ワンポイントレクチャー再開にあたって フォトマスター検定

287
日本写真学会誌 2008 年 71 巻 4 号:287–289
ワンポイントレクチャー再開にあたって
日本写真学会誌ではこれまで写真の知識を普及し,興味を深めてもらうため,写真に関する短い解説記事として,ワンポイ
ントレクチャーを掲載していましたが,ここしばらくは休載を余儀なくされておりました.これは解説に適した題材がなかな
か見つからなかったためでもありました.
このほど日本写真学会では,写真の技術向上をめざした資格検定であるフォトマスター検定を行っている国際文化カレッジ
と提携して,検定問題の監修を行うこととなりました.検定問題は級に合わせて多数の問題が用意されており,写真の広い範
囲にわたっています.写真を専門とする立場から見ても,分野が違うと答えに迷うものがあります.一方で,市井のフォトマ
スター検定についての解説書をあたってみますと,その解答・解説の中には踏み込みの浅いもの,学術的に正確を期していな
いものも散見されました.
今回,フォトマスター検定の過去の出題問題を取り上げて,それを題材としたワンポイントレクチャーを掲載することとし
ました.編集委員会で過去の問題の中からいくつかを選択し,その内容を学術的に検討して複数の委員による相互チェックを
経て,ワンポイントレクチャーとして,わかりやすく,かつ深く掘り下げ,正確を期した解説を掲載することになりました.
今回デジタル・フィルムの両分野から 5 題を選択して掲載します.改めて読み直してみると,なるほどと思うものもあり,
興味深いものがあります.今後も永く継続していきたいと思っていますので,ご期待下さい.
会員の方には解説記事の執筆・検討をお願いすることがあるかもしれません.その際にはご協力をよろしくお願いいたします.
編集長 久下謙一
フォトマスター検定過去出題問題の解答と解説
-編集委員会編
次の文章を読んで,
( )内に入る正しい言葉の組合せを
①~③の中から選べ.
「同じ焦点距離を持つレンズを,APS-C サイズあるいは
4/3 型の撮像素子を搭載したデジタルカメラに装着して
撮影する場合には,35 ミリフルサイズの撮像素子を搭載
したデジタルカメラに装着して撮影する場合と比べる
と,撮影範囲は撮像素子が小さくなるほど(ア)なり,
見かけ上は焦点距離が(イ)写る.」
① ア:狭く,イ:短くなったように
② ア:狭く,イ:長くなったように
③ ア:広く,イ:長くなったように
(H17 年 6 月,3 級)
【解答】②
【解説】この設問で撮影範囲が『狭く』と表現されているのは
撮影画角のことである.撮影画角は撮像素子のサイズとレン
ズの焦点距離で一義的に決定される.ただし,撮像素子のア
スペクト比が異なれば,対角方向の画角は同じでも,水平方
向および垂直方向の画角は異なってくる.35 ミリフルサイズ
の対角線長は約 43 ミリでアスペクト比は 3:2,4/3 型(フォー
サーズ規格)では 21.63 ミリでアスペクト比は 4:3(現行製
品の値であり,規格には数値規定なし)であり,水平,垂直
の画角はその寸法による.フォーサーズの対角線長はフルサ
イズのちょうど 1/2 であり,フルサイズと同じ画角を得よう
とすれば,交換レンズの焦点距離は 1/2 でよいことになる.
よってフォーサーズの望遠レンズは小型化できることになる
反面,広角レンズは設計が難しくなる.APS-C サイズは,そ
の中間的な位置づけとなり,デジタル一眼レフカメラでは広
く採用されている.
288
デジタルカメラのホワイトバランスを意図的に変えて撮
影する時,本来の色温度よりも高く設定すると仕上がり
はどのような色になるか.
① やや赤くなる
② やや緑になる
③ やや青くなる
(H16 年 12 月,1 級)
【解答】①
【解説】デジタルカメラの色温度設定は,本来カメラに設定さ
同じ焦点距離のレンズでも,画面サイズによって画角が異なる.
(出典:豊田堅二著『デジタル一眼レフがわかる』
(株)技術評論社刊,
2008 年)
次の文章を読んで,正しい記述を①~③の中から選べ.
