第8期プロ・ナトウーラ・ファンド助成成果報告詩(1999) イリオモテヤマネコ集団の保護をめざした遺伝子多様度の評価 11iii乳類遺伝的多様性研究グループ 増田隆一')・押田龍夫')・黒瀬奈緒子2) Analysisof8eneticdivelsiIyonIhelriomotecatpopulationfOrtheirconservation ResearchGroupofGenelicDiversityofMammals RyuichiMasudal),TntsuoOshida1),NaokoKurose2) 本研究の目的は、イリオモテヤマネコならびにツシマヤマネコ染lilの遺伝的多様性を明 らかにして、今後の保護対策を検討することである。マイクロサテライトDNAおよび主要 組織適合遺伝子複合体(MIlC)の対立遺伝子に着目して多様性を分析したところ、集団内の 個体変異が低下していることが示唆された。それに対し、遺伝的に近縁な大陸塵ベンガル ヤマネコ集団では豊富な多様性がみられた。この結采は、日本の両ヤマネコ集団の遺伝的 多様性が低下し、急激な環境変化への適応性や新しい病原体に対する抵抗性が低下してい る可能性を示唆している。進化の過程で培われてきた西表島および対馬の生態系や自然環 境を十分に保存すると共に新しい病原体の侵入を防ぐことが、両ヤマネコの保護対策に極 めて重要であると考える。 目的 馬ワイルドライフセンターの協力のもとに、交通 昨年度の継続として、イリオモテヤマネコ集団 事故および生態調査捕獲の際に得られたイリオモ の遺伝的多様性の現状を把握し、今後の保護対策 テヤマネコおよびツシマヤマネコの筋肉・血液・ を検討することが日的である。本年度は、さらに 体毛などの組織を用いた。大陸塵ベンガルヤマネ ツシマヤマネコ集団を対象として加えて調査する。 コならびに他のヤマネコ類のサンプリングについ 現在、両ヤマネコの個体数は各々100頭前後と推 ては、種々の動物園の協力を得た。 定されており、適切な保護対策を構築していくこ ②筋肉組織は、lxlxlcm程度を70%エタノー とは緊急の課題である。特に、ツシマヤマネコに ルに保存した。血液l~2,1は、冷蔵運搬後- ついては、個体数の減少やイエネコからのウイル 80℃にて凍結保存した。体毛は、数十本を引き抜 ス感染が疑われており、深刻な問題を抱えている。 いた後、常温または4℃にて保存した。 ③筋肉組織および血液からはフェノール/プロ 分析方法 テイナーゼK/SDS法によりDNA抽出を行った。体 1)サンプリング 毛については、キレックス100(Bio・Ra。)を用いて、 ①環境庁西表ワイルドライフセンターならびに対 DNA抽出液を得た。 I) 2) 北海道大学理学部附属動物染色体研究施設(Ch「omosomeResealchUnil,FacullyofScience,HokkaidoUni、.ersity) 北海道大学大学院地球環境科学研究科(OraduatcSchooIof旧nvi「onmenla1EanhScience,HokkaidoUniversity) -7- ④遺伝子増幅法(PCR法)により、高多型的遺伝 ヤマネコのDRBにおいて見いだされた対立遺伝 子であるマイクロサテライトDNAについて対立遺 子は、2つのグループ(FecaDRB1,2)に属するこ 伝子を検出した。PCRプライマーには、イエネコ とがわかってきた。さらに、ツシマヤマネコにお から分離されたマイクロサテライトのプライマー いて、上記5つのグループには属さないと思われ をH1いた。 る対立遺伝子が検出された。これらの分析は現在 ⑤対立遺伝子の遺伝子頻度を算出することにより 継続中であるが、日本産の両ヤマネコはMHC遺 遺伝子多様度(ヘテロ接合度)を計算した。 伝子についても特徴をもっていることが示唆され ⑥イリオモテヤマネコ集団、ツシマヤマネコ集団 た。 および他のネコ科集団の間で遺伝子多様度を比較 以上の調査成果は、イリオモテヤマネコおよび 検討した。 ⑦MHCClassllDRBについては、その遺伝子の一 ツシマヤマネコが遺伝的に単一化され、かつ、顕 部(ベータl鎖)を増幅するプライマーを用いて 著な遺伝的特徴をもっていることを示している。 PCRを行った。そのPCR産物をプラスミドベク これら両ヤマネコの遺伝的多様性の低下は、西表 ターによりクローニングし、塩基配列を決定して、 島ならびに対馬に地理的に隔離されてきた結果、 対立遺伝子の検出を試みた。 遺伝的浮動または近交化によりもたらされたもの と考えられる。私たちは、これまでの分子進化学 結果と考察 的研究に基づき、イリオモテヤマネコおよびツシ (A)マイクロサテライトDNA分析: マヤマネコは各々今からおよそ20万年前.10万年 10遺伝子座について分析した結果、1つの遺伝 前にアジア大陸からやってきたものと推定してい 子座における遺伝子増幅は成功しなかった。その る(MaSudaela1.,1994)。両ヤマネコ集団が西表 他の9つの遺伝子座における対立遺伝子頻度と遺 島や対馬の自然環境にゆっくりと適応しながら、 伝子多様度(h=l-Zp,2,P:各対立遺伝子の頻度) 不利な遺伝子を排除してきたならば、遺伝的多様 を算出した。