下げる間違った政策がとられまし た。高齢化の予測から年金・介護保険・医療保険などの社会保障負担率は一 貫して上がっていますが、国民負担率(租税負担率と社会保障負担率の合 計)を 1990 年代以降は抑えてきました。 しかし、民間に余ったお金で国内で工場を建てて一番効率の良い産業を興 していこう、という方向になれば良かったのですが、日本国内に投資するこ とにはなりませんでした。日本以外のアジアの国々の方が若くて成長してお り人口も多い、となるとどうしても国内よりも海外にお金が流れてしまいま す。その結果、国内の雇用が減り、給料が下がって購買力が低下し、この 10 ∼20 年に渡る長期のデフレを招いてしまいました。 現在は海外に工場を建ててモノを売っていますが、海外の需要に依存する リスクも考えなければなりません。中国やその他の新興国は人口が増え続け ておりモノを買ってくれていますが、海外の需要がいつまで続くかはわかり ません。例えば中国を見ると、沿岸部の 1 億人が所得のほとんどを占有して その他の 90 %以上の内地の人には行き渡っておらず、国内の格差が非常に 大きくなっています。このような状態では中国政府への不満が渦巻きます し、その不満のはけ口を日本に向けさせて「愛国無罪」という形で発散させ てはいますが、所得分配の不公平感による民衆の怒りが爆発して内乱状態に なる可能性もあるわけです。中国に限らず、海外の市場がこれから成長し続 ける可能性は低いと思います。 これに対して日本の場合は、所得再分配を上手く行ったので戦後に高度経 済成長を成し遂げられたと言えます。高度成長期には会社の利益が増えると その分を従業員の給料に還元しました。また投資先も国内が主であり、この 投資が新たな需要となって経済のパイを大きくして成長し続けました。日本 は所得を国民の各階層に上手く分配することにより内需を拡大することがで きたのです。 介護・医療といった福祉分野だけでなく、自民党が掲げる国土強靭化基本 法案を成立させて 10 年間で 200 兆円の公共投資を行うことは、災害に強く しなやかな国を目指すのみならず経済成長にとっても必要なことです。この 財源は税金ではなく建設国債を発行して、銀行に眠っているお金を吸い上げ て事業として投資するのです。そうすると雇用が生まれて給料が払われるの で国民の購買力が増大します。 海外に出てしまっている企業は先ほど述べたようなリスクを抱えています が、日本国内の需要が増えてくるとなるとより安全な国内に必ず戻ってき ます。そうすると国内で投資が行われることで需要が生まれ、良い循環が始 まって一気にデフレ脱却も可能となります。今の就職難も解消され、十分な 給料をもらえれば安心して結婚し子供も育てられ、かつての豊かだった日本 社会の復活も十分に可能です。 目先の少子高齢化を前にして、 「日本はこのまま衰退する」 「グローバリズ ムには逆らえない」「生産年齢人口が減り、地方からの人口流入が止まらな い」といった経済的自虐史観が蔓延していますが、なぜ日本が経済発展を成 し遂げられたのか、日本と海外諸国は何が違ったのか、ということを考えて みると見えるものがあるのではないでしょうか。週間西田の西田ビジョン 「西田昌司×青木泰樹経済対談」で、グローバリズムや小さな政府路線の誤り を青木先生が述べられていますので、併せてご覧いただきたいと思います。 反訳:ウッキーさん Copyright:週刊西田 http://www.shukannishida.jp
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