「中判カメラと 35 ミリ判カメラ(35 ミリ判フィルム一眼
レフカメラまたは 35 ミリ判フルサイズデジタル一眼レ
フカメラ)とを比べると,撮影レンズの画角が同じ場合
に,同じ絞り値,同じ距離で撮影すると,被写界深度は
( ).これはフィルムカメラでも,デジタルバックを付
けた中判カメラでも同様である.」
① 中判カメラの方が浅い
② ほぼ同じである
③ 中判カメラの方が深い
(H16 年 12 月,1 級)
れた色温度の光源で撮影したときに適正な色再現が得られ
る.デジタル一眼レフの機能には 100 K(ケルビン = 色温度
の単位)単位で色温度設定を変更できる機能を持つものも多
く,作画意図によって故意に色温度設定を変更することもよ
く行われる.この際,基準の色温度より高い色温度,たとえ
ば昼光で多くのメーカーが採用している5500 Kの光源での撮
影において,カメラを故意に 6000 K に設定すると,光源の色
温度が 6000 K であるときに白が白で再現されるのだから,カ
メラから見た 5500 K の光源は,それより色温度が低い,すな
わち赤みを帯びた光源とみなされ,撮影された画像も赤みを
帯びることになる.この状態はカメラのホワイトバランスを
昼光に設定したまま,色温度の低い電球などのタングステン
光源を撮影したときと同様である.
逆に光源の色温度より低い状態にカメラの色温度設定をす
ると(たとえば 5500 K の光源に対して 5000 K を設定),撮影
【解答】①
された画像は青みを帯びることになる.この極端な状態が,
カメラを電球モードにしたまま昼光光源を撮影した場合にあ
【解説】被写界深度は,ピントを合わせた部分の前後にでき
たる.
る,実用上ピントが合っているとみなしてよい範囲のことで,
撮影距離,撮影レンズの焦点距離,絞り値,最小錯乱円(フィ
ルムないし撮像素子上でどこまでのボケを許容するか)に
よって決まる.撮影距離は近くなるほど,焦点距離は長くな
るほど,絞り値は小さくなるほど被写界深度は浅く(狭く)
なるが,この設問では,撮影距離と絞り値は同じなので考え
なくてよい.前問とは逆に撮影レンズの画角を同じにする場
合,画面サイズの大きいカメラほどレンズの焦点距離が長く
なる.中判カメラと 35 ミリ判カメラでは,中判カメラの方
が画面サイズが大きい分,焦点距離が長くなり,したがって
被写界深度も浅くなるということになる.一方,最小錯乱円
次の文章を読んで,
( )内に入る正しい言葉の組合せ
を①~③の中から選べ.
「モノクロフィルムの画像粒子は,現像液の種類と現像時
間が同じならば,現像液が(ア)になるほど粗くなるの
が一般的であるが,これに(イ)の攪拌条件を加えると,
その傾向はさらに増大する.」
① ア:低温,イ:放置
② ア:高温,イ:連続
③ ア:希薄,イ:およそ 1 分に 1 回
(H17 年 6 月,準 1 級)
は,最終的に同じサイズの画像で鑑賞する場合は,画面サイ
ズに比例して変化すると考えてよい.より大きく引伸ばす必
【解答】②
要がある小さな画面サイズのカメラの方がボケに対して厳し
くなるため,35 ミリ判の方が逆に深度が浅くなる.
このように焦点距離による影響と最小錯乱円による影響
【解説】モノクロフィルムの画像粒子である銀粒子の形状は,
現像の速度に強く影響される.一般には現像液の温度が高く
は,逆の方向に作用するが,焦点距離の変化の方が深度に対
なり,撹拌が連続で行われると,現像が高速に進行し大きく
してより大きく影響するため,総合的には画面サイズの大き
(粗く)なる.現像は化学反応であり,高温ではより速く進行
なカメラの方が被写界深度は浅くなるのである(深度は焦点
する.加えて,撹拌をよく行うことで,常に新しい現像液が
距離の 2 乗に反比例し,最小錯乱円の大きさには比例するた
現像銀に供給されやすくなるため,さらに現像速度が上がる.
め).
現像反応は,現像主薬とハロゲン化銀との酸化還元反応であ
289
日本写真学会誌 71 巻 4 号(2008 年,平 20)
るが,その中身はいくつかの反応過程の組み合わせである.