選択なしに選んだ11頭の大陸産ベン 性の低下が即、絶滅に向かっていることを意味す ガルヤマネコでは、平均へテロ接合度は約0.6で るものではないだろう。しかし、両ヤマネコ集団 あったのに対し、25頭のイリオモテヤマネコでは において、「急激な自然環境の変化に順応する能 多様性が全くみられなかった。さらに、5頭のツ 力」や「新しい病原体の侵入に対する抵抗力」が シマヤマネコの多様度も約0.2と低い値となった。 低下している可能性が予測される。このような考 既報(Mcnotli-RaymondandOBrien,1995)のネコ 察に基づくと、西表島および対馬の生態系.自然 科の平均へテロ接合度は0.6前後である。私たち 環境を十分に保全するとともに新しい病原体の侵 の結果は、イリオモテヤマネコならびにツシマヤ 入を防ぐことが、両ヤマネコの保護対策には極め マネコ集団の遺伝的多様性が極度に低下している て重要であると考えられる。 ことを示唆している。現在、イリオモテヤマネコ 特に、対馬は西表島に比べると面積は広いもの の個体数は100頭前後と推定されているので、今 の、昔からヒトが居住しているため、生息域の破 回のデータはイリオモテヤマネコ災、の実態を十 壊や交通事故などによりツシマヤマネコの個体数 分反映しているものと考えてよいだろう。 は急激に減少していると考えられる。ざらに、鮫 (B)MIlC分析: 近1例ではあるが、ネコ免疫不全ウイルス(FIV) およびネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPv)をもっ イエネコのMHCClassIIDRBにおいて、少なく とも5つの対立遺伝子グループ(FccaDRBl-5)が ている個体が確認された。そのFIVがイエネコ型 知られている(YuI1kiandOBrien,1997)。イリオ に近いことがわかり、このウイルスがイエネコ集 モテヤマネコ、ツシマヤマネコ、大陸塵ベンガル 団からツシマヤマネコ集団に伝播しつつある可能 -8- 性が高い。今後は、ウイルスにノl・Iするヤマネコの NATURAファンドに深く感謝いたします。また、 感受性ならびに(1M体への影辮にも注、しながら遺 貴重な試料のご提供とご肋嵩をいただきました、 伝的調査を進める必要がある。ざらに、感染を防 環境庁西表ワイルドフイフセンター・阪「l法1111氏、 ぐために、野生化したイエネコがヤマネコの生息 環境庁対馬ワイルドライフセンター・鑪雅哉氏、 地へ進入しないような)hljiiをIil急に立てるべきで 琉球大学・(j}澤雅子氏、鹿lWO大学・阿久i)<正夫 ある。 氏、jtj馬支庁・丈下剛而)氏、」2,fjb物[§】・(j}東員 義氏、秋IIlIlj大森111動物l§I・小松守氏に御礼I|'し 謝辞上げます。 本研究調代に助成していただきましたPRO Summary TIleobje〔IiveoIlhissludyisto〔Iarily8enelicdivemsilyolllriomolccdIsalldTSushima 〔aIslorlheirconservaIion・Usingpolymemse〔hainlmClion(PCR)alldnuC1coIi(lescquenCing IⅨhni(lucs,wennmIWedpoIymo『phicsmlusolmicrosnIeⅡilesdndnlaiorI1istommpMibiliIy 〔opmlex(M1IC)cIasslIgcncsonlhclwopopulaIions・AsaresulI,weobse「vc(llowgenelic vnriaIiononlI1eseI)Cl)uIalions,wllilelheconIilleI1mlpopulationollheleolw〔lmtshowed nhelerozy8osilysimilarIoIhosepreviouslyreporledinnon-isolaIe(lpopulMiollsofolher wildmtsI)ccics・T11elow8enelicvariationobservedinlriomotemIsdllld砥ushillmmlsCould havebroughIIhrouHhBcncIicdriltand/orinbreedingduringgco8ml)himlIyisolaledage・ SiI1cesuchlossolgcncIicvarialionmighth(welcdtoaIowllcxibililyIocIwirolumenm1Chnn8c andal(〕wimlnunolo8icaIabiIilya8ainstnewIyilwadedI〕aIho8ensillclu〔IingviruSes,itis veryH1ccdc(lIoconscweIheprcscnIcnvironmentan〔lcmsysIcminlheislnndsandIoI〕IIwenl inlro(IuCliol1olnewpalhogensinloIheirhabi⑱ls.A〔IuaⅡy>someviruscsI)ossibl)'〔oming lromdomcslicmlshavebccnrcporlcdinlheTSushimacaIunlilllow、 -9‐
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