気道狭窄におけるレーザー治療の臨床応用

気道狭窄におけるレーザー治療の臨床応用
新座志木中央総合病院
呼吸器外科
宮 島 邦 治、木 村 雅 一、大 谷 圭 志、吉 田 浩 一、
加 藤 靖 文、河 野 貴 文、奥 仲 哲 弥、加 藤 治 文
悪性腫瘍による気道狭窄の治療として現在行
われているのは、レーザー治療、ステント治療、
Nd-YAG レーザー
MAIN TOPICS
治療、化学療法等である。外科治療は有効であ
による中枢気道の閉塞や狭窄に対する高出力レー
るが、侵襲が大きく、また中枢気道に高度狭窄
ザー焼灼による内視鏡下治療(気道開大術)は,
を呈する症例の多くが手術不能例または困難例
低肺機能などの耐術能が低いまたは腫瘍自体が外
であるため、実際に施行される機会は少ない。
科的切除不能な気道内腫瘍に対する姑息的治療で
また、放射線治療、化学療法の効果にはあまり
あるが致死的な換気障害に対する救命処置として
多くを期待できないのが現状である。それに対
だけでなく、QOL の改善・維持することに貢献
して、レーザー治療は最も広く行われており、
し,放射線治療、抗癌剤治療,ステント挿入など
術前照射やステント挿入の前治療としても頻繁
の併用により局所進行性肺癌症例の生存期間の延
に行われている。レーザー気管支鏡治療には大
長が期待されるようになってきている 7)。(図 1、
別して Nd-YAG(イットリウム・アルミニウ
図 2)また姑息的治療の目的で行われるため、進
ム・ガーネット)レーザーや CO 2 レーザーと言
行性肺癌に対しては高出力レーザーやマイクロ波
った高出力レーザーを用いた腫瘍焼灼法と、腫
凝固術、アルゴンプラズマ凝固法(APC ;
瘍親和性光感受性物質と低出力レーザーの
argon plasma coagulation)、高周波スネアなど
そして気管移植、再建などの外科治療、放射線
進行性肺癌などの悪性腫瘍またはリンパ節浸潤
combined therapy である光線力学的治療法
(photodynamic therapy: PDT)がある。気道
閉塞を伴うような進行性肺癌に対する Nd-YAG
レーザー治療は、閉塞あるいは高度狭窄をきた
した気道に対し、短時間に気道内の腫瘍を昇華
せしめ、気道開大をはかることのできる方法と
して第1選択として用いられてきた
1)
。一方
PDT は主に中心型早期肺癌の根治治療法として
確立されているが 2 〜 4)、我が国では進行癌に対
する姑息治療としての報告は少ない。しかし、
欧米では PDT はむしろ進行癌の症例が大多数を
占め
5)
、進行癌に対する姑息的治療として確立
されつつあり、緊急性を伴った気道開口目的以
外では、P D T を第1選択とする施設もある 6 )。
低出力レーザーを用い腫瘍を選択的に壊死に陥
らせる本法は、安全性が高く、進行性肺癌の開
口目的を充分に満たすものと考えられる。
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図1 a. Stage IIIB 期進行性肺癌に対して化学放射線治療後、気管
分岐部リンパ節浸潤にて気管分岐部狭窄が出現。b. 左主気
管支内腫瘍は硬性気管支鏡にて core out 後、右主気管支内
腫瘍は Nd − YAG レーザー(124J)、Microwave にて腫瘍
を焼灼し気道開大する。その後、ファイコンYステントを留
置した。
気道狭窄におけるレーザー治療の臨床応用
よい適応として悪性腫瘍では、病巣が気管・主気
管支などに限局している扁平上皮癌、腺様嚢胞癌、
MAIN TOPICS
粘表皮癌、カルチノイドなどであり、良性疾患で
は気管から区域気管支入口部までの良性腫瘍、瘢
痕狭窄などである。とくに気管支良性腫瘍は NdYAG レーザー焼灼術のよい適応で、手術を回避
することができ、瘢痕狭窄ではその狭窄部の長さ
1 cm 以下がよい適応である。
気管・気管支への転移性腫瘍による気道狭窄で
換気障害を呈している場合も、Nd-YAG レーザ
図2
a. IV 期進行肺癌にて、化学放射線治療施行。気管分岐部リ
ンパ節の腫大にて気道狭窄出現。 b. Nd-YAG レーザー