そして,最終的にはフィラメント状の現像銀が現れるという
ア系統
(2)画像銀を一部,銀よりイオン化傾向の低い金や白金に置
特徴がある(これがモノクロ写真独特の深い黒を生む).高
換する処理での青紫系統(金調色・プラチナ調色)
温,連続撹拌の条件は,そのうちのあるひとつの過程の速度
(3)画像上に鉄,銅,ウラン,鉛,ニッケル,錫,バナジン,
をとくに大きくすることに対応しており,この場合,フィラ
コバルトなどの着色化合物を沈積することでの青,紫,
メントが細く,そしてその分長くなる傾向が知られている.
結果として画像銀粒子が膨らんで粗く見えるようになる.
問題文では「……が一般的」と記述しているが,この問題
を学問的な研究レベルで扱うならば,画像銀粒子一つだけを
取り出して大きさや形状を観察することが必要になり,これ
緑,黄,赤の調色
(4)画像銀をフェロシアン化銀のような媒染剤として働く化
合物に変え,
塩基性染料を引きつけて様々な色に調色(染
料調色)
長期保存における処理済みのフィルムや印画紙(印画)の
は一般の写真ユーザーには困難であろう.問題の条件を市販
変色は,定着・水洗などの現像処理に起因するだけでなく,
のフィルムの自家現像処理にあてはめると,現像オーバーに
保存環境要因にも左右される.たとえば,排気ガス,建材や
相当する.そのフィルムで印画紙に焼き付けて仕上がった写
壁紙の接着剤,塗料から発生する酸化性ガスなどからの影響
真は,光っている部分や本来白い部分にも,黒い銀粒子が見
はよく知られている.本来,調色は表現を目的としていたが,
つかる場合がある.原理的にモノクロ写真では,現像速度の
特に(1),
(2)の方法においては,同時に画像銀の耐久性が
速いフィルムの露光部と遅い未露光部との現像速度の違いを
向上することが明らかになっている.したがって,色調を変
利用して画像の濃淡を得ている.適正な現像条件よりもオー
えることが目的ではなく,堅牢化の観点から画像の安定性や
バーな条件,つまり,現像を過度に進行させると,未露光部
耐久性を得るために調色処理を施すこともある.また,画像
分も遅いながらも現像反応が進み,銀粒子が形成される.
の色調をあまり変えずに銀画像の保護を行うことを目的とし
た処理剤も発表されており,Ag ガードはその代表的な製品で
次の文章を読んで,
( )内に入る正しい言葉の組合せを
①~③の中から選べ.「モノクロプリントの調色処理は,
(ア)など色のついた像に変えて画像表現効果を高めるた
めに利用されるものと,プリントの(イ)の目的で利用
するものとに使い分けられている.」
① ア:セピア調,青色調,赤色調,イ:長期保存
② ア:セピア調,青色調,赤色調,イ:脱色
③ ア:ハイポ明ばん法,硫化調色,金調色,
イ:トーンセパレーション
(H17 年 6 月,1 級)
【解答】①
モノクロプリントを長期に保存することを目的として,
調色処理を行うことがある.次のうち,プロテクトトー
ニング(画像保護調色)に該当する処理はどれか.
① 金調色またはプラチナ調色
② セピア発色調色
③ Ag ガード
(H17 年 6 月,1 級)
【解答】①
【解説】調色とは,画像銀粒子の表面もしくは全部を銀化合物
に変換したり,他の金属や金属化合物,あるいは色素などと
置換することによって,フィルムや印画の色を変えることで
ある.主な目的として,独特な写真効果をあげる美観的要素
と銀画像が処理前より不活性な画像になることによる堅牢化
が挙げられ,以下のように大別される.
(1)画像銀を硫化銀またはセレン化銀に換える方法でのセピ
ある.
380
日本写真学会誌 2008 年 71 巻 5 号:380–382
フォトマスター検定過去出題問題の解答と解説
-編集委員会編
一方,点 P がこの円から離れると,集まる光の量は少なく
次の文章を読んで,正しい記述を①~③の中から選べ.
「一眼レフカメラの交換レンズで,焦点距離 50 mm,開
放 F 値 2 のレンズの有効口径は何 mm か.」
① 25 mm
② 50 mm
③ 100 mm
(H16 年 12 月,1 級)
なる.これは,レンズ D の代わりに光源をおき,それから離
れるほど,照らされる部分の明るさは暗くなることを考えれ
ば分かりやすい.正確にいうと,次式のように,P までの距
離 f の 2 乗に反比例して,暗くなる.
1光量 ∝ ----2
f
f は,被写体が無限遠にあるとき,レンズの焦点距離に相
【解答】①
当する距離になる.この 2 つの式を合わせると,次式ができ
る.
【解説】レンズの焦点距離を f(mm),有効口径を D(mm)と
すると,開放 F 値 F=f÷D という関係が成り立つ.この式よ
り,D=f÷F となり,問題の条件では 50÷2=25(mm)の有
効口径であることがわかる.
この問題は上記の関係式を暗記しておけば解ける問題であ
るが,もう少し補足しておこう.F 値とは,レンズの明るさ
を表す数値で,F ナンバーとも呼ばれることは,多くの方が
知っていると思う.F ナンバーを上記の関係式で表現するこ
とで,明るさとの関係がどうなるのかを説明しよう.
レンズによって像ができる様子を右図のように幾何学的に
考えると,有効口径と呼ばれる直径 D の円を通過した光が一
点 P に集まることになる.この光の集まる範囲を表す円は,
2
⎛ D ⁄ 2-⎞
光量 ∝ ⎜ ---------f ⎟ ×π
⎝
⎠
ここで,最初に戻って,f÷D で表される量を F ナンバーと
決めておけば,上記の式は,次のように F ナンバーを使って
書き換えることができる.
2
⎛ 1⎞
π-⎟ × ---光量 ∝ ⎜ ---F
4
⎝ ⎠
このように,レンズによってできる像は,F ナンバーの 2
乗に反比例して明るくなる.
ただし,これが成立するのは,図に示したレンズの光軸
正確には入射瞳と呼ぶもので,光学的に定義される.単純に
(中心)にある点の場合で,周辺部については,他にも明る
一番前にあるレンズの直径や,絞りの径ではないことは覚え
さに影響する要因があり,必ずしも F ナンバーの 2 乗に反比
ておこう.
P に集まる光の量は,図の円を通過した光の量が多いほど
多くなる.つまり,円の面積に比例する.円の面積は,半径
×半径×円周率なので,集まる光の量は,以下のように表わ
すことができる.
2
⎛ D⎞
-⎟ × π
光量 ∝ ⎜ ----⎝ 2⎠
381
例しない場合もある.また,このように普通に F ナンバーと
呼ぶ場合は,被写体が無限遠にある場合であるが,被写体が
近距離で f に相当する距離が長くなると,当然,光量は少な
くなる.この場合に明るさを表す F ナンバーを有効 F ナン
バーと呼ぶが,詳細は別の機会に解説したい.
次の文章を読んで,
( )内に入る正しい言葉を①~③の
中から選べ.
「ソフトフォーカスレンズは,ピントの合った像のまわり
でにじみを生じるように,レンズの( )を意図的に多
くしたものである.」
① 球面収差または色収差
② コマ収差または歪曲収差
③ 非点収差または像面湾曲収差
(H16 年 12 月,1 級)
【解答】①
【解説】ソフトフォーカスとは,ピントを合わせた被写体に対
して,シャープな像のまわりにわずかなにじみ(ハロー)が
出たように描写された画像のことである.作画目的によりこ
うした描写を活用して柔らかい画像表現をしようとする場合
に使われる.ソフトフォーカス専用のレンズは,光軸上に生
ずる収差をわずかに残して設計される.光軸上に生ずる収差
には,球面収差や軸上色収差がある.ただし,軸上色収差は
色のにじみを利用してソフトフォーカス表現をするので,黒
白写真に対しては効果を発揮するが,カラー写真の場合,レ
ソフトフォーカスレンズを用いた作例.
左:効果なし 右:効果最大
次の文章を読んで,
( )内に入る正しい言葉の組み合わ
せを①~③の中から選べ.
「モノクロフィルムだけでなく,現像前のカラーネガフィ
ルムやカラーリバーサルフィルムにもハロゲン化銀粒子
は含まれている.原理的にカラーネガフィルムやカラー
リバーサルフィルムは,現像処理の過程で(ア)され,
現像後には(イ).」
① ア:脱銀,イ:銀粒子が含まれていない
② ア:還元,イ:銀粒子は残っている
③ ア:酸化,イ:ハロゲン化銀粒子は含まれていない
が,銀粒子は残っている
(H18 年 11 月,2 級)
ンズによっては好ましくない色のにじみになるので注意を要
する.そのため,ソフトフォーカスレンズは,一般には球面
【解答】①
収差の補正量をコントロールして設計されている.