(610J)、Microwave にて腫瘍を焼灼し気道開大する。その
後ファイコンYステントを留置。
ー焼灼術が救命救急的手段のひとつになる。また、
出血点が同定できる出血に対して、血液が存在し
ても止血効果が得られる Nd-YAG レーザー焼灼
8)
術は有用な止血術にもなる 。
気道開大を目的としたレーザー治療の他に、気
による腫瘍焼灼後、腫瘍の増殖に伴う再狭窄が必
管・気管支形成術を必要とする手術症例の手術前
発であるため気管支ステントの留置などの追加治
後にレーザー照射を行う場合がある。術前照射に
療が必要となることが殆どである。また、気管・
より、切除範囲の縮小や肺換気の回復が可能とな
気管支軟骨の破壊、消失が広範囲に及ぶ症例でも
る 9,10)。また気管形成後における気管支吻合部肉
軟骨輪による気道内腔の保持ができないので、
芽狭窄に対しても有効である。良性疾患に対して
Nd-YAG レーザー焼灼術後にステント留置など
は、平滑筋腫、過誤腫、神経線維腫などに有効で、
の追加治療が必要になる。
多くは気管内腔にポリープ状に突出する増殖形態
を呈し、その頸部が高周波スネアで切除可能な場
(a)適応
気道狭窄に使用する際には、狭窄部より末梢
合よい適応となる 11)。乳頭腫は広基性でも適応
となる。
の気道開存が画像や内視鏡所見で確認できるこ
と、狭窄部位が気管から葉気管支までの病変で
(b)禁忌
あることなどであり、狭窄部の開通で末梢肺組
患者の呼吸状態が悪く、気管支鏡検査に伴う
織が換気循環で生理機能を回復できる症例であ
低酸素に耐えられない場合、活動性の炎症、特
る。腫瘍やリンパ節浸潤が気道内腔に突出する
に結核病巣に対する焼灼。この場合には、N d -
ものや、長軸方向の広がりが 20 mm 以内のもの
YAG レーザー焼灼施行後に肉芽の増生を引き起
がよい適応となる。全周性狭窄例や長軸方向に
こしたり、強い瘢痕狭窄を引き起こす可能性が
長い狭窄が及ぶ症例ではレーザー治療だけでは
ある。出血点不明の出血病巣に対する焼灼など
治療効果は十分といえず、レーザー焼灼後にス
も原則禁忌である。
テント留置による気道開大の維持が必要となる
ことが多い。また、多発肺内転移や癌性リンパ
管症の症例では狭窄の改善による呼吸困難の改
(c)方法
麻酔は通常の気管支鏡検査と同様に、局所麻
善は見込めず適応となることは少ない。一方、
酔下または全身麻酔下に吸入酸素濃度を 35 %以
良性疾患におけるステントの長期留置による再
下にして Nd-YAG レーザーファイバーを軟性気
肉芽狭窄に対し、レーザー治療により気道開大
管支鏡のチャンネルからだし照射する。
を維持する必要性のある症例もある。
気道狭窄に対する Nd-YAG レーザー焼灼術の
しかし、気道狭窄に対する Nd-YAG レーザー
焼灼術は、出血のコントロールや換気の確保が
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困難と予測されるハイリスク症例には局所麻酔
トラフレックス)などがある。
下で軟性気管支鏡のみでは対応しきれず危険で
ある。ゆえに自発呼吸を残した全身麻酔下での
(d)レーザー焼灼時の注意事項
硬性気管支鏡下に Nd-YAG レーザー術を施行し
最後に、高出力レーザーによる気管支鏡下レー
た方が Nd-YAG レーザーで凝固後に硬性気管支
ザー焼灼術の際には、以下のようなことに注意す
鏡外筒先端による core out や硬性鉗子で機械的
る必要がある。
切除が可能で、また視野が広く気管確保ができ
(1)目的外の部位、組織が影響を受けないような
ているのでステントやバルーンや止血処置が迅
措置を講ずる。Nd-YAG レーザーは深達度が数
速に行えて安全である。
mm まであるため、焼灼範囲以上に凝固、壊死が
また、リスクがあるが硬性気管支鏡が使用で
きない場合は,全身麻酔下で気管挿管して Nd-
起こることを充分に考慮する必要がある。
(2)Nd-YAG レーザーは、反射光にもエネルギ
MAIN TOPICS
また軟性気管支鏡下の高周波治療のスネアで有
ーがあり、散乱光にも充分注意する必要がある。