右上の作例は補正量をコントロールできるソフトフォーカ
【解説】写真を撮るという過程は,被写体ら発せられた光や反
スレンズで,ソフトフォーカスを掛けない状態(普通のレン
射された光を検知し,検知した光の情報を記憶し,記憶した
ズと同等)と最大に掛けた状態を示す.ソフトフォーカスの
情報を再び表示する,という 3 つの基本要素に分けられる.
量は単にレンズのソフト効果目盛りだけでなく,絞りによっ
デジタルカメラシステムはこの 3 つの要素をそれぞれ別の装
ても大きく変化する.通常のレンズでも絞りを絞ると球面収
置で分担する機能分離型といえ,フィルムシステムでは 3 つ
差が減少する事がよく知られているが,ソフトフォーカスレ
の要素がすべて写真フィルムの中に含まれているので,機能
ンズでも同様なことがおこる.最小絞りを使うと,効果最大
一体型といえる.
にしても普通のレンズとあまり変わらない画像になってしま
う.
すべての写真フィルム(印画紙も同様)は光を検知するた
めに,ハロゲン化銀という物質の粒子を使っている.ハロゲ
ソフトフォーカス効果は専用レンズだけでなく,フィルタ
ン化銀粒子は,光の検知・記憶に加えて,像を造るためにも
の表面に様々な凹凸を付けたソフトフォーカスフィルタ,普
使われる.フィルム中ではたくさんのハロゲン化銀の微小な
通の光学フィルタにワセリンのような軟膏状のものを塗る,
粒子がゼラチンを主成分とするバインダー中に分散してい
ストッキングを被せるなど,様々な方法が考案されてきた.
る.ハロゲン化銀粒子に光が当たると,ハロゲン化銀を構成
いずれも光学性能を悪化させて独特のソフト効果を狙ってい
する一部の銀イオンが銀に還元される.これがフィルムが露
るわけで,優れた光学性能を持つレンズが,心理的に最高の
光された状態に対応する.この変化はきわめてわずかで,目
画像を作るわけではないということがわかる.
で見ても変化が起こったことは全く分からない.そのために
この状態を「潜像(目で見えない,隠れた像という意味)が
形成された」と呼ぶ.潜像は粒子に刻まれた刻印のようなも
のであり,暗黒中ではそのまま保持され,記憶されている(た
だし,保持できる時間は有限である.記憶の劣化は潜像退行
382
日本写真学会誌 71 巻 5 号(2008 年,平 20)
と呼ばれる).このフィルムを現像することで,目に見える像
ることになるので,被写体のより微細な部分まで再現した高
となって表示されることになる.
画質な画像となる.ただし,総合的な画質は,単純に画素数
潜像という刻印を刻まれたハロゲン化銀粒子,すなわち,
露光によって形成された銀を含むハロゲン化銀粒子は,現像
だけで決まるわけではなく,レンズ性能やノイズ量など多く
の因子が影響することは,言うまでもない.
液中の還元剤により選択的に還元されて,黒い銀粒子となる.
さて,この画素数として表記される数字には,問題文にあ
黒白写真ではこの銀粒子が最終的に目で見える像となる.光
げられている「総画素数」,「有効画素数」,「記録画素数」の
が当たらなかった(つまり現像液で還元されなかった)ハロ
3 種類が主に存在する.
ゲン化銀粒子はそのまま残るが,次の定着操作で除去される
「記録画素数」とは,撮像素子から読み出された後,種々の
ため,最終的には黒白フィルム(印画紙も)中には銀粒子の
画像処理を経て,最終的にメモリーカードなどの記録メディ
みが残っている.
アに記録される画素数である.つまり鑑賞される画像の画素
カラーフィルムでも感光物質は同じハロゲン化銀粒子だ
数であり,問題の回答は,これになる.