茎性のポリープなどが簡単に摘出できるので有
保する。
YAG レーザー焼灼したほうがより安全である。
用である。
患者はもちろんのこと、医療者に対する安全も確
(3)進行性肺癌による気道狭窄のために、呼吸状
態が悪い場合などが多く、処置中の呼吸管理に注
現在、内視鏡的に使用可能な高出力レーザーは,
意が必要である。特に、高濃度酸素下に行うのは
Nd-YAG レーザー,CO 2 レーザー,アルゴン・
きわめて危険であり、我々は気道内の酸素濃度を
ダイ・レーザー,エキシマ・レーザーなどがある。
モニターし、焼灼する際には 35 %以下で施行し
その中で Nd-YAG レーザーはもっとも一般的に
ている。高濃度酸素下では、気道内での爆発、延
使用されている。Nd-YAG レーザーは,1,064
焼、気管チューブなどへの着火などの危険性があ
nm の長波長レーザーであり組織深達度は出力に
る。呼吸状態が悪く血中酸素飽和度が低下する場
より数 mm 〜数 cm まで達する。腫瘍の焼灼だ
合には、一時的にレーザー焼灼を中断し、酸素の
けではなく血管凝固能にも優れ,気道出血にも適
投与を行う。
応が可能である。逆に比較的深部まで焼灼が及ぶ
(4)気道内でレーザー焼灼による発生する有毒ガ
ことから気管支壁損傷、深部の血管損傷などを引
ス(fume)を患者が吸い込まないように、可及
き起こす可能性がある。Nd-YAG レーザーの合
的に体外に吸引し、肺に与える影響を最小限にと
併症として気管支壁の穿孔や大出血が起こる頻度
どめるようにする。大量の fume を吸引したり、
は、気管支穿孔は 0.5 %、大出血は1%程度とさ
新規気道の開口による喚起血流不均衡、出血の吸
れる。
入、長時間の低酸素状態から急性呼吸不全をきた
中枢気道における内腔腫瘍進展性狭窄の治療で
すことがあるので注意が必要である。極力自発呼
は Nd-YAG レーザー焼灼術治療、マイクロ波凝
吸下に行い、煙の吸引を避けるため、可能であれ
固療法またはアルゴンプラズマ凝固法やスネアを
ば呼気に合わせて焼灼したり、間歇的に焼灼した
使用した高周波治療などを行い、硬性気管支鏡外
りする。必要以上に深く焼灼することはせず、ま
筒先端での機械的切除(core out)後に再狭窄を
ず気道確保できる気管支内腔を確保することを目
防止するため気道ステントを留置する。同様に壁
指す。
外圧排性狭窄にはバルーン拡張後にステント留置
様に壁外圧排性狭窄にはバルーン拡張後に気道
を行う。気道ステントには硬性気管支鏡下に留置
で、また視野が広く、
するシリコンなどのポリマーステント(デュモン
(5)レーザー焼灼時の気道浮腫に注意する。焼灼
ステント、TM ステント)と、軟性気管支鏡下に
は、原則として辺縁から開始し、残存気道を少し
留置するステンレスやニチノールなどの自己拡張
ずつ拡張させるような方向に焼灼する。気道狭窄
型金属ステント(スパイラル Z ステント 、ウル
の原因になっている腫瘍の中心部から焼灼したり、
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気道狭窄におけるレーザー治療の臨床応用
一度に広い範囲を焼灼したりすると、腫瘍が一時
と光のエネルギーを吸収し、高揚した励起一重項
的に浮腫をきたし狭窄症状が悪化する場合がある。
状態になる。励起された不安定な光感受性物質は
MAIN TOPICS
注意が必要である。気管支動脈系からの出血は、
蛍光などエネルギーを放出して元の基底状態に戻
ボスミン生食水の散布、気管挿管チューブのカフ
この状態で組織内の酸素にエネルギーが転移され
による圧迫で制御可能である。しかし、気管分岐
ると励起状態の高まった一重項酸素が発生する。
部、左主気管支、右主気管支前面、右中間気管支
このとき腫瘍内でこの現象が生じれば、毒性の強
幹などからは、肺動脈出血することがあり、この
い一重項酸素によってがん組織が破壊されること
場合には大出血し制御困難で、致命的合併症にな
になる
(6)レーザー焼灼による出血に対しては,十分に
るが、この過程で一部が三重項状態に移項する。
12、13)
。この現象をエネルギー移項型
ることがある。このような大出血を起こさないよ
(Type 2)といい、他方、三重項状態から電子変位
うに、腫瘍と周囲との解剖学的位置関係をよく念
(電子的移項型(Type 1))による Free Radical の
頭に置き、レーザー焼灼する必要がある。
発生が腫瘍毒性につながるとも言われる。(図 3)
(7)医療者に対する安全確保のために、防護ゴー
したがって、腫瘍治療を目的とした PDT には、
グルなどを着用し目を保護する。機器の保守、管
腫瘍に特異的に集積する薬剤を使う必要があり、
理、Nd-YAG レーザー照射用の石英ファイバー
更にこの薬剤を適切に励起する光が必要になる。
の断線などに注意する。
現状では波長特性に優れたレーザー光線が使われ
る。(図 4)
PDT
PDT(Photodynamic therapy、光線力学的
治療)は、高出力による腫瘍の焼灼法とは異な
り、光線力学的な光化学反応を利用して腫瘍を
退縮させる方法である。PDT では、光線の波長
が重要な因子で高度な出力(50 − 100 W)は要
求されない。したがって低出力がゆえに照射時
の組織燃焼煙や有毒ガス(CO、CO 2 )の発生は
なく、安全に行うことができる。本法が臨床応
用されたのは 1980 年であったが、それ以降多く
の報告がある 2、4)。
図 3 PDT の殺細胞機序
本法の治療目的は、早期中心型肺がんの根治
治療と、気道狭窄や閉塞などの進行がんに対す
る気道の開口を図り、呼吸困難などの臨床症状
の改善である。
2010 年 4 月から保険上肺がんに対する PDT
が適応拡大された。すなわち進行がんによる気道
狭窄・閉塞病巣の PDT ができるようになった。
本項では、PDT の治療機序、方法、治療成績
を記述する。
PDT の治療機序
基底状態にある光感受性物質は光に暴露される
図 4 腫瘍親和性光感受性薬剤の静脈内注射後にレーザー照射をする。
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PDT の方法
1.
腫瘍親和性光感受性薬剤
光感受性物質には多くのものがある。例えばサ
インペン、時計の文字盤、道路標識や蛍光を有す
る薬剤などである。しかし、臨床的使用には、変
異性、毒性がなく、安全な薬剤でなければならな
い。臨床的使用に適する薬剤にも多くのものがあ
図 6 富士写真光機製アルゴンダイレーザー
るが、代表的な薬剤には歴史的なヘマトポルフィ
1984 年
リン誘導体、ポルフィリン二重体、Tin
MAIN TOPICS
ethyletiopurin、Lutetium texaphyrin、ATX-S10、
Pheoforbide、ALA、m-THPC などが世界で使わ
れている。わが国では P h o t o f r i n が 1 9 9 4 年、
Laserphyrin が 2003 年に国の認可を得て保険収
載されている
14 〜 16)
。図 5 は Photofrin と
Laserphyrin の波長特性を示したものである。
Photofrin の励起波長として 630nm が使われ、
Lasrphyrin の励起波長は 664nm であるが、いず
れもヘモグロビンの吸収効率は低いので組織透過
性は優れている。
図7
図5
2.
レーザー装置
図8
アルゴンダイレーザー(図 6)、金蒸気レーザ
ー、銅蒸気レーザーが、各国で使用されてきた
が、わが国では、エキシマダイレーザー(図 7)、
波長が 6 3 0 n m で P h o t o f r i n との組み合わせ
YAG OPO レーザー、ダイオードレーザー(図
で 、 ダ イ オ ー ド レ ー ザ ー は 波 長 664 nm で
8)が薬事承認がされ、保険収載されている。エ
L a s e r p h y r i n との組み合わせで認可されてい
キシマダイレーザー、Y A G O P O レーザーは、
る。
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気道狭窄におけるレーザー治療の臨床応用
3.