が,黒白フィルムと違うのは,フィルム中にカプラーと呼ば
次の「有効画素数」は,最終的に記録される画像に有効に
れる物質が含まれていることである.カラー現像でも光の当
反映される範囲の画素数と CIPA* のカタログ表記等に対する
たったハロゲン化銀粒子が選択的に還元されることは同じで
ガイドラインでは定義されている.「有効に反映される範囲」
ある.逆にいうと,このとき現像液中の還元剤は酸化される.
とは,いったい何か? 通常,デジタルカメラでは,種々の
カプラーはこの酸化生成物と反応して色素になる,いわば色
画像処理が加えられるが,この中には,画素単独で演算でき
素の「素」であり,光の当たった部分には,銀粒子と一緒に
る処理もあれば,周辺の複数の画素と合わせて演算するよう
色素も形成され,色素の像が出現する.カプラーを変えるこ
な処理もある.後者の例としては,ノイズを低減するために,
とにより,3 原色のシアン・マゼンタ・イエローを発色させ
周辺画素との平均値を求めるような処理があげられる.この
ることができ,この組み合わせでフルカラー画像が得られる.
ような複数の画素で処理をおこなうとき,画像の端にある画
この過程を発色現像と呼ぶ.
素は,それより外側に画素が存在しないため,正しく処理が
このことからわかるように,カラーフィルムでは現像直後
できない場合がある.このため,デジタルカメラでは,最終
には色素の像のほかに銀粒子の像も残っている.このままで
的に記録する画素数よりも,一回り大きな範囲を処理の段階
は色素によるカラーの像に銀粒子による黒白像が重なってし
では用意しておき,最後に不要な周辺部分を切り取るように
まい,像がくすんでしまう.そこで,定着前に漂白という工
している.
程を入れる.漂白は銀粒子を酸化してハロゲン化銀に戻す作
このように,最終画像の結果には影響するが,処理が終わ
業であり(再ハロゲン化漂白),この後に通常の定着を行うこ
れば切り取られるような画素をリングピクセルとか,糊しろ
とで未感光のハロゲン化銀粒子と一緒に取り除いてしまうこ
などと呼んでおり,これを加えた範囲の画素数を有効画素数
とができる.このカラーフィルム上の銀をすべて取り除く操
と呼ぶことが多い.多いと書いたのは,必ずしもこの周辺の
作を,俗に脱銀と呼んでいる.なお,現在の工程では漂白と
画素を含めなくてもよいのであるが,少しでも多く表記でき
定着を同時に行う場合もある(漂白定着.主に印画紙で用い
るほうが望ましいためか,ほとんどのメーカーが周辺画素を
られる).したがって,カラーフィルム(印画紙)では現像処
含めて表記しているようである.
最後に「総画素数」とは,撮像素子上に存在する全ての画
理がすべて終了したあとでは,銀粒子もハロゲン化銀粒子も
残っていない.
素の数である.撮像素子には,上記のような画像を構成する
ための画素以外に,黒レベルの基準を決めるために使うオプ
次の文章を読んで,正しい記述を①~③の中から選べ.
「デジタルカメラの撮像素子の画素数にはいくつかの表
記方法があるが,実際に撮影される画像にいちばん近い
画素数はどれか.」
① 総画素数
② 有効画素数
③ 記録画素数
(H16 年 12 月,2 級)
【解答】③
【解説】デジタルカメラの画素数は,カメラの性能を決める重
要な数値であり,カタログ等には必ず表記されている.簡単
に言えば,撮影される画像のきめの細かさを現わしている.
画素数が多いと,画像がより多くの点(画素)から構成され
ティカルブラックと呼んでいる遮光されている画素や,有効
画素数として利用できる範囲に余裕を持たせて画素を配置し
ているので,撮像素子全体としては,さらに多くの画素が存
在する.この画素の数を全て表記したものが総画素数である.
*
:有限責任中間法人カメラ映像機器工業会
445
日本写真学会誌 2008 年 71 巻 6 号:445–446
フォトマスター検定過去出題問題の解答と解説
-編集委員会編
ないため,そのような色をもつ被写体を実際以上に暗く表現
次の文章を読んで,正しい記述を①~③の中から選べ.
「真っ赤なチューリップの花を,モノクロフィルムで赤
フィルター(R60)を使って撮影した場合,その真っ赤な
チューリップの花はプリントするとどのように再現され
るか.」
① 黒あるいは真っ黒
② 白に近い薄いグレー
③ 黒に近い濃いグレー
(H16 年 12 月,準 1 級)
するという特長も現れる.風景などでは青空を暗く,赤い光
も強く反射している雲などは一層白くという,いわゆるコン
トラスト効果を生む.
赤フィルターの効果(Y,O フィルターなどのシャープカッ
トフィルターによるコントラスト効果)は,黒白フィルムだ
けでなく黒白撮影機能を持つデジタルカメラでも発揮でき
る.カラー撮影しかできないカメラの場合でも,撮影後に画
像処理ソフトで黒白化すれば,同じ効果が得られる.
【解答】②
【解説】赤フィルター(R60)はおおむね 600 nm より短波長
の光を透過しない(吸収する)特性を持つ.言い換えると「赤
い光」だけを透過する.一般的な黒白フィルムはほぼ可視光
全域に感度を持つように設計されている(パンクロマチック
感材)が,このようなフィルターを使うと,可視光のうち「赤
い光」だけがフィルムに届くことになり,
「赤い光」の強弱が
「白黒」として記録されることになる.一方,赤以外の光は
フィルターに遮断されて,フィルムには到達しない.そのた
め,赤い花の部分だけが明るく見えることになり,
「白あるい
は白に近い薄いグレー」のように見えるはずということにな
る.
この状況は暗室の赤い安全光下でモノを観察するのと似て
いる.例えば,赤いペンで書いた字は安全光では見えなくな
る.書かれた「赤い字」は「ノートの地の白色」と同程度に
次の文章を読んで,正しい記述を①~③の中から選べ.
「色温度とは,プランクの輻射法則に従っており,理想的
な黒体を想定してこれを過熱すると,温度が上がるに従
い暗いオレンジ色から黄色みを帯びた白,さらに青みが
かった白に変化する.このように色を黒体の温度で表現
することができ,この温度を色温度と呼ぶ.単位として,
絶対温度の K(ケルビン)を用いる.我々が生活してい
る空間には様々な色光があり,その場の色温度は,その
色光の組成によって変わってくる.朝・日中・夕・夜間,
あるいは晴天・曇天,それぞれの状況によって色温度は
異なり,日の出直前は日の入り直前と比べて色温度は
(ア),曇天時は晴天時よりも色温度が(イ).
① ア:低く,イ:低い
② ア:低く,イ:高い
③ ア:高く,イ:高い
(H18 年 11 月,1 級)
「赤い光」を反射するので,白地と区別がつかなくなるからで
ある.暗室の安全光下での「真っ赤なチューリップ」は「赤
い字」と同じ赤色なので「白あるいは白に近い薄いグレー」
のものと同じに見えることだろう.
赤フィルターの効果は,赤に対しては前記のような見た目
より明るくなる状況を創り出すが,青,緑などの色を透過し
【解答】③
446
日本写真学会誌 71 巻 6 号(2008 年,平 20)
次の文章を読んで,
( )内に入る正しい言葉の組合せを
①~③の中から選べ.
「ケルビンは色温度の単位で,記号(ア)で表し,(イ)
のように表すことはしない.」
① ア:K,イ:度 K とか °K
② ア:°K,イ:K とか度 K
③ ア:度 K,イ:°K とか K
(H17 年 11 月,準 1 級)
ある赤色が増しているからである.一方,空が青いのは,上
空を通る光が散乱されていて,青色成分の多い散乱光が地上
に降り注いでくるからである.
日陰や直射光がささない曇りの日は,上空で散乱された光
で照らされている割合が多くなって青みが強くなる.これは
上述の色温度が高い光源で照明された状況にあたる.一方,
夕方の直射光は,空気層を長く通過することによって青色成
分が散乱によって除かれ,赤色成分が多く残るために赤みが
強くなり,結果的に色温度が低くなる.
色温度は明るさとは無関係である.明るいほど色温度が高
【解答】①
いわけではない.夕方などは,赤色光の成分が多いため色温
度が低くなるのであって,暗いから色温度が低くなるのでは
【解説】色温度とは,光源の色(分光分布)を表すのに用いら
れる指標である.高温の物体は,高温であるという理由で,
ない.