治療方法
(4)副作用、合併症
薬剤による副作用として皮膚の光過敏症が挙げ
MAIN
TOPICS
OPO レーザーによる治療
られるが、Photofrin は治療後約 2 週間の入院が
Photofrin 100mg をレーザー照射の 48 時間
Lasephyrin ではこの副作用はほとんど見られな
前に静脈注射を行う。レーザー照射エネルギー
いので治療後直射日光回避は約 1 週間の入院で十
(1)Photofrin とエキシマダイレーザー、YAG
必要で直射日光は避けなければならない
2
は、100-200 mW/cm で、照射時間は 15 分間
2
で、総エネルギーは 150 Joules/cm であるが、
治療対象病巣の容積、広さによってエネルギー
を調整する。
(2)Laserphyrin とダイオードレーザーによる
治療
2、4、16)
。
分である。
Laserphyrin は代謝が早く正常皮膚に残らない
ことが利点である。
1
「治療成績」
表 1 に進行がんにおける治療成績をまとめたも
図 9 は、治療風景であるが、通常の気管支鏡検
のであるが、表2は東京医大における進行性肺が
査と何ら変わることのない気道の局所麻酔で行わ
んによる気道狭窄・閉塞の PDT による気道改善
れる。
をしめしたものであるが、血液ガス、PS の改善
Laserphyrin 100 mg をレーザー照射の 4 時間
前に静脈注射を行う。レーザー照射エネルギーは、
2
100-200 mW/cm で、照射時間は 15 分間で、総
2
エネルギーは 150 Joules/cm であるが、治療対
象病巣の容積、広さによってエネルギーを調整す
るところは前項と同様である。
が得られている。
図 10、図 11、図 12 は、PDT 前後の内視鏡像
である。図 13、図 14 は、PDT 後に根治手術を
施した例である。
図 13 はシェーマであるが、肺気腫による低肺
機能で肺切除は困難な症例であった。左上葉支が
腫瘍(扁平上皮がん)によって完全に閉塞してお
り、しかも No11 のリンパ節が腫脹しており転移
気道狭窄・閉塞症例に対する PDT 効果
図9
治療風景
QOL の改善
(3)治療後の処置
治療により、腫瘍の浮腫、壊死物質による気道
閉塞が助長されることがあるので、翌日内視鏡的
な観察が必要である。必要によっては壊死物質の
除去が必要である。その後は臨床症状を見ながら
適時内視鏡的な観察、処置が行われる。
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図 13 StageIIA。左上葉支が腫瘍により閉塞。低肺機能のため患
者は呼吸困難を呈していた。リンパ節 No.11 の腫脹が CT
で確認され、PDT 後に気管支形成術とリンパ節郭清を施行
した。
MAIN TOPICS
図 10 気管分岐部の腫瘍(極度の狭窄): PDT によって腫瘍の消
失が得られた。
PDT 前
PDT 後
気管支形成術後
図 14
図 11 右中葉支の腫瘍による狭窄、PDT により気管支の開口が得
られた。
PDT 後に行った気管支形成術後の内視鏡像であ
る。上・下葉支分岐部が B6 の末梢側に形成され
ている。
1
おわりに
気道狭窄・閉塞による呼吸困難は生活の質を
著しく損なうものでこの改善は大きな価値があ
る。気道狭窄・閉塞をきたす原因の多くは進行
した悪性腫瘍の気管・気管支浸潤であり、この
治療には一般的に外科的適応はなく、放射線治
図 12 左主気管支の腫瘍による閉塞。PDT により腫瘍の消失が得
られ呼吸の改善が得られた。
療、抗がん剤治療が施される。しかし、治療効
果が現れるには数週間を要する。レーザー光線
を用いた治療は気道開口を短時間で得ることが
でき、合併症も少なく、安価で、低侵襲性であ
が疑われた。閉塞病巣に PDT を行い、気管支内
り、QOL の改善に優れた治療法と言える。しか
腫瘍は完全に消失した。この段階で肺切除するこ
し適正なレーザー治療を施行するに当たっては、
となく気管支形成術(上葉支・下葉支分岐部の切
患者さんに対しレーザー治療の意義、安全性、
除)と No.11 のリンパ節を含めた郭清を行った
合併症などについて十分な説明と理解を得るこ
9)
症例である 。図 14 は、PDT 前後の内視鏡像と
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Medical Photonics
No.4
とが大切である。
気道狭窄におけるレーザー治療の臨床応用
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① 宮島 邦治(みやじま・くにはる)
新座志木中央総合病院 呼吸器外科
部長
② 木村 雅一(きむら・まさかず)
新座志木中央総合病院 呼吸器外科
③ 大谷 圭志(おおたに・けいし)
新座志木中央総合病院 呼吸器外科
④ 吉田 浩一(よしだ・こういち)
新座志木中央総合病院 呼吸器外科
⑤ 加藤 靖文(かとう・やすぶみ)
新座志木中央総合病院 呼吸器外科
⑥ 河野 貴文(こうの・たかふみ)
新座志木中央総合病院 呼吸器外科
⑦ 奥仲 哲弥(おくなか・てつや)
新座志木中央総合病院 呼吸器外科
⑧ 加藤 治文(かとう・はるぶみ)
新座志木中央総合病院 名誉院長
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