人間の視覚は,かなり極端に赤っぽい,あるいは青っぽい
それ自体が光を発する(黒体放射).例えば赤熱した溶岩や鉄
光の照明下でも,色をかなり正確に補正して感じている(色
などは赤く光っている.このとき高温物体が放射する光の色
の恒常性).白いものは,よほど極端な照明下でなければ,基
は,温度が上昇するに伴い,赤成分が主体の赤っぽい色から
本的に白と認識される.一方,写真感材や撮像素子には色の
次第に青などの短波長成分が増加する.見た目にには赤→黄
恒常性はない.そのため,たとえばカラーフィルムは特定の
→白→青と変化するのである.この現象を使って,光源の色
光源の色特性(例:デーライトタイプ,タングステンタイプ)
を,光源と等しい色の光を放射する高温物体(理想黒体と呼
に合わせて最適なカラーバランスが得られるように設計され
ぶ)の持つ温度で表す.これが色温度である.
ており,色温度や色特性の異なる光源で撮影すると,人間の
色温度は絶対温度で表現する.絶対温度は,気温などを表
見た目や記憶にある色と写真の色との間に乖離がおこること
すのに用いる摂氏温度(セルシウス温度,°C)とは異る.絶
がある.デジタルカメラのホワイトバランス補正はこの補正
対温度は,原子や分子が完全に静止する,これより下を考え
をカメラ側で行うものであり,カメラ内の処理によって仕上
ることができない温度(絶対零度)を 0 とした温度目盛であ
がり画像のカラーバランスを変化させて,光源に応じた適正
る(1 度分の目盛の間隔は摂氏温度と同じ).0 K は –273.15°C
な色再現を行っている.この場合も,撮像素子そのものの感
である.絶対温度の単位記号としてケルビン(記号 K)を用
色性を変化させたわけではないことに注意する必要がある.
いる.かつては絶対温度を表す単位記号として「°K」も用い
また補正程度には任意性があり,完全に補正するよりも光源
られ,
「度 K」のような読み方も使われたが,現在ではそのよ
の特性をある程度残した方がその場の雰囲気の再現に有効な
うな書き方,読み方はすべて誤りである.
場合もあり,表現手段のひとつとしても利用できる.
屋外の写真撮影における光源は,多くの場合太陽である.
白熱電球の光る原理は基本的には黒体放射であるが,光源
太陽は非常に高温の物体で,その表面温度は約 6000°C,絶対
の中にはまったく異なる原理で発光するものもある.たとえ
温度では約 6300 K である.太陽光の色はこの温度の高温物体
ば蛍光灯や発光ダイオード(LED)がそうであり,それらは
から放射される光の色に近い色になり,正午の太陽からの直
黒体放射の光とは,光を構成する波長成分の分布のしかた(分
射光は,色温度ではおよそ 5500 K といわれる(後述するよう
光分布)が異なっていて,特定の波長の光が強く放出される.
に,地球上では太陽高度の変化に伴い季節や時間帯によって
このような場合,色温度で光源の特性を表すことは難しい.
色温度もかなり変化する).
しかし,蛍光灯の規格では色温度が表示されている.蛍光灯
太陽光は可視域の光の波長をすべて含むため,人間からは
の表示は,黒体放射の光源と比較して,人間が同等と判断し
無色として知覚される.カラー写真的にいえば,白色光は青,
た黒体放射の色温度を表示した,いわば「見かけ」の色温度
緑,赤の加色法の 3 原色をすべて含んでいるから,無色であ
である.ところが,カラーフィルムや撮像素子は,人間の目
るともいえる.
と異なる分光特性を持つため,蛍光灯など輝線スペクトルで
光は直進するが,空気の層を通ると,光の一部は空気で散
構成される光源に対する「見かけ」の色温度表示をそのまま
乱されて方向が曲がる.散乱のおこる程度は光の波長によっ
適用すると,よい結果が得られないことがある.蛍光灯下で
て決まり,青,緑,赤の 3 原色のうち,波長の短い青光は赤
の撮影で生じやすい色かぶりは,黒体放射の分光分布を前提
光より強く散乱される.そのため光が空気の層に入射すると,
にした撮影システムの抱える問題でもある.
青光のほうが先に強く散乱されて入射光の方向とは違う方向
へ多く行ってしまい,直進光では赤光の割合が増すことにな
る.夕日が赤いのは,太陽が低い位置にあるため長く空気の
層を通過してきており,その間に白色光から青色成分が散乱
により多く抜けてしまったため,直射光ではその残りの色で